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<症例報告>肺動脈血栓塞栓症を合併した肺癌の1切除例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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一症例報告0

肺動脈血栓塞栓症を合併した肺癌の1切除例

     国立療養所富士病院 呼吸器外科 窪田健司 霜多広 石原重樹 堤正夫 山崎明男 呼吸器内科 大和庸次 椿原基史      はじめに  肺動脈血栓塞栓症(以下本症)は、 本邦では欧米に比して低頻度であると 言われているが、近年増加傾向を示し ている。本症は軽症例から致死的症例 まで多彩な症状を呈し、常に念頭に置 いておくべき疾患のひとつである。  我々は、原発性肺癌の術前検査にお いて本症を発見し、その治療を先行さ せた後に肺癌手術を施行した症例を経 験したので、若干の考察を加えて報告 する。

     症 例

 患者:65歳女性

 主 訴:なし(検診発見)  家族歴:特記すべきことなし  既往歴:特記すべきことなし  現病歴:平成7、8年 検診にて右 胸部異常陰影を指摘され、平成8年7 月8日当院を紹介された。約2カ月前 から時々背部痛があったことが後にわ かった。

 喫煙歴:10本/日 × 35年間

 入院時理学所見:身長152.5㎝

体重46.5 kg、 栄養状態は良好で あった。血圧140/76 rnrnHg、脈拍 60/分、整であった。胸部聴診上異 常なく、下肢の浮腫や静脈瘤はなかっ た。  入院時検査所見:血液一般、生化学 検査、検尿には異常はなかった。

凝固系において、APTTの軽度延長

を認めた。心電図は低電位以外の所見 は認めず、呼吸機能検査では閉塞性障 害を認めた。血液ガス分析では低酸素 血症及び高炭酸血症を認めた。腫瘍マ

ーカーはCYFRA21−1が2.5

ng/mlと軽度上昇していた(表1)。    胸部単純X線写真では、右下肺野に   辺縁不整、境界不明瞭でスピクラを伴   う、径15×16 mmの淡い腫瘤陰影を

  認めた(図1)。胸部CTでは、右S6

  に辺縁不整で周囲に毛羽立ちを有する   腫瘤を認めたが、明らかなリンパ節転   移や肺内転移などはみられなかった(

  図2)。また頭部CT、腹部CT、骨

  シンチでは明らかな遠隔転移は認めな   かった。気管支鏡検査では、可視範囲   には異常なく、経気管支的肺生検にて   B6末梢より高分化腺癌の診断を得た。    術前検査として施行した肺動脈造影   正面像では、右A’A2の陰影欠損及び   A6の腫瘍への収束像を認めた(図3)。   肺血流シンチでは、左右の肺尖部に集   積の低下を認めた(図4)。   また、下肢静脈造影を施行したが、明   らかな深部血栓症などの異常はみられ   なかった。     以上より、本症を合併した右S6原

  発肺腺癌で、臨床病期はc−TlNOMO

   (1)と診断した。方針として、致命   率の高い本症に対して、はじめに血栓   溶解療法及び抗凝固療法を施行し、そ   の後に全身状態を再評価した上で、肺   癌に対する治療法を選択することとした。 −82一

(2)

      経 過

 7月29、30日に組織プラスミノ

ーゲン・アクチベーター(t−・一 PA) 製剤であるアルテプラーゼを2400 万単位ずつ点滴静注し、その9日後よ り塩酸チクロピジン1日300㎎を内 服とした。アルテプラーゼ投与直後か

らPCO2の低下、 PO2の上昇を認

めた(表2)。  アルテプラーゼ投与後の肺動脈造影 では、右AlA2の血流は明らかに改善 されていた(図5)。  8月14日には、本症予防のため、

下大静脈内にKimray−Green

−fieldフィルターを、腎静脈下

第2腰椎レベルに留置した(図6)。 これにより、本症の致死的再発の危険 性は回避できたと考え、全身状態にも 問題がなかったため、10月1日肺癌 に対して手術を施行した。  右後側方切開、第5肋骨後方切断、 第4肋間開胸してみると、S6に肺胸 膜陥入を伴う小指頭大の腫瘍を認めた。 胸水、胸膜播種、リンパ節転移などは みられなかった。型の如く右下葉切除 を施行し、リンパ節郭清はサンプリン グにとどめた。この際、AgA’°切断 端に赤色血栓を確認した。これは、小 血栓塞栓が反復していることを示唆し ていると考えられた。  ホルマリン固定後の手術材料の割面 では、B6b末梢に胸膜陥入を伴う腫 瘍を認め、病理組織学的検索では高分 化腺癌の診断を得た(図7)。術後病

理病期はp−tlnOmO(1)であっ

た。

 術後経過は良好で、11月21日に

退院となった。  外来観察中術後6カ月目に、背部痛

を訴え来院、PCO2の上昇、 PO2

低下を認めたため、本症の再発と考え、 塩酸チクロピジンを投与し2日後に症        一83一 状は消失した。現在まで肺癌の再発は 認めていない。        考 察  本症は、全身の静脈系に発生した血 栓が遊離し、肺血管床を閉塞する結果、 ヒスタミン・セロトニン・プロスタグ ランジン・トロンボキサンA2などの 液性因子と、神経因子とが相互作用す ることにより肺血管・気管支の収縮が 起こり、肺高血圧・低酸素血症・心拍 出量減少などを生じるものである。血

