ネットワーク上のコミュニケーション特性を考察・自覚する「情報C」の教材開発および授業実践に関する研究
162
0
0
全文
(2) 次. 目. ・﹁1﹂13﹄碍︻U. 第1章. 本研究の背景と目的...... 1−1. 急速な普及をみせたインターネット...... 1−2. 普通教科r情報」における情報モラル教育...,.. 1−3. ネット上のr影」に対処するための学習コンテンツ.. 1−4. 本研究の目的..,.. 第2章教科「情報」における情報モラル教育の現状と課題.. .,..6. 2−1 本研究の対象とする「影」の特定....... 6. 2−1−1 インターネットの「光」と「影」...... 6. 2−1−2 ネット詐欺......,,. 7. 2−1−3 出会い系サイト,..... 9. 2司一4 自殺サイト....、,. 10. 2−1−5 本研究の対象とするr影」.. 13. 2−2 「影」へ対処するいくつかの方法... 14. 2−2−1 匿名性排除による対処...... 14. 2−2−2 技術による対処.... 15. 2−2−3 法制度による対処..,. 15. 2−2−4情報モラル教育による対処....,. 17. 2−2−5 情報安全教育による対処.... 20. 第3章情報安全教育を重視した授業の構想....... 3−1 認知科学の知見から見た罠に陥る原因.. 3−1−1 ヒューリスティクス..,.,.. 3−1−2スクリプト.... 3−2 情報通信ネットワークにおけるコミュニケーション特性の定義. 3−2−1 コミュニケーションー般の仕組み,...... 3−2−2 ネットワークにおけるコミュニケーションの特性、,... 3−2−3情報通信ネットワークにおけるコミュニケーション特性..、..、. 3−3 教科書におけるコミュニケーション特性の取扱い.,.. 3−3−1 r匿名性」に関する取扱い.,,....、...... 一. 一.
(3) 3−3−2 r文字情報」に関する取扱い..,. 3−3−3 「密室性・親密性」「自己開示性」に関する取扱い... 3−4 生徒間の相互作用を重視した内的体験覚知学習の構想.. 3−4−1 コミュニ.ケーション特性の理解による「影」への対処. 3−4−2 事前調査の実施および結果、.... 3一牛3授業の構想,... 3−5 Webコンテンツの構築.、..... 3−5司 学習環境構築の方針...,. 3−5−2 授業用教材の開発.,.... 3−5−3 社会的構成主義に基づく学習環境............,. 第4章実験授業とその分析..、.,.......、.,.,....、............56. 4−1 実験授業の内容..... 56 4−1−1 実験授業1時間目一思い込みを自己内省する場面一...,... 56. 4−1−2 実験授業2時間目一伝達手段が制限されたコミュニケーションー..... 62. 4一1−3 実験授業3時間目一匿名の相手とのコミュニケーションにおける心理一,68 4−1−4 実験授業4時間目一心理の違いが現れた文字表現一....。 77 4−1−5 統制群の授業..... 81. 4−2 事後調査および結果,..... 83. 4−2−1 1,2時間目の授業終了後の調査、..、 83 4−2−2 3,4時間目の授業終了後の調査.,....., 86. 4−3 テストおよび結果., 89 4−3−1 テストA「誤解の無い正しい対処ができるか」.,.、..... 89. 4−3−2 テストB「知らない人からのメールに正しく対処できるか」..... 92 4−3−3 テストc rメール内容から不審な点を見抜けるか」....、......,. 94. 第5章考察および今後の課題,.. .. 99. 謝辞、.. ..102. 引用・参考文献(引用・参考URLおよび注釈を含む). 参考資料1(事前アンケート その1). 一. 申. 、..103 、.109.
(4) 参考資料4 (事後アンケート その2) 参考資料5. (授業配布プリント),. 参考資料6 (テストC)..,.,.,.、、.. 参考資料7. (プログラムソース)...... 一. 一. 1. り乙︻U直U7り乙︻U. 参考資料3 (事後アンケート その1). ︷ ー1− 乙り乙 雇 1 1ー −1り − 1 . 参考資料2 (事前アンケート その2).
(5) 第1章本研究の背景と目的 1−1 急速な普及をみせたインターネット インターネットは、コンピュータの進化と普及という日常生活への浸透と相まっ て、社会の情報化を急激に加速させ、我々を取り巻く日常生活にも大きな変化をも たらした。. インターネットの始まりと言われるARPANETは、1969年に軍事目的でアメリ カの4大学・研究所(カリフォルニア大学ロサンゼルス校、スタンフォード研究所、. カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ユタ大学)を結んだものであった。日本で は、3大学(東京大、慶応義塾大、東京工業大)を結んだUUCP(Unix・to・Unix CoPy). というプロトコルを用いたJUNETが1984年に始まり、1986年に海外とも接続さ れた。その後、コンピュータの小型化・高性能化・低価格化が進み、1992年の商 用インターネット接続サービス開始、1993年のパソコン通信とインターネットの. 接続、1994年の「100校プロジェクト」開始、1995年「Windows95の発売」に よる家庭へのインターネットの爆発的普及と、インターネットは急速に身近なもの. となった。また1995年に発生した阪神淡路大震災では、主だった通信手段が閉ざ される中、安否確認にインターネットが利用され、その将来性が注目された。1996. 年には1000校プロジェクトとも言われる「こねっとプラン」がスタートし、教育. におけるインターネットの利用が大きく注目されるようになった。1998年には. CATV回線を利用したサービスが開始され、1999年にはADSL接続によるサービ スと、NTTドコモによるi・modeサービスが始まるなど、通信回線の高速化と通信. 端末の小型化がインターネットの普及に更なる拍車を掛けた。近年では、FTTH接 続も加わりブロードバンド接続の高速化・低価格化が進み、無線L A喪スポットの. 増加、I P電話による低価格通話の実現など、大量かつ瞬時に情報伝達・情報収集 が可能となった。. 2001年1月には、「5年以内に世界最先端のIT国家となる」ことを目指した 「e−Japan戦略」が打ち出された84)。その後基盤整備から利活用へと転じ、医療、. 食、生活、行政サービスなど先導的7分野におけるI T活用の促進に向けて、政策 的な取り組みが繰り広げられるre・Japan戦略II」へと展開し、現在に至っている。. 教育においても、情報化が推し進められ、2004年3月時点で公立学校へのインタ ーネット接続が99.8%にまで高められた。さらに2004年12月、総務省はru・Jap段n」. 政策を策定して、2010年を目標に日本を世界最先端のrユビキタスネット社会j へと発展させていくことを目指している85)。 一1一.
