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*茨 城 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科( 〒310-8512  水 戸 市 文 京2-1-1; Graduate School of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).

新旧小中学校学習指導要領国語科に関する 記述内容の特色と教材化研究

― 教科教育と教科専門の融合的授業構築にむけて ―

昌子佳広*・鈴木一史*・宮﨑尚子*・川嶋秀之*・増子和男*・斎木久美*

(2017 年 8 月 31 日受理)

Study Guidelines for Old and New Elementary and Junior High Schools Characteristics of Description Contents about Language Classes

and Research into Teaching Materials

- Toward Building a Fusional Lesson of Subject Specialization and Subject Specialization -

Yoshihiro Shoji*, Kazufumi Suzuki*, Naoko Miyazaki*, Hideyuki Kawashima*, Kazuo Masuko* and Kumi Saiki*

(Accepted August 31, 2017)

はじめに

 平成29年3月31日に学習指導要領が公示された。周知期間の平成29年度,移行期間の30年 度31年度を経て,小学校は32年度から,中学校は33年度から全面実施される。昭和22年の「試案」

から始まった学習指導要領は,昭和33年の公示より学校教育課程での実施の法的根拠となってき た。そして,おおよそ10年周期での改訂を経て今日に至る。現行の学習指導要領が平成20年公 示であったことを鑑みれば,おおよそその周期と合致しているが,移行期間も考慮すれば社会的変 化の進度と対応して若干早まったともとることができる。

 この学習指導要領の改訂に伴い,その具体的な実現手段である検定教科書も変化する。現在,義 務教育課程国語の検定教科書は5社あり,それぞれが指導要領の内容を実現するよう編集されてい る。平成32・33年からの全面改訂される教科書であるが,現行の教科書の文章の取り扱いを次期 学習指導要領に即して検討することによって,具体的に教育現場に資する研究となると考える。そ こで,国語教育教室では,教科専門領域の担当教員と教科教育領域の担当教員とで融合的な科目設 定に向けて,新学習指導要領において教材内容研究と教科指導の架橋の実現がどのように具体化で きるかを指向した。本論文の内容として,まずは新学習指導要領の変化について,小学校・中学校

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それぞれにおいて論じた。それを受けて,各専門領域での教材研究として現行教科書教材の検討や 新しい教材化研究の方向性を示す。結果として,教員を目指す学生に対して,国語科として高める べき資質を提示し,今後の学部での授業構築へとつなげる。

1 初等教育課程における指導要領の変化 <昌子佳広>

1.1 改訂の経緯に見られる特色

 今次の改訂においてまず目に留まるのは,「第1 目標」,いわゆる総括目標の形式である。これ までは,以下に示すように全体が一文で書かれていた。

 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像 力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を高め国語を尊重する態度を育てる。

 今回は,前文の後に(1)(2)(3)の3項目を箇条書きに示す形式となっている。

 言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・

能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)日常生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。

(2)日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。

(3)言葉がもつよさを認識するとともに,言語感覚を養い,国語の大切さを自覚し,国語を尊重し てその能力の向上を図る態度を養う。

ただ,内容・要素としてはこれまでと大きく異なるものではない。具体的には,

 ・適切に表現する能力(話す力,書く力)を育成すること  ・正確に理解する能力(聞く力,読む力)を育成すること  ・国語の特質を理解させ適切に使用できるようにすること  ・伝え合う力を高めること

 ・思考力や想像力を養成すること  ・言語感覚の養成すること

 ・国語を尊重する態度を育成すること

を挙げることができるが,これらはこれまでの総括目標の文言にも含まれていた。ただ,上に列挙 した3点目についてだけは含まれていない。「国語の特質」は前回の改訂においてそれ以前に「言 語事項」とされていた内容に与えられた新たな名称であった。このことが総括目標としての3項目 のうちの(1)に挙げられたことは,後の「第2 各学年の目標及び内容」の書かれ方にも繋がってい くことになる。

 また,(1)に「日常生活に必要な」,(2)に「日常生活における」との文言が見られることにも 注目させられる。言葉は我々の日常生活に欠くべからざるものであり,日常的なコミュニケーショ ンの主要な方法・ツールである。国語科教育において日常生活における言語実践を意識しその向上

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を目指すべきであることは言うまでもない。ただし,「日常生活」を強調し過ぎることへの警戒も 必要であろう。ここで言う日常生活とは言うまでもなく現代の子どもたちの日常生活を想定したも のであろうが,子どもたちにとっての日常生活の範囲だけに限定して言葉をとらえようとすると,

ともすればそれは言葉の世界の矮小化に繋がりかねないからである。したがって,各学年の目標に おいて全学年に共通に設定された,

(1)日常生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに,我が国の言語文化に親しんだり 理解したりすることができるようにする。

の下線部を疎かにすることなく,その具体的な指導の在り方を検討し実践を重ねていくことを十分 に意識すべきであろうと考える。

 上記の点も含め,各学年に設定された目標の記述の在り方,内容についても変化があるが,この 点については次項以降の中で必要に応じて触れることとする。

1.2 「知識・技能」に見られる特色

 各学年の内容(指導事項)についても枠組みの大きな変更が見られる。従来は「A 話すこと・

聞くこと」「B 書くこと」「C 読むこと」と〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の「3 領域1事項」を上述の順に列挙していたが,今次の改訂では,各学年の内容はまず〔知識及び技能〕

と〔思考力,判断力,表現力等〕の2つに大きく区分され,後者の内部に,「A 話すこと・聞くこと」

「B 書くこと」「C 読むこと」の3領域が設定された。つまり,従来の「3領域」をまとめて〔思 考力,判断力,表現力等〕に括り,従来の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕が〔知 識及び技能〕に移行した。そして,その〔知識及び技能〕を,言語実践を根底で支えるものとして,

「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の直接的な言語行為の前に置いたのである。これが,

前項に述べた,各学年の目標において,言語に関する知識や技能の習得,言語文化の理解という問 題を,全学年共通の文言で,第一点目に掲げたことと連動している。

 この〔知識及び技能〕に挙げられた内容(指導事項)は,概ね,従来の〔伝統的な言語文化と国 語の特質に関する事項〕を移行したもので,各学年の細かな項目において,枠組みが見直されたり,

