はじめに xi
はじめに
ソフトウェアを管理することに煩わしい問題が派生するのは確かなことである が,恐らく,ビジネスにとって重要な問題とは思われていなかった.しかし,ビ ジネスにおいてソフトウェア業務の量が増え,部下の仕事の多くが次第にソフト ウェア業務に似てきていることに読者もまた気がついているかもしれない.この ことで,読者は他の多くの上級経営者や上級管理者と同じように,増えつつある 部下の仕事がソフトウェアのように管理しづらくなることを知ることになるであ ろう.このような見通しは確かなことである. 本書は,現代の技術集約ビジネスを進めている上級経営者と上級管理者向けで ある.本書で述べていることは,ソフトウェア業務がこれまで常に管理しづらか った理由,まもなく,より多くの仕事がソフトウェアのように管理しづらくなる であろう理由,そして何を読者ができるかである.Robert Frost はかつて,「終 える一番の方法はやり遂げることだ」と語っている. Frost の寓意は問題を避けてはいけないということである.読者は問題を深掘 りし,理解しそして取り組まなければならない.つまり,ソフトウェアマネジメ ント問題に取り組む時に至っている.本書が前提としていることは,ソフトウェ ア業務は管理可能であることである.管理するために,まずなぜそれがいつも管 理しづらかったのかを理解しなければならない. ソフトウェアが管理しづらかった根本的な理由は,それが新しい異なる種類の 仕事であるからである.過去のマネジメント原則はソフトウェア開発には適して いない.ソフトウェアエンジニアリングは知識労働であり,それは,従来のマネ ジメント手法が対象とした従来の労働とはまったく異なっている.本書は,この ような労働に必要な知識ベースマネジメントシステム,その原則,この新しいマ ネジメントシステムがどのように機能するのか,そしてそれを読者の組織に導入 する方法を述べている. これからのマネジメントの挑戦は知識労働と知識労働者に関わる.過去においxii はじめに て,知識労働者は主にソフトウェアエンジニアリング業務を行っていたが,現在, 知識労働者はビジネスのすべての側面に次第に関わるようになっている.ソフト ウェアは最初の大規模知識ベース産業であったので,そのマネジメント問題はよ く知られている.現在,知識労働と知識労働者が現代のビジネス全体に広がり, かつてソフトウェアに限られていた問題はあらゆる科学技術ビジネスの多くの分 野で広がりつつある. 知識労働は他の種類の労働とは異なるので,そのマネジメント問題も固有であ る.知識労働者をマネジメントする手法の最近の研究から,なぜソフトウェア業 務が管理しづらいかについての新しい洞察が得られている.事実,それはソフト ウェア業務を管理しづらくする固有の特性であり,また,知識労働と知識労働者 についても同様である.この新しく理解されたことから,知識労働と知識労働者 に特に適合する新しいマネジメントシステムが導かれた.組織がこの新しい手法 を用いるとソフトウェア業務は予測可能で管理可能になり,その組織の人々はや りがいがあり満足を得られる仕事をするようになることが明らかになる.さらに, 製品の品質と収益性は大幅に改善する. 現在,ほとんどすべての技術分野の業務にソフトウェアが含まれ,また,ソフ トウェアで用いられるのとよく似た設計と開発行為も含まれる.本書で述べるマ ネジメント手法を用いると,あらゆる形態の創造的業務はより管理可能となる. さらに,雇用者の離職率は下がり,顧客はより満足し,そして部下はより創造的 になる.これは巡り巡ってより効果的な働き方につながり,同様に,より魅力的 で収益のある製品提供につながる.本書では,今日このように行っている組織の 例,およびその挑戦によって組織が得た利益の要点を述べる.
本書の構成
本書は 9 章と 5 つの付録から構成される.第 1 章から第 9 章で,新しい知識労 働マネジメント手法,それが必要な理由,そしてその導入と利用を指導する原則 について述べる.付録で示すことは,経営者や管理者がこの手法の概念を探求す る際に出る多くの疑問点を取り上げ,試行を導き,そして組織に導入することで ある. 第 1 章は,現在の商業市場での変化の速さと,あらゆる組織が直面しているワはじめに xiii ールドワイドで積極果敢な競合の脅威を述べている.第 2 章は,企業規模の成長 にともなう官僚制の問題を取り上げ,知識マネジメント手法がこの問題に取り組 むのにどのように役立つかを示している.第 3 章は,知識労働の本質を述べ,ビ ジネスが直面する厄介な問題の多くをどのように知識労働チームが解決するかを 示している.第 4 章は,知識労働をマネジメントするための原則と手法を扱い, これらのマネジメントの実際が従来とどのように異なるかを説明している. 第 5 章から,知識労働マネジメント手法とは何かとの説明から,それを導入す る挑戦を論じることに移る.第 5 章は,知識労働者各自が新しいマネジメント手 法を用いるように動機付けする方法を述べている.第 6 章では,知識労働チーム が首尾一貫してこの手法に従うのに必要な,規律正しくそして協調的な環境を構 築し維持する方法を述べている.第 7 章は,データ駆動型知識マネジメント手法 で利用できるようになる,ダイナミックな意思決定による新たな機会を扱ってい る.第 8 章は,知識労働に対して品質の重要な本質を述べている.最後に,第 9 章は,このような未来のビジョンが読者の組織でどのようにして実現できるかに ついて述べている. 第 9 章に引き続き,5 つの付録がこれらのマネジメント手法の導入と利用のよ り詳細なガイダンスを提供している.数百の組織がこの手法を利用してきたので, 付録は成功するために筆者らが最も効果的であると見いだしたガイドラインを要 約している.すべての組織はそれぞれ異なり,また思いもよらぬ事態が起こりう るので,本書で概略した段階を追うのに,実体のあるガイダンスが読者のマネジ メントチームに必要になるであろう.付録には,最も共通的な質問に対する答え を含み,どのように一歩一歩進めるかのガイドラインを含んでいる.
本書の読み方
読者は第 1 章から第 9 章まで順に読むことを推奨する.新しいマネジメント手 法を高いレベルで完全な全体像が得られるように各章は概念的につながっている. 概念的な背景が得られることで,付録はより深いレベルの情報を提供する.付録 は,手法を導入し利用するための参考あるいはガイドラインとして用いることが できる.5 つの付録は,一般的な疑問点から始まり,試行,手法の採用と利用に 関するより広い課題で終わっている.したがって,本書を以下のように利用するxiv はじめに ことを推奨する. ⃝ 読者は,本書の 9 章を読むと,知識マネジメント手法の全体像,手法が必 要な理由,どのように読者の組織のパフォーマンスを改善するか,そして それらの手法を導入し利用する方法を得ることができる. ⃝ 手法を導入し利用する決定をする前に,読者が抱くであろう疑問点に答え るのに,本書,特に付録を用いることができる. ⃝ 読者が手法を導入すると決めたとすると,読者の部下は付録のガイドライ ンに従い,試行を進め,そして読者の組織で広く手法を導入することがで きる.