原著 :秋田大学医学部保健学科紀要11(1):25‑31,2003
小児看護学教育 における就学前児童 の感染 に対す る概念の 教授 に関す る研究 (その1)
‑感染 に対す る概念の発達 について‑
平 元 泉 * 森 和 彦‥
要 tEi3
就学前児童の 「感染」に対する概念の発達を明らかにすることを目的とした.3歳から6歳までの保育園児165名 を対象に実験を行った.その結果,病気の原因として 「罰」の説明を用いることはなかった.また,風邪の原因につ いて,「接近」の説明を受け入れることから,感染予防のための健康教育が可能であることが示唆された.
Ⅰ. は じめに
小児看護学教育 は,子 ど もの健康問題 に関わる専門 職 の育成 を担 っている. そ こで は,対象 である子 ども の発達 を理解 し,適切 な援助がで きるよ うにす るため の教育が必要 となる.健康問題 を解決す る七 めの専門 職 としての視点 に,発達心理学的な視点 を加味す るこ とによ り,対象 を理解す るためのモデルの開発, さら には健康教育 のプログラムの開発が可能 になると考え
られ る.
本研究 の 目的 は,就学前児童の病気の原因 に対す る 反応 を通 して,感染 に対す る概念 の発達 を明 らかに し て,子 どもを対象 とした健康教育 のプログラムの開発 の一助 とす ることである.
Ⅱ.研究の背景
1.現在 の 「就学前児童への健康教育」 に関す る教 授 内容 の問題点
小児看護学 の教授 目標 は,「小児 の成長発達 を理解 し, あ らゆ る健康 レベルの個 々の健康上 の問題 を解決 し,成長発達 を促すための,小児 とその家族へ援助す る能力を養 う」 ことである.健康 に障害がある子 ども だ けで はな く,健康 な子 ど もに対す る健康 の保持 ・増
進への働 きかけ も重要 な領域である. このため,小児 保健 の実践者 に教授す る場合 は, 「小児 の特性 を理解 し,成長発達 に応 じた健康 の保持 ・増進 を図 ること」
が基本 となる. しか しなが ら,小児看護学 のテキス ト で,「認知的発達」 に関 して具体 的 に記述 され た もの は少 ない. しか もピアジェの認知発達 に基づ いた表現 として,「幼児の思考 は具体的で, 抽象 的, 概念 的思 考 はほとん どで きない」1)などの記述がみ られ,「認知 発達や現実検討能力などの限界 によ り,病気 の原因の 正 しい理解 は困難」2)と記載 されて い る. また, 子 ど もの思考 は大人 と異 なるという観点 が存 在 し, 「就学 前児童 の健康教育」 は周囲の大人が対象 とな っている のが一般的である. このよ うな記載 は,基本的生活習 慣 の自立への援助 につ いて も同様 で, 「何歳 で何 がで きる」 とい う標準年齢 の表示 はあ って も,認知発達 や 言語発達 に基づいた小児への具体的指導方法 につ いて の記載 は極 めて不十分である. したが って今後 は子 ど もの健康 に関わる専門職 として, よ り具体的 に援助で きるよ うな方法論 を開発 してい く必要がある.
2.就学前児童の健康 と病気 に対す る概念 の発達 に 関す る研究の問題
子 どもの健康 と病気 に対す る概念 につ いて,認知発
*秋田大学医学部保健学科看護学専攻
**秋田大学教育文化学部教育心理学講座
KeyWords:小児看護学教育 就学前児童 感染 概念 発達
(26) 平元泉/小児看護学教育 における就学前児童の感染に対す る概念の教授 に関す る研究
達 との関連 か らの研究が い くつか行 われてお り, その 多 くは,就学前児童 の病気 に対す る理解 は不足 してい る ことを示 唆 して い る.BibaceとWalsh(1981)3)
は子 どもの病気 に対す る概念 を認知発達段階 に応 じて 6つ に分類 し,就学前児童 は前操作期 の段階であ り, 病気 の原因を現象学 的 または感 染 (contagion)とみ な して い る と報 告 し て い る. ま た , Kisterと Patterson(1980)4)は就学 前児童 は歯痛 や膝 の擦 り む きの原因 に対 して,接近 や罰 の説明を受 け入れ ると
している.