列挙する順序が変更されたり,多少の文言を変更したりということはあるにせよ,内容そのものに おいて大幅な変化・違いはあまり見られないと言ってよい。

 枠組みとしては,従来は(1)として「伝統的な言語文化に関する事項」「言葉の特徴やきまりに 関する事項」「文字に関する事項」が挙げられ,(2)として書写に関する事項が示されていたが,(1) に従来の「言葉の特徴やきまりに関する事項」「文字に関する事項」に該当する内容をまとめ,(3) に「伝統的な言語文化に関する事項」と書写に関する事項をまとめている。そして(2)には,「話 や文章に含まれている情報の扱い方に関する事項」を挙げていて,第1学年及び第2学年では「共通,

相違,事柄の順序など情報と情報との関係」,第3学年及び第4学年では「考えとそれを支える理 由や事例,全体と中心など情報と情報との関係」「比較や分類の仕方,必要な語句などの書き留め方,

引用の仕方や出典の示し方,辞書や事典の使い方」,第5学年及び第6学年では「原因と結果など 情報と情報との関係」「情報と情報との関係付けの仕方,図などによる語句と語句との関係の表し方」

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をそれぞれ指導することとされている。高度情報化社会と言われ,情報処理能力の向上,情報発信 力の育成を急務とする現代における課題を直接的に意識するものとして,これからの実践現場にお ける具体的な指導の在り方を検討していく必要がある。

1.3 「思考・判断・表現」としての 3 領域

 〔思考力,判断力,表現力等〕として括られた3領域に関しては,前述の通り,各学年とも従前 よりあった3領域をほぼそのまま移行したもので,大幅な内容の変化は見られないが,〔知識及び 技能〕という別の区分を設けたことに伴って,これに該当するような記述はこの区分・各領域から は除外されている。一例を挙げると,第1学年及び第2学年において,「A 話すこと・聞くこと」

に,「姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して,はっきりした発音で話すこと。」との記述が あったが,これは〔知識及び技能〕に移行されている。また「C 読むこと」において,どの学年 においても従来は「音読」や「朗読」に関する指導事項が挙げられていたが,これも〔知識及び技能〕

に移され,また同じ「C 読むこと」にあった「読書」に関する指導事項は〔知識及び技能〕の中 の(3),我が国の言語文化に関する事項に含まれることとなった。

 総じて言うと,指導事項そのものに大きな変化は見られないが,A・B・Cの3つの領域は,言 葉による思考力,判断力,表現力を身につけ,磨いていくための具体的な言語行為に関わる指導と して整理されたと言うことができよう。

1.4 言語活動の内容

 〔思考力,判断力,表現力等〕における3領域のそれぞれにおいて,(1)として指導事項を,(2) として具体的な言語活動の例を示すという方法は従来を踏襲したものである。前々回改訂,即ち平 成10年度版にまで遡ると,言語活動例は各学年の末尾に示された「内容の取扱い」の中で一括し て領域ごとにごく簡単に示されていた程度であったが,前回からは上述の通りの枠組みで示される こととなり,学年によって数は異なるが,複数の活動例が箇条書きに示された。そして各社が発行 する教科書における個々の教材にその内容が反映された。今回は,活動例の数がほぼ全学年全領域 を通じて同数になった(第1学年及び第2学年の「A 話すこと・聞くこと」のみが2例,他は全 て3例)。内容については,大幅に変わったり,新たな例が追加されたり,ということは特に行わ れていない模様である。数がしぼられた(前回は,例えば第3学年及び第4学年の「C 読むこと」

では5つの活動例が挙げられていた)ことに伴ってか,記述内容は前回よりもやや抽象的な表し方 になったように感じられるが,このことはネガティブな意味ではなく,具体的に表しすぎると活動 内容が限定的になり,教科書における教材作成にあたっても,個々の教師の実践レベルにおいても,

工夫の余地が少ないものになってしまう危惧がある。この点で,今回の改訂では言語活動例の数は 相対的に減ったが,そのことで教材や授業内容・方法のバリエーションが豊かになることが期待で きる。それはもちろん,教科書会社の教科書編集上の工夫や,各教師による教材開発の努力,授業 内容・方法の工夫が,それぞれに行われる必要がある,という意味においてである。そして,言語 活動の前提となるのは言うまでもなく指導目標や指導事項(内容)であるわけだが,前に述べたよ うに,指導事項が〔知識及び技能〕としての言葉や文字に関する基礎的な知識の理解と技能の修得,

それらを活用する具体的な言語行為としての「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」を通

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して〔思考力,判断力,表現力等〕を養っていくという関係性の中で,個々の指導事項の相対的な 位置を見極めることが肝要になってくると思われる。 

2 中等教育課程における指導要領の変化 <鈴木一史>

2.1 改訂の経緯に見られる特色

 平成29年3月「小学校学習指導要領の全部を改正する告示及び中学校学習指導要領の全部を改 正する告示」が公示された。このことによって,新小学校学習指導要領は平成32年4月1日から,

新中学校学習指導要領は平成33年4月1日から施行される。高等学校学習指導要領は現時点では まだ告示されていない。しかし,次期学習指導要領は「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び 特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」という答申(平成28年12月)

に示されており,高等学校も含めた方向性が出されている。そこで本稿は答申を中心に,次期学習 指導要領において中等教育課程の学習指導に求められていることを考える。

 最も大きな特色は,教科や校種を越えた学びの質の共通性が図られていることである。これらの 共通性のある抽象的な文言を,国語科の具体的な授業づくり,教材化研究にどのように具体化する かは,個々の教員に最も求められるところである。国語科だけではない共通のプラットフォームに 乗った考え方をしなければならない。そこで,全体の理念を確認しつつ,国語科ではどのようになっ ているのかを辿る。

2.2 「知識・技能」に見られる特色

 「知識・技能」に見られる特色は二つある。一つは,「情報の扱い方」であり,もう一つは,語彙 の重視である。情報の取り扱いについては,「原因と結果」「比較や分類」など思考方法を訓練する ことが示されている。また,次期学習指導要領の一つの要として,語彙の拡充が示されている。「語 彙は,全ての教科等における資質・能力の育成や学習の基盤となる言語能力を支える重要な要素で ある。このため,語彙を豊かにする指導の改善・充実を図っている。語彙を豊かにするとは,自分 の語彙を量と質の両面から充実させることである。」とあるように,改訂の経緯において語彙指導 が重要な要素となっていることがうかがえる。そして「語彙を豊かにする」ということの中に,量 的・質的観点が内包されている。この語彙学習においては,理解語彙と表現(使用)語彙の二つの 観点から考える必要がある。しかし,理解語彙と表現語彙とを明確に分化することは難しく,学習 者の中で理解から表現への緩やかな連続体で蓄積されていると捉えるべきである。

