第6章 結 論
第 6 章 結 論
本論文では,ガソリンエンジンの燃費を向上するための技術として近年普及が進む可変 バルブタイミング機構を,ディーゼルエンジンの排出ガス低減に用いるための新たな利用 方法とそれによって可能となるディーゼル燃焼コンセプト(Miller-PCCI燃焼)を提示した.
本章では,実験と数値解析により得られた Miller-PCCI 燃焼に関する知見を要約し,今後 の課題と本研究の発展性について述べる.
6.1 得られた知見の概要
ディーゼルエンジンは,ガソリンエンジンに比べて熱効率が20~30%高いことから,地 球温暖化対策に有望な原動機である.しかしながら,ディーゼル車はNOxと黒煙・粒子状 物質(PM)を多く排出し,大気汚染への影響度がガソリン車を大きく上回っている.この ため日米欧では,ディーゼル車の排出ガスに対する大幅な規制強化が2010年前後に予定あ るいは検討されている.自動車メーカでは,これらの規制への適合を目指し,燃料性状の 改善を前提に,燃焼技術と排気後処理技術の組み合わせにより大幅な排気浄化を実現する ための対策技術の開発・実用化を最も重要な課題として取り組んでいる.
近年,希薄な予混合気を圧縮自己着火させることにより,NOxとPMを抜本的に低減で きる燃焼方式である予混合圧縮着火燃焼(HCCI:Homogeneous Charge Compression Ignition)
が見出された.ディーゼルエンジンにおいて可能となる予混合圧縮着火燃焼は,混合気が Homogeneousになりきらないことから一般的にPCCI(PCCI: Premixed Charge Compression Ignition)燃焼と呼ばれる.従来のディーゼルエンジンと同様に,上死点近傍における筒内 直接燃料噴射を用いた場合においても,予混合化を促進させることができれば,混合気内 に存在する局所的な燃料過濃領域を抑制し,PCCI燃焼が実現することが報告されている.
この燃焼は,NOxに加え,ディーゼル酸化触媒で除去できないPM中のSoot成分をエンジ ン燃焼で同時に低減できる点にメリットがある.したがって,この燃焼法の確立は,排気 後処理システムの負担を大幅に軽減できる可能性を有する.しかしながら,ディーゼルエ ンジンにおいて着火前に燃料と空気が十分に混合した予混合気を形成するためには,軽油 の過早着火を防ぐ着火時期制御手法の確立が不可欠となる.
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筒内に噴射した燃料の着火遅れを長期化する方針としては,圧縮比を低下させ,圧縮行 程後期のガス温度を低温化する方針が考えられる.しかしながら,機械圧縮比を低減する と,燃費の悪化は免れない.
そこで本研究では,着火遅れを長期化し着火前に燃料と空気の予混合化を促進させるた めの着火時期制御手段として,ディーゼルエンジンに可変バルブタイミング機構(VVT:
Variable Valve Timing Mechanism)を導入した.これを用いて,圧縮行程中の吸気バルブの 閉弁時期を遅延することで,有効圧縮比を低下させることとした.これにより,燃焼反応 の支配因子である圧縮端のガス温度の直接的な制御が可能となり,必要な着火遅れが得ら れるうえ,膨張比は低下させずに済むため,膨張仕事を確保することができる.本論文で は,このようなミラーサイクルを適用したPCCI燃焼を実現し,NOxとSootの同時低減に つながるディーゼル燃焼制御の方向性を提示することを目的とした.さらに,本燃焼法が 有する排出ガスの低減効果についてKIVA3Vを用いて数値解析を行い,排出ガスの低減メ カニズムを明らかにする.
本研究では,乗用車に搭載されるサイズのターボインタークーラ付き直噴ディーゼルエ ンジンを想定した単気筒エンジンを用いて定常のエンジンベンチ試験を行った.供試燃料 は,標準的な市販軽油である.