一方,Siegal(1991)5' は これ らの認知発達 に関 す る研究結果 を批判 してい る.すなわち従来 の研究 にお いて,子 どもが課題 に失敗するのは,研究者が会話ルー ルを逸 脱 して い るためで あ り,KisterとPatterson (1980)の実験 を,会話 ルールを遵守 した方 法 で行 え ば,子 ど もは ■「感染 (contagion)や汚染 (contami‑ nation)」に対 して暗黙 の知識 を持 って い る ことが 明
らか にな ると報告 した. これ は,早期 の健康教育 の可 能性 を示唆 した もので もある(Siegal,1988,19906)7)).
近年, このよ うな新 たな方法論 によ り,就学前児童 は 「病気」 に関 して多 くの知識 を持 っていることが明 らか にされて きている. しか しなが ら,小児看護学教 育 において, これ らの研究成果 につ いて十分 な検討 が 行 われて いるとは言 い難 い.子 ど もの健康問題 に中心 的 に関わ る役割 を担 う職種 として, さ らに検討 してい
く必要 があろ う.
Ⅲ.用語 の定義
「病気」 :医学 的 な診 断 と しての diseaseで はな く, 日常生 活 で一 般 的 に使 用 す る言 葉 と してillness あ るいはailment甲意で用 いる.
「感染」:子 どもの病気 の原因 に対す る概念 と して contagionの意で用 いる.医学 的な病原体 の知識 を必 要 とす るinfectionで はな く,「(病気 が) うつ って発 症す る現象」 とす る.
「就学前児童」:幼児後期 の4歳か ら6歳 までの就 学前 (preschool) あ るいは学齢期前 (underschool)
の子 ど もとす る.本研究 で は3歳6ケ月か ら6歳11ケ 月 までをその範囲 と した.
Ⅳ.実 験 Ⅰ
1.日的 : 「風邪
」
「膝 の擦 りむ き」
「歯痛」 の原因と して 「接近」 や 「罰」 とい う説明を受 け入れ るか と い う課題 を通 して,子 ど もの感染 に対 す る概念 の発達 を明 らか にす る.
2.方法
1)対象 :秋 田市 内A ・B・C3保育園の3歳 か (7
ら6歳 までの園児 と保護者各129名 が, 保育 園 を通 し て調査 の主 旨と説明を受 けた. その結果,最終 的 に承 諾 ・協力が得 られた120名 を対象 と した. 実験 に参加 す る園児 は40名ずっ 4歳児群 (3歳6ケ月〜 4歳5ケ 月,平均年齢4歳0ケ月),5歳 児群 (4歳 6ケ月〜
5歳5ケ月,平均年齢5歳0ケ月), 6歳 児群 (5歳 6ケ月〜6歳5ケ月,平均年齢5歳10ケ月) の3群 に 振 り分 けた.
2)実験方法 :
(1)園児 に対 す る原因判定課題 デザイ ン
披験児 に,病気 の クマが主人公 の紙芝居 をみせ る.
紙芝居 は,病気やけが (以下,病気) な どの状況条件 とその原因を組み合 わせた もので,病気の状況条件 は,
「風邪」「膝 の擦 りむ き」「歯痛」 の3種類 で あ る. 柄 気 の原因 は,「接近」 (病気 にな った友達 のネ コさん と 遊 んだか ら) と 「罰」 (ク レヨンで落書 きを したか ら)
の2種類である.状況条件 と病気 の原因の組 み合 わせ による合計6つの物語 を被験児 に提示 し,主人公 の ク マが言 っていることが正 しいか, まちが ってい るかを 判断 させ る.1つの物語 につ いて,′5枚 の紙芝居 を提 示す る.「風邪」 と 「接近」 の組 み合 わせ を正 しい と 判定 し, その他 はまちがい と判定 した ものを正解 とす
る.
手続 き
女性 の調査者が,保育園の一室 で個 々の子 ど もに課 題 を実施す る.紙芝居のお話を聞いて, クマさんの言 っ ていることが正 しいか, まちが っているか教 えて ほ し いと話す.「被験児 の能力 を調べ るテス ト」 とい うよ りも,「クマさんの言 っていることを判断 してあげ る」
とい う有能感 を持 たせ るよ うな語 りか けにす る. クマ さんの言 うことが正 しか った ら○, まちが っていた ら
×の カー ドを出 して, クマさんに教 えてあげ るよ う説 明す る. なお,○×のカー ドの出 し方 は,別 の判定課 題で予 め練習 し,理解 で きていることを確認 してお く.
