大学生の共感性とボランティア活動の関係
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(2) 学校教育学研究1998,第10巻. 90. こうした最終段階の共感性は,その視点が社会的に拡. 問題および目的 近年,ボランティア活動に対する社会的要請や関心が 強くなってきている。この種の活動は多様であるために あいまいに把握されがちであるが,包括的に定義した松 下(1996)によれば,自分の持っ能力(体力,知九喝 間,金品など)を自発的に,自分以外の他者のために報 酬を期待せずに提供する活動と規定されており,その活 動には自発性,無償制,公共性が強調されている(宮川・ 石塚・桑原, 1996)。 一方,このような活動に類似した概念に向社会的行動 (prosocial behavior)があるMussen & EisenbergBerg (1977)は,向社会的行動を外的な報酬を期待す ることなく他者や他の集団を助けようとしたり,その人々 のためになることをする行動,と定義している。これら 二つの行動の内容を比較してみると,その規定の類似性 が明らかである。この点で一般にいわれるボランティア 活動は,向社会的行動の一形態と考えることは妥当であ ろう。. 本研究では,個人の共感性の水準と,向社会的行動の 一種と見なしうる種々のボランティア活動への参加経験 との関係を大学生を対象に検討することを第1の目的と した。 これまでになされた向社会的行動に関する研究では, その有力な先行条件のひとっとして共感性が取り上げら れてきた(例えば, Mussen & Eisenberg-Berg , 1977)。 従来の研究によれば,共感的な人物ほど,向社会的行動 をとりやすいことが報告されている。このような結果に 従えば,ボランティア活動が向社会的行動の一形態であ る以上,共感性水準が高い学生はどこの種の活動に従事 する可能性も高くなると思われる。 ところで,認知面と感情面の双方から共感性を定義し たFeshbach & Roe (1968)は,共感性とは,まず他者 の感情状態を弁別して命名し(感情の認知),他者の考. 大するという点に注目すれば,社会的共感性ともよぶべ き性質のものである。そして,最終的な段階の共感性水 準の高低は現実的で幅広い社会活動であるボランティア 活動を解発する先行要件の一つになりうると考えられる。 そこで本研究では,高木・加藤(1980)が作成した共感 性尺度を用いて大学生の共感性水準を測定し,その高低 がボランティア活動参加率に与える影響について検討し m 本研究の第2の目的は,ボランティア活動に参加する 人々,あるいは参加したいと考える人々は,どのような 報酬を期待するのかといった点を検討することであった。 共感性がボランティア活動に参加する際の重要な先行要 件であるとしても,このような行動を動機づける要因に は他にもさまざまなものがあることがすでに指摘されて もいる(例えば, Mussen & Eisenberg-Berg, 1977)。 そこで本研究では,ボランティア活動に参加する際に, 関係するであろうと思われる基本的欲求の充足に焦点化 して,この問題を検討することとした。 向社会的行動についての定義からも明らかなように, 他者に対する援助活動に従事する人々は他者からの金品 など外的な報酬を期待しているとは考えにくい。むしろ 自分自身が自己に対して与える報酬,すなわち内的報酬 がそれぞれの個人ごとに準備されていると考えるのが自 然であろう。したがって,本研究では,内的な基本的欲 求の充足という観点から,ボランティア活動に参加する 大学生の内的報酬の内容について検討し,あわせて現実 にボランティア活動に参加した学生群と参加経験はない が参加を希望する学生群の間に,内的報酬への期待度に 差が生じるのかどうかという点を検討することとした。. 方法 被調査者:教員養成系大学の3, 4年生145名(男性. えや役割を予想(役割取得)したうえで,他者の感情状 態を共有(感情の共有)することだとしている。. 46名,女性99名)が本研究に被調査者として参加した。 このうち,調査票-の回答が完全であった126名(男性. このような共感性は,個人の発達とともに質的に変化 することをHoffman (1981)は報告している。彼によ れば,泣く幼子を慰めるのにその子の母親ではなく自分 の母親をよんでくるといった幼児初期の反応は,役割取 得能力の発達に伴って他者の欲求や感情に基づく共感反 応へと変化する。この後やがて,他者の一般的な窮状に 対する共感へと移行していくという。この最終段階では, ある場面に直接遭遇することでのみ生じていたそれまで の共感から,他者はより拡大された生活場面で悲しみや 喜びを体験することに気づく共感となり,それに伴って, 貧しさや被圧迫感,そして社会的な弱者への共感を生じ させるというのである。. 42名,女性84名)が分析対象者となった。 質問紙の構成:本研究で用いられた質問紙は主として, (1)ボランティア活動経験の有無とボランティア活動の動 機と志向性に関する質問と, (2)情緒的共感性測定尺度か ら構成されていた。その内容は以下のとおりであった。 (1)ボランティア活動経験の有無とボランティア活動へ の動機と志向性に関する質問項目 本研究ではボランティア活動を無償の活動としたうえ で,高齢者への援助(話し相手,施設への訪問,付添な ど),障害者への援助(手話,点訳,施設への訪問など), 災害時の救援活動(救援作業,救援物資の送付や搬送な ど),環境の保護(緑化運動-の参加,清掃等),募金や.
