ドイツにおける商法会計 と税法会計の 分離可能性 に関する考察
真 鍋 明 裕
要 旨
ドイツでは会計法現代化法の成立によ り所得税法が改正 され、商法 会計 と税法会計 との問にあった逆基準性が廃止された。 これに関 して、
税務上の選択権行使を商法 とは独立に行 うことができるか否かをめ ぐっ て、見解の相違が見 られる。独立的選択権行使の問題 は商法会計 と税 法会計の関係性 に関する今後の変化 を見通す上で重要である。基準性 原則 を通 じた商法会計 と税法会計の結びつ きに関 しては、決算書作成 のコス トを削減できる、利害調整のはた らきがある、 といった利点が ある一方で、課税の均一性 との不一致や国際的批判の存在 も確認でき る。 これ らの背景事象をふまえた上で、商法会計 と税法会計の関係 に ついて考察すれば、以下の点を指摘で きる。第1に、今後、商法会計 と税法会計の機能はますます異なった ものにな り、両者 は分離 してい くであろうということ、第2に、両者の関係性 を規定す る法的基礎 を さらに整備する必要があるとい うことである。
キー ワー ド :会計法現代化法 連邦財務省通達 基準性原則 逆基準性 選択権行使
121
1
.はじめに
ドイツでは2009年5月に会計法現代化法 (Bilanzrechtsmodernisierungs一 gesetz,以下、BilMoGと記す)が公布 され、従来のさまざまな法律の改正が 行われた。その中の重要なものの 1つに、所得税法の改正がある。当該改正 に よって、商法会計 と税法会計の間の逆基準性 (umgekehrteMaBgeblichkeit) が廃止され、税務上の選択権行使 に関する新たな規定が導入 された。
この新規定 をめ ぐっては、 ドイツ連邦財務省 (Bundesministerium der Finanzen,以下、BMFと記す)が2010年3月の通達の中で、商法か ら独立 し た、税務上の選択権行使 を可能 としているのに対 し、BilMoGの ドイツ連邦政 府案 (以下、連邦政府案 と記す)では、 これ とは異なった見解が見 られる。か か る論点は、 ドイツにおける商法会計 と税法会計の関係 を考 える上で、重要な 検討事項であると思われ る。
本稿では、税務上の選択権行使 を どのように とらえるのかについて、BMF 通達、連邦政府案、および関係法律の条文を参照 しつつ検討 し、それを通 じて、
基準性および逆基準性 によって長 らく結びついてきた商法会計 と税法会計の関 係が今後 どのようになってい くのか、両者が分離する可能性 はあるのか、 とい うことについて考察する。本稿の考察が、国際情勢の中で生 じている会計制度 の変化の一端 を描出できれば幸いである。
2.BilMoGによる所得税法の新規定
2009年5月のBilMoGにより、所得税法 (Einkommensteuergesetz;EStG) 第5条第 1項は次のように変更 され ることになった。
所得税法第5条第 1項第 1文
「法規則 に基づいて簿記を行い、定期的に決算をすることを義務づ けられて いる、 または、そうした義務 はな くて も簿記を行い、定期的に決算を行 う商人 においては、年度末に経営資産 1を認識 しなければな らず、かかる経営資産 は、
商法上の正規の簿記の諸原則 (GoB)に基づいて計上 されなければな らない。
l 経営資産 とは、さしあた り、「経営上の目的のために使用 され る資産」と解 しておけばよい。
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ただ し、税務上の選択権行使の範囲内で、異な る認識が選択 され る、なし)し選 択 された場合 はこの限 りでない2。」
変更前、つ ま りBilMoG公布前の所得税法 は次の ようである。
所得税法第5条第 1項第 1文および第2文
「法規則 に基づいて簿記を行 い、定期的に決算 をす ることを義務づ けられて いる、 または、そうした義務 はな くて も簿記 を行 い、定期的に決算 を行 う商人 においては、年度末 に経営資産 を認識 しなければな らず、かか る経営資産 は、
商法上の正規 の簿記の諸原則 (GoB)に基づいて計上 されなければな らない。
利益計算 における税務上の選択権 は、商法上の年度貸借対照表 と合致 した形で 行使 されなければな らない。」
この 2つの条文を比較す ると、最後の部分が異なっている。変更前の所得税 法第5条第 1項第2文の記述が削除され、その代わ りに、新規定では 「ただ し」
