博 士 ( 獣 医 学 ) 真 田 崇弘
学 位 論 文 題 名
Development of the anlmal model resembling hantavlrus infection in natural rodent hosts and isolation of hantavlrus uslnganewly established cell line derived fromaw11drodentSpeCieS
(自然宿主でのハンタウイルス感染に類似した動物モデルの確立および 新たに樹立した野生げっ歯類由来細胞を用いたハンタウイルスの分離)
学位論文内容の要旨
ハンタウ イルスは ネズミ目や トガリネ ズミ目などの小型哺乳動物を自然宿主とし たウ イ ルス で 、 人に感染 すると腎 症候性出 血熱(HFRS)やハン タウイル ス肺症候 群
(HPS)といった重篤な疾患を引き起こす。ハンタウイルス感染症は世界各地において
年間 数 万人 も の 患者 が 発 生し て おり 、 公 衆衛 生 学上 重 要 な問 題 とな っ て いる。
ハンタウ イルスは これまで40種 類以上ものウイルスが報告されており、それぞれ が特有の 種の小型 哺乳動物に おいて症 状を示すことなく持続的に維持されている。
しかし、 ウイルス の分離が困 難なこと から一部のウイルスしか分離されておらず、
ハンタウ イルスの 性状につい て明らか にされていない点が多い。また自然宿主にお ける感染 機構や感 染様式はい まだ不明 な点が多い。これらを解明することはハンタ ウイルス 感染症の 予防や人に おける病 原性との違いを把握するうえで非常に重要な 知見となる。そこでin vivoとin vitroにおいてハンタウイルスの感染様式を解明するた めの研究を行った。
ま ずは、自 然宿主に おけるハン タウイルス感染を模した動物モデルの構築を行っ た 。ハンタ ウイルス は自然宿主 である小型哺乳動物においては感染しても症状を示 す ことはな く長期間 に渡って持 続的な感染が成立する。しかし、現在、自然宿主に お けるハン タウイル スの持続感 染を解析できるような実験動物系がないために、い ま だ本ウイ ルスが持 続感染を起 こすメカニズムは解明されていない。そこで自然宿 主 に お け る ハ ン タ ウ イ ル ス 感 染 に 類 似 し た 動 物 モ デ ル の 確 立 を 試 み た 。 4週 齢 のシ リアン ハムスタ ーにハン タウイル スに属す るPuumalaウイルス(PUUV) を 皮下接種 し、実験 感染させた ところ、PUUVのウイルス遺伝子が肺で最も多く検出 さ れ、腎臓 、脾臓、 心臓、肝臓 および脳の各種臓器からも検出された。またウイル ス 遺伝子量 は感染後14日目がピー クとなり、その後、中和抗体の誘導に伴い各種臓 器 でのウイ ルス遺伝 子量は減少 するものの、感染後70日までウイルス遺伝子が検出 さ れた。病 理学的解 析の結果、 感染後14日目の個体の肺、腎臓、副腎および小脳に お いてウイ ルスの抗 原が検出さ れた。肺、副腎および小脳においてわずかな炎症反 応 がみられ たものの その他臓器 では顕著な病変はみられず、また体重減少や臨床症 状 もみられ なかった 。
中 和抗体存 在下にも かかわらず 、持続的に感染するという特徴は自然宿主におけ
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る ハ ン タ ウ イ ル ス の 感 染 様 式 と 類 似 し て い る 。 こ れ ま で 新 生 動 物 や 免 疫 不 全 動 物 を 用 い た 持 続 感 染 モ デ ル の 報 告 は あ っ た も の の 通 常 の 実 験 動 物 を 用 い て 本 ウ イ ル ス の 持 続 感 染 を 再 現 し た 系 は な く 、PUUV感 染 ハ ム ス タ ー の 系 は 、 今 後 自 然 宿 主 に お け る ハ ン タ ウ イ ル ス の 持 続 感 染 機 構 を 解 明 す る う え で 有 用 な モ デ ル に な る と 考 え ら れ る 。
