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博 士 ( 農 学 ) 自 井 菊 子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 自 井 菊 子

学 位 論 文 題 名

キ ュ ウ り の 発 育 と 花 芽 形 成 過 程 に お け る

ジ ベ レ リ ン 合 成 系 酵 素 遺 伝 子 の 発 現 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  ジ ベ レ リ ン(GA)は植 物ホ ルモ ン の1つで あり ,植 物の 生活 環 全体 を通 して 様々 な発 育過 程を 調 節す るこ とが 知ら れ ている。キュウ りでは,発育とGAとの関係について多くの知見が蓄積さ れ て いる が,GA合 成に 関 連す る酵 素遺 伝子 が単 離さ れた 報告 はな く, それ ら遺 伝子の発現によ る GA生合 成調 節を 明ら か にす る試 みは 未だ なさ れて いな い。

  本研 究は ,キ ュウ り からGA合成に関 連する主要酵素遺伝子を同定し,それら遺伝子の発現量 を 解 析す るこ とに より , キュウりの花に おける性発現とGAとの関係,ならぴに花,果実および葉 の 発 育過 程に おけ るGA生 合成 活性 の変 動を 明ら かに した もの であ る。

1. GA合成系酵素遺伝子の 単離と同定

  GA生 合 成 の 初 期 過 程 を 触 媒 す る コ バ リ ル2リ ン 酸 合 成 酵 素(CPS)お よ び カ ウ レ ン 合 成 酵素 (KS)と ,GA活 性 化 を 触 媒 す るGA 3p一 水 酸 化 酵 素(30H)のcDNA遺 伝 子 を , カ ボ チ ャ と シ ロ イヌ ナズ ナの 類似 遺伝 子配 列を もと に作 成したPCRプライマーを用いて増幅することによ り,

キュウりから単離した。

  単 離 に 成 功 し たcDNAク ロ ー ン(Cs CPS1,Cs KSヱ ,Cs30HI)の配 列は ,こ れま でに 単離 され て いる 植物 種のCPS,KSお よび30H遺伝 子と それ ぞれ 高 い相 同性 を示 し,いずれも酵素の機 能に 関 連す る配 列を 含ん でい た。 キュ ウリ ゲノ ムにおけるCs CPSヱ ,CsKS1およぴCs30H1遺伝子 のコ ピー数は,他の植物種のCPS,KSおよぴ30H遺伝子と一致していた。

  以上の解析結果から,本 研究で単離・同定されたCs CPS1,CsKS1,Cs.ヨOH1は,それぞれキュ ウ り のコ バリ ル2リ ン酸 合成 酵素 ,カ ウレ ン合 成酵 素お よ ぴGA3p一 水酸 化酵 素を コー ドす る遺 伝子であると結論した。

2. 植 物体 の性 表現 にお よぼ すGAおよ ぴェ チレ ン処 理の 影響

  キ ュウ りの 花は 雌雄 異花 であ り,GAは花の雄性化を,エチ レンは雌性化を促進することが知ら れて いる 。本 研究 では ,GAとェ チ レン が実 際に 花の 性発 現に 関与 して いる こと を確 認するため に, 発育 時期 の異 なる キュ ウリ 植 物体 をGA3と エセ フオ ン( エチレン発生剤)で処理し,これら ホル モン の性 表現 に対 する 作用 を比較検討した。その結果,GAは芽生えに処理した場合に雄花形 成を ,エ チレ ンは 第2本 葉が 展開 した(2葉期)植物体に処理 した場合に雌花形成を促進すること

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が 明 ら か とな っ た 。組 織 学 的な 観 察 を行 っ たとこ ろ,芽 生えでは まだ花 芽原基は 分化し ておら ず ,2葉 期植 物 体 の茎頂部 には雄 ずいと雌 ずいが分 化して いない段 階の花 芽原基が 観察さ れた。

  以上の結 果から,GAは花芽 形成に先 立つ分 裂組織に 作用し て雄花発 生を促 進し,工 チレンは性 発 現前の 花芽に作 用して 雌花形成 を促進 すること が示唆さ れた。