栓の起源は80∼100%が下肢深部

静脈であるといわれている1)。  また、米国では年間50万件以上も の本症が発生するといわれているが、 本邦での発生頻度は欧米の10%以下 と推定されている。症状は胸痛・呼吸 困難・意識障害・ショックなど、無症 状例から致死的症例まで多彩である2) 3) B自験例では背部痛が唯一の症状で あった。さらに、心電図で右心負荷、 動脈血ガス分析で低酸素血症、肺シン チグラムでの集積低下などが主な所見 であるが、肺動脈造影で血流の途絶・ 陰影欠損があれば確定所見となる4)5)。 自験例では、低酸素血症と肺動脈造影 所見が根拠となった。  治療法は、血栓の早期溶解により肺 循環障害の改善と右心負荷の軽減を図 るための血栓溶解療法と、再発防止の 抗凝固療法とによる保存的治療が優先 される場合が多い2)3)6)。特にtPA は不溶性フィブリンとの親和性が高く、 血栓上でプラスミノーゲンをプラスミ ンに活性化するため、流血中のプラス ミノーゲンも活性化するウロキナーゼ に比して、全身の出血傾向を来すこと が少ないといわれている。しかし大量 投与では全身の線溶活性を元進し、出 血の危険性を高めるため注意が必要で

(3)

ある3)。我々は、自験例を比較的急性 期の本症と判断し、tPAを使用した。 tPAは軽症から重症まですべての本 症に適応がある。軽症でも、新たに大 きな血栓が塞栓を起こすことがあり、 重症の場合でも、tPAにより新鮮血 栓は充分に溶解する。成績の安定しな い手術治療に、その効果は勝ると思わ れる。しかし、保存的治療開始後も呼 吸循環動態の不安定な状態が持続する 症例では、速やかな外科的血栓塞栓摘 除術が必要となる場合もある7)。  先にも述べたように、血栓の起源の 大部分は下肢深部静脈であるといわれ ているので、我々は再発防止を目的と して下大静脈フィルターを留置した。 自験例は、下肢静脈造影で明らかな血 栓を認めなかったが、静脈造影におい て血栓が明らかであれば、全例にフィ ルターを入れても良いと考えている。 また、今回は致死的な再発は予防でき たと考えるが、微小な血栓がフィルター の目を通過し、外来での再発につながっ たと思われ、今後も注意深い経過観察 が必要であると考えられる。  さらに深部静脈血栓症の誘発因子と して、①血液の停滞②静脈壁の異常③ 血液凝固能の異常が挙げられる(表3 )1)。自験例では、悪性疾患による血 液凝固能異常も原因のひとつであると 考えられる。  最近では、抗リン脂質抗体・ループ ス抗凝血素・血清lgEなどと本症と の関連も注目されており8)、本邦での 増加傾向も考慮すると、致死的となり 得る本症を常に念頭に置いておく必要 があると思われる。        結 語  肺動脈血栓塞栓症を合併した原発性 肺癌患者に対し、tPA製剤・上大静 脈フィルターを用いた後、肺癌に対す る手術を施行し、良好な結果を得た。       −84一        文 献  1)藤岡博文ほか:肺血栓塞栓症の成

  因と病態生理、ICUとCCU 1

  6(1):5−12、 1992  2)国枝武義:肺塞栓、循環科学 V

  ol.14 Nα12:42−47、

  1994

3)宮本大介ほか:肺塞栓症、治療学

  Vol. 29 Nα1:89−92、

  1995

 4)渡辺 透ほか:胆嚢摘出術後に発  症した肺塞栓症の1治験例、日臨外

 医会誌 55(5):1192−119

  6、 1994

 5)長田 博:肺血栓塞栓症と抗凝固

 血栓溶解療法、CURRENT THERA

 PY V o l. 10  Nb2 :90−9

  3、 1992

 6)渋谷 卓ほか:深部静脈血栓症、

 治療学 Vol.29 Nα1:78

 −83、1995

7)辻野一三ほか:緊急血栓塞栓摘除  術により救命し得た急性広範性肺血

 栓塞栓症の1例、lCUとCCU

  18(2):169−174、 1994

8)芦谷淳一ほか:当科における急性  肺血栓塞栓症の検討一抗リン脂質抗  体症候群との関連を含めて一、宮崎

 医会誌 20:76−79、1996

(4)

【表1】入院時検査 血算・生化学:異常なし 凝固系1出血時間 4分30秒  凝固時間 9分30秒

    PT   11.8秒  APTT 42,2秒

        (11,9秒)     (30.4秒) 心電図:低電位のみ

呼吸機能:VC     3,030(132・9%)

     FEV1. 0  1. 740(62. 14%) 血液ガス:(room ai「)

     PCO2 46.6mmHg PO2 64.2mmHg SAT 90.9%

腫瘍マーカー:CYFRA21−1 2.5ng/mlt

喀疾塗抹・培養・細胞診1陰性 【表2】動脈血ガス分析    90    80

 0 70

コ:  ∈

∈ 60

   50

   40

       、一   「)  N   O   O   lの  co

       ミミミミい〉

       ト      ト■ 【表3】深部静脈血栓症の誘発因子

N

\ co

R 蔚 lls)!9

\ \ \ \ \ ◎o  co  ◎D  ⑦   ひ

60

50

40

血液停滞 肥満 妊娠 長期臥床 不整脈 静脈壁異常 静脈炎 外傷 手術 カテーテル検査 血液凝固能異常 脱水 多血症外傷 悪性疾患 経ロ避妊薬 `Tlll減少症 プロテインC減少症 プロテインS減少症 求[プス抗凝血素 抗カルヂオリピン抗体 一85一

(5)

【図1】 【図2】

【図3】 【図5】

(6)

国4】

【図6】 【図7】

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