(6) インターネット上には、多くの情報が存在する。個人という側面から「情報jを 捉えると、その英語rin/form/ation」が文字どおり示しているように「(心の). 内側に/形作られた/もの」と考えることができる。すなわち、情報を形作る主体 はその人である。したがって、形作られたもの(情報)を用いて、人は判断したり、. 観賞したり、価値を感じたり、その他、あらゆる思考、行為に用いる。このような 意味では、インターネットの普及によってではなく、情報は昔から人とともに在っ. たといえよう。ではなぜ、現代が情報化社会なのであろうか。それは、現代社会は 情報を扱う「機械」を人類が手にした社会である、ということができる。もちろん、. 身振り、言葉、それに文字、テレビ、ラジオも情報を扱う道具であるが、情報機械 であるデジタル・コンピュータとインターネットの出現により、我々が情報を扱う. 効率は飛躍的に高まり、同時に、伝達・表現の手段を得たことから、コミュニケー ションの可能性が広がっているのである。. しかし現代の情報化社:会は被害や危険との悪戦苦闘の時代である。安全に資する. 技術の開発、法制度の整備、監視、加えて、情報モラルの教育が必要となった所以 である。すでに、この社会はコンピュータとインターネットに漬かっていると言え よう。社会生活のために情報教育が必要であることは多くの人が認めている。そこ. では、人間の自由を損ねないことも重要であり、匿名で情報発信できることにも意 義がある反面、争いを惹起したり騙されたりするなど人に直接被害が及ぶ危険性も. ある。そのようなことから現代では、少なくとも交通安全教育のような情報安全教 育が重要、と考える情報教育の研究者も多い。他方、学習指導要領では情報教育の. 実施の観点から、情報化に伴う恩恵の面と負の面を「情報化の光と影」と端的に表. 現している。この表現は情報科学的にも認知科学的にも正確なものではない。しか し、教育実践の場では汎用しやすい表現である。したがって、本研究でもこの表現 を用いて研究を進めることにする。. インターネットの普及を「光」の部分の拡大と見るならば、一方「影」の部分も. 急速に拡大している。狸褻画像の掲載、不正アクセス、ウイルスの増加、チェーン メール、個人情報の流出、薬物等売買、著作権侵害、出会い系サイトが関わる事件 など、事件・事故・トラブルはあとを絶たない。情報化社会の進展する中で、イン ターネットの肥大化、回線の高速化、利用者の増加、情報の氾濫といった現象は当 然現れるものであるが、この情報通信ネットワーク(以下、単にネット)社会でのr影」. の存在は、匿名を前提とした環境でもあるため改善は容易ではない。世界各国では. 法整備が進められており、日本でも、2001年1月のr I T基本法」施行を始まり として様々な法律が制定・施行されてきた。しかし法律の整備が対策として十分で あるとは言い切れない。 一2一.
(7) 1−2 普通教科「情報」における情報モラル教育 情報教育学研究会(IEC)・情報倫理教育研究グループは、「影」への対処として「技. 術的な解決」「法制度での規制」「私たち自身が情報倫理の視点を持って克服する」. の3点をあげている1)。このことからも、教育における「情報モラル教育」の必要. 性は明らかである。現在情報教育は主に、高等学校の教科「情報j、中学校の教科 「技術・家庭」の章r情報とコンピュータ」、小学校の「総合的な学習の時間」で 行われている。学習指導要領には、高等学校段階で「内容の全体を通して情報モラ. ルの育成を図ること」と明記され、中学校段階では「情報モラルの必要性について. 考えること」とされている。小学校段階での記載は無く、指導者の判断に委ねられ ているが、情報教育の統一マニュアル(教科書私案)作成の動きも見られる86)。. このように体系化された情報教育であるが、r影」への対処についてはどの程度 扱われているのであろうか。第2章で詳しく述べるが、現在様々な「影」が報告さ. れている。これらのr影」の被害者に、小学生から高校卒業後間もない社会人が含 まれることは多い。高校生が関わっていた2003年2月埼玉県入間市での「集団自 殺(ネット心中)」、2004年6月の長崎県佐世保市で発生した「小6女児殺害事件」、. チャットで知り合った18歳の少女が被害者となった2005年5月の「少女監禁暴 行事件」などである。これらの事件には、いずれもネット上でのチャットや掲示板 を利用したコミュニケーションが関わっている。これに対して学習指導要領には、. ネット上のコミュニケーションに関する学習を、高等学校の教科「情報」で扱うこ. とと示されている。普通教科「情報」においては、「情報Cjが「情報社会やコミ ュニケーションに興味・関心を持つ生徒が履修することを想定」した科目として位 置づけられており2)、ネット上のコミュニケーションにおける適切な態度を学習す. る。また専門教科「情報」においては、基礎的科目として位置づけられている「情. 報産業と社会」および「情報と表現」において、情報モラルの必要性やコミュニケ ーションの意義と重要性を学習する2)。このうち、全ての高等学校で必修とされて. いる普通教科r情報」について、平成15年度筆者がK県O高校において一年を通 じて実際に授業を行ったところ、次のような問題点に直面した。. 普通教科「情報」記載内容の問題点. ①ネット上のr影」に対しては、発信者にならないための内容がほとんどであ り、受信者としてr影」に陥らない態度の記載は乏しい。 ②ネット上のコミュニケーションにおける心理的特性(特性の詳細は第.3章に て述べる)の学習場面が存在しない。 一3一.
(8) 第2章で詳しく述べるが、そもそも「情報モラル教育」は3種類存在すると考え る。現在の情報教育は、ネチケットや著作権などの倫理面を中心とした発信者側の 「情報倫理教育」と、受信した情報の信態性にっいて考える「情報判断教育」がほ. とんどで、ネット詐欺などに対処する心構えや態度といった受信者側の「情報安全 教育」が乏しい。そのため、①②のような問題点が発生すると考える。. 1−3 ネット上の「影」に対処するための学習コンテンツ 学習指導要領に記された学習の補助として、また教科書だけでは十分に学習でき. ない内容を補完するため、そして中学生以下の児童・生徒に対しての情報モラル教 育を行うため、様々な教材・資料が用意されている。様々な事例や対処法をまとめ た冊子3)や、記述式のノート4)、DVDやCDに映像でまとめたもの5)などである。. またWeb上にも情報教育を支援する多くの教材が存在する。各地方公共団体の教 育委員会においては、情報モラル・マナーやネットにおける適切な態度を養うため. の資料等を作成・公開し、保護者、児童・生徒へ被害防止を呼びかけると共に、教 職員に対して授業への利用を促しているところも多い6)。Eスクエアプロジェクト や「情報モラル指導のための授業実践事例」に関する調査研究委員会、財団法人イ. ンターネット協会などによるWebコンテンツは、視覚的にわかりやすい内容とな っており教材としても利用しやすい7)8)9)。村田は、これらの教材を御法度型・F. AQ型・童話型に分類した10)。さらに中橋らは、村田の分類にシミュレーション型・. ツール埋め込み型を加え、教材提示方法・学習方法の分類として図1−1の5つにま とめている11)。. 静的/知識伝達型. 1 御法度型…ルール、マナーを集めたべからず集. 2 FAQ型…代表的な事例について、このときはこうしなさいと 教えるもの. 3 童話型…情報モラルを学べるように構成したお話. 4 シミュレーション型…擬似的な環境において、ツールを自由に 使うことで現実に起こる事例を体験するもの. 5 ツール埋め込み型…実際のツールの操作状況に応じて、適宜情 報モラルに関するチェック事項を提示するもの 動的/体験型 図1・1 提示方法・学習方法の分類(中橋ら2005). 一4一.
(9) 安木は、体験型の学習は知識伝達型の学習に比べ知識習得効果が高いとして、体 験型の学習の有効性を述べている12)。. 以上のように、現在ネット上のr影」に対処するための、様々な学習コンテンツ が開発され公開されている。しかしこれらの教材を学習補助教材として利用する際 には、いくつかの問題点を指摘できる。. 「影」対処のための教材提示方法・学習方法の問題点 ①体験型とは言え、実際に「影」などを体験したわけではなく、あくまでも「仮 想的」体験学習である。そのため、実際に「影」に直面した際に対処できる とは限らないのではないか。. ②これらの教材は予め用意されたものであり、「影」の存在を知ることはでき ても、「影」が身近に存在するという認識には至らないのではないか。. ③これらの教材は過去の事例をもとに作成されたものである。そのため、新た な「影」に対処するためには、メタ的な知識の学習が必要なのではないか。. 1−4 本研究の目的 本研究は、1−1節で述べたような急速に発展してきたインターネットを中心と. する情報通信ネットワーク社会において、1−2節および1−3節で述べた疑問の 解消を目指した教材開発と実験授業による有効性の検証を目的としている。その際、 2−1節に後述するが、ネット上での詐欺、出会い系サイト、自殺サイトなどの「影」. を主な研究対象とし、ネット上のコミュニケーション特有の性質に関する諸研究を. 整理し、これらに基づくとともに、従来の情報モラル教育の不十分な点を明らかに した上で、具体的授業を検討する。. 詐欺など人の心理を悪用する「騙し」は、ネット上に限らず対面を伴う現実の社 会においても頻繁に存在する。しかし、コミュニケーションの伝達情報が制限され たネットを利用することで、対面に比べ容易かつ安価に人を罠に陥れることができ る状況が存在することも事実であり、対面以上に危険な状況が存在する。. 本論文では、これらの状況を踏まえた上での研究内容と研究成果、および今後の 課題について述べる。. なお本研究においては、情報教育の最終段階であり、必修教科である高等学校普 通教科「情報」(以下、単に教科「情報」)に着目し、特に「情報社会に参画する態. 度」の育成に重点を置き、教科「情報jの中では唯一「情報安全教育」を取り扱っ ているr情報C」を研究の分野とする。 一5一.
