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エストロゲン製剤が原因として考えられた血管性浮腫の1例

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Academic year: 2021

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全文

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要 旨

エストロゲン製剤(前立腺癌治療薬)が原因として疑われた血管性浮腫の1例を経験した。エストロゲン製 剤の内服中止、エピネフリン加リンデロン吸入、ステロイド点滴静注、抗ヒスタミン剤筋注、抗生剤の点滴治 療により症状は改善し、その後再燃なく経過している。

キーワード

血管性浮腫、薬剤性、エストロゲン

緒 言

血管性浮腫は皮下または粘膜下組織に突然発症する浮 腫性腫脹である。好発部位は顔面、舌、口唇、咽頭・喉 頭領域で時に重篤な気道狭窄をきたすこともある。今回 われわれは、エストロゲン製剤(前立腺癌治療薬)が原 因として疑われた症例を経験したので若干の文献的考察 を加えて報告する。

症 例

症 例:90歳、男性

主 訴:咽頭違和感、嚥下時痛

既往歴:前立腺癌、慢性腎不全(透析中)

家族歴:特記事項なし

内服薬:エストロゲン製剤(前立腺癌治療薬)、アンギ オテンシン 受容体拮抗薬(ARB)

現病歴:2010年9月 14日夕食後内服薬服用時にカプ セル剤(エストロゲン製剤)が喉の右側に引っ掛かった。

箸を用いて除去を試みたが除去できず様子を見ていた。

違和感が継続し翌日、前医を受診した。披裂の腫脹(右 側が著明)を認め、同日当科紹介となった。当科初診時、

右側有意な披裂部の著明な浮腫を認め(図1)、同日入院 となった。

臨床検査所見(表1):白血球は正常範囲で、好酸球の 上昇を認めなかった。CRPは 0.79mg/dlと軽度上昇を 認めるだけだった。補体はC3が 76mg/dlで軽度低下し ていたがC4は 27mg/dlと正常範囲だった。

経 過

薬剤性の血管性浮腫を考慮し、エストロゲン製剤(エ

ストラサイト)およびアンギオテンシン 受容体拮抗薬

(ブロプレス)の内服を中止した。エピネフリン加リンデ ロン吸入、ステロイド(ソルコーテフ 200mg×1)点滴 静注、抗ヒスタミン剤(クロールトリメトン 10mg)筋肉 内注射、抗生剤(ペントシリン2g×2)の点滴治療を開 始した。治療により症状は軽快し9月 17日には右披裂部 の浮腫は著明に改善した(図2)。9月 18日からはリン デロン吸入のみとした。その後症状の再燃はなく9月 21 日には右披裂部の浮腫は完全に消失し(図3)、同日退院 となった。浮腫改善後の喉頭ファイバーの所見では右梨 状窩に白苔の付着を認めた(図4)ため、エストロゲン 製剤の直接粘膜障害による浮腫と考えた。退院後もエス トロゲン製剤の休薬は継続し、浮腫の再発なく経過して いる。

長 屋 朋 典 本 間 朝 朝 倉 光 司

室蘭病

エストロゲン製剤が原因として考えられた血管性浮腫の1例

市立室蘭総合病院 耳鼻咽喉

23年 10月)

図1 右側有意な披

医誌(第 36巻 第1号 平成

裂部の著明 浮腫 認め

る 文 ト ッ プ ペ ー ジ の み に入 れ

40

(2)

考 察

血管性浮腫は蕁麻疹(urticaria)の一病系に分類され る病態で、一般の蕁麻疹が真皮上層に出現するのと異な り、真皮下層、皮下組織、粘膜下組織に生ずる、血管の

拡張および透過性亢進に起因する血漿成分の漏出に基づ く浮腫である 。1882年、von Quinckeが最初に記載し た ことによりQuincke浮腫とも呼ばれる。好発部位は 顔面、舌、口唇、咽頭・喉頭領域で咽頭や喉頭に生じる と、気道閉塞や喉頭浮腫により呼吸困難を来し、窒息死 する場合もある 。

発生原因は様々であるが (表2)、このなかで遺伝性 血管性浮腫や後天性C1-INH欠損症・低下症は、C4に血 清レベルの低下を認めるが 、本症例ではC4は 27mg/

dlと正常範囲だった。

血管性浮腫の原因となる薬剤は多種におよび(表3)、

本症例ではアンギオテンシン 受容体拮抗薬(ブロプレ ス)とエストロゲン製剤(エストラサイト)を内服して いた。アンギオテンシン 受容体拮抗薬が血管性浮腫を 引き起こす機序は現在のところ解明されていないが、ア ンギオテンシン 受容体拮抗薬でアンギオテンシン の 血中濃度を高値にすると、B2キニンレセプターの発現が 増加してブラジキニンの作用を増強されるとの報告があ

表1 入院時検査所見

血液一般 生化学 補体

WBC 9080/μg   CRP 0.79mg/dl   C3 76mg/dl Seg. 90.7% TP   5.7g/dl   C4 27mg/dl Lym. 4.7% Alb   3.3g/dl

