ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著『ドイツ昔話集』(一八五七)試訳(その四) 鈴木滿訳・注・解題
お断り
編著者ルートヴィヒ・ベヒシュタインに関しては、鈴木滿訳・注・解題「ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著『ド イ ツ 昔 メ ル ヒ ェ ン 話 集 』( 一 八 五 七 ) 試 訳( そ の 一 )」 (「 人 文 学 会 雑 誌 」 第 四 〇 巻 第 四 号、 二 〇 〇 九・ 三 月 ) の「 ま え が き 」 を ご参照ください。 なお、目下のところ底本としては ヴァルター・シェル フ (( ( の注とあとがき付きで、ルートヴィヒ・リヒターの一八七葉の挿絵が入った下記Ludwig Bechstein: Sämtliche Märchen. Wissenschaftliche Buchg
esellschaft. Darmstadt (972. と共に ハンス=イェルク・ウタ ー (2 ( 編の下記 L ud w ig B ec hs te in : M är ch en bu ch . N ac h de r A us ga be v on ( 85 7, te xt kr itis ch r ev id ie rt un d du rc h R eg ist er
『ドイツ
昔
メルヒェン話
集』
(一八五七)試訳(その四)
鈴木滿
訳・注・解題
ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号
erschlossen. Herausgegeben von Hans-Jörg Uther. Eugen Diede
richs Verlag. München
(997. をも用いている。 こ れ は Ludwig Bechstein Märchen と し て 二 巻 本。 第 一 巻 が D M B ( 一 八 五 七 )。 た だ し 挿 絵 は 一 切 無 い。 第 二 巻 は NDMB 。「世界の民話」 Die Märchen der Welitliteratur (略称 M d W )シリーズの一つである。共に簡単ながら、 古 語、 方 言 な ど ド イ ツ 語 圏 の 一 般 読 者 に と っ て 難 解 な 語 彙 一 覧 が、 収 録 さ れ た 昔 メ ル ヒ ェ ン 話 番 号 別 に 付 い て い る。 ま た、 シ ェルフ注釈テキストには稀ながら存在した誤植が、こちらでは訂正されている。また、 M d W の方針に従い、全ての 昔 メルヒェン 話 の注中に A T 番号とそのタイトル( A T の英語タイトルではなくドイツ語で)が必ず示されている。 ただし、注自体はシェルフ注釈テキストの方がずっと詳細なので、両テキストを相互に補完させるのがよろしかろ う。 ちなみに訳文中の[ ]内、その他の部分の〔 〕内は訳者の補足である。 訳注・解題略記号凡例 AT アンティ・アールネ/スティス・トンプソン編著『民話の話型』 Antti Aarne / Stith Thompson: The Types of the Folktale. Suomalainen
Tiedeakatemia. Academia scientiarum Fennica. Helsinki
(964. A T U ハ ン ス = イ ェ ル ク・ ウ タ ー 著『 国 際 的 民 話 の 話 型 』 Hans-Jörg Uther: The Types of Internatinal Folktales. A Classification and Bibliography.
3 Vols. Academia scientiarum Fennica. Helsinki 2004.
A T の増補改訂版。 B P ヨ ハ ン ネ ス・ ボ ル テ / ゲ オ ル ク・ ポ リ ー フ カ 編 著『 K H M 注 釈 』 Herausgegeben von Johannes Bolte / Georg Polívka: Anmerkungen zu
den Kinder- und Hausmärchen der Brüder Grimm.
5 Bde. Georg Olms Verlagsbuchhandlung. Hildesheim
(963. DMB (一八四五) ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著『ドイツ 昔 メルヒェン 話 集』
Ludwig Bechstein: Deutsches Märchenbuch
( 1845 ). DMB (一八五七) ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著『ドイツ 昔 メルヒェン 話 集』
Ludwig Bechstein: Deutsches Märchenbuch
(
1857
DS
グリム兄弟編著『ドイツ伝説集』
Brüder Grimm: Deutsche Sagen.
第一巻(一八一六) 。第二巻(一八一八) 。 E M ク ル ト・ ラ ン ケ 創 始 / ロ ル フ・ ヴ ィ ル ヘ ル ム・ ブ レ ー ド ニ ヒ 編『 昔 メ ル ヒ ェ ン 話 百 科 事 典 』 Begründet von Kurt Ranke. Herausgegeben von Rolf W ilh elm B re dn ich z us am m en m it H er m an n B au sin ge r: E nz yk lop äd ie de s M är ch en s : H an dw ör ter bu ch z ur h ist or isc he n un d ve rg lei ch en de n
Erzählforschung. Walter de Gruiter. Berlin [u.a.]
(977-. H d A ハ ン ス・ ベ ヒ ト ル ト = シ ュ ト ロ イ ブ リ 編『 ド イ ツ 俗 信 事 典 』 Herausgegeben von Hanns Bächtold-Sträubli: Handwörterbuch des deutschen Aberglaubens.
(0 Bde. Walter de Gruiter. Berlin / New York
(987. H d M 『ドイツ 昔 メルヒェン 話 便覧』
Handbuch des deutschen Märchens.
このうち二巻のみが一九四〇年までに刊行された。 EM の前身。 KHM グリム兄弟編著『子どもと家庭のための 昔 メルヒェン 話 集』 Kinder- und Hausmärchen gesammelt durch die Brüder Grimm. 初版第一部(一八 一二) ・第二部(一八一五) 。決定(第七)版(一八五七) 。 M d W 「 世 界 の 民 話 」 Die Märchen der Weltliteratur. Begründet von Friedrich von der Leyen. Herausgegeben von Kurt Schier und Felix
Karlinger. Eugen Diederichs Verlag. Düsseldor-Köln.
NDMB (一八五六) ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著『新ドイツ 昔 メルヒェン 話 集』
Ludwig Bechstein: Neues deutsches Märchenbuch
( 1856 ). V d D ヨ ー ハ ン・ カ ー ル・ ア ウ グ ス ト・ ム ゼ ー ウ ス 著『 ド イ ツ 人 の 民 話 』( 一 七 八 二 ─ 八 六 ) Johann Karl August Musäus: Volksmärchen der Deutschen. 5 Teile.
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号
四二
金
ゴ ル デ ナ ー髪さん
随分昔のことだけど、こんもり茂った森の 中に貧しい羊飼いが暮らしていた。森の真ん 中 に 板 で 拵 こしら え た ち っ ぽ け な 家 を 建 て、 そ こ に妻と六人の子どもたちと住んだもの。子ど もたちは皆男の子だった。家の傍には 釣 つ る べ 瓶 井 戸とささやかなお庭があり、父親が家畜に餌 をやるたびに、子どもたちは外へ出て井戸か ら冷たい水を汲み上げて運び、お昼御飯や晩 御飯の飲み物として父親に出してあげもし、 ささやかなお庭からは食ベ物になるいろんな物を収穫したりしたんだよ。 一番年下の男の子だが、この子のことを両親は「 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん 」 (3 ( としか呼ばなかった。なにしろこの子の髪の毛は 黄 おうごん 金 み た い だ っ た か ら ね。 そ れ か ら、 末 っ 子 だ け ど、 兄 弟 の 中 で 一 番 逞 たくま し く て、 一 番 背 が 高 か っ た。 子 ど も 同 士 で 野 原 に出掛ける時はいつも、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん が木の枝を持って先頭に立って歩いた。他の子はだれ一人前を歩きたがらなかった んだ。だって、真っ先だと何かおっかないことに出くわすかも知れない、と思ったので。でも、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん が先頭を行 くと、皆喜んで行列してそのあとにくっついて歩き、真っ暗い藪の中を通っても、山の 端 は にもう月が昇る頃になって も平気だった。ある日の夕方、ぼうずたちは父親が帰るのを楽しみに森の中で遊んでいた。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん はだれよりも遊びに熱中して い た の で、 夕 映 え の よ う に 顔 を ほ て ら せ て い た。 「 も う 帰 ろ う や 」 と 長 男 が 言 っ た。 「 暗 く な っ て 来 た み た い 」。 ─ ─ 「 ご 覧 よ、 月 だ 」 と 次 男 坊。 す る と 突 然 暗 い 樅 の 樹 の 間 に ぼ お っ と 光 が 射 し た。 月 の よ う に 輝 く 女 の 姿 (4 ( が 苔 む し た 石 の 一 つ に 腰 を 下 ろ し、 水 晶 の 紡 つ む 錘 を (5 ( 手 に し て き ら き ら 光 る 糸 を 夜 の 中 へ と 紡 ぎ 出 し、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 坊 や に 頷 うなず く と、 こ う 歌 っ たのさ。 「白い 花 あ と り 鶏 、 (6 ( 黄 き ん 金 の 薔 ば ら 薇 、 海に抱かれた王妃様 」 (7 ( 女は多分もっと歌い続けたところだろうが、その時糸がぷっつり切れた。すると、女は光が消えるようにぱっと姿 を消した。すっかり夜になっていた。子どもたちはぞおっと 総 そう 毛 け 立つような恐怖に襲われ、なんとも哀れな悲鳴を挙 げると、巖やら巌の裂け目やらを飛び越えててんでんばらばらの方角へ逃げ出し、お互いの姿を見失ってしまった。 まこと何日何夜もの間 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん も深い森の中を 彷 さ ま よ 徨 い歩いたが、兄さんたちにはだれ一人に巡り合えなかったし、 父さんの小屋にも 辿 たど り着けなかった。それどころか人間のいる痕跡だって見当たらなかった。だってねえ、森には全 く 鬱 うっそう 蒼 と樹が生い茂っていたし、山また山、谷また谷の連続だったんだもの。 そ こ い ら じ ゅ う に 這 う よ う に 木 こ 叢 むら と な っ て い る 木 き 苺 いちご が (8 ( 空 き 腹 や 咽 喉 の 渇 き を 鎮 め て く れ た。 で な け れ ば 惨 め な 死 に方をしていたところだったよ。やっとこさ三日目に──ようやく六日目か七日目だった、という説もあるけど── 森は開けて来た。どんどん開けて来たんでね、とうとう 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は森から美しい緑の草原に抜け出した。
