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肺血栓塞栓症の病理 : 肺動脈主幹部の閉塞をきたす血栓塞栓症を中心として

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( 東 女 医 大 誌 第55巻 第2

)

頁 187 -197 昭和60年2月 著 原

肺血栓塞栓症の病理

一肺動脈主幹部の閉塞をきたす血栓塞栓症を中心として一

第一病理学教室(主任・今井三喜教授〕 キ カ ネ ダ ヨ シ オ エノモト ナ オ コ 三 喜 ・ 金 田 良 夫 ・ 榎 本 直 子 トヨダ チサト タケイシ マ コ ト 豊 田 智 里 ・ 教 授 武 石

授 学 議 断 行 山 町 観 医 ィ 4 1

一 灯 授 チ 千 京 教 7 │

竹 石

昭 和59年9月25日〕

Pathology of the Pulmonary Thromboembolism with Special Reference to Obstructive Thromboembolism of Main Pulmonary Artery

(受付

Miki IMAI, Yoshio KANEDA, Naoko ENOMOTO, Chizu ISHIKAWA, Chisato TOYODA and Makoto T AKEISHI

Department of Pathology (Director: Prof. Miki IMAI), Tokyo Women's Medical College

Twelve cases of obstructive thromboembolism of main pulmonary artery were reported. Among the 8 cases of acute massive thromboembolism 4 were of sudden death and 4 were of prolonged death in several days. There was massive venous thrombus in inferior vena cava or common iliac vein except 2 cases. 2 cases of repeated thromboembolism of main pulmonary artery had subc1inical old throm -bophlebitis of left large saphenous vein and left popliteal vein

respectively. Main c1inical symptom was pulmonary hypertension. Old thromboembolus in main pulmonary artery had many recanalization channels and some of them drained into bronchial arteries through pulmonaty arterial wall. 2 cases of tumor embolism of main pulmonary artery were cancer of kidney and hepatocellular carcinoma. There were massive thrombi with carcinoma cells in pulmonary artery and inferior vena cava.

Thrombi in systemic venules are by no means uncommon and might possibly embolize peripheral pulmonary arteries without c1inical symptoms. The authers had histologically examined the lungs of 1970 autopsy cases for last 10years and found peripheral pulmonary thromboemboli in18out of the 50 cases of venous thrombosis in lower half of the body (36%)and6 out of the 34 in upper half of the body (18%).

The authers i-eferred to histological differentiation of thromboemboli from thrombi in situ and also suggested pathologically correct use of the term “pulmonary thromboembolism" which was sometimes confusing. 肺血栓塞栓症がある.一般に血栓症は本邦で、は欧 米より頻度がはるかに低いといわれていたが,本 邦においても漸増の傾向があり,血栓症と関係の 深い肺血栓塞栓症も増加するものと考えられる. われわれは教室の剖検例の中の広汎性肺血栓塞 栓症の8例,反覆性肺血栓塞栓症の 2例,ならび に腫蕩塞栓による肺動脈幹部閉塞の

2

例について 病理学的に検討し,本症の成り立ちおよび循環系 -187 緒 言 右心をふくむ大循環静脈系に生じた血栓が遊離 して肺動脈を閉塞する肺の血栓塞栓症のなかで, 肺動脈主幹部を閉塞するものは致死的塞栓症とし て 注 目 さ れ る 山 こ の な か に は 大 血 栓 が 急 に 肺 動 脈主幹部を閉塞する広汎肺血栓塞栓症と潜在性に 反復して塞栓をおこし,ながい経過ののちに広汎 な肺動脈閉塞を生じ,心肺不全で、死に致る反復性

(2)

表l 広 汎 肺 血 栓 塞 栓 症 年齢 臨 床 性 原 疾 患 肺塞栓症状 静脈血栓症状 1 17~歳 ♀ 胃 癌 輸血後急変 (-) 2

I

4~歳 高陳血圧症 難数日前突 より呼吸困然チアノー (-) 2 旧肺結核症 ゼ呼吸困難後死亡 3 16~歳2 勝頭部癌 前日ショック状態 両下肢の痛み 4 70歳 脳梗塞 10日前より呼吸困 (ー〉 ♀ 下肢麻痔 難.低酸素症 72歳 脳動脈癒破裂 5 手術後2.5月 (一〕 両下肢の紫斑 下肢麻簿 6