2.3 「思考・判断・表現」としての 3 領域

 初等教育課程,中等教育課程を貫く能力として,答申では以下の文言で示されている。

【創造的・論理的思考の側面】

情報を多面的・多角的に精査し構造化する力

・推論及び既有知識・経験による内容の補足,精緻化

・論理(情報と情報の関係性:共通-相違,原因-結果,具体-抽象等)の吟味・構築

・妥当性,信頼性等の吟味

(6)

構成・表現形式を評価する力

【感性・情緒の側面】

言葉によって感じたり想像したりする力,感情や想像を言葉にする力

構成・表現形式を評価する力

【他者とのコミュニケーションの側面】

言葉を通じて伝え合う力

・相手との関係や目的,場面,文脈,状況等の理解

・自分の意思や主張の伝達

・相手の心の想像,意図や感情の読み取り

構成・表現形式を評価する力

 これらのことが,個々の教材や指導法として具体的に学校現場に下りていくことになる。

2.4 言語活動の内容

 言語活動については,以下のように目標に示されている。教育方法を考える時には,ますます重 要な観点となることは間違いない。教材文が文章というだけでは教材となりえない。その取扱い方 がこれからの教育を左右する。そして,初等教育から中等教育にかけて,継続的・連続的な教育が 求められており,中等教育においては,「社会生活」に資するような能力という観点が必要である。

[小学校]

 言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・

能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)日常生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。

(2)日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。

(3)言葉がもつよさを認識するとともに,言語感覚を養い,国語の大切さを自覚し,国語を尊重 してその能力の向上を図る態度を養う。

[中学校]

 言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・

能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)社会生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。

(2)社会生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。

(3)言葉がもつ価値を認識するとともに,言語感覚を豊かにし,我が国の言語文化に関わり,国 語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。

3 物語・文学教材の視点による教材分析と教材開発<宮﨑尚子>

3.1 目的

 平成29年度に公示された学習指導要領の改訂に伴い,本稿では主に物語・文学教材の位置付けと,

授業にアクティブ・ラーニング(PBL,Project-Based Learning)を取り入れた場合の,具体的な展 開の例を提案したい。

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3.2 物語・文学教材の意義と新しい学習指導要領の方向性

 これまでの学習指導要領における文学の位置付けの変遷を見ると,徐々に文学教育が見直されて きていることがわかる。戦前の読解力中心の読み方教育と違い,戦後に出された『昭和22年度(試案)

学習指導要領 国語科編』の国語科の目標は「児童・生徒に対して,聞くこと,話すこと,つづる ことによって,あらゆる環境におけることばのつかいかたに熟達させるような経験を与えることで ある。」iとされ,読書の仕方については「知識を求めるため,娯楽のため,豊かな文学を味わうた め」iiの要求と能力を発達させることだとされている。平井昌夫はこの試案は「国語教育を言語教育 と考えて」iiiいると指摘している。当時国語教育を文学教育と考えた国定教科書とも方向性が食い 違っていた。「今後は,ことばを広い社会的手段として用いるような,要求と能力をやしなうこと につとめなければならない。」ivとの目標通り,当初は言語教育としての国語教育を意識していた。

 この言語教育の方向性の反省を受けて人間形成を意識した文学教育の意義が見直されてきた。中 野登志美によると昭和26年度版の学習指導要領は「『文学的能力の訓練陶冶』を系統化した文学 的能力の育成が国語科の中に取り入れられている点に特色が見出せる」vとしている。昭和33年度 版の学習指導要領では「鑑賞する態度や能力を身につけさせる」という方向にシフトしていく。昭 和44年度版では文学教育の広がりを受けて「読書指導」という観点が出てきた。昭和53年度版,

平成元年度版の学習指導要領に至るまで文学教育は重視されない。平成10年度版の学習指導要領 から「伝え合う力」という言葉が出てくる。古田裕久は「小学校での内容理解(何が書かれているか)

を受けながら,中学校では自己理解(この場面で,自分だったらどうするか)・他者理解(人はど のように考えるのか)を中心にする。そしてそれを受けて,高等学校では,その自己理解・他者理 解を含めてさらに世界理解(人間・社会・自然)へと深めていくという発展が考えられているよう に思われる。」viと「読み」の授業への影響を指摘している。平成20年度版の学習指導要領にもこの「伝 え合う力」は踏襲されている。特筆すべきは「批評」という言葉が用いられたことだ。この頃から 近代小説が教科書教材として復活していく。情緒力育成が重視された余波でもある。

 物語・文学教材は感動をテーマにしているものが多い。中でも感傷的な内容は人生の深みや素晴 らしさを教えてくれる。従ってこのような教材を扱うことで豊かな感受性が培われていくのである。

それは他者理解,ひいては人間性の涵養にもつながる。そこで,平成29年に公示された新しい学 習指導要領が「伝え合おうとする態度」や「共有すること」を重視していることを受け,アクティブ・

ラーニングの手法を取り入れながら,どのような授業展開が感受性を育む方法なのかを検討する。

3.3 アクティブ・ラーニングで学ぶ文学教材

 今回取り入れるアクティブ・ラーニングの視点は「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」

の三点である。これまでの文学教材は読むことや理解すること,感想を述べあうことが求められて きた。それが新しい学習指導要領では「内容を説明したり,考えたことなどを伝え合ったりする活 動」というアウトプットの能力に重点が置かれている。この点を踏まえると,作品に主体的に向か い,深く学び,お互いの考えを共有し合うというプロセスが重視されていることが分かる。これ には,例えば具体的な学習課題を立てて少人数グループでプロジェクトを完遂させる学習手法PBL (Project-Based Learning)などが有効である。グループごとに調べる箇所を割り当て,図書館等で調 べ学習をし,その結果を討議することができる。ただその前提にあるのが読み応えのある作品であ