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 心がいとも軽くなったので少年は 暢 の びやかな大気を思うさま胸一杯に 吸い込んだ。 この草原には 鳥 とりわな 羂 が仕掛けてあっ た。ここには鳥獲りが住んでいて、 森から飛んで来る鳥たちを 捉 つか まえて 町へ売りに行っていたものだから。 「 こ ん な こ ぞ う が 丁 度 欲 し か っ た と こ ろ だ て 」。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん の 姿 を 目 に 留めた鳥獲りは考えた。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は 緑の草原の羂の近くに立って、遥か な空の 高 たか 処 み に見入り、いくら眺めて も見飽きないでいるところだった。 鳥獲りはちょっとおふざけをやらかしてみたくなり、羂をぎゅっと引っ張った。途端にばさっ。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん はとっ捉 ま っ て び っ く り 仰 天。 何 が ど う な っ た の か、 さ っ ぱ り 訳 が 分 か ら な か っ た ん だ も の。 「 こ う や っ て な、 森 か ら 出 て 来 た鳥どもをとっ捉まえるのさ」──鳥獲りはげらげら高笑いして言った──「おめえの赤い羽 根 (9 ( はわしにゃあもって こいさな。おめえ、ぶちのめされた 狐 ((( ( かなんかみてえだの。わしんとこに住み込むがええ。鳥を捉まえる術も教えて やるからよ」 。
金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん はすぐに弟子入りした。鳥たちに囲まれての暮らしはごくごく愉快に思われたし、ことにまた、父親の小 屋を探し当てる望みはすっかり棄てていたことだし。 「さあ、おめえが覚えたことを試してみな」 。数日後鳥獲りにこう言われた 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は、羂をぎゅっと引っ張り、最 初の猟で純白の花鶏を捉まえた。 「 こ の 白 い 花 鶏 と 一 緒 に と っ と と 失 せ ろ 」 と 鳥 獲 り は 金 切 り 声 を 挙 げ た ─ ─「 き さ ま、 悪 魔 と 関 わ り が あ る に 決 ま っ と る 」 ((( ( 。 そ う 言 う な り、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん が 差 し 出 し た 白 い 花 鶏 を 夥 し い 呪 い の 言 葉 を 吐 き 散 ら し な が ら 足 で 踏 み 躙 にじ っ て、 少年をひどくつっけんどんに草原から追い出した。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は鳥獲りの 科 せ り ふ 白 の意味がとんと 腑 ふ に落ちず、しょんぼりと歩き出したが、それでも気を取り直し、またし ても森の中に戻り、もう一度父親の小屋を探し当てよう、と考えた。昼も夜もごろごろしている岩石や倒れている古 い 樹 の 幹 や ら を 乗 り 越 え た り、 地 面 か ら い た る と こ ろ で 持 ち 上 が っ て い る 黒 い 樹 の 根 っ こ に 躓 つまず い た り を 何 度 も 何 度 も。 でも三日目にはようやくまた森は開けて来たんだ。そして見事な明るい庭園に出たのさ。庭園はこの上もなく愛ら しい花ばなで一杯だった。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん はこれ ほ どの花をこれまで見たことがなかったから、うっとりとして立ち尽くし た。 庭 園 の 庭 師 は 少 年 に す ぐ に は 気 付 か な か っ た。 ─ ─ な に し ろ 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん は 向 ひ ま わ り 日 葵 の ((( ( 下 に 佇 たたず ん で お り、 そ の 髪 の 毛 がやはりその花の一輪みたいにきらきら輝いていたのでね。でも気付くなり「 ほほ う、丁度こんなこぞうを手に入れ たかったところだ」と言って、庭園の門をぴしゃりと閉めちゃった。でも、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は文句を言わなかった。花ばな に囲まれての暮らしはとっても華やかに思えたし、ことにまた、父親の小屋を探し当てる望みはすっかり棄てていた ことだしね。
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 「森へ行ってな」とある朝庭師が 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん に言った。 「野育ちの 薔薇の木を取って来いや。うちで仕上げた薔薇をそれに 接 つぎ 木 き する で の 」。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん は 行 っ て、 な ん と も 綺 麗 な 黄 こ 金 がね 色 の 薔 薇 の 木 を 持って帰って来た。これはまるで最上の腕の 黄 き ん 金 細 ざい 工 く 師がどこか の王様の食卓飾りとして鋳たに違いない、と思われる ほ どだった。 「 こ の 黄 金 の 薔 薇 と 一 緒 に と っ と と 失 せ ろ 」 と 庭 師 は 金 切 り 声 を 挙 げ た ─ ─「 き さ ま、 悪 魔 と 関 わ り が あ る に 決 ま っ と る 」 ((( ( 。 そ う言うなり、黄金色の薔薇を夥しい呪いの言葉を吐き散らしなが ら足で踏み躙って、少年をひどくつっけんどんに庭園から追い出 した。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は庭師の科白の意味がとんと腑に落ちなかったが、そ れでも気を取り直し、またしても森の中に戻り、もう一度父親の 小屋を探し当てよう、と考えた。 昼も夜も、樹から樹へ、巌から巌へ歩いたが、三日目にはよう ようまた森が開けて来たのさ。どんどん開けて 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は森から 真っ青な海に出たんだ。海は目の前に見渡す限り広がり、折しも 太陽が水晶のような 水 みな 面 も に映り、溶けて流れる黄金のよう。その 上には長い三角の長旗を 翩 へんぽん 翻 とひるがえした壮麗に飾られた船が
何隻も浮かんでいた。数人の漁師たちが岸辺に寄せられている綺麗な小舟の中にたむろしていたが、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん はその 小舟に乗り込み、うっとりとして麗らかな景色に見入ったのさ。 「 お ら っ ち ゃ 丁 度 こ う い う こ ぞ う が 欲 し か っ た よ う 」 と 漁 師 た ち は 言 う と、 途 端 に さ っ。 舟 を 岸 か ら 突 き 放 し た。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん は文句は言わなかった。波に浮かんでの暮らしは黄金のように思われたし、ことにまた、父親の小屋を探し 当 て る 望 み は す っ か り 棄 て て い た こ と だ し。 漁 師 た ち は 投 と 網 あみ を 打 っ た が、 獲 物 は と ん と か ら っ き し だ っ た。 「 ぬ し の 運 が 好 い か ど う か、 一 つ 試 し て み よ う じ ゃ あ 」 と 銀 髪 の 年 寄 り の 漁 師 が 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん に 言 っ た。 ぶ き っ ち ょ な 手 つ き で 金 ゴ ル デ ナ ー 髪さん が網を 深 ふか 処 み に沈めて、引くと、獲れたのは──輝く 黄 き ん 金 の冠。 「 で か し た じ ゃ あ 」 と 年 寄 り の 漁 師 は 叫 ぶ と、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん の 足 許 に ひ れ 伏 し た。 ─ ─「 て ま え、 あ な た 様 を わ れ ら が 王様としてお迎えつかまつりまする。何百年も前のこと、跡継ぎをお持ちにならぬご老齢の王様が、ご臨終のみぎり 王冠を海にお沈めになりましてな、どこぞの幸運な御仁が運命の定めで冠をまた深処から引き揚げでもしない限り、 王様の玉座は継ぐ者のおらぬまま喪に服しておらねばならぬ、とお決めになりましたで」 。 「 わ れ ら が 国 王、 万 万 歳 」 と 漁 師 た ち は 叫 び、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん に 冠 を 被 せ た。 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん と 再 び 見 つ か っ た 冠 の 話 は 間 も な く、船から船へ、そして海から遠く陸地の奥深くまで伝えられて行った。そして黄金色の水面は、花ばなと緑の葉の 細工で飾り立てられた華やかな小舟、 大 たいせん 船 で埋まり、これらは高らかな歓呼の声を挙げて、 金 ゴ ル デ ナ ー 髪坊や 王が座乗してい る舟を迎えたんだ。少年は輝く冠を 頭 こうべ に戴いて、舟の 舳 みよし に立ち、心静かに太陽が海に姿を消して行くのを見やって いた。夕風に黄金の巻き毛を 靡 なび かせて。
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 解題 ユスティーヌス・ケルナーによる。 こ の 魅 力 的 な 物 語 は、 シ ュ ヴ ァ ー ベ ン 出 身 の 医 師 に し て 詩 人 で あ る ユ ス テ ィ ー ヌ ス・ ケ ル ナ ー Justinus Kerner ( 一 七 八 六 ─ 一 八 六 二 ) が 書 い た 創 ク ン ス ト 作 昔 メルヒェン 話 Kunstmärchen 「 金 ゴ ル デ ナ ー 髪 さ ん 。 あ る 童 話 」 Goldener. Ein Kindermährchen を ベ ヒ シ ュ タ イ ン が 採 録 し た も の で あ る。 ケ ル ナ ー は 一 八 一 一 年 に 執 筆、 一 八 一 三 年 五 月 に テ ュ ー ビ ン ゲ ン で 初 め て 発 表 し た。 ( 掲 載 誌「 ド イ ツ の 詩 人 の 森 」 Deutscher Dichterwald )。 フ リ ー ド リ ヒ・ ゴ ッ ト シ ャ ル ク が こ れ を 一 八 一 四 年『 ド イ ツ 人 の 伝 説 と 民 話 』 Sagen und Volksmärchen der Deutschen 第 一 巻 に 収 録 し た。 ケ ル ナ ー 自 身 こ の こ と を 以 下 の よ う に 注 釈 し て い る。 「 …… お そ ら く こ れ の 出 版 者 は、 こ の 昔 メ ル ヒ ェ ン 話 が 何 か 民 間 伝 承 か 民 謡 を 基 に し て い る、 と 推 量 し た の だ ろ う が、 実 際 は そ う で は な い 」 と。 次 い で ケ ル ナ ー は そ の 二 年 後 こ の 物 語 を「 流 浪 の 人 び と 」 Die Heimatlosen に 挿 入 し た( 掲 載 紙「 朝 モ ル ゲ ン ブ ラ ッ ト 刊 」 Morgenblatt 一一三─一一五号。シュトゥットガルト。一八一六) 。ベヒシュタインはこれを底本とし、僅かながらではあるが変更を施している。 高貴な出自の徴としての黄金色の髪なる主題をも考えるべきか。 A T 該当なし。 原題 Goldener.