続 い て ハ ン タ ウ イ ル ス の 宿 主 と な る 野 生 げ っ 歯 類 よ り 細 胞 株 を 樹 立 し 、 ハ ン タ ウ イ ル ス 分 離 へ の 応 用 を 行 っ た 。 従 来 、 ハ ン タ ウ イ ル ス に 関 す る 協vitroで の 研 究は 主 に ア フ リ カ ミ ド リ ザ ル の 腎 臓 に 由 来 す るVeroE6細 胞を 用 いて 行わ れて きた 。し かし 、 VeroE6細 胞 中 で の ハ ン タ ウ イ ル ス の 増 殖 は 遅 く 、 ウ イ ル ス の 分 離 も 非 常 に 困 難 で あ っ た 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 ハ ン タ ウ イ ル ス の 自 然 宿 主 で あ る エ ゾ ヤ チ ネ ズ ミ(Myodes ruらcロ門 sろeめ白′dぬg)の 腎臓より新たな培養細胞株を樹立した。さらに本細胞株を用 い て 、 未 だ 分 離 さ れ て い な い ハ ン タ ウ イ ル ス の 一 種で あ るHokkaidoウ イル ス(HOKV) の分 離を試みた。
工 ゾ ヤ チ ネ ズ ミ の 腎 臓 細 胞 よ り 、 安 定 し た 性 質 を 持 つ 培 養 細 胞 株 を 得 る こ と に 成 功 し 、MRK101細 胞 と 命 名 し た 。MRK101細 胞 の 各 種 ハ ン タ ウ イ ル ス に 対 す る 感 受 性 を 解 析 し た 結 果 、A妙DdeJ属 の げ っ 歯 類 を 宿 主 と す るPUUVに 対 し て 高 い 感 受 性 を示 し た 。一 方 で、 伽Ddピm ぷ 属を 宿主 と するHantaanウイ ルス 感染 に 対し ては ほと んどフオ ー カ ス の 形 成 は 見 ら れ な か っ た 。 ま た 本 細 胞 株 を 用 い る こ と に よ り 、 エ ゾ ヤ チ ネ ズ ミ を 宿 主 と す るHOKVの 分 離 に 成 功 し た 。 分 離 さ れ たHOKVの 遺 伝 子 解 析 を 行 っ た 結 果 、S,Mお よ びL遺 伝 子 の い ず れ に お い て もHFRSの 病 原 体 で あ るPUUVと 最 も 近 縁 で 、 ア ミ ノ 酸 配 列 の 一 致 率 はSで は94〜96% 、Mで は90〜92% 、Lで は95〜96% であ っ た 。 ま た 系 統 樹 解 析 に お い て もS,M, お よ びL遺 伝 子 と も にHOKVはPUUVと 最 も 近 縁 で あ っ た 。 さ ら に 、 分 離 さ れ たHOKVをMRK101細 胞 お よ びVeroE6細 胞 に 感 染 さ せ た と こ ろ 、HOKVはMRK101細 胞 で の み 増 殖 が 見 ら れ 、VeroE6細 胞 で の 増 殖 は 見 ら れ な かっ た。
以 上 の 結 果 が 示 す よ う にMRK101細 胞 株 を 用 い る こ と で ハ ン タ ウ イ ル ス の 分 離 が 容 易 に な る 可 能 性 が 示 さ れ た 。 ま たHOKVは 宿 主 で あ る エ ゾ ヤ チ ネ ズ ミ を 由 来 と す る 細 胞 中 で は 増 殖 す る も の の 、VeroE6細 胞 中 で は 増 殖 で き な い こ と が 明 ら か と な っ た こ と か ら 、HOKV以 外 で もVeroE6細 胞 で の 増 殖 性 が 低 い た め に 分 離 さ れ て い な い ハ ン タウ イルスが多く存在する可能性が示唆された。
本 研 究 に お い て 確 立 さ れ た ハ ン タ ウ イ ル ス の 持 続 感 染 動 物 モ デ ル や 、 自 然 宿 主 由 来 の 細 胞 株 、 お よ び 本 細 胞 株 を 用 い て 分 離 さ れ たHOKVは 、 自 然 宿 主 に お け る ハ ン タ ウ イ ル ス の 感 染 様 式 を 解 析 す る う え で 非 常 に 重 要 な ツ ー ル と な る と 考 え ら れ る 。 今 後 こ れ ら を 用 い て 、 ハ ン タ ウ イ ル ス と 宿 主 と の 相 互 作 用 が 分 子 レ ベ ル で 解 明 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。
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学位論文審査の要旨 主査 副査
副査 副査
准教授 教授 教授 講師
苅和 大橋 高田 長谷部
学 位 論 文 題 名
宏明 和彦 礼人 理絵
Development of the anlmal model resembling hantavlrus 1nfeCtioninnaturalrodenthOStSandiSOlationof hantaVlruSuSlnganeWlyeStabliShedCe111inederiVed fromaW11drodentSpeCleS
