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著
高齢者における慢性硬膜下血腫の臨床的検討
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抄録われわれは,過去2年間に,高齢者における慢性硬膜下[刎重を23例経験した。それらにつ き臨床的検討を行い,その症候学的特徴につきここに報告する。対象は65歳以上の症例とし,年齢, 性別,臨床症候,特に三主徴といわれる一頭蓋内圧充進症状,精神・意識障害,運動麻痺一,さら に頭:部外傷との関連,血腫側,手術法,治療予後につき検討した。年齢は80無代が9例と最も多く, 平均77歳であり,50歳代にピークがあるとされる本症の一般症例群に比il交してみても,超高齢者群 を対;象としている。性差は男性70%,女性30%であり,これも一般症例においては,90%以上と 圧倒約に男性例が多いのに比し,やや女性が多い。次に入院時の三主徴であるが,精神及び意識障 害と運動麻痺についてはその発現率はそれぞれ70%を越え高く,圧充塞症状は一番多くみられた頭 痛で30%と比較約低い,頭部外膓との関連では一般症例の50−70%に比較して,60%と大:差はなか った。【毎腫側は右側8例,左側11例,両側4例であった。22例に対して穿頭術を行い,うち20例に ついては血腫を洗浄する際空気が硬膜下腔に混入し,術後気脳症による嗣復の遅延を防止するため, 穿頭痛直ちにドレーンを挿入しを5臼かけて閉鎖ドレーンで伯鍾を除去するという手術法をとった。 治療成績は,退院時に症状が消失した症例は,23例中17例74%であり,高齢老においても治癒率は 比較的高い。以上より,精神・意識障害及び神経症状,特に運動麻痺が症状の前景にたち頭蓋内圧 充進症状が目立たないことが,高齢者慢性硬膜下血腫の特徴であり,圧磁歪症状が目立たないため, 頭蕎内占拠病変を疑わないと,高齢者ゆえ脳梗塞や痴呆などと誤りやすい。特異的な徴候がないた め,このような特徴を絶えず念頭におき,疑わしい場合は直ちにCTを行うべきである。 キーワード 慢1生硬膜下血腫,高齢者,痴呆,意識障害,閉鎖ドレナージ法はじめに
慢性硬膜下血腫は脳神経外科の領域において 薦常多く経験する疾患で,適切な診断と治療を 行うことにより,完全に治癒せしめるが可能な 疾患である。しかし高齢者においてはその臨床 症状から.脳梗塞や痴呆などと診断されること があり,治療の時期を失すると急激な悪化をき たし,不幸な転帰をとる場合がある。われわれ *〒409−38iLI梨県中巨摩郡玉穂町下河東11/0 受付: !986牢5月6 日 は山梨医科大学脳神経外科開設以来,約2年間 に経験した23例の高齢者慢性硬膜下血腫症例に ついて臨床的検討を行い,症候学的特徴に若干 の知見を得たので報告する。 1. 対象および方法 症例は59年5月から61年3月までのおよそ2 年間に,山梨医科大学脳神経外科で経験した27 例の慢性硬膜下血腫のうち,65歳以上の23例で ある。保存的治療を行った1例を除き全例に手 術をおこない,血腫被膜及び1鰯櫃内容を確認し76 辻 た。これらの症例に関して年齢,性溺,臨床症 候,頭部外傷との関連,If艮下側,手術法,治療 予後の各因子につき検討を行った。 結 果 1. 性 別 男性16例(70%),女性7例(30%)であった。 2.年齢分布(図!) 65歳以上に限ってあるが,60歳代5例,70歳 代8例,80歳代9例,90歳代1例であり,平均 77歳で,80歳代が最も多かった。 3. 頭部外傷の既往について(図2) 一般に本症は頭部外傷後,一定の無症状期を 経てから発症すると言われているが,頭部外傷 の既往のあるものは14例(60%)で,受傷様式 は,転倒7例,転落3例,交通事故3例,殴ら
9例
70−79 90−100才 65−69 80−89図1年々分布
0−30日
31−60 61−90 91−120121−150
つ乙 り4 確葺 図2 頭部外傷より発症までの期間4例
4 令 三,他 れたもの1例であった。受傷時の意識障害が明 らかなものは1例のみであった。頻回に転倒し 外傷の特定できない1例を除いた,外傷時期の 特定できる13例中,頭部外傷から30日以内で発 症したもの4例,30日以降60日以内4例,60日 以降90日以内2例,90日以降120日以内2例, 120Ei以降150日以内例であった。60日以内発症 は62%あり,さらに6ヵ月以内に発症したもの は,92%であった。 4. 臨床微候(図3) 本疾患の臨床微候は,一般に多彩であるが, 便宜上,頭蓋内圧二進症状,神経症候,精神意 識障害の3種類に分類する。 (1)頭蓋内圧充進症状 頭痛は7例(30.4%),うっ血乳頭は3例(13 %),嘔吐2例(8.7%)であった。 (2)神経症状 人院時に,運動麻痺を認めたものは,18例 (78。2%)で,うち片麻痺が!7例,四肢麻痺が1 例であった。また一側性の血腫15例のうち,r脅! 腫の反対側の麻痺が14例,画廊の麻痺が1例で運動麻痺
