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新しい免疫抑制剤deoxyspergualinの作用機序に関する研究 : ラット腎移植におけるドナー血輸血とdeoxyspergualinの併用効果について

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(1)

原 著

〔書鷹薦38第鱗,洋画〕

新しい免疫抑制剤deoxyspergualinの作用機序に関する研究

一ラット腎移植におけるドナ.一血輸血と

deoxyspergualinの併用効果につ』いて一

東京女子医科大学 泌尿器科学教室(主任 タ ナベ カズ ナリ 田 邉 一 成 東間 紘教授) (受付 平成3年4月11日目

The Immmosuppressive Mechanism of DeoxysperguaHn:Tlle Combined

Effect of Donor Specific Blood Trans血lsion and Deoxyspergllalin on Rat Kidney Transp童antation

Kazuna㎡TANABE

Department of Urology(Dir㏄tor:Prof. Hiroshi TOMA) Tokyo Women’s Medical College

Th孟s study was done tQ investigate the mechan亘slh of remarkable prolongation of survival tim白in

rat kidney grafting by combination of donor specific blood transfusion. iDST)and administration of new immunosuppressive agent deoxyspergualin(DSG).

Lewis(LEW)kidney allografts were transplanted into fully allo暮eneic Brown Nbrway(BN) recipients. Fresh,1.O ml whole heparinized LEW blood was injected i.v. into BN recipients two days prior to transplantation.6mg/kg/day DSG was administered by i.s. on day O,1,20f kidney transplantation. The recipients(BN rats)were divided into five groups:Group 1,no treatment(n=6); Group 2, treated with DST alone(n=6);Group 3, treated with DSG(6 mg/kg/day, injected on day O,1, 20f kidney transりlantation)alone(n=7);Group 4, treated with DST and DSG(n=7);Group 5, treated with third party blood transfusion(ACI)and DSG(n=6).

Remarkable prolongation of survival time of transplanted LEW kidney was obtained in Group 4 (mean survival time Group 1,2,3,4and 5=8.8,9,5,14.8,79.5 and 12.8 days respectively). Mixed lymphocyte cultufe(MLC)(stimulator:LEW rats,responder:BN rats)was suppressed in only Group 4

(36%).

In suppressor cell assay,1ymphocyte of Group 4 showed remarkable suppression(40%). DST alone (Group 2)produced iymphocytotoxic antibody after transplantation, but Group l and DSG treated recip董ents(Group 3,4,5)didn’t show any lymph㏄ytotoxicity.

In th三s experiment, DST sensitized recipients(BN rats)and DSG suppressed expanding cytotoxic Tlymphocytes after kidney transplantation. Both the production of suppressor cells and inhibition of DST induced cytotoxic包ntibody production were responsible for the remarkable prolongation of kidney allograft surv量val in DST/DSG treated recipients.

はじめに Deoxyspergualin(DSG)はZ勉6’〃%s伽6γo砂07一 πsの培養濾液より抽出された抗生物質sper一 gualinの誘導体1)であるが,1985年Umezawaら2) により免疫抑制作用を有することが報告され,に わかに免疫抑飼剤としての応用が考えられるよう

(2)

になった.現在までにin vivo, in vitroの多数の 研究により免疫抑制剤としての有用性が示されて きているが,作用メカニズムについては必ずしも 全てが明らかとなっているわけではない.本薬剤 は,移植時から投与するより拒絶反応発症後に投 与したほうが拒絶反応抑制効果(免疫抑制効果) が大きいとする報告3)があり,その作用メカニズ ムについて強い関心を集めている,一方,ドナー

血輸血(donor speci丘。 blood transfusion;DST)