3.植 物体の性 表現に 関連するGA合成系 酵素遺伝 子の発現

  混 性 型品 種 四葉 と 雌性 型 品 種 れ ん せい を用 い,RT‑PCR法に よってCs CPS1,CsKS1お よ ぴCs30H1の発 現量を 比較した 。その 結果,芽 生え茎頂 組織のCs CPSヱ発現 量に品種 間差が 認め ら れ た 。 そこ で , 芽生 え 期 の茎 頂 で 合成 さ れ たGAの働 きを調べ るため, 四葉 芽生え にGA生 合 成阻害 剤(アン シミド ール)を 処理し ,その後 ,植物体 に着生 した花の 雌雄性 を調査し た。そ の 結果, 下位節に おける 雄花形成 が抑制 され,代 わりに雌 花形成 が促進さ れた。 しかし, 本葉展 開 後 の 植 物 体 で は , ア ン シ ミ ド ー ル 処 理 に よ り 花 が 雌 性 化 す る こ と は な か っ た 。   これらの 結果から ,芽生 え期の茎 頂部に おける高 いGA合成 能がその 後のキ ュウリ植 物体の性表 現 に 強 く 影響 し て いる こ と,芽生 え茎頂 におけるGA生合成 はCPS遺 伝子の 発現を介 して調節 され て いるこ とが示唆 された 。

4. GA合 成系酵素 遺伝子 の発現に およぽ すエチレ ン阻害剤 の影響

  キュウ りの花の 雌性化 を促進す るホル モンであ るエチレ ンがGAの 合成活性 を低下 させるか否か を 検 討 す るた め に ,エ チ レ ン 阻害 剤 ( 硝酸 銀 ) で処 理 し た雌 性 型 品種 の 植 物体 茎 頂 に おけ る Cs CPS1,CsKS1およ びCs30H1の 発 現 量の 変 動 をRT‑PCR法 に よっ て 分 析し た 。第2本葉 が展開し た時 期 に 硝 酸銀 処 理 した 植 物 体で は , 処理 後 , まず両 性花が形 成され, 続いて 雄花が形 成され た。す なわち, エチレ ン阻害に よってキ ュウリ 花芽の雄 ずい発 育が促進 された 。一方, 処理後の 植物体 茎頂にお けるCs CPSヱ ,Cs KS1およ びCs30H1の発 現量は, 茎頂に 雄性花が 形成され るまで の過程 でほとん ど変動 しなかっ た。この ことか ら,硝酸 銀処理 による雄 花形成 過程では ,GA合成 系は活 性化しな いと結 論した。

  以上の 結果から ,キュ ウリ花芽 におけ る雄ずい 発育促進 もしく は雌ずい 発育抑 制に,GAが直接 関与し ている可 能性は 低いと考 えられた 。

5.花,果実およぴ葉の発育過程におけるGA合成系酵素遺伝子の発現変動

  栽培の 目的器官 である 果実とそ の初生器 官であ る花,お よび植 物体の主 なGA生合 成の場である とさ れ る 葉に つ いて ,Cs CPS1,CsKS1お よびCs30Hヱの発 現量をRT‑PCR法によっ て解析 し,それ ぞれの器官の発育にともなうGA合成活性の変化を推定した。

  雄花で は,Cs CPS1,CsKS1およびCs.30Hヱ の発現量 は開花直前に最大となり,開花後には減少 した 。 雌 花で は ,Cs CPS1,CsKSヱ およびCs30H1の発現量 は発達初 期に増 大し,開 花前に は減少 した。 これらの 結果から ,花の 発達過程 におけ るGA生合成 活性は ,雄花で は開花 直前に,雌花で は発達初期に高いことが示唆された。

  果実で は,閉花 直後にCs CPSヱとCs KS1の発現量が急激に増大したが,果実の肥大生長が始まっ てからは,く冫S CPSヱの発現量のみが増大し,C.鹹鉗の発現量は変化しなかった。この結果から,果