意識障害
頭 痛 尿 失 禁 うっ血乳頭吐害
障
覚
嘔知
複 視瞳孔不同
感銘障害
痴 呆 耳 鳴図3
18例 17 6 7 1 1 1 1 1 2 2 3 入院時臨床徴候(頻度順)あった,知覚障害を呈したものは2例で,いず れも血腫と反対側であった。その他,複視1 例,耳鳴1例,瞳孔不同及び対光反射消失が1 例であり,この最後の症例は,入院時既に脳ヘ ルニアをきたしていた症例である。 (3)精神・意識障害 入院時に意識障害の認められたものは17例あ り,これを3−3−9度方式で分類すると,どこと なくおかしく,意識清明とは言えないト1が5 例,見当識障害がある1−2が4例,自分の生年 月日も言えない1−3が6例,傾眠であるが,普 通の呼びかけで容易に開眼するII遵が1例,痛 み刺激で少し手足を動かしたり,顔をしかめる ような動作をする程度のIII−2が1例であった。 1のレベルが15例(88%)と,軽度意識障害が圧 倒的に多かった,また発症前より痴呆症状を呈 していたもの1例,行動異常及び記銘障害のあ るもの1例であった。 5. その他の臨床的事項 慢性硬膜下f倉腫はアルコール嗜癖者に多いと いわれているが,本シリーズでは5例あり,さ らに3例に過去に酒癖を認めた。 6. 血腫側 23例の血腫側は,左側11例(48%),右側8例 (35%),両側性4例(17%)であった。このうち 両側とも血腫のものが3例,一側が水腫のもの が1例であった。 7. 手 術 保存的療法を行った1例を除いて,22例に穿 頭術を行った。全例局所麻酔下に手術を行い, 必要に応じてdiazepam, pentazocindこよる NLA変法をもちいた。2例は,穿頭後血腫を 流出せしめた後,血腫腔を生理食塩水で洗浄す る血腫灌流除去術を行った。残り20例に対して は,穿頭後,硬膜切開を加えた後,血腫を噴出 させず,直ちに血腫腔にドレーンを挿入し,閉 鎖ドレーンを用いて,4−5日かげて血腫を緩徐 に排除するという方法をとった。 8. 術中・術後合併症 術後の創部及び全身感染症の合併例はな:かっ た。血腫洗浄例が少ないためか,CT上著明な subdural pneumocephalusを来した症例もなか った。 9. 治療成績(図4) 在院日数は,7日以内が2例,8−14日以内が 13例,15−21日が2例,23,30,38,43,55, 63日がそれぞれ1例であった。平均在院日数は 18日であった。入院日数が3週間以上のもの は,いずれも退院時に精神・意識障害を遺残し ていた。 退院時に症状が消失したのは,17例(74%)で あった。精神・意識障害及び運動麻痺の両者が 残存した症例は3例あり,うち2例はパーキン ソニズムを合併しており,残り1例は入院画幅 ヘルニアを来していた症例である。精神障害の みが遺残した症例は2例あり,いずれも痴呆及 0 1−1 2 3 1Σ一1 2 3 図4−A 図4−B Ilト2 Norma且 Sl蓑9ht 退院時 入院時 蹴oderate Severe 図4意識障害(A)および運動麻癖(B)の入退 幻惑における推移 A) 3−3−9度方式による。本文参照 B) Norma1一麻痺のないもの。 Sligh卜arm deviation tesで始めて明らか となる程度のもの。 Moderate一一肢に完全な麻痺があるか, 2肢以上に徒手筋力検査で3以下の麻痒 があるもの。 Severe一起座不能