以下の記述が加 わっている。 これをもって、BilMoGでは、逆基準性が廃止 さ れた と言われている。変更前では、税務上の選択権 は商法会計 と合致 した形で 行使 されなければな らない とぎれていたのに対 し、変更後 の条文か らは、必ず しも商法会計 と合致 しな くて も、税務上の選択権 を独立 に行使で きる可能性が 開かれているように見 える。つ ま り、商法会計 と税務会計の分離の可能性 をこ の条文中に見 ることがで きるのである。
ドイツ連邦財務省 (BMF)は、2010年3月12日に 「商法上の正規 の簿記の 諸原則の、税務利益計算 に対する基準性」 と題す る通達 (以下 「通達」 と記す)
を公表 し、BilMoGによって変更 された所得税法 に対す る解釈 を述べてい る。
そこでは、税務上の選択権の独立的行使 に対 して肯定的な見解が述べ られてい るが、 これに関 しては異なる意見 もあ り、議論の余地がある。次章ではこの間 題 について検討す ることにしたい。
2 「ただ し」以下の 1文 は訳出上、句点で区切 ったが、原文では全体で一続 きの文である。
123
3.商法会計 と税法会計の分離可能性
3.
1.
商法から独立 した税務上の選択権行使の可能性BMFは、通達の第13項において、次のように述べている。
「税務上でのみ存在 している選択権 は、商法上の価値認識 (Wertansatz)
か ら独立 して これ を行使 す るこ とがで きる (所得税法第 5条第 1項第 1文
Halbsatz2)。 この限 りにおいて、税務上の選択権の行使 は、所得税法第5条 第 1項第 1文Halbsatz13を根拠 とした、商法上のGoBの基準性 による制限は 受 けない。」
ここか ら、BMFは所得税法第5条第 1項 によ り、税法上の選択権 を商法か ら独立 して行使す ることは可能であるとの見解 を示 していると言える0BMF
の通達 より以前に公表 された様々な文献で も、新規定の文言を広 く解釈 し、将 来はあらゆる税務上の選択権が商法か ら独立 して行使できるであろうとい う解 釈 が 多 く見 られ、BMFの上 記 の見 解 もそれ に沿 った もの にな って い る
(Wehrheim undFross【2010]S.1349)0
もし、BMFの上記の見解 どお り、税務上の選択権が独立 して行使可能 とい うことであれば、 これは商法会計 と税法会計の関係性 に対 して大 きな変化 をも た らす ものになるであろう。 この とき、具体的な例 として しばしば挙 げられ る のが、資産の価値低下時の償却の問題である。 所得税法では、第6条第 1項第
1号第2文および第2号第2文 により、継続的な価値低下が見込 まれ る場合 に は、低 い方の部分価値 (Teilwert4)が認識 に用 い られ る5。商法会計の税法 会計に対する基準性が存在する場合、商法上で資産の償却義務が生 じた場合、
税法上でも部分価値の償却がなされ る。 しか し、税務上の独立 した選択権があ
3 Halbsatzとは、 ある文の中のさらに一部 をさす ものであ る。 ここにおいてHalbsatzlと は、所得税法第5条第 1項の新規定 における前半部分 をさし、Halbsatz2とは、同項の後半 部分 をさす。
4 部分価値 とは、企業全体の買手が、全買収価額の範囲内で個々の経済財のために認識す る であろう金額である (所得税法第6条第 1項第 1号)。
5所得税法第6条第 1項第 1号第2文 は償却資産 について、第2号第2文 はそれ以外の資産 について、 いずれ も継続的な価値低下が見込 まれ る場合、価値低下後 の部分価値 を認識す る ことができるとしている。
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れ.ば、必ず しも部分価値 の償却 を行わな くて もよい ことにな る (Wehrheim undFross[2010]S.1349)。 BMFは通達 において以下のように述べている。
通達第15項
「固定資産及び流動資産 は、継続的な価値低下が見込 まれ る場合、臨時に償 却することがで きる (商法第253条第3項第3文、第4項)。所得税法第6条第 1項第 1号第2文および第2号第2文 によ り、継続的な価値低下が見込 まれ る 場合、部分価値 を認識す ることができる。商法会計で臨時の償却 を行 った とし て も、そのために、税務上で も部分価値償却を通 じて強制的に償却が行われる 必要はない。納税義務者 は当該償却を放棄することができる。」
ここか ら、資産 の価値低下時の臨時償却 について、BMFは、商法か ら独立 した選択権 を税法が有 しているとの見解を示 していると考 えられ る。 しか し、
これに関 しては、異なる見解 も存在す る。 ドイツ連邦政府 は、会計法現代化法 (BilMoG)の連邦政府案 において、次のように述べている。
