博 士( 地 球環 境科 学 )佐 藤 禅
学 位論文題名
A study on the chitinase production of Bacillus ceTeus CH fOreffiCientdegradationofdeCapodShellS
(エ ビ・ カニ 類殻 の効 率的 な分 解に向けた Bacillus cereus CH由 来キ チナ ーゼ 生産 に関 する研究)
学位論文内容の要旨
資源 循環 型社 会を 実現 するた めに さま ざま な産 業に おいて地球環境への配 慮が 強く 望ま れて いる 。水 産統計 など によ ると 、我 が国 は世界有数のエビ・カ ニ類の多量消費国であり、必然的にそれらの殻を多量に排出している。しかし、
エビ・カニ類殻の再利用率は1.3 ‑1.9%と極めて低く、生物由来の資源(バイオマ ス) を有 効に 利用 して いる とは言 い難 い。 海洋 性細 菌な どが分泌生産するキチ ナーゼはエビ・カニ類殻の主骨格であるキチンを常温・常圧で分解し、N‑アセチ ルグ ルコ サミ ン(GlcNAc)オ リゴマ ーを 生成 する 活性 を有 する。それゆえに、キ チナ ーゼ を用 いた 地球 環境 低負荷 型の エビ ・カ ニ殻 再利 用技術の開発は重要で ある。土壌から単離した占, cereus CHは2種類のキチナーゼ(ChiA,ChiB)を細 胞 外 に 分 泌 す る。 既 に キ チ ナ ー ゼ を コ ー ドす る2つ の遺 伝子 (カiA, むiB)が クロ ーニ ング され その 塩基 配列も 決定 され てい る。 本研 究では、構造の異なる 誘導 物質 がB. cereus CHキ チナーゼの生産および遺伝子発現へ及ばす影響を比 較することによって、B. cereus CHキチナーゼ遺伝子発現調節機構について解析 することを主な目的とした。
第一章では本研究の意義について述べた。まずエビ・カニ類殻再利用の視点 からキチナーゼについて概論した。また予備的にB. cereus CH培養液を用いてエ ビ ・カニ類殻の直接分解実験を行い、実際に殻の骨格が分解されオリゴ糖が生成 することを確認した。
第二 章で は、 各種 誘導 物質 存在 下に おけ る本 菌の定 常期 以降のキチナーゼ 活性 量、 キチ ナー ゼ遺 伝子 (chiA,chiB)の相対的な転写量、および特異的な抗 血 清 を 用 い たChiA,ChiBタン パ ク 質 量 の 測 定を 行っ た。GlcNAcオ リゴマ ーを 誘 導 物 質 と して 用い た場 合8時 間後 に最 大の 活性 値を 示し た。 またGlcNAc二量 体か ら四 量体 まで 鎖長 が長 くな るに 従っ て誘 導活 性は順 に上 昇したが四量体と 六量 体で は同 等で あっ た。 これ は細 胞膜 ある いは 細胞質 に局 在することが予想 され るセ ンサ ータ ンパ ク質 の誘 導物 質結 合部 位の 大きさ を反 映していると考え られ る。 一方 、コ ロイ ダル キチ ンを 誘導 物質 とし て用い た場 合には48時間にわ たり 緩慢 かつ 持続 的な キチ ナー ゼ活 性の 上昇 が観 察され た。 これは誘導生産さ れた 酵素 がコ ロイ ダル キチ ンを 分解 し、 その 分解 産物で あるGlcNAcオリゴマー
―1321ー
が再び誘導物質として機能しているためであると説明できる。いずれの誘導物 質に おいても12時間後にはchiAおよびchiB mRNAsの発現は一定量に達してい た。 続いて、大腸菌で発現および精製したChiAおよびChiB組換えタンパク質 に対する特異的な抗体(ウサギ抗血清)を作製し、ELISA法によってChiAおよ びChiBタンパク質量を測定した。その結果、細胞内および細胞外の画分におい てChiBが主要成分であることが明らかとなり、本菌の高いキチナーゼ活性は細 胞内 外共にChiBの生産 量に強く依 存していることが示された。またChiBはN 末端部分に典型的な分泌シグナル配列を有していたのでSec‑ATPaseの阻害剤と して知られるアジ化ナトリウムを培地に添加した。その結果、ChiBの分泌量が 極端に低下したことから、キチナーゼの分泌にSec systemが寄与している可能 性が示唆された。
