博士( 農学) ジンタナ ート ウォンシャワリット
学位論文題名
Catalytic rvIechanism and Molecular Structure of d ― Glucosidase Isozymes from Asian Honeybees (アジア原産ミツバチのQ −グルコシダーゼアイソザイムの 構造と機能に関する研究)
学位論文内容の要旨
博 物学 全盛 時 代に600種以 上あ った ミツ バ チ属は、現在9種に整理された。欧州・アフ リカ原産 の1種( 西洋ミツバチ)以外は、全てアジアに生息する。ミツバ チは植物が分泌するショ糖を集め蜂 蜜 を 生 産す るが 、生 化学 的に はシ ョ糖 の加 水分 解 反応 であ る。 その 特徴 は0.8M以 上の 高基 質濃 度 で 行 われ るこ とで ある 。第2の特 徴は 、遺 伝子 が違 う3種 類の アイ ソザ イム が存 在す るこ とで あ り 、 体内 の局 在部 位や 発現 時期 が異 なる 。第3の特 徴は 、3酵 素の 基質 特異 性に 相違 があ り、
単量 体で あり な がら アロ ステ リッ ク的 な挙 動を 示す酵素が存在する点である。これらは 西洋ミツ バチ(´ りむmP〃め′ )における知見である。一方、マルハナ バチには2種のa‐グルコシダーゼし か見 出せ ず、 膜 翅類 に属 する 昆虫 では 、ア イソ ザイムの数や生理的役割が異なることが 予想され た。 また 、単 量 体ア ロス テリ ック 酵素 の解 析は 基礎学問的に興味深い知見を与える。本 研究は、
2種のアジア原産ミツバチである東洋ミツバチ(りおcピ′弸ロ)とコミツバチ(4pむノzD胞ロ)に岱・グ ル コ シ ダ ー ゼ ア イ ソ ザ イ ム が 存 在 す る こ と を 明 ら か に し 、 そ れら の構 造と 機能 を究 明し た。
(1)東洋ミツバチa‑グルコシダ ーゼの精製と性質解析
東 洋ミツバチは入手が容易なニホン亜種(A. cerana japonica)を用いた。試料を磨砕し得た粗酵 素 液 を 硫 安 塩 析 ク ロ マ ト に 供 す る と 、 活性 は2っ に分 離し た( 画分1お よ ぴ2)。 硫安 の高 濃度 で 溶出 し た画 分1に対 し、 さら にイ オ ン交 換と ゲル 濾過 のク ロマ ト操 作を 行い、電気 泳動的に単 一 な 酵 素 標 品(JHGI) を得 た。JHGIは分 子量82,000の 単量 体で あり 、21%の 糖を 含む 糖タ ンパ ク質 であった。酵素活性は、pH 5.0に至適を与え、pH 4.5‑10.5および40゜C以下で安定であった。
N末 アミ ノ酸 は閉 塞し てい た。JHG‖ ま基 質の 種類 に応 じて3つの 挙動 を示 した。高濃 度で反応速 度 が活 性 化す る負 の協 同性 を示 す基 質( マル トー ス、ショ糖、合成配糖体)、正の協 同性を示す 基 質( ツ ラノ ース )お よぴ ミカ エリ ス型 の反 応を 示す基質(マルトース以外のマルト オリゴ糖と コ ジビ オ ース )で ある 。反 応の 詳細 な解 析か ら、 特に負の協同性を与える基質につい ては、加水 分 解反 応 と切 断反 応の 速度 パラ メー タを 求め た。 高分子の可溶性澱粉に対する分解活 性はなかっ た 。硫 安 塩析 クロ マト の画 分2(低 濃 度の 硫安 で溶 出す る活 性画 分) から は、イオン 交換、ゲル 濾 過 お よ ぴ 疎水 クロ マト のヵ ラム 操作 で電 気 泳動 的に 単一 なa‑グル コシ ダー ゼ(JBG II)を 精製 し た。JBGIIは分 子量76,000の モノ マー 酵素 で17%の 糖を 含み 、N末 端配 列を確認で きた。至適 ―194―
pHは4.5、温度やpHに対しそれぞれ400C以下およぴpH 4.5‑11の範囲で安定であった。JHGIよ り広い基質特異性を示し、マルトオリゴ糖より合成配糖体への活性が強かった。可溶性澱粉のよ うな高分子基質も分解したが、正の協同性が観察されたためアロステリック酵素であることが判 明 し た 。 以 上 の 結 果 か ら 東 洋 ミ ツ バ チ に 性 質 の 異 な る2種 の 酵 素 を 確 認 で き た 。
(2) 東 洋 ミ ツ バ チ ロ ‐ グ ル コ シ ダ ー ゼ の 遺 伝 子 単 離 と ア イ ソ ザ イ ム の 確 認 PCRに よりJHGIお よびJHGIIの 遺 伝子 を単離し た。JHGIおよ ぴJHG IIのcDNAは、 それぞ れ1,930bpおよび1,863bpからなり、577およぴ579残基のアミノ酸配列をコードしていた。両酵 素をプロテアーゼ分解し得られたペプチド断片のエドマン分析や質量分析から遺伝子の照合を行 った。JHGIおよぴJHG IIのアミノ酸一次配列は一致しなぃことから、2つの酵素はアイソザイ ムであることが明らかになった。glycoside hydrolase famny(GH)13酵素に見られる触媒作用や基 質認識に 重要な4つ の領域があ ることか らGH13に属し、3ドメイン(N、BおよびCドメイン)