78 辻 び記銘障害を遺残した症例である。運動麻痺及 び知覚障害のみが残存した症例は認められなか った。以上退院時に,なんらかの症状を遺残し たものは6例(26%)であった。 考 察 考察従来慢性硬膜下1飢腫の好発年齢は50歳代 であるとされて来たが,CTの普及以来,65歳 以上の高齢者の頻度も増加しており,われわれ のシリーズでは2年間に経験した27例中23例が 65歳以上であった。また女性例が30%を占め, 本症の90%以上は男性例であるとする従来の報 告とは異なった年齢,性分布を示した1)2)3)。ま た先行する頭部外傷の程度も転倒,転落など従 来述べられている,軽微な外傷に比しやや重症 な外傷を有しているのが特徴であった。高齢者 において,硬膜下血腫が増加した原因は非侵襲 的なCTの普及により高齢者でも検査を受ける 機会が増加したことによると考えられ,従来は 高齢者における慢性硬膜下」血腫が高率に見逃さ れていた可能性を示唆していると考えられる。 事実本シリーズで認められた意識障害は,“ボ ヶ”症状との鑑別が非常に困難である軽度意識 障害が多く,両者の鑑別は術後の状態,問診な どからはじめて可能であったものが多い。従っ て65歳以上の高齢者においては頭蓋内圧尤進症 状を主体とする若年者と異なり,精神症状ない し意識障害が臨床症状の前面に出てくることが 多く,これに神経症状,特に運動障害が併せ認 められる場合は,頭蓋内圧尤進症状が無くて も,本症の可能性が高いことを念頭において検 査を進める必要がある。このことは高齢者では 脳萎縮が強いため硬膜下腔がひろく頭蓋内圧尤 進を来しにくいことに加え,加齢による脳の1順 応性の低下,動脈硬化,脳循環の異常等が存在 するため,翻重の脳に対する圧迫により全脳機 能の低下をきたし精神症状や意識障害が前面に 出て,同時に局所神経症状として軽度の運動障 害を示すことが多いと説明されている1)2>。さ らに時として認められる突然運動障害で発症す 令 三,他 る脳卒中型の慢性硬膜下血腫が存在することも 念頭におく必要がある。この型の硬膜下」血腫は 脳卒中を来す可能性の高い高齢者ではしばしぼ 脳梗塞脳辻瞼と誤診されることがある。硬膜 下血腫の診断は,頭蓋内疾患の診断に決定的な 進歩をもたらしたCTによりきわめて容易とな った,本症のCT上の所見として,まず異常な 吸収値を示す部位の存在があるが,この異常吸 収値:は,基本となる脳のdensityと比較した high, iso,10w densityの3種類があり,これ に加えて,この3種が混在しているm量xed− densityがある(写真参照)。これらが大脳窺篠 部に内面が凹,凸,あるいは直線状の像として 認められる。造影剤投与により,血腫の被膜が 描出されることもある。一一側性の場合は,血腫 のmass ef〔ectにより,脳室系が変位を来し, iso−densityでも診断は容易であるが,問題は isodensity areaが両側に存在する場合で,この 場合は脳室は両側から圧迫をうけ,正中構造及 び脳室は変位せず,{血腫自体は脳のdensityと 同じなため,誤診を招きやすい。このような場 合,従来からとられている鑑別法は,脳室の変 形や,midline shiftの有無,大脳溝消失の有 無,さらに造影剤投与による血腫腔の描出等を 観察することである。さらに脳血管撮影によ り,両側の無血管野を検索する必要があること が多い。しかし,われわれの症例のように,高 齢者においては,脳血管撮影は侵襲がつよいた め,DSA(digital subtractionangiography,写 真4参照)が有力な検査法となろう。本法は末 野の血管から造影剤を投与することにより,脳 血管が描出され,容易に無血管野を診断できる。 本症の手術法であるが,頭蓋に小穿孔をつく り血腫を除く方法と,大開頭により血腫被膜も 含め血腫を全摘する方法がある。しかしこの」飢 腫全摘術は術後の脳萎縮や痙攣発作などの発生 が多く,また手術侵襲が大きすぎるなどの欠点 があり,現在では石灰化した血腫,infected subdural hematoma,大脳半球裂血腫以外には 行われなくなった。また現在ひろく行われてい る穿頭」血腫除去術にも,穿頭し硬膜切開を加え
写真1
1)2)3).慢性硬膜下血腫CT像;1)10w density,2)iso density,3)high density. 4).慢性硬膜下血腫のdigital subtraction angiography.右大脳半球費二部に無血管野を
