共振電磁界解析を基盤とした金属メッシュデバイス を用いた物質定量測定法に関する研究
神波, 誠治
https://doi.org/10.15017/1931884
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
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九州大学大学院工学府 化学システム工学専攻
博士学位論文
共振電磁界解析を基盤とした 金属メッシュデバイスを用いた 物質定量測定法に関する研究
(
2018年
3月)
著者
神波 誠治
指導教員
三浦 佳子
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第1章 緒言
1-1. 本研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 7 1-2. 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 12 1-3. 本研究の産業上の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 13 1-4. 本研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 14
第2章 序論
2-1. MMDに関する基本的な説明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 17 2-1-1. MMDのサンプル構造
2-1-2. MMDの製造方法
2-1-3. MMDの電磁波透過波形 2-1-4. MMDの周波数制御方法 2-1-5. MMDを用いた物質定量測定法
2-2. 高周波電気理論に関する基本的な説明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 25 2-2-1. 方形空洞共振器の固有共振モード
2-2-2. アンテナの動作原理
2-3. 電磁界シミュレーションに関する基本的な説明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 32 2-3-1. 電磁界シミュレーションの計算手法
2-3-2. TLM法の概要
2-3-3. 金属の導電率の計算処理 2-3-4. 誘電体の誘電率の計算処理
2-4. アフニティ分離に関する基本的な説明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 38 2-5. 先行法の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 40 2-5-1. SPRセンサーの概要
2-5-2. 表面プラズモン共鳴の概要
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2-6. 先行研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 45 2-6-1. 吉田らによるペルオキシダーゼの検出
2-6-2. 加藤らによるアビジンの検出
2-6-3. 瀬戸らによるストレプトアビジンの検出
第3章
MMDの共振電磁界解析による定量測定の測 定原理の導出
3-1. 目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 49 3-2. 実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 50 3-2-1. 実験試料
3-2-2. 電磁波透過特性の評価方法 3-2-3. 電磁界シミュレーションの条件
3-3. 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 53 3-3-1. 斜入射時の電磁波透過特性と共振電磁界解析結果
3-3-2. 凹形孔MMDと台形孔MMDの電磁波透過特性と電磁界解析結果 3-3-3. 共振電磁界の詳細な解析結果
3-3-4. 等価回路モデルの導出 3-3-5. MMDの厚みの影響
3-3-6. 隣接する孔間の共振電磁界解析結果
3-4. 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 69 3-4-1. ディップ波形の物理的意味
3-4-2. 垂直入射でディップ波形が得られない理由 3-4-3. MMDを用いた物質定量測定法の測定原理 3-4-4. MMDの厚みが定量測定に与える影響 3-4-5. 本章の結果と疑似表面プラズモンの関係
3-5. 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 77
第4章
MMDを用いたタンパク質の定量測定
4-1. 目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 78
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4-2-2. Biotinの固定とStreptavidinの吸着の手順 4-2-3. 電磁波透過特性の評価方法
4-2-4. MMDに吸着していたStreptavidinの定量 4-2-5. 電磁界シミュレーションの条件
4-3. 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 84 4-3-1. MMDの電磁波透過特性の測定結果
4-3-2. 電磁波透過特性の測定結果と計算結果の比較 4-3-3. 仮想物質による電磁波透過特性の変化の計算結果 4-3-4. MMDによるStreptavidinの定量測定結果
4-3-5. THz-TDSによる全アミノ酸の誘電率実部の測定結果 4-3-6. 仮想物質の誘電特性を変えた場合の計算結果
4-4. 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 95 4-4-1. 計算結果に対する導電率の影響
4-4-2. 仮想物質の誘電特性の影響
4-4-3. MMDを用いたタンパク質の定量測定
4-4-4. MMDを用いたタンパク質の定量測定における感度 4-4-5. 先行研究の検証
4-5. 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 102
第5章 タンパク質の種類と吸光特性が定量測定結果 へ及ぼす影響
5-1. 目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 104 5-2. 実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 105 5-2-1. 実験試料
5-2-2. タンパク質の吸光度スペクトルの測定 5-2-3. タンパク質のMMDへの吸着操作 5-2-4. 電磁波透過特性の評価方法 5-2-5. 吸着タンパク質の定量方法
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5-3. 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 107 5-3-1. MMDの電磁波透過特性の測定結果
5-3-2. タンパク質の吸光度スペクトルの測定結果
5-3-3. タンパク質の吸着量とディップ点の周波数変化量の測定結果 5-3-4. MMDの周波数と感度の関係
5-3-5. アミノ酸の周波数分散の測定結果
5-3-6. タンパク質吸着による電磁波透過特性の変化
5-4. 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 113 5-4-1. 種類が異なるタンパク質の定量測定結果のまとめ
5-4-2. 種類が異なるタンパク質で同じ定量関係が成立している理由 5-4-3. タンパク質の吸光特性が定量測定に与える影響
5-4-4. SPRとMMDの測定限界値の比較
5-5. 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 120
第6章 検出可能光領域の制御によるサブ
μm オーダ ーの被測定物の測定
6-1. 目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 121 6-2. 実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 122 6-2-1. 実験試料
6-2-2. モデル粒子のMMDへの吸着操作 6-2-3. 電磁波透過特性の評価方法
6-2-4. 電磁界シミュレーションの条件
6-3. 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 126 6-3-1. 電磁波透過特性の測定結果と計算結果の比較
6-3-2. 共振電磁界の空間的な広がりに関する計算結果 6-3-3. 仮想物質による周波数変化量の計算結果 6-3-4. MMDに対する粒子の特異吸着性の評価
6-3-5. 粒子溶液濃度による周波数変化量の変化の測定結果 6-3-6. 粒子吸着位置の周波数変化量への影響
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6-4-2. 検出可能光領域の計算による検証 6-4-3. MMDの構造制御
6-4-4 大きな被測定物の測定
6-4-5. 感度の被測定物吸着位置依存性
6-5. 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 138
第7章 結言
7-1. 本研究の総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 140 7-2. 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 143 7-3. 研究業績一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 146
参考文献
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P. 150- 7 -
Fig. 1-1 Picture of typical MMD. The example structure have square holes in a square lattice pattern in a metal thin film.