「商法会計の税法会計 に対す る基準性 は、今提示 されている法案の変更 を通 じて も、触れ られ ることはない。だか ら、BilMoGによって、現在の法的状況 は何 ら変化す ることはない。商法会計の税法会計 に対す る実質的基準性 は、基 本的に、各項 目の認識 ・測定に係 るあらゆる規則 に及ぶ。ただ し、認識 ・測定 に関する税法上の制限がある場合はこの限 りでない。 ドイツ商法におけるGoB が今後 も発展 してい く限 り、そこか ら生 じる、商法会計の税法会計への基準性 原則 に関する変更 は、税務上の認識 ・測定にも影響が及ぶ。」(S.124)
「逆基準性が廃止 された として も、継続 的価値低下 に起 因 してな され る 臨 時 償 却 (auBerplanmaBigen Abschreibung)や 部 分 価 値 償 却
(Teilwertabschreibung)のシステムには何 の変化 もない。低 い方の価値で の認識 は、商法案第253条第3項第3文 に基づ き、 これを行 わなければな らな い (最低価値原則 (Niederstwertprinzip)6)。商法会計の税法会計への基準
6最低価値原則 は、慎重性原則 (保守主義) において とられ る考 え方であ り、資産 をよ り高 い価値ではな く、 よ り低 い価値 の方で認識す るとい う原則である。慎重性原則 は、正規の簿 記の諸原則 (GoB)の一部である。
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性の原則 に基づ き、部分価値償却は、所得税法第6条第 1項第1号第2文 によ り、 これを行わなければな らない。 この限 りにおいて、税務上の選択権 は存在 しない。」 (S.124)
ドイツ連邦政府の見解では、BilMoG成立後であって も、商法会計の税法会 計への基準性 は失われ ることはな く、 したがって、従来の法的状況が変わ るこ
とはない としてい る7。た しかに、 旧所得税法第5条第 1項第2文が削除 され た ことで、逆基準性 は廃止 された と解 され るが、所得税法第5条第 1項第 1文 は存続 してお り、 そ こにおいて税法上、商法のGoBに従 った資産計上が要求 されていることか ら、商法会計か ら税法会計への基準性 は依然 として存在す る と考 えられ る。 しか し、認識 ・測定 に関す る税法上の制限がある場合 に、例外 もあ り得 ることに言及 されている点には、注意が必要であろう。
また、資産 の価値低下時の償却 に関 しては、商法第253条第3項第3文 にお いて、継続的な価値低下時に臨時償却が行われなければな らない旨が規定 され てお り、それに加 えて商法会計の税法会計への基準性が存在 していることか ら、
所得税法第6条第 1項第 1号第2文の、 よ り低 い部分価値 の計上規定 に基づい て、償却が行われなければな らない と解釈 してい る。 この過程は自動的なもの であり、 したがって税務上の選択権 は存在 しないことになるのであろう。8
3.2.選択権行使 に関する解釈
ここで、興味深 く思われ るのは、BMFの通達 と、 ドイツ連邦政府 の見解 と で、同じ条文 に基づ きなが ら、逆の解釈が生 じているとい うことである。あら ためて、両者 の参照 している条文 を確認す ることとしよう。
7 千葉【2010]は、税務上の選択権 の行使可能性 について、BMFの ように、BilMoGによる新 所得税法の文言 を広 く解釈す る見解 を 「広義説」、従来の法的状況が変わ ることはない とい う 連邦政府案 の方 を重視 す る見解 を 「狭義説」 とし、両者 の対立か ら、BMF通達 の意味 を考 察 してい る。
8 部分価値償却 の問題 について、連邦参議院 は、 その態度表明の中で、 「商法会計で償却が なされた ことによって、税法会計上 も償却 を強制 的 に行わなけれ ばな らないのか、 それ とも 選択権が存在 す るのか」 については 「未解決」 (決着がつかない) としていたが、 これへの反 論 として、 連 邦 政府 は上記 の よ うな見解 を示 して い る
(
「連 邦政府 案」S.120,WehrheimundFross[2010]S.1349)0
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商法第253条第3項第3文
「使用期間が限 られているか どうかにかかわ らず、固定資産 に継続的な価値 低下が見込 まれ る場合 は、かか る資産 を決算 日に付 され る、 よ り低 い方の価値
で もって認識す るために、臨時的な償却が行われなければな らない。9」
所得税法第6条第 1項第 1号第2文
