赤門マネジメント・レビュー 11 巻 1 号 (2012 年 1 月) 57 〔研 究 会 報 告〕コンピュータ産業研究会 2011 年 10 月 27 日1
21 世紀型スキルを持ったグローバル人材の育成
櫻井 豊
シスコシステムズ合同会社 政策・CSR 推進部 政策担当シニアマネージャ E-mail: [email protected] 要約:シスコはネットワークのグローバル企業として、グローバル人材育成に関わ るプロジェクトを実践してきた。そのようなプロジェクトの経験からシスコでは、 21 世紀型スキルというものを定義し、ICT 技術と組み合わせることで学校教育や人 材教育を行おうとしている。実際に、このような取り組みは学校教育の分野などで 実践されている。また、東日本大震災のような場面においても、21 世紀型スキルが 求められる場面は多く存在し、今後ますます重要になっていくであろう。 キーワード:ネットワーク、人材育成、グローバル競争 1 はじめに 報告者は、1982 年に大学を卒業後、古河電気工業株式会社 (以下、古河電工と呼ぶ) に 11 年勤務していた。古河電工では、初めは光ファイバーの応用研究を行っていた。11 年間の勤務の後半は、当時最先端の技術であったインターネットの研究会を、会社とは別 に個人的に立ち上げ、全国的なものにした。当時は、インターネットの黎明期であったが、 研究会で勉強するなかで、インターネットの将来性に非常に魅力を感じた。そのため、古 河電工でも LAN やネットワーク機器関係の業務を行うようになった。 その後、まだ日本においてはベンチャーであった、日本シスコシステムズ株式会社 (現在 1 本稿は 2011 年 10 月 27 日開催のコンピュータ産業研究会での報告を秋池篤・氷熊大輝 (東京大 学大学院) が記録し、本稿掲載のために報告者の加筆訂正を経て、GBRC 編集部が整理したもの である。文責は GBRC に、著作権は報告者にある。はシスコシステムズ合同会社に改組されている。Cisco Systems, Inc.:以下、シスコと呼 ぶ) に転職をした。当時のシスコ日本法人は、社員が 10 名程度の小さな企業であった。 本報告においては、以前日本のメーカーに勤務していた経験と現在まで 18 年間外資系 の企業に勤務した経験を踏まえて、「21 世紀型スキルを持ったグローバル人材の育成」と いうテーマについて考えていく。 1.1 シスコについて シスコはスタンフォード大学からのスピンアウト企業として、1984 年、カリフォルニ ア州で設立された。創業者は、スタンフォード大学出身のレン・ボサック (Len Bosack) とサンディ・ラーナー (Sandy Lener) である。しかし、早い段階で 2 人とも退任してい る。シスコの正社員数は、約 73,000 人 (2011 年 4 月調べ) であり、世界 165 カ国に拠点 を有している。 現在のシスコの主な業務内容は、ネットワーク機器・ソフトの製造・販売・サービス・ サポートである。特に、ネットワーク機器については、大規模ネットワークから SOHO までフルライン (ルーター、スイッチ、オプティカル、ストレージなど) をカバーしてい る。ネットワーク機器というと、なかなかイメージをつかみづらい部分もあるが、ネット ワーク機器とは、コンピュータ同士をつなぐための、電話回線でいうところの電話交換機 のような働きをする機器だと考えると理解しやすい。 そして、ネットワークを流れる情報のうち 9 割がシスコ製品を経由しているというほど、 そのシェアは大きなものである。主な顧客は、官庁・企業・大学など多岐にわたっている。 しかし、シスコは、日本では一般消費者向け製品をほとんど提供していない。そのため、 シスコの名前は一般的には知られていない。証券会社などの社員でも、シスコの名前を 知ってはいるものの、業務内容までは知らない場合がある。このように、一般的な知名度 は低いものの、2000 年 3 月 27 日には、株式時価総額でマイクロソフト社を抜き、5,550 億ドルとなり、世界で最も価値の高い企業となった。これは、創業 17 年目のことであっ た。株式時価総額で首位に立った際には、報告者はすでにシスコに勤務しており、社内で 喜びを分かち合った。 シスコは、インターネット業界のリーディングカンパニーとして、世界で大きな影響力 を有しているが、企業として、インターネットを通じて、仕事、生活、遊び、学びを変え