(3) 共感性とボランティア活動. 91. Table l活動分野別・性別の活動有無の人数及びx2検定の結果. 高齢者障害者災害救助環境保護募金・献血医療・保健その他の 援助活動援助活動活動活動・収集地域活動活動活動 活動経験あり 男子10 女子10 27. 活動経験なし 男子38 女子57. 41 74. x2検定3.26I. 32 57. ns. 15 42. 20. 41 75. 27 42. ns. ns. 37 64. 42 83. 42 82. ns. 'pく10, ns:有意差なし 献血,収集活動(募金,切手やテレフォンカードの収集 等),地域での活動(子ども会の運営,行事の補助等), 医療や精神保健に関わる活動(メンタルフレンド,適応 指導教室の補助等),その他の活動に分類し,これらの 活動に対する参加体験の有無が尋ねられた。また,その 他の活動を行ったと回答したものについては具体的な活 動内容が自由記述によって求められた。 いずれかの領域においてボランティア活動を行ったと 回答した者を参加群とし,その他を非参加群とした。併 せて,今後ともボランティア活動に参加したいと思うか どうかが尋ねられた。また,不参加群のうちで,今後は ボランティア活動に参加したいと回答したものと参加群 に対しては,さらにその活動に参加するにあたっての動 機が尋ねられた。動機についての質問項目は,岡本ら (1978)よりMurray (1938)によってカテゴリー化さ れた基本的欲求項目が用いられた。これらの項目のうち から,ボランティア活動に関係すると思われる20項目が 抽出されて構成された。これらの質問項目への回答は4 件法によった。 (2)情緒的共感性測定尺度 Mehrabian & Epstein (1972)に基づいて高木・加 蘇(1980)が作成した情動性共感性尺度が用いられた。 本尺度は33項目から構成されており,被調査者は各質 問項目に2件法で回答するよう求められた。得点化にあ たっては,共感的反応に1点,それ以外の反応に0点が 与えられた。したがって得点の範囲は0-33点であっ た。 手続き:個人場面および集団場面において調査票が配 付され,研究者の一人が回答方法について説明した。そ の後,被調査者による回答が終了した時点で回収された。 結果および考察 ボランティア活動への参加 本研究の手続きにしたがって得られた回答内容を分析 したところ,被調査者のうち何らかのボランティア活動 に参加したという経験を有するものは男性42名中21名,. 女性84名中66名であった。この結果は,女子学生が参 加者率において男子学生を顧著に上回っていることを示 すものであった(x2-10.59, df-1, p<.01)c 次に,活動領域ごとに性別の参加者数を整理したが, その内容はTablelに示すとおりであった。 Tablelか らも明らかなように,男女群ともに参加率の高い活動領 域は,募金・献血・収集活動や災害救援活動,そして地 域活動であった。災害救援活動への参加率が高いことに ついては,被調査者が所属する大学の近くで発生した兵 庫県南部大震災の影響があると考えられる。 さらにこの結果に基づき,各活動領域の参加度の性差 について検討したところ,障害者への援助に関して,女 子学生の参加率が男子学生のそれを上回る傾向が認めら れた(Z2-3.26, df-1, p<.10)のみで,他の領域で は有意な性差は認められなかった。 共感性がボランティア活動参加におよぽす影響 被調査者のうち何らかのボランティア活動に参加した という経験においては女子学生が参加者率において男子 学生を顕著に上回っていた。 次に,大学生において個々の共感性水準が実際のボラ ンティア活動参加に及ぼす影響を検討するために,性別 ごとに共感得点の中央値を算出し,この値をもとに共感 水準高群(H群)と低群(L群)に分類し,さらに,こ れらの各群においてボランティア活動参加者率に差異が 生じるか否かが検討された。この結果については, Table 2に示すとおりであった。 x2分散分析の結果, 性の主効果が有意であり(x2-8.00, df- 1 , p<.01), 共感水準(x2-3.07, df-1, p<.10)および交互作用 (x2-3.07, df-1, p<.10)に有意な傾向がみられた。 Table 2共感水準別・性別の活動経験の有無の人数( )は%. 共感水準H共感水準L 男子女子男子女子 活動経験あり13(81) 33(89) 8(47) 33(89) 活動経験なし† 3(19) 4(ll) 9(53) 4(ll) † 「経験したくない」も含む.