「継続的 と予想 され る価値低下のために、部分価値が よ り低 くなっている場 合、価値の低下 した当該部分価値 を認識す ることがで きる。」
上記の条文 に関連 して、BMFは通達第15項 において、商法か ら独立 した税 務上の選択権行使が可能であるとの見方 を示 し、他方の連邦政府 はBilMoGの 政府案 において、税務上の選択権 は存在 しない と明確 に述べている。 しか し、
条文の文言上は、 どち らも、資産の継続的な価値低下が見込 まれ る場合 に、そ の低 い方の価値で認識す るべ き、ない しは認識で きる旨が規定 されているのみ であ り、少な くとも上記の2つの条文か らは、商法か ら独立 した税法上の選択 権 の行使可能性 についての自明な解釈 は導 けない もの と思われ る。や は り、 こ れについては、新所得税法第5条第 1項第 1文 を どう解釈す るかにかかってい
るといえる。
これ につ いて、 た とえばHerzigundBriesemeister[2010a]で は、一部 の 文献 において部分価値償却の義務 は存続す るとの考 えが示 されていることに触 れた うえで、 「かか る論述 は、所得税法第5条第1項第1文Halbsatz2が、将来 的に、商法会計 とは独立に税務上の選択権 を行使す ることを許可す るとい うこ
とを考慮 していない。商法上のGoBの実質的基準性 は、税務上の選択権 のケー スでは所得税法第5条第 1項第 1文 により失効 させ られ るのである。税務上の 選択権行使 のさいにGoBに従 うことは、所得税法 は、 もはや要求 していない ので ある。」 (HerzigundBriesemeister【2010a】S.72)と述べてい る。他 に も、 「所得税法第5条第 1項第2文が廃止 されれ ば、かか るケースで は、商法 会計への連結がな くな り、その結果、税務上の選択権 は自由に行使 され るよう
9 同様 に、商法第253条第4項では、流動資産 について、 よ り低 い価値で認識す るための償 却 (切 り下げ)が行われ るべ きことが規定 されてい る。
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になるだろう。」 (ArbeitskreislO【2008】S.1059)とか、 「最新の所得税法第5条 第 1項第 1文 の文言 は一義的である。当該条文 は、商法会計か ら独立 した税務 上の選択権行使 を許容 している。」 (Kaminski【2010]S.771) といった同様 の見 解が見 られ る。
したがって、新所得税法第5条第 1項第 1文 に関 しては、や は り上記の文献 にも見 られ るとお り、税法会計 において、商法会計か ら独立 した選択権が認め られてい るとの解釈が成 り立つ と思われ る。条文の文言 をそのまま受 け取れば 概ね このような解釈 になるのは自然であろうし、 また、税法上の選択権 は存在 しない と述べている当の連邦政府案のなかで も、3.1.にみた ように、 「ただ し、
認識 ・測定 に関す る税法上の制限がある場合 はこの限 りでない。」 との留保が 付 されてお り、 この ことも税法上の選択権 あ りとす る上記解釈 を優位 にす るも の と思われ る。 よって、当該解釈が成 り立つ限 りにおいて、商法 における利益 計算 と税法 における課税所得計算が分離 され る可能性 はあるととらえることが で きる。
しか し、法律 の文言 を どのように解釈す るかは、当該文言か ら純粋 に論理的 にどのような内容が引き出せ るか、 とい うことだけではな く、その背景にある、
ドイツ会計 における商法会計 と税法会計の関係 をどの ように考 えるか、 または 両者の関係 は どうあるべ きか、な どの考慮が作用 しているように思われ る。次 節ではこの点 について検討 したい。
3.3.基準性原則を通 じた商法会計 と税法会計の関係 に関する考慮 3.3.1.コズ ト削減 と利害調整
基準性原則 はなぜ必要 とされ るのか、その主た る理由は、基準性原則 を通 じ て商法会計 と税法会計が結びついていることが、立法者 に とって も、決算書作 成者 に とって も、 コス ト削減的であるか らである。商法会計 と税法会計が結び ついてい ることで、 「商法 に加 えて利益計算の第2のシステムが作 られ ること を避 けられた し、安全な商法規則 を税務決算書の中に導入す ることができた」
(Wehrheim und Fross[2010]S.1348)とい う側面が ある。 これ は、 「立法者
川ArbeitskreisBilanzrechtderHochschullehrerRechtswissenschaft,以下 たん に Arbeitskreisと記す。
