254 (111) 氏名(生年月日) 本 籍
学位の種類
学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件学位論文題目
論文審査委員
マス ダ ヒロシ増 田 宏(昭和3
博士(医学) 一
丁第1457号平成6年3月18日
学位規則第4条第2項該当(博士の学位論文提出者)
Inwardly rectifying potassium current in rat fetal and neonatal ventricular cardiomyocytes(胎仔および新生仔の心室筋細胞における内向き整流性K電流の発達によ
る変化) (主査)教授 門間 和夫 (副査)教授 宮崎 俊一,石井 哲夫論文 内 容 の 要 旨
目的 内向き整流性K電流は心筋細胞の静止膜電位の形 成や脱分極過程,特にプラトー相において重要な役割 を果たしている.これまで,胎生後期から新生仔早期 に心筋細胞の静止膜電位が経時的に深くなることか ら,この時期に内向き整流性K電流が発達することが 示唆されていた.しかしながら,実際に単一細胞およ び単一イオンチャンネルレベルで電流を記録し,内向 き整流性K電流の発達を明らかにした報告はない. 本研究では,ラット単一心筋細胞にpatch電極を用 いて,胎生中期から生後早期にかけてどのように内向 き整流性K電流が変化するかを明らかにすることを 目的とする. 方法 コラゲナーゼ処理により,ラット単一心筋細胞を分 離し,patch電極を用いてwhole-cell voltage clalnp およびcell-attached patch clamp法を行った. 結果 (1)単一細胞あたりの内向き整流性K電流は胎生 12日(ラットの胎生期は22日)には,非常に小さくほ とんど観察されなかったが,胎生18日以降に経時的に 増加し,生後5日で最大となり,その後は増加を認め なかった. (2)単一チャンネルの解析では,‘胎生18日と生後5 日に内向き整流性K電流に固有の伝導度(31ps)を有 するKチャンネルを認めたが,胎生12日頃はそのチャ ンネルは認められず,約3分の1の伝導度(11ps)を 有する従来報告されていない新しいタイプのKチャ ンネルのみを認めた.このKチャンネルは,胎生18日 以降に認められないために,胎生早期にのみ観察され る未熟な内向き整流性K電流と考えられた.(3)生後5日に認められた内向き整流性K電流
チャンネルは,胎生18EIに認められたものよりも,2.6 倍のチャンネルの開口確率を有し,これは全細胞あた りの電流の大きさの比率(2。5倍)と良く一致した. 結論 (1)心筋細胞の内向き整流性K電流は胎生18日以 降に観察され,生後5日までに経時的に飛躍的な増大 を認めた. (2)胎生12日には,従来報告されていない新しいタ イプの容量の極めて小さいチャンネルを認めるのみ で,これは未発達の内向き整流性K電流チャンネルと 考えられた. (3)胎生18日以降の内向き整流性K電流の増加は, 個々のチャンネルにおけるチャンネルの開口確率の増 加に依存していることが明らかとなった. 以上のことより,内向き整流性K電流は胎生中期以 降から新生仔早期にかけて増大し,その増加はチャン ネルの数の増加よりもむしろ個々のチャンネルの開口 確率が増加すること1ごよることが解明された.また, 一860一255 今回の研究により,内向き整流性K電流の発達過程に おける電流量の増大が心筋細胞の静止膜電位お.よびプ ラトー相の形成に重要な役割を果たしていることが確 認された.