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る。つまり読んで調べて考えなくては導けない問題を内包している深い作品世界を持つ文学作品が 適しているのである。一読して分かるような言葉や内容だけでは児童・生徒側が主体的に取り組む 意義を見出しにくい。従って課題設定や疑問を持ちやすいもの,人口に膾炙した作品がこの場合相 応しい。文学教育の言語活動を見た場合,小学校から中学校に至る過程で「小説」や「随筆」とい う言葉が入ってきている。両者に共通しているのは作者という存在である。特に小説を読む場合に は作者のことや書かれた時代を知ることで作品世界をより深く理解できる。またその時代を振り返 ることで伝統的言語文化の修得にもつながる。

 ここで具体的な教材として,宮沢賢治の「やまなし」を例にあげてみよう。周知のとおり難解な 言葉viiや構成で,指導者を悩ませてきた作品である。そのせいか現在収録されている教科書は一社 に限られている。一方で美しい言葉や作品世界から根強いファンが多いことも否定できない。この

「やまなし」で授業展開した場合,「作品鑑賞」「調べ学習」「児童の発表・情報の共有」という三つ の手順を取り入れることができる。ステップ1の「作品鑑賞」では従来の授業のように作品鑑賞を する。ここで「クラムボン」等の児童にとって難解な語句をリストアップして,ステップ2の図書 館等での「調べ学習」で活用できるように準備する。その後グループ分けを行い,作者(仏教の影響,

他の作品)や時代背景,新出語句など,習熟度に合わせて課題設定をする。可能であれば語句の他 にも,なぜ「五月」「十二月」の二つなのか課題を立てるのもよい。(「十二月」に関しては「十一月」

の誤植かもしれないという説を伝えておく)ステップ3の「児童の発表・情報の共有」は二部構成で,

一部は各班内での意思の疎通を図り,二部では全体発表をして全員で意見を共有し合う。以上のよ うに指導者が適宜ヒントを出しながら,児童は共に学び共感しながら解釈を深めていく。図1のよ うな構図を示すと「五月」と「十二月」で二項対立をなしていることが浮き彫りになる。「底の景 色も夏から秋の間にすつかり変わりました」という記述や,下書き原稿では「十一月」であったこと,

夏至と冬至という関係を考えあわせれば,二枚目の幻燈は「十二月」ではなく「十一月」が相応し いということに気付く。また全編に出てくる色を並べると『大般涅槃経』が説く六金色(全ての世 界の全てのものを照らし護ってくれる仏の慈悲を表す色)になるという発見もある。五月の夏至の 世界では「かはせみ」(自然の驚異)を,十一月の冬至では「やまなし」(自然の恩恵)を描くこと で,浄土ともいうべき賢治の平和な世界観が見て取れる。夏至冬至という関係でみると「クラムボ ン」は「月」に対応した「太陽」という意味の蟹語もしくは蟹の幼児語だと位置付けることができ る。更に驚くのは大正十二年四月八日が発表日であることだ。花まつり(灌仏会)つまりお釈迦様 の誕生日なのだ。(やまなしの酒はソーマ酒やアムリタ,甘露や甘茶,ネクタールを意識したものか。)

大正11年11月27日に亡くなった妹トシへの供養の意味もあったと考えられる。清らかな生き物 たちの世界を描くことで2枚の幻燈は完成する。以上のように児童は高学年で自ら獲得した賢治や

「やまなし」に関する知識を基盤にして,中学校で学ぶ「永訣の朝」の「兜卒の天の食」の読解に つなげるのである。しかしこういった仏教的観点は賢治が日蓮宗に帰依していたこと,犠牲的精神 に憧憬していたこと等の知識が無いと気付けない事柄である。

 このように文学作品は,作者のバックボーンや時代背景を理解すると小説や随筆の深い読みにス ムーズにつながることを教えてくれる。以上のような考察を通すと,少々難解な文学的作品こそア クティブ・ラーニングの教材に適しているのだと言える。(宮﨑尚子)

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4 「すがたをかえる大豆」の事例配列と文章構造について<川嶋秀之>

4.1 本章の目的

 今回の「小学校学習指導要領」の改訂によって,追加された事項がある。〔第3学年及び第4学年〕

の「2内容」の「(2)話や文章に含まれている情報の扱い方に関する次の事項を身に付けることが できるよう指導する。」に「ア 考えとそれを支える理由や事例,全体と中心など情報と情報との 関係について理解すること。」とある。説明的文章には,事象を記述する事例を掲げ,それを根拠 として思考が展開するものが多い。したがって,事例の持つ意味を捉えることが重要となる。掲げ られた事例はまた相互に関係する。事例は情報を内在させており,その情報と情報との関係につい て理解することも求められる。そして文章全体から汲み取れる主旨と,個々の事例や情報との関係 を捉えることも必要となる。今回の改訂によって加えられた「ア 考えとそれを支える理由や事例,

全体と中心など情報と情報との関係について理解すること。」について,国分牧衛「すがたをかえ る大豆」(『国語三下あおぞら』(光村図書 2015年)を例に取り,事例の担う意味とその相互関係,

文章構造と展開のあり方について考えてみたい。

4.2 これまでの研究・分析

 これまでのすべての研究・実践に触れることはできないが,本稿で扱うテーマと関連するものと して,以下の二つで代表させる。『小学校国語学習指導書三下あおぞら』viii(以下『指導書』と略 称)では,全体が八段落で構成されるこの文章を,「初め」①②段落,「中」③~⑦段落,「終わり」

⑧段落,の三つに分けている。本稿ではこの分け方に従い,そのうちの「中」の事例配列構造とそ れに基づく文章構造について検討する。「中」は段落③~⑦まで4つの段落から構成されるが,事 例はどのような意味を持ち,どのように組み合わされ,どのように構造化されているだろうか。

1

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 『指導書』では「中」の各段落の要点を次のようにまとめている。

③「いったり,煮たりする工夫」 ④「粉にして食べる工夫」 ⑤「栄養を取り出して違う食品に する工夫」 ⑥「小さな生物の力で違う食品にする工夫」 ⑦「取り入れる時期や育て方を変えて 食べる工夫」

これは食べるための工夫のあり方という観点から規定しているといえる。

 野口芳宏「素材研究・教材研究・指導法研究 説明文『すがたをかえる大豆』(その3)」

の分析は,

③「加熱法」 ④「粉砕法」 ⑤「養分抽出法」 ⑥「発酵法」 ⑦「栽培法」ix

のように加工方法を表示する語によって規定していて,『指導書』よりも抽象度が高く簡潔に特質 を捉えたものになっている。各段落の加工の内容に即して捉えた場合,これ以上簡明にはならない だろう。このうち③は,さらに「煎る」=煎豆,「煮る」=煮豆,⑦は「早採り」=枝豆,「他」=