(10) 第2章 教科「情報」における情報モラル教育の現状と課題 2−1 本研究の対象とする「影」の特定 2−H インターネットの「光」と「影」. インターネットの急速な発展と普及は、情報伝達の効率化と高速化が人々にとっ て日常的になったことからも、多くの「光」を提供してきたと言える。商業の分野 では、オンラインショッピングが消費者と企業の流通形態に変化をもたらし、イン ターネットオークションが個人間の売買を容易にした。労働形態では、自宅や小規. 模な事務所を仕事場にしたSOHO(Sma110f翫eHomeO缶ce)が可能になり、出勤 に起因する時間的・経済的な無駄が省けるようになった。学習形態の変化としては、. 現在多くの大学がネットワーク上の教材を使って学習するe一ラーニング環境を. 整えていることがあげられる。その中の1つである早稲田大学人間科学部通信教育 課程は、入学者の在籍率が高く授業内容に対する評価も高い13)。行政面では、イン. ターネットを利用した選挙投票によって大きく投票率を伸ばしたことも知られて いる14)。. 我々の目常的なコミュニケーションにおいても大きな「光」を提供してきた。以 前の情報伝達は、テレビやラジオ、新聞といったマス・メディアに限られ、個人が. 情報を発信するには制約が多かった。だが高度情報化社会が進展したことで、We. bぺ一ジやブログなど、自ら情報を発信することが可能になり、ネット上での他者 との双方向のコミュニケーションが実現した。また電子メールは、安価かつ迅速な. 情報伝達を提供した。さらに、チャットや掲示板等の利用で、一対多あるいは多対 多のコミュニケーションが可能になった。古代ギリシャの哲学者アリストテレスが 「人間は社会的動物である」と言った15)ように、古代より人間は人との交流を持つ. ことで生きてきた。ネットは、人と人とを結びつける新たな環境を提供しただけで. なく、実社会での交流を苦手とする人に新たな居場所を与え、活動の場を獲得させ ることも可能にした16)。. これらインターネットがもたらすメリットを「光」とするならば、一方ではそれ. に伴う危険性等、いわゆるr影」が存在する。オンラインショッピングやインター ネットオークションでは、事前に商品や販売業者の信頼性を確認しにくいことや、 パスワード、クレジット番号など個人情報の漏洩、詐欺といったトラブルが多いこ となど、取引の安全性確保と法律等の整備が課題である。S OH Oは、対面を伴う. 場面が少ないためコミュニケーションで問題が発生しやすく、また多くの場合が遠. 隔地間であるため業務管理も行いにくい。e一ラーニングでは、学習者側の反応や 一6一.
(11) 理解度の確認が得にくいという欠点が存在する。インターネットを利用した選挙投 票では、個人認証と無記名性の保証という点などを危険性として指摘する声もあが っている。. コミュニケーションにおいても、個人情報の流出やストーカー被害、チェーンメ. ール、コンピュータウイルスを添付ファイルにしてのメール送信、掲示板に執拗な 書き込みを繰り返す嫌がらせなど「影」の問題は尽きない。特に、出会い系サイト. に端を発した事件や、掲示板等での呼びかけによる集団自殺や殺人依頼などは、社. 会的にも大きな問題となっている。2005年4.月に上海で発生した大規模な反目デ モが、ネットでの呼びかけがきっかけだったことからも、全ての人が自ら情報を発 信できるという手段を得たことは、時として驚異的なカを見せつけることになる。 2−1−2∼2−1−4項では、コミュニケーションに関わる3つのr影」を取り上げ、実態 を述べる。. 2−1−2 ネット詐欺. 警察庁によると、サイバー犯罪87)とは「コンピュータ技術及び電気通信技術を悪 用した犯罪17)」のことで、ネットワーク利用犯罪、コンピュータ・電磁的記録を対. 象とした犯罪、不正アクセス禁止法違反を総称したものとしている。図2−1は警察 庁によって集計されたサイバー犯罪の検挙件数である。 (件). 2200 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200. 口不正アクセス禁止 法違反. ■コンピュータ・電磁. 的記録対象犯罪. 囮ネットワーク利用犯 罪. 0 H12 H13 H14 H15 H16. H16上 H17上. 図2−1 サイバー犯罪の検挙件数(警察庁r平成17年上半期のサイバー犯罪の 検挙及び相談受理状況等について」). サイバー犯罪の件数は年々増加する傾向にあるが、その中でもネットワーク利用. 犯罪は大きな割合を占めている。表2−1のサイバー犯罪の内訳を見ると、平成17 年上半期のネットワーク利用犯罪では、半数が詐欺であり、4分の1が児童買春・ 一7一.
(12) 表2・1 サイバー犯罪の検挙件数(警察庁「平成17年上半期のサイバー犯罪の 検挙及び相談受理状況等について」). 年 名. H12 H13 H14 H15 H16. 不正アクセス禁止法違反 コンピュータ・電磁的記録対象犯罪 ネットワーク利用犯罪 詐欺. 67 44 802 306. 67 63 1209 485. 児童買春・児童ポルノ法違反(児童買春). 8. 117. 113. 128. 2. 10. 154 80. 103 86 31. 児童買春・児童ポルノ法違反(児童ポルノ). 青少年保護育成条例違反 わいせつ物頒布等 著作権法違反 商標法違反. 145 55 1649. 514 268 140 70. 521 269 102 120. 109. 113. 66 37 33 27. 87. 30 81. 40 42 167. 207. 95 38 46 258. 913. 1339. 1606. 1849. 11. 脅迫. 17. 名誉殿損 その他 合 計. 105 30 1471. 142 55 1884 542. 370 85 136 121 174 82 58 26. H17上 H16上 198 66 21. 976 247 241 33 79 70 96 45 17. 23 1391 672 143 68 114. 55 77 50 20. 290. 136. 20 172. 2081. 1063. 1612. 12. ※ その他には、覚醒剤取締法違反等の薬物事犯、銃砲刀剣類所持等取締法、売春防止法、児 童福祉法等の違反がある。 ※ ネットワーク利用犯罪の定義. 犯罪の構成要件に該当する行為についてネットワークを利用した犯罪,又は構成要件該当行 為でないものの,犯罪の実行に必要不可欠な手段としてネットワークを利用した犯罪をいう。 例えば,児童買春については,ネットワーク上で連絡を取り合った者同士がネットワーク上にお いて児童買春に合意し,児童買春に及んでいる場合に限って計上しており,青少年保護育成 条例違反についても,これと同様の考え方に基づいて計上している。. 児童ポルノ法違反と青少年保護育成条例違反、児童福祉法違反、売春防止法、児童 福祉法といった児童(児童福祉法で定義される、満18歳未満の者を「児童」と言う). が関わる犯罪である。日本におけるインターネット利用人口が7948万人(2005年 1月調査)18)、世帯普及率が86.8%(2005年1月調査)18)、さらに高校生の携帯電話. 所持率が90%以上(2004年11月∼12月調査)19)という状況で、児童がインターネ ットに接することはもはや当たり前のことである。. 警察庁の統計は検挙件数であり、実際の犯罪件数は数倍から数十倍、被害者数に すれば、それ以上になることは想像に難くない。実際、図2−2にあるように、都道. 府県警察のサイバー犯罪相談窓口等で受理した相談受理件数は、検挙件数の10倍 から35倍にも上る。図2−2の相談受理件数のうち、インターネットオークション. によるものを含めた「詐欺・悪質商法」は、表2−2に示したように平成17年上半 期では全体の75%程度にも上る。このことは、「詐欺・悪質商法」対策の緊急性と 重要性を示している。 一8一.