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に とっての単純化」(Haller[1992]p.315)のメ リッ トがあるとい うことである。
また、決算書作成者 にとっては、商法 と税法が結びついていれば、多少の調整 が必要 とはいえ、基本的には1種類の会計を行えばよいことになる。 このため、
「とくに中小企業 に とっては、統一決算書 (Einheitsbilanzll) を作成で きる 可 能 性 が あ る こ とは、 コス トの 観 点 か ら重 要 だ っ た」 (Wehrheim undFross[2010]S.1348)ということである。
また、基準性 による結びつ きは、利害調整のはた らきも果たす。慎重性原則 等 にも見 られるように、商法は債権者保護 を重視 しているという特徴がある。
それは、企業の純資産 を充実 させ、倒産の危険性 を低 くするということであ り、
かか る特徴 をもった利益計算が基準性原則 を通 じて税法上の課税所得計算 にも 影響することで、税法にも同様の特徴が反映 され ることになるであろう。 これ
は企業 と債権者 との利害調整 と言えるだろう。 ざらに、基準性原則 による結び つきは、税金上の都合で支払能力が規定 され るのを防 ぐという機能 もある。納 税者 としては支払税額を抑えたい誘因があると思われ るが、税金計算が商法会 計 と結びついていれば、税額 を抑制す るための操作の可能性 は限定 され るだろ
う。 これは、課税す る国家 (国庫) と納税義務者 との間の利害調整 といえる (Wehrheim undFross【2010]S.1348)0
3. 3. 2.
課税の均一性等前節で見たように、商法会計 と税法会計の結びつきを支持す る要因がある一 方で、当該結びつきが批判の対象 となることもある。その理由は、主 として商 法 と税法の目的ない し性格の違いか ら来ているように思われ る。
商法会計においては、前節で も見たように、債権者保護の要請か ら、慎重性 の原則が適用 され る。 したがって、そこでは、資産 はより低 く、負債 はより高 く計上 され る傾向がある。 しか し、税法の もとでの課税所得計算 において重視 され るのは、客観性 (Objektivierbarkeit)や均一性 (GleichmaBigkeit) である(Herzig[2006]S.559)。税金計算 においては、会社の支払能力が尺度 とさ れ る。つま り、支払能力が同じであれば、納税者 における税負担 も同じである
" 統一決算書 とは、商法 と税法の両方 に合致 した、 1つの決算書の ことである。
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べ き との原則12があるのである。 ここにおいては、企業 の客観的な経済状態を 把握することが重要 となって くるが、慎重性原則 に基づ く商法会計では、不確 実性が存在す る場合 に対称的な処理がなされないため、必ず しも税法の目的 と
は合致 しない ことも考 えられ る13(Thieme[20041S.19)。それゆえ、税法では、
い くつかの特定の項 目に関 して、商法 とは異なった会計処理 を要求 している場 合 もあるのである (Haller[1992]p.311)。
また、 これ とは異なる側面か らの批判 もある。それは国際的な観点か らの批 判である。そもそも、 ドイツ会計 に見 られ るような、商法会計の税務会計 に対 す る基準性 は、国際的な観点か らは、必ず しも必要な ものではない との見方 も 存在する。逆基準性 に関 してはなおさらであ り、それは、国際的な観点か らは、
ドイツ会計 に対す る主要な批判点 となっていた (Arbeitskreis[20081S.1058)。 その 1つの現れ として、逆基準性 に関 しては、 これがEC第4号指令 に違反 して いるとの意見 もある。た とえば、旧商法で認め られていた、税務上の 目的のた めになされ る特別準備金の積み立てや、税務上の資産評価 を考慮 しての償却の 実施 な どは、EC第4号指令の第2条第3項、すなわち、年度決算書 は、企業 の資産 ・負債、財務、損益 に関す る真実かつ公正な概観 を報告 しなければな ら ないとの規定に違反 しているとされたのである】4(Arbeitskreis【2008]S.1059)。 そ して、かか る逆基準性が有効である限 り、 ドイツ代表の国際的な委員会 におけ る存在感 は小 さい もの とな る との懸念 も示 されたので あ る (Arbeitskreis [2008]S.1058)
4.