ていこうという目標2 を掲げている。そして、企業のミッションを「お客様、従業員、エ コシステム、パートナーに対し今までないような価値とオポチュニティを提供し、イン ターネットの未来を築くこと」としている。 1.2 シスコのグローバル新卒教育プログラム 報告者は、現在、シスコの教育政策を担当している。業務内容としては、文部科学省や 総務省などの官庁や地方自治体、大学教授などとともに教育政策を立案したりしている。 なぜ、報告者が現在、教育政策の担当をしているのかと疑問に感じるかもしれない。報告 者は、シスコに転職して以来、マーケティング部門に所属して、製品マーケティングの日 本マネージャなど (具体的には、無線 LAN やルーター、セキュリティ製品など) を担当 していた。 しかし、2006 年から 2010 年の間、シスコが全世界的・全社的に行った、グローバル新 卒教育プロジェクトに、日本の代表として従事したことがきっかけとなり、それ以後シス コにおいて、教育政策を担当することになったのである。現在は、この教育プロジェクト で得た知見や経験を活かして業務を行っている。
グローバル新卒教育プロジェクトは、Cisco Sales Associates Program (CSAP) と名付け られ、米国・オランダ・日本の 3 拠点で行われた。米国拠点では、全米・カナダ・APAC の新卒社員が、オランダでは、ヨーロッパ・中近東・アフリカ・南米の新卒社員が、そし て、日本では日本の新卒社員がこのプロジェクトを受けた。このプロジェクトは、1 年間 の プ ロ グ ラ ム で 、 Technology ・ Sales & Business Acumen ・ Culture & Productivity ・ Communication & Demonstration という四つの基軸でカリキュラムが構成されていた。プロ グラムの目的としては、「社会人としてのビジネスマナーを身につける」、「シスコのカル
チャーや組織を理解する」といった基礎的なものから、「シスコの営業・SE として必要と
なる技術知識・製品知識を理解する」といった高度なものまで存在した。
日本においては、Off JT だけではなく、日本法人と近くでプロジェクトを行っていたた め、OJT (On the Job Training) を多く取り入れることで、新卒教育を行うカリキュラムと なっていた。
シスコはこのプロジェクトに非常に重点を置いて取り組み、多くの資源が投入された。 結果として、新卒教育に大きな成果を挙げ、特に OJT については大きな効果を発揮した。
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現在のシスコにおいては、このように大規模な教育プログラムは行われていないが、この プロジェクトで効果的であったものは新卒教育プロジェクトで行われている。その中でも OJT は日本での成功が評価され、現在のアメリカにおける新卒教育プログラムでも積極的 に取り組まれている。OJT については、OJT と教育プログラムの統合の仕方や OJT を指 導する社員の教育方法なども、日本法人が考案した方法をアメリカでも採用している。 1.3 社会のニーズ―グローバル環境とダイバーシティへの本格対応 現在の社会のニーズとして、グローバル環境とダイバーシティへの本格対応というもの が求められているといえる。今までの日本はインターナショナル化が重視され、加えて、 社員に日本の価値を浸透させることが重視されてきた。その上で、日本の優れたノウハウ をベースとした現地化による企業経営を目指していた。そのような企業経営においては、 日本を中心に日本人が主導することによる、良好なコミュニケーションを行っていればよ かった。その際には、少人数間でのコミュニケーションのやり取りで済むため、一部の人 が英語を話せれば問題なかった。 しかしながら、これからは、グローバル化が進展し、世界中で起こる問題に即時対応す るなかで、ダイバーシティが要求される。企業にも、世界中の社員の知識や知恵、活力を 総動員した経営が求められるようになった。そのようなグローバルな企業経営を行うため には、社員同士の活発なコラボレーションが求められるのである。つまり、世界中の全社 員はフラットであり、多人数間でのコミュニケーションが必要となり、そして、グローバ ルな標準ツールである英語を使用することが求められるのである。 2 21 世紀型スキル そのようなグローバル化に対応するため、シスコは、自らの強みであるネットワークを 活かすことで、21 世紀型スキルのグローバル人材、コラボ型人材の育成を行おうとして いる。21 世紀型スキルは、シスコがインテルやマイクロソフトとともに定義したもので ある。報告者は、中でも情報を収集・編集・活用する能力、クリティカル思考、多様性を 楽しむ力などを、日本がグローバル化するにあたって今後必要となるスキルとして重要視 している。グローバル環境で活躍する経験を積むことで、これからの社会に貢献する人材 を育てるということを期待している。今後の PISA3