(13) (件). 80000. ■その他. 70000. 国迷惑メール. 60000 □不正アクセス・コン ピュータウイルス ■名誉i設損・誹講中. 50000. 40000. 傷等 □違法・有害情報. 30000 20000. ■インターネット・オー クション. 10000. 0. 圖詐欺・悪質商法. H12 H13 H14 H15 H16. H16上H17上. 図2−2 サイバー犯罪等に関する相談受理件数(警察庁「平成17年上半期のサ イバー犯罪の検挙及び相談受理状況等について」). 表2・2 相談受理件数において詐欺・悪質商法に関する相談が全体に占める割合 年. 詐欺・悪質商法が全体に占める割合 インターネット・オークションを含む). Hl2 H13 H14 H15 H16 H17上 24.2%. 23.5%. 37.1%. 64.0%. 69.2%. 74.9%. 2−1−3 出会い系サイト. 図2−1および表2−1から、ネットワーク利用犯罪の中では詐欺だけでなく、児童 買春・児童ポルノ法違反や青少年保護育成条例違反の検挙数も高いことがわかる。. 図2−3の出会い系サイトに関係した事件の検挙件数を見ると、ここ数年の件数自体 は減少しているものの、依然として児童が関わっている事件の割合は高い。表2−3. からは、平成13年以降8割の被害者が児童であることがわかる。さらに表2−4よ り、アクセス手段の多くが携帯電話であることと、中学・高校生の携帯電話所持率 が極めて高いこと、そして25.9%もの高校生に出会い系サイトの利用経験がある20). ことから、出会い系サイトが危険な存在であることは明らかである。しかし、高校 生の中には「出会い系サイトも使い方次第。使い方をわきまえれば友だちをつくる 一つの手段」という認識21)もあり、こうしたサイトに対する心構えを含め、対面を. 伴わないネット上での特性を学習する必要性は高い。. 一9一.
(14) (件). 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200. ■その他. 團粗暴犯. □重要犯罪 ■出会い系サイト規. 制法違反 □児童福祉法違反. ■青少年保護育成条 例違反 圖児童買春・児童ポ ルノ法違反. 0. H16上 H17上. H12 H13 H14 H15 H16. 図2−3 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数(警察庁「平成17年上半期 におけるいわゆるr出会い系サイト」に関係した事件の検挙状況について」). 表2・3 被害者の年齢(警察庁「平成17年上半期におけるいわゆる「出会い系サイト」に 関係した事件の検挙状況について」) (単位:人). 年 児童注). H12. H13. H14. H15. H16. 71. 584. 1273. 1278. 1085 84%). H17上 H16上 497 503 80%). 86%). 70%). 77%). 84%). 85%). 31. 173. 244. 232. 204. 122 20%). 14%). 625. 578. 18歳以上. 30%). 23%). 16%). 15%). 16%). 計. 102. 757. 1517. 1510. 1289. 81. ※()は,全被害者に対する割合 注)r児童」とは、18歳未満の者をいう。. 表2・4 被疑者の出会い系サイトヘのアクセス手段(警察庁「平成17年上半期におけるい わゆるr出会い系サイト」に関係した事件の検挙状況について」) (単位:人) 年. 携帯電話 ノミソコン. 計. H12. H13. H14. H15. H16. 59. 714. 1672. 1659. 1519. 57%). 80%). 97%). 95%). 96%). 97%). 94%). 45. 174. 59. 84. 63. 24. 44. 3%). 6%). 43%). 20%). 104. 888. 3%). 5%). 4%). 1731. 1743. 1582. H17上 H16上 666 761. 785. 710. ※()は,全被疑者に対する割合. 2−1−4 自殺サイト. 自殺に関する情報を掲載する、いわゆるr自殺サイト」と呼ばれるWebサイトが 存在する。現実では誰にも語ることのできない死にたいほどの心の悩みをチャット. 一10一.
(15) や掲示板に告白することで、自殺を未然に防ぐ精神的支援を行うものである。しか しチャットや掲示板には、生きることを否定し、自殺を呼びかけ、心中相手を探す. 内容を含んだものも現れる。管理が徹底されたサイトであればよいが、対応の遅れ が、悩みを抱えている人を自殺へと踏み込ませてしまうこともある。. また自殺サイトには、悩みを意識していない人をも引き込んでしまう可能性が指. 摘される。2003年3月に山梨県上九一色村で発生した集団自殺は未遂に終わった が、自殺を図った23歳の男性は「気付いたら仲間に引き込まれていた。」と当初 自殺の意思がなかったことを語っている22)。この男性は当初は自殺志願者を思いと. どまらせるつもりでアクセスしたという。ここには、匿名の相手であってもネット. 上のコミュニケーションでは他者に深入りしやすいという特性の存在が垣間見え る。. 表2−5に、2004年9月からの約1年間に発生した自殺サイト絡み事件の一部を あげた。警察庁によると、平成16年中の自殺者は60歳以上が最も多く、その後は 年齢が下がるほど自殺者数は減少している23)。しかし、自殺サイトが関わっている. 自殺者は表2−5からもわかるように、ほとんどが20代前後である。その中には10 代も多く14歳の中学生も含まれている。. 小学6年生による女児殺害事件のあった長崎県では、「児童生徒の「生と死」の イメージに関する意識調査24)」を2004年11月から12月にかけて実施した(図2−4)。. その中で、「死んだ人が生き返る」と回答した中学生が18.5%にも及び、小学6年. 生の13.1%よりも高い割合であった。また、2005年9月に発生した事件では、犯. 人の男性は、自殺系サイトで集団自殺の話を持ちかけた14歳の中学生と、たった3 目のメールのやりとりの後、殺害を実行している。. 自我が十分には確立されていない思春期の児童・生徒に対して、インターネット. を使った情報入手の簡易さと、他者に深入りしやすいというネット特有の影響は決 圏はい. 圏いいえ. 全体 小学4年 小学6年 中学2年. 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%. 図2・4死んだ人が生き返ると思いますか (長崎県(2005),児童生徒の「生と死」のイメージに関する意識調査). 一Il一.