商法会計 と税法会計の関係性に関する展望
前章では、商法会計 と税法会計の分離可能性 に関 して、商法お よび所得税法 の条文、BMFの通達、連邦政府 の見解等 を参照 しなが ら、 どの ような ことが 考 えられ るかについて考察 した。部分価値償却 については、同様 の条文 を参照
12 これ は、均等課税原則 (GrundsatzdergleichmaBigen Besteuerung)と呼 ばれ る (Arbeitskreis[2008]S.1058)0
13慎重性原則のもとでは、末実現の利益は計上が禁止されているのに対 し、未実現の損失は計 上義務 となっており、取 り扱いが異なっている。 これは非対称原則 (Imparitatsprinzip)と呼 ばれ る (WOheundDGring[2010]S.737)。
14旧商法に存在 していた これ らの処理 に関す る条項 (第247条第3項、第273条、第281条、第 254条、第279条) は現行商法では削除または変更 されている。
130
しなが らも、BMFと連邦政府 とで は意見 の対立が見 られ る。 それ には、商法 と税法の結びつ きに対す る考え方が背景 として作用 してい ると思われ る。商法 と税法が結 びついていることは、 コス ト削減や利害調整 といった利点がある一 方で、慎重性 を求める商法が客観性 を求める税法 に合致 しない、国際的な観点 か ら望 ましくない側面がある、 といった弱点 もある。商法会計 と税法会計の分 離可能性 については、上記のような背景事象 も考慮 した うえで検討す る必要が
あるであろう。
4.1商法会計 と税法会計の役割
ここで、確認 しておきたいのは、商法会計 と税法会計の役割である。連邦政 府案では、以下の ような記述が見 られ る。 「商人の税務上の支払能力の表示 を 基準性原則 に基づいて行 う、 とい うことが これか らも可能なのか どうかは、検 討を要す る。商法決算書の情報機能 は今後前面 に出て くることになるし、税務 上の支払能力の尺度 としての実現原則 は逐次、現代化 され る。だか ら、個々の 能力 に基づいた課税 を選択す るとか、EUレベルでの統一 ざれた法人税法の計 算基礎 を作 るとかのために独立の税務上の利益計算が必要 なのか、 また必要 と
あればその概念化 をどの ようにす るのか、 について分析 しなければな らない。」
(S.34)ここで言われてい ることは、商法会計 と税法会計 は、 その役割 におい て、今後 ます ます異なった特徴 を持 ってい くか もしれない とい うことである。
商法会計の役割 は配当可能利益の計算である、 ということが言われてきたが、
会計基準の国際的統一化の進展 とともに、情報提供機能が重要性 を増 している ことは間違 いない。現在 の ところ、当該機能の重視がIFRSの強制 とい う形で 表れているのは資本市場指向企業の連結決算書 に限定 されてはい るが、 この範 囲が将来 において拡大 され る可能性 は否定で きない。他方で、税法会計の役割 は、課税の均一性 を達成す るために、納税義務者 の支払能力 を算定す ることで ある。 この ように、商法会計 と税法会計では、 目的が異なるし、 それは今後、
よ り顕著 になるか もしれない。 そのさい、認識 ・測定 において両者のあいだで 異なる処理が行われ ることは、ある程度不可避であると思われ る。連邦政府 は
3.1.で も見た とお り、税務上の独立的な選択権行使 の可能性 には否定的な見解 であるように思われ るが、他方で、上記の ような問題意識 も提示 してい ること
131
は注 目され る。
また、現時点で もすでに、商法会計 と税法会計 はすべての点において一致 し ているわけではない。 「厳密な、特定の税金規定があるところではすべて、基 準性の原則 は効力を持たないので、結果 として、財務勘定 は税金勘定 とは異な る」 (Haller【1992]p.312)とい うこともある。つ ま り、税法 において商法 とは 異なる特別 な規定がある場合、商法 との結びつ きは成立 していないのである。