もやし,というように下位分類を施していて,分析を一歩進めている。

 『指導書』,野口ともに段落の内容を捉え規定しているといえる。しかし,いずれの捉え方も各事 例が相互に関連する意味,各段落相互の関係まで視野に入れて捉えているとはいいがたい。本稿で は事例の意味と各段落の内容を検討し,さらにそれが相互にどういう関係でもって文章が展開する かを見ていきたい。

4.3 ③④段落の検討

 まず③段落を見よう。③段落は次のような文で始まる。

 いちばん分かりやすいのは,大豆をその形のままいったり,にたりして,やわらかく,おいしく するくふうです。

 『指導書』ではこの段落を「いったり,煮たりする工夫」と捉えている。同様に④段落も「粉に して食べる工夫」と捉えている。これらは工夫の内容について捉えたものといえるが,内容を捉え ようとするあまり重要な点を見落としてしまっている。③段落の最初の一文で重要なのは「いった り,にたり」という工夫なのではなく,「その形のまま」という語句なのである。ここを重く見る ことによって対比的な意味が見えてくる。④段落冒頭「次に,こなにひいて食べる工夫があります」

の「こなにひいて」というのは,野口のいうように「粉砕」するわけであるが,もう一つ別のレベ ルの意味で捉えるならば,大豆をその形のままではなく原形を失わせることを意味するということ が理解されるだろう。③段落「その形のまま」と④段落「その形のままでない」という対比がここ に生まれる。これを簡潔に規定するならば,③段落は「原形保持」,④段落は「原形変形」とでも いえようか。この二つの段落は,大豆にあり方に共通する「原形」という要素を持ちながら,原形 を保持するプラス要素と原形を変形するマイナス要素とで対立している。

4.4 ⑤段落と⑥段落の検討

 ⑤段落と⑥段落は,「ちがう食品にするくふう」である。『指導書』では

 ⑤「栄養を取り出して違う食品にする工夫」⑥「小さな生物の力で違う食品にする工夫」

とする。「栄養を取り出」すこと,「小さな生物の力」を借りることを簡潔に言いあらわせば,野口 のいうように⑤段落は「養分抽出」であり,⑥段落は「発酵」ということになるだろう。内容の把

(11)

握としてはこれで十分である。だがこのように捉えても,⑤段落と⑥段落の文章展開上の違い,つ まり⑤段落が先で⑥段落が後に来ることの対比的差異,ということは明確にはならない。⑤段落の 栄養を取り出すことと,⑥段落の小さな生物の力を借りることとでは何が異なるのだろうか。それ を「4.3」と同じように検討してみよう。⑤段落の「また,大豆にふくまれる大切なえいようだけ を取り出して,ちがう食品にするくふうもあります。」という文の中で,重要な語句は何だろうか。

それは「ふくまれる」である。これは取り出されるものが大豆自身の内にあることを示している。

つまり,これは大豆の内部に関するということになる。一方,⑥段落「さらに,目に見えない小さ な生物の力をかりて,ちがう食品にするくふうもあります。」という文の中での重要な語句は何だ ろうか。それは「かりて」(借りて)である。借りるというのは内側にあるものを利用するのではなく,

外部から取り入れることである。こちらは大豆の外部に関するということができる。そして,⑥段 落で挙げられている「なっとう」「みそ」「しょうゆ」などの食品は,菌の作用によりその性質が本 来のものと変わってしまっている。つまり,外部からの作用により性質が変容していることになる。

 ここで⑤段落と⑥段落を規定するならば,⑤段落は「内部存在抽出」,⑥段落は「外部作用変質」

ということになるだろう。いずれも加工しているということで共通しながら,内部と外部という要 素で対立する。用語として長いので,それぞれ「内部抽出」「外部変質」とする。

 ⑥段落には外部作用により自然の大豆の性質が変質した食品として「なっとう」「みそ」「しょうゆ」

が挙げられているが,これらの配列は何により順序が与えられているだろうか。これには③段落を 参考に考えるとよい。③段落に倣ってみるならば,「原形保持」=「なっとう」,「原形変形」=「みそ」

「しょうゆ」となる。では,「みそ」「しょうゆ」の順序は何によって前後が決まるかといえば「固形物」

と「流動物」との違いである。⑥段落の各食品の配列はきわめて順序立てて行われている。ついで にいえば,「なっとう」は形は原形のままであってもそれは外見に過ぎず,内部は変質しもとの大 豆とは別物になっている。そのためこの段落に含まれている。

4.5 ⑦段落の検討

 ⑦段落は指導書によれば「取り入れる時期や育て方を変えて食べる工夫」,野口は「栽培法」とする。

この段落はどのように捉えればよいだろうか。この段落では,それまで「大豆」という漢字表記だっ た語が,「ダイズ」というカタカナ表記になっていることに注意すべきだろう。この問題を解決す るヒントは「初め」の②段落にある。②段落の最初の文は,「大豆は,ダイズという植物のたねで す。」となっている。同じ段落の三・四番目の文には,「ダイズが十分に育つと,さやの中のたねは かたくなります。これが,わたしたちが知っている大豆です。」とあって,「ダイズ」は植物,「大豆」

は食品として利用されるたねとして表記し分けられていることが分かる。⑦段落は「ダイズ」と表 記されているので,植物である食べ方の工夫について述べているといえるx。「えだ豆」は植物ダイ ズから生きたままの豆を分離採取して食べるものであり,「もやし」は別種の成長をする植物とす ることである。この⑦段落は,植物のダイズをもとにした食品ということで,③~⑥段落の大豆の 食べ方の工夫とは異なっており,「中」のうちでは独立している。

4.6 「すがたをかえる大豆」の対比・対立構造

 以上の検討を通して「すがたをかえる大豆」の「中」③~⑦段落の構造が明らかになったと思う。

(12)

ここで,以上に述べた事例・段落の相互関連構造をまとめる。

 まず,大きく二つに分かれる。「大豆」③~⑥段落と「ダイズ」⑦段落である。次に「大豆」は

「原形」③④段落が,③「原形保持」④「原形変形」に二分され,「加工」⑤⑥段落も,⑤「内部抽 出」⑥「外部変質」に二分される。事例である各食品を含め図示すれば図2のようになろう。

