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明順応と暗順応 桿体細胞網膜には錐体細胞と桿体細胞の 2 種類の視細胞があるが, 暗闇で活躍するのが桿体細胞である 桿体細胞は明るい所ではおとなしくしているが, 暗いところではわずかな光をかき集めてくれるため, 我々は暗黒の中でもおぼろげながら物を見ることができる ただし色はあまり分からない 色は錐

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(1)

視  覚

錐体細胞は強い光の下で色を感じる

桿体細胞は弱い光の下で光を感じる

角膜→瞳孔→水晶体→網膜

  →視細胞→視神経→大脳

毛様体が縮むと水晶体が膨らむ

視細胞と視神経

 まず光は目を保護する角膜を通り続いて瞳孔を通る。その光は レンズの役割を果たす水晶体で屈折し,目の奥の網膜に届く。網 膜には2種類の視細胞があり,それぞれ役割分担がある。 ●錐体細胞 明るいところで色を見分ける。赤錐体細胞,青錐体 細胞,緑錐体細胞の3種類があり,それぞれ受ける光の波長が異 なる。青い光は青錐体細胞が,黄色い光は赤錐体細胞と緑錐体細 胞が,桃色なら赤錐体細胞と青錐体細胞と一部の緑錐体細胞とい うように色によって興奮する錐体細胞が見事に違い,絶妙なバラ ンスであらゆる色が見えるのである。 ●桿体細胞 暗所で活躍する視細胞。ロドプシンを使い,暗所で 光をかき集める。  視細胞は網膜に分布する。眼球において網膜の外側には脈絡膜があり,血管が多く網膜に 栄養を供給している。さらにその外側には結合組織性の強膜になっており,いわゆる「白目」 を構成し,眼球を保護している。  錐体細胞は角膜の正反対側である黄斑に多く分布している。桿体細胞は黄斑にはあまり分 布せず,その周りに多い。その証拠として,星空の肉眼でやっと見える程度の明るさの星を 見たとき,視野の中央よりも中央からやや外れた場所の星の方がよく見える。今夜あたり試 してみてはいかがだろうか?  また,目の内側で受けた光の刺激は視神経を通じて大脳へと伝えられる。このとき上の図 のように視神経の束を眼球の外に出さなければならない。そのため脈絡膜や強膜を横切る道 が必要になるので,この部分には細胞が分布できない。よって視細胞が一切分布しない盲斑 が存在する。盲斑は頭上方向から見て右目のものはやや左に,左目のものはやや右に,つま り中央寄りにある。

遠 近 調 節

 水晶体には筋繊維であるチン小帯がつながっている。チン小帯 の先には毛様体がある。近くを見るとき,毛様体の毛様筋が縮む。 毛様体は水晶体側に縮むので,チン小帯は緩み,張力が弱くなっ て水晶体が膨らむ。すると焦点距離が短くなるので近くをはっき り見ることができる。遠くを見るときは毛様体が緩んでチン小帯 を引き伸ばし,水晶体が薄くなるため焦点距離が長くなる。

(2)

明順応と暗順応

暗闇ではロドプシンが合成される

 ビタミン

A

とオプシンから

 ロドプシンが作られる

明所では ロドプシン不要

暗所では ロドプシン必要

グラフは明所に長時間いた人が 突然暗所に入ったときの感じ取 れる光の強さの最小値と時間の 関係である。 ①ではまだ錐体細胞がメインで あり,暗順応していない。 ②ではロドプシンが合成され,桿 体細胞が働き出したため弱い光 も感じ取れるようになった。

桿 体 細 胞

 網膜には錐体細胞と桿体細胞の2種類の視細胞があるが, 暗闇で活躍するのが桿体細胞である。桿体細胞は明るい所で はおとなしくしているが,暗いところではわずかな光をかき 集めてくれるため,我々は暗黒の中でもおぼろげながら物を 見ることができる。ただし色はあまり分からない。色は錐体 細胞の担当であるが,暗所ではあまり錐体細胞が働かないか らである。  また,桿体細胞が働くにはロドプシンという物質が必要で ある。ロドプシンがあればわずかな光の中でもよく見える。

明順応と暗順応

 暗所から急に明所に出たり,真っ暗な部屋で突然照明をつ けたりすると,その時はまぶしくて目を開けられない。しか ししばらく経つと目が開けられるようになる。これを明順応という。それまでいた暗所では ロドプシンを使い,桿体細胞が頑張ってわずかな光を集めていた。それが突然明るくなった ので,無駄に光を集めてしまい,まぶしいのである。ロドプシンは光を受けると,ビタミン A系統であるレチナールとオプシンというタンパク質に分解される。また明所では副交感神 経が瞳孔括約筋にはたらきかけ,瞳孔を狭くする。  明所から急に暗所へ入ったり,夜に突然照明を消したりするとしばらくは何も見えないが 次第に慣れ,10分もすれば物体の形などが分かるようになる。これを暗順応という。明順 応の逆であり,ロドプシンが合成される。また暗所では交感神経が瞳孔散大筋にはたらきか け,瞳孔を広くする。 ●夜盲症 ビタミンAが不足するとロドプシンが合成できなくなるので,暗闇で何も見え なくなる。これを夜盲症(とり目)という。ビタミンAは緑黄色野菜に多く入っているので 不足しないようにしたい。

(3)

聴  覚

音は,耳殻で集められ,

  外耳道→鼓膜→耳小骨→

  卵円窓→前庭階→鼓室階→

  基底膜→コルチ器→聴神経→大脳

半規管で回転・前庭で平衡

聴  覚

 音というのは気体分子の振動による波動ということは皆さん もご存知のことと思う。この音は非常に複雑なメカニズムで大 脳が感知している。耳殻,いわゆる耳で集められた音は外耳道 を通り,鼓膜を振動させ,それが耳小骨という3本の小さな骨 に伝えられる。その振動はうずまき管の入口の卵円窓に伝えら れ,うずまき管に入る。中ではリンパ液が振動する。うずまき 管は2つのフロアに分かれており,卵円窓から入ったのは2層 のうち上のフロアで前庭階という。うずまき管の終点で折り返 し,下のフロアの鼓室階へと振動が伝わる。このフロアの天井 に相当する部分を基底膜といい,この中にはうずまき細管というパイプが通っており,その 中には内リンパが入っている。このパイプの中におおい膜と聴細胞がある。この2つをまと めてコルチ器というが,基底膜の振動によりおおい膜が聴細胞の感覚毛に当たって聴細胞が 興奮する。  このようなメカニズムにより聴神経に興奮が伝導されて大脳へと伝えられる。また,鼓膜 を正常に振動させるには耳の内外で空気の圧力が等しくなければならない。それを調節する のがエウスタキオ管(ユースターキー管,耳管ともいう)であり,鼻孔とつながっている。

聴細胞の種類

 目が物体の形を見分けるのは,光の周波数によって3種類の錐体 細胞のうち興奮する細胞が決まっているからである。音でも同じよ うなことが起こっている。聴細胞には色々な長さのものがあり,柔 らかく長い聴細胞は長い波長でゆっくり振動し,硬く短い聴細胞は 短い波長で速く振動する。右のグラフは多少意味が分かりにくいが, 破線が聴細胞の長さと鼓室からの距離の関係を表す。曲線はその場 所に分布する聴細胞の担当する音の周波数である。うずまき管の奥の聴細胞ほど低い音で興 奮する細胞が分布する。  これにより高い音と低い音を聞き分けることができる。マリンバや鉄琴で長いものほど低 い音が,短いものほど高い音が出るが,音を受けるほうも同じである。基底膜はうずまき管 内の鼓室階にあるが,鼓室に近いほうに短い聴細胞が多く奥のほうに長い細胞が多い。  ヒトの場合,個人差もあるが大まかに20Hz~20kHz(20,000Hz)までの音を聞き取れるが, その範囲外の周波数の音に関しては興奮する聴細胞がないため聞くことができない。イヌは 100kHz(100,000Hz)くらいまで聞くことができる。