病気 な どの原因 に焦点 をあて るため,「風邪」「膝 の擦
りむ き
」
「歯痛」 の提示順 は固定 し, 「接 近」「罰」 に つ いて はカウンターバ ランスを とる.子 ど もの応答 に 対 して 「あ っている, まちが っている」 な どの フィードバ ックは行わない.
(2)披験児 の保護者 に対す る質問紙調査
病気 の原因の理解 との関連が予想 される要因 として,
「最近 1年間の風邪 ・膝 の擦 りむ き ・歯痛 お よ び虫 歯 の経験 の有無」 につ いて,被験児 の保護者 に記載 を依 頼 した.質問紙 の配付 ・回収 は保育園を通 して行 った.
(3)分析方法
先行研究 と比較す るため,量的 デー タと して処理 し
表1 病 気 や けが の原 因 に対 す る正 解 風 邪 膝 の擦 りむ き 歯痛
接近 罰 接近 罰 接近 罰
4歳児 25 23 19 21 24 25 N=40 (63) (58) (48) (53) (60) (63) 5歳児 25 32 31 28 31 30
N=40 (63) (80) (78) (70) (78) (75) 6歳児 26 35 25 34 27 33
N=40 (65) (88) (63) (85) (68) (83) ( )は各項 目毎の割合
た.「風邪
」
「膝 の擦 りむ き」
「歯痛」 の原因 と して,「接近」「罰」 の説明に対す る正解 の割合を各年齢群毎 に算出 した.
病気 の状況条件 に対 して,「接近」「罰」 ともに正解 した場合を2点, どち らか一方 の場合を1点, どち ら も不正解 には 0点 を割 り当てて得点化 し,感染理解得 点 と した. この感染理解得点 について,状況条件 と年 齢群間で分散 分析 を行 った. また, 原 因 につ いて,
「風邪」「膝 の擦 りむ き」「歯痛」 に正解 した場合 を3 点 と して得点化 し,原因 と各年齢群間の分散分析 も別
に行 った.
さらに感染理解得点 と病気の経験 との関係について, 全体 および状況条件毎 の相関関係 につ いて検討を行 っ た.
3.結果
(1)園児 に対す る原因判定課題 について
「風邪」・「膝の擦 りむ き」・「歯痛」 という3つの病 気やけがに対す る原因 について,「接近」 (病気や けが の友達 と遊んだか ら),「罰」 (いたず ら したか ら) の 説明に対す る正解者の割合を,表1に示す.
表2は病気 などの状況条件および各年齢群 の感染理 解得点の平均値 と標準偏差を示 した ものである.分散 分析の結果, 年齢要 因 において有意差 が認 め られ た b<0.01,F‑4.99).状況条件間には有意差 は認 め ら れず,交互作用 もみ られなか った.年齢 につ いて最小 有意差 (以下,LSD)法 によ り平均値の差 の検定 を 行 った ところ,4歳児群 において5歳児群および6歳 児群 との間 に有意差 が認 め られ た (Mse‑0.72,9<
0.05). 5歳児群 と6歳児群の差 はなか った.
