はじめに
Epstein-Barr virus(EBV)は,ヒトヘルペス属
のDNA(deoxyribonucleic acid)ウイルスで,正
式名称はhuman herpes virus 4(HHV-4) であ
る.全長175~184 kbと大きなサイズで,LMP,
EBNA,EBE,BARFなどの遺伝子機能もよく解析
されている
1).本邦ではほぼ全ての人がEBVに感
染するが,感染が終息してもEBVは体内に潜伏
して腫瘍化の原因となる.EBV陽性腫瘍には
様々な側面があるが
2),本稿では造血器腫瘍と
の関連を概説する.
1.EBウイルス感染の自然史
EBVはenvelop protein gp350/gp220 で標的細
胞のCD21 と結合して感染するが,このCD21 は
リンパ球と咽頭上皮に発現している.EBVは唾
液を介して咽頭上皮に感染し,幼少期では不顕
性感染に終わるが,免疫能のある程度発達した
思春期以降では,時に伝染性単核球症を発症す
る.伝染性単核球症は発熱・咽頭痛・頸部リン
パ節腫脹を三主徴とする炎症性疾患で,末梢血
に異型リンパ球が出現し,時に肝障害を呈す
る
3).通常,感染は2週間程度で終息し,血液中
では抗体価の上昇がみられ,ウイルス感染細胞
は排除される.しかしながら,稀に一部の小児
では,初感染時にEBV感染細胞を排除できず,
慢 性 活 動 性EBV関 連 リ ン パ 増 殖 症(chronic
active EBV associated lymphoproliferative
disor-der:CAEBV-LPD)を発症する
4).他方,ほとん
どの人ではEBV感染は終息するが,一部のB細胞
に潜伏感染したEBVは生涯残存し,様々な場面
で再活性化やEBV関連腫瘍を引き起こす(
図1
).
EBV関連腫瘍の一覧を
表 1
に示す.このうち,
主なEBV陽性の造血器腫瘍には,節外性NK/T細
胞 リ ン パ 腫, 鼻 型(extranodal NK/T-cell
lym-phoma, nasal type:ENKL)とアグレッシブNK細
胞白血病(aggressive NK-cell leukemia:ANKL)
がある.
島根大学附属病院腫瘍センター腫瘍・血液内科
112th Scientific Meeting of the Japanese Society of Internal Medicine:Symposium:2. Viral infection and tumors;4)Epstein-Barr virus and hematological malignancy.
Ritsuro Suzuki:Department of Oncology and Hematology, Shimane University Cancer Center, Japan. 本講演は,平成27年4月11日(土)京都市・みやこめっせ(京都市勧業館)にて行われた.
ウイルス感染と腫瘍
4)EBVと造血器腫瘍
鈴木 律朗
Key words 悪性リンパ腫,EBウイルス関連リンパ増殖性疾患,クローン性増殖,末梢血EBV-DNA,2.EBV陽性のNK細胞リンパ系腫瘍
1)節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型
(1)概念
鼻腔周囲に好発するNK(natural killer)細胞
の腫瘍である.腫瘍であることがわかる以前
は, 致 死 性 正 中 肉 芽 腫(lethal midline
granu-loma)と呼ばれていたが,後にリンパ腫であるこ
とが判明した
5).当初はT細胞リンパ腫と誤解さ
れ,nasal T-cell lymphomaと呼ばれた時代もあっ
たが,現在では大部分がNK細胞由来のリンパ腫
であることが判明している
6).NK/Tという呼称
が使用されるのは,10%ほどはT細胞であるた
めで,NK/T細胞という細胞があるわけではな
い.このリンパ腫は基本的にリンパ節以外の節
外臓器から発生し,鼻腔周囲発生例が 80%を占
め,次いで多いのは皮膚,肝脾,消化管である
7).
(2)疫学
本邦では全悪性リンパ腫の約 3%を占める
8).
通常の悪性リンパ腫よりはやや若年発症で,患
者年齢中央値は50歳代である
7).日本以外では,
中国(11%),韓国(8%),香港(6%),台湾
(6%)といった東アジアの国々では頻度が高
く,欧米白人での発症はほとんどみられない
9).