の構造を 形成すると予想された。配列比較からmGIおよびJHGIIは、西洋ミツバチのアイソザ イムIおよびHに相当することが判明した。単量体アロステリック酵素であるアイソザイムIと JBGIを比較すると、BおよびCドメインにアミノ酸の置換や欠損が集中していた。アミノ酸の保 存度が高いNドメインに協同性を発揮させる構造があると考えられた。立体構造が既知の類縁酵 素との二次構造予測を行い、特徴的な性質に関し考察を行った。
一 方 、西洋ミ ツバチに はアイソ ザイムm(HBGm)が存在 する。そ の存在を調 べるため 、 cDNAライ ブ ラリ ー に 対しHBGmに 特異 的なDNA配列を有 するプラ ーマーを 用いてPCRを行 っ た。 得 られた 増幅DNA断片 の塩基配 列を解析 したとこ ろ、HBGm様蛋 白質(JBGm)遺 伝子の 一部であ ることが確認できた。単離したJBGmのcI)NAは1,922bpの塩基配列を有していた。
コー ド きれ た567残基 の ア ミノ 酸 配列 は、mGIお よびmGHのも のとは異 なり、むし ろHBGnI に高い相 同性を示した。しかし、東洋ミツバチ成虫におけるHBGm様蛋白質の存在量は少なぃ と予想された。配列解析を行い本タンパク質も(m13に属すことを認めた。これらの知見から東 洋ミ ツ バチ に は3種 類の ロ グ ル コ シダ ー ゼ アイ ソ ザイ ム が 存在 する ことが判 明した。
(3)コミツバチば‐グルコシダーゼの精製と性質
タイに生息するコミツバチからa‑グルコシダーゼの精製を行った。粗酵素液の硫安塩析クロマ トで酵素活性は大きく4つの画分に分離した。マルターゼ活性とイソマルターゼ活性が異なるた め、コミツバチにもアイソザイムの存在が確認された。そのうち画分1と2をさらに疎水クロマ ト、ゲル濾過やイオン交換の各種分離に供し、電気泳動的に単一なa‑グルコシダーゼを2つ精製 した(それぞれTBGIとTBGII)。
TBGIは、分子量89,000を与える単量体の糖タンパク質であった。至適pHは5.5であり、pH 5.0‑10.5および45°C以下の安定性を示した。a‑l,3およぴa‑l,6グルコシド結合をそれぞれ有す るニゲロースやイソマルトースおよぴ高分子の可溶性澱粉に対する作用が認められなかった。マ ルトオリゴ糖、ショ糖や合成配糖体に対し高い活性を示した。JBGIと同様に基質の分解に対し、
正およぴ負の協同性やミカェ.リス型の反応様式を与えた。従って、本酵素はアイソザイムIに相 当すると考えられた。単量体タンパク質で基質の種類により正およぴ負の協同性を示すアロステ リック酵素の報告例は極めて稀である。特に、アイソザイムIの反応速度は、ショ糖の高濃度で 飽和せず、分解作用が活性化されるため、高い基質濃度に適したa‑グルコシダーゼである。また、
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TBGIIは、分子量71,000の単量体糖タンパク質であり、pH 5.0に至適を、pH 4.5‑10.9およぴ45゜C 以下の安定域を示した。基質認識は広く、特にコジビオースや可溶性澱粉の分解に対し、正の協 同性を示すアロステリック酵素であった。性質の比較から、TBGIIはアイソザイムIIに相当する と判断した。アイソザイムIとIIは、調べたミツバチ種全てに見出されたことから、Apis属に共 通する重要な酵素である。これらの結果からApis属にはa‑グルコシダーゼがアイソザイムとして 存在すると予想された。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 木村 淳夫 副 査 教 授 伴戸 久徳 副査 助教授 森 春英
学 位論 文 題名
Catalytic :N/Iechanism and Molecular Structure of d− Glucosidase Isozymes from Asian Honeybees ( アジ ア 原産 ミツ バチのa−グルコシ ダーゼアイ ソザイムの 構 造と 機 能に 関 する 研 究)
本論文は 、英文166頁、図62、表23、7章からなり、参考論文3編が添えられている。
博物学全盛時代に600種以上あったミツバチ属は、現在9種に整理された。欧州・アフリ カ原産の1種(西洋ミツバチ)以外は、全てアジアに生息する。ミツバチは植物が分泌するシ ヨ糖を集め蜂蜜を生産するが、生化学的にはa‑グルコシダーゼが触媒するショ糖の加水分 解反応である。その特徴は0.8M以上の高基質濃度で行われることである。第2の特徴は、