(16) 表2・5 自殺サイト関連事件(2004/09∼2005/09〉. 2004年9月. 概 要 男女4人(26歳男性、17歳少年、19歳女子高校生、他1名)が集団自殺。 年はインターネットの自殺サイトに書き込みした記録あり。女子高校生 、自殺サイトに自殺仲間募集の書き込みをした記録あり。. 2004年10月. 女性2人(21歳女性、27歳女性)が集団自殺。自殺サイトで集う。. 2004年10月. 男女7人(20歳男性3人、20歳女性、26歳男性、33歳女性)が集団自殺。 ンターネットの自殺サイトの書き込みに応じて集う。 女性4人(21歳女性、24歳女性、28歳女性、34歳女性)が集団自殺を図り. 時期・場所. 玉県皆野町. 奈川県横須賀市. 玉県皆野町. 2004年10月 2004年11月. 遂に終わる。自殺サイトで集う。 女性2人(23歳、29歳)が自殺。練炭を使った自殺であった。2人に接点は. 2004年11月. 男女4人(17歳女子高校生、他3名)が集団自殺。インターネットの自殺サ. 京都奥多摩町. 城県つくば市. 岡県静岡市 2004年11,月 京都練馬区. く、自殺サイトの可能性あり。 トで知り合う。. 男性4人(27歳、29歳、他2人)が集団自殺。4人のうち2入は東京都、茨 県の在住者だった。. 2004年11月. 男性3人(21歳、41歳、23歳)が集団自殺。自殺サイトで呼びかける投稿. 2004年1L月. 男女3人(21歳男性、25歳男性、20歳女性)が集団自殺。3人は自殺サイ. 2004年12月 2004年12月. 男女3人(19歳男子高校生、26歳女性、42歳女性)が集団自殺。3人は、大 県、宮崎県、大阪府の在住者だった。 男女2人(35歳男性、30歳ぐらい女性)が自殺。2人はネットで知り合った。. 2004年12月. 男女3人(20∼30歳くらいの男性2人と女性1人)が集団自殺。練炭を使っ. 2005年1月. 男女3人(21歳男性、25歳女性、28歳男性)が集団自殺。3人は、静岡県、. 2005年2月. 男女3人(52歳男性、29歳女性、34歳女性)が集団自殺。3人は、東京都、. 2005年2月. 男女4人(35歳女性、33歳男性、22歳男性、19歳男性)が集団自殺。自殺. 2005年2月. 男女3人(14歳女子中学生、19歳男性、40歳男性)が集団自殺。3人はパソ. 2005年3月. 男女4人(31歳男性、35歳男性、23歳女性、21歳男性)が集団自殺。4人. 庫県篠山市 岡県福岡市. 分県弥生町. 見つかった。. で知り合った。. 阪府交野市. 梨県三珠町 阜県養老町 岡県東伊豆町. 海道江別市 木県二宮町 木県目光市. 2005年3月. 自殺。. 知県の在住者だった。. 奈川県の在住者だった。. イトに書き込みの記録あり。 ンの掲示板で知り合った。. 、愛媛県、東京都、大阪府の在住者だった。 男女5人(20代の男性4人、女性1人)が集団自殺。練炭を使った自殺。. 賀県高島市. 2005年3月. 男性3人(21歳2名、27歳)が集団自殺を図り27歳男性が死亡。3人は、. 2005年3月. 男女6人(25歳男性、22歳男性、21歳女性、40歳女性、20歳男性、30. 2005年4月. 男女3人(男性30代2人、女性40代)が集団自殺。練炭を使った自殺。. 2005年5月. 男女3人(24歳男性、15歳女子高校生2人)が自殺サイトで知り合い自殺を 画。長野県へ向かう途中で秋田県警に逮捕。 男性3人(33歳男性、31歳男性、27歳男性)が集団自殺。3人は、東京都、. 山県富山市. 奈川県三浦市 玉県秩父市 田県. 2005年5月 庫県中町. 2005年5月. 木県那須塩原市. 2005年8月. 知県豊田市. 2005年9月 阪府堺市. 山県、福井県、東京都の在住者だった。 女性)が集団自殺。6人は東京都、神奈川県、茨城県の在住者だった。. 阪府、京都府の在住者だった。. 男女3人(45歳男性、16歳女性、18歳女子高校生)が集団自殺。練炭を使 た自殺。「自分の意思で集まり自殺する」とのメモが見つかる。 男女3人(28歳男性、17歳女子高校生、20∼30代男性)が集団自殺。練炭を った自殺。. 大阪府堺市の男性が、自殺サイトに投稿していた3人(21歳男性、25歳女 、14歳男子中学生)を殺害。他にも20人以上にメールを送り、9人が返 していた。. ※口は児童または高校生が関わった事件 一12一.
(17) して無視できない。さらに、死に対する誤ったイメージ、ネット特有の親密さと深 入りしやすい危険性を考えると自殺サイトの存在は決して軽視できない。. 2−1−5 本研究の対象とするr影」. ベネッセ・コーポレーションによる「第1回子ども生活実態基本調査報告書19)」. によると、携帯電話の所持率が92%以上(図2・5)に及ぶ高校生が、一日に友達と. メールのやりとりを1回以上する割合は93%以上(図2・6)である。現在はパソコ. ンよりも携帯電話を通じて多くの高校生がネット上のコミュニケーションに接し ており、ほとんど抵抗感はないと言える。 % 100.0. 80.0 60.0. 40.0 20.0 0.0. 小5. 小4. 小6. 中3. 中2. 中1. 高1. 高2. 図2・5 携帯所有率(ベネッセ(2005),第1回子ども生活実態基本調査). 0. 60. 40. 20. 80. 100%. 友だちに送るメール. インターネット. 46.1. 家族に送るメール. 48.4. 家族にかける電話. 友だちにかける電言舌. 36.3 38.3. 図2・6 1目のうち携帯電話をr1回以上使う」割合 (ベネッセ(2005),第1回子ども生活実態基本調査). とのコミュニケーションに関わる「影」が、詐欺、出会い系サイト、自殺サイト. である。これらは、メールやチャット、掲示板を使ったコミュニケーションが手段 一13一.
(18) として用いられている。高校卒業後はさらにネット社会に接する頻度が高まり「影」. の危険性が増すものの、現在の情報教育最終段階は高等学校である。これらのこと. から、ネット上のコミュニケーションに関する学習は、高校生にとって喫緊の課題 であると考えられる。. 以上のことより本研究では、詐欺,出会い系サイト,自殺サイトといったr影」 を主な対象とする。なお本研究では、自殺サイトについても研究の対象に取り上げ るが、自殺を引き起こす原因を探求するのではなく、あくまでネット上で発生する 心理的な変化の危険性を取り上げる。. 2−2 「影」へ対処するいくつかの方法 2−2引 匿名性排除による対処. 2005年6月27日付で共同通信が配信した情報(図2−7)は、ネット社会から匿名 性を排除する方向で総務省が具体策を検討するという内容であった。確かにネット. 上に存在する無責任な発言等は、健全な情報社会の発展を阻害するだけでなく、精 神的・金銭的被害をもたらすことも少なくない。しかし、匿名性による表現の自由 が現実社会の立場に左右されない自由な意見の表現にっながり、ネットカウンセリ. ングなどでは、通常の対面カウンセリングに比べ心を開きやすいなど、匿名性がも たらす「光」も多い。総務省では図2−7の報道後、「ネットの匿名性を排除すべき」. との報道を否定し、「研究会の構成員全員が、ネットに匿名性は不可欠と思ってい る」と述べた。 実名でのネット活用促す総務省『悪の温床』化防止(2005,6,27付共同通信). 総務省は27日、自殺サイトなど「有害情報の温床」ともいわれるインターネット を健全に利用するために、ネットが持つ匿名性を排除し、実名でのネット利用を促す 取り組みに着手する方針を固めた。匿名性が低いとされるブログ(日記風サイト)や. SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト)を小中学校の教育で活用するよう 求め、文部科学省などと具体策を詰める。. 今週初めに発表する総務省の「情報フロンティァ研究会」の最終報告書に盛り込む。. 国内のネット人ロは増加する一方だが、匿名性が高いために自殺サイトの増殖や爆 弾の作製方法がネットに公開されるなど、犯罪につながる有害情報があふれている。 総務省はそうしたマイナス面を排除し、ネットを経済社会の発展につなげていくため には、実名でのネット使用を推進し、信頼性を高めることが不可欠と判断した。 図2−7誤報を含んだ「ネットの匿名性を排除する」という記事. 一14一.