I

7q歳 乳癌手術後 4目前より呼吸困 ♀ 1ヵ月 難 (ー) 低酸素症 7 17~歳 勝嚢胞消化管の潰易性炎 (ー〕 (-) ♀ 68歳 胃・ヵ胆月嚢前摘〉出後 8 2 (9 の腎不 急に呼吸停止 (-) 全 への影響にについて考察した. 研究材料および研究方法 用いられた剖検例は1

9

6

3

年から

1

9

8

3

年までの

2

0

年間の東京女子医大第一病理学教室の剖検例であ る.検索の中心は肺門の大塞栓と,そのもとになっ た大循環系の血栓の肉眼的,組織学的検索である が, 一般の肺組織についてはわれわれが日常行 なっている左右上葉各2個,左右下葉各1個,右 中葉の1個の計7個が検索された.臨床所見につ いては,臨床から送られ当教室に保存されている 資料を用いた. 研究成績 症例の臨床的および病理学的所見の概要を表

1

2

3

に示した. 1.広汎肺血栓塞栓症の

8

例 (表1)(写真

1

-4) a) 肺塞栓 6例は両側肺門, 2例は1側肺門の塞栓である. suddleembolismはない.原疾患は悪性腫蕩が3 例,その他はまちまちであるが, No. 2を除き老齢 で衰弱した患者で、ある.このうちNo.1, No. 5, 病 理 主幹部肺塞栓 静脈血栓 末梢肺.動脈塞栓 器両側質主化幹部(+) 〔(検ー〉索し た が な 器少数質化 (十十〕 かった) 両側質主幹部(-t+ 器 化 ) 不〔胸明部のみの解剖) なし 器両側質主化幹部(-) 両世mu股繕!腸静脈骨(静〕脈 器質化 や栓質やも化あ多り数〕(腫 蕩 塞 器 (+十) 両側質主幹部 器 化 (+) 下器右大質線化静脈揚骨〔±静〉脈 少器数質化 (+) 両器側質主化幹部(ー) 左総腿腸骨静脈静 脈 器質大化 (-) 少器数質化 (+) 両側質主幹部 器 化 (-t+) 器下大両質側化静脈線腸〔+骨〉静脈 器少数質化 (+) 右器肺質化門 (-) 器下大質両側化静脈線腸(+骨)静脈 少器数質化 (斗+) 左器肺質化門 (-t+ ) 下大左静大脈腿 器質化 静(+件脈) なし No. 7, No.8はほとんど前駆症状のない急死,

No.3は約1日, No. 2, No. 4, No. 6は数日の呼

吸困難ののちに死亡している.肺門の血栓を組織 学的にみると血栓性塞栓の器質化は急死のNo.

5

, No.

7

では全く認められないが,同じく急死の No. 1, No.8では多少の器質化がある.数日経過 のNo.2, No.4, No.6のうちNo.2, No.6では 器質化がややすすんでいるが, No.4では軽度で 写真l 症 例No.4 両側u肺 動 脈 主 幹 部 の 血 栓 性 塞 栓 による閉塞.

(3)

-188-写真2 症 例NO.4 下大静脈ー右総腸骨静脈の血 栓.下大静脈の壁に血栓の一部が残っているが,大 部分は遊離して肺動脈の塞栓となったものと考えら れる. 写真3 症例No.6 両側肺動脈主幹部の血栓性塞栓 による閉塞. ある. b)静脈血栓 肺塞栓の栓子のもとになった静脈血栓はNo. 1, No. 2を除いて下大静脈あるいは総腸骨静脈の 大血栓で,静脈壁に残っている血栓は組織学的に 写真4 症例NO.6 下大静脈 両側総腸骨静脈の血 栓.NO.4と同様に下大静脈の壁に血栓の一部が残 っているが,大部分は遊離して肺動脈の塞栓となっ たものと考えられる. いずれも軽度の器質化がみられる.ただし

N

O.8

の血栓は大腿部では陳旧化血栓であり,

N

O

.6

で は下大静脈下部で血管壁に血栓の一部が付着して いて,大血栓が遊離したあとと考えられた.No.1 ではそのような痕跡も認められなかったが,下半 身由来の血栓による肺塞栓と考えるのが妥当と思 われる.欧米の報告では右心の血栓に由来する広 汎肺塞栓が記載されているが,われわれの症例に はなかった.一般的にいって心疾患以外で右心に 大量血栓がみとめられる症例は本邦ではほとんど ない c)肺の小塞栓 本症でみられる体循環系の主幹部静脈の血栓は 瞬時に発生するものではなく,それが大血栓にま で増大するにはある時間が必要であろう.そこで 広汎血栓塞栓症が肺に発生する前に,小血栓が末 梢肺動脈の塞栓をおこすことが考えられる.この ことをしらべるために前記のように左肺3個,右 肺

4

個の肺組織を検索した.