2.6μm
Fig. 1-2 Typical of electromagnetic wave transmission spectrum of MMD.
第1章 緒言
1-1. 本研究の背景
金属メッシュデバイス(Metal Mesh Device、以下MMDと略す)とは、金属薄膜に同じ形状 の貫通孔を周期的に配置した構造体を指す。 MMD は、この貫通孔の周期構造に応じた 光学特性を有する。 その光学特性は、特定の周波数帯の電磁波のみが透過するバンドパ スフィルター的な特性になる。 その電磁波通過帯の周波数は貫通穴の周期で決まるため、
MMD の構造を変えることによって、マイクロ波領域から可視光領域までの広い周波数領域 で、電磁波が透過する周波数の制御が可能という特徴がある。 Fig. 1-1 にMMDの構造例、
Fig. 1-2 にMMDの電磁波透過特性例を示す。
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中赤外 可視光 遠赤外
ミリ波
周波数 波長 波数
1GHz 10GHz 100GHz 1THz 10THz 100THz 1PHz 300mm 30mm 3mm 300µm 30µm 3µm 300nm
0.3cm-1 3.3cm-1 33.3cm-1333cm-13333cm-1 100MHz
3m
THz領域 マイクロ波
MMD は、多くの研究領域で研究対象とされている。 代表的な領域として、光・高周波、
テラヘルツ、フォトニック結晶、メタメテリアル、プラズモニクス、バイオセンシング等を挙げる ことが出来る。 また、MMD は、研究領域によって様々な名称で呼ばれている。 例えば、
形状面から、金属メッシュ(Metallic mesh)、金属格子(Metallic grating)、金属ホールアレイ
(Metallic hole array)、また、機能面から、FSS(Frequency selective surface)、2次元金属フォ トニック結晶(2D-Metallic photonic crystal)、金属メッシュフィルター(Metal mesh filter)などで ある。 MMD という呼称は、その光学特性を活かしてセンサーデバイスとして用いる場合を 区別するため、我々の研究グループが独自に名付けたものである。(なお、本論文中では混 乱を避けるために、これら名称をMMDで統一する。)
MMD の研究の歴史は古く、1960 年代から、マイクロ波からミリ波領域の電磁波に対する 空間バンドパスフィルターとしての研究が報告された 1-16。 その後、MMD の微細加工技術 の進展に伴い、テラヘルツ領域(遠赤外領域)、中近赤外領域、可視光領域とフィルターの 周波数を上げながら現在に至るまで研究が継続している 17-23。 また、この光学特性を理解 するため、高周波電気理論に基づく研究が行われた24-26。 参考として、Fig. 1-3に電磁波の 分類図を示す。
Fig.1-3 Classification diagram of electromagnetic waves.