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実の肥大生長期におけるGA生合成の初期過程は,主にCPSによって調節されていることが示唆さ れた。Cs30H1遺伝子の発現は,開花から果実の肥大生長が始まるまでの過程でほとんど検出さ れなかった。サザン解析により,キュウリゲノムには複数の30H類似遺伝子が存在すると推定さ れたことから,キュウリ果実の肥大生長期におけるGA活性化段階は,Cs30H1以外の30H遺伝子 の発現を介して調節されている可能性が示唆された。

  葉におけるCsa)Sヱの発現量は,生長にともなって高まり,展開し終わる時期には減少したが,

CsKS1の発現量は葉が生長する間,ほとんど変動しなかった。一方,Cs30H1の発現量は,展開 が終了する時期で急激に増大した。これらの結果は,葉におけるGA生合成の初期過程は主にCPS に よ っ て 調 節 さ れ て い る こ と ,GA生 合 成 活 性 は 成 熟 葉 で 高 い こ と を 示 唆 し た 。

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学 位論文 審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

大 澤 勝 次 幸 田 泰 則 岩 間 和 人 増 田    清

学 位 論 文 題 名

キュウ りの発 育と花芽形成過程における

ジ ベレリン 合成系 酵素遺伝 子の発現に関する研究

  本 論 文 は 全6章 か ら な り , 図33, 表11, 弓I用 文 献91を 合 む 総 頁 数102の 邦 文 論 文 で あ り , 他 に 参 考 論 文2編 が 付 さ れ て い る 。

  単 性 花 を 着 生 す る 作 物 に お け る 花 の 性 表 現 と 単 為 結 実 の 機 構 解 明 は 園 芸 学 の 主 要 テ ー マ で あ る 。 本 論 文 は , キ ュ ウ り の 花 芽 形 成 お よ ぴ 果 実 発 育 過 程 に お け る 内 生 ジ ベ レ リ ン の 関 与 を , 新 た に 単 離 ・ 同 定 し た キ ュ ウ リ ジ ベ レ リ ン 合 成 系 酵 素 遺 伝 子 の 発 現 と い う 視 点 か ら 論 じ た も の で あ る 。 提 出 さ れ た 論 文 に は , 研 究 史 に っ づ き , 以 下 に 示 す 研 究 の 成 果 が 記 載 さ れ て い る 。 1. GA合 成 系 酵 素 遺 伝 子 の 単 離 と 同 定

  GA生 合 成 の 初 期 過 程 を 触 媒 す る コ バ リ ル2リ ン 酸 合 成 酵 素 (CPS) お よ び カ ウ レ ン 合 成 酵 素 (KS) と ,GA活 性 化 を 触 媒 す るGA3ロ 一 水 酸 化 酵 素(30H) のcDNA遺 伝 子 を , 類 似 遺 伝 子 の 配 列 を も と に 作 成 し たPCRプ ラ イ マ ー を 用 い て 増 幅 す る こ と に よ り , キ ュ ウ り か ら 初 め て 単 離 し た 。   単 離 に 成 功 し た cDNAク ロ ー ン(Cs CPS1,CsKS1,Cs30H1) の 配 列 は , 他 植 物 種 の 類 似 遺 伝 子 と 高 い 相 同 性 を 示 す と と も に , 酵 素 機 能 に 関 連 す る 配 列 を 含 ん で い た 。 ゲ ノ ム に 含 ま れ る 遺 伝 子 の コ ビ ー 数 も , 他 植 物 種 に お け る 報 告 と 一 致 し て い た 。 こ れ ら の 解 析 に よ り , 単 離 さ れ た 遺 伝 子 は , そ れ そ れ キ ュ ウ り の コ バ リ ル21Jン 酸 合 成 酵 素 , カ ウ レ ン 合 成 酵 素 お よ ぴGA3p一 水 酸 化 酵 素 を コ ー ド す る 遺 伝 子 で あ る と 断 定 し て い る 。