8

例のうちNo.2,

NO.8

以外で肺動脈枝に血栓がみられ,その器質 化は肺門部血栓よりすすんでいるものが多かっ た.この場合, この血栓が血栓性塞栓であるか, -1

(4)

89-表2 反復性肺動脈血栓塞栓症 臨 床 年齢 性 間状 静脈血栓症状 症状左発下が肢現の4ヵ月前転倒後あ3ヵ置後月 914~~ 約10ヵ月 聞 の腫後大脹・いたみ り放院 した その は症状静なし栓,入 の 検 査 で 左 伏 在 脈 血 症 10 55古歳 l3ヵ月 自覚症左なし.深死部亡1ヵ栓月前の入院 時, 下肢 静 脈 血 を 発 見 局所発生の血栓であるかの鑑別はむずかしい.大 静脈系に血栓のあることは,局所的要因のほかに 血栓を形成しやすい全身的な状態が存在すると考 えられるから,上記の血栓も局所発生の血栓であ る可能性も否定できないが一つの参考所見として 記しておく. d)肺門部肺動脈血栓症(局所発生の血栓)との 鑑別について 肺動脈主幹部の血栓性塞栓性閉塞のほかに,該 部に局所発生の血栓が生じて閉塞することも考え られる.ことに大循環系静脈に血栓が発見されな い場合は,塞栓症か血栓症かの鑑別には慎重を要 する.その主要な鑑別点は肺門部動脈内の血栓の 器質化の程度であろう.両側の肺動脈幹部に血栓 が生じ,それが短期間のうちに血管腔を閉鎖する までに増大するという可能性は非常に少ないもの と考えられる.ことに血栓症の少ない本邦人にお いてはなおさらである.ここに提示した8例では 血栓の器質化がないか,非常に少ないということ が局所発生の血栓であることを否定する根拠とさ れた.ちなみにわれわれが経験した2例の肺動脈 幹部血栓症はいずれも日本在住の欧米人であっ て,血栓の器質化がすすんでいた.また肺癌など で肺動脈狭窄がある場合には肺動脈血栓を伴うこ とがある. e)心筋の変化 発症から死亡までの時聞が短かいために急性低 酸素血症による心筋の変化は組織学的にみとめら れないか,あるいは経度である.No. 5では右室心 筋のみに小巣状変性があり No.1, No. 4では右 室に軽度のびまん性心筋変性がみとめられ,左室 病 理 肺 塞 栓 静脈血栓症 その他の臓器所見 両側肺主動幹脈部 左脈大伏炎在静陳脈の栓陳旧 静 と!日血 肺性等 の 性-慢心稗4・90う腎rdっ・体勝血重.7腔水症1.6kz 両側肺主動幹脈部 脈左膝炎窓と陳静脈旧血の栓陳旧静 肺肝等性の・慢心牌,5性・10腎う耳/っ・体5血革重60kr. 心筋にはほとんど変化がない.これらの右室心筋 の変化は肺動脈閉塞による右室の急性負荷に関係 があるものと考えられる. 190-写真5 症例No.9 両側肺動脈主幹部の血栓性塞栓 による閉塞.右下葉には陳旧梗塞がある. 写真6 症例No.9 肺門部肺動脈の組織像 (エラス チカ ・ワンギーソン染色,対物

x

4)器質化した 血栓の中に多数の再疎通血管 (R)があり,その一 部は肺動脈壁を貫通する新生血管 (矢印)を介して 気管支動脈 (B)と吻合している.

(5)

写真7 症例UNo. 9 肺門部肺動脈の組織像 (マッソ ン染色変法,対物 x 10)血栓の器質化と肺動脈壁 (p)内の多数の新生小血管.この血管も気管支動脈 と吻合する. 写真8 症例UNo. 9 左大伏在静脈の組織像.静脈壁 の線維化とリンパ球浸潤. 写真9 症例No.9 高度の肺性心.右心室の高度の 拡張性肥大と右心房の拡張. 11.反復性肺動脈血栓塞栓症 (表2)(写真5 -15) a)臨床症状

No

.