はSalvatierraらの報告4)以来移植腎の生着延長 効果を有することが明らかにされているが,DST 後の抗体産生(前感作)例もあることが問題となっ ている.本研究ではDSGが, DSTとの併用によ り移植片融着延長効果を有するか否かを検:討し, さらに生着延長効果を有した組み合わせについて そのメカニズムを解析すると共にDSGの免疫抑 制機序について考察した. 実験方法 1.実験動物 ドナーとしてLewisラット(LEW, RT11, チャールズリバージャパン)を,レシピエントと してBrown Norwayラット(BN, RTln,成和 実験動物研究所,福岡)を使用した.第三者ラッ トとしてACI(RT−1a,星野試験動物飼育場,埼 玉),PVGC(RT・1c,成和実験動物研究所,福岡), WKA(RT・1k,静岡実験動物,静岡)ラットを使 用した. 2.腎移植の方法(図1) 鎌田らの報告した方法5)を一部変更して同所性 に腎移植を行った.まず,エーテル麻酔下にドナー ラットに腹部正中切開を行い左腎および左記動静 脈,尿管を周囲組織から剰離した.腎動脈根部よ り約1cm末梢の大動脈を絹糸で結紮した後,結紮 部のすぐ中枢側を24G翼状針で穿刺した.氷冷し た生理食塩液約5mlをこれより注入し腎を潅流し た.摘出に際し,腎静脈は下大静脈との合流部で, 腎動脈は,大動脈との合流部から上下に約5mm ずつ大動脈をつけて摘出した.摘出した後,腎静 脈に5FG(ポーテックス社製静脈カニュニラ)のカ ブをかぶぜ6−0絹糸で固定した. レシピエントも腹部正中切開にて開腹した後,

美 姦 礫 脈 大動脈 \ 腎動脈

腎静脈 陰

1糠

r r【〔(♪, 1 て受・ ㌧》カブ 膀胱 尿 管 ステント 図1 ラット同所性腎移植の方法 左前,腎動静脈,尿管を剥離し,腎摘出を行った. なお,腎動脈は大動脈根部で結紮切断,腎静脈は 下大静脈根部に脳動脈瘤クリップをかけ,約5mm 末梢で切断した.切断端には8−0ナイロン糸を支 持糸としておいた. 摘出したドナー腎をレシピエントの左腎があっ た場所に置き,ドナー大動脈とレシピエント大動 脈を8つナイロン糸を用いて端側吻合した.さら にカフをかぶせた左腎静脈をレシピエント左腎静 脈とカブ法を用いて端々吻合した.尿管は長さ約 5mmのSP10チューブ(夏目製作所)をステント として入れ10−0ブローリン糸にて端々吻合した. 血流再開後,右記を摘出し,閉無した.全手術 時間は2時間,阻血時間は,平均30分であった.

3.DSTの方法

DSTはドナーラットのヘパリン化した全血1.O mlを移植の2日前にレシピエントラットのペニ ス静脈より静注することにより行った.なお,第 三者の輸血ドナーとしてACIラットを用いた. 4.DSGの性状について DSGは分子量496,91の水溶性白色粉末である. 構造式は図2に示したように,構造中にスペルミ ジン基とグアニジン基を有している.

5.DSGの投与方法

DSG(日本化薬より提供)は5mg/mlの濃度に 生理食塩液で溶解したものを一20℃に凍結保存し 使用時解凍した後,直ちに使用した.移植当日よ

(3)

(±) (+) H2N・C・NH・(CH2)6・CO・NH巳CH・CO−NH“(CH2)4・NH・(CH2)3・NH2・3HC2 11 1 NH OH Molecular formula二ClフH37N703・3HC2 粥olecular weight=496.91 図2 deoxyspergualinの構造式

り1日1回,3日間,1回6mg/kgを皮下投与し

た. 6.移植腎拒絶の判定 ラットの死亡をもって移植腎拒絶日としたが, 解剖の結果,水腎,肺炎等の異常所見を呈したも のは判定より除外した.また組織学的に検索し拒 絶反応の有無を判定した.

7.in vitro assayのためのリンパ球採取

以下のin vitro実験のため対照ラットおよび移 植ラットから移植後7日目に頚部リンパ節を無菌 的に摘出(通常4∼5コ)した,摘出したリンパ 節は冷却したRPMI−1640培地の中に入れ,ステン

レスメッシュの上で細切し,約10mlのRPMI−

1640培地に浮遊させた.トリス塩化アンモニウム 2∼3m1を加え溶血しさらにRPMI−1640培地にて 3回洗いリンパ球浮遊液とした.