四三
羊飼いの少年の吉夢
昔むかしとっても貧しい農夫がいて、ちいっぽけな村 で羊飼いをやっていた。もう何年も何年も前から。所帯 はささやかなもので、おかみさんと一人っ子、それも男 の子がいるだけ。でもこの子を農夫はごく早い時期から 牧場に一緒に連れて行って、 真 ま っ 当 とう な羊飼いがやらなき ゃならないことをとっくり教え込んだ。そこで、男の子 がいくらか大きくなると、もうすっかり頼りにして、羊 の群をこの子独りに任せることができたので、その間ず っと家にいて、籠を編ん で ((( ( 何枚かの三ヘラー銅 貨 ((( ( を稼げ るようになった。羊飼いの少年は群を追って元気一杯草 原や丘の斜面に出掛けて行き、明るい調べの唄を幾つも 口笛で吹いたり歌ったりし、合間に牧童の鞭を高らかに ぴしりと鳴らしたもの。こうしていると 刻 とき の経つのは遅 くはなかった。真昼になると、羊たちの群の傍にのんび り寝そべり、弁当の 麪 パ ン 麭 を食べ、泉の水を飲み、それか ら、ちょいとまどろんだりして、そのあとまたおもしろ武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 く時を過ごすのだった。ある日の昼休み、羊飼いの少年はある樹の木蔭に横になっていると、寝入ってしまい、なん とも不思議な夢を見た。遠くに旅をしていた。際限もなく遠くへ。──まるでたくさんの貨幣がひっきりなしに地面 に落ちているようなちりんちりんという大きな音──ひっきりなしに大砲を撃っているようなどろどろという音── 武器を携え、きらきら輝く物の具に身を固めた果てしなく続く軍勢、これらが全て少年の周りを囲み、轟き、どよめ いていた。そうやってどんどん歩き通し、山をずんずん登って行くと、とうとう頂上に着いたが、そこには玉座が一 つ 設 しつら え ら れ て お り、 少 年 は そ こ に 腰 を 下 ろ し た。 隣 に も う 一 つ 席 が あ っ て、 美 し い 女 性 が 突 然 姿 を 現 し、 そ こ に 座 った。と、羊飼いの少年は夢の中ですっくと立ち上がり、厳かに、かつ、いかめしく「余はイスパニア国王なるぞ」 と宣言したのだった。だけどその瞬間に目が覚めた。自分の見た奇妙な夢をとつおいつ思い返しながら少年は羊の群 を 追 い 続 け た が、 、 夕 方 帰 る と 戸 口 の 前 で 柳 細 工 を し て い る 両 親 に、 仕 事 を 手 伝 い な が ら 不 思 議 な 夢 の 話 を し た。 そ し て こ う 締 め 括 っ た。 「 も う 一 度 お ん な じ 夢 見 た ら、 絶 対 に さ、 お い ら イ ス パ ニ ア へ 旅 し て 行 っ て、 王 様 に な れ る か なれないか試してみるつもりなの」 。──「ばかな子だあよ」と父親はぶつぶつ。 「王様にしてもらったら、ひとの物 笑 い に な ら ね え よ う に す る こ っ た よ う 」。 母 親 の 方 は く っ く く っ く と 忍 び 笑 い が 止 ま ら ず、 両 の 手 を 打 ち 合 わ せ、 あ きれ返って「イスパニアの王様ねえ、イスパニアの王様ねえ」と何度も何度も言った。──次の日の真昼羊飼いの少 年が折しもあの樹の下に寝そべっていると、いやもうなんとも驚いた。またまた同じ夢に取り 憑 つ かれたんだ。なんと か夕方まで群の番をしたものの、本当は家へ走って帰って、イスパニアに出立したかった。ようやく群を駆り立てて 戻ると、重ねて夢を見たことを報告していわく「もう一度こういう夢を見たら、おいら、すぐに旅に出る、 ほ んとに す ぐ に ね 」。 ─ ─ 三 日 目 や っ ぱ り 例 の 樹 の 下 に 横 に な っ て い る と、 完 全 に 同 じ 夢 が 三 度 目 に 訪 れ た。 少 年 は 夢 の 中 で す っ く と 立 ち 上 が り、 「 余 は イ ス パ ニ ア 国 王 な る ぞ 」 と 宣 言 し た の だ。 そ し て ま た も や 目 が 覚 め た。 で も 今 度 は 寝 て
いた場所から帽子と鞭と 麪 パ ン 麭 の小袋を 摑 つか み上げ、羊の群を追い集め、まっすぐ村へと向かった。村人たちは、こんな に 早 く、 晩 ヴ ェ ス パ ー 課 の 刻 限 ((( ( の こ ん な に も 前 に、 羊 を 小 屋 へ 入 れ に 来 た の を 叱 り に 掛 か っ た ((( ( が、 少 年 は 頭 に 血 が 昇 り っ ぱ な し で、 近 所 の 衆 や 両 親 の 小 言 な ど に 耳 も 貸 さ ず、 日 曜 の 晴 れ 着 に し て い る 僅 か の 衣 類 を 包 ん で 結 ぶ と、 胡 く る み 桃 の 樹 で 拵 こしら え た 杖 に 吊 る し て 肩 に 担 ぎ、 委 細 か ま わ ず 旅 に 出 た。 少 年 の 足 取 り は と て も 速 か っ た。 ま る で 夜 に な ら な い う ち にイスパニアの地に到着してなきゃ、とでもいうようにとっとと歩いたもの。でもこの日やっと 辿 たど り着いたのはとあ る森で、村もなければ一軒家もなかった。そこで、この森のどこかこんもり茂った 木 こ 叢 むら の中にでも夜の宿りを探そう、 と決心した。けれども、体を横たえ、とろとろまどろもうとした途端、なにやら物音が聞こえて、また目を覚ました。 一団の男たちががやがやしゃべりながら少年が泊まることにした茂みの傍を通り過ぎて行くところだったのだ。少年 は静かにそこを出て、 ほ んのちょっとの距離を置いて男たちの跡を 跟 つ けた。もしかしたら、これから寝場所が見つか るかも知れない、この連中が今日眠るところに、きっとこっちも眠れるぞ、と考えたのだ。──さ ほ ど歩かないうち に、かなり立派な家が行く手に現われた。暗い森の真っ只中だったけど。男たちが扉を叩くと、それが開いた。そこ で羊飼いの少年は男たちに紛れてそっと家の中に忍び込んだ。中に入ると、また扉が一つ開き、一同は大きな、ろく すっぽ明かりのない部屋に足を踏み入れた。その部屋の床には一面にたくさんの 藁 わら 束や寝台や掛け布団が置いてあり、 男たちの寝場所としてあらかじめ準備されていたようだった。羊飼いの少年は急いで部屋の出入り口近くに積み上げ てあった藁の山の下に潜り込み、その隠れ 処 が から見聴きできる限りのことを 悉 ことごと く窺うことにした。間もなく突き止 め た の は ─ ─ な に し ろ も と も と こ の 子 は 利 口 で 気 が 利 い て い た か ら ─ ─ こ の 男 た ち の 同 勢 は 盗 賊 団 で、 こ の 家 の 主 あるじ がその首領だっていうこと。首領は、新たに到着した一味徒党がずらりと寝そべると、いくらか高い席に上り、深沈 た る 低 い 声 こわ 音 ね で こ う 言 っ た。 「 勇 ま し い 身 内 の 衆 よ、 お ぬ し ら が 今 日 や っ た 仕 事 に つ い て 申 し 立 て て く れ い。 ど こ に
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 参 上 つ か ま つ っ て、 何 を 頂 戴 い た し た か を な あ 」。 す る と ま ず 墨 の よ う に 黒 い 髯 を 生 や し た の っ ぽ の 男 が つ と 立 ち 上 が り、 こ う 答 え た。 「 お 頭 かしら 、 わ し は な、 今 朝 早 く に 金 持 ち の 貴 族 か ら 革 の 洋 ズ ボ ン 袴 を 取 り 上 げ ま し た で。 こ れ に ゃ 二 つ 衣 ポケット 嚢 があって、それを引っくり返して存分に揺すぶりますとな、そのたんびにドゥカーテン金 貨 ((( ( がちょいと一山落っ こちるんでがす」 。──「こりゃ全く痛快な話よ」と首領。男たちの一人が進み出て、こう報告。 「おれは今日どこぞ の将軍から三角 帽 ((( ( を盗みました。この帽子にゃあこんな効能がありますのさ。頭の上でぐるりと廻しゃあ、三つの 角 かど 角 かど か ら ひ っ き り な し に 大 砲 を ど か ん ど か ん と ぶ っ 放 す っ ち ゅ う わ け 」。 ─ ─「 こ い つ は 一 番 聴 き も の だ て 」 と ま た 首 領。三人目が体を起こしていわく「あっしゃあね、どっかの騎士から 佩 お びていた剣を召し上げやした。