第 5 章 結論
本研究では、従来報告されている部分酸化型白金一次元鎖が結晶状態では維持されてい るものの溶液内では一次元鎖を維持できないという問題点に着目し、希薄溶液でも取り扱 いが可能な部分酸化型直鎖状白金多核錯体を合成することを目的とした。希薄溶液でも取 り扱い可能な白金一次元鎖の構築が可能となれば、従来観察が困難であった白金一次元鎖 の溶液内挙動の観察が可能になるのは勿論のこと、単一分子エレクトロニクスにおけるナ ノワイヤー構築の足掛かりも得られるものと考えられる。既知の部分酸化型白金一次元鎖 が希薄溶液において解離する際に、解離反応はいずれの場合も非架橋部位で起こっている ことに着目し、具体的な合成ターゲットとしては全ての白金が架橋された部分酸化型アミ ド架橋白金多核錯体を目指すこととした。様々な検討を行った結果、本博士論文では以下 の知見が得られた。
白金多核錯体の配位平面の配位子置換反応により多核化を行う逐次合成と、白金単核錯 体の配位平面の配位子置換反応により多核化を行う自己組織化という、大きく分けて二通 りのアプローチにより、全ての白金がアミドで架橋された白金ナノワイヤーの合成を検討 した。
逐次合成では、部分酸化を受けた白金多核錯体の配位平面の配位子置換反応が進行しな いことが見出されたため、配位子や反応条件を適切に選択して、白金二価の状態を維持し たまま逐次合成を進行する手法を新たに生み出した。しかし、それでも多核化に伴い配位 平面の配位子が置換され難くなり、さらに様々な副反応が進行してしまうために、この逐 次合成による多核化は困難を極めた。白金二核錯体は単離可能であるが、それ以上の核数 を有する白金多核錯体は、合成は可能であるものの非常に不安定であるために単離はでき なかった。この逐次合成における種々の問題点について、分子軌道論に基づく考察を基に 詳細な検討を重ねることで、多核錯体の配位平面の配位子置換反応を必要とする合成戦略 がナノワイヤー合成に適していないという知見が得られた。
逐次合成における検討で得られた知見を基に、白金単核錯体の配位平面の置換反応を繰 り返す反応様式に合成戦略を変更することで、自己組織化により白金ナノワイヤーの構築 を達成した。得られた白金ナノワイヤーは高希釈条件下でも白金鎖を維持しており、合成 におけるターゲットモデルが妥当であることが示された。
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従来、部分酸化型白金一次元鎖は、結晶状態でしか高い導電性を示さないことが知られ ていたが、バンドギャップ計算や導電率測定を行うことにより、今回得られた白金ナノワ イヤーは結晶状態でなくても非常に高い導電率を示すことが見出された。これは、架橋配 位子により全ての白金核を架橋することで、結晶状態でなくても白金一次元鎖を維持でき ていることに由来するものと思われる。
また、逐次合成による白金ナノワイヤーの合成法を模索した際に、白金多核錯体の配位 平面の配位子置換反応が可能であることを見出した。本手法は、従来合成が達成されてい なかった白金三核錯体の合成などの新規多核錯体合成の礎となっている。
軸配位子としてacetonyl等の電子受容基を有し、配位平面にhalide配位子を有する白金三価 二核錯体から、白金五核錯体の構築が可能であることを見出した。従来、奇数核の多核錯 体の合成は困難であることが知られており、白金でもそれは同様である。これに対して、
今回の検討では白金五核錯体が得られている。しかも、この白金五核錯体は電子が非局在 化している混合原子価錯体であることも明らかとなった。また、白金五核錯体は非架橋部 位を有しているにも拘らず、希薄溶液内で白金鎖を維持できることが明らかとなった。こ の白金五核錯体生成の駆動源を各種実験と理論計算の両面から考察することで、白金のみ ならず、通常dz2軌道方向に結合を形成し難いことが知られているパラジウムでも同様に、
五核錯体が得られることを見出した。白金とパラジウムがdz2軌道方向に結合を形成してい るこの白金パラジウム五核錯体は、極めて希少価値の高い錯体である。