(4)

単収縮と強収縮

運動神経を刺激すると筋肉が縮む

  潜伏期→収縮期→弛緩期 の順

1

秒間に

30

回以上刺激で

  完全強縮を起こす

それ未満なら不完全恐縮

測 定 方 法

 円柱形のドラムにすすで真っ黒にした紙を巻 きつけ,ドラムを回転させながら紙を棒でこすっ て白い線を描く装置がキモグラフやミオグラフ という。ミオグラフはごく短時間でドラムを1 回転させるもので,キモグラフはゆっくり回転 させて長時間の記録をする。 ①筋肉の挙動の記録 ②時間の記録 原始的な方法だが,おんさの規則正しい振動を利用したもの。 ③刺激した時刻の記録  これら3つのラインで調べる。おんさが時間の目盛りの役割を果たす。

単収縮と強収縮

●単収縮 ミオグラフを使う。単収縮は筋肉に1回きりの電気刺 激で観測する。筋肉に刺激を与えると反応するまで少し時間がか かる。この期間を潜伏期という。次に筋肉は縮み始める。この期 間は収縮期とよばれる。そしてその筋肉に断続的に刺激を与えな ければだらーんと伸びて元に戻る。この時期を弛緩期という。弛 緩は普段は書かない字だが,漢字で書けるようにしたい。  潜伏期→収縮期→弛緩期は,この間0.1秒である。この数字も 必ず覚えるように。 ●不完全強縮・強縮 キモグラフを使う。ドラムをゆっくり回転 させ,長時間(といっても数秒)記録する。筋肉に刺激を加えると 前述の単収縮の通り,0.1秒で元に戻ってしまう。だから1秒間 に10~20回程度(0.1秒で1~2回)の刺激を与えても間隔が広す ぎるため,弛緩してから刺激するのを繰り返すことになるのでキ モグラフでの収縮度グラフはノコギリ状になる。これを不完全強 縮という。  ここで,もう少し刺激頻度を上げ,1秒間30回以上とする。今 回は収縮期にもう次の刺激を与えるため,グラフはノコギリ状に ならず,滑らかに上がっていくグラフとなる。これは強縮または 完全強縮とよばれる。強縮を起こす1秒あたりの刺激回数は覚え てもらいたい。また,筋肉を収縮させるための電圧はある一定値 以上が必要である。この限界値のことを閾値という。

(5)

筋 収 縮

 (改訂2.0)

筋繊維の中に筋原繊維

その中にフィラメント

動かないミオシンフィラメントが

アクチンフィラメントを引いて動かす

ATP

のエネルギーによる

滑 り 説

 脊椎動物は横紋筋と平滑筋を持つ。骨格筋と心筋は収縮が 素早い横紋筋である。骨格筋は疲労しやすい。内臓筋は比較 的収縮の遅い平滑筋である。平滑筋は疲労しにくい。高校生 物では骨格筋の収縮を考える。筋繊維は細胞としての最小単 位だが,実はこれはまだ筋原繊維とよばれるものの束ででき ており,筋原繊維はさらにアクチンフィラメントとミオシン フィラメントとよばれるものの束でできている。アクチンも ミオシンもタンパク質の一種であり,ミオシンは色が濃く暗 い。ミオシンフィラメントの先端にはATP分解酵素がある。  運動神経の終末に興奮が伝わると,アセチルコリンが分泌 されて筋繊維の細胞膜まで伝達され,筋繊維の中の筋小胞体 まで伝導されるとその中に入っているカルシウムイオンが放 出される。カルシウムイオンはアクチンを活性化させ,ミオ シンと反応しやすくなる。そしてATP分解酵素を放出させ る。ATPの高エネルギーリン酸結合を切り,エネルギーを 取り出す。そのエネルギーにより,アクチンフィラメントが引き寄せられてミオシンフィラ メントの間に滑り込んで筋肉が縮む。これを滑り説といい,ハクスリーによって提唱され, 現在も支持されている。  どちらが動くのか忘れないようにしたい。アクティブなアクチンと語呂で覚えておいても いいかもしれない。筋原繊維の単位をサルコメア,サルコメアの仕切りをZ膜という。

筋肉のエネルギー

 筋肉内にはATPがあるが,ATPのリン酸のもととなるクレア チンリン酸という高エネルギー物質が蓄えられている。ATPが ADPになったらクレアチンリン酸から直ちにリン酸が供給され てATPに戻る。クレアチンリン酸はクレアチンになる。  ATP用エネルギーの源は筋肉内のグリコーゲンである。筋肉では必要に応じてこれをグ ルコースに分解して適宜使っている。酸素が十分にあるときは好気的に分解されるが,酸素 が足りないときは嫌気的に分解され,乳酸になる。乳酸はおよそ20%がクエン酸回路で水 と二酸化炭素に分解され,およそ80%はグリコーゲンに戻り,再利用される。長時間同じ 姿勢でいると肩や腰がこる。これは血管が圧迫されるなどで酸素供給が不足し,嫌気的にグ ルコースの分解が行われ,乳酸が蓄積されるためと考えられる。

(6)

脳と中枢神経

大脳…知能・学習・感覚

小脳…運動・体の平衡

中脳…眼球運動・瞳孔調節・姿勢保持

間脳…自律神経の中枢

延髄…呼吸・だ液などの中枢

脊髄…排尿・排便・交感神経

脳 の 構 造

 脊椎動物は脳とそこからつながる脊髄からなる中枢神経をもつ。 脳の部位名は細かく決められているが,覚えるべきものはそれほど 多くはないので確実にしておきたいところである。

名称とはたらき

●大脳 哺乳類の脳のうち,大部分を占める。ヒトは特に発達して いる。このあたりからも大脳は知能や学習などに関係していること が分かる。また感覚などもここである。学習も大脳であり,しわが 多いほどその「容量」が多くなる。パソコンでいうとCPUやハード ディスクの両方を兼ねている。 ●小脳 大脳の後ろ側についている。名前の割には大きく,目立つ。全身の運動を制御して いる。その他平衡を保持している。鳥類・魚類・哺乳類で発展している。 ●中脳 中脳は場所や形が分かりにくい。基本的には延髄の上部から小脳の入口である。眼 球運動の制御,また瞳孔散大筋や瞳孔括約筋も制御している。その他姿勢の保持(立ち直り など)がある。中脳は主として目に関わるが,視覚は大脳なので注意してもらいたい。 ●間脳 大脳の下にあり,体温,血糖量などの中枢がある。間脳視床下部は自律神経の中枢 であることを必ず覚えておくべきである。また視床下部の下には脳下垂体(下垂体ともいう) がぶら下がっており,各種ホルモンなどを分泌している。 ●延髄 脳からひょっこりと全身側へ突き出したもの。人間でいう とちょうど鼻の後ろ付近に当たる。呼吸,クシャミなどの中枢が ある。また延髄は迷走神経(副交感神経の一種)が出ており,各種 臓器などに連絡している。 ●脊髄 脳の下から背骨までつながる。脊髄反射の中枢。熱い物 を触ったときに思わず手を引っ込めることである。また交感神経 も脊髄から出ており,各種臓器に連絡している。副交感神経とは 拮抗的にはたらく。  大脳の皮質は神経の細胞体が集中しているため色が少し濃く見 えて灰白質とよばれている。内側は色の薄い軸索が集まって白質 とよばれる。また脊髄は構造上内側に細胞体が集まって,外側に 軸索が集まっているため髄質が灰白質,皮質が白質とよばれる。必 ず覚えてもらいたいことである。