(Programme for International Student
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Assessment) は、この 21 世紀型スキルに基づいたテストを今後採用していく予定となっ ている。 シスコとしては、ネットワーク技術を活かしたコミュニケーションやコラボレーション によって、21 世紀型スキルの育成を行うことで、他社との差別化を行っている。 2.1 21 世紀に求められるスキルとは では、報告者が 21 世紀型スキルの中でもとくに重要視しているものとはどのような能 力なのだろうか。具体的に検討を加えていくこととする。日本がグローバル化するにあた り、今後必要となるスキルについては、以下の五つの能力が考えられる。 ①情報を収集・編集・活用する能力 ②鵜呑みにせず、本物を見極める力 (クリティカル思考) ③「正しい議論」ができる能力 ④グローバルな環境で活躍できる能力 ⑤課題「発見」力 これら五つの能力についてのそれぞれ考察をしていく。まず、情報を収集・編集・活用 する能力について考察する。情報を収集・編集・活用する能力を考える際には、デジタル デバイドが問題となる。しかしながら、現在の日本の大学生については、パソコンをはじ めとするデジタル機器に小さいころから親しんでいるためあまり問題はない。デジタルデ バイドというよりも、むしろグローバルデバイドの方が大きな問題であるといえる。つま り、ICT (Information and Communication Technology) にいくらたけていても、英語ができ なければ入手できる情報源や情報の発信先は国内のものだけになってしまう。これは、グ ローバル競争においては大きな不利となる。 2 番目の、鵜呑みにせず、本物を見極める力については、批判精神というよりも本当か どうか疑うというところに主眼を置いた能力である。 正しい議論ができる能力については、確かにディベートのスキルは重要であるが、それ よりもまず初めに対話力が非常に重要となる。この対話力なくして、ディベート力を高め ようとしてもうまくディベートを行うことはできない。また、この議論ができるというこ とに関して面白いことがある。それは、教育した際に、「わかった」ということは、他人 に自分の言葉で説明できるまで理解しなければならないということである。それが、徹底
されていないと、わかったような気になってしまい、実は身についていないということが 多い。例えば、技術の資格試験に合格しても、実際に説明を求めたりすると全く答えられ ないということがある。 グローバルな環境で活躍できる能力については、語学力以上にダイバーシティ (多様 性) を楽しめるかが非常に重要となる。グローバルに働いていくためには、違った考えと 触れるのを楽しめるようでなければ、ストレスが過大になってしまうのである。例えば、 アメリカの本社から来た社員が焼き芋屋の声が聞こえた際に「お祈りの時間であれば、会 議を中断してかまわない」といった。このように多様な価値観を受け入れ、それを楽しむ ことがグローバルに働いていくためには重要なのである。 そして、最後の課題「発見」力について考えてみる。現在の若い人材には課題解決力は 備わっている場合がある。つまり、課題を与えられれば、その課題を解決することができ るのだ。しかしながら、どのような課題が存在するかを自ら発見するという力が現在の若 者には足りていない。 2.2 現在の若者を教育する際の注意点:若者が苦手とするもの 現在の若者を教育する際には、三つの注意点が存在する。 ①出来上がったことを学習するのは得意だが、パーツ型学習の場合、それを将来どう生 かすかを想定できず不安? ②追及する力はあるが、素材そのものがなく、結果的に断片的な情報・知識をベースに 仮説をたてることが苦手 ③正解を「選ぶ」ための議論をしてしまう まず、ひとつめの注意点について考えていく。現在の若者は、確かに、出来上がったこ とを学習するのは得意である。しかしながら、単独では有用性が認識しづらいパーツ型の 学習の場合、それを将来どう生かすかを想定できず不安になってしまう。その際には、学 習の内容を、企業側から意味づけして問題発見力を伸ばすような教育を施してあげること が重要となる。 また、現在の若者は、物事を追及する力はある。しかしながら、その追及すべき素材そ のものがないため、結果的に断片的な情報・知識をベースに仮説を立てることが苦手であ る。自分に有用なものに対しては強い関心を示すが、「なぜ」という質問を全く想定して