以上のように、本研究では高希釈条件下でも白金鎖が維持される高導電性の白金ナノワ イヤーの合成に成功した。また、希薄溶液内でも白金鎖を維持し得る部分酸化型白金多核 錯体の合成に関して多様な知見と共に各種錯体を得ることに成功している。これらの知見 は、長い歴史を誇る白金の化学においても、一石を投じることができたと考えられる。
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謝辞
本学位論文は、2001年3月以降2006年6月までの間に元早稲田大学理工学部化学科 松 本和子 教授のご指導のもとで、2006年7月以降現在までの間に同化学科 石原浩二 教授の ご指導のもとで行われた金属−金属間結合を有するアミド架橋直鎖状白金多核錯体の合成 と性質に関する研究成果を集約したものです。
突然の出来事にも関わらず暖かく私達学生を受け入れ、親身にご指導下さりました 石原 浩二 教授に、心より感謝いたします。暦の上では非常に短い期間でしたが、石原先生と多 くのディスカッションを重ねることで白金の化学の面白さを再認識し、本研究の価値を今 一度見つめなおすことができました。本当にありがとうございます。
非常に限られた日程の中、ご多忙にも関わらず本学位論文の作成にご尽力賜りました、
早稲田大学理工学部化学科 山口正 助教授、東京大学工学部応用化学科 河野正規 助教授 に厚く御礼申し上げます。
研究室に配属以来、約6年にわたってご指導、ご鞭撻を賜りました、松本和子 先生に心 より感謝致します。
計算化学の面から白金多核錯体の諸性質の解明に取り組み、本研究に多くの知見を与え て下さった早稲田大学理工学部化学科 中井浩巳 教授、同研究室 中田彩子 博士、田上貴 裕 氏に心より感謝致します。試料の基板上での振る舞いを考慮し様々な形状における白金 ナノワイヤーの導電率測定を行い、本研究に多大な知見を与えて下さった東京大学工学部 物理学科 伊藤耕三教授、酒井康博 博士、森下 英郎氏に心より感謝致します。徳島文理大 学香川薬学部創薬学科 山口健太郎 教授、日本電子(株) 分析機器本部 小沼純貴 氏、早
稲田大学NTRC 和田恭雄 教授にも心より感謝致します。
本研究の要となる各種測定を行うにあたり、専門的見地から機器分析測定法に関するご
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指導、ご助言を賜り、また常に親身に見守り続けて下さいました、早稲田大学物性計測セ ンターラボの皆様に厚く御礼申し上げます。
松本研究室の先輩として、学会会場にて適切な助言を下さいました九州大学理学部化学 科 酒井健 教授に心から感謝致します。
学位取得者の先輩として、専門的知見に基づく助言をそれぞれ下さった、牧内正男 博士、
橋野仁一 博士、福井孝一 博士、陳万芝 博士、五十嵐庸 博士、杉山浩康 博士、西岡琢哉 博士、山口佳則 博士、Brian K. Breedlove 博士、岩月聡史 博士、久保和也 博士、植村一宏 博士に深く感謝致します。
多くの時間研究を共にし、実験を初歩から教えて頂きました 落合真彦 博士に心より感 謝致します。また、落合氏と共に、公私にわたりご厚情賜りました山田陽子 氏、真島桂介 博士、三澤英絵 修士、石津澄人 修士、井上雅大 博士、中田彩子 博士ならびに松本研究 室卒業生の皆様に深く感謝致します。
本学位論文に多大なるご協力を賜りました、亀山敦史 修士、齊藤祐介 修士、木下修平 修 士、福島俊介 学士、石上達彦 学士、赤塚将史 修士、山崎加奈 学士、吉浪雄亮 学士、阿 部紀子 学士、筬島秀幸 学士を初めとする元松本研究室のメンバーの皆様に深く感謝致し ます。数多の苦難を乗り越えてここまで来られたのは皆さんのおかげです。
最後に、本研究に理解を示し、様々な面から多大なる支援を賜りました、父 和孝、母 和 子(晴枝)、両親同様常に見守り続けて下さった大草敏文、裕子にこの場を借りて最大限の 感謝の意を表します。
2007年3月 早稲田大学理工学部化学科 石原研究室 新井彩子
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