(7)

脊椎動物の神経

中枢神経系

 →脳と脊髄

末梢神経系

 →体性神経系

(

運動・感覚神経

)

 →自律神経系

(

交感・副交感神経

)

神 経 系

 脊椎動物は管状神経系といい,大きな脳と脊髄を合わせ た中枢神経系をメインの軸とし,そこから枝のように末梢 神経系が分岐している。末梢神経には体性神経系と自律神 経系がある。体性神経には運動神経と感覚神経があり,自 律神経には交感神経と副交感神経がある。非常にややこし いので右図を見てスッキリしてほしい。

体 性 神 経

 痛い,熱い,冷たいなどの感覚で,視覚・嗅覚・聴覚・味 覚など体の各所で受けた刺激を中枢の脳や脊髄に伝える神 経が感覚神経である。また中枢から出て筋肉に連絡してい る神経を運動神経という。これらの神経が興奮し,終末ま で伝導されると骨格筋が動く。つまり何らかの方法で運動 神経に電流を流すと筋肉は意思とは関係なく動く。  中枢神経で折り返すのはパソコンと似ている。まずキー ボードが感覚細胞であり,キーボードと本体をつなぐケー ブルが感覚神経のようなものである。PC本体のCPUが脊 髄,ハードディスクが大脳のようなもので,ディスプレイ のケーブルが運動神経でディスプレイが効果器の筋肉のよ うなものである。

自 律 神 経

 また,自身の意思ではなく,生命を安定した状態に保つた めの抹消神経を自律神経という。自律神経には前述どおり交 感神経と副交感神経があり,心臓・消化器官・体温・血糖量・ 浸透圧などを制御している。これら不随意的なものを制御す る中枢は間脳視床下部である。これは必ず覚えてほしい。自 律神経は中枢から出ており,分泌腺や器官に連絡する遠心性 神経のみである。  この遠心性神経は中枢から出て,体の各組織に終末を向けている神経のことである。自律 神経や運動神経がある。またこの対義語として求心性神経というものがある。体の各組織か ら中枢に伝える感覚神経のことである。

(8)

自 律 神 経

交感神経

 戦い・イライラ・必死

副交感神経

 リラックス・休憩・嬉しい

2

つが拮抗的にはたらき合う

自 律 神 経

 ヒトをはじめとして多くの動物は末梢神経系として体性神 経系と自律神経系がある。意識とは関係のない分泌腺,消化器 系や血糖調整などにはたらきかけるのが自律神経である。自律 神経は間脳視床下部を中枢とし,中脳,延髄,脊髄の仙髄から 副交感神経が,脊髄(頸髄・胸髄・腰髄)から交感神経が出て いる。なお,脊髄の近くには交感神経が束になった交感神経節 がある。  自律神経はあらゆる臓器,分泌腺,内蔵の動きを制御してい る。自律神経はなくてはならないものである。もしもなかった ら心臓の動きや血管の太さを自分の意思で調節しなければいけない。   交感神経 バトル中 副交感神経 リラックス中 汗腺 促進 ― 瞳孔 開 閉 消化系 抑制 促進 血圧・ 心拍数 上昇 下降 血糖量 上昇 下降 血管 収縮 ― 排尿 (膀胱) 減少 増加

交感神経と副交感神経

 基本的に動物が獲物を狙ったり,敵から逃げ たりするときには交感神経が上位になり,リラッ クスしたり嬉しいときには副交感神経が上位に なる。どっちがどっちか分からなくなったとき は自分自身が脊椎動物哺乳綱のヒトという動物 であるということを思い出して自分のことを考 えればよい。  交感神経と副交感神経は拮抗的(きっこうて き)にはたらいているので片方を考えればもう 片方も分かるものが多い。動物は本来,日々が生きるか死ぬかの命がけであった。交感神経 は生き延びるために重要なはたらきをするものである。例えば敵を追ったり敵から追われた りしているとき,汗をかくだろう。どちらにしても相手をよく見なければならないので瞳孔 が大きく開く。また,食事したりトイレに行ったりなどのん気なことはしていられないので 消化器官や排尿などのはたらきは抑制される。また,心拍数が上がるのは言うまでもないだ ろう。バトルには多くのエネルギーを消費するため,ATPを素早く作れるよう,グルコー ス濃度を上げるべく,グリコーゲンのグルコースへの分解も促進され,血糖値が上がる。ま た,ダメージを受けたときに出血量を減らすため血管は収縮する。以上の考えで交感神経の はたらきを考える。副交感神経は基本的にその逆であるが,汗腺と血管にははたらかないの で注意したい。

(9)

神経細胞の構造

刺激を伝える細胞

細胞体と軸索からなる

細胞内はカリウムイオンが多く

細胞外はナトリウムイオンが多い

活動電位と静止電位の意味を覚える

神 経 細 胞

 感覚細胞で受け取った刺激を中枢神経系(脳と脊髄)に伝えるのが感覚神経,中枢神経か ら筋肉などに指令を出すのが運動神経というように,動物の体中に神経がある。神経は神経 細胞(ニューロン)が束になっている。神経細胞は星のような形をしている細胞体とよばれる 本体からとても長い軸索とよばれる突起が出ている。神経終末とよばれる軸索の末端はシナ プスとよばれる構造がある。脊椎動物の場合,この軸索に髄鞘という絶縁体がバームクーヘ ン状に巻きついている。この髄鞘は神経鞘細胞(シュワン細胞)の一部を構成している。脊 椎動物は髄鞘をもつ有髄神経であるが,無脊椎動物は髄鞘のない無髄神経である。しかし脊 椎動物でも,例外的に交感神経は無髄神経である。

伝  導

 神経細胞を電気などで刺激するとニューロンに電流が流れる。こ れを興奮の伝導とよぶ。神経終末まで達すると隣の細胞へは電流 ではなく化学物質で伝達される。ここでは神経細胞に流れる電流 とその仕組みを紹介する。  通常,神経細胞にはナトリウムポンプが ついており,外部へナトリウムイオン(Na+) を追い出している。そのため細胞内部は外 部に比べ,相対的に負に帯電している。この とき細胞の外から細胞の中を測った電圧を 静止電位とよぶ。単位はmVである。図の 例なら静止電位は−30mVである。ナトリ ウムチャネルというNa+専用の通り道も閉 じているが,神経細胞が興奮するとナトリ ウムチャネルが開き,細胞内にNa+が入っ てくる。勢いが強いため,①すぐに細胞内が 正に帯電する。このときの細胞外から細胞 内を測った電圧と静止電位の差を活動電位 という。図の例なら80mVである。要する に始めの状態からグラフの山頂までの高さ を測ればよい。そして細胞は陽イオンを出そうとし,②代わりにK+を出す。そして最初の 状態の電位に戻そうとして③カリウムイオン(K+)を出しすぎてしまうが,すぐに元に戻る。

(10)