いないケースが多々見られる。例えば、若い社員が新技術の紹介を行っているときに、な ぜその技術が必要であるのかという質問をすると、その社員は全く答えることができない。 そのため、なぜそのような技術が必要であるのかを考える Why と、その技術が入る前 (before) はどのような状況で、その技術が入った後 (after) はどのようになるのかを考え ることを常に若者に意識させるような教育が必要となる。 そして、三つ目の注意点については、現在の若者は、議論は正解を「選ぶ」ものである と考えがちであるということである。しかしながら、議論は、より良い解を「創造」する 手段であるべきである。 2.3 Adjacencies (周辺技術) 現在の若者は、近道は得意だけど雑学には思いをはせないという傾向がある。しかしな がら、「本業の周りのことをよくつかんでおけ、そこにビジネスチャンスがあるぞ」とい うのはよく使う言葉である。例えば、身の回りにあるものの例としてスカイツリーを考え てみると、以下のようなことでスカイツリーのことを掘り下げていける。 ①なぜスカイツリーが必要なのか? ②どうして東京タワーよりも高いタワーが必要なのか? ③そもそも、アナログ TV とデジタル TV は何が違うのか? ④どうしてデジタルなのに中継ではなく、広範囲送信? ⑤東京タワーからスカイツリー切り替え時、各家庭のアンテナは? このようなことを考えていくことで、より身の回りのことを考えることができるのである。 2.4 現在の若者を教育する際の注意点:最近の傾向 また、現在の若者の傾向としては次のようなことがある。例えば、シスコではトレーニ ングをある会社から提供してもらっている。そのトレーニング内容とは、広告を取りに行 く社長などの役割を決めて、顧客の人のところに行って、提案させて、その後けちょんけ ちょんにするというものだった。 最近そのトレーニングにおける傾向が変わってきたそうだ。それは、どういうことかと 尋ねてみると、最近になって途中で辞退するものが出てきたから心に留めておくようにと いわれた。報告者はそのような人はシスコには存在しないだろうと思っていた。しかしな
がら、つい最近シスコでも登場してしまった。ここ 4 年間だけでも、現在の若者は、それ だけおとなしくなってきた。彼らの特徴として何度でもチャンスが舞い込んでくると思っ ている節があり、あまりがつがつしない。そのことに対して、根性を出せというのではな い。しかし、自分がそういう性格なのだということを自分でわかってもらう必要がある。 そして、そのような性格をどのように解決し、対処していくのかということについては彼 ら自身に解決してもらうのが良い。 他にも次のようなことで、最近の若者の性格を感じる。例えば、高速道路にのってみた 際に、現在の若者は、確実に 4、5 年前から運転のスピードが落ちてきている。時速でい うと 20 km くらい下がっている。これは、日本が国際競争力をなくしてきた時期とちょう ど一致している。もちろん、高速道路である程度スピードを守ろうとするのはいいことで ある。しかしながら、このようなことが国際競争力が低下したことに関係しているのでは ないかと思う。
3 これからの若者に身に付けてほしいスキルと学習機会の拡張