この剣の先っ ち ょ を 地 面 に 突 っ 込 む っ て え と、 即 座 に 兵 隊 が 一 個 連 隊 ((( ( で き る ん で や す 」。 ─ ─「 大 胆 不 敵 な 遣 や り 口 ぞ 」 と 首 領 は 褒 め 讃 え た。 今 度 は 四 人 目 の 強 盗 が 起 き 上 が っ て 口 を 切 っ た。 「 お ら、 眠 っ て る 旅 た び に ん 人 か ら 履 い て る 長 靴 を 脱 が し て 来 た だ。この長靴を履くと、一足動かすたんびに七 哩 マイル 行っちま う ((( ( だで」 。──「すばしこく上手に立ち回ったなあ」と首 領 は 上 上 の ご 機 嫌 で の た ま う。 「 お ぬ し ら の 獲 物 を 壁 に ぶ ら 下 げ て お け。 そ う し て 喰 っ て、 飲 ん で、 ぐ っ す り 眠 る が い い わ い 」。 そ う 挨 拶 す る な り 首 領 は 盗 賊 ど も の 寝 部 屋 を あ と に し た。 連 中 は そ れ か ら 大 い に 飲 み か つ 喰 い、 や が て ぐっすり寝込んだ。辺りがしんと静まり返り、男どもがどいつもこいつもぐうすか眠ってしまうと、羊飼いの少年は 出て行って、革の 洋 ズ ボ ン 袴 を履き、帽子を被り、剣帯を腰に巻いて剣を下げ、長靴に足を突っ込み、こっそり家を忍び出 た。 外 へ 出 る と 嬉 し い こ と に 長 靴 は 早 く も 霊 れ い げ ん 験 を 顕 あらわ し、 ほ ど も な く こ の こ ぞ う っ 子、 イ ス パ ニ ア の 大 き な 都 に 足 を 踏み入れていた。してしてその名はマドリー ド ((( ( 。 行き当たりばったりの男に、一番大きな旅館はどこか、と訊くと、貰ったのは「ちびすけ、おまえら 風 ふ 情 ぜい が泊まる ところへ行きな、金持ちの旦那衆がご馳走を召し上がるところじゃなくってよ」という返辞。でも、ぴかぴかの金貨
を 一 枚 や る と、 相 手 は す ぐ さ ま 鄭 て い ち ょ う 重 に な り、 羊 飼 い の 少 年 の 案 内 役 を 買 っ て 出 て、 最 上 の 旅 館 を 教 え て く れ た。 そ こ に 到 着 す る と、 若 者 は す ぐ に 一 番 立 派 な 部 屋 を 幾 つ か 借 り 受 け、 愛 想 よ く 宿 の 亭 主 に 訊 ね た。 「 さ あ て、 あ ん た が たの町はどんな具合ですかね。こちらにゃ耳新しいことがありますか」と。亭主はしょぼくれた顔をして、こう答え た。 「 小 さ い 旦 那 様、 ど う や ら こ の 国 に は 不 案 内 で い ら っ し ゃ る。 ご 様 子 じ ゃ あ、 わ し ら の 王 様 が、 国 王 陛 下 が、 二 万の軍勢を動員なすったことをお聞きになっていらっしゃいませんな。そら、わしらにゃ敵がありますんで。いやあ、 な ん と も ひ ど い ご 時 世 で さ あ ね。 小 さ い 旦 那 様、 あ な た 様 も 軍 に 志 願 な さ る お つ も り で す か 」。 ─ ─「 も と よ り、 も と よ り 」。 幼 げ な 若 者 は こ う 言 っ て 嬉 し さ に 顔 を 輝 か せ た。 亭 主 が 退 く と、 早 速 履 い て い た 革 の 洋 ズ ボ ン 袴 を 脱 ぎ、 金 貨 を 一 山 振 り 出 す と、 高 価 な 衣 装 と 武 器、 そ れ か ら 装 身 具 を 購 入、 こ れ ら を 皆 身 に 着 け る と、 国 王 に 謁 見 を 請 願 し た。 王 城 に 入 り、 二 人 の 侍 従 に 付 き 添 わ れ て 壮 麗 な 大 広 間 を 通 り 抜 け る と、 素 晴 ら し く 愛 ら し い 若 い 貴 婦 人 が 出 迎 え、 侍 従 た ち の 真 ん 中 で 上 品 に 一 い ち ゆ う 揖 し た こ の 器 量 好 し の 青 年 に 優 雅 に 会 釈 を 返 し た。 侍 従 た ち は「 国 王 陛 下 の 姫 宮 で い ら せ ら れ ま す る 」 と 囁 い た。 青 年 は 王 女 の 麗 し さ に 少 な か ら ず 魂 を 奪 わ れ た が、 こ の よ う に 恍 こ う こ つ 惚 と し 夢 中 に な っ て い た お 蔭 で 国 王 の 御 前 に 出 て も 怯 お め ず 臆 おく さ ず 話 す こ と が で き た。 い わ く「 国 王 陛 下。 畏 おそ れ な が ら そ れ が し、 軍 人 と し て ご 奉 公 つ か ま つ り た く、 伏 し て お 願 い い た し ま す る。 陛 下 の 御 おん た め に 引 き 連 れ て ま い り ま し た そ れ が し の 軍 勢 に 勝 利 を 嬴 かちえ さ せ、 わ が 国 王 が、 征 服 せ よ、 と お 申 し つ け あ そ ば す も の は 悉 く
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 征服させる所存。さりながら、 勝 かちどき 鬨 を挙げましたる暁には、そのご恩賞として、麗しのご息女をそれがしが妻とする こ と を お 許 し く だ さ い ま す よ う 請 願 つ か ま つ り ま す。 い と も 優 ゆう 渥 あく な る 国 王 陛 下、 さ よ う 御 ぎょ 意 い あ そ ば し ま す る や 」。 王 は 若 者 の こ う し た 大 胆 不 敵 な 申 し 出 に 驚 い た が、 こ う 言 っ た。 「 よ ろ し い、 そ な た の 要 求 を 聞 き 入 れ よ う ぞ。 そ な た が 凱 がいせん 旋 いたした 暁 あかつき には、余はそなたを跡継ぎと定め、姫を妻として与えよう」 。 さて、元羊飼いは独りっきりで広びろとした野原に出て行き、佩びた剣を地面に突き刺しては抜き、突き刺しては 抜きすると、ものの数分で数千人の戦仕度を調えた 兵 つわもの らがその場に並んだ。そして若者は総大将として豪華な物の 具に身を固め、 絢 けんらん 爛 たる装身具を着け、黄金の縫い取りを施した 馬 うま 衣 ぎぬ を掛け た ((( ( 見事な駒にうちまたがった。 馬 ば 勒 ろく は ((( ( 数 数の宝石できらめいている。こうしてうら若い軍司令官は出征して敵と 対 たい 峙 じ した。血みどろの大会戦があった。総大 将が 被 かぶ った帽子からはひっきりなしに必殺の砲撃が轟き、その剣は次から次へと連隊また連隊を地中から生み出した ので、何時間も経たぬうちに敵軍は撃破されて散り散りばらばらに 潰 かいそう 走 、勝利の旗がたなびいた。しかし勝者は敵を 追跡して行き、更に相手の領土の最良の部分を奪い取った。それから勝利と栄光に満ち満ちて、一番素晴らしい幸運 が待ち構えているイスパニアに帰還した。美しい王女は大広間で再会した 粋 いき な若者に 一 ひとかた 方 ならず魅惑されたが、こち らも同様。そしていとも優渥なる国王は勇猛な若武者の天晴れな功名手柄をしかるべく讃え、約束通り青年に息女を 妻として与えると、自らの跡継ぎにして王位継承者なるぞ、と定めた。 華 か 燭 しょく の典がいともきらびやかに執り行われ、元羊飼いは至福に包まれた。婚儀の後間もなく老王は王冠と王 笏 しゃく を 婿殿の手に渡した。こちらは誇らかに玉座に座り、その隣には愛らしい妻が控えた。そして新王に臣民から忠誠の誓 いが捧げられたのだ。すると若者はかくも素晴らしく成就した夢のことを思い起こし、また、自分の貧しい両親のこ と を 想 い 起 こ し、 再 び 夫 婦 水 入 ら ず に な る と、 妻 に 向 か っ て こ う 言 っ た。 「 い と し い ひ と、 わ た し に は 両 親 が い る。