 「すがたをかえる大豆」は,各事例が内包する対比・対立関係をもとに,整然と文章構造が組み 立てられている。このような良質の説明的文章の掲載は中学校でも求められる。

5 古典教育に関する一提案 

―小学校低学年からの漢文学習の可能性と中学校への継続的指導を中心として― <増子和男>

5.1 はじめに

 今回の学習指導要領の改訂で注目すべき点は,小学校1,2年次の2「内容」〔知識及び技能〕の「伝 統的な言語文化に関する事項」の項目で,旧課程では,「昔話や神話・伝承などの本や文章を読み 聞かせを聞いたり,発表し合ったりすること。」とあったものが,新課程ではそれを一歩進めて「我 が国の伝統文化に親しむこと。」という文言が加わり,更に「長く親しまれている言葉遊びを通して,

言葉の豊かさに気付くこと。」と言う項目が加わったことであろう。

 長年,大学で古典を教えて来た立場から言えば,「伝統文化に親しむ」事に加えて「言葉の豊か さに気付く」事を実現させる一つの方法として,この学齢から,古典語のリズムに慣れさせる試み をすべきではないかと強く思い,一つの可能性について提案することとしたい。

5.2 古典語のリズムが身についていない

 かなり以前のことであるが,某局のラジオ番組を聞いていたところ,白居易の「長恨歌」の一節 をアナウンサーが朗読している中で,安禄山の乱により,都を追われた玄宗皇帝一行が,馬嵬(ば かい)の地で動かなくなった近衛の将兵たちの意向を受けて楊貴妃を死なせ,その死の証として彼 女の遺骸を彼らの前に晒す場面を描いた「宛転(えんてん)たる蛾眉(がび)馬前に死す」のとこ

③「原形保持」 原形加熱 煎豆

形態 加水加熱  煮豆

大豆 ④「原形変形」 黄粉

変容 ⑤「内部抽出」 豆腐

⑥「外部変質」 原形保持 納豆 原形変形  固形 物 味噌 流動物 醤油

ダイズ ⑦「植物」 採取 枝豆

別種 もやし

2

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ろで,七言詩の読みの規則に従えば,当然,「宛転たる蛾眉/馬前に死す」と読むべきところを,「宛 転たる/蛾眉馬前に死す」と読むのを聞いて大いに驚いた。これを単にこのアナウンサーの無知に 帰結させるのは容易いことであるが,こうした例はテレビ,ラジオの世界ばかりではなく,今日の 様々な場面でしばしば見聞きするところである。

 本学に入学してくる学生について言えば,概ね全教科にわたって一定水準以上の基礎学力が身に ついている学生が多いように思われる。けれども,こと国語の古典,とりわけ漢文の読み方に関し て言えば,漢文独特のリズムが十分身についていない学生が少なくない。それは,古典学習が,早 い段階から声に出して読むことよりも,読解―早期には概ね何が書かれているかと言う大意をとる 事,長じては文法を通じて,何が書かれているかをより正確に読み取ること―を中心に学習して来 たことが原因の一つと考えられる。勿論,大意をとる事や,文意を読み取る上での必須ツールとも 言うべき古典文法を通して,より正確に文意をとる事が極めて重要であることは間違いないことで あり,それを否定するつもりは全くない。しかし,だからと言って,古典語の持つリズムを身につ ける事を十分にしなくて良いかと言うと,それは大いに疑問である。

5.3 古典語のリズムが身につくためには

 古典語を享受し,継承してきた時代の状況を振り返ってみれば,方法は自ずと明らかになろう。

現在,我が国の古典も含めた読書の基本的な方法は「黙読」が主流であるが,この方法が広く行わ れるようになったのは,明治以降のことであり,それ以前は声に出して読む「音読」が一般的であっ たxi。つまり,明治期以前に確立した古典語で書かれた詩文は,声に出して読む事を前提として作 られて来たと言うことである。漢文の素読で顕著なように,初学者は意味の理解以前に,まずは声 に出して詩文を読み,そのリズムを体得するところから読書が始まったのも,そうした事に関わる と見て良いであろう。

 小学校1, 2年次では,「読み聞かせ」と共に,今日でも比較的広く知られている古典作品を選び,

意味を教える前に声に出して読む試みを提案したい。

 漢文について言えば,「素読」というと,すぐに『論語』や『孝経』,『大学』や『中庸』など儒 教の経典を思い浮かべ,前近代の教育を彷彿して反発を持つ向きもあろう。素読そのものには根本 的な問題があるとは思われないのだが,そうした抵抗感をより軽減するなら,漢詩,より具体的に は中国・唐代に確立した近体詩xiiの中から作品を選んで素読してはどうか。

5.4 高学年の漢文学習と中学校の漢文学習

 こうして,高学年になって,声に出して古典を読む習慣と,その独特なリズム感をある程度身 についた上で,新学習指導要領の示すように,漢文学習の初学の定番ともいうべき「矛盾」「蛇足」

など故事成語の「話の面白さ」にも触れ,親しませ(新指導要領3,4年次),その一方で,1 , 2 年次で素読した詩の意味を少しずつ学習させていけば,漢文訓読のリズムに不慣れであることから 生ずる苦手意識も少なからず軽減するのではなかろうか。そうした学習経過を踏まえることにより,

「親しみやすい古文や漢文,近代以降の文語調の文章を音読することにより,言葉の響きやリズム にしたしむこと」(新学習指導要領5,6年次)もしっかりと定着することとなろう。

 かくして,漢文訓読のリズム感を身につけた上で小学校教育を終えて,中学校に進学すれば,教

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育内容の継続も十全にはかることが出来るであろう。

古典というと,意味を理解することを重視するのが,昨今の通例ではあるが,古典特有のリズムが とれぬまま,さっと読み,すぐに意味を読み解くというのでは,いつまでたっても,古典語を全く 別次元の言語としてしか理解できないこととなろう。これでは,私たちの先人たちが営々と重ねて きた文化の蓄積を,単に読み慣れていないという一事のみで,読み継がれなくなることとなろう。

 最近実施された或る調査によれば,大学生(6,463名)の調査から,高校時代の教科・科目の好 き嫌いの結果国語に対する苦手意識は比較的少ないものの,調査対象学生の60パーセント近くが