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MMD研究に於いて新たな展開があったのが、1998年に、Ebbesenらが示したMMDの『異 常透過』に関する報告であった 27-28。 その内容は、円形の貫通穴を正方格子配列した MMD において、電磁波通過帯の波長を 1 [μm] 程度にし、開口率が従来よりも小さい MMD の透過スペクトルを測定したところ、従来の理論からは説明できない高い電磁波透過
(異常透過)が観測されたというものであった。 また、この現象は、入射光が MMD を構成 する金属の表面プラズモンとカップリングすることで生じているという仮説が示された。 以降、
これまでの光・高周波の研究者に加え、新たに表面プラズモンと関係するフォトニック結晶や テラヘルツ電磁波の研究者、後に、メタマテリアルやプラズモニクスの研究者から、MMD に 関する研究結果が数多く報告されることになった29-58。
フォ ト ニック結晶の概念は、Ebbesen らの報告 の約 10 年前にあたる 1987 年に、
Yablonovitch によって初めて示された 59。 フォトニック結晶とは、従来の結晶における原子
の周期配列を誘電体の周期配列に、結晶中での電子の挙動を電磁波の挙動に置きかえる ことによって、ミクロレベルの結晶で生じている現象をマクロレベルのフォトニック結晶で再構 築することにより、新規の光学素子を創り出そうとするものであった。 フォトニックバンドギャ ップの発見を契機に 60-62、以降、フォトニック結晶の特性や応用に関する研究成果が数多く 報告されることになった。 当初、フォトニック結晶は誘電体の周期構造を前提としていたが、
後に、金属の周期構造体である金属フォトニック結晶の研究も報告されるようになり、MMD も2次元金属フォトニック結晶の1形態として研究が進展した63-77。
金属フォトニック結晶の研究の中で、本研究に関係する重要な報告は、疑似表面プラズモ ンに関するものであった。 EbbesenらのMMDの異常透過に表面プラズモンが関与している
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とした仮説は、マイクロ波~テラヘルツ領域(遠赤外領域)など金属のプラズマ振動とのカッ プリングが困難な低周波数領域、また、完全導体や非金属など表面プラズモンが生成され ない材質においても異常透過現象が確認されたことから、その後、否定されることになった。
現在は、その修正が行われ、疑似表面プラズモンの考え方を用いた研究が主流になってい る。 疑似表面プラズモンとは、2004年にPendryらが報告した理論であり78、 2次元金属フ ォトニック結晶を用いて、ミクロレベルの表面プラズモン現象をマクロレベルの 2 次元金属フ ォトニック結晶の表面波モード(疑似表面プラズモン)で再現したものであった。 疑似表面プ ラズモンは2次元周期構造体であれば生成可能であったため、前述の周波数や材質に関す る不都合は解消された。 当初は、2 次元金属フォトニック結晶である金属グレーティング構 造で研究が進展し79-83、 その後、その類似構造であるMMDの研究が進展した。
テラヘルツ電磁波の研究は、Ebbesenらの報告と同時期にあたる1990年代後半辺りから、
急速な進展を見せることになった。 テラヘルツ領域に明確な定義はないが、周波数では0.1
~ 10 [THz] 程度を、また、電磁波区分では、電波に区分されるミリ波領域と光に区分され る遠赤外領域の境界付近の電磁波領域を想定している場合が多い。 テラヘルツ領域は、
全電磁波領域の中で最も研究・応用が遅れていた領域であり、永らく未開拓電磁波領域と 呼ばれていた。 レーザー、半導体、微細加工等の要素技術が揃い、研究に使える光源や 分光技術が開発されたことを契機として、多くの基礎研究が展開されることになった 84-96。 また、テラヘルツ領域に現れる物質固有のスペクトル(指紋スペクトル)を検出することで物 質同定を行うセンシング技術など、多くの応用研究も報告されることになった 97-107。 その中 で MMDは、テラヘルツ領域における光学素子が圧倒的に不足していたという理由から、当
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初はバンドパスフィルターとしての応用が検討された 108-112。 その後、Ebbesen らにより表面 プラズモンとの関連が報告されたことから、メカニズム解明を目的とした基礎研究と共に、当 時、既に実用化されていた表面プラズモン共鳴法(以下 SPR と略す)センサー113-121 からの 類推により、MMD を用いた物質の定量測定に関する応用研究が始まることになった。 こ れが、MMD研究における第二の新展開になった。
それまで、MMD の光学特性は殆ど産業利用されておらず、電波天文学や高周波電磁気 学等の特殊分野で用いられる空間バンドパスフィルターが実用化された程度であった。 こ の新展開により、産業利用に対する期待が高まることになった。 MMD を用いた物質定量 測定法の先駆的な研究として、2005 年の田中らによる誘電体フィルムのセンシングに関す る報告、2006年の宮丸らによるインクのセンシングに関する報告を挙げることができる122-123。 前者では、MMD 主面に配置した誘電体フィルムの厚みにより MMD の電磁波通過帯の周 波数が変化すること、後者では、MMD主面に配置した紙の印刷の有無(インクの有無)によ り同周波数が変化することが示された。 これらの報告により、MMD を用いた物質定量測 定法に関する可能性が確認された。 また、本研究が志向しているバイオセンシングに関す る先駆的な研究として、例えば、2007 年の吉田らによるホースラディッシュペルオキシダー ゼ(タンパク質)の検出に関する報告を挙げることが出来る 124。 この報告では、ng mm-2オ ーダーの微量なタンパク質の検出結果が示され、SPR センサーと同様にタンパク質の高感 度検出が実現できる可能性が示された。 以降、MMD を用いた物質定量測定法について、
様々な研究成果が報告されることになった125-138。
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1-2. 本研究の目的
先行研究により、MMD を用いた物質の定量測定に関する可能性が示された 122-138。 し かし、被測定物の存在により、MMD の電磁波透過特性が変化する事のみを示した報告が 多く、本当に定量できるのかについて議論した報告が殆ど見られなかった。 また、MMD を 用いた物質定量測定法の本質が不明のまま、MMD は表面プラズモン共鳴を利用している ので高感度検出ができる、物質固有の指紋スペクトルが得られるテラヘルツ領域の MMD を用いればラベルフリー検出ができる、などの期待だけが先行することになった。
先行研究では、MMD の電磁波透過波形中に生じるディップ波形(2 章の 2-1-3 節参照)
の周波数変化により、被測定物の定量測定が実現できるとしている。 しかし、その機構は、
明らかにされていなかった。 先行研究に関する疑問点をまとめると、以下のようになる。
○MMDの電磁波通過帯、及び、通過帯中のディップ波形とは何か?