興奮の伝導と伝達

神経細胞内は電流→伝導

シナプスから次の神経細胞→伝達

伝導の速度は速い

伝達でやや遅く,ロスが出る

神経細胞内,興奮中はプラス

伝導と伝達

 神経細胞(ニューロン)の外から中の電位を測ると,すでに学習 したとおり,負に帯電し,興奮すると陽イオンが流れ込み,正に 帯電する。すると細胞内に電流が発生し,電荷(イオン)の移動, つまり電流が流れる。電流が流れるのは神経細胞の軸索内である。 軸索の末端は神経終末やシナプスとよばれる。次に神経細胞があ るときはシナプス,ないときは神経終末である。  シナプスから次の神経細胞や,筋肉までには微妙な隙間がある。 この隙間をシナプス間隙という。次の神経細胞へ興奮を伝えるの は伝達とよばれ,電流ではなく,化学物質が放出される。この物 質を神経伝達物質いう。交感神経終末からはノルアドレナリン, 副交感神経と運動神経の終末からはアセチルコリンが放出される。この時,伝導よりは遅い のでタイムロスが生じる。 ●例題 カエルの筋肉と運動神経が結合した標本で,筋肉から 15mm離れた点をA,35mm離れた点をBとする。Aを刺激し, 筋肉が収縮し始めるまでに0.50m秒(m秒は1000分の1秒),B を刺激し,筋肉が収縮し始めるまでに0.90m秒かかった。  伝導の速さ[m/秒]と,伝達にかかる時間[m秒]を求めてみよ う。まず,速さであるが,「はじき公式」を使うが,Aから筋肉収 縮までの時間をそのまま使うと,伝達でのタイムロスも含んでし まう。自転車で学校へ行くときの速さを測るなら,当然走行時間 のみの速さを測るのが妥当であり,駐輪場に片付けている時間な どは引かなければいけない。それと同じである。だから,AB間の20mmで計算すれば正確 な値になる。この間,0.40m秒と容易に分かるので, 20mm 0.40m秒 = 50m/秒 □ また,A→終末+伝達で,0.50m秒かかっている。A→終末の時間は 15mm÷ 50m/秒(15ミリメートル÷ 50メートル/秒) = 0.30m秒 伝達時間をtとすると,0.30 + t = 0.50 ∴ t = 0.20なので,0.20m秒ということが分か る。このタイプの問題のときは単位に注意してほしい。mmやm秒など,mが多いときは 上のようにカタカナで書けば間違うことはないだろう。

(11)

活 動 電 位

電圧計というシロモノの扱い方

電圧計には

2

つの電極があり,

  基準電位から測定電位を測る

静止状態なら

  中マイナス 外プラス

伝  導

 受けた刺激の情報をニューロン内で伝えることを伝導という。伝 導中は電流が流れている。しかし工学の世界のように自由電子が 動いているのではなく,カリウムイオンK+やナトリウムイオン Na+の濃淡分布が伝わっている。静止状態はすでに学んだように 外へNa+を出しているため結果的には軸索内がマイナス,外がプ ラスに帯電している。しかし興奮中にはNa+が多量に入ってくるので軸索内がプラスにな る。中がプラス,外がマイナスの状態が伝わるのが伝導である。

電圧計の仕組み

 電圧計は2点間の電位差を測るもので,基準電極と測定電極 の2つの端子がある。プラスに帯電している所(高電位)に基 準電極を置き,帯電していない所に測定電極を置くと電圧計の 目盛はマイナスになる(①)。また,マイナスに帯電している 所(低電位)に基準電極を置き,プラスに帯電している所を測 るとプラスになる(②)。これを受け入れてほしい。  では例題。ある動物の神経細胞を使う。図の軸索のAに測 定電極,Bに基準電極を設置する。なおどちらも軸索の外に取 り付ける。そしてPを刺激したとき,オシロスコープ(電圧計 の値を時間変化で追ってグラフ化するマシン)が示す波形どう なるだろうか。  図のI,II,IIIの順に考える。まず興奮がAに届いていない (I)とき,2つの両電極は条件が同じなので電位差は認められ なく,電圧計は0となる。興奮がAに達する(II)と測定電極 の付近はマイナスとなるので電圧計は負の値を示す。そして興 奮がBまで伝わる(III)と,基準電極付近がマイナス,測定電 極付近がプラスとなるため,電圧計はプラスを示す。  このタイプの問題は結構ひねることができるので,あらゆるタイプの問題が想定される。 いずれも電圧計というマシンの使い方を把握しておいてもらいたい。

(12)

ホ ル モ ン

ホルモンは内分泌腺で作られ

  血管を通り標的器官に運ばれる

微量でも即効性がある

自律神経に支配される

タンパク質系とステロイド系がある

内分泌腺とホルモンの結びつけ

 高校生物で必要なホルモンは数が限られているのですべて覚えておくべきである。分泌腺 の場所は5つ。脳下垂体,甲状腺,副甲状腺,副腎,すい臓である。ホルモン分泌は自律神 経に支配されている。皆さんもホルモンを考えて放出しているわけではないと思う。  自律神経なのでやはり間脳視床下部がその親玉ということはすぐに分かると思う。間脳の すぐ下にある脳下垂体からは色々なホルモンが分泌される。 ●脳下垂体前葉 成長を促す成長ホルモン,甲状腺にホルモンを分 泌させる甲状腺刺激ホルモン,副腎皮質にホルモンを分泌させる副 腎皮質刺激ホルモンを分泌する。成長期に成長ホルモンが過剰量に 放出されると巨人症,また少なすぎると小人症になる。 ●脳下垂体中葉 メラニン色素合成を促進するインテルメジンを分 泌する。 ●脳下垂体後葉 腎細管での水分の再吸収を促進するバソプレシン が分泌される。過剰で高血圧,過少で尿崩症になる。 ●甲状腺 刺激されることで代謝を活発にするチロキシンを分泌す る。ヨウ素が含まれているホルモンであり,過剰に分泌されると眼 球が突出するなどのバセドー病にかかる。 ●副甲状腺 骨からのカルシウムイオンの溶解を促進するパラトルモンを分泌する。 ●副腎髄質・皮質 副腎の髄質からは血糖量を上げる神経伝達物質のノルアドレナリンと構 造が似たホルモンのアドレナリンが分泌される。  副腎の皮質からはタンパク質を糖に変える糖質コルチコイドと腎細管でのK+Na+ 再吸収を促す鉱質コルチコイドを分泌する。なお2種類の「コルチコイド」はどちらもステ ロイド系ホルモンである。 ●すい臓ランゲルハンス島 すい臓を拡大して見るとポツポツと大海原に浮かぶ島のような ものが見える。ランゲルハンス島といい,α(A)細胞とβ(B)細胞がある。α細胞からは肝臓 のグリコーゲンを分解してグルコースにして血糖量を上げるグルカゴンが,β細胞からはグ ルコースをグリコーゲンに合成して血糖量を下げるインスリンが分泌される。

タンパク質系とステロイド系の違い

 タンパク質系ホルモンはその名の通りタンパク質やアミノ酸が結合したものでできてい る。標的器官の細胞に近づくと酵素を活性化させて化学反応を促進させる。しかしステロイ ド系ホルモンは炭化水素でできており,細胞の中に入って細胞内の受容体と結合した後,核 の中まで入る。そしてRNAを刺激し,酵素を合成させるという違いがある。

(13)

血 糖 量

血糖量を上げるホルモン

 ●グルカゴン (すい臓)  ●アドレナリン (副腎髄質)

 ●成長ホルモン (脳下垂体前葉)  ●チロキシン (甲状腺)

 ●糖質コルチコイド (副腎皮質)