(4) 学校教育学研究, 1998,第10巻. 92. Table 3ボランティア活動への動機と志向性に関する質問項目の因子分析結果(因子負荷量). 自分の活動の場を持ちたいので. -.13.16. 新しい友達が欲しいので. -.ll. 何かをやり遂げることで自信を感じるので. -.31.12. 色々な人と交流したいので. -.29. -.14. -.19. 社会と自分の生活との結びつきが欲しいので. -.ll.24. 自分が必要とされている実感を持ちたいので. -.27.42. 余暇を充実させたいので. -.20.06. 学校の授業では心が満たされないので. -.ll. 自分の視野を広げたいので 自分自身の勉強になると思うので. .02. 新しい経験や出会いがしたいので. .34. 将来,自分の就きたい職業に役立つので 社会や人のために役立ちたいので. .25 -.03. -.17. 困っている人を助けたいので. .09.04. 友人が参加しているので. .29.01. 誰からも拘束(強制)されないので. .29.01. 因子寄与率(%). -.10. ,16. 19.2. Table2からも明らかなように,女子学生群では共感 水準の高低を問わず活動に参加せず今後もしたくないと いう回答者率は顕著に低くなっていた。他方,男子学生 群では,共感性水準の高いH群に比べてL群で活動への 不参加志向が顧著に高くなっていることがわかった。ま た,共感水準のH群では男女間に有意な差は兄いだされ なかったが, L群では不参加志向者の比率で男子学生群 の方が女子学生群と比べて有意に高くなっていた(x2 -ll.31, df-1, p<.01)。 これらの結果から,共感性の水準がボランティア活動 の参加志向に影響するのはとくに男子学生についていえ ることが示唆されるMussen & Eisenberg-Berg (1977)は,共感性は向社会的行動を動機づける有力な 要因の一つであることを指摘しているが,男子学生につ いての結果はこうした見解を支持するものであった。 女子学生にボランティア活動に対するこのような共感 性の影響性は認められなかったが,この点に関して,女 性の社会的性役割の作用が考えられる。女性の場合その 役割上,相対的に他者に対して優しいことや親切である ことが強調される傾向にあるとされる(例えば,安達・ 上地・浅川, 1986;浅川・松岡, 1987)。困難な状況に あるであろう他者や集団についてその状態を敏感に認知 し現実に援助の行動をとる際には,共感性をも含むこう した女性の性役割が強く機能することを本結果は示唆し ている。 ボランティア活動への参加と内的欲求の充足 ボランティア活動へ参加することは,大学生にとって. 12.7. ^wwiflt-o^cowNcnt-oincoc LOIOlfi^COWNIM^lDIOWNLnH. 項目第1因子第2園子第3因子共通性. 10.8. どのような内的欲求の充足を目指すことになるのかとい う点を検討するために, 20の欲求項目を準備し,ボラ ンティア活動に参加した,あるいは今後参加したいと考 える被調査者に4件法による反応が求められた。 これらの欲求項目をグルーピングする目的で,本研究 では,因子分析(主因子解-バリマックス回転)を実施 し,因子負荷量が.40以上の項目について整理したと ころ, Table3に示すように解釈可能な3因子が抽出さ れた。 第1因子(8項目)についてはその内容から,自己存 在の確認に深く関わる内容と解釈され,第2の因子(4 項目)に関しては,自己世界の拡大と命名された。また 第3の因子は2項目であったが,援助欲求の充足と解釈 された。この結果に基づき,活動経験を持っ群と活動希 望群についで性別に各因子項目群の得点を整理した。そ の結果はTable4に示す通りであるが,この表にしたがっ て各因子ごとに2要因分散分析を実施したところ, 「自 己存在の確認」因子(F-6.09, df- 1/102, p<.05) と「自己世界の拡大」因子(F-6.98, df-1/102, pく01)において,有意な性差が生じていることがわかっ た。この性差はいずれも女子学生群の得点が男子学生群 の得点よりも高いというものであった。活動経験群と活 動希望群問には有意差は兄いだされず,どの田子におい ても交互作用は有意ではなかった。 いずれの因子においても活動経験による有意な主効果 は認められなかった事実について考えると,両群ともに 本質的にはボランティア志向という点で類似しているこ とがその一因と考えられるOすなわち,他者への援助志.