○被測定物の付着や吸着により、ディップ波形の周波数変化が生じるのは何故か?
○ディップ波形の周波数変化で、被測定物の質量は測定出来るのか?
○定量測定センサーとしての基本性能はどのようなものになるのか?
MMD を用いた物質定量測定法を確立し、実用化を目指すためには、先行研究からさら に詳細な検討が必要であり、測定原理や基本性能(定量性、直線性、感度)を明確にする必 要があった。 そこで、本研究では、MMD を用いた物質定量測定法における測定原理、及 び、基本性能を明らかにすることを目的とした。
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比較項目 MMD SPRセンサー
被測定物のサイズ 自由に選択ができる 100nm程度まで 分子レベルに限定 チップコスト 安価(使い捨てが可
能)
高価(再生利用が 前提)
被測定物の分離方法 アフィニティ分離 サイズ排除分離
アフィニティ分離
Table 1-1 Advantages of MMD in comparison with SPR sensor.
1-3. 本研究の産業上の意義
本研究では、MMD を用いた物質定量測定法の基盤を確立することで、医療、検査、分析、
研究支援等の産業に、新しいセンシング法を提供することを企図している。 MMDを用いた 物質定量測定法と先行法を比較した場合、MMD の特徴として、(1) 被測定物のサイズを選 ばない、(2) 低コストで大量生産が可能、(3) メッシュ構造を有しているのでアフィニティ分離 以外にサイズ排除分離した被測定物の測定が可能、の 3 点を挙げることが出来る。 Table 1-1に、先行法であるSPRセンサーとの簡単な比較を示す。
SPR センサーは、高感度で検出できる利点がある反面、センサー表面からの検出可能光
領域が約100 [nm] と非常に微小という欠点がある。 また、センサーチップが高価であるこ
とから、測定はセンサーチップの再生利用を前提としており、煩雑な操作が必要になる。 さ らに、被測定物の分離はアフィニティ分離で行うため、サイズ排除分離した被測定物の測定 には対応していない。 一方、MMDは、構造により光学特性が制御できるため、様々なサイ
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ズの被測定物に対して、そのサイズに適した検出可能光領域を設計することが可能である。
(6 章参照。) また、エレクトロフォーミング法により大量生産ができるため、安価な使い捨て のセンサーチップとして利用することが可能である。(2章の2-1-2節参照。) さらに、被測定 物のサイズを考慮したMMDを設計することで、MMDを分離膜として使用し、サイズ排除分 離した被測定物をそのまま測定することが可能である139。
(1) の特徴から、タンパク質の他に、ウィルス、細菌、細胞等のより大きな被測定物に対 する定量測定法を、(2) の特徴から、大量測定を必要とする薬剤開発における基礎スクリー ニング技術に新しい手法を、(3) の特徴から、エアロゾル計測や微生物検査など流体中から 被測定物を抽出・測定する用途に新しい検査法を提供できる可能性がある。
1-4. 本研究の概要
本論文では、以下に示す全 7 章の構成によって、研究内容を報告した。 以下に、その構 成と概要を示す。 なお、第3章~第6章が、本研究の内容に相当する。 参考文献は、第7 章の後にまとめて示した。
第1章 緒言
MMDに関する先行研究の流れと共に、本研究の背景を説明した。 また、本研究の目的 と産業上の意義を述べた。
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第2章 序論
本研究の基礎となる MMD、高周波電気理論、電磁界シミュレーション、アフィニティ分離 について、基本的な説明を行った。 また、本研究の先行法となる SPR センサー、本研究の 先行研究となるMMDを用いたタンパク質の検出報告について概要を述べた。
第3章 MMDの共振電磁界解析による定量測定の測定原理の導出
MMD を用いた物質定量測定法の測定原理を高周波電気理論の立場で明らかにした。
MMD の電磁波通過帯中に生じるディップ波形について、物理機構を明らかにし、それが等 価回路でモデル化できることを明らかにした。 その等価回路を用いて、MMDを用いた物質 定量測定法における測定原理を明らかにした。
第4章 MMDを用いたタンパク質の定量測定
MMDを用いたタンパク質の定量測定が実現可能であることを明らかにした。 計算により、
タンパク質の定量測定における基本性能(定量性、直線性、感度)を明らかにし、Biotin と
Streptavidinの特異吸着を利用した実験系により、それらの実証を行った。
第5章 タンパク質の種類と吸光特性が定量測定結果へ及ぼす影響
前章とは異なる 3 種類のタンパク質(Avidin、BSA、Lysozyme)を用いた実験により、タン パク質の種類に関係なく、前章と同様の結果が得られることを明らかにした。 また、タンパ ク質自身の吸光度が定量測定結果に及ぼす影響を明らかにした。
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第6章 検出可能光領域の制御によるサブμmオーダーの被測定物の測定