血糖量を下げるのはインスリンのみ

血 糖 量

 血糖量は正常値は血液100m`に100mgである。血液の密度は1.0g/m`強だから100m` はおよそ100g。血液100g中にグルコース100mg,つまり0.1gなのでおよそ0.1%である。 0.1%で覚えるときは注意したい。血糖量は自律神経によって支配されている。そりゃそう である。血糖量を自分の意思で調節しろといわれても無理な注文である。以下に血糖量が少 ないときの体内におけるチームワークを描いた。 ●低血糖のとき 上の図の通りである。間脳視床下部に流れる血液中の糖の量が低下すると 交感神経が興奮し,すい臓ランゲルハンス島A(α)細胞からグルカゴンを,副腎髄質からは アドレナリンを分泌させる。また,脳下垂体前葉からは血糖量を上昇させる成長ホルモンと 甲状腺を刺激する甲状腺刺激ホルモンを分泌し,甲状腺からはチロキシンが分泌される。グ ルカゴン,アドレナリン,成長ホルモン,チロキシンの4つはグリコーゲンを分解してグル コースに変えて血液中に流し,血糖量を上げる。またグリコーゲンが少ないときは脳下垂体 前葉からさらに副腎皮質刺激ホルモンも分泌され,副腎皮質からは糖質コルチコイドが分泌 される。これは飽食気味の現代人にはあまり必要性がない。タンパク質を糖に変えるのであ る。血糖量がある程度上がり,間脳視床下部にその血液が流れると血糖量を上げる作業をや める。この見事なチームワークをフィードバック調節という。 ●高血糖のとき 食事後など血糖が上がると副交感神経が興奮し,すい臓ランゲルハンス島 B(β)細胞からインスリンを分泌させてグルコースからグリコーゲンを合成し,肝臓に戻す。 血糖量を上げるホルモンは5種類もあるのに対し,下げるホルモンはインスリンただ一つで ある。野生動物はつねに糖を分解して生成するATP(エネルギー)が必要なので,血糖量を いつでも上げられるように万全な体制を整えているのであるが,これが裏目に出る病気がか の有名な糖尿病である。

(14)

体 温 調 節

暑くても寒くても交感神経がはたらく

寒ければ筋肉で発熱し,

  血管からその熱を逃がさない

暑ければ汗腺から発汗

自律神経が自動的に行う

自 律 神 経

 暑い,寒いは人により好みはあるが,基本的に生命の存続に 有利なものではない。だから暑いときも寒いときも交感神経が 興奮し,体温を正常に戻そうとする。ATPを使うため,血糖 量を上げるように自律神経がはたらく。

体 温 調 整

 では寒いときと暑いとき,自律神経がどうはたらくのかを考 えたい。 ●寒いとき 脳を通る血管に冷えた血液が流れる(寒冷刺激) と,間脳視床下部がそれを感知する。このとき交感神経が興奮 し,脳下垂体は各種ホルモンを分泌して,とりあえず血糖量を 上げ,体内でのATPの産生に励む。寒いときに血糖量を上げ るホルモンとしては,代謝を活発にするチロキシンが甲状腺か ら,グリコーゲンをグルコースに分解するアドレナリンが副腎 髄質から,タンパク質を糖化する糖質コルチコイドが副腎皮質 から,それぞれ分泌される。  その結果心拍数を上げ,血圧を上げる。また骨格筋を震えさ せることにより発熱させて,血管や立毛筋を収縮させること により熱が体外へ逃げるのを防ぐのである。寒いときいわゆる 「鳥肌」が立つのはこの仕組みである。 ●暑いとき 同じく脳血管に温かい血液が流れても,同じく 間脳視床下部はヤバいと感じる。交感神経を興奮させ,汗腺に はたらきかけ,汗の分泌を促進させる。汗が出てそれらが蒸発 するときに気化熱によって温度が少し下がる。  また熱い刺激(温熱刺激)を受けたときは同時に副交感神経 も興奮し,心臓に働きかけて心拍数や血圧を下げて熱を逃げやすくする。暑いとき,ダルく なる原因の一つである。また動脈にもはたらきかけて血管を拡張させて熱を逃がす。その他 の血管には副交感神経が分布しないので弾性力によって拡張させている。  寒いときは交感神経のみで,暑いときは交感神経と副交感神経両方がはたらいてうまく熱 を調節している。立毛筋や汗腺には副交感神経が分布していない。暑くて汗を出すときは交 感神経が汗腺にはたらきかけ,寒いときはただ汗が出ないのである。寒いときは立毛筋が震 えるが,暑いときは震えない。

(15)

肝  臓

沈黙の臓器とよばれる大きな臓器

解毒・発熱・貯蔵などのはたらき

また胆汁を合成し,十二指腸へ送る

血液を貯蔵し,古い赤血球を破壊する

再生力が強い

オルニチン回路

 肝臓は大きく,重い(1kg)。はたらきも多い。肝臓は肝小葉 とよばれる単位でできている。まさに「肝心」という言葉が存 在するように,肝臓は心臓と並んで「肝心」なものである。  肝臓のはたらきの1つとして尿素合成がある。尿素はいわゆ るアミノ酸から出る廃棄物といえる。アミノ酸はカルボキシル 基(−COOH)と,アミノ基(−NH2)の両方を持つ化合物であ り,分解されるとカルボキシル基を持つ有機酸と,アミノ基が そのままちぎれたアンモニアになる。このアンモニアは基本的 に毒なので無害なものに変える必要がある。その無害なものが 尿素であり,それは肝臓内の細胞で合成される。このときの化 学反応であるが,同じ物質を何回も繰り返すため,回路に見立 ててオルニチン回路とよばれる。物質が オルニチン→シトルリン→アルギニン と変化する過程で,アルギニンから尿素が合成される。右図のようなものはたまに出題され る。どのタイミングで尿素が合成されるかだけは覚えてもらいたい。

肝臓の役割

●貯蔵 ビタミンや血液やグリコーゲン(ブドウ糖を結合させた もの)を蓄えておく。そして必要なときに使う。栄養分の倉庫の ような役割である。小腸の毛細血管から吸収される栄養分はアミ ノ酸とグルコースが主である。これが肝門脈(または門脈)とよ ばれる静脈を通って肝臓に入る。 ●代謝 数々の代謝を行う。 ●発熱 体温は肝臓内の代謝で発生する。 ●解毒 菌や毒などは肝臓の硫酸などで分解される。 ●胆汁生成 胆汁を生成して肝臓近くの胆のうに蓄える。胆汁は そこから胆管とよばれる細い管を通って十二指腸に送られる。十 二指腸は胃から腸への連絡通路ともいえる部分で,指12本を並 べたくらいの長さなのでこの名がついている。十二指腸に分泌された胆汁は脂肪の乳化と, 胃酸の中和を行う(胆汁はややアルカリ性)。  乳化された脂肪はこの後リパーゼにより完全に分解される。

(16)

浸 透 圧 調 整

硬骨魚は水や塩類を出し入れして

体内の浸透圧を正常値になるよう調節する

軟骨魚

(

サメ・エイ

)

尿素を血液中に溶かすことで

外液と浸透圧と等張にしている

硬 骨 魚 類

 海水はおよそ3.5%の食塩水でかなり濃い。海に住む魚,それ も硬骨魚類(サメ・エイを除く魚類)たちの体液はもう少し薄い はず(生理食塩水はおよそ1.5%)なので,浸透圧により体内の水 を吸い取られる傾向にある。そのため「ふざけんな!」と叫び, 海水をガブ飲みするのである。そして海水を塩分と水とに分け, 能動輸送により塩分をえらにある塩類細胞から排出し,水分を腸 から体内に吸収する。また,少量の等張尿を出している。これら より,海水の強力な浸透圧に対抗しているのである。  また,フナやコイなど,淡水に住む魚たちは体内の方が濃いの で水が浸透してくる。これを放っておくと水がどんどん入ってき て体が破裂してしまう。そのため水を出さなければいけない。淡 水中では勝手に水が体内に入ってくるので,魚はあえて水を飲む 必要はない。また,えらにある塩類細胞から能動輸送により塩分 を吸収している。さらに塩分の少ない多量の低張尿を水中に出す ことで入ってきた水を追い出し,出ていく塩分を吸収している。  淡水魚は淡水生活に,海水魚は海水生活における浸透圧調整を 得意とし,海水魚を淡水に投入,または淡水魚を海水に投入する と生存できずに死んでしまうものもある。しかし,サケやウナギ のように淡水・海水どちらでも調整できる魚もいる。サケはご存 知のように川と海を行き来するためである。

