安藤 豪 論文内容の要旨
主 論 文
Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome in Cats and
Its Prevalence among Veterinarian Staff Members
in Nagasaki, Japan
(長崎県でのネコの重症熱性血小板減少症候群と獣医スタッフ有病率の調査)
Tsuyoshi Ando, Takeshi Nabeshima, Shingo Inoue, Mya Myat Ngwe Tun, Miho Obata, Weiyin Hu, Hiroshi Shimoda, Shintaro Kurihara,
Koichi Izumikawa, Kouichi Morita, Daisuke Hayasaka
(
Viruses 13(6):1142, https://doi.org/10.3390/v13061142, 2021年)
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長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻
(主任指導教員:森田公一 教授)
【緒 言】
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は中国で最初に報告された後、韓国、日本、台湾、ベ トナムで患者発生が報告されている致死性の急性ウイルス感染症である。SFTS ウイルス (SFTSV)はフタトゲチマダニなどを介して人間や動物に伝搬しヒトでの致死率は 30%を超え る。現在、ワクチンや有効な治療薬はない。
近年、ネコやイヌなどの伴侶動物への感染が報告され、感染動物から獣医師やペットの飼 い主への感染リスクが懸念されている。また、ダニや歩哨動物調査による SFTSV の疫学研究 は流行地域における感染予防において重要な情報である。
この研究では、長崎県のネコにおける SFTSV 感染について調査を行い、陽性検体よりウイ ルスを分離しその病原性の評価分子疫学解析を実施した。さらに伴侶動物からのヒト感染リ スクについて、獣医師及び動物看護師に対する血清疫学的調査を行った。
本研究結果はネコが歩哨動物となる可能性、長崎県における SFTSV の分子疫学、及び人獣 共通感染症としての感染リスク評価に関して有用な知見である。
【対象と方法】
2018 年 3 月から 2020 年 3 月まで長崎獣医協会の支援により長崎県下の動物病院から SFTS 疑いのネコ 133 例の血清や血漿、口腔・直腸・結膜スワブを収集し、リアルタイム RT-PCR に よるウイルス RNA の検出を行った。
陽性となった血液検体をマウスに投与し発症したマウスより脾臓を採取した。脾臓はウイ ルスの分離及びゲノム配列決定に供した。分離したウイルスの S、M 及び L セグメント遺伝子
の配列を次世代シーケンサーで解読し、RAxML バージョン 8.2 を使用してそれぞれのセグメ ントに対する GTRGAMMAI モデルによる系統樹を最尤法にて構築した。
病原性解析については 103ffu の分離株を Vero E6 細胞に接種し感染後 3 日までのウイルス 増殖を比較した。また、10 及び 103ffu の分離株を感染モデルマウスに投与し、体重変化や臨 床症状の差異を観察した。
獣医スタッフの感染リスク調査では長崎県下の動物病院の獣医師と動物看護師の血清検体 を採取し、SFTS ウイルス感染 Huh-7 細胞ライセートを抗原とした間接 ELISA により特異的 IgG を検出した。陽性となった検体はフォーカス減少中和試験による中和抗体価の測定を行った。
【結 果】
SFTS 疑いネコ 133 例のリアルタイム PCR 検査の結果、44 例(33.1%)が陽性であった。陽 性となったネコは長崎県に広く分布していた。血清及び口腔スワブ、直腸スワブ、結膜スワ ブでは、それぞれ 41、22、18、4 例が陽性であった。血液検体で陽性であった個体のほとん どがスワブ検体でも陽性を示した。
30 例の PCR 陽性検体から SFTSV を分離し、S、M 及び L セグメントの配列を同定し、最尤法 による系統樹解析を行った。分離された株のほとんどがすべてのセグメントにおいて J1 遺伝 子型として分類されたが、NFe94 株は J3 遺伝子型に分類された。NFe88 株と NFe11 株につい ては、S セグメントは J2 遺伝子型、M 及び L セグメントは J および C 遺伝子型の外側に分類 されたことから遺伝子再集合ウイルスである可能性が示唆された。
ネコの死亡例と回復例から分離したウイルス株の病原性比較では、Vero E6 細胞における ウイルス増殖性及び感染モデルマウスの致死率において両者に有意差は見られなかった。
獣医スタッフ 71 名の SFTSV に対する抗体価は、3/71 例(4.2%)が IgG 陽性を示し、うち 2 例はそれぞれ 1:160 および 1:640 の中和抗体価を示した。
【考 察】
2018 年 3 月から 2020 年 3 月までの期間において、長崎県では 44 例の感染猫が同定され、
SFTSV が県内に広く分布することが確認された。ネコにおいては発熱や白血球・血小板減少 などのヒトと類似した症状を示し若い個体への感染も確認され、ヒトよりも高い致死率
(58.0%)を示した。
分子疫学解析の結果、長崎県には主に J1 遺伝子型が分布しており佐世保地域のネコから分 離された NFe88 株と NFe11 株は、それぞれ中国と韓国で分離された ZJ2014-01 株と KADGH4 株 と同じクラスターに分類され、遺伝子再集合体である可能性が示唆された。これらの株は各 国の流行地域における SFTSV の広がりを解明する手がかりとなる可能性がある。
重症度の異なるネコから分離したウイルス株間で増殖性及びマウスでの病原性に差異がみ られず、ネコが示す高い病原性の解明には宿主因子に焦点を当てた更なる研究が必要である。
感染ネコの体液からはウイルス遺伝子が検出され、獣医スタッフにおいて 3 例が抗体陽性 であったことから感染動物への曝露による感染リスクが示され、獣医スタッフや飼い主に対 する適切な感染予防措置の必要性が示された。
2018 年から 2020 年の間に長崎県では 47 例のネコの SFTS 症例及び 18 例のヒトの症例が確 認された。SFTS の発生頻度は猫の方が高く、感染動物の検体からウイルス分離が可能である こと、場所や臨床転機、年齢などといった情報が入手しやすいという利点があり、ネコが SFTSV の地理的分布、分子疫学調査、病原性の調査に用いる歩哨動物として有用であると思われる。