9

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o

.

1

0

は下肢の深部静脈の血栓に由来 する肺塞栓症で,長期にわたり反復して肺に塞栓 をおこし,ついに肺門部動脈の閉塞をきたしたも のである.

NO

.

9

は発症

4

カ月前に下肢静脈炎を 疑わせる既往があるが,その後は無症状に経過し ている.

N

o

.

1

0

は下肢の静脈炎や静脈血栓の症状 は全くない.入院後の検査で

N

o

.9

では左大伏在 191 -写真10 症例No.10 両側肺動脈主幹部の血栓性塞 栓による閉塞. 写真11 症例UNo. 10 肺門部肺動脈の組織像〔ヘマト キシリン・エオヂン染色,対物

x

4)陳旧化して 周辺は線維化し,コレステリン結品(H),石灰沈着 (C)のある血栓.肺動脈壁(p)内の多数の新生小 血管は気管支動脈と吻合する.

(6)

写真12症例No.10肺門部肺動脈の組織像(エラス チカ ・ワンギーソン染色,対物

x

10)肺動脈壁内 に発達した肺動脈気管支動脈吻合枝(矢印). 写真13症例No.10 左膝窓静脈.高度の拡張,壁の 線維性肥厚,器質化した陳旧血栓. 静脈に, No. 10では左膝窟静脈に血栓症がみとめ られたが,主症状は進行した肺高血圧症状である. b)肺動脈の血栓性塞栓の所見 両側ともに肺動脈主幹部 (左右肺動脈幹および それからわかれる主な枝〉が血栓により閉塞され ているが,急性例と異り,中心部には新鮮血栓も あるが,血栓の大部分は器質化されたり陳旧化し て石灰沈着,コレステリン沈着がある.そのうえ, 組織学的にみると血栓の中に多数の再疎通による 新生血管がある.更に肺動脈壁内にも多数の小血 192 写真14症例No.10 左膝寓静脈の組織像(ヘマトキ シリン・エオヂン染色,対物 x4)内側の陳旧血 栓,静脈壁のリンパ球浸潤を伴う線維性肥厚. 写真15症例No.10 高度の肺性心.非常に高度の右 心室の拡張性肥大と右心房の拡張. 管が新生されており,これが肺動脈周囲にある気 管支動脈系の血管と諸所で助合している.この新 生血管により肺動脈壁の構造が破獲され,一見動 脈炎のようにみえる所もある.いずれにしても血 栓内の再疎通血管のみならず,この血管が,肺動 脈壁内の新生血管を介して気管支動脈系と連絡 し,この血路により,正常の肺動脈腔が閉鎖した あとも肺循環が保たれていたものと考えられる. 主幹部につづく肺動脈枝については,No.9で肉 眼的に右下葉の動脈枝が閉塞している.これは臨

(7)

