18
ています。これらの原典はオランダが主権を回 復したのちに日本へ持ち込まれたものと考えら れます。彼の伝記はここでご紹介した他にも何 人かの蘭学者によって作られましたが、それら も含めて必ずしも原著者や原書名など書誌的な 事項は示されておらず、今なお解明できていな いものもあります。
■ナポレオン戦争を教訓として
ナポレオンが台頭し、皇帝として力を振るっ ていた18世紀末から19世紀初頭にかけての日 本近海は外国船の航行が増加し始めた時期でし た。時を経て、ナポレオンの没後33年目となる 1853(嘉永六)年にはアメリカのペリー提督が 来航し、我が国は鎖国体制に決別して国際社会 へ参入することを余儀なくされます。
この頃までに日本で作られたナポレオンの 伝記の数は多くはありませんが、海外情報が少 なかった当時では重要な西洋の知識源になりま した。もちろん蘭学者が書いた世界情勢の書物 はありましたが、これとて数的に限られており、
人物伝記であっても現在で言う国際地域研究の領 域の書物を補っていたものと考えられます。欧米 の国々との交渉に臨んだ徳川幕府の代表者たち が、ナポレオンによるヨーロッパの大動乱の歴史
を念頭に置きながら、開国以降の国難に慎重かつ 柔軟に対応していった姿が想像できます。
併せて、ここでご紹介した幾つかの伝記に共 通したことですが、日本語で表された書名、漢 字で表現したナポレオンの名前、装丁、絵図、
あるいは頁の作りなど、この書物の作成に携 わった人たちが、西洋の傑出した人物を閉ざさ れていた我が国で広めようとした強い熱意も伺 うことができるのです。
彼の生誕250年記念稀覯書展示会「ナポレオ ン、偉大なるエジプト文明に挑戦する」では「ナ ポレオン戦争の頃の世界は」として、当時のナ ポレオンの動きを受けて生まれた欧米の書物と 共に、上記の日本関係の書物をご紹介いたしま す。ぜひ、ご覧いただきたく存じます。
主な参考文献と註記
( 1 )岩下哲典著『江戸のナポレオン伝説 西洋英雄伝は どう読まれたか』中公新書 1999年。23頁。
( 2 )立川京一「日本におけるナポレオンの人気と理解」『戦 史研究年報』第13号(防衛研究所、2010年3月)119頁。
〇 日蘭学会編『洋学史事典』雄松堂書店 1984年。
おく まさよし(司書・副館長)
1813 年1月23日付け陸軍大臣から「皇帝にして国王陛下へのご報告」
書簡に対するナポレオンのコメントと署名 「パピルス」 8 世紀から11世紀ころ
本学図書館のスペシャル・コレクションである 「世界の探検と航海」 や
「世界の理論書」、 「わが国の対外交渉史料」
などから出展します。
本 学 図 書 館 の ス ペ シ ャ ル ・ コ レ ク シ ョ ン よ り
59稀覯書展示会特集