• 検索結果がありません。

胎児心エコー図による動脈管の異常の診断

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "胎児心エコー図による動脈管の異常の診断"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本小児循環器学会雑誌 14巻3号 426〜429頁(1998年)

<Editorial Comment>

胎児心エコー図による動脈管の異常の診断

徳島大学医学部小児科 森  一博  胎児期には右室からの血液の約90%は動脈管を経由して下行大動脈へと流れる.胎児循環においては,心拍 出量は左室よりも右室優位で(40%vs60%)で,右室と左室からの両心拍出量の50〜55%が動脈管経由を経由 することになる.最近,胎児心エコー図の導入により,胎児期動脈管の血流評価や形態異常が報告されるよう になった.

 1.正常胎児の動脈管

 経腔プローべを用いれば在胎11週から動脈管の血流の観察が可能である1).動脈管を通過する血流は,在胎20 週以降,胎児循環の他のいずれの部位よりも血流速度が大である.週数と共にその速度は増大し,収縮期 50〜140cm/sec,拡張期6〜30cm/secである2).しかし, pulsatility index(収縮期流速 拡張末期流速/平均 流速)は2.46±0.52で在胎週数によらずほぼ一定である3).動脈管の流速は肺動脈の流速よりも速く(両者の収 縮期速度差は6〜50cm/sec),その差も在胎週数と共に増大する(図1).このことは,妊娠末期では右室から の駆出血液量に対してわずかながら 相対的な動脈管の狭窄 をきたしていることを示している.

 断層像では,動脈管は肺動脈から下行大動脈へのなだらかなアーチ(ductal arch)として観察される.動脈 管の径は在胎週数と共に大となり,下行大動脈の径に近い4).しかし,妊娠末期では肺動脈や下行大動脈径より 若干細くなる.

 動脈管の血流速度は胎児の行動パターン・胎児の子宮内での発育状況によっても異なる.胎動時は睡眠中に 比して低速である(その理由として胎動時には心拍出が右室よりも左室優位になるとの推察がある)5).呼吸と の関係については,吸気時には流速が低下する6).この呼吸性変動は胎児の肺血管床の発育と密接に関係し,肺 低形成を伴う胎児ではその呼吸性変動が減弱する.子宮内発育不全(IUGR)の胎児では,中大脳動脈の拡張 期血流は増大するのに対して(brain sparing effect),血流量減少を反映して大血管および動脈管の流速は低

下する7).

 2.胎児動脈管の収縮

 切迫早産治療の目的で子宮収縮抑制作用を有するインダシンの投与を母体が受けると(特に妊娠34週以降で の使用),胎児動脈管は収縮する2).長期にわたる動脈管の狭窄は出生後の新生児遷延性肺高血圧症の一因とな る.明らかな誘因がないにもかかわらず動脈管が収縮し,胎児期から三尖弁閉鎖不全・右心系の拡大をきたし

た症例の報告もある8}9).

 胎児動脈管の収縮により収縮期流速は加速し2m/sec以上となる場合もある.ただし,この収縮期速度の増大 は胎児動脈管収縮に特異的なものではなく,子宮収縮抑制の目的でβ刺激剤(塩酸リトドリンやテルブタリ ン)を母体投与した際にも認められる3).β刺激剤の母体投与により,胎児の右心からの心拍出量が増加し,動 脈管の収縮期流速は増大するが,拡張期血流速度は増加しないためpulsatility indexは増加する.左心低形成 心の動脈管もこれと同様の所見を呈する.すなわち,左心低形成心では右室が全心拍出量をまかなうため,右 室のhigh outputの状態となり,動脈管の血流は母体へのβ刺激剤投与と同様のパターンとなる.これらの病 態に比して,動脈管の胎内収縮では,収縮期のみならず拡張期流速が増大する.拡張期流速はlm/sec以上とな

ることが稀ではなく,pulsatility indexは著明に低下する3)(図1).収縮期流速1.4m/sec以上,拡張期速度0.3 m/sec以上, pulsatility index 2.0以下が動脈管収縮の診断指標とするのが妥当であろう.

 動脈管が完全に閉鎖すると拡張期の肺動脈から下行大動脈への血流(run off)が消失する.この拡張期血流 の消失に加えて,1)三尖弁閉鎖不全および肺動脈閉鎖不全,2)右心系の拡大と収縮不全(急速な動脈管閉鎖 による右室のafterload mismatch),3)代償性の左心機能の充進,を認めれば胎児動脈管の完全閉鎖と診断で きる9).胎児水腫や子宮内胎児死亡の可能性もあり厳重な管理が必要である.