されど至極貧しい。父は村の羊飼いでここから遠方に住んでいる。わたし自身は子どもの時家畜の番をしていたのだ。 不思議な夢によって、わたしがやがてイスパニアの王になる、と告げられるまでな。して運命はわたしをいとおしん でくれた。 ほ ら、わたしは今国王なのだからね。しかしわたしの両親が幸せになるのもぜひ見たい。それゆえ、そな た が 許 し て た も る な ら だ が、 家 に 戻 っ て 両 親 を 連 れ て ま い り た い の だ 」。 王 妃 は 喜 ん で 同 意、 背 の 君 を 出 立 さ せ た。 若者はとても速く旅をした。なにしろ七哩靴を履いていたからね。途中若い王は盗賊どもから取り上げた奇蹟の道具 を正当な持ち主に返してやった。ただし長靴は別で、嬉しさのあまり茫然とした両親を連れ帰ると、長靴の持ち主に はその代償に公爵領を下賜した。さてそれからというものは、イスパニアの王様として生涯幸せに、かつ堂堂と暮ら しましたとさ。 解題 フランケン地方の口承。 主 人 公 が 強 盗 ど も の 巣 窟 で 手 に 入 れ た 四 つ の 呪 宝 は ド イ ツ 民 衆 本 で お 馴 染 み の「 フ ォ ル ト ゥ ナ ー ト ゥ ス の 息 子 た ち 」 ─ ─ A T 五 六 六「 三 つ の 呪 宝 と 不 思 議 な 果 実 」 TheThree Magic Objects and the Wonderful Fruits ( Fortunatus ) ─ ─ に 登 場 す る た ぐ い の も の。 こ の 種 の 呪 宝 を モ テ ィ ー フ と し た 昔 話 は A T 五 一 八〈 「 悪 魔( 巨 人 ) ど も の 呪 宝 争 奪 」 Devils ( Giants ) Fight over Magic Objects 〉 型 や A T 五 六 三〈 「 テ ー ブ ル と 驢馬と棍棒」 The Table, the Ass, and the Stick 〉型などがある。卑賎の身から王となった主人公がその出自をあからさまに王妃に打ち明け、 そ れ を 聞 い た 王 妃 も、 こ れ は 不 釣 り 合 い な 結 婚 だ わ、 と 嘆 き も し な い 点、 主 人 公 が 呪 具 を 正 当 な 持 ち 主 に 返 却 し た り、 し か る べ き 対 価 を 支 払 っ て 合 法 的 に 我 が 物 に し た り す る 点 は、 堅 実 な 中 産 市 民 階 層 の 感 覚 で あ り、 か つ ま た 教 育 的 で あ っ て、 か つ て の 庶 民 の 感 覚 や 世 間 知 と は 相 容 れ な いようだ。なお、将来高い身分になるだろうとの予言の夢を主題とする昔話や説話はさまざまな地域に存在する。 A T 七二五「夢」 The Dream + A T 五六九「背嚢と帽子と角笛」
The Knapsack, the Hat, and the Horn
。
原題
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号
四四
王の大聖堂
昔むかしある国王が神の栄光を讃えるために壮麗な大聖堂を 建 こ ん り ゅ う 立 す る こ と に し た が、 こ の 建 築 に 何 な ん ぴ と 人 も 一 ヘ ラ ー ((( ( た り と い えども喜捨するべからず、余はこれを独自の財貨にて建立する 所存なり、との厳しい勅命を布告した。そのように執り行われ、 大聖堂が完成した。美しくもまた堂堂と、善美を尽くして。そ して王は大きな大理石の板を作らせ、この板に 黄 き ん 金 文字で、余、 すなわち国王は、独力にてこの大聖堂を建立、何人もこれに喜 捨いたさず、との碑銘を刻ませた。しかしこの石板が一日一夜 掲げられると、夜の間に碑銘が変じ、王の名の代わりに別の名、 それもある貧しい女の名が記されていた。そこで、この女が壮 麗な大聖堂を全て建立したかのごとくに思われた。王はこれに 震 しん 怒 ど 。その名前を削り落し、再び自分の名を書き込むように命じた。しかし一夜明けるとまたかの貧しい女の名が石 板にあった。で、だれもが、この女こそ大聖堂の創立者だ、と読んだわけ。三度王の名が石板に書かれたが、三度そ れは消え、女の名が出現した。そこで、神の 御 み て 手 がここで動いていることに気付いた王は謙虚になり、その女を捜し 出させ、ぜひ参内するように、と伝えさせた。 惧 おそ れ 慄 おのの き、かつ仰天して女が御前に来ると、王はこう言った。 「女、 不 思 議 な こ と ど も が 出 し ゅ っ た い 来 し て お る。 神 懸 け て、 ま た、 命 に 懸 け て 真 実 を 申 せ。 そ ち は、 何 人 も 大 聖 堂 の た め に 喜 捨してはならぬ、という余の勅命を聞いておらなかったのか。それとも、やはり喜捨いたしたのか」 。 女 は 王 の 前 に ひ れ 伏 し て 言 っ た。 「 ご 仁 慈 を お 恵 み く だ さ い ま し、 国 王 陛 下。 私 は な に も か も 申 し 上 げ て ご 仁 慈 に お任せいたします。私はまことに貧しい女、糸紡ぎをいたしまして、飢え死にをばつかまつらぬようかつがつ暮らし を立てております。それでも一ヘラー残りました。これを神様の栄光のため王様の聖堂ご建立に捧げたい、と存じま したのですが、でも、おお、陛下、ご禁令とご厳罰を 憚 はばか りまして、その銅貨一枚で干し草の小さな束を 購 あがな い、ご建 立の大聖堂のための石材を 牽 ひ いてまいる牡牛たちにやろうと道に 撒 ま いたのでございます。すると牛たちは食べてくれ ました。かように私は思い通りにいたし、また、ご命令に背きもいたさなんだのでございます」 。 王は女の話にひどく打たれ、 主 しゅ なる神が女の清い気持ちを 嘉 よみ し、王の豊かな財宝よりも高い犠牲を払ったとしてそ れを受納なさったことを知った。そこで王はこの貧しい女にたっぷり 被 かず け物を与え、 己 おの が虚栄の罰を深く心に刻んだ のだった。 解題 ラ ス ベ ル ク 男 爵 ヨ ー ゼ フ( 一 七 七 〇 ─ 一 八 五 五 ) 編『 歌 の 広 間 ─ ─ 古 き ド イ ツ の 詩 集 成 』 Joseph Freiherr v. Laßberg: Liedersaal, das ist
Sammlung altdeutscher Gedichte,
4 Bde., (820-25, Bd. II. による。すなわち、古いドイツの韻文物語が材源。 仏典の説話から出た諺「 貧 ひんじゃ 者 の 一 いっとう 灯 」(貧しい生活の中から供養する一灯は、 富んだ者の万灯にもまさった功徳があること)を思い起こさせる。 国 王 が 仏 に 献 じ た 万 灯 は 風 に 消 え た り、 油 が 尽 き て 無 く な っ て し ま っ た が、 一 人 の 貧 し い 老 婆 が 献 じ た 一 灯 は い つ ま で も 消 え な か っ た、 と い う 説話が『 阿 あ 闍 じゃ 世 せ 王受決経』にある。 A T 該当なし。 原題
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号
四五
魔女
と
王様の子どもたち
ある森の真ん中に年取った邪な魔 女 ((( ( が自分の娘とたった二人っきりで住んでいた。娘の方は気立ての好い、優しい 子だった。この子の場合、 「 林 りん 檎 ご は幹から遠くにゃ落ち ぬ ((( ( 」[蛙の子は蛙]という諺は当て 嵌 は まらなかったわけ。この 幹 と 来 た ら 瘤 こぶ こ ぶ だ ら け の 棘 とげ だ ら け で 醜 か っ た。 婆 様 を 見 掛 け た 者 は 道 を 避 よ け、 「 触 ら ぬ 神 に 祟 り な し ((( ( 」 と 考 え た も の。婆様はしょっちゅう緑の色眼鏡を掛け、 櫛 くし も入れずに頭から長ながと下へ垂らしているもじゃもじゃ髪には赤い 布切れを 被 かぶ せ、よく短い袖で出歩いたので、瘠せっこけた渋紙色の両腕がだぶだぶの衣装からにょっきり突き出して いた。大体いつも、森で集めた魔法の草を詰めた袋を背中に担ぎ、片手に大きな壺を持っていたが、この中に入って いるのは魔法の草の 煎 せん じ 汁 じる で、これを使って、いつでも好きな時に、嵐、 雹 ひょう 、 霰 あられ 、霜、寒気を招き寄せ る ((( ( のだった。 指に 嵌 は めているのは火のように赤い 柘 ざ く ろ 榴 石 いし のくっついている黄金の魔女の指環。これでもって人間や動物に魔法を 掛けることができた。この指環のお蔭で婆様は巨人のように強く、力持ちになれたし、そうしたければ全く姿を見え なくすることも。だから、行きたいところへどこへでも行けたし、欲しいものを手に入れられた──実際そうもした わけ。