検出可能光領域の大きさを MMD 構造により制御することで、タンパク質より大きな被測 定物であってもタンパク質と同様に検出できることを明らかにした。 計算により、検出可能 光領域のサイズとその制御方法を明らかにした。 また、サブ μm サイズの誘電体粒子を大 きな被測定物のモデルとして実験を行い、大きな被測定物であってもタンパク質と同様に検 出できることを明らかにした。
第7章 結言
本研究の総括、関係者への謝辞、本研究に関するこれまでの研究業績を述べた。
参考文献
本研究で参考にした文献の一覧を示した。
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第2章 序論
本章では、本研究の序論として、本研究で用いた MMD、高周波電気理論、電磁界シミュ レーション、アフィニティ分離について、基本的な説明を行った。 また、本研究の先行法とな るSPR センサー、本研究の先行研究となるMMD を用いたタンパク質の検出報告について 概要を述べた。
2-1.
MMDに関する基本的な説明
本節では、MMDに関する序論として、MMDのサンプル構造、製造方法(エレクトロフォー ミング法)、電磁波透過波形の定義、周波数制御方法、定量測定方法概要を説明した。
2-1-1. MMD のサンプル構造
Fig. 2-1 に、MMD のサンプル構造を示す。 図中①は、ハンドリングを容易にするために
白いリング状の樹脂製(ポリアセタール製)パッケージ冶具で MMD を固定化した様子を示 す。 リング内径(直径6mmφ )内の光が透過している部分がMMDの露出部分で、本研究 では、パッケージ冶具で固定化した MMD を使用した 136。 図中②は、MMD 本体を示す。
外周部の濃い色の部分は、パッケージ冶具の固定化に使用する部分で厚み 15 [μm] の金 属膜になっている。 内円部の薄い色の部分(直径 6mmφ)が金属メッシュ構造の形成部分
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① ②
④ ③
Fig. 2-1 Pictures of the MMD sample used in this study.
で、パッケージ冶具固定化後はこの部分が露出する。 なお、これら MMD 本体は、後述の エレクトロフォーミング法により一体構造として作製されている。 図中③は、②の金属メッシ ュ構造部分の一部(赤点線円内の一部)の拡大写真を示している。 金属メッシュ構造部分 は、メッシュ部分と膜強度補強用の裏打ち構造部分から構成される。 例えるなら、金属メッ シュ構造部分は『障子』の様な構造をしており、障子の紙に相当する部分がメッシュ部分、障 子の桟に相当する部分が裏打ち構造部分になっている。 裏打ち構造部分は、周期 260 [μm]、幅15 [μm]、高さ15 [μm] で正方格子状に形成されている。 図中④は、③のメッシュ 部分の一部(赤点線円内の一部)の拡大写真を示している。 この図では、金属メッシュ構造 として、正方形状の貫通穴が正方格子状に周期配置された構造が示されている。
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2-1-2. MMD の製造方法
MMDの製造方法(エレクトロフォーミング法)の概要を示す。 Fig. 2-2 にMMDの製造工 程を示す。 図中①で補助基板としてSiウェハーを用意した。 図中②で補助基板片面にCu 犠牲層をスパッタにより形成した。 図中③で1層目のレジストパターンをリソグラフィー技術 により形成した。 図中④で Ni の電解メッキによりメッシュ部の構造を形成した。 図中⑤で レジストパターンの剥離を行った。 図中⑥で2層目のレジストパターンをリソグラフィー技術 により形成した。 図中⑦で Ni の電解メッキにより裏打ち構造部分と外周のパッケージ冶具 固定用金属膜部分を形成した。 図中⑧でレジストパターンの剥離を行った。 図中⑨で犠 牲層をエッチングで除去し補助基板上からMMD本体を剥離した。
以上の工程からわかるように、MMDの構造は、図中③⑥のレジストパターンで制御される。
孔の形状、サイズ、配置等は、レジストを露光するフォトマスクの設計により任意の構造の製 造が可能となる。 また、MMDの材質は、図中④⑦の電解メッキの種類を変えることで多様 な材質で MMD を製造することが可能になる。 また、MMD の大量生産は、補助基板サイ ズを大きくして、1 枚の補助基板上に多数のMMDを形成することで可能となる。(現在は直
径4inchφの補助基板を用いている。)
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①補助基板準備(Si基板)
②犠牲層形成(Cu/Ti)
③1層目レジストパターン形成
④Niめっきパターン形成
⑤レジスト剥離
⑥2層目レジストパターン形成
⑧レジスト剥離
⑨犠牲層エッチング(表面処理)
断面図 上面図
メッシュ
裏打ち
⑦Niめっきパターン形成(裏打ち)
Fig. 2-2 Manufacturing process of MMD using an electroforming method.