病気 の原因と各年齢群の平均得点 は表3の通 りであっ た.分散分析の結果,年齢要因において有意差が認 め られた わく0.01,F‑4.99).病気 な どの原因 (F‑
3.25)および交互作用 (F‑2.86)は有意差を認めなか っ た.年齢 についてLSD法を用 いた多重比較 の結果,
表2 感 染理解得 点 病気な どの状況条件
風邪 膝 の擦 りむ き 歯痛 4歳児 5歳児 6歳児 N 120 120 120
Mean 1.38 1.34 1.43 S.D. 0.66 0.75 0.72
120 120 120 1.18 1.48 1.49 0.75 0.65 0.68
表3 病 気 な どの原 因 の理 解 得 点 病気な どの原 因
接近 罰
4歳児群 Mean 1.78 1.78 N=40 S.D. 0.96 0.81 5歳児群 Mean 2.20 2.23 N=40 S.D. 0.81 1.06 6歳児群 Mean 1.95 2.53
N=40 S.D. 0.83 0.87
表4 病 気 や けが の経験 を有 す る者 風邪 膝の擦 りむ き 歯痛 ・虫歯 4歳児 40 21 11
N=40 (loo) (53) (23)
5歳児 40 12 13
N=40 (100) (30) (33)
6歳児 40 10 20
N=40 (100) (25) (50) ( )は各項 目毎の割合
(28) 平元泉/小児看護学教育 における就学前児童の感染に対す る概念の教授 に関す る研究
5歳児 お よび6歳児群が4歳児群 よ り平均得点値が高 か った (Mse‑1.04,9<0.05). 5歳児群 と6歳児 群 に有意差 は認 め られなか った.
(2)被験児 の保護者 に対す る質問紙調査 について
「最近1年間の 『風邪』・『膝 の擦 りむ き』・『歯痛 お よびむ し歯』 の経験 の有無」 について,園児 の保護者 に回答 を依頼 した結果 は,表4に示す通 りであ った.
「風邪」 は全員が経験 していた.
「膝 の擦 りむ き」 と 「歯痛 ・む し歯」 の経験 の有無 と感染理解得点 の相関関係 は以下 の通 りであ った.全 体 (rニー0.02)および 「膝 の擦 りむ き」(rニー0.ll),
「歯痛 ・虫歯」(rニー0.001) において相関 は認 め られ なか った. また,「膝 の擦 りむ き」 の経験 と各年齢条 件 において も, 4歳児 群 (r‑0.16), 5歳児群 (rニ ー0.14),6歳児群 (r‑0.18)で相関は認められなか っ た∴ 同様 に 「歯痛 ・虫歯」 の経験 と各年齢条件 におい て も,4歳児群 (rニー0.002),5歳児群 (rニー0.15),
6歳児群 (rニー0.07)で相関 は認 め られなか った.
4.考察
1)就学前児童 の病気 の原歯 に対す る理解
Siegal(1988)は,就学前 (4歳6ケ月ん5歳4ケ 月,平均年齢4歳11ケ月), および小学1年生 (5歳
5ケ月〜 6歳2ケ月,平均年齢5歳9ケ月), 小学 3 年生 (7歳6ケ月〜 8歳7ケ月,平均年齢8歳3ケ月) の子 ど もを対象 に,「風邪」 と 「歯痛」 の原 因 の理 解 につ いて, ぬい ぐるみを主人公 としたVTRを使用 し て実験 を行 っている. その結果,風邪 の原因 について は3群 とも正解 の割合が高 い結果が示 された. また, 小学3年 と比 較 して就 学前 と小学 1年 の子 ど もは,
「風邪」 よ りも 「歯痛」 の正解 率 が低 い と報告 して い る.就学前 と小学1年 の子 どもは, 「風邪」 の原 因 に つ いて は 「罰」 よ り 「接近」 を正 しい とす るが, 「歯 痛」 につ いて 「接近」 と 「罰」を原因 とす る割合 に差 はない とい う結果であ った. また, 「膝 の擦 りむ き」
を題材 に した別 の実験 (Siegal,1988)で は, 「膝 の 擦 りむ き」 の原因を 「罰」 と結 びっ けた りせず,正 し
く理解 で きるとい う結果 が得 られている.
本実験 で は,「風邪」「膝 の擦 りむ き」「歯痛」 の理
解得点 に差 は見 られなか った.就学前 の子 どもは膝 の 擦 りむ きや歯痛 の原因 と して 「接近」 による感染やい たず らによる 「罰」の説 明を受 け入れ るとい うKister
とPatterson(1980)の報告 とは異 な る結果 となった.