(3)臨床症状
鼻閉,鼻汁,鼻出血,口腔内腫瘤などの症状
で初診することが多い.節外発症のリンパ腫で
図1 EBV感染の自然史と腫瘍化 EBVは咽頭上皮から初感染の後,主に思春期感染の一部では伝 染性単核球症を発症するが,末梢血でのEBV抗体価の上昇に伴 い,感染は終息する.小児のごく一部ではEBV感染細胞を排除 できず,リンパ増殖性疾患であるEBV-LPDを発症する.体内で はB細胞への潜伏感染が生涯残存し,通常は問題とならない が,造血幹細胞移植や免疫抑制薬の投与によっても免疫不全 関連リンパ腫/リンパ増殖疾患(LPD)を発症する. 主に唾液を介して初感染 (咽頭上皮) (三主徴) ・末梢血異型リンパ発熱・咽頭痛・頸部リンパ節腫張 ・時に肝障害 伝染性単核球症 免疫が成立してウイルス 感染細胞は排除 (一部は残存して,体内に潜在) 造血幹細胞移植・免疫 抑制薬で再活性化 免疫不全関連リンパ腫/ リンパ増殖疾患(LPD) 慢性活動性EBVリンパ 増殖疾患(CAEBV-LPD) (多くは小児) 腫瘍化(transformation) 表1 EBウイルス陽性腫瘍 血液腫瘍 固形腫瘍 全例近くが EBV陽 性 と なる腫瘍 節外性NK細胞リンパ腫,鼻型 上咽頭 がん アグレッシブNK細胞白血病 Burkittリンパ腫 (endemic type) 膿胸関連リンパ腫 形質芽球性リンパ腫 加齢関連EBV陽性B細胞 リンパ腫 種痘様水疱症様リンパ腫 AIDS関連リンパ腫 移植後リンパ増殖性疾患 一 部 でEBV 陽性となる 腫瘍 Hodgkinリンパ腫 胃がん T細胞リンパ腫,非特異型 ALK陰性未分化大細胞型 リンパ腫 肝脾T細胞リンパ腫 腸症型T細胞リンパ腫AIDS:acquired immunodeficiency syndrome ALK:anaplastic lymphoma kinase
あるが,リンパ節浸潤は稀でなく,しばしば頸
部リンパ節腫大を伴う.鼻腔周囲原発の場合
70%は限局期であるが,進行期になると発熱や
食欲不振,盗汗,体重減少などの全身症状を呈
する.
(4)病理
病理組織ではリンパ腫細胞は血管中心性の増
殖パターンを示す
10).これはENKLの大きな特徴
であるが,腫瘍細胞が散在する例があること,
鼻腔周囲では針生検が実施されることがあるこ
となどから,サンプリングエラーが存在するた
め診断の必須要件とはなっていない
11).CD56,
CD2,cyCD3 などのNK細胞マーカーが陽性とな
るほか,TIA-1(T-cell intracellular antigen-1),
granzyme B,perforinといった細胞障害性分子を
発 現 し, 診 断 に は 有 用 で あ る.EBVはEBER
(EBV-encoded RNA)
in situ
hybridizationで証明
される.
(5)治療および予後
かつてENKLは他のリンパ腫病型と同様に,
anthracyclineを 含 むCHOP(cyclophosphamide,
hydroxydaunorubicin, vincristine, prednisolone)
療法や類似療法が行われていた.しかしなが
ら,NK細胞はanthracyclineやvincristineなどの抗
腫瘍薬を細胞外に排出するP糖タンパクを発現
しているため,CHOP療法の有効性は低く,リ
ンパ腫の予後も不良であった
7).薬剤の効果が
乏しいため,限局期例では放射線治療が主体で
あった.近年では頭頸部腫瘍に倣って,プラチ
ナ系抗がん薬と放射線治療の同時併用が限局期
例では実施されるようになった
11,12).一方,進
行期例では,P糖タンパクの影響を受けない薬
剤であるmethotrexate,ifosfamide,L-asparagi-naseを主体としたSMILE(dexamethasone,
meth-otrexate, ifosfamide, L-asparaginase, etoposide)
療法が本邦で開発され,ENKLの治療反応性を一
変させた
13).SMILE療法の導入によって初発進
行期および再発・難治ENKLでは,全奏効率,完
全奏効率,全生存率全てが向上した(
表 2
,
図
2
).初発進行期および再発・難治例では,化学
療法で奏効が得られたら,引き続き自家ないし
同種造血幹細胞移植を実施すべきである.
2)アグレッシブNK細胞白血病
(1)概念
成熟NK細胞由来の白血病である.こうした白
血病の認識は古く,最初の報告は 1986 年に日
米からほぼ同時期になされている
14,15).そのあ
まりに急激な臨床経過のため,現在でも正式病
名にaggressiveの名前が残っている.
(2)疫学
ENKLよりさらに発症年齢は若年で,本邦での
年齢中央値は 40 歳代である
16).一部はCAEBV-LPDよりの移行が知られている.
表2 SMILE療法の導入による初発進行期および再 発・難治ENKLの治療成績の向上 全奏効率 奏効率完全 生存率2 年 SMILE以前 (anthracycline時代) 35% 19% 10% SMILE療法 79% 45% 50% 図2 SMILE療法を受けた初発進行期および再発・難 治ENKLの予後曲線 第2相試験登録後3年の全生存率は50%,95% CI(con-fidence interval):33%-65%であった29). O ve ra ll su rv iv al 0 1 2 3 4 5 Time(years) 0. 00 0. 25 0. 50 0. 75 1. 00(3)臨床症状
発熱,肝脾腫,リンパ節腫大を呈する.病勢
の進行は急激で,短期間のうちに播種性血管内
凝固症候群から多臓器不全に至る例も稀でな
い.一部の症例は肝浸潤に伴う肝障害で発症
し,初期には急性肝炎と同一の病像を取るので
注意が必要である.
(4)検査所見と病理
末梢血では顆粒大リンパ球(large granular
lymphocyte:LGL)が種々の程度に増加する.