「古典は嫌いであった」と答えたと言うxiii

 この現況は,単に教科としての「古典嫌い」の問題にとどまらず,我が国の文化の伝統の継承の 問題とも深く関わってくる,非常に重大な問題と言って良いであろう。

 今回は古典のうち,漢文に絞ってこの問題を考えたが,日本古来の伝統的な詩歌や文章,即ち古 文についても,早期から,そのリズムになれさせる方策を是非ともとる必要があると思う。

 一例を挙げれば,既に中学校段階で,多くの学校で取り入れられつつあると聞く,百人一首など も,小学校段階でより積極的に授業で活用できないであろうか。百人一首の和歌も,それぞれの内 容を理解しようと思えば,文法の知識や語彙の知識,更には和歌に関する知識なども必要になる作 品が多いが,仮名遣いを「いろは歌」などを使って音として覚えさせた後で,意味を深く教えなく とも,ゲームとして楽しみながら,和歌のリズムを身につけさせるというのはどうであろうか。

6 書写に関する事項の大きな変更点<齋木久美>

6.1 各校種間の接続における書写の留意点について

 平成29年告示の小・中学校「学習指導要領」に先立ち,平成28年に改定の方向性の大枠が示 されているが,同年8月の「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」

の「各教科・科目等の内容の見直し」において,書写に関するものに,次の2点がある。

○なお,小・中学校においては,文字の由来や文字文化に対する理解を深めることについて,高 等学校においては,実社会・実生活に生かすことや多様な文字文化に対する理解を深めること について,高等学校芸術科(書道)との円滑な接続を図る必要がある1

○伝統文化に関する学習については,小・中・高等学校を通じて,(中略),文字文化(書写を含 む)についての理解を深める観点から整理を行い,改善を図ることが求められる2

 これについて宮澤3は,書写と高校国語,書道の関連について,「小・中学校の国語科書写での『文 字文化』,および高校国語での『文字文化』(書写を含む)は,高校芸術科書道の内容をも見据えた 学習内容が求められるだろう」と指摘し,また「これまで小・中学校国語科書写ではほとんど触れ ることがなかった伝統文化としての『文字文化』(書写を含む)をどのように扱うのか。そして,小・

中学校との連携から高校の国語でどのように位置づけるのかが,大きなポイントとなってくる」と 述べている。

 これまで意識されていた小中学校の接続や連携だけでなく,高校書道の内容をふまえ,高校国語

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との接続をふまえることが求められてくることから,中学校書写の内容や授業方法の検討が必要と なる。また,伝統文化としての「文字文化」を,小・中学校でどのように扱い,それを積み上げた 結果が高校国語や書道にどのように生かされるか,「文字を書く」ことについて,学習者の学びの 見通しを見据えた授業を実践していく必要がある。

6.2 書写に関する大きな変更点

 昭和43年告示の小学校学習指導要領で,「書写」が必修化され,昭和52年では,「言語事項」

に位置付けられ,平成20年では「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」,そして,今回 の改訂では,「我が国の言語文化に関する事項」に位置づけられた。書写は「知識・技能」にかか わるが,「文字を整えて書く」という技能を習得するためには,文字の外形や,点画の長さや方向 などに留意して書くことが必要であり,文字を書くことの「知識・技能」を習得するためには,学 習過程において,気づきや発見,振り返りといった学習活動は欠かせない。

 書写の内容に関し,今回の改訂の大きなポイントの1つは,[小学校第1学年・第2学年]の指 導事項に「点画の書き方」が明記されたことである。解説には,「点画の書き方とは,点画の始筆 から送筆,さらに,終筆(とめ,はね,はらい)までの筆記具の運び方のことである。」と示され ているが,点画の名称だけでなく,「筆記具の運び方」を身に付けさせることが求められている。

また〔内容の取扱い〕に(エ)が新設され,「適切に運筆する能力の向上につながるよう,指導を 工夫すること」と示されている。解説には,「水書用筆等を使用した運筆指導を取り入れるなど」

とある。私たちが使用している漢字や仮名が,筆を用いて手で書かれることによって長い歴史の中 で形成されてきたという背景を踏まえるならば,低学年のうちから,弾力のある用具を用いて,点 画の書き方を理解させ,習得させるのは効果的である。とはいえ,筆を使いこなすためには時間が かかるので,低学年の児童でも扱いやすい用具を用いることが望ましく,その点でも,工夫をして いく必要がある。

 ポイントの2つめは,中学校第3学年の指導事項がこれまでの「身の回りの多様な文字に関心 をもち」が「身の回りの多様な表現を通して文字文化の豊かさに触れ」となり,高校書道への接続 も見通すものとなっていることである。

 「身の回りの多様な表現」に気づかせるためにも,小学校低学年の指導事項である「点画の書き方」

の学習はその基礎となるものであり,その後の小学校中・高学年の学びの上に,中学校での書写学 習を積み上げていくことが重要である。

6.3 書写に関する実情と教員養成における課題 

 平成28年8月の「国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ」4の中の(伝統文化に関 する学習の改善)には,「書写については,手本を模倣するだけの学習のみではなく」,といった具 体的な指摘がされている。書字技能の習熟には,整った字形を学び,その書き方を実践的に学ぶ活 動が欠かせないが,「手本を模倣するだけの学習」が散見されるということであるxiv

 実際に教員養成課程で学ぶ学生に,小中学校時代の書写の内容について調査してみると,「文字 を整えて書くだけでなく,熟語や文章をいろいろな紙に書くなど,いろいろ学べて楽しかった。」

というものがある一方,「毛筆で教材文字の形通りに書くことが求められる授業だった。」や「毛筆

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の時は,○枚書いてその中からよいものを提出すれば,後は自由時間になったので楽だった。」と 書写が作業の時間だったとの感想を持つ学生がいるのが実情である。

 さらに教育実習において書写授業を参観したり実施したりする機会がなかった場合,書写は作業 の時間,といった感想を持つ学生の意識が修正される場が保証されていない点も課題である。

 新学習指導要領の実施に対応するためには,教員養成の場において,学生に自身が受けていた方 法とは異なる方法で書写の授業を実践していかなければならないことを認識させるような取り組み が必要となる。

6.4 教員養成における書写授業の留意点と今後の取り組みについて

 書写の学習では,文字の書き方について学習するが,このことが,書かれた文字の字形のみの適 否を判断すると受け止められてしまいがちである。特に毛筆の学習が中心で,書写学習がねらいと する日常の書字学習に生かす,といった学習や教師の働きかけがないと,学習者は教材文字の字形 の通りに書くことが,書写の目標であると勘違いしてしまうことがある。