(5) 共感性とボランティア活動. Table 4活動経験(あり/したい)と性別ごとの内的報酬 平均得点と標準偏差. 活動経験あり活動したい C L - _ _ \ L. EiidlHUnHu だooocozr>. OiMCOiH. l&﹂lpnHI. 、. し. 66. NHCOCO t-COr-Ht-H i-I-^Si-IV-'. -. -. ヽ - . ノ 、 - ノ. 1. i-IV_^,-I^^-/. 、. L. 人数21. oocoaico OjCOr-Ir-H. l. Olc-i-ICD ScOi-I(M. 自己世界の拡大. 数の大学,学部のサンプルを対象とした調査が必要であ ろう。 (2)大学生の共感性とボランティア活動の間には,関係. 男子女子男子女子 自己存在の確認. 93. 10. ( )内は標準偏差 向性が高い学生は充足すべき欲求の内容も似ているのか も知れない。とくに,援助欲求の充足については,その 平均得点も全体的に高く,天井効果が生じていた可能性 も指摘できよう。あるいは,ボランティア志向性を持っ 学生には,われわれの社会に存在するとされる援助規範 が一般的に強く機能していることも示唆される。 「自己存在の確認」や「自己世界の拡大」に関わる欲 求の充足傾向が男子学生よりも女子学生に強いことは興 味深い。これらはともに自己報酬的な内容を含んでいる ものと患われる。男子学生に比べてボランティア活動に 参加する傾向が強い女子学生には,活動参加の有無には 共感性水準が影響するとはいえなかった。他方,男子学 生群では共感性の高水準群が低水準群よりもボランティ ア活動に参加する傾向にあった。その事実と本結果を考 えあわせると,女子学生のボランティア活動参加には, 女性の社会的役割とともに自己報酬的な内発的動機が強 く関与すると考えられる。 以上の結果から,次のような結論が導かれる。 (1)大学生のボランティア活動への内発的な動機づけや 実際の参加行動には,性差がみられる。すなわち,女子 学生の方が,男子学生よりもボランティア活動への参加 が内発的に動機づけられており,参加経験が多いことが 示された。ただし,より一般化した結論を導くには,複. があるであろうことが示唆された。すなわち,共感性の 高い者ほど,ボランティア活動への参加志向が高い。た だし,これは,男子学生にのみみられたので,なぜ女子 にはこうした関係が表れなかったかについて,社会的性 役割の影響などが考えられるが,今後,さらに検討する 必要があろう。 引用文献 浅川潔司・松岡砂織1987児童期の共感性に関する発達的 研究,教育心理学研究, 35, 231-240. 安達圭一郎・上地安昭・浅川潔司1985男性性・女性性・心 理的両性性に関する研究(I)一日本版BSRI作成の試み日本教育心理学会第27回総会発表論文集484-485. Feshbach, N. D., & Roe, K. 1968 Empathy in six- and seven-year-olds. Child Development, 39, 133-145. Hoffman, M. L. 1982 Development of prosocial motivation: Empathy and guilt, In Eisenbergberg, N. (ED) The development of prosocial behavior. Academic Press. Mehrabian,A‥. &. Epstein,. W.. A.. 1972. A. measure. of. emotional empathy, Journal of Personality, 40, 523-543.. 宮川八岐・石塚清司・桑原利夫1996小学校ボランティア活 動事例集教育出版株式会社 Mussen, P., & Eisenberg-Berg, N. 1977 Roots of caring, sharing, and helping: The development of prosocial behavior in children. W. H. Freeman. (菊池章夫訳編1980思いやりの発達心理金子書房) 岡本夏木・古津頼雄・高野清純・波多野誼余夫・藤永保 1978児童心理学講座6情緒・欲求・動機金子書房.
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