2-1-3. MMD の電磁波透過波形
本節では、MMDの電磁波透過特性の概要を示し、本論文中で用いるMMDの電磁波透 過波形を説明する語句の定義と電磁波透過特性に関する基本的な説明を行った。
Fig. 2-3に、MMDの電磁波透過特性の例を示す。 横軸は周波数[THz]、縦軸は透過率
[%]とした。 広帯域でMMDの電磁波透過特性を見た場合、大きく3つの領域に分けること ができる。 図のピンク色の周波数領域における電磁波透過特性を『遮断領域』、水色の周 波数領域を『透過領域』、黄色の周波数領域を『回折領域』と定義した。 本研究で対象とし ている電磁波透過特性は、『透過領域』の電磁波透過特性になる。 『遮断領域』では、電磁 波の波長がMMDの単位格子の周期(乃至、正方形孔の一辺の長さ)に比べて大きくなるた め、電磁波が透過しなくなり、透過率がほぼゼロという特性になる。 『透過領域』では、電磁
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波の波長が MMD の単位格子の周期と同程度になるため、本研究で明らかにしたように MMD の構造由来の固有共振モードと電磁波の結合が起こり、先行研究で言う『異常透過
現象』27-28 が生じることにより、バンドパスフィルター的な電磁波透過特性となる。 『回折領
域』では、電磁波の波長がMMDの単位格子の周期に比べて小さくなるため、MMDが回折 格子として動作するようになり、回折現象を反映した電磁波透過特性となる。 なお、本研究 では周期境界条件を用いてMMDの電磁波透過特性を計算しているが、この『回折領域』は、
計算原理上、電磁波透過波形が正しく計算されないことがわかっており、結果には示してい ない。
『透過領域』における MMD の電磁波透過波形のことを『通過帯』と定義した。 図中の緑 点線円内に『通過帯』を示した。 また、通過帯中に生じる透過率が落ち込む波形部分を『デ ィップ波形』と定義した。 図中の赤点線円内に『ディップ波形』を示した。 また、ディップ波 形のボトム点(最も透過率が低くなる点)を『ディップ点』と定義し、先行研究で報告されてい
るように 122-138、本研究においてもディップ点の周波数変化により物質の定量測定を行った。
また、ディップ波形が生じない場合(平面波を MMD の主面に対して垂直に入射した場合は ディップ波形は生じない)の通過帯波形において、透過率が最も高くなる点を『通過帯ピーク 点』と定義し、本研究ではディップ点との比較を行った。 その他、『回折領域』において、『透 過領域』と『回折領域』の境界で透過率が落ち込む点が0次の回折点に相当し、また、0次の 回折点の高周波側に現れる透過率が落ち込む点が1次の回折点に相当する。
- 22 -
透過領域 回折領域 遮断領域
通過帯
ディップ波形
1次の回折点
0次の回折点 ディップ点
Fig. 2-3 Transmission spectrum example of MMD. Various terms used in this study are also whitten.
2-1-4. MMD の周波数制御方法
本節では、MMD の周波数制御方法を説明した。 Fig. 2-4 に正方形孔を正方格子状に 周期配置した時の MMD の構造パラメーターの定義図を示す。 図は MMD の単位格子を 示しており、MMD 構造は、周期 P、孔の一辺の長さ D、厚み T で定義される。 Fig. 2-5 に、構造が異なるNO.1 ~ NO.5 の 5 種類の MMD の電磁波透過特性の測定例を示す。
横軸は周波数[THz]、縦軸は透過率[%]とした。 この図から、5 種類は異なる周波数に通過
- 23 - D P
D T P
(Unit cell of MMD)
Fig. 2-4 Definition of the structural parameters of MMD using MMD unit cell.
0 20 40 60 80 100
20 60 100 140 180 220
Transmittance / %
Frequency / THz
NO.1 NO.2 NO.3 NO.4 NO.5
Fig. 2-5 Transmission spectrum of five types of MMDs with different
structures.
Sample P[μm] f0[THz] λ0[μm] P[λ0]
NO.1 6.5 39.495 7.596 0.86
NO.2 3.6 68.825 4.359 0.83
NO.3 2.6 98.334 3.051 0.85
NO.4 1.7 151.616 1.979 0.86
NO.5 1.4 183.573 1.634 0.86
Table 2-1 Relation between the hole period P and the dip frequency f0.