基質特異性や遺伝子が違う3種類のアイソザイムが存在し、単量体アロステリック酵素とし てのa‑グルコシダーゼが存在する点である。これらは西洋ミツバチにおける知見である。
一方、マルハナバチには2種のa‑グルコシダーゼしか見出せず、膜翅類に属する昆虫では、
アイソザイムの数や生理的役割が異なると予想された。また、単量体アロステリック酵素の 解析は基礎学問的に興味深い知見を与える。本研究は、2種のアジア原産ミツバチである東 洋ミツバチとコミツバチにa‑グルコシダーゼァイソザイムが存在することを明らかにし、
それらの構造と機能を究明した。
(1)東洋ミツバチa‑グルコシダーゼの精製と性質解析
東洋ミツバチの粗酵素液を塩析クロマトに供すると、活性は2っに分離した(画分1と 2)。画分1から精製されたa‑グルコシダーゼ(JHGI)は分子量82,000の単量体糖タンパ ク質であった。至適はpH 5.0にあり、pH 4.5‑10.5およぴ400C以下で安定であった。N末ア ミノ酸は閉塞していた。基質の種類に応じて3つの挙動を示した。高濃度で反応速度が活性 化する負の協同性を示す基質、正の協同性を示す基質とミカエリス型の反応を示す基質であ
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る。反応の解析から切断反応や協同性に対する速度パラメータを求めた。高分子基質は分解 し な か っ た 。 塩析 ク ロマ ト の画 分2から も 酵素(JBG n)を 精製 し た。JBGHは 分子 量 76,000のモノマー酵素で糖を含み、N末端配列を確認できた。至適pHは4.5、温度やpHに 対しそれぞれ40°C以下およびpH 4.5‑11の範囲で安定であった。JHGIより広い基質特異性 を示し、合成配糖体への活性が強かった。可溶性澱粉(高分子基質)も分解したが、正の協 同性が観察されアロステリシク酵素であることが判明した。以上の結果から東洋ミツバチに 性質の異なる2種の酵素を確認できた。
(2) 東 洋 ミ ツ バ チa‑グ ル コ シ ダ ー ゼ の 遺 伝 子 単 離 と ア イ ソ ザ イ ム の 確 認 単離したJHGIおよびnのcDNA(それぞ れ1,930bpおよび1,863bp)は、577および579 残基のアミノ酸配列をコードした。配列は一致せず、両酵素はアイソザイムである。配列比 較 からJHGIお よびJHGnは、西洋 ミツバチの アイソザイ ムIお よびIIに相当す ることが 判明した。立体構造既知の類縁酵素との二次構造予測を行い、特徴的な性質に関し考察を行 った。西洋ミツバチにはアイソザイムIn (HBGm)が存在する。その存在を調べるため、
HBG ni様蛋白質(JBGIn)遺伝子の クローニン グを行った 。単離した1,922bpのcDINAに コ ード さ れた ア ミノ 酸 配列 (567残 基) は 、mGIやnとは 異 な り、HBGmに高 い相同性 を示した。これらの知見から東洋ミツバチには3種類のa‐グルコシダーゼァイソザイムが 存在することが判明した。
(3)コミツバチa‑グルコシダーゼの精製と性質
コミツバチの粗酵素液を用いた塩析クロマトで酵素活性は4画分に分離した。画分1と2 か らa‑グル コシダーゼ を精製した (それぞれTBGIとTBGn)。TBGIは、分 子量89,000 を与える単量体の糖タンパク質であった。至適pHは5.5であり、pH 5.0‑10.5および45°C以 下の安定性を示した。a‑l,3やの‐1,6結合のグルコ2糖および高分子基質への作用がなかっ た。基質の種類により正およぴ負の協同性やミカエリス型の反応様式を与えた。従って、本 酵素はアイソザイムIに相当すると考えられた。TBGHは、分子量71,000の単量体糖タン パク質であり、pH5.Oに至適を、pH4.5‐10.9および45°C以下の安定域を示した。基質認識 は広く、コジビオースや可溶性澱粉の分解に対し、.正の協同性を示すアロステリック酵素で あった。性質の比較からアイソザイムHに相当すると判断した。コミツバチにもアイソザ イムが存在することが分った。
以上のように本研究は、アジア原産ミツバチにおいて初めてa‑グルコシダーゼァイソザ イムを単離し、性質ならびに分子構造を明らかにした。さらに、アイソザイムIとHが報告 例の極めて稀な単量体アロステリック酵素であることを証明し、Apis属に本アイソザイムシ ‑ 198−
ステムが普遍的に存在することを提唱した。本研究で究明された新知見は、昆虫酵素学の理 解 や 単 量 体 ア ロ ス テ リ ッ ク 酵 素 の 基 礎 研 究 に 対 し 大 き く 貢 献 す る も の で あ る 。 よって審査員一同は、Jintanart Wongchawalitが博士(農学)の学位を受けるに十分な資格 を有するものと認めた。
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