乗用車用ディーゼルエンジンにおいて使用頻度の高いエンジン回転数 1800 rpm におい て,負荷率を33%(IMEP:0.75 MPa)まで増加させると,多量EGRと高圧噴射といった 従来の燃焼制御技術のみではNOxの排出は低減できてもSootの排出を抑制することがで きず,PCCI燃焼の成立は極めて困難であった.そこで本研究では,この負荷率に対し,多 量EGRを前提としたうえで,吸気バルブの遅閉じ(LIVC: Late Intake Valve Closing)によ って有効圧縮比を低下させる低圧縮比・高膨張比制御を適用した.その結果,LIVC によ り燃焼反応の支配因子である圧縮行程の平均ガス温度が低温化するため,着火時期をベー スラインと同等に制御したうえで,燃料噴射時期を進角できることを明らかにした.これ により,燃料と空気の予混合時間が長期化し,燃料噴射終了後に着火するPCCI 燃焼を成 立させることができた.このことから,有効圧縮比の可変制御は,混合気の着火時期に対 して高い制御自由度を有することを実証した.本論文において,低圧縮比・高膨張比サイ ク ル を 用 い る こ と で 実 現 し た PCCI 燃 焼 を ミ ラ ー サ イ ク ル を 用 い て い る こ と か ら
Miller-PCCI 燃焼と呼ぶ.これにより,高圧燃料噴射を行っても Soot の低減が困難であっ
たベースライン条件と比較して,NOx と Soot の大幅な同時低減が可能となることを明ら
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かにした.
ここで,LIVC は筒内に導入した吸気ガスの一部を圧縮行程中に吸気ポートに逆流させ て戻してしまうため,燃焼に使われる空気量は減少することになる.それにもかかわらず Sootが大幅に低減したのは,LIVCに伴う空気過剰率の低下によってSootが増加する効果 に比べ,予混合化の促進によりSootの生成が抑制される効果が支配的になった結果である と推察された.また,Miller-PCCI燃焼では,LIVCに伴い動作ガスの熱容量が低下するた め,排気温度の上昇,排出ガス流量の減少につながる.したがって,Miller-PCCI 燃焼は,
排気後処理システムと併用した場合に,その触媒活性を向上できる可能性を有する.さら に,LIVC により最高燃焼圧力や最高圧力上昇率も低減するため,燃焼騒音やエンジンに かかる機械的な負荷が軽減する特徴も有することを示した.
さらに,Miller-PCCI燃焼においてNOxとSootの大幅な同時低減が可能となったメカニ ズムを数値解析により明らかにした.本論文では,KIVA3Vによる 3 次元解析とφ-Tマッ プを練成させて,混合気形成過程と燃焼温度に着目し考察を加えた.その結果,燃料噴射 期間中に着火が起こる従来のディーゼル燃焼条件では,着火直前において局所的に高い当 量比域を有する不均一な混合気が形成されているのに対し,予混合気を形成するための長 い着火遅れを有する Miller-PCCI 燃焼条件では,着火前までに局所的に濃い領域を持たな い混合気が燃焼室内に形成されていることを明らかにした.従来燃焼ではSootの生成域を 不可避的に通過していたが,Miller-PCCI燃焼では着火までに燃料と空気の混合が促されて おり,それゆえSootの生成域を回避した燃焼が可能となっていることを確認した.言い換 えれば,全体の空気過剰率が低くても,十分な予混合化の促進により局所的な燃料過濃域 が抑制できれば,Sootの排出を抑制できるといえる.したがって,Miller-PCCI燃焼は,Soot の酸化を利用した燃焼ではなく,Sootの生成自体を抑制した燃焼であることを導いた.一 方,燃焼温度に関しては,拡散燃焼を主体とした従来燃焼条件では燃焼室内で局所的に燃 焼温度が高い領域が存在するのに対し,Miller-PCCI燃焼条件では,燃焼室内のほぼ全域か ら熱発生が起こり,局所的な高温領域は存在しないことを明らかにした.すなわち,
Miller-PCCI燃焼では,低温ディーゼル燃焼(LTC: Low Temperature Combustion)が実現し ていることが示唆された.これにより,NOxの生成域を回避することが可能となった.
以上より,Miller-PCCI燃焼は,Sootの生成につながる混合気の局所的燃料過濃部ばかり でなく,NOx の生成につながる局所的な高温領域をも回避する燃焼が可能となっており,
このことがNOxとSootの同時低減が実現した理由であると考えられた.したがって,こ
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のような混合気形成,燃焼温度を実現することが,ディーゼルエンジンにおいて NOx と Soot を低減するための燃焼制御の方向性の一つであることを明らかにした.また,この
Miller-PCCI燃焼は,幅広いエンジン回転数領域に渡って同様の排出ガスの低減効果を有す
ることを確認した.