帯を有することがわかる。 この周波数制御は、MMD 構造の周期 P を制御することで実現 している。 Table 2-1 に各 MMD における周期 P [μm] の設計値、ディップ点の周波数 fo
[THz] の測定値、ディップ点の周波数 f0 における電磁波の波長 λ0 [μm]、波長 λ0 で規格 化した周期 P [λ0] を示す。 この表から、MMDの周波数制御は、所望の周波数 f0 に対し、
その周波数における電磁波の波長 λ0 を求め、MMD構造の周期 P を概ね 0.85 λ0 にする ことで可能になることがわかる。
- 24 -
Incident wave
透過率
周波数
Before After
Frequency
Transmittance
⊿f transmitted wave
MMD
(Before adsorption) (After adsorption)
Measurement object
Fig. 2-6 A method of quantitative measurement of a substance using MMD.
2-1-5. MMD を用いた物質定量測定法
本節では、MMDを用いた物質定量測定法を説明した。 Fig. 2-6 に概要を示す。 MMD を用いた物質の定量測定では、初めに被測定物が無い状態で、次に被測定物が有る状態 で電磁波透過特性を測定し、それら測定結果からディップ点の周波数変化量⊿f を得る。
被測定物の量に応じてディップ点の周波数変化量⊿f が大きくなる関係により、先行研究で は、定量測定の実現可能性が示唆されている122-138。
- 25 -
2-2. 高周波電気理論に関する基本的な説明
本研究では、MMDの電磁波透過特性を決める物理機構として、入射電磁波によるMMD の固有共振モードの励起を議論した。 本節では、その議論の基礎となる高周波電気理論
(空洞共振器、アンテナ)について説明を行った。
2-2-1. 方形空洞共振器の固有共振モード
Fig. 2-7 に、高周波回路素子である方形導波管と方形空洞共振器、及び、本研究の
MMDの構造比較を示す。 方形導波管は、断面が方形をした金属製の管であり、伝送線路
(電磁波が管内を伝搬する)として用いられる。 方形空洞共振器は、内部が空洞となる金 属製の箱状の構造をしており、共振器(例えば電磁エネルギーを蓄える機能がある)として 用いられる。(厳密に言えば、図の構造以外に入出力を行うための開口部が存在する。)
Fig. 2-7 の比較から明らかなように、MMDの構造は、長さの短い方形導波管を正方格子状
に並べた構造、乃至は、方形空洞共振器を正方格子状に並べて MMD の主面に相当する 部分の金属壁を除いた構造と見なすことができる。 構造の類似性から、MMD の固有共振 モードは、これら高周波回路素子の共振モードと類似することが予測できた。
- 26 -
Fig. 2-7 Structural comparison of rectangular waveguide, rectangular cavity and MMD.
方形導波管 方形空洞共振器
Y c
Z a
b
X
MMD
λ0 =
√ +
m 2a
2 n
2b
2 p
2c + 2
1
Eq. 2-1
以下に、方形空洞共振器の共振モード 140-141を説明する。(方形導波管はチューブの長さ 方向の共振が定義されないだけで、方形面内の共振モードは方形空洞共振器と同様にな る。) 方形空洞共振器の共振モードは、マクスウェルの方程式を空洞内壁 6 面における境 界条件を壁の接線方向の電界成分がゼロとして解くことで得られる。 Fig. 2-7 の方形空洞 共振器において、空洞寸法(内壁間寸法)をX方向がa、Y方向がb、Z方向がcとすると、
方形空洞共振器の共振波長λ0 は、Eq. 2-1 で表される。
- 27 -
式中の m、n、p は正の整数をとり、モードナンバーと呼ばれる。 また、モードナンバーで与
えられる共振モードをTEmnpモードと呼ぶ。
共振状態では定在波が形成される。 高周波回路素子では、共振周波数における電磁波 の波長を λ とすると、λ/2 の整数倍となる素子長を用いて定在波を得る場合が多い。 方形 空洞共振器も同様であり、X、Y、Z 方向の対向する内壁間隔 a、b、c を素子長として、内壁 間に λ/2 の整数倍となる定在波が形成されることで共振が実現される。 例として、Fig. 2-8 にTE10モードとTE20モードにおける電界Eの様子を示す。 なお、図は説明を簡略化する ためにXY面を用いた2次元の共振とし、X方向の共振を示した。 実際の方形空洞共振器 では、同様の共振がX、Y、Z方向で独立して生じることでTEmnpモードを形成する。 図中 の青線の正方形が空洞共振器の内壁に相当する。 正方形内のピンク色の濃淡が電界強 度に相当し(濃くなるほど電界強度が大きくなる)、赤矢印が電界の向きに相当する。 また、
下に描いたグラフは、前述の内容をグラフ化したもので、X方向における電界Eyの分布を示 した。 Fig. 2-8 は、TE10モードではX方向に λ/2 共振、TE20モードではX方向に λ/2 の 2 倍となる λ 共振が生じていることを説明している。 これらから、TEmnp モードは、X 方向 に λ /2 のm倍の共振が、Y方向に λ /2 のn倍の共振が、Z方向に λ /2 のp倍の共振 が生じた共振モードであることが理解できる。 なお、モードナンバーが 0 の状態は、共振が 生じておらず、一様な状態になっていることを示す。 TE10とTE20では n = 0 になっている が、図からわかるように、Y方向の電界分布には濃淡はなく、どのY座標においてもX方向 の分布は同様になる。
- 28 -
X X
Ey
0 0
TE10モード TE20モード
X Y
Ey
Fig. 2-8 Electric field distribution in TE10 resonance mode and TE20 resonance mode in a square resonator.