(19) 現在のr影」へ対処する方法は、次の3つに大別される。 ① 技術的な解決方法 ② 法制度で規制をかける方法. ③モラル・マナーなどの情報倫理の視点を養い自ら解決する方法 これらの3本柱のうちいずれかのみに頼るのではなく、それぞれの特性がバランス よく調和され、かつ、インターネットの利点が損なわれることなく情報セキュリテ ィが発展していくことが望ましい1)。これはr影」への対処についても同様である。. 次項からは、本研究で取り扱う「影」に対して、これら3つの視点から現在施さ れている対処を取り上げる。. 2−2−2技術による対処 技術による解決策には、セキュリティの強化、情報の暗号化、認証システムやフ ァイアウォールの構築、フィルタリングソフトの整備、コンピュータウイルス対策. などがあげられる。これらの技術の発達は、不正アクセスやウイルスによる被害な どを防ぐために効果的である。. では、2−1−5項で対象とした「影」への効果はどうであろうか。出会い系サイト. や自殺サイトなどにはフィルタリングソフト25)が一定の効果を及ぼすことが考え られるが、全てのサイトを規制することは不可能であり、一度規制の対象にしても. 定期的に確認を行うなどメンテナンスを行わなければ、アドレスやファイル名等の 変更によって容易に規制を抜けられることになる。またフィルタリングには、ホワ. イトリスト方式と呼ばれる予め許可されたWebぺ一ジのみ閲覧させる方式や、キー ワード/フレーズ方式と呼ばれる予め制限された用語を含む情報を表示させない ようにする方式もあるが、必要とされる幅広い情報収集が損なわれてしまう。これ は、インターネットの恩恵が制限されてしまうことになり、フィルタリングソフト. の規制を自ら解除してしまうことも予想される。このようなことから、出会い系サ イトや自殺サイトについて、完全に規制することは困難であろう。. また、出会い系サイトや自殺サイトで知り合った後のメールのやりとりや、メー ルで送られてくる詐欺など、メールを通じてのコミュニケーションに至っては、フ ィルタリングを介さないものがほとんどであり、技術による規制は困難であろう。 2−2−3 法制度による対処. 2001年1月の「IT基本法」制定以来、ネット上の様々な「影」に対処する法 律が制定されてきた(表2−6)。これらの法整備が「影」の抑制になり一定の効果が. 発揮されていることは明らかである。しかしアメリカで1996年に成立した「電気 一15一.
(20) 通信法」の一部である「通信品位保持法」は、インターネット上に流れるポルノ情. 報から子供を守るという主旨の法律であったが、言論の自由に反するとして1997 年連邦最高裁で違憲判決を受けた。このように、法制度による解決策は、規制の強 化によってネットワーク社:会の健全な発展を阻害するという「諸刃の剣」的な部分. も存在するため、強力かつ絶対的な規制が存在しうるとは言い難い。. また当然のことながら、法整備は既存の「影」に対して策定されるものであり、 法制度の抜け穴を突く新たな「影」が発生することは容易に予想される。このこと 表2・6 ネット上のr影」に関する規制(2005年9月現在) 項 目. プライバシ侵害 迷惑メールの送信. 整備されている法律・規制 プライバシ権(幸福追求権の1っ,憲法13条) 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(02年4月17日公布、 5年改正),特定商取引法(02年改正). 著作権違反. 著作権法(97年改正,99年改正,00年改正). ウイルス. 業務妨害罪(刑法234条),器物損壊罪(刑法261条). 悪徳・悪質商法. 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関す. 法律(99年5月26日公布,04年改正),風俗営業等適性化法(01 改正),特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情. 児童ポルノ掲載. の開示に関する法律(01年11月30日公布) 特定商取引に関する法律(00年11月17目公布),電子消費者契約お び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(01年6月29目 布),特定商取引法(02年改正),古物営業法(02年改正),児童買. 、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律 04年改正). 個人情報. 個人情報保護法(他4法,03年5月30日公布). 架空(アクセス料. 電子消費者契約および電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律 01年6月29日公布),有線電気通信法(02年12月11目公布),. )請求被害. 人確認法(04年12月10目公布). ネット取引トラブ 被害. オークション被害. ネット詐欺被害. 電子消費者契約および電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律. 01年6月29目公布) 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示 関する法律(01年11月30日公布),古物営業法(02年改正) 錯誤(民法95条),売主の蝦疵担保責任(民法570条),詐欺(刑法246. ),消費者契約法(00年5月12日交付,01年改正),携帯音声通. 出会い系サイトの 用. ネット心中掲示板. 事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な 用の防止に関する法律(05年4.月15日公布) インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等. 関する法律(03年6月13日公布) 無し. 用. 不正アクセス. 不正アクセス禁止法(99年8月13日公布). ※ ここでは主に、97年6月の著作権法改正以降のインターネット関連の法整備、法改正 を取り上げたため、民法や刑法による適用は、一部のみ掲載している。 一16一.
(21) は2−1節で述べたように、「詐欺」やr児童買春・児童ポルノ法違反」、「著作権違. 反」などが依然として高い犯罪件数を記していることからも伺える。. さらに詐欺や出会い系サイトは、気付かずに罠に陥ってしまうことがほとんどで あり、そうした「影」に直面した場面では法は大概無力である。. 自殺サイトの取り締まりについては、表現の自由や通信の秘密などもあり、規制. がなされていないのが現状と言えるが、2005年8月電気通信事業者4団体はrイ ンターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン(案)26)」を作成し、. 自殺予告者の情報収集・未然防止をはかる動きが見られる。. 2−2−4 情報モラル教育による対処. 2−2−2項および2−2−3項で述べたように、技術と法制度の整備による対処には必. 然的に限界があり、ネット上のコミュニケーションに関わる「影」への対処として. は、第3の「情報モラル教育」の対処が担う部分が大きい。. この「情報モラル教育」については、1−2節で述べたように発信者側の態度を 育成する「情報倫理教育」と、受信者側の態度を育成する「情報判断教育」「情報 安全教育」の3つに分類されると考える(表2−7)。しかし現行学習指導要領では、 これらを等しく学習できているのか疑問である。. 表2・7 3種類のr情報モラル教育」(文部科学省r初等中等教育に おける教育の情報化に関する検討会」議事概要を参照) 情報倫理教育 情報判断教育 情報安全教育. ネチケットや著作権など、情報技術を使って「悪さをしない」道徳観、倫 にかかわるもの。主に発信者側の態度といえる。. 情報の信懸性を考慮した情報収集の心構えや判断力。主に受信者側の態度 いえる。. ネット詐欺など、r情報技術の悪用から被害を受けない」考え方や態度。 に受信者側の態度といえる。. 現在の学習指導要領に記載されている、情報モラルに関する学習内容を表2−8に. 抜粋し、3種類の「情報モラル教育」のいずれに該当するかを表2−9にまとめた。 これによると、「情報モラル」という言葉が最初に明記されているのは中学校であ. る。その内容は「個人情報及び著作権の保護」であり、ネット上のコミュニケーシ ョンについては、「自分の作り出す情報が他の人々や社会に及ぼす影響などを十分 に認識27)」させるという「発信した情報に対する責任jを学習することになってい る。この学習は、「情報倫理教育」に該当する内容と言える。. 高等学校では、情報A,B,Cいずれの科目を選択するかにもよるが、「情報社 一17一.