形態的には正常のLGLとあまり変わらないもの
から,中間型,異型の強いものと 3 パターンに
分類されるが,形態の違いによる臨床像や予後
に差はない
17).ENKL同様,CD56,CD2,cyCD3
などのNK細胞マーカーや,TIA-1,granzyme B,
perforinといった細胞障害性分子が陽性となる
が,CD16 が高率に陽性になるのがENKLとの相
違点である.これはNK細胞の分化段階の違いに
よる
18).EBVは 10~15%で陰性になるが
16,17),
ANKLではフローサイトメトリーによりNK細胞
の白血病であることが先に確定診断できるため
であり,ENKLとの本質的な差ではない.
(5)治療および予後
ANKLでは初発時に患者の全身状態が悪いこ
とが多いが,可能であればSMILE療法を実施す
る.全身状態不良例では,薬剤の減量ないし一
部の薬剤の中止を考慮する
19).総ビリルビンが
10 mg/dlを超えるような重症肝障害例でも,L―
ア ス パ ラ ギ ナ ー ゼ の 単 剤 治 療 に 引 き 続 い て
SMILE療法で完全奏効に持ち込むことができた
例も報告されており
20),治療を諦めるべきでは
ない.予後に関しては最近の報告でも50%生存
期間は 2 カ月と改善していないが
17),今後の成
績向上が期待される.
3.EBウイルス関連リンパ増殖症
EBV-LPDには,かつて本誌でも解説したよう
に,CAEBV-LPD,fulminant EBV-LPD,PAEBV
(progressive adult onset EBV)-LPDの 3 病型があ
る
21).比較を
表 3
に示すが,これらはEBVの感
染症ではなく,緩急の差はあるが,いずれも致
死的な腫瘍性疾患である.特にCAEBV-LPDが感
染症であるかのごとき誤認には注意する必要が
あ る. 現 在 の 血 液 腫 瘍 のWHO(World Health
Organization) 分 類 で は, こ れ ら の 前 2 者 が
EBV-positive T-cell LPD of childhoodという同一
病型にされているが
22),初期の治療対応は大き
く異なる.今後の病型分類の改善を期待したい.
4.末梢血EBV-DNA検査
EBV陽性腫瘍では末梢血中に断片化された
EBV-DNAが検出されることが報告されており,
これは500 bp以下の短いものである
23).これら
は血液腫瘍以外にも上咽頭がんで報告されてい
るが,EBV-DNA量は腫瘍量と相関し,EBV陽性
腫瘍ではよい腫瘍マーカーとなる
24,25).
一方,造血幹細胞移植後でも移植後リンパ増
殖 性 疾 患(post transplant lymphoproliferative
disorder:PTLD) の 発 症 に 先 立 っ て 血
中EBV-DNAが上昇することが知られている.PTLDも他
表3 EBV関連リンパ増殖性疾患 疾患 発症年齢 臨床経過 治療 CAEBV-LPD 小児~30歳までの若年成人 緩徐.緩解と増悪を繰り返しながら悪化 Cooling→造血幹細胞移植 Fulminant EBV-LPD 10代後半~30歳代 極めて急激 化学療法→造血幹細胞移植 PAEBV-LPD 40歳代~高齢者に多い 急激 早期の化学療法だが,成功例は少ない.のCAEBV-LPD同様に,多クローン性のEBV陽性
B細胞の増殖からオリゴクローン→単クローン
とクローン選択が進んで腫瘍性格が顕著にな
る.PTLDの 発 症 は 抗 胸 腺 細 胞 グ ロ ブ リ ン
(anti-thymocyte globulin:ATG)を使用した場合
に頻度が上昇することが知られており,本邦で
はATG使用例で 3.5%,非使用例で 0.37%と 10
倍の開きがある.多クローンの段階であれば
CD20 抗体rituximabで治療が可能であるが
26),
単クローンになってしまうと化学療法を行って
も救命できない場合もある.このため,欧米お
よび本邦の造血幹細胞移植後管理のガイドライ
ンではEBV-DNAの定期的な測定を推奨してい
る
27,28).しかしながら,問題は本邦で末梢血
EBV-DNAの保険適応がない点である.PTLDに対
するrituximabは公知申請により保険適応を取
得したが,そのコンパニオン診断検査である血
中EBV-DNAの承認がない状況では,適正な医療
はできない.ENKL,ANKLに代表されるEBV陽
性造血器腫瘍の診療の質を高める意味でも,
PTLD患者への対応が手遅れにならないために
も,一刻も早い保険承認が望まれる.
まとめ
EBVはこのように多面的な性格を持ったウイ
ルスである.EBV関連腫瘍は造血器腫瘍が多い
が,節外性リンパ腫が多くを占め,プライマリ・
ケアから多くの内科医が認識すべき疾患であ
る.EBV関連造血器腫瘍の予後は概して不良で
あったが,SMILE療法やrituximabの公知承認な
どで治療環境は改善しつつある.一方で,EBV
をめぐる検査・診断の分野では不十分な体制が
続いており,末梢血中EBV-DNA検査の一日も早
い保険承認が望まれる.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:鈴木律朗;講演 料(協和発酵キリン,中外製薬)文 献
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