はじめに
正常な脊柱は正面像では真っ直ぐである.側面像にお いては生理的弯曲(頚椎:前弯,胸椎:後弯,腰椎:前 弯)が存在する.脊柱変形は,この正面像と側面像いず れか,もしくはその両方に正常から逸脱した変形を生じ ている病態である.脊柱変形の中でもいちばん多い脊柱 側弯症は脊柱の側方への「弯曲」に「ねじれ」を伴った 3次元的な変形である(Fig. 1). 脊柱変形の診断は変形が進行していれば外観的,視覚 的なもので比較的容易であるが,初期には把握し難いこ ともある.また,正常と異常の境界が明瞭でなく,年齢 (成長)による変化の影響もあり,ときに診断の遅れが生 じる. 実臨床において治療対象になるか否かは,その脊柱変 形の程度や年齢,症状(多くの小児期脊柱変形は無症 状),原疾患によって大きく異なる.そのため,脊椎・脊 髄を専門とする医家においても,診断や専門医(脊柱変 形専門医)へのコンサルテーションの時期に悩まれるこ ともあると思われる. 本稿では,脊柱側弯症の診断から自然経過,治療につ いて概説し,脊柱変形専門医への相談時期に関しても私 見を述べさせていただく.1
.側弯症の診断
脊柱側弯症は一般人口の約 2%に存在する common diseaseである1).そのうち,多くは後ほど述べる特発性 側弯症であるが,実際は側弯症を主とした脊柱変形を生 ずる疾患,症候群は多彩である. 脊柱側弯症の分類,用語は米国の Scoliosis Research Society(SRS)分類が一般的に用いられている(Fig. 2). この SRS 分類では脊柱変形は大きく構築性側弯症(struc-tural scoliosis)と非構築性側弯症(non struc分類では脊柱変形は大きく構築性側弯症(struc-tural scolio-sis),後弯症(kyphosis),前弯症(lordosis)に分けられ る.本稿ではおもに側弯症を扱うが,非構築性側弯症は 本当の意味の側弯症(脊柱側弯症)ではなく姿勢で矯正 され得るものである.これには,姿勢による姿勢性側弯 やヒステリーによる精神性,椎間板ヘルニアなどによる 神経根性疼痛によるもの,脚長差によるものなどが含ま れる.一方,構築性側弯症は脊柱の一部に可撓性をもた ない側方カーブがあり,X 線像において背臥位や側屈で 矯正され難いものである.これが通常,側弯症と呼ばれ るものであり特発性側弯症(idiopathic),神経筋性側弯 症(neuromuscular),先天性側弯症(congenital),各種 の症候群(syndromic)による側弯症などに分類されて 脊髄外科 VOL. 35 NO. 1 2021 年 4 月 13JA愛知厚生連豊田厚生病院整形外科脊椎脊髄センター/Department of Orthopaedic and Spine Surgery, Toyota Kosei Hospital 連絡先:〒470‒0396 豊田市浄水町伊保原 500‒1 JA 愛知厚生連豊田厚生病院整形外科脊椎脊髄センター 辻 太一〔Address reprint requests to:Taichi Tsuji, M.D., Department of Orthopaedic and Spine Surgery, Toyota Kosei Hospital, 500‒1 Ibobara, Josui‒cho, Toyota‒shi, Aichi 470‒0396, Japan〕
特発性側弯症患者の診断と治療
―専門家への紹介時期とは―
Diagnosis and Treatment for Idiopathic Scoliosis
―Proper Timing of Refer to Deformity Surgeon―
辻 太 一
Taichi Tsuji, M.D. Key words: spinal deformity idiopathic scoliosis diagnosis natural history treatment Spinal Surgery 35(1)13‒15,2021認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン
Fig. 1 脊柱の側方への「弯曲」に「ねじれ」を伴った 3 次元的な 変形いる.非構築性側弯症での注意点としては,疼痛性など の病態が長く持続すると姿勢で矯正され難くなる.ま た,逃避姿勢の場合は腰痛,下肢痛などの症状を訴えな い場合もあるので,体幹バランス不良が持続する場合に は専門医への相談が望ましいと考える.
2
.特発性側弯症の病態
(構築性)脊柱側弯症の理解の基本は,特発性側弯症で ある.特発性側弯症は,脊柱側弯症の中でも約 70~80% を占め,最も頻度が高い疾患である.本疾患の診断は, 脊柱側弯以外には健康であり,基礎疾患に神経筋疾患が なく X 線上に椎骨の構造上の異常が認められないものと される2).その病因に関しては,多方面から研究されて いるがいまだ解明されていない.ただし,その発症,側 弯の進行には遺伝子が関与しているとされ,本邦でも研 究が進行中であるが現時点では診断治療に応用されてい る段階ではない3).特発性側弯症は発症年齢に応じて以 下のように分類される(SRS 分類). A .Infantile 乳幼児期側弯症(0~3 歳) B .Juvenile 学童期側弯症(3~10 歳) C . Adolescent 思春期側弯症(10 歳から骨成長終了ま で) 多くは,思春期に発症してくる adolescent のタイプ (adolescent idiopathic scoliosis:AIS)であるが,幼少期に発症してくるタイプもあることが診断のうえで重要で ある.また,思春期特発性側弯症は女児に多くみられる が,幼少期に発症するものには性差が認められない点も 留意が必要である. 上記の分類に加え,カーブのパターン,主側弯部位な どを土台にした分類も頻用される.最も頻度の高い胸椎 カーブにおいては,King ら4)による分類が頻用されてい
る(Fig. 3).また,近年はカーブの可塑性を bending film で評価し,より整合性が高く sagittal alignment や腰椎因 子まで考慮した Lenke 分類5)が報告され,その有用性に ついて検討されている.