ただ し,「歯痛」 よ りも 「風邪」 の理 解得点 が高 い と い うSiegal(1988)とは異 な り, 3種類 の病気 や け がの理解得点 に差 はなか った. また,年齢別 に比較す ると4歳児 よ りも5歳児 および6歳児 の理解得点が高 い ことがわか った.Siegal(1988)の実験で は,就学
前 (平均年齢4歳11ケ月) と小学1年 (平均年齢5歳 9ケ月) の差 はな く,4歳半未満 につ いて は調査対象 と していなか った.一万, 本実験 で はSiegalの対 象 よ りも年齢 の幅を3歳6ケ月 まで拡大 し,4歳児 は3 歳6ケ月か ら4歳5ケ月 まで,5歳児 は4歳6ケ月か
ら6歳 5ケ月 まで と して い る.Siegal他 (1990)の別 の報告 で は4歳2ケ月か ら4歳11ケ月 までを4歳児, 5歳0ケ月か ら5歳8ケ月 までを5歳児 と区分 してい るが, や はり年齢 による差 は認 め られなか った.本実 験 の年齢区分で は,4歳児 と5歳児 および6歳児 との 差が存在 したが, この結果が概念操作 の発達 による差 異 を示す ものか, さ らに検討が必要であ る.
病気 やけがの原因 について,「接近」 と 「罰 」 の理 解 について得点化 した結果で は,差がない ことが明 ら かにな った.Siegal他 (1990)にお いて も, いたず らは病気 の判定 に影響 しないとい う結果が得 られてお り,「いたず ら」 を病気 の危険因子 と して見 な して い ない と言 える.すなわち 「風邪」 「膝 の擦 りむ き」丁歯 痛」のよ うな病累 やけがの原因 と して, 「罰」 の概 念 を用 いることは少 ないと考え られ る.
2)就学前児童 の病気 やけがの雁患状況
Siegal(1988)は,「風邪」 よ りも 「歯痛」 の原 因 に対す る子 どもの理解得点が低 いの は, 「歯痛 」 の経 験 がな く身近 な病気 で はないか らであ ると解釈 してい る. そ して,Siegal他 (1990)で は 「風 邪」 の症状 は説 明で きるが,「歯痛」 の症状 につ いて説 明 で きな い ことか ら 「toothachewaslikeanacheinatoe onlythatitwasinsidethemouth(つ ま先 を踏 まれ たよ うな口の中の痛 み)」とい う説 明 を付 け加 えて い る. その結果,「歯痛」 の原因 を正 しく理解 で きる と 報告 している. これ は,子 どもの病気の原因の理解が, 子 ど も自身 の経験 に影響 され ることを示唆 している.
しか し子 どもにとって 「歯痛」 は理解 しに くい病気 で あるか は疑問である.子 ども自身 の経験 に影響 を受 け るものであるとすれば,経験す ることので きない病気 やけがの原因 について理解で きないということになる.
で は,就学前児童 の催患状況 はどのよ うにな ってい るであろ うか.国民生活基礎調査8)によ る と, 有訴 率 (病気 やけが等で 自覚症状のあ る者 の割 合) は,40代 までで は0‑ 4歳 の割合が最 も高 い.各年齢毎 の風邪 の羅患状況 について詳細 な調査報告 はないが,就学前 児童 は発熱 などの症状 を経験す る割合が高いと言える.
本実験 で は4歳児か ら6歳児全員 が風邪 の経験 を もっ ていることが明 らかにな った.
また, けがについて は石樽 (1991) の 「幼稚 園児 の 怪我 についての調査研究」9)によ る と,3歳 か ら5歳 児 の6‑7割が 「最近1年間にけがを した」 と答 えて
お り,上肢や下肢の擦過傷や切傷が多いことが報告 さ れている.本実験 において 「膝の擦 りむ き」の経験の ある者の割合 は,全体で も4割以下で,石樽 (1991) より低 い割合であ った. これは,怪我の部位や種類を
「膝の擦 りむ き」 と限定 したためであると考え られる.
わが国における歯科保健活動9)は, む し歯 の好発時 期である乳幼児 を中心 に活発 に行われて きた. その結 果,歯の健康維持 に対す る意識 は高 まっているが,幼 稚園児 のむ し歯被患率 は,平成12年度 は64.4%と依然 として高 い割合を示 している9).本実験 において, む し歯の経験 を有す る者の割合 は年齢 と共に上昇するが, 全体では4割以下であった.