3.1 これからの若者に身に付けてほしいスキル まず、本節においては、これからの若者に身に付けてほしいスキルを述べる。現在の若 者たちは、ライバルは日本人同士ではないと理解したほうがいい。つまり、日本で生まれ 育って、日本で教育を受けたものがライバルではないのだ。企業も最近ではグローバル採 用だといっている。このようなことに対しては、まず社長が変われといいたくなるが、と にかく英語は大事である。しかし、英語がぺらぺらになることが第一の目標ではない。英 語でコミュニケーションする際の作法やコツ、さらには異文化コミュニケーションそのも のを学ぶべきである。コミュニケーションのスタイルの違いがあり、そのスタイルの違い により困難が生じるということを学んだほうがいい。 また、IT 関係においても、利用することはできるけれども、技術そのものへの興味が 徐々になくなってきてしまっていると感じる。現在の若者たちは生まれたときからすでに IT が身の回りに存在していることもあって、IT ありきで生きてきてしまっているのであ る。しかし、技術について理系・文系関係なく、もっと興味をもつという姿勢が大事なの ではないか。現在の社会においては、文系の人たちも理系的な物の見方や興味が必要とさ れていると考えられる。 さらに、日本語の文章作成力として、感想文にかたよった教育がなされていることが原因で、議事録を書かせてみても感想文のようなものを書いてくることがある。何か文章を 書く際には、自分だけが理解できるものを書いてはならない。他人に説明できる文章を書 くことが非常に重要なのである。そして、こういった基本的な文章作成能力については日 本語でできないと英語でもできない。要するに、言語でない部分ができて、その上でどの プロトコルを使うかということが重要なのである。ただ単純に英語ができれば、それがそ のままグローバルであるということと同義であるかというとそうではないのである。 3.2 従来の授業をさらに拡張する学習機会 このような現在の若者が身につけないといけないスキルへ対応するために、従来の授業 をさらに拡張する学習機会が必要となる。そのために、地域コミュニティや企業などに開 かれた学校の実現ということを考えたい。学校をオープン化することによって、上記のよ うなスキルを身につけさせようという取り組みは、学校の先生だけではなかなかできない ものだといえる。これは、学校の現在の授業・教育・教科書がいらなくなるというわけで はない。日本の先生は今のカリキュラムでよくやっている。このようなベースとなるもの はもちろん必要である。 しかしながら、社会のニーズとして、それらのベースにプラスアルファしてコミュニ ケーションのようなものが必要になったのである。しかし、どこでプラスアルファの部分 をやるのかということが大きな課題である。これを解決する術は一朝一夕には見つからな いであろう。時間というものは限られており、子供にも睡眠が必要である。 プラスアルファの部分をどこで行うかについては、もしかしたら音楽や美術の部分を少 しだけ見直してもいいかもしれないということは感じている。これはあくまで個人的な見 地である。なぜこのようなことを考えたかというと、これまでは音楽は学校でないと馴染 みがあまりなかった。しかし、現在では家で普通に音楽に触れられる。だから選択制にし てもいいなと感じることはある。しかしながら、このような問題は専門家の方に任せたい。 ただし、何かを削ってでも上記のようなコミュニケーション能力などのスキルを身につけ ることが必要とされているのは明らかである。 3.3 学習機会拡張の具体的アイディア 学習機会拡張の具体的アイディアとしては、高大連携や地元の公立の小学校と中学校を 疑似的に一貫教育のようにつなげる試みが考えられる。また、海外も含めた他校との交流
授業などがある。このような活動が必要なのではないかと考えている。シスコにおいても、 それらを支援するものとしてテレビ会議やパソコンのウェブ会議のようなソリューション サービスがあるが、これだけ渡しても効果はない。きちんと授業になって、これをやるこ とでどういう能力が開発されるかをしっかり示さないといけない。そのため、教育のノウ ハウを持っている大学の人達と共同で開発を行っている。つまり、教育とコミュニケー ションとのコラボレーションである。座学や教科書を読んでいるだけでなく、どうしても 実践型のものが必要となる。しかしながら、そのために皆がどこかへ出向いたり専門家を 呼んだりはできない。ICT を使ってそういうものを実現していくことは、我々が貢献でき る部分なのではないかと考えている。 ここで、海外の学校との交流が行われた事例を紹介する。教室にテレプレゼンス (ハイ ビジョンのテレビ会議) とよばれるシステムをおくことによって、あたかもその場にお互 いが居るかのごとき環境を提供できる。これはただ単純なテレビ電話とは全然違っており、 「コーヒーを飲む?」といいたくなるくらいに感じられるものである。コミュニケーション においてはビジュアルな部分が多く関与している。電話会議は現在多く行われているが、 外国人の中に日本人が一人で入っていく電話会議はなかなかどうして、結構難しいもので ある。