表3 肺 動 脈主幹 部 の 腫 蕩 栓 年齢 臨 床 性 肺塞栓症状 静脈血栓症状 542 歳 (2.5ヶ手術〉4目前時欠呼左吸困難葉 11 血手 術 に 下 (一〕 流 損 12 632 歳 肝肝硬癌 (-) 右び季腹助痛部痛およ 床的にも比較的早期に血管造影などにより証明さ れており,その部分の肺は陳旧梗塞の状態にある. No.10では同様の変化が右上葉にみとめられる. 肺動脈の中・小枝の組織所見についてはc)で、述べ る. c)下肢静脈血栓の所見 No.9で、は左大伏在静脈に約2cmのながさの血 栓があり,組織学的に陳旧部と新鮮部がある.ま た静脈壁に軽度の線維性肥厚と軽いリンパ球浸潤 があり,陳旧静脈炎が考えられる.No.10では左 膝嵩静脈に著明な拡張と新旧の壁在血栓があり, 組織学的には静脈壁のリンパ球浸潤がみとめられ る.即ち陳旧静脈炎である.両側とも静脈炎はほ とんど無症状であったが, これが本症例の致命的 な疾患の発端となったものである. d)末梢肺動脈の所見 肉眼的に閉塞している肺動脈については, a)頃 にのべたが,組織所見ではかなり多数の中・小動 脈校の陳旧血栓がある.血栓の再疎通のみならず, 血栓の陳旧化と考えられる偏側性あるいは全周性 の血管内膜肥厚が諸所にみとめられ,新らしい血 栓はない.この血栓についても血栓性塞栓か局所 発生の血栓かの問題がある.組織像だけでは1.c) にのべたと同様に決定的な鑑別法はない.しかし 反復性肺動脈血栓塞栓症の場合は,静脈血栓が全 身的な血栓形成傾向よりは局所的条件で長期にわ たって次々と発生するものであることから考える と,前記のような肺の陳旧血栓は局所発生の血栓 ではなく, 血栓性塞栓と考えられるのが妥当であ ろう. e)肺動脈主幹部の閉塞性病変の成り立ちにつ いて 臨床経過や剖検の所見,ことに組織所見から, -193 病 理 主幹部肺塞栓 静 脈 血 栓 末梢肺動脈塞栓 両側肺門 下栓静脈大静に脈腫蕩.左+血腎 左下葉 両側肺門 下大静脈の腫蕩 (-) 肺動脈の閉塞は徐々におこるものと考えられる. また下肢静脈由来の血栓も肺動脈幹を閉塞するよ うな大きいものとは考えられない.血管閉塞がま ずおこるのは中 ・小肺動脈であろう.そうしてこ の塞栓の部分に局所発生の血栓も加わって閉塞が 次第に肺門方向にのびてゆき最終的な肺動脈幹部 の閉塞がおこるものと考えられる. f)肺性心とその代償不全 両例共に右心室の高度の肥大があり,肝・牌・ 腎・牌等諸臓器の著明な慢性うっ血性変化がある. うっ血性腔水症はNo.9では腹腔1,450m!,心嚢 220m!であり,No. 10では腹腔50m!,心嚢60ml, 左胸腔150m!であった.したがって両例ともに呼 吸不全と右心不全が死因である. 111.肺動脈主幹部の厘蕩塞栓 (表3)(写 真 16-18) 腫蕩塞栓は悪性腫蕩の血行性転移のー型として 写真16 症 例No.11 右肺門部肺動脈の閉塞.

(8)

写真17症例No.11右肺門部肺動脈の組織後〔へマ トキシリン ・エオヂン染色,対物 x 10)血栓の肺 動脈壁に接する部分にみとめられる腫蕩細胞 (T) (明細胞癌). 写真18症 例No.11下大静脈を閉塞する血栓 (矢 印〕組織学的には腫蕩を含む. しばしば末梢肺動脈にみとめられる.その場合の 塞栓は, 一般にいう塞栓とは異り,腫蕩細胞が肺 動脈に達してその場で増殖することによって成り 立つのである.また腫蕩塞栓に血栓が加わること も多い.主として組織学的に確認できる末梢肺動 脈の腫蕩塞栓と異り,肺動脈幹部を閉塞するよう な大塞栓はまれである.No. 11は死亡の2.5月前 から左下葉の一部に肺動脈閉塞が認められていた が,剖検時には左肺下葉の肺動脈の始部が完全に 閉塞し,右肺門では肺動脈幹が閉塞していた.組 織学的には前者は腫蕩を混じた血栓で,線維化を ふくむ陳旧部分もある.右肺門のものは周辺部に 少数の腫蕩細胞があるが,大部分は新らしい血栓 である.本例では下大静脈に巨大血栓があり,組 織学的にはこれも周辺部に癌細胞がみとめられ た.腎癌手術後,残存した腎静脈内の腫蕩から下 大静脈に癌が入り,これに血栓が加わって巨大血 栓となったものと考えられる.したがって右肺門 の閉塞は此の下大静脈の,腫蕩を混じた血栓に由 来する塞栓である可能性が大きい.臨床的には死 亡の4目前に急性呼吸困難をおこしている.No. 12は肝硬変に続発した肝癌で,肝静脈から下大静 脈内に腫蕩が増殖して居札両側の肺門の肺動脈 に腫蕩塞栓による閉塞があった.肝癌が下大静脈 内に増殖することはまれではなく.それに続いて 右心房に入っている例も時々経験するが,両側の 肺門の腫蕩塞栓はまれである. 考 察 1.静脈血栓と肺塞栓の関係についての文献的 考察 1977年に