しかしながら,負荷率を増加させると,過給圧および燃焼室の内壁温度が上昇するため,
着火遅れが長期化しにくくなり,PCCI燃焼の実現が極めて困難になる.例えば,45%負荷 率の条件において,EGR により NOxを低減させた場合に対し LIVCを適用したが,予混 合時間の長期化によるSootの抑制効果よりも,空気量が低下する効果が支配的となり,逆 にSootは大幅に増加する傾向が認められた.
そこで,この負荷率において PCCI 燃焼を成立させるための検討を行った.ここでは,
空気量の低減につながる有効圧縮比の低下を最小限とするため,膨張行程中の筒内温度低 下を予混合時間の長期化に利用できるよう,燃料噴射時期の遅角化(HPLI: High Pressure
Late Injection)を併用することとした.その結果,膨張行程中の筒内温度低下およびLIVC
による圧縮端のガス温度の低減効果により,45%負荷率においても着火までに燃料と空気 の予混合時間を確保できることがわかった.これにより,NOx の低減が可能となる多量 EGR 条件下において Soot の大幅な低減が可能となることを明らかにした.ここでも予混 合化の促進により,燃焼期間中の混合気に局所的に含まれる高当量比・高温域が回避され,
Sootの生成自体が抑制されていたことを数値解析により確認した.このときのIMEPは1.04 MPaであるが,膨張行程中の燃焼となることから最大圧力上昇率が低減し,燃焼騒音も大 幅に抑制された.このように,負荷の高い条件においては,EGR を用いて NOxを低減し た上でHPLIを組み合わせたMiller-PCCI燃焼を行うことにより,NOx,Soot,燃焼騒音の 同時低減が可能となることを明らかにした.さらに,LIVC は,排出ガス流量の減少,排 気温度の上昇に寄与する.しかしながら,LIVC による空気量の低下を補うために HPLI を併用する必要があるため,この負荷域では大幅に排出ガスは低減するものの燃費の悪化 が避けられない結果となった.
以上の検討をもとに,国で定められた過渡試験モードを走行する際に使用頻度の高いエ ンジン回転数,負荷条件に対し,Miller-PCCI燃焼を適用した際の排出ガスの改善率を調査 し,本燃焼法のロバスト性を評価した.極低負荷条件においては,燃料噴射圧が低い条件 下でも大量のEGRを行うだけで,NOxとSootの同時低減が可能となる.それ以上の負荷 では,高圧燃料噴射を行ってもEGRを行った場合にはSootが増加し始めるが,いずれの
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運転条件においても,Miller-PCCI燃焼の適用によってEGR条件下でのSootの大幅な抑制 効果が顕著に現れた.すなわち,本論文で提案したMiller-PCCI燃焼の特徴は,大幅なNOx の低減が可能となる高EGR率条件下において,混合気の混合促進によりSootの抜本的な 低減が可能となることである.したがって,本燃焼法は,Sootが増加するため従来は適用 されなかった高EGR 率条件下でのSootの低減法を示唆するものである.本論文では,自 動車用のディーゼルエンジンにおいて使用頻度の高いIMEP: 1.3 MPaまでの幅広い運転条 件に対して,Miller-PCCI燃焼の適用が可能であることを実証し,NOxとSootの抜本的な 低減につながるクリーンディーゼル燃焼制御の方向性を明らかにした.
6.2 今後の課題と研究の発展性
本論文で提案した Miller-PCCI 燃焼コンセプトの適用により,乗用車ディーゼルエンジ ンにおいて使用頻度の高い運転条件において,NOx と Soot を大幅に同時低減できる可能 性を示した.これまでに国内外の学会やシンポジウムで本研究の内容を講演する中で,多 くの研究者から引用を受けることができた.本研究が引用された文献の一例を以下に示す.
(1) Nevin R.M., Sun Y., Gonzalez M.A. and Reitz R.D., “PCCI Investigation Using Variable Intake Valve Closing in a Heavy Duty Diesel Engine”, SAE Paper 2007-01-0903, (2007).
(2) Kodama Y., Nishizawa I., Sugihara T., Sato N., Iijima T. and Yoshida T., “Full-Load HCCI Operation with Variable Valve Actuation System in a Heavy-Duty Diesel Engine”, SAE Paper 2007-01-0215, (2007).
(3) 吉冨和宣,内田 登,VVA(カムレス)システムによる燃焼改善の研究, 日野技報,No.57, p.99-107,(2006).
(4) 山口卓也,青柳友三,長田英朗,後藤雄一,鈴木央一,広域多量EGRによる予混合圧 縮着火燃焼の研究-吸気弁閉時期を遅めた場合の効果- ,自動車技術会学術講演会前 刷集,No.77-07,p.15-20,(2007).