( 自 然 宿 主 で の ハ ン タ ウ イ ル ス 感 染 に 類 似 し た 動 物 モ デ ル の 確 立 お よ び 新 た に 樹 立 し た 野 生 げ っ 歯 類 由 来 細 胞 を 用 い た ハ ン タ ウ イ ル ス の 分 離 ) ハンタウイルスはネズミ目やトガリネズミ目などの小型哺乳動物を自然宿主とし たウイルスで、人に感染すると腎症候性出血熱(HFRS)やハンタウイルス肺症候群 (HPS)などの重篤なハンタウイルス感染症を引き起こす。世界各地において年間数万 人ものハンタウイルス感染症の患者が発生しており、公衆衛生上重要な問題となっ ている。ハンタウイルスはこれまで40種類以上ものウイルスが報告されており、そ れぞれが特有の種の小型哺乳動物において症状を示すことなく持続的に維持されて いる。しかし、ウイルス分離が困難なことから一部のウイルスしか分離されておら ず、ハンタウイルスの生物学的性状は明らかにされていない点が多い。また自然宿 主におけるウイルスの持続感染機構はいまだ不明な点が多い。そこでjnyjレ0とjn yjtr0においてハンタウイルスの感染様式を解明するための実験系の構築を試みた。
4週齢のシリアンハムスターにハンタウイル′スの一種であるPuumalaウイノレス (PUUV)を皮下接種し、実験感染させたところ、ウイルス遺伝子は肺で最も多く検出 され、腎臓、脾臓、心臓、肝臓および脳の各種臓器からも検出された。またウイル ス遺伝子量は感染後14日目がピークとなり、その後、中和抗体の誘導に伴い各種臓 器でのウイルス遺伝子量は減少するものの、感染後70日までウイルス遺伝子が検出 された。病理学的解析の結果、感染後14日日の個体の肺、腎臓、副腎および小脳に おいてウイルス抗原が検出された。肺、副腎および小脳においてわずかな炎症反応 がみられたもののその他臓器では顕著な病変はみられず、また体重減少や臨床症状 もみられなかった。中和抗体存在下にもかかわらず、無症状で持続感染するという 特徴は自然宿主におけるハンタウイルスの感染様式と類似している。これまで新生 動物や免疫不全動物を用いた持続感染モデルの報告はあったものの、通常の実験動 物を用いて本ウイルスの持続感染を再現した系はなく、PUUV感染ハムスターの系は、
今後自然宿主におけるハンタウイルスの持続感染機構を解明するうえで有用なモデ ルになると考えられる。
エゾヤチネズミから得られた腎臓の細胞を継代培養し、培養細胞株の樹立を試み
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たとこ ろ、100代以上継代しても安 定した性質を持つ培養細胞株を得ることに成功し た。本 細胞株をMRK101細胞と命名し、各種ハンタウイルスに対 する感受性を解析し た結果 、Myodes属のげっ歯類を宿主とするPUUVに対して高い感受性を示した。一方、
Apodemus属 を 宿主とするHantaanウイルス 感染に対してはほとんどフオーカスの形 成が見 られなかった。また本細胞株を用いることにより、エゾ ヤチネズミを宿主と するHokkaidoウイルス(HOKV)の分離に成功した。分離されたHOKVの遺伝子解析を行 った結 果、S、MおよびL遺伝子のい ずれにおいてもHFRSの病原体であるPUUVと最も近 縁で、 アミノ酸配列の一致率はSで は94〜96%、Mでは90〜92%、Lでは95〜96%であっ た。ま た系統樹解析においてもS、M、およびL遺伝子ともにHOKVはPUUVと最も近縁で あった 。さらに、分離されたHOKVをMRK101細胞およびVeroE6細 胞に感染させたとこ ろ、HOKVはMRK101細胞でのみ増殖が見られ、VeroE6細胞での増殖は見られなかった。
このよ うに、MRK101細胞を用いることでハンタウイルスの分離が容易になる可能性の あるこ とが示された。
本研 究において確立されたハンタウイルスの持続感染動物モ デルや、エゾヤチネ ズミ由 来の細胞株であるMRK101細胞、および本細胞株を用いて 分離されたHOKVは、
自然宿 主におけるハンタウイルスの感染様式を解析するうえで 非常に重要なツール となる と考えられる。
以上の研究業績は 、ハンタウイルス感染症の研究遂行上障害となっていた問題点 を解決したものとし て高く評価される。よって審査員一同は、上記博士論文提出者 真 田崇 弘氏 の博 士論文は、北海道大学大学院獣医学研究科規程第6条の規定による 本研究科の行う博士 論文の審査等に合格と認めた。
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