Presented by Medical*Online

(2)

日小循誌 14(3),1998 427−(39)

A

3   20

Φ ω

1

収縮期最大流速

会▲

      :こ{盒

150

o1oo:ξ  50

15   20   25   30   35

   在胎週数 平均流速

拡張末期最大流速

  念▲

 ▲▲▲

 .↑念

▲▲▲ ▲

        ム

OΦ

ε 2

1

4

15   20   25   30   35

   在胎週数

3 2 1

15   20  25   30  35

   在胎週数 Pulsatility lndex

金▲

 ▲▲▲

15   20  25  30  35

   在胎週数

B

     動脈管

1川 1日1川1川1川1

       8t 8

1 ll    句

口■曽田

図 1

     肺動脈

llllll日口lllllllll

●r1tn ●日●−0.■  ●.●●●

        φ

,1、i、,、L,}、、

1m/sec

●■x−s7●T

  t

A:正常胎児および動脈管収縮時の動脈管の血流速度(文献3を一部改).正常胎児の 平均値±2SDを直線で示した.収縮期・拡張期とも在胎週数と共に流速は増大する.

▲は母体にインダシン投与し,動脈管が収縮した胎児.

B:正常胎児(在胎38週)の動脈管および肺動脈の血流.動脈管では,20cm/secの拡 張期血流を認める(矢印).収縮期血流は肺動脈に比して60cm/secも流速が大である.

 3.胎児動脈管の逆方向流

 胎児動脈管の逆方向流(左右短絡)は純型肺動脈弁閉鎖や三尖弁閉鎖などの右室低形成疾患,肺動脈の強い 狭窄を伴う疾患(ファロー四徴症など)で認められる.カラードプラ法により大動脈から肺動脈に流入する血

Presented by Medical*Online

(3)

428−(40) 日本小児循環器学会雑誌第14巻第3号 流を描出することができる.Berningらは,胎児エコーで動脈管の逆方向流を認めた症例の予後を検討し,出 生後生存している症例は20%であったと報告した1°).肺血流減少性疾患の肺動脈の発育は動脈管からの逆方向 流と右室からの順方向流により規定される.順方向流が少ないにもかかわらず動脈管も収縮し肺動脈の発育不 良をきたす例や,妊娠中に動脈管からの逆方向流のみに依存し肺動脈弁が狭窄から閉鎖に移行する例も報告さ

れている11).

 4.胎児動脈管の欠如

 動脈実験では,総動脈幹遺残や肺動脈欠如を伴うファロー四徴症では動脈管が欠如することが指摘されてい る12).胎児エコーでも肺動脈弁欠如の例で動脈管を認めなかったと報告されている 3).しかし,肺動脈弁欠如 を伴うファロー四徴症の中にも動脈管開存を伴う症例があり,胎児エコーを含めた今後の症例の蓄積が望まれ

る.

 5.胎児動脈管の形態異常

 胎児心エコー図による動脈管の形態異常に関しては,他に心奇形を伴わない胎児で,動脈管瘤14)15)や蛇行し た動脈管8)の報告がある.

 通常の動脈管瘤は動脈管の大動脈側の閉鎖が遅延するために生じると考えられている.そのほかの成因とし て,1)胎児期から動脈管の形態異常を有する例,2)肝動静脈痩・Galen大静脈瘤などhigh outputをきたす 疾患で,動脈管部が膨隆したと考えられる例15),3)Marfan症候群・Ehlers−Danlos症候群などで組合組織の 異常を伴う例,などが挙げられる.大動脈側のみならず,肺動脈側にも瘤を伴うこともある15).出生後,動脈

》 毎

X

㍗、

で.

 吻

職 織

A 覧謹酵

ぷ︐

〆離㌢

鯉、

一.Ptl

AB

C

図2 正常新生児(生後4時間)で認められた肺動脈  瘤

 動脈管(C)の肺動脈側が突出し,肺動脈瘤を形成し  ている(▲).日齢1には動脈管は閉鎖した.ド段は  カラードプラ法による動脈管の血流.A=右肺動脈,

 B=左肺動脈

Presented by Medical*Online

(4)

平成10年5月1日 429−(41)

管瘤は無症状に経過し,閉鎖・退縮する例も稀ではない.しかし,動脈管瘤の破裂・気管の圧迫・血栓形成な ど重篤な合併症を生じる例もあり,出生後も十分な経過観察が必要である.

 佐藤論文の症例は胎児期から異常走行を認めた動脈管瘤で,出生後大動脈側は閉鎖退縮し肺動脈側には肺動 脈瘤を残したものである.胎児エコーでの動脈管のパルスドプラ所見,出生後のDSA・MRIによる画像診断 があればより説得力のある論.文となったであろう.

  なお,肺動脈瘤はファロー四徴症などの先天性心疾患のみならず,健常新生児でも心エコー図で認められる ことがあり,動脈管閉鎖の際のバリエーションとも考えられる(図2).