8.混合リンパ球培養(mixed lymphocyte cu1・

ture:MLC) 岩渕らの方法6)に準じてMLCを行った.刺激細 胞は最終濃:度15μg/rnlのマイトマイシンC (mito1nycin C;MC,協和醗酵)で37℃,30分処 理した後RPMI・1640培地で3回洗浄した.リンパ 球浮遊液の一部を取り,細胞数を調整した後,刺 激細胞は2×106個(50μ1),応答細胞は1×106個 (50μ1)とし96穴平底プレート(住友ベークライト) の各ウェルに分注した.最:終培養液は10%FCS (United Biotechnology),5×10−5M 2・ mercaptoethanol(関東化学),硫酸カナマイシン (60μ1/1)を含んだRPMI−1640培地を用いた.培養 はCO2インキュベーター内で5日間行い・・一ベ ストの3時間前に0.5μCiの3H−thymidine(ICN) をパルスした.ハーベストは濾紙に回収させ,高 熱乾燥後,液体シンチレーションカウンターで放 射能活性を測定した.培養は全てtriplicateで

Posltlve control cpm−Nega重1ve control cpm

×100 10.抑制性細胞の性格について 1)Nylon wool columnによる分離

Nylon wool columnを通しT, B細胞に分け て,抑制活性を前述の方法により測定した.MLC の条件,添加細胞数は前述の通りとした. 2)放射線感受性について アッセイ系は実験方法9.に準じ,添加細胞に あらかじめ200,400,800,1,500radの放射線照射 をしてその抑制活性をみた.添加細胞は抑制活性 を持つことが確認されたものを用いた. 3)抑制活性の特異性について アッセイ系は,実験方法9.に準じたが,刺激 細胞を第三者の系(PVGC, ACI, WKA)にし, このMLCの系に抑制活性を持つことが確認され たリンパ球を添加した. 11.血清中におけるMLC抑制因子の検討 前述の抑制活性測定と同一条件としたMLCの 系に添加細胞の代わりに移植後の血清を加えた.

すなわち,刺激細胞としてMC処置LEWリンパ

球,応答細胞として未処置BNリンパ球を用いて MLCを行った.培養の開始時に広島レシピエン トより摂取し一70おに保存しておいた血清を10μ1 行った. Stimulation index(SDは以下の式によって算 出した. ・…1・…n・…x・SI)一 結果はSIの比として表し,以下の式で計算した. SI(実験群) ×100(%) SI(対照群) 9.抑制性細胞の検討

MC処置正常LEWラットリンパ節細胞を刺激

細胞,未処置正常BNラットリンパ節細胞を応答

細胞とするMLCの系に被検細胞として各実験

群のBNラットのリンパ球を添加して反応の抑

制を観察した.添加時期は培養開始時とし,添加 細胞数は応答細胞数の20%とした.抑制活性は以 下の式により算出した. 抑制活性(%)=

(4)

(10%)ずつ添加し抑制率を算定した.抑制率の算 定は前述の抑制活性と同じ式を用いた. 12.抗ドナーリンパ球抗体の測定 テラサキHLAプレート(住友ベークライト)の

各ウェルに未処置および腎移植後のBNラット

血清の原液,2倍希釈,4倍希釈(希釈はRPMI− 1640培地にて行った)各1μ1ずつ分注した.さらに ドナーLEWリンパ球をRPMI−1640培地にて2× 106/m1に調整した後,各ウェルに1μ1ずつ加え, 室温にて40分間反応させた.反応全時間,プレー トは流動パラフィンで覆い蒸発を防止した.低毒 性モルモット補体(Cedarlane Laboratories)を 蒸留水LOmlで溶解し,各ウェルに5μ1ずつ添加 し,室温で90分間反応させた.これをエオジンY 水溶液で染色し,中性ホルモンで固定した後,位 相差顕微鏡で観察し判定した.5%以上の死細胞 がみられた場合を陽性とした. 13.実験群 移植ラットは処置の違いにより以下の5群に分