Mono. 4.2% BUN 61.1mg/dl Eosino. 0.2%  Cr 4.62mg/dl Baso. 0.2% AST 22IU/L RBC 303万/μg   ALT  22IU/L Hb 11.2g/dl   LDH  240IU/L Hct 32.7%  ChE 162IU/L PLT 13.5万/μg   Na  136meq/L Cl 109meq/  L 4.5meq/L Ca 8.3meq/  L BS 102meq/  L 図2 右披裂部の浮腫は軽快した

図3 右披裂部の浮腫は消失した

図4 右梨状窩に白苔の付着を認めた

表2 血管性浮腫の成因 薬剤 ペニシリン薬 アスピリン

NSAIDs   ACE阻害薬 ARB アレルギー 食物 ラテックス 虫刺 物理的要因 日光 寒冷 運動 特発性 高親和性IgEレセプター 補体系の異常 遺伝性C1-INH欠損・機能異常

後天性C1-INH欠損

表3 血管性浮腫の原因となる薬剤 ペニシリン

アスピリン、NSAIDs 線溶系酵素

アンギオテンシン変換酵素阻害薬 アンギオテンシン 受容体拮抗薬 エストロゲン

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(3)

り 、さらに詳しい研究が待たれる。また、エストロゲン は肝臓でのレニン基質の合成増加作用があり、RAA を賦活化する。また、エストロゲンには凝固亢進作用が あり、深部静脈血栓症から局在性浮腫を引き起こす場合 がある 。本症例ではエストロゲン製剤(エストラサイ ト)が喉の右側に引っ掛かった後より症状が出現したこ と、浮腫改善後の右披裂粘膜に白苔の付着があったこと よりエストロゲンの作用による血管性浮腫が強く疑われ る。

血管性浮腫の治療は原因薬剤の中止、抗ヒスタミン薬、

ステロイドホルモン、エピネフリンの投与が一般的であ る。遺伝性血管性浮腫や後天性C1-INH欠損症・低下症 が疑われる場合はC1-INH製剤を投与する。浮腫が軽度 の場合は、ダナゾールやトラネキサム酸の投与で代替が 可能とされている 。いずれの場合も気道閉塞の症状が ある症例では、気道確保が必要である。必要に応じて気 管内挿管や気管切開を行う。また、その体制を整えてお くことが重要である。最初は軽症でも急速に進行する症 例や、いったん軽快しても再燃する例もあるため注意を 要する。

結 語

エストロゲン製剤が原因として疑われた血管性浮腫の 1例を経験した。血管性浮腫を誘発する薬剤は多数存在 し、そういった薬剤が血管性浮腫の原因のひとつになり 得ることを念頭におくことが重要である。また、急速に 進行する症例や、いったん軽快しても再燃する例もある ため、気道確保の体制を整えておくことが肝要である。

文 献

1) 飯 塚 一:NEW皮 膚 科 学.p89‑91, 南 光 堂, 1997.

2) 高久史磨, 尾形悦郎:新臨床内科学(第7版)―リ ウ マ チ 性 疾 患, ア レ ル ギー性 疾 患, 免 疫 不 全―, p1633‑1634, 医学書院, 1997.

3)Quincke H: Uber akutes umschriebens. Hauto- derm Mscher F.Prakt.Dermatol 1:160169,1882.

4) 寺木祐一:血管浮腫. 日本臨床 65:353356, 2007.

5) 薗田直志, 長田哲次, 内山佳之, 田中秀生, 増本一 真, 橋本賢二:アンギオテンシン 受容体拮抗薬に よると考えられた舌・口底部の血管性浮腫の1例.

日口外誌 56:3639, 2010.

6) 山田伸夫:血管性浮腫. 最新皮膚科学大系3. 湿 疹, 痒疹, 瘙痒症, 紅皮症, 蕁麻疹. 玉置邦彦, 飯 塚一, 他編,p247‑256, 中山書店, 東京, 2002.

7)Tan Y,Hutchison F N,Jaffa AA:Mechanisms of angiotensin -induced  expression  of B2 kinin  receptors. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 

286:926932, 2004.

8) 鍋 島 邦 浩, 比 企 能 之:薬 剤・中 毒 に 伴 う 浮 腫.

medicina  45:20322035, 2008.

9)Bowen T, Cicardi M, Farkas H, Bork K, Kreuz W, Zingale  L, Varga  L, Martinez-Saguer  I,  Aygoren-Pursun E,Binkley K,Zuraw B,Davis A 3rd,Hebert J,Ritchie B,Burnham  J,Castaldo A, 

Menendez  A, Nagy  I, Harmat G, Bucher C, Lacuesta G, Issekutz A, Warrington R, Yang W, Dean J,Kanani A,Stark D,McCusker C,Wagner E, Rivard GE, Leith E, Tsai E, MacSween M, 

Lyanga J,Serushago B,Leznoff A,Waserman S, de Serres J:Canadian 2003 international Consen- sus Algorithm  for the Diagnosis, Therapy, and Management   of  Hereditary  Angioedema. J. 

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参照

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