3
.特発性側弯症の自然経過
治療法の選択(装具療法か手術か)には,特発性側弯 症の自然経過を考慮しなければならない.カーブ進行の 要素は,カーブの大きさと患者の成長である.一般的に, 大きなカーブは進行する可能性が高い.また,double curveは single curve よりもカーブの進行性が高い.患者 がより若年であれば,進行の危険が大きい.成長の指標 は骨年齢,初潮年齢,Risser sign で評価される.Rissersignで評価すると,Risser 0~1 の患者はより成長段階が 未熟であり,Risser 2 以上の患者と比較し有意にカーブ が進行する.Lonstein ら6)の報告によると,カーブが 20~29 度の Risser 0~1 の患者はその 68%でカーブが進 行し,一方 19 度以下のカーブで Risser 2 以上の患者では 1.6%に進行を認めるのみであった.また,19 度以下の 脊髄外科 VOL. 35 NO. 1 2021 年 4 月 14 Structural Scoliosis Ⅰ.Idiopathic A.Infantile B.Juvenile C.Adolescent Ⅱ.Neuromuscular A.Neuropathic
1.Upper motor neuron a.Cerebral palsy
b. Spinocerebellar degener-ation
c.Syringomyelia etc. 2.Lower motor neuron a.Poliomyelitis b.Other viral myelitis c.Trauma etc. B.Myopatic 1.Arthrogryposos 2.Muscular dystrophy 3.Fiber‒type disproportion etc.
Ⅲ.Congenital A.Failure of formation B.Failure of segmentation C.Mixed Ⅳ.Neurofibromatosis Ⅴ.Mesenchymal disorders A.Marfan’s syndrome B.Ehler‒Danlos syndrome etc. Ⅵ~
Nonstructural Scoliosis Ⅰ.Postural scoliosis Ⅱ.Hysterical scoliosis Ⅲ.Nerve root irritation Ⅳ.Inflammatory
Ⅴ.Related to leg discrepancy Ⅵ. Related to contractures around
the hip Kyphosis Ⅰ~ Lordosis Ⅰ~Ⅵ Fig. 2 SRS 分類
カーブで Risser 0~1 の患者はその 22%でカーブが進行 し,20~29 度の Risser 2 以上の患者では 23%に進行を認 めたと報告している.このような自然経過を考慮する と,実臨床現場では特発性側弯症治療はおよそ以下のよ うである. ① 側弯が軽度の場合(成長期にあっても Cobb 角がお よそ 20 度未満)は経過観察として定期的に X 線で 確認する ② ある程度進行してきた場合(成長期にあって Cobb 角がおよそ 25~30 度)は装具療法を行う ③ 中等度から高度側弯に進行してきた場合(成長終了 前において Cobb 角がおよそ 45~50 度以上)には手 術 以上のように,自然経過と実際の対応を考慮し,おの おのの患者の側弯を診断評価しなければならない.ま た,ほかに併存疾患がないと思われる特発性側弯症の診 断に関しても,一部には脊髄空洞症を伴った Arnold‒ Chiari奇形が合併する例もあり7),表在・深部腱反射を みることも診察時には必須であり,疑わしきは MRI の撮 像も必要である. このような事項を踏まえると,専門医への相談は乳幼 児期,学童期発症の側弯症は早期に行うべきと考える. また,思春期側弯症に関しては,実際の装具療法が開始 となる以前,つまり Cobb 角 15 度ほどであれば相談と考 える.また,神経筋疾患などの併存を疑う場合も積極的 にコンサルテーションすべきである.
おわりに
近年,高齢化社会となり脊柱変形およびそれに伴う愁 訴をもった成人患者も増加し治療する機会が増えてい る.これらの中には若年から存在した側弯症に変性変化 の加味されたものが含まれており8),治療に難渋する. 特発性側弯症は,早期に発見し適切に治療介入すれ ば,将来的にハンディキャップを背負うことが少ない疾 患である.少子高齢化の日本社会で,若年者の脊柱の健 康のみならず将来の高齢者の ADL を維持できるように, 脊柱変形に対する医療を充実させることが必要である. 文 献1) Smyrnis PN, Valavanis J, Alexopoulos A, et al:School screen-ing for scoliosis in Athens. J Bone Joint Surg Br 61‒B:215‒ 217, 1979
2) 金田清志:特発性側弯症.松野誠夫(編):新臨床整形外科全 書.第 5 巻 B 脊椎(胸椎・腰椎).東京,金原出版,1984, pp229‒250
3) Takahashi Y, Kou I, Takahashi A, et al:A genome‒wide associ-ation study identifies common variants near LBX1 associated with adolescent idiopathic scoliosis. Nat Genet 43:1237‒ 1240, 2011
4) King HA, Moe JH, Bradford DS, et al:The selection of fusion levels in thoracic idiopathic scoliosis. J Bone Joint Surg Am
65:1302‒1313, 1983
5) Lenke LG, Betz RR, Harms J, et al:Adolescent idiopathic scoli-osis:a new classification to determine extent of spinal arthro-desis. J Bone Joint Surg Am 83:1169‒1181, 2001
6) Lonstein JE, Carlson JM:The prediction of curve progression in untreated idiopathic scoliosis during growth. J Bone Joint
Surg Am 66:1061‒1071, 1984
7) Arai S, Ohtsuka Y, Moriya H, et al:Scoliosis associated with syringomyelia. Spine 18:1591‒1592, 1993
8) Aebi M:The adult scoliosis. Eur Spine J 14:925‒948, 2005
脊髄外科 VOL. 35 NO. 1 2021 年 4 月 15 Fig. 3 King 分類(文献 4 より改変引用) Double thoracic Long C 胸椎 胸椎+腰椎 胸椎>腰椎 胸椎+腰椎 胸椎<腰椎