電話会議の場合だと言葉をはさむことができなかったりするからだ。これに対して、 相手の表情を見ることができるとだいぶ楽になる。また、相手にも自分が何か言いたそう だとか考えているということが視覚で伝わって声をかけてくれたりする。 もうひとつの事例紹介として学生サービスが向上した例をあげる。留学生への相談など の窓口業務における細かい内容の伝達に対して電話で通訳を行うといったことはすでに行 われているが、シスコではビジュアルコミュニケーションの導入の共同開発を行っている。 例えば、医者のもとに、海外からの旅行者が来た場合、その医者が英語でコミュニケー ションをとるのが厳しい時に電話での通訳をしている。しかし、普通の電話で音声を伝え る場合だとなかなか難しい。それに比べて、画像を用いて視覚的にすることによって、通 訳に説明する際の難しさがだいぶ解消される。このように電話での通訳の限界をビジュア ルコミュニケーションによってある程度補うことができるのである。また、これまでは、 英語の外国人の先生が一人で回ることができるのは 1 日に 2 校、3 校が限界であった。し かし、テレプレゼンスを用いることによって、1 限から 6 限までを有効に使い、多くの学 校に授業を提供できるようになった。さらに、ビジュアルコミュニケーションによって、 他校の養護教諭同士のコラボレーションができるようになったという事例もある。普段養
護の先生は各校に 1 人でキャリアパスがほかの先生と異なり孤独となりやすい。しかしな がら、そのようなこともだいぶ解消されている。このような事例を考えてみると、ビジュ アルコミュニケーションはこれからもっともっと教育の現場に入っていくであろうと思う。 4 これからの ICT これからは ICT を勉強する時代から、ICT を使って勉強することがますます増えるだろ う。これは英語についても同様にいえることで、英語を勉強させるというよりも英語で勉 強させるほうがいい。そのため、シスコの新卒教育では、アメリカのエンジニアを呼んで、 英語で技術や製品について教えさせるようにしたり、ヨーロッパのアムステルダムでやっ ていた人にやらせてヨーロッパなまりにも慣れさせるようにしたりした。皆が身近ででき ることとして、趣味の雑誌を毎月英語で読むことによって自然に英語に親しむ、というア イディアもお勧めだ。もし、英語を習得したいのであれば、英語の教科書を読むだけでは なくて、自分の興味のあるものに英語で入っていくのも一案だろう。 最後に、震災のときのことについて述べておきたい。震災直後の、被災地の情報ニーズ を考えてみると、被災地から外へ伝えたいこととして自分は無事であること、避難場所と 収容人数の余力の情報、必要物資としてどのようなものがあるのかという情報がある。そ して、被災地の外から教えて欲しいこととして、ここに避難していて大丈夫なのかどうか、 今何が起こっているのか、こちらのニーズをしかるべきところにちゃんと伝えてくれてい るのかといったことがあった。 ご存じのように、災害直後は携帯電話をはじめとするすべての通信が途絶えてしまった が、報告者が普段趣味として楽しんでいるアマチュア無線の短波通信だけは、被災地と連 絡を取ることができたのである。実際に被災地との非常通信を行った経験から、このよう なニーズに対して、災害直後の非常通信にはまだまだ課題が存在していたということがわ かった。与えられた電文を正しく送り、正しく受け取るという従来までの通信士の役割や スキルだけでは不十分であり、より高次元のコミュニケーション能力が必要とされたので ある。混乱していて断片的な情報しか得られない中、それらをもとに論理的なストーリー へ組み立て直し、これがいいたかったことなのかを相手に確認するスキルや、相手が言い 忘れていることを引き出すための示唆質問をふんだんに用いたヒアリングスキルといった ものが必要とされたのである。このようなスキルは震災だけでなく、多様なバックグラウ ンドの人とコミュニケーションをとるときにも必要な能力であろう。
以上、我々がグローバル人材育成を経験する中で、日本の今の若者の強い面と弱い面を 述べた。その上で、現在の若者が、昔の若者とは違っている面に対してどのように教育を 行なっていくべきなのかということについて述べた。そして、現在の若者の教育のために ICT が果たす役割についての考察を行った。今後はこのような教育と ICT の関係はより重 要となっていくであろう。