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pulmonary embolism

引の題で、肺血栓塞栓症の病 理学的研究を総括している.その中で述べられて いるように静脈血栓が肺塞栓をおこしやすいこと は事実だが,合併頻度は報告者によって大差があ る. 4 -20%とする報告者がある一方64% という 高率の報告もある.そのような頻度差の生じる原 因は臨床的にも病理学的にも正確に検索すること がむずかしいことにある.病理学的にみても肺塞 栓は大きいもの以外は,肺をくまなくしらべて塞 栓をさがすことはほとんど不可能であるし,静脈 血栓にしても同様の問題がある.しかしいずれに しても下半身,特に左下肢の静脈血栓は肺塞栓を おこしやすい点で軽視できない.本邦の臨床報告 例としては岩本ベ高橋5) 藤見6) 土屋7) 山本8}, 白井9)村尾川の主として急性の肺塞栓の報告があ る.剖検例による報告としては「肺血栓塞栓梗塞 症」を一括して制検輯報でしらベた長谷

)

1

1

11 )の報 告で.1977年から1979年 ま で で は 全 剖 検 例 の 1 -2 %. 1980年では2.66%であるとのべている. -194ー

(9)

ここでも本邦における血栓症の増加がみられる が,欧米の15%前後に比べれば著しく少ない.こ の報告は肺の血栓,塞栓,梗塞の合計であるので, 静脈血栓による肺塞栓がどのくらいあるのか判断 できない.ただ田中山の昭和52年-54年の剖検輯 報をもとにした報告で肺塞栓・肺梗塞・肺血栓は 743/88,405であり,そのうち静脈血栓が明示され ている65例では総腸骨静脈18,下肢静脈15,下大 静脈12,右心系11,その他の静脈血栓があげられ ている.いずれの文献でも本邦の血栓症が増加の 傾向にあることから,肺塞栓症,血栓症の増加を 警告している.

2

.

剖検例における静脈血栓と肺の小塞栓(表 4) 剖検で大循環系静脈に血栓をみとめることは稀 でない.これらの例で肺の小塞栓がどのくらいの 頻度でおこるかは,大塞栓の発生とも関連して興 味あることである.しかし実際には肺の小塞栓を 確実にしらべることは困難である.その理由の第 ーは肺全体をくまなく顕徴鏡でしらべることが不 可能であること,第二は肺小動脈の局所に発生し た血栓と静脈由来の血栓性塞栓との鑑別がむずか しいことである. しかしながらこれらの不正確さをある程度譲歩 したうえで大循環系静脈血栓と肺塞栓の合併頻度 をしらべることは意味のあることと考え,最近10 年間の当教室の剖検例1,970例について検索した. 肺の検索はわれわれが日常剖検例で採取している 左右上葉各

2

個,左右下葉各

1

個,および右中葉

1

個の計

7

個の組織についておこなわれた.また 局所発生の血栓と血栓性塞栓との鑑別点として 表4 主 幹 部 静 脈 血 栓 症 に 肺 の 小 塞 栓 を 合 併 す る 頻 度 下半身静脈血栓 上半身静脈血栓 症例数 肺塞栓合併(%数〉 症例数 肺塞栓合併(%数〕 悪 性 腰 湯 39 14(36%) 24 4(17%) 循環器疾患 5 1 6 1 そ の 他 6 3 4 1 言十 50 18(36%) 34 6(18%) (最近10年間の剖検例1970例における頻度〕 -195 は,血小板・線維素・白血球の多いもの,肺動脈 のごく末梢のみにあり,数の多いもの,また腫蕩 塞栓,骨髄塞栓に合併した血栓,血管壁および周 囲組織に病変のあるものは局所発生の血栓と考え て除外した.結局,比較的高位の小動脈,中位動 脈に唐突に,少数存在する赤色血栓を塞栓と判断 した. 全剖検例1,970例のうち下半身静脈系の血栓症 は50例で,多少の器質化はあるが概して新らしい 血栓であり,上半身静脈系の血栓は34例あり下半 身静脈血栓より器質化のすすんでいるものが比較 的多い(上半身の静脈血栓は静脈狭窄をおこすよ うな原因があったり,経静脈栄養の操作に誘発さ れる遷延性の血栓形成のため器質化が多いのであ ろう).これらの症例が,上記の基準により肺塞栓 を合併している頻度をしらべたのが表4である. 下半身静脈血栓では50例中18例 (36%)に,上半 身静脈血栓では34例中6例 08%)に肺の小塞栓 がみられた.対照としてこの10年間の胃癌の症例 で静脈血栓を伴わなL、134例について肺をしらべ たところ,上記判定方法により局所発生の血栓と 解釈されるものは多数あったが,血栓性塞栓のう たがわしいのは