軟 骨 魚 類

 軟骨魚類にはサメ,エイがある。原始的な魚類であり,硬骨魚 類のような器用なことはできない。海水中に住んでいるわけな ので,体内の水が抜けていく。そのため自らを外液と等張にすべ く,産生するのが比較的簡単で無害なものである尿素を体内に溶 かすことで体液浸透圧を上げて海水と等張にしている。こうすれ ば水は奪われないしまた染み込むこともない。  ここでは魚類のみ扱ったが,エビ・カニや軟体動物などの無脊 椎動物にはこのような調整能力がなく,常に外液浸透圧と体内の 浸透圧が等しくなるものが多い。

(17)

腎  臓

血しょう→原尿→尿

不要なものが尿まで残る

タンパク質は原尿に入らない

グルコースは腎細管で

  すべて吸収

腎臓のしくみ

 血管には必要なもの,不要なもの,あらゆる物質が血液と一緒に流れている。不要なもの を混ぜて排出するのがご存知の尿である。尿を作るのが腎臓である。腎臓にはたくさんの腎 単位(ネフロン)でできており,各腎単位ごとに尿を作り,集合管に合流させる。  まず,腎動脈から分岐した毛細血管が丸く集まったものが糸球体,腎臓への入口がボーマ ンのう,この2つをまとめて腎小体という。腎単位とは違うので混同しないように。  糸球体からボーマンのうへろ過される。このとき大きな 分子であるタンパク質はボーマンのうの微妙な網目を通過 できないため,血しょう中に残る。その他,ブドウ糖や無機 塩類や尿素はろ過され腎細管に入る。腎細管には毛細血管 が巻きついており,腎細管を流れる原尿から必要なものを 再吸収する。溶質だけではなく,もちろん水も吸収される。 そして腎細管で毛細血管に見捨てられた物質がそのまま尿として排出される。 各体液 1` 中に含まれる質量 [g]   血しょう中 原尿中 尿中 タンパク質 73 0 0 グルコース 1.0 1.0 0 尿素 3.5 3.5 20 Na+ 3.3 3.3 3.3 Cl− 3.6 3.6 6.0 K+ 0.21 0.21 1.5 イヌリン 0.1 0.1 12

尿 計 算

 入試ではよく出るのがこの尿計算である。た いていの場合,イヌリンのデータと1日の原尿 量もしくは尿量の値が与えられている。イヌリ ンは体内で合成されず,無害だが不要なものな ので再吸収されずにすべて捨てられる。  健康なヒトにイヌリンを注入して血しょう中, 原尿中,尿中の各物質の濃度[g/`]を測定し,右 上の表にまとめた。1日の尿量を1.5`として次 のものを求めよ。という例題を考える。 ●1日の原尿量 イヌリンの尿中濃度は原尿中 の120倍。水は再吸収されるがイヌリンは再吸収されないので,イヌリン[g] ` の値が大きく なったということである。ということは原尿の体積`にして1/120が尿になっているので, 1日の原尿量は尿量の120倍。 1.5× 120 = 180 ∴ 180` □ ●Na+の再吸収率 尿1`あたりを考えるとラク。尿中のNa+は3.3g,原尿はこのとき180` なので原尿中のNa+は180× 3.3g。このうち3.3gが排出されたので,再吸収された量は引 けばよい。よって 180× 3.3 − 3.3 180× 3.3 × 100 = 179 180× 100 ; 99% □

(18)

血 液 循 環

開放血管系…節足動物・軟体動物

  動脈と静脈がつながっていない

閉鎖血管系…脊椎動物・環形動物

  動脈と静脈がつながっている

哺乳類は

2

心房

2

寝室

血  液

 血液は,結合組織で血管を流れる。人の体重のおよそ7.7%を占 めている。有形成分と液体成分に分かれている。有形成分には赤血 球,白血球,血小板がある。 ●赤血球 呼吸色素のヘモグロビンを持ち,酸素運搬の役割をもつ。 有形成分の中では最多数派である。 ●白血球 アメーバ型をし,色素を持たない細胞。白血球の仲間に はリンパ球やマクロファージがあり,免疫システムを担当する。数 は少ないが,大きさはトップである。 ●血小板 有形成分の中では大きさが最小のもの。出血したとき, 血管の外へ出ると壊れる。血液凝固のきっかけとなる。

血 管 系

 動脈から血液が組織に染み出し,細胞に酸素を供給しながら静脈 に入るシステムを持つ血管系を開放血管系という。これに対し,動脈と静脈が毛細血管を通 じてつながっている血管系を閉鎖血管系という。脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・ 魚類)と環形動物(ミミズ・ヒル・ゴカイ・ユムシなど)が閉鎖血管系である。また,ほとん どの無脊椎動物は開放血管系である。ここからは脊椎動物の閉鎖血管について紹介する。 ●魚類 1心房1心室 心臓には静脈血のみが流れる。心臓からえらに血液が送られ,そこ で二酸化炭素を酸素に交換して全身へ送る。 ●両生類・爬虫類 2心房1心室 全身を回ってきた静脈血は右心室へ入り,肺から肺静脈 を通ってやってきた動脈血は左心室に入る。ところがその先は1つの心室なので動脈血と静 脈血が混合してしまい,全身に効率よく酸素を運べない。 ●鳥類・哺乳類 2心房2心室 動きが活発で多くの酸素を必要とするため,爬虫類や両生 類のように不完全な動脈血を全身に送ると不利である。そのため完璧な隔壁が心室を左心室 と右心室に区切っている。

(19)

心  臓

動脈血は酸素,静脈血は二酸化炭素

肺→心臓→全身→心臓→肺

血液はこのような「環状運転」をする

哺乳類・鳥類は

2

心房

2

心室

それ以外は心臓に隔壁がない

体内にある小さな環状線

 我々ヒト・ネコ・鳥・ヘビ・カエルなど,魚類以外の脊椎動物は 肺をもつ。血液は心臓をターミナル駅とした鉄道をイメージすると よい。まず心臓の左心房から。左心房→左心室と流れた血液は大動 脈へと押し出される。すべての動脈の起点である。途中,多くの枝 分かれがあり,分岐して体のあらゆる組織へ血液を流して酸素を供 給して二酸化炭素を回収する。分岐した血液は再び束ねられて大静 脈となる。大静脈は各組織で血液は酸素を手放し,二酸化炭素を多 く持ってきた静脈血を心臓まで運ぶ血管である。  大静脈を通り,血液は心臓に戻って右心房,右心室を通って肺動 脈に入る。このとき,血液は二酸化炭素を多く含んだ 静 脈血だが,通路は肺 動 脈であるこ とに注意。血液は肺に達するとガス交換を行い,外気から取り込んだ酸素を持ち,肺静脈に 入り,心臓の左心房に戻る。このときも肺 静 脈に 動 脈血が流れることに注意。

自 動 性

 心臓はその動物が生きている限り,生涯休むことなく動い ている。これを自動性という。中枢神経から心臓だけを切り 離してもドックンドックンと鼓動を続ける。右心房の入口付 近の大静脈にこの自動性の起点である洞房結節(とうぼうけっ せつ)がある。これはペースメーカーとよばれ,興奮すると 心房の筋肉を収縮させる。その後興奮は,心房と心室の中間 にある房室結節に伝えられ,心室が収縮することで血液が心 臓の外へ送り出される。心臓の自動性を保ち続けるこれらの 筋繊維などの集まりのことを刺激伝導系という。伝達ではな いので気をつけてもらいたい。  心臓は心筋でできている。横紋筋の一種だが不随意筋であ る。ということは自律神経の作用を受ける。 ●交感神経 運動などをして血液中の二酸化炭素濃度が高く なると交感神経が興奮し,終末からノルアドレナリンが分泌 され,血圧や心拍数が上がる。 ●副交感神経 血液中の二酸化炭素濃度が下がると,副交感神経終末からアセチルコリンが 分泌されて血圧や心拍数が上がる。