(22) 表2・8. 学習指導要領における情報モラル教育に関する内容 (専門教科「情報」については省略してある). 小学校. 第1章「総則」第5「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」2(8) 教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親 み,適切に活用する学習活動を充実するとともに,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切 活用を図ること。. 第1章「総則」第6「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」2(9) 各教科等の指導に当たっては,生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的 に活用できるようにするための学習活動の充実に努めるとともに,視聴覚教材や教育機器などの教 材・教具の適切な活用を図ること。 第2章「各教科」第8節r技術・家庭」第2「各分野の目標及び内容」〔技術分野〕 校 2 内容B情報とコンピュータ(1)イ情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り,情報モラルの必要性に 中. 学. ついて考えること。. 3. 内容の取扱い(2)ア(1)のイにっいては,インターネット等の例を通して,個人情報や著作権の保 護及び発信した情報に対する責任について扱うこと。. 第1章r総則」第6款r教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項」5(8) 各教科・科目等の指導に当たっては,生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積 極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努めるとともに,視聴覚教材や教育機器などの 教材・教具の適切な活用を図るこ1. 。. 第2章r各教科」第10節「情報」第2款r各科目」 第1情報A 情報A. 2内容(2)ウ情報通信ネットワークやデータベースなどを利用した情報の収集・発信の際に起 り得る具体的な問題及びそれを解決したり回避したりする方法の理解を通して,情報社会で必 とされる心構えにっいて考えさせる。. 3内容の取扱い情報の伝達手段の信頼性,情報の信懸(ぴょう)性,情報発信に当たっての個人 の責任,プライバシーや著作権への配慮などを扱うものとする。. 第2章「各教科」第10節「情報」第2款「各科目」 第1情報B 情 報. 2内容(4)ウ情報技術の進展が社会に及ぼす影響を認識させ、情報技術を社会の発展に役立て ようとする心構えについて考えさせる。. B 3内容の取扱い情報技術の進展が社会に及ぼす影響について,情報通信ネットワークなどを活用. 同等当 ナ校. して調べたり,討議したりする学習を取り入れるようにする。. 古. 第2章「各教科」第10節「情報」第2款「各科目」 第1情報C 内容(2)ウ電子メールや電子会議などの情報通信ネットワーク上のソフトウェアについて, コミュニケーションの目的に応じた効果的な活用方法を習得させる。 内容の取扱い実習を中心に扱うようにする。. 第2章「各教科」第10節「情報」第2款「各科目」 第1情報C 情 報. C. 2内容(3)ア多くの情報が公開され流通している実態と情報の保護の必要性及び情報の収集・ 発信に伴って発生する問題と個人の責任にっいて理解させる。 3内容の取扱い情報の保護の必要性にっいては,プライバシーや著作権などの観点から扱い,情 報の収集・発信に伴って発生する問題にっいては,誤った情報や偏った情報が人間の判断に及ぼ す影響,不適切な情報への対処法などの観点から扱うようにする。. 第2章「各教科」第10節「情報」第2款「各科目」 第1情報C 2内容(4)イ情報化が社会に及ぽす影響を様々な面から認識させ、望ましい情報社会の在り方 を考えさせる。. 3内容の取扱い情報化が社会に及ぼす影響を、情報通信ネットワークなどを活用して調べたり、 討議したりする学習を取り入れるようにする。 第2章 「各教科」第10節「情報」第3款「各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」 2 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。(1)各科目の指導においては,内容 の全体を通して情報モラルの育成を図ること。. 会に参画する態度」の育成に重点を置いた科目r情報C」に注目する。内容(2)の ウでは、「電子メールや電子会議などの情報通信ネットワーク上のソフトウェアを. 用いて、コミュニケーションの目的や状況に応じた効果的な活用方法を実習を通し. て習得させる」ことを主たる目的とし、その中で「モラルやマナーについて、体験 一18一.
(23) 表2−9 学習指導要領をもとにした3種類の情報モラル教育の学習段階. 3種類のr情報モラル教育」と内容. 倫理. 小学校. 中学校. プライバシーの保護. ●. ●. 著作権の保護(知的財産権の保護). ●. 個人情報の保護. 発信した情報に対する責任 判断 情報の信葱性. O O O. 高等学校. 情報A 情報B 情報C. O O. ●. ●. O 0. ●. ●. ●. 0 O. O ●. O. 安全 不適切な情報への対処. 0…学習指導要領に明記 ●…学習指導要領解説に明記. を通して習得させることも考えられる」としている2)。内容(3)のアでは、「情報の 公開」、「情報の保護」、「著作権」、「情報の収集・発信」の4つの内容が含まれ、こ. れらにおける個人の責任についての理解を目的としている2)。ここでもこれらの多. くは、表2−7におけるr情報倫理教育」あるいはr情報判断教育」に該当し、r影」 への対処を学習する「情報安全教育」に該当する内容は、わずかに内容(3)アにお. ける4つの中の1つ「情報の収集」のみである。しかもその内容の取扱いは、「不 適切な情報への対処法などを扱う」として、「インターネットや携帯電話によるい たずらや犯罪などを、インターネットや新聞などから調べ、具体的に対処法などを. 考えさせること」と例示されており、これでは「既存の事例」をもとに「具体的な 対処法」を考える学習にとどまってしまうことが否定できない。これでは情報モラ. ルの育成について学習指導要領解説情報編に示されている「対処的なルールを身に つけるだけではなく、それらのルールの意味を正しく理解し、新たな場面でも正し い行動がとれるような考え方と態度を育てる」ことになるのか疑問である。. 以上のことから、現在の学習指導要領は「情報倫理教育」に重点を置いた学習内 容になっていると言える。. そもそも「情報モラル」という言葉は、臨時教育審議会「教育改革に関する第三次. 答申」(1987年4月)の中でr情報モラルの確立」として最初に使われた。その後、. 「教育改革に関する第四次答申(最終答申)」(1987年8月)では「情報化社会に おいては、自己の発信する情報が他の人々や社会に及ぼす影響を十分に認識し、将 来を見込んだ新しい倫理・道徳の確立、新しい常識の確立、情報価値の認識の向上. など情報の在り方についての基本認識r情報モラル」を確立する必要がある。」と して、情報モラルの果たすべき役割にっいて言及している。これを受けた普通教科. r情報」では、情報モラルをr情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方 一19一.
(24) と態度」と定義している2)。これらの文言からは、情報モラルを発信者側の態度を. 重視して取り上げていることがわかる。来るべき情報化社会を予見し、主体的に情 報社会に参画するため、発信者側の態度を重視したものと捉えられる。そのため、 「影」への対処といった受信者側の態度を学習する機会が乏しくなったものと考え られる。. 2−2−5 情報安全教育による対処. これまで考察してきたことを表2−10にまとめた。「影」への対処は、「加害者に. ならないため、あるいは加害者を規制するため」の対処(表2−10の上半分)と、. 「被害に遭わないため、あるいは被害者を救済するため」の対処(表外10の下半 分)に大きく二分される。さらに、意図的に関与する場合と、意図せず関与する場 合とでは対処が異なると考えられ、「故意性の有無」として整理した。故意に犯罪. を引き起こす加害者についてモラル教育の効果は薄いと考えられるが、表2−10の 「意図せず」の列に多くの○印があるように、悪意のない侵害や違反がいまだに多 くを占めることから、モラル教育の徹底が最大の解決策になると考えられた。. また、自殺サイトや出会い系サイトの利用は、意図せずアクセスすることもあり うるが、多くは何らかの理由でサイトを利用しており、そこで発生するコミュニケ ーションから犯罪の被害に及ぶものと考えられ、「故意性がある」とした(表2−10. の※)。意図的にせよ意図的ではないにせよ、これらのサイトの利用による危険性 を学習する必要があることに変わりはない。そこで、いずれも情報安全教育によっ て一定の効果があると分類した。. この表2−10から、「情報安全教育」に関わる「影」がいかに多いかが分かる。さ. らにこれらのほとんどが、2−1節で本研究の対象としたネット上のコミュニケー. ションに関わっている「影」である。そこで第3章では、現在の「情報Cjの学習 内容のうち(2)ウ「コミュニケーションにおける情報通信ネットワークの活用」と. (3)ア「情報の収集・発信と個人の責任jにおいて「情報安全教育」を重視し、単 元内容を構想する。. 一20一.