80 辻 た後,直ちにドレーンを血腫腔に挿入し,数日 かけて緩徐に血腫を排除する,われわれがとっ た方法と,硬膜切開後血腫を流出させ,血腫腔 を生理食塩水で洗浄する方法とがある。後者の 欠点として,急激に頭蓋内圧を低下させること により, reverse shift of midline structureや, 脳内血腫を生ずることや,血腫洗浄の際,大量 の空気が混入しpneumocephalsをきたすこと があり,回復を遅延させる,等が報告されてい る4)5>。このためわれわれは血腫をゆっくり排 除する方法をとったが,この方法による手術後 のCTで血腫の消失を確認しており,手術後の 合併症を生じやすい高齢者例では本症は特に有 用であるとかんがえられる。治療成績を検討す ると,退院時になんらかの症状を遺残したもの は6例あり,症状を残さなかったものは17例74 %であった。一般の患者群における諸家の報告 では1)2)3),慢性硬膜下!α腫の治癒率はいずれも 90%以上であり,われわれの高齢者における治 癒率はやや悪い。しかし本シリーズでは他の疾 患とされ治療のおくれたもの,脳ヘルニアの状 態で入院したもの,脳血管障害の既往のあるも の等の負の要因をかかえている症例が多かった ことを考えると高齢者でも適確な診断,治療を 行うことにより本症は高率に治癒可能であると 令 三,他 考える。 結 論 高齢者の慢性硬膜下血腫の診断,治療を検討 したが,高齢者においても本症の可能性を念頭 におき,早期に的確な診断を行い,危険の少な い短時間の手術を行うことで良好な予後が期待 できる。 ︶ 1 ︶ 2 ︶ 3 ︶ 4 ︶ 5 文 献 中村紀夫:成人慢性硬膜下血腫一卒中型につい て。内科シリーズ4,脳卒中のすべて,南江堂 :L{7−128, 1971. 中村紀夫:慢性硬膜下血腫,頭部外傷診療のす べて,金原出版,257−227,1974. 深町 彰:慢性硬膜下.血腫一最近7年間に経験 した80症例の臨床的検討.山梨医学,5:80− 85, 1978. Karman Tabaddor:De薮ni£ive Treatmα儀t of chronic subdural hemaωma by twisted−drill cr細iostomy an(l closed−system(lrainage・J・ Neurosurg 46:220−226,1977. Luciano M. Modesti: In毛racerebral hema− toma a釜ter evacuation of chronic extracαe− byal 程uid collect{ons。 Neuros毛1rgery lO: 690− 693, 1982. Chronic Subdural He裏R飢oma in the Age護 Reizo Tsuli, M.1)., Shigeru Mitsuka, M.D., Hideo Sas3ki, M.1)。, Masami Kaneko, M.1)。, Chikara Hosaka, M.D., Akira Fukamachi, M.D.3nd H蓋deaki Nukui, M.D. Wcτetrospcctively ana蓋yzed 23 patients over 65 ycars old wi芝h chronic subdural hematoma treated in the period of I984 to I98(凱On admission, whi王e 70%of the patients presented signs and sy洋ptoms of psychiatric changes, disturbance of consciousness, or motor weakness, oniy 30% 1}ad signs of incrcased iatracra臓ial pressure. This clinical picture in the aged close蓋y Yesembled thc signs罎d symptoms of dementia or cαebral infarction and tende(ho lead a wrong diagllosis. Althougll their average age was 77, among oし夏r 230perate(I cases with closed drainage system, 74%fully recovered a1}d the remaln呈ng 26%had so搬e neuro王Ggical de丑cits on discharge. The hηPortance of con、Putcr三zed tomography for diagnosis anぐ1 good rcsults obtaincd by ear玉y surgical trcatmcnt werc emphas三zed. Key words:Chronic sub(iural hemato1烈a, Aged, Demα1tia, co臓scious disturbance, Closed−systcm (h・amaσe り