「風邪」「膝 の擦 りむ き」「歯痛」 について,雁患経 験 の有無の差 はあるものの,就学前児童 にとって身近 な傷病であると言 える. したが って, これ らの雁患経 験がないことによって,病気などの原因 としての 「接 近」や 「罰」 の説明を受 け入れるということはないと 思 われる. この推論 は本実験の結果を支持す る.すな わち,「風邪」「膝の擦 りむ き」「歯痛」 の原因 につ い て,子 ども自身の羅患経験 とは関係な く理解 されてい る. したが って本研究 は,Siegalとは異 な る解釈 も■ 可能であることを示唆 している.
3)再換討すべ き課題 について
以上の結果か ら,「風邪」「膝の擦 りむ き」「歯痛」
の原因に 「罰」の説明を用 いることはないこと,およ び子 ども自身 の曜患経験 とは関連が少ないことが明 ら か とな った. しか し,風邪 の原因 として 「接近」の説 明に対 す る正解 の割合がSiegal(1988)よ りも低 い 結果 とな った.Siegal(1988)の使用 したVTRの主 人公 は明 らかにされていないが,本実験ではクマを主 人公 とした.会話ルールの遵守5)のため,フィー ドバ ッ
クや繰 り返 しはで きず, その理由を子 ども自身 に確認 は しなか ったが,動物が主人公であ り,人間 とは異な ると捉 えた とも考え られ る. また,Siegal(1988)は ぬい ぐるみが病気 になるか否か という質問に加えて, 子 どもは病気 になるか否か とい う質問を してお り,双 方の解答を得点化 して分析 している.一方本実験では, 質問の繰 り返 しを避 けるため, クマに対す る判断で理 解の しかたが明確 に表 され ると判断し 質問を1つ と
している. したが って,主人公を動物ではな く子 ども とした場合 について も検討が必要であろう.
さらに,就学前児童 に対す る健康教育 の可能性を探 るためには,病気 の原因 と して 「罰」の説明を否定す るだけではな く,「接近」 に対 す る正 しい理解 も必要 である.すなわち,風邪 などを予防す るための 「手洗 い」の必要性の理解のためには,「風邪」 の原因であ る 「接近」 を受 け入れることが必要であろう. そのた
め,「風邪」の原因 としての 「接近」 の理解 につ いて は,「一緒 に遊ぶ」 という設定のみではなく,「非接近」
と対比 させ ることによって,就学前児童の判断を試み る必要がある.
したが って,以下の問題 について次の実験で再検討 す る. まず第1に 「風邪」の原因 としての 「接近」 の 理解 について,「風邪」 と比較 す る非感染性 の病気 と して 「歯痛」をとりあげて検討す る. さらに,4歳児 と5歳児 の概念操作の発達 における差異 について も,
Siegalの再調査 と同様 の年齢区分で検討 す る. また, 実験の際に用いる質問 に登場 させ る主人公 は動物では な く,人間の子 どもと して再検証す る.
V.実 験 Ⅱ
1.日的 :「風邪」・「歯痛」の原因 として、「接近」
と 「非接近」 という説明を受 け入れ るか とい う課題を 通 して,子 どもの病気 の原因 としての感染の理解 の し かたについてさらに検討す る.
2.方法
1)対象 :秋田市内D・E2保育園の4歳か ら5
歳の園児45名の うち順次協力が得 られた40名が参加 し た.参加 した園児 は4歳児群 (4歳6ケ月〜4歳10ケ 月,平均年齢4歳8ケ月),5歳児群 (5歳0ケ月〜
6歳0ケ月,平均年齢5歳7ケ月)各20名の2群 に振 り分 けた.
2)調査方法 : デ ザ イ ン
病気の子 どもが主人公の物語を披験児 に聞かせ る形 で行われた.物語 は,病気の状況条件 とその原因を組 み合わせている.病気 の状況条件 は,「風邪」・「歯痛」
の2種類,病気の原因 は,「接近」 (病気の友達 と一緒 に遊ぶ),「非接近」 (道路の向 こう側 で挨拶 をす る) の2種類である.物語 は,病気 (風邪 または歯痛)の 主人公の子 どもと2人 の友達が登場す る.友達の一人 とは部屋の中で一緒 に遊 び, もう一人 とは道路の反対 側で手 を振 って挨拶す るという設定である.2種類の 物語の後で,主人公の子 どもと一緒 に遊んだ友達 と道 路の反対側で挨拶 した友達が,主人公 と遊んだ (また は挨拶 した)か ら同 じ病気 になった とい う説明が正 し いか, まちが っているかを判断 させる.物語の際には, それぞれの場面 を表 したイラス トを提示す る.