(20)

酸素解離曲線

 (改訂1.0)

ヘモグロビンは

酸素が多く,二酸化炭素が少ないほど

酸素と結びつく

酸素が少なく,二酸化炭素が多いほど

酸素を手放す

ヘモグロビンと酸素解離曲線

 ヒトの血液中にある赤血球のヘモグロビン(Hb)は,ご周知の通り体に酸素を運搬する役 割がある。それを数値的に考えるものが酸素解離曲線である。上の図のように横軸に血液中 の酸素分圧,縦軸に酸素と結合したヘモグロビン(酸素ヘモグロビンHbO2)の%割合をと る。そして二酸化炭素分圧により通常2~3本の曲線を描きこむ。  ヘモグロビンは二酸化炭素が少なく,酸素が多い場所では酸素と結びつき,その逆の状態 では酸素を手放す性質がある。グラフを見ると,確かに二酸化炭素が少なく,酸素が多いほ どHbO2の割合は多くなっている。

使 い 方

 このタイプの問題はそれほど難しくない。グラフを 見てそのままである。二酸化炭素分圧20mmHg,酸 素分圧100mmHgの肺で,ときたら図の実線で横軸 が100である点Aを見ればよい。ここでおおよそ98 %と読み取る(実際の試験では細かく目盛りがうって あるものが多い)。これは全ヘモグロビンのうちの98 %がHbO2であるという意味である。次に組織に運 ばれた場合を考える。二酸化炭素分圧60mmHg,酸 素分圧40mmHgの組織ならグラフのBを見る。するとHbO2は50%と分かる。静脈では ヘモグロビンのうちの50%はまだ酸素を持っているということも分かる。また,二酸化炭 素はヘモグロビンではなく,血しょうに溶解させて運搬する。 ●肺のヘモグロビンのうち何%が組織で酸素を解離したか 肺 (動脈内)98%,静脈で50%のヘモグロビンが酸素を持っている。 ということはその差98− 50 = 48%のヘモグロビンが組織に酸素 を置いてきたといえる。 ●酸素ヘモグロビンのうち何%が組織で酸素を解離したか 肺 (動脈内)では全ヘモグロビンのうち98%がHbO2,この中で組 織に酸素を置いてきたヘモグロビンの割合を求めるということで あるから, 98− 50 98 × 100 = 48.9 · · · ; 49% のように,この2つは違うので問題をよく読んでどちらなのかを 注意して答えてもらいたい。しかし多くは後者のほうである。

(21)

血 液 凝 固

後ろから覚える方がラク

フィブリンと血球によって

  血餅ができる

フィブリンを合成するのには

  様々な酵素などのはたらきが必要

フィブリンができるまで

 怪我などで出血してしまっても数分で血が固まり,カサブタが できる。このはたらきは非常に複雑だが,血液が血管の外へ出る とこの反応が自動的に起こる。血液凝固の問題はそれなりに出る が,パターンは完全に決まっているので仕組みを覚えてしまえば 問題はない。一見覚えるのは大変そうだが,フィブリンと血球で 血餅ができる,と覚えればよい。  フィブリンはタンパク質の一種で繊維状であり,血球を絡める ことができる。そのフィブリンは初めから血液中にあるわけでは ない。もし常備されていたら,何でもないときに血液が固まって 危険である。だから普段,フィブリンはフィブリノーゲンという 物質の形で常駐する。フィブリノーゲンがフィブリンに変化する には酵素のトロンビンが必要である。しかしそのトロンビンも普 段はプロトロンビンという姿をしている。ここまでで混乱してい ないだろうか? もし混乱されたら一度フローチャートのような ものを書いてもらいたい。  プロトロンビンがトロンビンに変化するためには様々な作用が必要である。まず,傷つい た組織から出されるトロンボプラスチンである。このほか,カルシウムイオンも必要とな る。そして,ここに血小板因子が加わるとプロトロンビンがトロンビンになる。血小板因子 は普段は血液中にないが,血液が血管の外に出ると血液中の血小板がその因子を放出する。  血小板因子以外は常にスタンバイされている。だから怪我をして血管が切れたときはドミ ノ倒しのように連鎖的に反応が進む。血液凝固については論述ができるように理解しておく ことをお勧めする。

血液凝固防止

 血液は血管から出ると固まる。しかし献血の血液のよう に固めたくない場合は以上で述べた反応のどこかを阻害して停止すればよい。 ●クエン酸ナトリウム 化学を選択している人ならご存知と思う。カルボン酸はカルシウム イオンなどの2族の金属イオンと結合すると沈殿する。血しょう中にわずかにカルシウムイ オンがあるため,クエン酸などを加えることによってカルシウムイオンが沈殿する。これに より,プロトロンビンがトロンビンになる反応を阻害することができる。肝臓で作られるヘ パリンも有効である。トロンビンの作用を阻害するはたらきがある。 ●その他の方法 血液凝固は酵素による反応を含む。だから,酵素活性を下げるために低温 にしてもよい。また,フィブリンが絡まらないようにするため,かき回す方法もある。

(22)

体 液 性 免 疫

マクロファージの食作用→抗原提示

ヘルパー

T

細胞がインターロイキンを出し

  

B

細胞を活性化

B

細胞は抗体産生細胞に,

抗体産生細胞は抗体を作る

体液性免疫

 外界からの雑菌や異物のことを非自己といい,本来体内に あるものを自己という。非自己から自己を守るシステムが免疫 である。免疫においては雑菌や異物のことを抗原という。体内 をパトロールするマクロファージが食作用により抗原を分解す る。抗原の破片の情報はマクロファージに付着するヘルパーT 細胞に伝えられる。これを抗原提示という。抗原提示を受けた ヘルパーT細胞はインターロイキンを放出し,B細胞を刺激 する。すると抗原提示された抗原に合った抗体を造れるB細 胞が抗体産生細胞へと分化し,抗原を不活性化,つまりおとな しくさせる。 ●マクロファージ 白血球が分化した巨大細胞。リソソームを 多く含み,あらゆる物を加水分解できる。 ●ヘルパーT細胞 リンパ球が胸腺(thymus)で分化したもの。 マクロファージに結合しており,インターロイキンを放出し, 色々な細胞に「指示」をする。 ●B細胞・抗体産生細胞 リンパ球が骨髄(bone marrow)で 分化したものがB細胞である。抗体を持っており,ヘルパー T細胞に刺激されると急激に増殖,分化をして抗体産生細胞に なる。抗体産生細胞は体液中に抗体をバラまく。

抗  体

 抗体は免疫グロブリンというタンパク質でできおり,Y字型 をしたものである。定常部と可変部に分かれており,定常部は どの抗体も同じである。可変部は抗原に応じて形を変えてい る。そのため抗体と抗原は,酵素と基質の関係と似ており,特 異的に結合することができる。これを抗原抗体反応という。  抗体は長いH鎖と短いL鎖でできている。右図のように合 計4本の鎖があるが,これらを結びつけるのはタンパク質が持 つ硫黄原子どうしの結合であるジスルフィド結合である。図の Sがそうである。ジは2,スルファは硫黄でそれを過去分詞形 にしたと覚えておけば忘れない。

(23)