森で牝の 角 ヒルシュ 鹿 た ち ((( ( を捜し当て、動物たちがこの指環を目にし、石がきらめくのを見ると、その場に呪縛されて 動けなくなってしまう。すると婆様は牝鹿たちに近づき、その乳を壷に 搾 しぼ り入れ、娘と二人で飲むのだった。この娘 は ケ ー ト ヒ ェ ン ((( ( と い う 名 で、 性 しょう 悪 わる な 母 親 の 許 もと で の 暮 ら し は 幸 せ で は な か っ た が、 辛 抱 強 く あ ら ゆ る 苦 し み を 耐 え 忍 んでいた。この子にとって一番胸が痛むことは、母親がたびたびどこかの子どもたちを連れて来ることだった。本当 はどんなにか一緒に遊んでやりたかったことか。でも、婆様はいつも子どもたちが着ている物を脱がせ、監禁し、肥 え太るように鹿の乳で養うのだった。それから何をこの子どもたちにするかというと、語るのも身の毛がよだつ。つま り、 子 ど も た ち を 仔 鹿 の 姿 に 変 え て し ま い、 猟 師 連 に 売 り 飛 ば す の で。 猟 師 た ち の 方 は 変 身 さ せ ら れ 売 ら れ た 可 哀 そ う な 仔 鹿 を 撃 ち 殺 し、 町 へ 運 ん で 行 く。 町 の 人 人 は こ の 若 い 猟 獣 肉 を ご 満 悦 で 食 べ た も の。 こ の 醜 い 婆 様 は こ ん な 風 に 邪 で 性 悪 だ っ た が、 日 が な 一 日 魔 法 を 使 っ た り 悪 企 み を 考 え た り で、 そ う し た 時 に し ば し ば、 ま た、 た く さ ん 大 き な 声 で 呪 文 を 唱 え た か ら、 娘 の ケ ー ト ヒ ェ ン は 気 づ か れ ず に 幾 つ か の ち ょ っ と し た 魔 術 を 覚 え込み、それをごくごく秘密にしておいた。 そうしたある晩のこと、 婆様はまたしても二人の、 い や も う な ん と も 綺 麗 な 子 ど も た ち を 案 内 し て 来 た。 男 の 子 と 女 の 子 で、 見 れ ば、 兄 き ょ う だ い 妹 で ((( ( 、 そ れ も 豊 か な 家 の 子 だ っ た。 二 人 と も 森 の 中 で 迷 っ て い る と こ ろ を 婆 様 に 見 つ か り、 こ こ へ 連 れ て 来 ら れ た も の で、 婆 様 は、 あ た し が ご 両 親 の と こ に 連 れ て っ て あ げ よ う ね え、 と 言 っ た わ け。 着 て い た 見 事な衣装を婆様が剥ぎ取り、 代わりに 襤 ぼ ろ 褸 を 纏 まと わせ、
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 暗い小部屋に閉じ込めたので、 騙 だま されたんだ、とこの子たちは悟ったのだが。もっとも、壷になみなみ一杯の鹿の乳 ──これはとっても 美 お い 味 しかった──と一切れの黒 麪 パ ン 麭 ─ ((( ( ─これはそれ ほ ど美味しくなかったけれど、結局やっぱり 平らげた──を 御 ご 飯 はん にもらいはした。 翌朝婆様は朝早くからもうよたよた森へ出掛け、牝鹿たちを手招きした。魔女が特によく知っていて、こりゃいい、 と思っている 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 の一家があって、鹿の殿様と鹿の奥方と二匹の仔鹿の 和 わ こ 子 たちは仲睦まじくしょっちゅう森で一 緒にいたが、この一家、性悪な婆様がいつも怖くてならなかった。なにせ、一家は全員身動きできなくされ、性悪な 魔女に母乳を奪われ、そのため、仔鹿たちはたっぷり呑めたためしはなく、肥え太ることができなかったのだからね。 そ れ が し の こ の 枝 角 を 婆 ばばあ め の 瘠 せ っ こ け た 体 に ぐ っ さ り 刺 す こ と が で き れ ば な あ、 と 牡 鹿 は よ く 考 え た し、 牝 鹿 も 婆様に幸多かれなんて祈りっこなかった──でも鹿の 夫 め お と 婦 の願いはどれもこれも何の役にも立たなかった。婆様が森 に行っている間に、ケートヒェンは例の小部屋に忍び寄り、扉の隙間から囚われの哀れな子どもたちを 覗 のぞ いた。子ど も た ち は ひ ど く 心 を 痛 め て 溜 息 を つ い た り 泣 い た り し て い た。 そ こ で ケ ー ト ヒ ェ ン は 訊 い て み た。 「 あ な た た ち は 一 体 だ あ れ、 気 の 毒 に ね え 」。 ─ ─「 ぼ く た ち は あ る 国 の 王 様 の 子 た ち な の。 あ あ、 自 由 に し て 頂 戴。 ぼ く の お 父 様 が お 礼 を し て く だ さ る か ら 」 ─ ─ そ う 王 子 が 言 っ た。 「 そ し て わ た し の お 母 様 も ね 」 ─ ─ そ う 小 さ な 王 女 が 言 っ た。 そ れからこうも付け加えた。 「あなた、わたしたちのお姉様にもなってよね、わたしのお部屋の絹の寝台で眠ってよね、 そ れ か ら わ た し、 あ な た に と っ て も す て き な 黄 き ん 金 の 縫 い 取 り し た 服 を あ げ る わ、 わ た し た ち を 助 け て、 ど う か 助 け て 」。 ─ ─ ケ ー ト ヒ ェ ン「 ち ょ っ と 辛 抱 し て て よ ね、 可 愛 い 王 様 の 子 ど も た ち。 わ た し、 き っ と や っ て み せ る。 救 い 出す手を見つけるわ」 。 翌朝、まだ夜の明けやらぬ時刻、気立ての好いケートヒェンは魔法を使った。急いで寝床を出ると、それに息を吹
き掛けて 低 こ 声 ごえ でこう唱えた。 「可愛いちいちゃな寝台さん、わたしの代わりにしゃべってね、 わたしが行ってしまったら、わたしの代わりにわたしになって」 。 そ れ か ら 自 分 の 衣 装 櫃 びつ に ((( ( も、 階 段 に も、 台 所 の 竈 かまど に も 息 を 吹 き 掛 け、 お な じ 呪 文 を 唱 え た。 こ う や っ て か ら 王 様 の子どもたちが囚われている厳重に閉ざされた小部屋に行き、 開 シュプリング・ヴルツェル 錠 根 ─ ((( ( ─これはかねて婆様が容器棚に置いて おいたのだが──を錠に当てて、こう唱えた。 「 閂 かんぬき 、閂、閂ちゃん、 開いて、出入りをさせとくれ」 。 すると錠も閂もたちどころにがちゃんと開いたので、ケートヒェンはすぐさま王様の子どもたちを連れ出し、森へ 逃げ込んだ。 婆様は目を覚ますと、娘に声を掛けた。 「ケートヒェン、起きて火を 熾 おこ しな」 。──すると寝台から返辞があった。 「わたし、とっくに起きてるわ、 すぐお台所へ下りてきます」 。
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 そ こ で 婆 様 は 横 に な っ た ま ま で い た が、 し ば ら く 経 っ て も 何 も 物 音 が 聞 こ え な か っ た の で、 ま た 叫 ん だ。 「 ケ ー ト ヒェン。一体どこにいるんだい、この怠け者」 。──「すぐによ、すぐに」と衣装櫃から返辞があった。 「わたしは 櫃 ひつ に腰掛けて、 靴下留めを結んでいるの」 。 こ う し て し ば ら く 時 間 が 経 っ た が、 家 の 中 で は 何 も 動 か な い。 そ こ で 婆 様 は 腹 を 立 て、 「 ケ ー ト ヒ ェ ン、 こ の あ ま っちょ。一体どこにいるんだい」と金切り声を挙げた。すると階段から声が響いて来たんだよ。 「すぐに行きます、飛んでくわ。 もう、ちゃんと階段にいますもの」 。 婆様はもう一度安心した──けれどもそれから ほ んとに随分経ったが、またしてもしいんとしたまんま。そこで体 を起こしてがみがみ叱り、があがあ罵った。すると竈の方から応えが来た。 「なんでそんなに 悪 あくたい 態 をつくの、 お台所の竈の傍に、わたし、とっくに来てるのよ」 。