手続 き
実験 1と同様である.物語の主人公および友達 は, 披験児 と同 じ性別 とした.
3)分析方法
「風邪」・「歯痛」の原因 としての 「接近」・「非接近」
という状況判断に対 して,正解者の割合を各年齢群毎
(30) 平元泉/小児看護学教育における就学前児童の感染に対する概念の教授に関する研究
表5 病気の原因 (接近 ・非接近)に対する理解
風邪 歯痛
接近 非接近 接近 非接近 4歳児 16 13 9 13
N=20 (80) (65) (45) (65) 5歳児 16 10 7 13
N=20 (80) (50) (35) (65) ()は群内の割合
表6 病気 (風邪 ・歯痛)に対する理解
状況条件 風邪 歯痛
年齢群 4歳児 5歳児 4歳児 5歳児
N 20 20 20 20
Mean 1.45 1.3 1.10 1.0 S・D. 0.67 0.7 0.7 0.77
に算 出 した.
「風邪」・「歯痛」 の状 況条件 に対 して, 「接近」・
「非接近」 ともに正解 した場合 に2点 , どち らか一 方 の場合 に 1点, どち らも不正解 の場合 を 0点 を割 り当 てて得点化す る. その平均得点 について,状況条件間 と年 齢群 間 で分 散分析 を行 った. また, 「接 近 」 と
「非接近」 につ いて,「風邪」・「歯痛」 ともに正解 した 場合 を2点, どち らか一方 の場合 を1点, どち らも不 正解 を 0点 と して,年齢群間で分散分析 を行 った.
3.結果
「風邪」・「歯痛」 に対 す る原因 につ いて,「接近」・
「非接近」 の説 明 に正 しく判断で きた正解者 の割合 を, 表5に示 す. このデー タに基づ き,病気 の状況条件 と 年齢群間 による理解得点 を分析 した.表6は病気 の状 況条件 お よび各年齢群 の理解得点 の平均値 と標準偏差 を示 した ものである.
分散分析 の結果,状況条件 において5%水準 の有意 差 (F‑4.9)が検 出 された. したが って,病気 の状況 条件 において,「風邪」 が 「歯痛 」 よ り平均 得点 が高 い ことが明 らかにされた. 年 齢要 因 (F‑0.48)お よ び交互作用 (F‑0.03)には有意差 が認 め られ なか っ た.
病気 の原因 に対す る理解得点 を,「接近」・「非接近」
につ いて各年齢毎 の平均得点 および標準偏差 について は,表7に示 した通 りである.分散分析 の結果,年齢 の主効果 (F‑0.48)お よび原因の主効果 (F‑0.03),
表7 病気の原因 (接近 ・非接近)に対する理解
病気の原因 接近 非接近
年齢群 4歳児 5歳児 4歳児 5歳児
N 20 20 20 20
Mean 1.25 1.15 1.30 1.15 S.D. 0.62 0.57 0.84 0.79
交互作用 (F‑0.03)には有意 な差 はなか った.