けた.第1群は無処置対照群,第2群はDST

(LEWラット)のみを施行したBNラット群,第

3群は移植後DSGの投与のみを行ったBNラッ

ト群,第4群はDST(LEWラット)施行後LEW

腎を移植し,DSGの投与を行ったBNラット群,

第5群はDSTの代わりに第三者ドナーACIラッ

トからの輸血を行いLEWラット腎の移植後

DSG投与を施行したBNラット群である. 結 果 1.移植腎生息期間の検討(表1) 無処置対照群の平均生着期間は8.8±1.5日であ Exp(S.1.) Con量(S↓) 2 Σ (%) 100

n.S.

…一一

M

f

*p〈0.001 n.S.;not significant group l M±SP 97±23 (n) ⑦ 2 3 4 5 86±32 116±49 36±7 104±22 (5) (1① (」① (7} 図3 MLC反応の比較 第4群での著しいMLC反応の抑制が認められる. り,DSTのみ行った第2群のそれは9.5±2.1日と 生心期問の延長は認められなかった.DSGの投与 のみを行った第3群の生着期間は14.8±6.3日で あり,有意な生着期間の延長を認めた.DST後腎

移植を行いDSGを投与した第4群では著しい試

着期間の延長を認め,平均一着期間は79.5±35.3 日にも達した.また1例では200日以上生着し免疫 寛容状態となった.第5群では平均生着期間は 12.8±1.5日であり生出期間の延長を認めたもの のDSG単独投与と差を認めなかった.

2.MLCの検討(図3)

各群のSIの比は第1群97±23%,第2群86±

32%,第3群116土49%,第4群36±17%,第5群

104±22%となり,DST後移植し術後DSGを投

与した第4群のみで著しいMLC反応の抑制が認

められた. 表1 ラット移植腎生着期間の比較

Group Survival time(day) MST±SD(day) (n)

1(untreated) Q(DST alone) R(DSG alone) S(DST+DSG) T(3「dBTF+DSG) 8,9,10,10,10 W,9,10,12,12 P1,12,13,14,14,30 T3, 75, 75, 78, 153, 200〈 P2,13,14,14,13 8.8±1.5 X.5±2.1 P4.8±6.3 V9.5±35.3 P2.8±1.5 DST :day−2, fresh whole blood L Oml(LEW rats→BN rats)

3「dBTF:3「d party blood transfusion(ACI rat)

DSG :6mg/kg i.m.(day O,1,2)

MST :mean survival time

Renal transplantation(LEW rats→BN rats)

傘p<0.01

傘傘吹モO,01 *宰窯吹モO.01

(5)

「(%) 100 80

§60

40 20 0 一20 n.s.

『4

...一...一一_.歪=.. *P<0,001 n.S:not significant 4’:丁細胞のみ(4群)

group 12344,5

M±SD−15.8±2112.8±21−16,5±3740±21 35±20 5.7±:3.0 (n) (6) (7) (5> (13) (4> (5) 図4 抑制活性の検討 第4群で著しい抑制活性を認め,このうちTリンパ球 に強い抑制活性を認めた. § 羨 葉 (%) 80 60 40 20 0 一20 一40

1*f

一「寸

萱..互礁*P<0.01 n.S. not significant Dose of O 200 400 800 1500(rad) rad陶tbn (control) M±SD 40±21 37.6±8.9−21±12.8 一13±30 10±8.3 (n) (15> (3) (3) (3) (3) 図5 抑制性細胞の放射線感受性 400rad以上の放射線照射により抑制活性の喪失を認 めた. 3.抑制活性の検討(図4) 表1,図3でみられた反応性の低下は,抑制性 細胞の出現が原因と考えられた.それ故,ここで は抑制性細胞について検討した.各面の抑制率は