2-2-2. アンテナの動作原理
本研究では、入射電磁波とMMDの固有共振モードの結合(電磁波による固有共振モード の励起)を議論している。 アンテナは電磁波の送受信を行う回路素子であるが、その原理 が議論の基礎になっている。 本節では、アンテナの動作原理140-141について説明した。
電磁波の送信(放射)と受信(吸収)を担っている源は、ダイポール(電気双極子)の時間振 動と説明できる。 ダイポールとは、±q の電荷が距離 L 離れて配置されたものを指す。
ダイポールによる電磁波発生のイメージを Fig. 2-9 に示す。 図は、Z 軸上に配置されたダ イポールによって、Y 方向に伝搬する電磁波発生の様子が描かれている。 この図から、ダ イポールの正電荷から負電荷に向かう電界①が生じ、ダイポールの時間振動により電界① の時間振動が生じ、磁界①が誘導され、磁界①の時間振動により電界②が誘導され、電界
- 29 -
+q
-q 電界①
磁界①
電磁波の進行方向
L ダイポール
Y Z
X
電界②
磁界②
Fig. 2-9 Radiation of electromagnetic waves from a dipole.
Eq. 2-2(a)
Eq. 2-2(b)
Eq. 2-2(c) Eq. 2-2(d)
②の時間振動により磁界②が誘導され・・・を繰り返すことで、電磁波がY方向に伝搬してい くと説明できる。 この時、電磁波の電界面はダイポールが配置されている軸と平行な面(こ の図ではZY面)になり、磁界面は直交する面(この図ではXY面)となる。
ダイポールの時間振動により発生する電磁界を式で表すと、Fig. 2-10 に示すように、極座 標原点の Z 軸上に、間隔 l で ±Q の電荷を有するダイポールを配置して、時間振動 ejωt を与えた場合、観測点 P(r、θ、φ) における電磁界は、Eq. 2-2(a)~(d) のように記述される。
- 30 -
Fig. 2-10 A diagram defining the dipole structure and the space around the dipole by polar coordinates.
観測点 P(r、θ、φ)
-Q・ejωt
+Q・ejωt l
φ
r θ
X
Y Z
式中のr-3 とr-2 に比例する項は近傍電磁界と呼ばれ、r が大きくなると速やかに減衰するた めダイポールから放射される電磁波には成り得ない。 r-1 に比例する項は遠方電磁界(放 射電磁界)と呼ばれ、この項が電磁波を記述する。 指向性により式の概要を述べれば、遠 方電磁界は、Z軸を回転軸としてXY面内の指向性が『円形』になり、Y軸(X軸)を回転軸と してZX面内(YZ面内)の指向性が『8の字形』になる。
ダイポールの時間振動は、アンテナのみで生じている現象ではなく、例えば、有機分子の 電磁波の吸収は、有機分子が有するダイポールが有機分子の固有振動に応じて時間振動 することにより電磁波を受信することで生じている。 広く捉えれば、電磁波と物質の相互作 用は、ダイポールの時間振動を介して行われていると言うことができる。
また、一般的なアンテナでは、ダイポールの代わりにアンテナを流れる電流が等価な働き をする。 Fig. 2-11 に、ダイポールアンテナの共振形態と共振電流の様子を示す。 送受信
- 31 -
Fig. 2-11 Resonance of dipole antenna.
給電点
電流強度 の分布 電流の向き
金属棒
Fig. 2-12 Electromagnetic wave radiation from a current element equivalent to a minute dipole.
電界 磁界
電磁波の進行方向 -q
+q 電流
微小ダイポール
金属棒の 微小区間
を行う波長を λ とする場合、λ/4 の長さを有する金属棒2本を直線状に配置し、その中点に 給電を行うアンテナをダイポールアンテナと呼ぶ。 共振形態は λ/2 共振となり、電流は自 由端(棒の先端)でゼロ、給電点付近で最大となる半波長の定在波となる。 このようなアン テナでは、金属棒を微小分割して、各々の分割部分が微小ダイポールを形成していると考 えることで、電磁波の送受が説明される。(各々の分割部分で生じる電磁波を重ね合わせる ことでアンテナ全体の電磁波を得る。) Fig. 2-12 に微小ダイポールと電流の関係を説明し たイメージ図を示す。 この図からわかるように分割された電流(素電流)は微小ダイポール と等価な働きとなる。