4.考察
就学前児童 の感染 に対す る理解 の しかたを明 らか に す るために,「接近」 と 「非接近 」 の説 明 を用 いた実 験 を行 った.実験 Ⅰとの相違 は,主人公 を動物 か ら人 間の子 どもに した こと, および原 因 の説 明 を, 「一 緒 に遊ぶ」 とい う 「接近」 と 「いたず ら」 による 「罰」
とい う対比 か ら, 「一 緒 に遊 ぶ」 とい う 「接 近 」 と
「道路 の向 こう側で手 を振 る」 とい う 「非接近 」 の対 比 と して表現 した ことであ る.Siegal他 (1990)は, いたず らを した友達 との接近 と非接近 も含 めた物語 と
して設定 しているが,本実験で は多 くの質問の繰 り返 しをで きるだけ避 けるため,「接 近」 のみ に焦 点 を し ぼ って実施 した. その結果,「風 邪」 の原 因 につ いて は,「接近」 の説 明を受 け入れ る ことが明 らか にで き た.一方,「歯痛」 について,実験 Ⅰで は 「接 近 」 に つ いての正解 の割合 が4歳児 は60%に対 し,実験 Ⅰで は45%と低 くな った. なおSiegal(1988)で は歯 痛 (4歳児55%)よ り風邪 (4歳児83%)の正 解 率 が高 く,Siegal他 (1990)で は歯痛 の説 明 を付加 す る こ とによって正解率 は増加 してい る (4歳児86%).こ の点 で は, 本 研 究 は異 な る結 果 とな った.Siegal (1988)の実験で は,最初 はVTR, 次 いで人 形 を登 場 させたボー ドゲームを用 いている.本実験 で はイ ラ
ス トを用 いた方法で行 った. これ らの方法論 の相違 が 結果 に影響 を及 ぼ した とは考 えに くいが,歯痛 の原因 の説 明 としての設定 にふ さわ しい表現で はなか った と い うことも考 え られ る.歯痛 につ いて は 「甘 い物 を食 べたあ とで歯 を磨かなか った」 とい う正 しい説 明 も選 択肢 に加 えた実験 などによ って, さ らに検討 が必要 で あ る.
年齢差 について はSiegal他 (1990)の年 齢 区分 と 合致 させた結果,4歳児 と5歳児 の理解 に差 は認 め ら れなか った ことか ら,4歳以降の子 どもを対象 と した 健康教育 の可能性が示唆 された.小児看護学 の教授 内 容 と して,就学前児童 は病気 やけがの原因 につ いて理 解で きないとい う見方 を是正 し,子 ど もの理解 を基盤
に した感染予 防な どの指導 が可能であることが明 らか にで きた.具体的な指導方法 につ いて,今後 さ らに検 討 を重 ねて い く必要 があ る.
文 献
1)馬場一雄,吉武香代子編 :系統的看護学講座専門21, 小児看護学1,p.73,医学書院,1999.
2)小沢道子,片田範子編 :標準看護学講座29,小児看護 学,p.184‑185,金原出版,1994.
3)Bibace,R.,Walsh,M,E.:Children'sConceptionsoflll‑
ness..inBibace,R.&Walsh,M,E.Eds,Children'scon‑
ceptionsofhealth,illnessand bodily functions. New directionsforchild development,14,p.8ト
87,Sanfrancisco:Jossey‑Bass,1981.
4)Kistcr,M,C.,Patterson,C,J.:Children'sConceptionsof theCausesIllness;Understanding ofContagion
andUseofImmanentJustice,ChildDevelopment, 51,839‑846,1980.
5)Siegal,M.:KNOWING CHILDREN Experimentsin ConversationandCognition,1991,鈴木敦子他訳, 子どもは誤解されている,86‑106,新曜社,1993. 6)Siegal,M.:Children'sKnowledgeofC(mtagionand
contaminationascausesofillness.ChildDevel09‑
ment,59‑135311359,1988.
7)Siegal,M.Patty,∫.&Eiser,C.:Areexaminationofchi1‑ dren'sofcontagion.PsychologyandHealth,4,159‑
165,1990.
8)厚生統計協会 :厚生の指標49, 国民衛生 の動 向,72‑ 73,2002.
9)前掲8),354‑355.
10)石樽登志子,石樽清司 :幼稚園児 の怪我 についての調 査研究.学校保健研究,33,287‑294,1991.
ChildNursingEducationStudyofChildren'sConceptionofContagion(1); DevelopmentofPreschoolChildren'sConceptionofContagion
IzumiHIRAMOTO*KazuhikoMoRI‥
*CourseofNursing,SchoolofHealthSciences,AkitaUniversity
**DepartmentofEducationalPsychology,FacultyofEducationandHumanStudies,AkitaUniversity
Thepurposeofthisstudywastoclarifythedevelopmentalstageoftheconceptof"contagion"inpreschool childLren.Onehundredandsixtyfivepreschoolersfrom 3to6yearsoldparticipatedintwoexperiments.Re‑ sultsshowedthat"punishment"wasnotusedasanexplanationofillness.However,itwasusedthatthecause ofcc・ldsis"exposuretoillness",whichsuggeststhathealtheducationforpreventionofcontagionispossible forpreschoolers.