第1面一15%,第2群12%,第3群一15%,第4

群40%,第5群5%であり第4群においてのみ抑

制活性が証明された.またnylon wool columnに

て,T, B細胞に分離したところ, T細胞にのみ抑 糊活性が存在した.この結果より,第4群の反応

性が低下したBNラットでは抑制性T細胞が出

現していることが判明した. 4.放射線感受性について(図5) 放射線非照射群では40±21%,200rad照射では 37.6±8.9%の抑制活性が示された.しかし,400 radでは一21±12.8%,800radでは一18±30%, 1,500radでは10±8.8%と400rad以上の放射線 照射により抑制活性の喪失が認められた,このこ とは抑制性細胞が放射線感受性を持つことに合致 する. 5.抑制活性の特異性について(図6)

抑制性細胞はLEW−BNのMLCの組合せに対

して40±21%の抑制活性を示した.刺激細胞が第 三者の系であるPVGC・BN, ACI−BN, WKA・BN では各々一3±20%,一5±18%,一69±23%と抑 制活性は全く認められなかった.この結果より, 抑制性T細胞は抗原特異的であるとみられる. (%)

60

40

§ 20 遜 照 0 鳳一20 −40 −60

f

ギ1隠

*pくO.01 n.S, oot signi悔cant MLC L→BN PVGC→BN ACI→BN WKA→BN M±SD 40±21 −3±20 −5±1B −69±23 (n) (13) (4} (4〕 〔4> 図6 抑制活性の特異性 刺激細胞が移植腎のドナーであるLEWラットの場合 にのみ強い抑制活性を認めたが,刺激細胞が第三者の 系(PVGC, ACI, WKA)になると抑制活性は認めら れない.

6.血清のMLC抑制活性

第4群の血清のMLC抑制活性は一30%(n=6) と,全く認められなかった. 7.抗ドナーリンパ球抗体の検討(表2) 輸血前ドナーLEWリンパ球に対しレシピエン

トであるBN血清は補体結合性細胞傷害活性を

示さなかった.DST後移植し, DSGを投与されな かった第2群でのみ抗リンパ球抗体の存在が示さ れたが,無処置対照の第1群,DSGの投与が行わ れた第3,4,5群では抗体の産生は抑制されて

いた.特に第4群はDSTを行っているにもかか

(6)

表2 BNラットにおける抗しEWリンパ球抗体価の変動 グループ 輸血前 移植直前 移植後7日目 1 (一) (一) (一) 2 (一) (一) (+)纏 3 (一) (一) (一) 4 (一) (一) (一) 5 (一) (一) 一 6壌 (一) (十)纏 (一) *グループ6:DST 7日後の血清(腎移植を施行せず) 喰*i十):5%以上の死細胞(リンパ球)を認めたとき わらずDSG投与により抗体の産生は完全に抑制 されていた. 考 察 Deoxyspergualin(DSG)をま,分子量496.91 のグアニジソ様構造をもった水溶性物質で,当初, 抗腫瘍剤として開発されたが,1985年Umezawa ら2),Deckneiteら7)により免疫抑制作用を有する ことが報告され,免疫抑制剤としての研究が始め られた.まず,小動物を用いた様々の臓器移植モ デルにおいてその免疫抑制効果が確かめられた. Walterら8)はDA・LEWラットの移植モデルを 用いた研究で2.5mg/kg/day 10日間の投与によ り著しい生着期間の延長が認められることを報告 した.堀ら9>もF−344−WKAラットの異所性心移 植モデルにおいて,3mg/kg/day以上の投与量 (11日間投与)で高率に寛容状態が導かれることを 報告している. 1987年Walterら10)はラット腎移植モデルを用 いて2.5mg/kg/day 10日間の投与により免疫寛 容が導入でき,しかもその寛容状態はドナー特異 的であったと報告している. 1988年suzukiら3)はwKA−AcIのラット異所 性心移植モデルを用いて5mg/kg/day 15日間の 投与により生時期間の延長が認められることを報 告し,さらにDSGを拒絶反応が起こった後(移植 後4日目)から投与開始した方が,高率に免疫学 的寛容状態が導入できるという極めて興味深い結 果を報告している.また彼らはリンパ球移入の実 験から抑制性細胞の誘導を推察している.この他 にも小動物を用いてDSGの融着延長効果を示し た論文は少なくない11)∼13).これらin vivOでの強 い免疫抑制作用が報告される一方でin vitroでの 免疫抑制機序の解明もすすめられた. 当初Dickneiteら14)一16)はDSGカミmacrophage の機能低下を起こすことを報告し,さらにmacro− phageでのClass II抗原の発現低下がDSGの免 疫抑制のメカニズムであると報告した.Kerrら17)