さはさりながら台所も家全体も死んだようにひっそりかんと静まり返ったまんまだった。とうとう婆様は完全に堪 忍袋の緒が切れて、寝台から飛び出し、急いで着物を着込むと、ケートヒェンを情容赦もなくぶちのめしてやろう、 と箒の柄をおっ取った。しかし、部屋から出てみると、ケートヒェンはどこにもおらず、姿も見えず、声も聞こえぬ。 そしてなんともけっこうなことに、婆様にとってはなんともけしからぬことに、王様の子どもたちも消えてなくなっ ていた。さあ、それを知った時かんかんに腹を立てた性悪婆様がやらかした魔女の跳 躍 ((( ( をきみたちに見せたかったな あ。魔法の指環は、王様の子どもたちを連れて逃げたケートヒェンの行方を教えたので、婆様は怒り狂って三人の跡 を追ってまっしぐら。森に入った子どもたち三人は と い う と、 そ こ で 奥 方、 若 様、 姫 御 と ご 一 緒 の 殿 エーデルヒルシュ 様角鹿 に ((( ( ばったり出くわし、大急ぎで自分たちの 災難と逃げ出したことを物語り、相手方の高貴な心 を大いに揺さぶったので、鹿たちは、できる限りの ことをして助けようと心意気を見せた。優しい鹿の 奥方は、三人とも乗せて森の彼方の王城まで運んで あげましょう、と子どもたちに背中を提供してくれ た。殿様は和子の仔鹿たちに、 木 こ 叢 むら の奥へ戻るよう 指図し、自分自身は道端のこんもり茂った葉蔭に潜 んで、婆様が傍を走り過ぎたら、指環を目にしない よう用心して、跳び掛かって突き倒そうと構えた。
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 実 際 の と こ ろ 間 も な く 婆 様 が 全 速 力 で す っ 飛 ん で 来 た。 か ん か ん に 腹 を 立 て て い た も の だ か ら、 己 おのれ の 姿 が 見 え な いようにするのをすっかり忘れ、指環を嵌めた指を高く掲げもせずにいたが、突然大きな、堂堂たる鹿の枝角がその 体と甚だ複雑に 縺 もつ れ合い、その際枝角の一本が激しく婆様のその指を 掠 かす めたので、魔法の指環が指から外れ、その枝 角に嵌まり込んだ。そこで 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 はあっと言う間に婆様魔女──指環の魔力でこちんこちんに身動きできなくなって しまっていた──を角に引っ掛けたまま、置く露繁き草の上に優しい牝鹿の奥方が残した足跡を追って疾駆して行っ た。奥方の牝鹿の方はその間にもう王城に到着、迷子になっていた子どもたちと二人を救った好い子のケートヒェン は大喜びの王様と王妃様に迎えられていた。──その時一同は、例の婆様が突然堂堂とした 殿 エーデルヒルシュ 様角鹿 の枝角にぶらぶ らと引っ掛けられて運ばれて来たのを見てびっくり仰天した。でも 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 はためらうことなくお城の池にどぶんと跳 び込み、頭ごと水に潜った。そしてまた浮かび上がると、角の重荷はなくなっていた。また、魔法の指環も 水 みなそこ 底 に沈 んだままだった。鹿の 夫 め お と 妻 は森の 愛 いと し子のところへ帰って行き、もうだれからもお乳を奪われなくなったのをとても 喜んだ。ケートヒェンはというと王様の子どもたちの許に留まり、絹の可愛い寝台で眠り、黄金の縫い取りの可愛い 服を 纏 まと い、王様の子のような扱いを受けた。 解題 口頭伝承による。 A T 三一三「呪的逃走」
The Magic Flight
。
原題
四六
修道士
と
小鳥
昔むかしある修道院に年若な修道士がいた。名はウル バ ーヌ ス ((( ( 、ごく敬虔で勤勉、修道院の図書 室 ((( ( の鍵の管理を委 ねられていた。修道士は注意深く蔵書の番をし、自分でも少なからぬ数の美しい本を書き、他の書籍や聖句をどっさ り 研 究 し た。 そ う し た 折 使 徒 ペ ト ル ス の 詞 ことば 「 神 の 御 み 前 まえ に て は 千 ち 年 とせ は 一 い ち じ つ 日 の ご と く、 ま た 一 夜 や 警 けい 時 じ の ((( ( ご と し ((( ( 」 を 見 つ けたのだった。若い修道士にしてみればそんなことは全くもってありえないと思われ、信じたくもなければ、信じる こ と も で き ず、 そ の た め 重 い 疑 惑 に 苛 さいな ま さ れ た。 そ う し た あ る 朝、 修 道 士 は 黴 かび 臭 い 図 書 室 か ら 出 て、 下 の 明 る く 美 しい修道院の庭に入った。その庭には色鮮やかなちいちゃい森の小鳥が降り立って穀粒を探し、大枝へ飛び上がり、 夜 ナハティガル 鶯 の ((( ( ように綺麗な声で歌っていた。また、この小鳥、全然物怖じせず、修道士の近くにも寄って来たので、ぱっ と 捉 つか まえてやりたかったくらいだったけれど、枝から枝へと逃げてしまい、修道士はしばらく後を追ったもの。そう すると小鳥はまたもや高く朗らかな声で歌った。若き修道士は修道院の庭を出て森の中へと入り、なおもしばらく追 い回したが、小鳥は一向捉まりはしなかった。とうとう止めることにして、修道院へ戻って行くと、なんと目にした も の は 何 も か も 別 物 に 思 わ れ た。 な に も か も、 数 数 の 建 物 も 庭 も、 ず っ と 広 く、 大 き く、 立 派 で、 丈 が 低 く 古 く 矮 わい 小 しょう な 修 道 院 教 会 の 代 わ り に は 尖 塔 が 三 つ も あ る 壮 麗 な 大 聖 堂 が 立 っ て い た。 修 道 士 に は な ん と も 奇 妙 に、 と い う よ り、魔法の仕業のように思えた。そして修道院の門に近づき、おずおずと呼び鈴の 紐 ひも を引くと、まるっきり顔に覚え のない門番修道士が姿を現したが、この門番は仰天して後ずさった。それから修道院の墓地を歩いて行くと、たくさ ん、たくさん、見た記憶のない数数の墓石が並んでいた。それから仲間の修道士たちに歩み寄ると、皆どぎもを抜か れて身を避ける。修道院長だけが──もっともこれはウル バ ヌスの院長ではなくて、年若な別人だったが──その場武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 を動かず、ただちにキリスト 磔 たっけい 刑 像を突きつけ、こう叫ん だ。 「 十 字 架 に 架 け ら れ し 御 おんかた 方 の 御 み な 名 において、亡霊よ、 汝 なんじ はそも 何 なんぴと 人 なりや。して、 死せる者たちの穴を逃れ出で て、われら生者の許に何を探 さんといたすぞ」と。 これを聞いた修道士は全身 に 慄 おのの き が 走 り、 老 人 が よ ろ めくように足をよろめかせ、 視線を地面に落とした。する となんと、腰帯のところまで長い銀白の髯が垂れているではないか。その帯には格子の 嵌 は まった数かずの書棚のため の鍵束が今なお下がっていた。不思議な 余 よ そ 所 者と思われたこの男を修道士たちは恐るおそる修道院長の安楽椅子まで 連れて行った。そこで男が若い修道士の一人に図書室の鍵を渡すと、その修道士は部屋を開け、一巻の年代記を持ち 出して来た。これにはこう記されていた。三百年以前修道士ウル バ ーン、痕跡を残すことなく 行 ゆくかた 方 知れず。 逃 とう 竄 ざん せ し ((( ( や 禍 まが つ 事 ごと に 遭 遇 せ し や 不 明、 と。 「 お お、 森 の 小 鳥 よ、 あ れ が そ な た の 唄 だ っ た の か 」 と 余 所 者 は 吐 息 を つ い て 言 っ た。 「 わ た し が そ な た の 後 を 追 い、 そ な た の 歌 声 に 耳 を 傾 け た の は 三 分 足 ら ず。 そ れ な の に そ れ か ら 三 世 紀 が 経 っ た
とは。そなたがわたしに歌ったのはわたしには分からなんだ永遠についての唄。今はよう分かる。して塵の中に腹 這 ば いて神を崇敬したてまつる。自らも一粒の塵たる身が」 。言い終えて、 頭 こうべ をうなだれると、その肉体は崩れて小さな 灰の山になった。 解題 フリードリヒ・キント Friedrich Kind により韻文に移された 宗 レ ゲ ン デ 教伝説 風 昔 メルヒェン 話 Legendemärchen による。 A T 四七一 A 「修道士と小鳥」
The Monk and the Bird
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原題
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号
四七
七匹の仔山羊
解題 原題Die sieben Geißlein.