第三章ではChiBの誘導生産機構をさらに詳しく理解するために、鎖長の異 な るGlcNAcを誘導物質 として用い た際の12時間 後までのChiBの 分泌生産レ ベ ルおよびchiB mRNAの発現レ ベルを調べた。その結果、GlcNAcの長さが四 量体から六量体へと増加するに従ってChiBの分泌生産が促進された。また二量 体 ではChiBの生産はほとんど誘導されなかった。一方、GlcNを用いた実験で は 長さの効果の違いは認められたものの誘導物質としての作用はGlcNAcに比 べて極めて低かった。さら|こキチンを脱アセチル化したキトサン7Bと9Bを比 較 したところアセチル化度の高い7Bの方が高いChiB生産性が認められた。以 上の結果から酵素と同様にレセプタータンパク質も基質である誘導物質の構造 を厳密に認識していることが示された。グラム陰性細菌Vibrioにおいて既にキ チナーゼ遺伝子の発現誘導にセンサーキナーゼおよぴレスポンスレギュレータ ータンパク質から構成される二分子制御系の関与が示されている。そこでその 阻 害剤である サリチルア ニリドを用いてchiBの転写量(mRNA)およびChiBの 生産量を調べた。その結果、chiB mRNAの発現および細胞内外のChiBの生産は、
クロサンテールやテトラクロロサリチルアニリドによって顕著に抑制された。
すなわちグラム陽性細菌B. cereusにおいてもキチナーゼ遺伝子の発現を制御す る二分子制御系が存在することが強く示唆された。実際、既にゲノム解読が終 了しているB. cereusにはGlcNAcを認識すると推定されるセンサータンパク質 が6個見出された。
第四章では本研究で得られた知見について総括すると共に今後の展望につ いて述べた。キチナーゼ高生産株であるB. cereus CHの遺伝子発現調節機構につ いて詳細な検討を加えた本研究はエビ・カニ殻の再利用技術を開発するうえに おいて重要な知見を与えるものである。
―1322―
学 位 論 文 審 査の 要 旨 主査
副査 副査 副査
教授 森 教授 坂 助 教 授 奥 名誉教授 荒
川 正 章 入 信 夫 山英 登志 木 義 雄
学位論文題名
A study on the chitinase production of Bacillus cereus CH for efficient degradation of decapod shells
( エ ビ ・ カ ニ 類 殻 の 効 率 的 な 分 解 に 向 け た Bacillus cereus CH由来キチナーゼ生産に関する研究)
資源循環型社会を実現するために、さまざまな産業において地球環境への配 慮が強く望まれている。水産統計などによると、我が国は世界有数のエビ・カ ニ類の多量消費国であり、必然的にそれらの殻を多量に排出している。しかし、
エビ・カニ類殻の再利用率は1.3−1. 9%と極めて低く、生物由来の資源(バイオ マス)を有効に利用しているとは言い難い。海洋性細菌などが分泌生産するキ チナーゼは、エビ・カニ類殻の主骨格であるキチンを常温・常圧で分解し、ル―ア セチルグルコサミン(GlcNAc)を生成する活性を有する。それゆえに、キチナー ゼを用いた地球環境低負荷型のエビ・カニ殻再利用技術の開発は重要である。土 壌から単離したB. cereus CHは2種類のキチナーゼ(ChiA,ChiB)を細胞外に分 泌する。既にキチナーゼをコードする2つの遺伝子(chiA。め田)がクローニン グされその塩基配列も決定されている。本研究では、構造の異なる誘導物質が B. cereus CHキチナーゼの生産および遺伝子発現ヘ及ばす影響を比較すること によって、B. cereus CHキチナーゼ遺伝子発現調節機構について解析することを 主な目的としている。