2

例のみで,この

2

例も確実に血 栓性塞栓とはいえない所見であった. これらの成績から下半身静脈系の血栓は肺の小 塞栓を伴っていることが多いといえる.前述のよ うに下半身の静脈血栓は剖検時に新鮮で、ある.即 ち病気の末期に発生しやすいので,肺の小塞栓が 致命的な合併症にはならない.しかし静脈炎が原 因でおこる血栓症の場合は反復して肺塞栓をおこ すことになり,結果は重大である.

3

.

反復性肺血栓塞栓症の病理発生 本症の特徴は,その原因である静脈血栓症が不 顕性であるばかりでなく,肺塞栓症も潜在的に緩 慢な経過をとって進行し,症例No.10のように原 発性肺高血圧症とあやまられるような右心不全が 前景に出てはじめて知られるとL、う特殊な経過を とる.剖検時にみられる肺動脈主幹部の閉塞がお こるまでの病理発生について著者の考えは前述し た.すなわち,やや末梢の血栓性塞栓から続いて 局所発生の血栓も加わって最終的な肺動脈幹部の

(10)

閉塞にいたるものと考えている.この間に発生す る気管支動脈一肺動脈吻合による副血行路の形 成,肺高血圧に対する右心室肥大などの循環系の 代償がし、かによく発達するかは驚歎に価する.こ とに既存の肺動脈壁を破壊しながら吻合血管が発 達する様子は印象的である. 4.肺血栓塞栓撞の名称について 肺 血 栓 塞 栓 症 pulmonarythromboembolism とは体循環静脈血栓 venousthrombusが肺に流 れこんで肺動脈を閉塞することである.いいかえ れば肺塞栓症 pulmonaryembolism-血行によっ て流れて来た国型物が肺動脈につまること の原 因となる栓子 embolusが体循環静脈系由来の血 栓 thrombusであるということである.この病理 学的定義にもとづいた肺血栓塞栓症という名称が 時々あいまいに,あるいは間違ってつかわれてい る文献がある.それは肺血栓塞栓症を「肺血栓症 および肺塞栓症」の意味に用いられている場合と, 肺血栓症と肺血栓塞栓症の鑑別が不正確なままに 肺血栓症を肺血栓塞栓症に組み入れている場合で ある.剖検輯報などで多くの人がしらべたもので は血栓症・塞栓症の区別はしばしばあいまいであ る.実際には塞栓症(血栓性と限らない〉の栓子 に血栓があとで加わることはしばしばあるが,こ れは一次的な局所発生の血栓とはきびしく区別し なければならない. また,びまん性肺徴小血栓塞栓症11),肺徴小川塞 栓 症 候 群 microembolismsyndromeとし、う概念 がある.これは SaldeenらがL、う disseminated venular thrombosisに続発して肺に徴小血栓性 塞栓がおこる致死的な血栓症と記されている.著 者にはこのような症例の経験がないが,一般にい う静脈血栓に続発する肺血栓塞栓症とは発生機序 も病態も異るものであり,今回われわれが取り 扱ったような肺血栓塞栓症とは別に考えた方がよ L

そうすると体循環静脈系の血栓症に続発する肺 血栓塞栓症は致命的な病態として広汎肺血栓塞栓 症 massivepulmonary embolismと反復性肺血 栓塞栓症があり,臨床的に軽症あるいは無症状の 亜広範あるいはそれ以下の塞栓症がある. 総括および結論 1)当教室の剖検例で肺動脈主幹部の塞栓性閉 塞性病変を来たした8例 の 急 性 広 汎 肺 血 栓 塞 栓 症

2

例の反復性肺血栓塞栓症および

2

例の腫虜 塞栓の病理について述べた. 2) 急性広汎性血栓塞栓症の 8例は急死 4例,数 日以内のやや遷延した経過をとって死亡した

4

例 で 2例をのぞき下大静脈または総腸骨静脈の血 栓に由来する大塞栓であった.