細 胞 性 免 疫

マクロファージの食作用→抗原提示

ヘルパー

T

細胞がインターロイキンを出し

  このあとは体液性免疫とは違う

キラー

T

細胞,マクロファージが

異常細胞を直接破壊

細胞性免疫

 体液性免疫は免疫の主体であるが,異常細胞などに対しては こちらの細胞性免疫がはたらく。抗原を食作用により分解した マクロファージは,付着しているヘルパーT細胞に抗原提示 をする。ここまでは体液性免疫と同じであるが,このあとヘル パーT細胞が出すインターロイキンはキラーT細胞とマクロ ファージを刺激し,活性化させる。キラーT細胞はすぐに増 殖し,抗原を直接破壊し,マクロファージの食作用もさかんに なる。抗原が菌などの細胞のときやがん細胞,ウイルス,結核 のときなどに有効な免疫である。

二 次 応 答

 体液性でも細胞性でもどちらの免疫も,記憶細胞というも のが血液中に造られる。体液性免疫ならB細胞が,細胞性免 疫ならT細胞が記憶細胞として一部が一定期間保持される。2 回目に同じ抗原が進入してきた場合,抗体を素早く産生した り,キラーT細胞が即座に抗原を攻撃できるように備えてい る。このように短時間で多量に抗体やキラーT細胞を産生す ることを二次応答という。  一度病気になると同じ病気にはなりにくいのは二次応答の おかげである。右図の横軸は時間,縦軸は免疫細胞の数であ る。1回目は免疫細胞が増えるまでやや時間がかかるが,2回 目は抗原の侵入からすぐに1回目よりも多量に抗体,または キラーT細胞を産生できる。このような免疫を獲得免疫また は後天性免疫という。これを用いた医療として予防接種などの ワクチン療法がある。インフルエンザやはしかなどであるが, あらかじめ弱体化させた抗原を注射し,抗体やキラーT細胞 を産生させ,流行時期に二次応答を期待するものである。  花粉やホコリなど,無害なものに対しても過剰に抗体を産生して苦しくなるのがアレル ギーであり,これは二次応答が不利な形で出る代表例である。その他,免疫システムが自己 と非自己の見分けがつかなくなり,自己を攻撃してしまう病気が自己免疫疾患である。本来 は自己は攻撃しないという免疫寛容になっているが,何らかの要素により免疫系が自己であ ることを「忘れて」しまうのである。リウマチ,甲状腺に炎症が起こる橋本病などがある。

(24)

ABO

式血液型

A型 B型 AB型 O型 赤血球 凝集原 A B AとB ナシ 血清 凝集素 β α ナシ αとβ

赤血球の凝集原が抗原

血清中の凝集素が抗体

A

α

B

β

  出会うと凝集

抗原抗体反応の一種

抗体抗原反応

 基本的に血液型の違う血液どうしを混合すると血液が固まる凝集 反応が起こる。これは抗原抗体反応のひとつであり,赤血球の表面に ある凝集原によって血液型が決まる。凝集原が抗原としてはたらき, 血清中の凝集素という物質が抗体としてはたらく。A型血液は赤血球 に凝集原Aと血清中に凝集素βを,B型血液はBとαを持つ。また AB型血液は凝集素はなく凝集原はAとBの両方を,O型血液は凝 集原はなく,凝集素はαとβの両方を持つ。Aとα,Bとβが出会うと凝集するようになっ ている。オーストリアの病理学者ラントシュタイナーによって発見された。  ちなみに血液型で性格が決まるという医学的根拠は証明されていなく,思い込みによる影 響が大きいと考えられる。血液型で人を判断するのは差別にもつながる,危険な行為である。 ●異なる型の血液を混ぜてはいけない理由 例としてA型血液で 考えてみよう。Aとβを持っている。ここにB型血液を混ぜた場合 はどうなるか。B型血液にはBとαが含まれるが,混合するとA とα,Bとβ 両方が出会ってしまうため凝集する。次にAB型血液 はどうか。AとBがあるためA型血液が持っているβと反応して しまう。O型血液の場合,O型の持つαとA型の持つAが出会っ てしまう。他の型も考えてもらいたいが,全部で4C2= 6通り,ど んな組合せをしても凝集反応が起こる。  しかし,血球や血清のみなら大丈夫な組合せもある。今度はB型で考えてみよう。B型血 液はBとαを持つ。Aを持たないO型の血球ならB型血液に混合しても凝集反応は起こら ない。また血清だけなら,βを持たないAB型のものなら混合しても凝集しない。

計 算 例 題

 500人の集団から採血した血液で,A型標準血清に反応したものが200人分,B型標準血 清に反応したものが250人分,O型血清に反応しなかったものが100人分あった。それぞれ の血液型の人数を求めよ。 解 A型血清にはβ凝集素が入っている。反応した200人はβと結びつくBを持つ血液型 なので,B型とAB型である。つまり,B + AB = 200。またB型血清にはαが入っている ので,250人はAを持つA型とAB型の合計なので,A + AB = 250。そしてO型血清に はαとβが入っており,反応しないのはO型血液のみ。よってO = 100。また全部で500 人なので,A + B + AB + O = 500もお忘れなく。この4元連立方程式を解くと, A型…200人  B型…150人  AB型…50人  O型…100人 難しいことではないので間違えないように丁寧に計算してもらいたい。

(25)

Rh

式 血 液 型

アカゲザル

(Rhesus Monkey)

とヒトが持つ

  

Rh

因子

(

抗原

)

Rh

+

の人は

Rh

因子を持つ

Rh

の人は

Rh

因子を持たない

Rh

の人は

Rh

抗体を作ることがある

抗体抗原反応

 普通,血液型がA型の人は赤血球にA凝集原と血清中にβ凝集素がある。B型やO型の 人が血清中に持つα凝集素をA型の人の血液と混合すると凝集が起こる。このとき抗原と してA凝集原というものがあるが,実はこのほかにも凝集原なるものがある。それがRh 因子である。アカゲザルの英名の頭文字2文字をとってRh型の名がついた。ABO式でも 登場したラントシュタイナーの他,ウイナーが発見した。いずれにせよ,血液型には「几帳 面」や「マイペース」などの性格を左右するという根拠は見つかっていない。

Rh

式血液型

 多くの人はRh+型であり,Rh因子を持つ。Rh−型の人は持 たない。また,どちらもRh抗体は初めは産生されていない。 これは当たり前である。Rh因子を持つ人がRh抗体を作ると 自己を攻撃することになるからである。  Rh−型の人にRh+型の人の血液,つまり血球を注射した り,Rh−型の女性がRh+型の子を産んだりすると,Rh+型の 血液がRh−の人の体内に入る。するとRh−型の人の免疫系は 初めて見たRh因子を見て驚いて,Rh抗体を作ってしまう。1 回目は抗体を作るだけであるが,2回目は危険である。抗体と Rh因子が凝集を起こしてしまうからである。  Rh−型の女性が,何らかの形でRh抗体を産生した後にRh+ の子を産むと,胎盤を通してRh抗体が子の血液内に入ってし まう。すると子の体内では赤血球の破壊などが起こり,大変なことになる。この現象を血液 型不適合とよぶ。このようなことは通常のABO式の血液型でも起こりうるが,Rh式のよ うな影響はほとんどない。

調 べ 方

 アカゲザルの血球をウサギやネズミなど,Rh因子を持たない動物 に注入する。体液性免疫がはたらき,Rh抗体が血清中に産生される。 その血清で判断できる。  Rh+型の人の血液はRh因子を持つため,この血清と混合すると 凝集が起こる。Rh−の人はRh因子を持たないため,血清と混合し ても凝集が起こらない。こうして判断することができる。

参照

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