KHM
五「狼と七匹の仔山羊」
Der Wolf und die sieben Geißlein
四八
犬の難儀
犬が一匹いた。腹を空かせ、沈み込んで、野原に寝っ転がっていた。その時頭上で一羽の 雲 ひ ば り 雀 が有頂天の唄を甘い 声 こわ 音 ね で 囀 さえず っ た。 こ れ を 聴 い た 犬 い わ く「 あ ー あ、 お ま え っ て 幸 せ な 小 鳥 だ な あ。 な ん と も 楽 し そ う だ な あ、 な ん と も甘い歌声だなあ、なんとも高いとこまで飛ぶもんだなあ。ところがおいらと来た日にゃあ──どうして嬉しがれよ う。飼い主はおいらを追い出して、後ろで扉を閉めやがった。おいらはびっこで病気、食い物をとっ 捉 つか まえることな んざできない。これじゃここで飢え死にせにゃならん」 。 腹ぺこの犬がこう嘆いているのを耳にした雲雀はその近くまで飛んで来て「可哀そうにね、犬さん。あんたが辛が ってるのが気の毒で堪らない。力を貸してお腹を一杯にしてあげたら、ありがたく思ってくれるかな」と言った。 「どうやってだね、雲雀の奥さん」と犬が力のない声で訊くと、雲雀が返辞。 「 ほ ら、あそこに子どもが一人やって 来るでしょ。あの子、あそこのお百姓のとこへお弁当を持ってくんだわ。あたし、あの子がお弁当を下に置いてさ、 あたしの後を追っ掛けるようにしてみるから、その隙にあんた、傍へ寄って、 乾 チ ー ズ 酪 と 麪 パ ン 麭 を食べて、ひもじいのを鎮 めるといいわ」 。 犬がこの親切な申し出に感謝したので、雲雀は子どもの方に飛んで行き、おちょくり始めた。その前をちょんちょ ん歩いたり、頭の上や脇で羽ばたきしたり。とうとう子どもは、この雲雀、あたい、どうしても捕まえるんだ、と考 えた。ことに雲雀が羽根が片っ 方 ぽ 利かないふりをし、ちいちゃい翼の一つを折れたみたいにだらりと下げたもので。 で、子どもは何度か 摑 つか み掛かったが、片手ではどうしても駄目だったので、食べ物が入っている包みを下に置き、翼 を片っ方地面に突きながら前をずうっと飛んでいる雲雀の後を走って追い掛けた。その間に犬はびっこ引き引き包み武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 に近寄り、中に鼻を突っ込んでふん ふ ん や る と、 一 切 れ の 麪 パ ン 麭 と 凝 乳 乾 チ ー ズ 酪 と ((( ( 上等な卵四つが入っていたの で、卵は 茹 ゆ でもせず殻を 剥 む きもせず、 乾 チ ー ズ 酪 は切ったりなんかせずに、むし ゃむしゃ食べてしまい、麪麭はくわ えて持ち去り、こっそり逃げて穀物 畑の中に身を隠した。 犬が取る物を取ったのを見定めた 雲雀は中天高く舞い上がり、陽気に 囀った。おちゃらかされた子どもは 雲雀に悪態をついたけれど、包みが 空っぽなのを見つけた時にはいやも うなおさら。泣きながらおっ 母 か さん の 許 もと へ帰ったこの子がぶたれかどう かは知らないけど、まあ何か似たような目に遭ったんだろうねえ。 雲雀は犬のところに飛んで行き、さて具合はどう、と訊ねた。犬は 篤 あつ く礼を述べ、こんな幸せなことはこれまでな かった、と言った。 「だけどさ、も一つだけ、大好きな雲雀さん、まだお願いしたいことがあるんだ」と犬。 「満腹す
ると、楽しみたくなるもんだろ。頼むよ、なんか話をしてくれや、それ聴いて、おいら、ちっとばかり笑って愉快に なりたいや」 。 「 い い わ よ 」 と 雲 雀。 「 あ た し に 随 つ い と い で 」。 で、 雲 雀 が 先 立 ち で 飛 び、 犬 は そ の 後 に 随 い て 行 く と、 あ る 納 屋 に 着いた。その屋根は地面から簡単に上がれた。雲雀は犬に、 攀 よ じ登って下をご覧、と言った。なにしろ屋根は 傷 いた んで いて、穴が開いていたから。下の 打 だ 穀 こく 場 ば で ((( ( は二人の禿頭が 殻 から 棹 ざお を振るってい た ((( ( 。すると雲雀は素早く一人のつるっ 禿 ぱげ の上に止まった。もう片方が、雲雀をとっ捉まえようと、素早く手でそこをぴしゃりとやったが、利口な小鳥はもっ と機敏で脇に飛び去った。 「 お い、 相 棒、 な ん の つ も り だ。 な ん だ っ て わ し を な ぐ る 」 と 最 初 の 禿 頭 が 二 番 目 を 詰 なじ っ た。 こ ち ら は、 小 鳥 が お ぬ し の 頭 に 止 ま っ た か ら よ、 そ い つ を と っ 捉 ま え よ う と 思 っ て な、 ぴ し ゃ っ と や っ た ん だ が、 痛 か っ た の な ら 済 ま な い、 と 弁 解 し た。 そ う 言 っ た ば か り の こ の 男 の つ る っ 禿 ぱげ に 雲 雀 が 止 ま っ た の で、 も う 一 人 が す ぐ さ ま し た た か に な ぐ り つ け た。 こ の 頭 が 硝 ガ ラ ス 子 で で き て い た ら き っ と 木 っ 端 微 塵 に 砕 け た ほ ど に。 こ の 男 は 少 なく と も 物 凄 い 声 で な ぐ っ た 男 に う な り、 た だ ち に 悪 口 雑 言 が お っ 始 ぱじ ま っ た。 そ し て 殻 竿 使 い 両 人 は 持 っ た 殻 竿 を 投 げ 捨 て、 互 い の 髪 に 摑 み 掛 か っ た。 も っ と も 二 人 と も 髪 の 毛 は な か っ た か ら、 髪 の 毛 を 毟 むし り 取 る わ け に は 行 か ず、 毟 る 代 わ り に 血 の 流 れ るほ ど つ る っ 禿 を 引 っ 掻 き 合 い、 小 突 き 合 い。 かく し て 禿 対 禿、 引 っ 掻 き っ こ 対 引 っ 掻 き っ こ が 進 行、 耳 も 引 っ 張 り っ こ と い う あ り さ ま。 そ こ で 犬 は 笑 っ て、 笑 っ て、 腹 が 痛く な るほ ど、 居 て も 立 っ て も い ら れ な いほ ど 野 の 放 ほう 図 ず
武蔵大学人文学会雑誌 第 41 巻第 3・4 号 に笑ったので、大笑いのあげく屋根からもんどりうって下へ落っこちた。落ちたのは丁度殻竿使いたちの禿頭の真上 だったので、連中、頭に毛が生えたかと疑い、なにがなんだか分からなかった。この犬、目方があって、そういう種 類だったから。でもそれからすぐさま一致団結して犬に怒りを転じに掛かった。殻竿使いが打つのはお手の物、打っ て打って打ちのめしたから、犬はやっとこさっとこ納屋の壁の穴と垣根を抜けて逃げ出したが、大笑いなんぞできれ ばこそ、耳が聞こえぬ、もう目も見えぬ、といったあんばい。垣根の向こうの草の中にぐんにゃりぶっ倒れていると、 そこへ雲雀が飛んで来て、 「 御 ご 前 ぜん 様、さてご機嫌はいかがでいらせられますか」と訊いたもの。 「 あ い さ、 雲 雀 の 奥 さ ん、 お い ら 全 く 充 分 さ ね。 徹 底 的 に の さ れ ち ま っ た。 誓 っ て 言 う け ど、 お い ら に ゃ も う 背 中 なんざない。殻竿使いのやつらが生きながらおいらの毛皮を剥いで、 鞣 なめ しちまったもんな。生き長らえようってなら、 ど う し て も 外 科 医 が 要 り 用 だ よ う 」。 ─ ─「 は い、 は い、 分 か っ た、 安 心 お し よ。 な ん と か 都 合 の つ く の を 連 れ て 来 て あ げ る 」 と 雲 雀 は 応 じ て 飛 び 去 っ た。 間 も な く 一 匹 の 狼 が 見 つ か っ た の で、 こ う 話 し 掛 け た。 「 狼 の 旦 那 さ ん、 食 欲なんかまるきりお持ちじゃないんでしょうね」 。 「ああ、雲雀の奥さん」てのが返辞。 「そういうことでござんしたら、わっちゃあ狼の食欲ってやつでお役に立てま すがな」 。 「じゃあね、ありがたく思ってくださるんなら」と雲雀は言葉を続けた。 「太った犬がいるところを教えてさしあげ ますわ。あなたから ほ とんど逃げられっこございますまい」 。 「 お お、 高 貴 な 王 妃 様、 な ん と も お 恵 み 深 く て い ら せ ら れ ま す な あ 」 と 狼 は お 世 辞 た ら た ら で に た に た 笑 い、 舌 な めずりをした。雲雀は狼の先に立って飛んで行き、狼はその後にくっついて行った。さて、犬のところに到着すると、 雲 雀 は 犬 に こ う 話 し 掛 け た。 「 お 仲 間 さ ん や、 眠 っ て る の。 お 医 者 に 会 い た く な い の か な。 起 き て ご 覧、 あ そ こ に お