(5) 志茂大輔,藤本昌彦,福田大介,金尚圭,末岡賢也,片岡一司,革新的次世代低公害 車総合技術開発-高効率クリーンディーゼル燃焼コンセプトITIC-PCCI-,自動車技術 会学術講演会前刷集,No.86-07,p.1-4,(2007).
(6) 和田好充,上田圭佑,北村直樹,真柄紀幸,西村優史,千田二郎,藤本 元,混合燃料
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による予混合圧縮着火燃焼の制御-燃料の着火性,混合気不均一性および圧縮比の影 響-,自動車技術会学術講演会前刷集,No.55-07,p.13-18,(2007).
(7) 川口洋一,宮田和則,小林 寛,小倉 勝,三次元カム方式タイミング・リフト独立可 変動弁機構による予混合圧縮着火ガソリン機関の着火時期制御,自動車技術会学術講 演会前刷集,No.54-07,p.7-12,(2007).
(8) 椎野始郎,将来に向けた予混合燃焼技術,自動車技術,Vol.60,No.9,p.82-88,(2006).
(1)において米国Wisconsin大学のNevinらは,排気量2.44 L,機械圧縮比16.1の4弁 の大型単気筒ディーゼルエンジンに,Caterpiller 製ソレノイドタイプの IVA (Intake Valve
Actuation)システムを導入し,吸気バルブの閉弁時期の可変化によるPCCI燃焼を実現して
いる.ここでは,通常の吸気バルブの閉弁時期である-143 deg.ATDCを変更し,本研究と 同様に吸気バルブの閉弁時期を遅延する制御を行うことにより,有効圧縮比を変化させて いる.ここで,燃料噴射インジェクタは油圧電子制御のユニットインジェクタ(HEUI)で あり,燃料噴射ノズルの噴射角は狭角の128 deg.である.また,供試燃料のセタン価は米 国の軽油を反映して約40である.エンジン回転数 1737 rpm,25%負荷率条件(過給圧は
184 kPa)において,噴射時期を-55 deg.ATDCに固定し,吸気バルブの遅閉じを行った数条
件に対する指圧および排出ガス特性の変化を調査する中で,筒内への燃料噴射終了後に自 己着火が起きるディーゼル燃焼を実現している.さらに,吸気バルブの閉弁時期と EGR 率を変化させて,それらの因子がNOxとPMの排出に及ぼす影響を確認している.この運 転条件において,40%のEGRと吸気バルブの遅閉じ(閉弁時期-85 deg.ATDC)を組み合わ せることにより,2010年のNOx・PMの重量車排出ガス規制レベルをクリアできることを 明らかにしている.
このように,本研究で提示した燃焼コンセプトは大型のディーゼルエンジンでも適用可 能であることが示唆されている.また,Nevin らは,本研究で用いたようなわが国で市販 されている一般的な軽油と比較すると,セタン価の低い軽油を用いている.低セタン価軽 油は着火遅れの長期化に有利であるため,圧縮端近傍のガス温度を低温化するための過度 な吸気バルブの遅閉じ(有効圧縮比の低下)による動作ガスの減少を抑制できる可能性が ある.したがって,セタン価の異なる燃料が用いられた場合でも,燃料噴射終了後の着火 となる圧縮端ガス温度(有効圧縮比)と燃料噴射時期が適切に選定できれば,PCCI燃焼が 成立するものと考えられる.そのため,PCCI燃焼の実用化にあたっては,着火時期をセン
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シングし制御に用いるセンサーの必要性が示唆される.
また,(2)においてKomatsuのKodamaらは,大型ディーゼルエンジンに可変バルブシス テムを適用することによって全負荷HCCI運転(IMEP: 2.25 MPa)が可能であることを示 している.先に述べたNevinらの報告同様,ディーゼル燃焼を予混合型の燃焼としていく ために可変バルブタイミング機構の自由度を利用し,大幅な排出ガス低減を達成している.
実験に用いているエンジンは,排気量1.84 Lの単気筒エンジン(燃料は軽油)である.こ こで特筆すべきは,IMEP: 2.25 MPaという全負荷域において,究極的に低いエミッション 性能(NOx: 0.01 g/kWh,Smoke: 0.1 BSU)を実証した点である.ここでも排出ガス低減と 筒内最高圧力,最大圧力上昇率の低減には,多量EGRと有効圧縮比の低下が効果的である と報告している.しかしながら,自動車に搭載される多気筒エンジンへの展開を想定した 場合,ここでの最大圧力上昇率(燃焼音)には一層の低減が求められる.