2. 植 物 体 の 性 表 現 に お よ ぼ す GAお よ ぴ エ チ レ ン 処 理 の 影 響   ジ ベ レ リ ン は キ ュ ウ り の 花 の 雄 性 化 を , エ チ レ ン は 雌 性 化 を 促 進 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 そ こ で , 発 育 時 期 の 異 な る キ ュ ウ リ 植 物 体 をGA3と エ セ フ オ ン ( エ チ レ ン 発 生 剤 ) で 処 理 し , こ れ ら ホ ル モ ン の 性 表 現 に 対 す る 作 用 を 比 較 検 討 し た 。 そ の 結 果 ,GAは 芽 生 え に 処 理 し た 場 合 に 雄 花 形 成 を , エ チ レ ン は

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第2 本葉が展開した( 2 葉期)植物体に処理した場合に雌花形成を促進するこ とを明らかにした。さらに,組織学的な観察結果に基づき,GA 処理は花芽分 化に先立つ茎頂分裂組織に作用して雄花発生を促進し,エチレン処理は性発現 前の花芽に作用して雌花形成を促進すると示唆した。

3 . 植 物 体 の 性 表 現 に 関 連 す る GA 合 成 系 酵 素 遺 伝 子 の 発 現    雄性型品種 四葉 ,と雌性型品種 れんせい における Cs CPS1 ,CsKS1 およびCs30H1 の発現量をRT‑ PCR 法により比較し, 四葉 芽生え茎頂にお けるCs CPS ヱ発現量が れんせい のそれに比ベ高いことを明らかにした。同 時に,芽生え期およぴ本葉展開後の 四葉 植物体茎頂にGA 生合成阻害剤を 施与することにより,芽生え期に処理した場合にのみ,下位節の雄花形成が抑 制され,雌花形成が促進されることを確認した。この結果から,芽生え期の茎 頂部で合成されたGA が,その後のキュウリ植物体の雄花形成を促進している と推論している。

   次に,キュウりの花の雌性化を促進するホルモンであるエチレンが GA の合 成活性を低下させるか否かを検討した。雌性型キュウリ植物体は,エチレン阻 害剤である硝酸銀で処理により,まず両性花を形成し,続いて雄花を形成する ようになった。一方ユ処理後の植物体茎頂におけるCs CPS1 , CsKS1 および Cs30H1 の発現量は,茎頂に雄性花が形成されるまでの間ほとんど変動しなか った。この結果から,硝酸銀処理による雄花形成誘導では,GA 合成系は活性 化しないと結諭している。

4. 花,果実および葉の発育過程におけるGA .合成系酵素遺伝子の発現変動    生産に直接関係する器官である花と果実,ならびにGA 生合成の場であると される葉について,発育にともなうGA 合成系遺伝子の発現変動をRT‑ PCR 法 により調査した。その結果,花の発達過程におけるGA 生合成は,雄花では開 花直前に,雌花では発達初期に活発になることを明らかにした。一方,果実で は,開花直後から肥大生長期にかけて,Cs CPS1 の発現のみが増大することを 明らかにし,その結果から,果実の肥大生長期におけるGA 生合成の初期段階 は, 主に CPS によ って 調節 されていると推定している。Cs30H1 遺伝子の発 現は,開花から果実の肥大生長が始まるまでの間,ほとんど検出されなかった が,その理由として,キュウリ果実の肥大生長期におけるGA 活性化に,未知 の30H 酵素が関与している可能性を論じている。

   葉におけるCs CPS1 の発現量は,生長にともなって高まり,展開し終わる時 期には減少した。一方,Cs30H1 の発現量は,展開の終了とともに急激に増大 した。この結果に基づき,葉におけるGA 生合成は成熟葉で活発であり,葉の GA 生 合 成 初 期 過程 は 主 にCPS に よって 調節 され てい ると推 定し てい る。

   以上のように本論文は,従来から信じられてきたキュウりの雄花形成とジベ

レリンとの関係を,新技法の駆使により解析したものである。結果は実証的で

あり,信頼性の高いものであると認められる。論文には新知見が多く含まれて

おり,学術上および応用上高く評価される。よって,審査員一同は自井菊子が

博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る と 認 め た 。

参照

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