初めに、各種誘導物質存在下における本菌の定常期以降のキチナーゼ活性 量、キチナーゼ遺伝子(chiA,あ溜)の相対的な転写量、および特異的な抗血清 を用 いたChiA,ChiBタン パク質量の測定を行っている。その結果GlcNAcオリ ゴマーを誘導物質として用いた場合8時間後に最大の活性値を示すことが示さ れた 。またGlcNAc二 量体 から四量体まで鎖長が長くなるに従って誘導活性は 順に上昇したが四量体と六量体では大差がないことを明らかにした。これは細 胞膜あるいは細胞質に局在することが予想される、センサータンパク質の誘導 物質結合部位の大きさを反映していると考えられる。一方、コロイダルキチン を誘導物質として用いた場合には、48時間にわたり緩慢かつ持続的なキチナー
ゼ活性の上昇が観察された。これは、誘導生産された酵素がコロイダルキチン を分解し、その分解産物が再ぴ誘導物質として機能しているためと推定できる。
ま た い ず れ の 誘 導物質 にお いて も12時 間後 には 出所 およぴchiB mRNAsの 発 現は一定量に達していることを示している。続いて、大腸菌で発現およぴ精製 したChiAおよびChiB組換えタンパク質に対する特異的な抗体(ウサギ抗血清)
を 作製し 、ELISA法に よっ てChiAおよ びChiBタ ンパク 質量 を測定している。
その結果に基づき、細胞内および細胞外の画分においてChiBが主要成分である ことすなわち、本菌の高いキチナーゼ活性が細胞内外共にChiBの生産量に強く 依存していることを示している。またChiBは、N末端部分に典型的な分泌シグ ナル配列を有していたので、Sec‑ATPaseの阻害剤として知られるアジ化ナトリ ウムによる効果を調べている。その結果はChiBの分泌に,Sec systemが寄与し ている可能性を強く示唆するものであった。
さらにChiBの誘 導生産 機構 をさらに詳しく理解するために、鎖長の異なる GlcNAcを 誘導 物質 として 用い た際の12時間後までのChiBの分泌生産レベル、
お よびchiB mRNAの発 現レ ベル を調べ てい る。 その結 果、GlcNAcの長さが四 量体から六量体へと増加するに従って、ChiBの分泌生産が促進された。また、
二 量体で はChiBの 生産は ほと んど誘導されなかった。一方、GlcNを用いた研 究では長さの効果の違いは認められたものの、誘導物質としての作用はGlcNAc に比べて極めて低かった。以上の結果を踏まえて酵素と同様に、レセプタータ ンパク質も基質である誘導物質の構造を厳密に認識していることを提案してい る。グラム陰性細菌Vibrioにおいて既にキチナーゼ遺伝子の発現誘導にセンサ ー船よびレスポンスレギュレータータンパク質から構成される二成分制御系の 関与が報告されている。そこでその阻害剤であるサリチルアニリドを用いて、
め沼の転写量(mRNA)およぴChiBの生産量を調べている。その結果、chiB mRNA の発現およぴ細胞内外のChiBの生産は、クロサンテールやテトラクロロサリチ ルアニリドによって顕著に抑制された。すなわち、グラム陽性細菌B. cereus CH においてもキチナーゼ遺伝子の発現を制御する二成分制御系が存在することを 強く示唆した。実際、既にゲノム解読が終了しているB. cereusから、(GlcNA)n を認識すると推定されるセンサータンパク質を6個見出しこの仮説の裏付けを 行っている。
これらの成果から本研究はB. cereus CHのキチナーゼ生産機構に関する新 たな知見を与え、エビ..カニ類殻の効率的な分解に向けた基礎的に重要な知見 を与えたと判断できる。審査員一同は、これらの成果を評価するとともに、申 請者の研究者としての誠実かつ熱心な研究態度および大学院博士課程における 研鑚や単位の修得状況なども合わせて考慮し、申請者が博士(地球環境科学)
の学位を受けるに充分な資格を有するものと判定した。