も同様にmonocyteに対するDSGの免疫抑制効

果を認めているが,一方Nemotoら18), Makino ら19)はDSGを投与したラットやマウスの脾細胞 でのIL・1産生能が低下しないことを示し, macro・

phage機能に対するDSGの効果に疑問を投げか

けている.さらにNemotoら18)は, Con A, PHA でDSG投与後のラット脾細胞を刺激し抑制のか からないことを示し,IL・2産生も抑制されないこ とを示している.Makinoら19)も同様にDSG投与 ラットの脾細胞のCon Aに対する反応性は低下 しておらず,IL・2の産生も低下していないと報告 した.

免疫抑制剤の効果的な投与時期については

Fujiiら20)は主にCyclosporine A(CYA)がMLC

の初期相に抑制効果を有するのに対しDSGは

MLCの後期相に効果を有することを報告してい る.彼らは1レ2依存性リンパ球増殖反応に対し, CYAは抑制活性を示さなかったが, DSGには強 い抑制活性を認めたと報告した.Nishimuraら21)

は,DSGの細胞毒性Tリンパ球(cytotoxic T

lymphocyte;CTL)誘導抑制効果がIL2添加によ り回復せずIFN−rにより回復することを示した. Fujiiら20)は,マウスにおいてDSGはB細胞に 直接働いて活性低下を引き起こすことを報告し

た.このB細胞に対する抑制効果は,B細胞の

maturationの抑制によるらしい. DSGは形質細 胞や抗原による刺激のないB細胞に対しては抑

制効果をもたない.DSGのB細胞抑欄作用はin

vivoの実験でも示されている. Nakalimaら22)は ハムスターーラットの異種ラ嘉島移植モデルにお いて,DSGの著しい活着延長効果を認め,抗ド ナー抗体産生が3mg/kg/day投与で完全に抑制 されたと報告した. 同様に,B細胞に対する作用を証明するものと してCorryら11)はうットーマウスの異種心移植

(7)

9縦。,、。n㊥

⑧ψ(恭認→審

㊥蝕㊦

一→一→(⑭

Mφ;macrophage, CTI.:cytotoxic T Iymphocyte, Th;helper T Iymphocyte,

Ts l suppressor T lymphocyte, B l B iymphocyte, pCTL l precursor CT㍉ pTs:precursor Ts, pB:precursor B, ll=blocked by DSG

図7 Deoxyspergualinの作用機序 CTLおよびBリシパ球の増殖を抑制する. においてDSG 2.5mg/kgの9日間の投与が, CYA 20mg/kg 14日間投与より良好な成績であっ たと報告した. 現在,DSGの他に多くの新しい免疫抑制剤が使 用されているが,Ochiaiら12)は, FK・506, CYAお よびDSGのマウλ一ラット異種心移植に及ぼす 効果について検討を加え,FK−506 3.2mg/kg, CYA 50mg/kg投与では上着延長効果を認めてい ないが,DSG 10mg/kg投与で著しい生面延長効 果を認めたと報告した.Valdiviaら23)は,・・ムス ターーラットの異種心移植において,DSG 2.5 mg/kgと,脾摘との併用で著しい生涯延長効果を 認め,抗ハムスター抗体価の上昇抑制を報告して いる.このような異種移植での成績はB細胞への DSGの抑制作用を示しているものと考えられた.