 そこで,学生に書写の目標や学習内容,指導方法を習得させるようにするためには,次の点に留 意したい。

① 点画の種類とその書き方,文字の整え方を硬筆や毛筆を用いて確認する。

⇒学生はメモやノートをとるといった書字活動を行っているが,その際用いる筆記具はシャー プペンやボールペンなどである。2Bの鉛筆や毛筆を使用して,小中学校の書写学習におけ る文字の書き方を指導するための方法を習得させるようにする。

② 発達段階をふまえた学習指導の必要性に気づかせるようにする。

⇒同じ平仮名を扱う場合でも,小学校低学年と高学年では,当然のことながら,学習の目標や 指導方法が異なる。異なることに気づかせるだけでなく,学年に応じた学習指導を行うため には,1時間ごとの学習の流れや学習プリントなどの教材作成にも配慮が必要であることに 気づかせるようにする。

③ 書かれた文字の字形だけでなく,学習指導の上では,書字過程に配慮する必要があることに 気づかせるようにする。

⇒「よく見て書きましょう」ではなく,教材のどこに注目させ,その書き方をどのように示す と学習者が理解しやすいか,適切な指示の方法について,相互またはグループ活動を通して 実践的に学ぶことができるようにする。

④ 学習の目標や課題を解決するために,書写の授業においてもICTを活用した授業実践例など を紹介する。

⇒指導者の工夫が学習者の内容理解に大きく関与していることに気づかせるようにする。

 これまで,書写の学習指導方法の事例を紹介するだけでなく,相互評価や教材作成などを実施し,

学生に主体的に活動させることを試みている。学生が受け身にならず,文字の書き方の学習指導と はどういうものか,それを実際に実施するにはどのようなことに気を付けなければならないかにつ いて,気づかせることが可能となるが,グループの構成員により取り組みの差が生じることがあり,

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グループによって成果に差が生じるのが課題である。

 また,小学校書写の内容を扱う授業では,中学校書写の内容を紹介するなどして,校種間の接続 に関する内容も取り上げてきているが,高校書道の内容をふまえた高校国語の文字文化(書写を含 む)への接続については,県内高校国語の先生方と情報交換するなどして,教員養成を担う大学教 員自身が,教員養成における高大連携の取り組みを進めていくようにしたい。

おわりに

 本稿では,教科専門・教育内容と教科教育・教育方法とが国語という教科の中でどのように融合 しうるかを検討してきた。学習指導要領の変化に伴い,学習内容や方法も対応していくことが求め られるが,そこにおいても今まで培ってきた学習内容や教材分析教育方法にも有益性,有効性が求 められることは,学習指導要領の改訂の経緯の文言にも示されているところxvであるが,しかし同 時に社会の変化に伴う新しい教育も必要である。これらを踏まえて,教育内容である教材をどのよ うに取り扱うべきか,教育現場における教材の見方について,教科専門としての提示している。も ちろんその大枠としては,昌子・鈴木の学習指導要領の変化への視座があることは言うまでもない。

現行の教科書にある教材文も,視点を変えることによって新しい教育への足掛かりとなる。そのこ とが,それぞれの分野から示されることで,国語科としての科目の枠組みが構築された。今後は,

これらの枠組みに基づく,教員養成時における授業構築をすることで,これからの学習指導を担う 教育の育成に寄与することができると考えている。

i 『昭和22年度(試案)学習指導要領 国語科編』(1947年12月,文科省).

ii 注1に同じ.

iii 平井昌夫「文科省編『学習指導要領国語科編』を読んで」(『生活学校』1948,6月引用は1983年の復刻版).

iv 注1に同じ.

v 中野登志美「学習指導要領において文学はどのように扱われてきたか―中学校学習指導要領の中の文学の 位置づけに着目して―」(「論叢」国語教育学 (復刊3),20127月)

vi 古田裕久「読むことの授業の方向と課題」(『月刊国語教育』1999年4月,東京法令).

vii 「クラムボン」とは何かという課題.

viii 光村図書 2015年 p87.

ix [連載]第11回 国語教師力を鍛える! (『教育科学国語教育』806号 2017年2月)p119の「文図B」を

このようにまとめた.詳しくは原著を参照されたい.

x 國本裕司「たしかな教材研究と言語活動のデザイン 3年 『すがたをかえる大豆』(光村図書三年下) 教材の 特性を生かした問いを中心とした単元づくり」(『教育科学国語教育』800号 2016年8月)に,「ダイズ」と「大 豆」の表記の違いへの指摘がある.

xi 永嶺重敏『雑誌と読者の近代』(日本エディタースクール出版部,1997年).

xii 例えば,絶句なら杜甫「絶句」や杜牧「山行」,律詩なら「春望」や白居易「香炉峰下,新たに山居を卜し

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草堂初めて成り 偶々(たまたま)東壁に題す」(「香炉峰の雪は云々」で知られる詩)あたりはどうであろうか.

xiii ベ ネ ッ セ 教 育 研 究 所「Views21」http://berd.benesse.jp/berd/center/open/kou/view21/2006/06/03data_

jituzo_01.html xiv 本章の参考資料.

1 教育課程部会.「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)第2部 各学校段階、

各教科等における改訂の具体的な方向性 2.各教科・科目等の内容の見直し(1)国語 ①現行学習指導要 領の成果と課題を踏まえた国語科の目標の在り方 ⅱ)課題をふまえた国語科の目標の在り方 平成28826日,116.

2 同上「(1)国語 ②具体的な改善事項 イ 教育内容の見直し)」,120.

3 宮澤正明.2017.「『文字文化』,大きな課題」.「書道美術新聞」(美術新聞社).第1091号,2017年(平成 29年)1月15日(日),(1).

4 国語ワーキンググループ「国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ」3.資質・能力の育成に 向けた教育内容の改善・充実 (3)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し(伝統文化に関する学習の 改善),平成28826日.

xv 「児童生徒に求められる資質・能力を育成することを目指した授業改善の取組は,既に小・中学校を中心 に多くの実践が積み重ねられており,特に義務教育段階はこれまで地道に取り組まれ蓄積されてきた実践を 否定し,全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉える必要はないこと」(改訂の基本方針).

参照

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