商法 と税法の両方 に合致 した統一決算書 は、概念的には存在す るか もしれない が、 「数多 くの税務上の特別規定 によ り、統一決算書 は、現行 の法規則 に基づ けば、 もはや存在 しない」(Arbeitskreis【2008]S.1060)状態である。だか ら、
「逆基準性の廃止 に ともなって生 じる、商法会計 と税法会計の不一致 は、すで に受 け入れ可能である」(Arbeitskreis[2008]S.1060)ともいえる15。
このように、商法会計 と税法会計の合致の程度が縮小す る中で、両者 の関係 については、 どのように考 えればよいのであろ うか。Arbeitskreis[2008】によ れば、 これに関 しては、専門的な文献 において、2つの見解が存在するとい う。
1つは、商法会計の税法会計への基準性の原則 を捨てず、同時に、税務上の利 益計算 目的のための客観的に理由づ けられた修正を容認す るというものであ り、
いま 1つは、商法会計 を税法会計に結びつ けることはまった く廃止 して、独立 の利益計算 を導入す るとい うものである (Arbeitskreis【2008]S.1060)。 どち ら の見解 に基づ くとして も、商法会計 と税法会計が部分的に合致 しない ことは認 めなければな らない。ただ し、前者の見解 に従 えば、あ くまで会計処理 は商法 に規定 された ものが基礎 とされ るのであ り、重点は商法の方 にあると言 えるだ ろう。他方、後者の見解 によれば、商法上の規定 を意識す ることな く、税法独 自の規定を定めることが可能になる。 どち らの見解 に基づ くかによ り、商法 と は異なる税法規定を設 けるさいの自由度 は異なるといえる。
15統一決算書 (統一貸借対照表)は理念的な存在であ り、実現 されていないことについては、
高寺【1994】において指摘 されている (高寺[1994】30ページ)。 それにもかかわ らず、税務上の 独立的な選択権行使 に関 して意見の対立が依然 として見 られ るのは、 これ までみた ように、
商法会計 と税法会計の結びつ きに関す る種々の考慮が その背景 に存在 す るか らである。 した がって、商法会計 と税法会計の関係性 に関す る何 らかの決定 は、政治的な もの とな らざるを えない側面 を有 しているといえる (高寺【1994]31ページ)0
132
4.2.法的基礎の明確化
上記で検討 した、商法会計 と税法会計の役割の相違等を考 えて も、税法にお いて商法か ら独立 した選択権 を行使することは、可能であるように思われ る。
しか し、商法会計 と税法会計の結びつきに関 して、何 らかの結論を得 るために は、 そのための法的な裏付 けが確保 され ることが必要であると考 え られ る。
BMFは、通達の第13項 および第15項 において、税務上の選択権 を商法か ら独 立 して行使で きるとしているが、 これに関 しては、 「しか し、今の ところ、 そ のための法的基礎 は存在 しない。む しろ、BilMoGに従 って も、なお、商法会 計 は税務上の利益計算の基礎 であ り続 けることが想定 されている」 (Vinken [2010]S.1) とい う意見 もある。商法会計が税金計算の基礎であ り続 ける旨は、
実際に連邦政府案 に記載 されてお り、BilMoGが制定 され る過程 において、そ のような意図があった ことは確かである16。
ここで、 「法的基礎」の有無が問題 とされているが、 これに関 しては別の観 点か ら、次のような見解 も存在す る。「BMFは、部分価値償却に対する、税務 上の自律的な選択権 を認めている。部分価値償却に関する選択権が立法者の側 で望 ましくないもの とざれているのであれば、それに対応 して、所得税法第6 条第 1項第 1号第2文または所得税法第5条第 1項第 1文の制限が必要である。」
(HerzigundBriesemeister[2010a】S.72)つ ま り、所得税法 において税務上 の独立的な選択権行使が可能であると解釈で きるような条項がある以上、 もし それを否定するのであれば、それが法律の条文 に反映 されている必要があると いうことである。