(25) 表2・10 ネット上のr影」への対処の効果 解決策注). 故意性の有無 「影」の種類. 術i法制度⋮ ⋮. i故意にi意図せず …. 1 … l. プライバシー侵害. i i情報モラル教育 i i. o l O l◎i. i l i iO i O i. ⋮iO. i l. 迷惑メールの送信. io i◎i ii li O i. iO i 圭iO. 著作権違反. i i E i. ウイルス作成. 悪徳・悪質商法. …O l. 児童ポルノ掲載. …O i. ウイルス仲介. ilO. ii O. ウイルス仲介. 個人情報の漏洩. ;i O. 情報の信愚性(ニセ情報の存在). ⋮i O. オークション被害. ⋮io. ネット詐欺被害 ※1 I. 出会い系サイトの利用. オlO. i :. O l i i i O i i i. o io ioi. i 1o l◎1 i i i◎i i i O … iO i i. o i io. O・lo l IO i l io i iO. l l◎ i O i. ii O. 不正アクセス 注)表中「解決策」の記号は、. io i. ii O. ウイルス. O i◎i. i i i O i l i. i i i … iO i l. ; ※i 自殺サイトの利用. i l. ︷iO. 加害者側 被害者側. iO i. i i io. l i. I O i 』 『. ◎…十分な効果があると考えられる ○…一定の効果があると考えられる 空白…効果は得られない、または乏しいを表している。. 一21一.
(26) 第3章 情報安全教育を重視した授業の構想 第2章では、本研究の対象とする「影」を、ネット詐欺、出会い系サイト、自殺 サイトに限定し、情報モラル教育の中でも「情報安全教育」を重視した「情報C」 の授業の提案を目指すことを述べた。. 第3章では、授業構想につながる先行研究等を取り上げる。3−1節では、詐欺 や出会い系サイトに引き込まれる原因となる、「人がなぜ騙されるか」を、認知科. 学の知見をもとに考察する。3−2節では、本研究の対象とした「影」が、そもそ もネット上のコミュニケーションにおいて存在していることから、コミュニケーシ ョンとは何か、ネットワークとは何かを探り、「ネットにおけるコミュニケーショ. ン特性」を定義する。3−3節では、3−2節で定義したコミュニケーション特性 が、現在使用されている教科書には、どの程度記載されているのかを調査した結果. を示す。そして3−4節で、3−1∼3−3節を踏まえ授業の構想を述べ、授業を 実施するにあたり必要な学習環境としてのWe bコンテンツの構築について3− 5節で述べる。. 3−1 認知科学の知見から見た罠に陥る原因 2−1節で述べたが、「ネット詐欺」はネットワーク利用犯罪の半数以上を占め、. 被害件数は現在も増え続けている。そもそもなぜ人は騙されるのか。安斎は、だま しの入り口は大きく分けて2っ存在するとしている28)。. ① 「思い込み」の危険 一「自分はだまされない」はすでに思い込み ② 欲得 一人々に欲望がある限り詐欺師は安泰. ネット詐欺も①や②を入り口としているものがほとんどで、例えばワンクリック詐 欺88)であれば、異性の紹介や賞金等の当選という欲得を誘いとし、「クリックして. も大丈夫だろう」という思い込みを利用して罠に陥れるという手口が多い。「出会. い系サイト」では、見ず知らずの相手と知り合いになるという欲求に付け込み、返 事を送ることや自分自身の情報を伝えることに対して、「大丈夫だろう」と思いこ んでしまい、個人情報の漏洩や性的・金銭的実害を被ることが考えられる。. これらの「大丈夫だろう」という思い込みはどこから発生するのか。1つの主だ った原因として、多数存在する同様の無害なサイトやメールにさらされているうち. に、先へ進むこと(クリックや相手に返事を送ることなど)に対して警戒心や危機 感が薄れていることが考えられる。このことを認知科学の方面(ヒューリスティク 一22一.
(27) スとスクリプトの存在)から探ってみたい。. 3−1−1 ヒューリスティクス. ロシアの生理学者Pavlovが行った条件反射はあまりにも有名であるが、そのよ うな条件づけによる観察できる事象によって人の行動を理解しようとするのが行 動主義であった。しかし、いわゆる「認知革命29)」以後、人間の思考にかかるバイ. アスをテーマにした問題解決を扱った実験的研究が盛んになった。バイアスとは思. 考や推論の一定方向への偏りのことで、「人間が通常おこなっている思考は、問題 解決法など何らかの規範と必ずしも一致せず、一定の方向への偏り、すなわちバイ アスの生ずる場合が少なくない30)。」としている。. このバイアスを発生させる原因としてTverskyとKahnemanは、「人は、必ずしも. 最適ではないが、容易に推論を行う手がかり、すなわちヒューリスティクス (heuristics,経験則または発見的方法)に頼ることが多い」と、ヒューリスティク. スの存在をあげている。すなわち、情報の利用しやすさというヒューリスティクス. に頼った結果が、情報価の低い具体的事例にもとづく推論や行動につながるとして いる31)。この考えは、現在でも推論の誤りが一定の傾向を示す原因として「人間が、. 論理よりも、ヒューリスティクスに従って推論しているためではないか」という主 張であり、これが多くの心理学者によって支持されている30)。. このヒューリスティクスに対置される概念がアルゴリズム(algorithm)であり、. 「かならず正しい結果が得られると証明されている問題解決の手続き」と定義され. ている。このことから、アルゴリズムを「論理的」な判断とするならば、ヒューリ スティクスはr蓋然的」な判断と言えよう。. ネット上のコミュニケーションにおいても「画面上のリンクをクリックしてもよ いか」「メールヘの返事を送ってよいか」「自らの情報をどこまで公開してよいか」. 等、問題解決場面は多い。「影」への対処においても同様である。誤った判断によ り罠に陥る場合、アルゴリズムによる論理的な判断をする(欲得を感じても「影」. であることを判断し、近づかないなど適切に対処する)のではなく、ヒューリステ. ィクス(例えば、r今までの経験から判断して、多少の欲得を得られる、ある程度 まではr影」に近づいても大丈夫だろう」という考え)による判断を選択したこと が原因と考えられる。. ではなぜ人は、アルゴリズムではなくヒューリスティクスによる判断を選択する のか。このことについて高野は、次のように説明している31)。. 「論理的な推論規則が保証してくれるのは、結論の正しさではない。推論のし. かたの正しさのみである。正しい結論を得るためには、推論のしかたが正し 一23一.
関連したドキュメント
研究開発活動 は ︑企業︵企業に所属する研究所 も 含む︶だけでなく︑各種の専門研究機関や大学 等においても実施
1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における
現地観測は八丈島にある東京電力が所有する 500kW 風 車を対象に、 2004 年 5 月 12 日から 2005 年 3 月 7 日 にかけての 10 ヶ月にわたり
5.本サービスにおける各回のロトの購入は、当社が購入申込に係る情報を受託銀行の指定するシステム(以
本籍 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件
当社は、お客様が本サイトを通じて取得された個人情報(個人情報とは、個人に関する情報
「系統情報の公開」に関する留意事項
--- 性状及び取り扱いに関する情報の義務付け 354 物質中 物質中 PRTR PRTR