2

例では血栓が証 明されなかった. 3)反復性肺動脈血栓塞栓症の2例はそれぞれ 左大伏在静脈,左膝寝静脈のほぼ無症候性の血栓 性静脈炎に由来する肺血栓塞栓症である.その肺 病変の発生機序につき考察した.両例とも肺高血 圧症が主症状で,剖検上,肺の血栓性塞栓の陳旧 化,血栓の再疎通,著明な肺動脈・気管支動脈吻 合がみられた. 4)腫虜塞栓は腎癌,肝癌の2例であり下大静脈 の腫蕩細胞をふくむ血栓に由来したものであっ た 5)大循環系静脈の血栓が肺塞栓をおこす頻度 を病理学的にしらべるため,教室の最近10年間の 剖検例1970例を検索し,下半身静脈系の 50例中 18 例,上半身静脈系の 34例中6例に末梢肺動脈に塞 栓と考えられる所見があった. 6)肺の血栓塞栓症と局所発生の血栓の病理学 的鑑別点について著者らの考えをのベ,またしば しば混乱のある「肺血栓塞栓症」の名称を病理学 的定義にしたがって正しく使うよう提案した. 196-文 献 1)Spencer

H.: Pathology of the lung. Per. gamon PressLtd, 3rd Ed. (1977)

2) Moser

K.M.: Lung Biology in Health and Disease V 01. 14, Pulmonary Vascular Disease 恥1arcelDekker, INC., New York (1979) 3) Oyvind Havig Deep vein thrombosis and

pulmonary embolism. Acta Chir Scand Suppl 1 -120 (1977) 4)岩本忠邦・他:20日間生存した肺動脈幹部塞栓症 のー剖検例.臨床と研究 55 3944 -3948(昭53) 5)高橋雅俊.静脈血栓による急性肺塞栓.外科 39 1156 -1159 (1977) 6)藤 見 憧・イ也

:

H

市動脈血栓塞栓症.内科 39 150 -155 (1976)

(11)

7)土屋和弘・他:下大静脈結禁により治癒せしめた 肺塞栓の1例.外科診療 1150-1156 (昭48) 8)山本 弘・他:下肢静脈血栓症と肺塞栓症.脈管 学 15323-328 (1975) 9)白井典彦・他:下肢静脈血栓症からみた肺栓症に ついて.外科 41 116-120 (1979) 10)村尾誠・他'肺血栓塞栓梗塞症.診断と治療 70 一 197-444-447 (昭57) 11)長谷川淳:肺塞栓に関する最近の概念.臨床科学 19 891-897 (1983) 12)田中健蔵・他:血栓・塞栓症に関する最近の課題. 臨床科学 19 875-882 (1983)

13) Saldeen, T.: The microembolism syndrome. Microvascular Research 11 227 -259 (1976)

表 l 広 汎 肺 血 栓 塞 栓 症 年齢 臨 床 性 原 疾 患 肺塞栓症状 静脈血栓症状 1  17~歳 ♀  胃 癌 輸血後急変 (‑)  2  I  4~歳 高陳 血圧症 難数日前突 より呼吸困然チアノー (‑)  2  旧肺結核症 ゼ呼吸困難後死亡 3  16~歳 2  勝頭部癌 前日ショック状態 両下肢の痛み 4  7 0 歳 脳梗塞 1 0 日前より呼吸困 ( ー 〉 ♀  下肢麻痔 難.低酸素症 7 2 歳 脳動脈癒破裂 5  ♀  手術後 2
表 2 反復性肺動脈血栓塞栓症 臨 床 年齢 性 心 持 ・ 続 肺 期 症 間状 静脈血栓症状 症 状 左 発 下 が 肢 現 の 4 ヵ月前転倒後あ 3 ヵ置後 月 914~~  約 1 0 ヵ月 聞 した その の 腫 後 大脹 は症状静なし栓・いたみ ,入 り放 院 の 検 査 で 左 伏 在 脈 血 症 1 0   5 5 古 歳 約 l 年 3 ヵ月 自覚症左なし
表 3 肺 動 脈主幹 部 の 腫 蕩 栓 年齢 臨 床 性 原 疾 患 肺塞栓症状 静脈血栓症状 5 4 2 歳 ( 2 . 5 ヶ左 月 腎 前 癌 手術〉 4目 前 時 欠呼左吸困難 葉11 血手 術 に 下 ( 一 〕 流 損 1 2   63 2 歳 肝肝硬癌 変 (‑)  右 び 季 腹 助 痛部痛およ 床的にも比較的早期に血管造影などにより証明さ れており , その部分の肺は陳旧梗塞の状態にある

参照

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