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今後は,本研究で提案した燃焼コンセプトを実用過渡運転へ適用した際の効果を検証す る必要がある.そこで,本研究で得られた結果(図5.33)をふまえ,今後のディーゼルエ ンジンの排出ガス対策について図 6.1 にまとめた.ここで重要となるのは,中負荷域まで に適用するPCCI 燃焼と高負荷で用いる拡散燃焼を主体とした従来ディーゼル燃焼の切り 替え制御であろう.可変バルブタイミング機構による有効圧縮比の可変制御の応答性は十 分であるとしても,PCCI燃焼ではEGRシステムを併用することが必須であるため,過渡 運転においてデットボリュームによるガス組成の遅れや熱容量(熱慣性)による温度の応 答遅れが不可避的に含まれる.また,ターボ過給システムの応答遅れもそれに含まれるこ とはいうまでもない.これらの因子が温度やガス組成に敏感な PCCI 燃焼の着火や燃焼に 及ぼす影響を考慮した制御方法を案出する必要がある.さらには,各シリンダ間の EGR ガスを含む吸気組成のばらつきやその結果生じる着火や燃焼特性のばらつきを補正する制 御も求められる.これによってドライバビリティの悪化につながるトルク変動を抑制する 必要がある.
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Engine torque
Full load
通常燃焼+大量EGR+(後処理)
通常燃焼+EGR+後処理
PCCI+EGR+
可変機構+(後処理)
(Idle) Engine speed (Max speed)
図6.1 ディーゼルエンジンの排出ガス対策
さらには,エンジンシステムと排気後処理システムの複合的な最適制御ロジックの構築 が求められる.後処理システムは,制御性,コスト,耐久性の点でいまだ課題が残り,そ の負担を極力低減することが必要である.その際には,図6.2 に示すような位置付けで,
エンジン開発に数値モデルを活用することが必須となろう.近年,CAE(Computer-Aided Engineering)によって得られる情報の果たす役割は,実験で得られる知見を補う上で非常 に価値が高い.今後はこれまで以上に後処理システムも含めた多くの制御パラメータを最 適に組み合わせてディーゼル燃焼の制御を行っていく必要があるが,複雑さが増すがゆえ に,その最適化には膨大な時間と費用が必要となることが予想される.したがって,エン ジンベンチ実験に加えて,予測精度の高いCFD(Computational Fluid Dynamics)コードに よって,低環境負荷型のディーゼルエンジンの開発効率を向上させる必要がある.このよ うな観点から,本研究で利用したような数値熱流体シミュレーションの意義は,今後ます ます重要になると考えられる.
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<利用のステップ>
■諸現象の理解・解明
■概念設計に利用
■詳細設計に利用
■新燃焼方式の開発 数値シミュレーション
モデルの構築と利用
<利用のメリット>
■実験や試作評価の労力・
時間・コストの削減
■開発の時間短縮と合理化
■CAEの有力な手段 <サブモデルの構築>
■噴霧モデル(微粒化,蒸発,
壁面衝突,拡散・混合)
■燃焼反応モデル(データ収集)
■排出物生成モデル,etc.
■計算時間の短縮・精度の向上
<実験・計測法の利用>
■燃焼圧計測・熱発生率解析
■可視化観察(噴霧・燃焼)
■各種レーザー計測,etc.
検 証
図6.2 ディーゼル燃焼システムの研究開発・設計につながるCFDの役割
今後の厳しい排出ガス規制値に対応するために,大幅な排出ガス低減効果を有するPCCI 燃焼をディーゼルエンジンにおいて実用化するための研究が今後も活発化するものと予想 される.そのため,本研究がPCCI 燃焼の実用化研究の過程において活用され,後処理装 置の負担を軽減しうる燃焼技術となることを期待するものである.将来は,このような燃 焼コンセプトによってディーゼルエンジンの大幅な排気浄化を達成したうえで,ハイブリ ッドシステムの導入によってさらに高効率化する可能性もある.本研究により得られた成 果が,今後,民間や国において推進すべきエンジン技術開発の方向性を提示するものとな り,低公害型ディーゼルエンジンの研究開発が促進されることで,大気環境の改善につな がることを期待している.