 胎児心エコーの普及により,従来の出生後の診断のみでは見逃されていた異常が発見されると期待される.

今後の症例の蓄積が望まれるが,そのためには産婦人科医と小児循環器医の密接な連携が不可欠である.

      文  献

1)Brezinka C, Stijnen T, Wladimiroff JW:Doppler flow velocity waveforms in the fetal ductus arteriosus    during the first half of pregnancy:areproducibility study. Ultrasound Obstet Gynecol l994;4:121−123

2)Huhta JC, Moise KJ, Fisher DJ, Sharif DS, Wasserstrum N, Martin C:Detection and quantitation of    constriction of the fetal ductus arteriosus by Doppler echocardiography. Circulation 1987;75:406 412

3)Tulzer G, Gudmundsson S, Sharkey AM, Wood DC, Cohen AW, Huhta JC:Doppler echocardiography of    fetal ducatus arteriosus constriction versus increased righ ventricular output. J Am Coll Cardiol]991;18:532    −536

4)Sutton MSJ, Groves A, MacNeill A, Sharland G, Allan L:Assessment of changes in blood flow through the    lungs and foramen ovale in the normal human fetus with gestational age:aprospective Doppler cehocardio−

   graphic study. Br IIeart J 1994;71 232 237

5)van der Mooren K, van Eyck J, Wladimiroff JW:Human fetal ductal flow velocity waveforms relative to    behavioraユstates in normal term pregnancy. Am J Obstet Gynecol 1989;160:371−374

6)van Eyck J, van der Mooren K WIadimiroff JW:Ductus arteriosus flow velocity modulation by fetal    breathing movements as a measure of fetal lung development. Am J Obstet Gynecol l990;163:558−566

7)Groenenberg IAL, Waldimiroff JW, IIop WCJ:Fetal cardiac and peripheral arterial flow velocity wavefor・

   rns in intrauterine growth retardation. Circulation 1989;80:1711−1717

8)Mielke G, Peukert U, Krapp M, Schneider−Pungs J, Gembruch U二Fetal and transient neonatal right    dilatation with severe tircuspid valve insufficiency in association with abnormally S−shaped kinking of the    ductus arteriosus. Ultrasound Obstet Gynecol 1995;5:338  34ユ

9)Leal SD, Cavalle−Garrido T, Ryan G, Farine D, Heibut M, Smallhorn JF:lsoIated ductal closure in utero    diagnosed by fetal echocardiography. Am J Perinatol 1997;ユ4:205 210

10)Berning RA, Silverman NH, Villegas M, Sahn DJ, Martin GR, Rice MJ:Reversed shunting across the ductus    arteriosus or atrial septum in utero heralds severe congenital heart disease. J Am Coll Cardiol 1996;27:481    −486

11)

12)

13)

14)

15)

16)

Shan DJ: Perspectives in fetal echocardiography. Cardiol Young 1994;4:90−98

Momma K, Ando M, Takao A:Fetal cardiac morphology of tetralogy of Fallot absent pulmonary valve ill the rat. Circulation 1990;82:1343−1351

Fouron JC, Sahn DJ, Bender R, Block R, Schneider H, Fromberger P, Hagen−Ansert S, Daily PO:Prenatal diagnosis and circulatory characteristics in tetralogy of Falllot With absent pulmonary valve. Am J Cardiol 1989;64:547−549

Puder KS, Sherer DM, Silva ML, King ME, Treadwell MC, Romero R:Prenatal ultrasonographic diagnosis of ductus arteriosus anuerysm with spontaneous neonatal colsure. Ultrasound Obstet Gynecol 1995;5:342 345

Lund JT, Hansen D, Brocks V, Jensen MB, Jacobvsen JR:Aneurysm of the ductus arteriosus in the neonate:

Three case reports with a review of the literature. Pediar Cadriol 1992;13:222−226 佐藤恭子,西  猛,正岡 博:特異な走行を呈した動脈管の1例.H小循誌 418 423

Presented by Medical*Online

参照

関連したドキュメント

どにより異なる値をとると思われる.ところで,かっ

Tu be Saf et y & P ro du ct fe atu re s 静脈採血関連製品 特殊採血関連製品 静 脈 採 血 関 連 製 品 針 ・ア ク セ サ リ ー 動脈採血関連製品

1.4.2 流れの条件を変えるもの

man 195124), Deterling 195325)).その結果,これら同

私たちの行動には 5W1H

信心辮口無窄症一〇例・心筋磁性一〇例・血管疾患︵狡心症ノ有無二關セズ︶四例︒動脈瘤︵胸部動脈︶一例︒腎臓疾患

et al.: Selective screening for coronary artery disease in patients undergoing elective repair of abdominal

筋障害が問題となる.常温下での冠状動脈遮断に