以上の実験結果などから現在までのところ

DSGの作用メカニズムとして,①IL−2依存性リ ンパ球増殖反応抑制,②B細胞の増殖を抑制し, 結果として液性免疫反応の抑制効果がある,③

CTL誘導抑制作用が外因性のIL2により消失し

ない,などが考えられている(図7)24).本実験で

は以上の作用メカニズムを考慮して,DSTと

DSGの併用によるドナー特異的寛容状態の導入 を目的として,実験モデルを作製した.すなわち,

DST(LEWラットーBNラット)によりBNラッ

トを感作したのち,腎移植を行い,腎移植後より DSGを投与した.腎移植後2次免疫応答として急

速に増殖するドナー特異的CTLをDSGで抑制

し,ドナー特異的免疫寛容状態の導入を試みたわ けである.従来より,LEWラットからBNラット への腎移植は極めて強い拒絶反応が起こることが 知られており,輸血(LEW−BN)により抗ドナー リンパ球抗体が出現することもすでに報告されて

いた25).腎移植の7日前にLEWラットからBN

ラットへDSTを行った場合,抗リンパ球抗体に より移植腎がすみやかに拒絶されることが確認さ れていたため(データ未発表),DSTは移植の2日 前に行うこととした. Suzukiらの実験3》でDSGは移植時から投与す るより,on goingの拒絶反応に投与する方が効果 があることが報告されているが,本実験でも移植 時のDSG投与のみでは三三延長効果は少なく抑

制性細胞の誘導も認められていない.DSTと

DSGの併用により初めて著しい生着期間の延長 が認められた.この群では強い抑制性細胞の誘導 が示されており,DST後レシピエントが感作さ れ,腎移植による2次応答として急速に増殖する

ドナー特異的CTL1がDSGにより抑制された結

果ドナー特異的抑制性細胞優位となり生着延長効 果を示したものと考えられた.第三者の系からの

(8)

輸血では生着延長効果が認められないこと,また 抑制活性の特異性を検討した実験で,LEW−BN

のMLCのみを抑制しPVGC−BNやWKA−BN

など刺激細胞をかえたMLCは全く抑制しないこ. とから,ドナー特異的免疫抑制細胞が誘導されて いることが確認された.ちなみに本実験では抑制 活性を有する血清因子は存在しないことが証明さ れており本実験ではDSTで報告されているよう な液性抑制因子の関与は否定された. また,LEW・BNの輸血では抗ドナーリンパ球 抗体の産生が引き起こされることが報告されてお り25),本実験でもDST後腎移植を行った場合,抗 ドナーリンパ球抗体は移植片破壊につながるもの であり,実際にDSTのみでは生着延長効果は認 められなかった.しかしながら,この抗ドナーリ ンパ球抗体の出現はDSG投与群では完全に抑制 されており,抗体産生の抑制がB細胞に対する直 接作用なのか,T細胞を介するものなのかは不明 であるが,異種移植で報告されているDSGの液 性免疫反応抑制と同様の結果となっている.この ことはDSGが前感作抗体陽性のレシピエントに 対する腎移植など,液性免疫が主体となる拒絶反 応に対し有用である可能性を示唆しているものと 考えられた.本実験ではこの抗体産生抑制効果が .ドナー特異的抑制活性細胞の誘導とあいまって移 植片の生着延長効果をもたらしたものと考えられ た. ま と め (1)新しい免疫抑制剤DSGの免疫抑制機i序に ついてラット腎移植モデルを用いて検討した.

(2)DSTとDSGの併用により移植腎の著し

い生着延長効果が得られた. (3)生出延長効果のメカニズムとしてドナー特 異的抑制性細胞の誘導と抗ドナーリンパ球抗体の 産生抑制が考えられた. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲をいただいた 恩師,太田和夫教授,東間 紘教授に深謝致します. また多大なる御指導,御協力をいただいた高橋公太助 教授,安尾美年子助手,鈴木浩美嬢ほか教室員諸兄に 感謝致します. なお,本論文の要旨は第26回日本移植学会において 発表した. 文 献

1)Iwasawa H, Kondo S, Ikeda I)et al:Synthe−

sis of (一)一15−deoxyspergualin and (一)・

spergualin−15−phosphate. J Antibiot 35: 1665−1669, 1982

2)Umezawa H,1shizuka M, Takeuchi T:Sup−

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参照

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