したがって、上述の見解をふまえれば、商法から独立 した税務上の選択権を行 使できるか否かについては、それが可能であると確定 させ るほどの法的基礎 は存 在 しないのかもしれないが、他方で、選択権行使の可能性を否定する法的基礎 も 存在 しないといえる。かかる状況に鑑みるに、 この議論に対 して何 らかの解決を 試みるのであれば、税務上の独立的選択権行使について、その可否を明確 に決定 づけられる程度の、より踏み込んだ法律の文言を用意する必要があるであろう。
16連邦政府案では、BilMoGは、 「商法会計規定の基準 とな る部分‑すなわち、商法決算書 は配当計算 お よび税務上の利益計算 の基礎であ り続 ける‑お よび従来の正規 の簿記の諸原則 のシステムを放棄す ることな く」 (S.1) 開発 され るとされている。
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5. おわ りに
本稿では、会計法現代化法
( Bi l MoG)
によって所得税法が変更 された こと か ら、長 きにわたって基準性原則お よび逆基準性のもとに結 びついて きた商法 会計 と税法会計の関係性 にいかなる変化が生 じるのか、 また、税法会計が商法 会計か ら分離 して、独立の規定 となる可能性 はあるのか、 とい うことについて 検討 してきた。 その結果 として、以下の2点を指摘 しておきたい。第 1点は、商法会計 と税法会計は分離 してい くことになるであろうとい うこ とである。
3. 2.
で も見た ように、Bi l MoG
によって改定 された所得税法第5
条 第 1項第 1文の文言か らは、税法会計 において商法か ら独立 した選択権 を行使 できる可能性が明確 に読み取れ る。商法会計 と税法会計が結 びついていること で、 コス ト削減や利害調整 といった利点があるのは確かであるが、4.1.にも見 た ように、統一決算書の作成可能性が今後 も維持 され ることはすでに難 しい状 況であるといえるし、商法会計 においで情報提供機能が よ り前面 に出て くることで、商法会計 と税法会計の役割の相違 は今後広が ると考 え られ る。 したがっ て、法律の文言だけではな く、背景事象を考慮 して も、税法会計の分離可能性 については、認 めなければな らないであろう。
第2点は、商法会計 と税法会計の関係性 に関す る法的基礎 をさらに整備する 必要があるとい うことである。上に見たように、法律の条文か らは税法会計の 分離が可能であるように考 えられ るが、た とえそのように読み取れた として も、
それは条文解釈 の域 を出ない。 この場合、依然 として反論の余地が存在す る。
その 1つの現れが法的基礎の有無 を問題 とす るものである。商法会計 と税法会 計の結びつ きに関 して何 らかの決着 を見 るためには、選択権 の取 り扱いか ら類 推的に判断す るものではな く、基準性原則の存続 その ものに関 して よ り直接的 に規定 した立法が必要 なのではないか と思われ る。
Bi l MoG
以降の新 しい会計 法体系 について、広 く受 け入れ られた理解 を得 るためには、 「議会 によって正 統化 された規則」 (DeutscherSteuerberaterverband[2009])17によって商法17 ドイツ税務報告者連合会 (DeutscheSteuerberaterverband)は、BilMoGによって基 準性原則が崩 され ることに反対す る立場か ら、基準性原則 に関 して法律 による明確化 と議会 によって正統化 された規則 (parlamentarisch legitimierteRegelung)を求 めてい る。つ ま り、基準性原則の保持 を支持す る立場 において も、法的基礎 は必要 とされてい る。正統化 のために法的基礎が重要性 を持つ ことに関 しては、真鍋[2003]を参照 されたい。
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会計 と税法会計の関係 を明確化することが求め られるであろう。
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