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未来予測を中核とする中学校社会科の授業設計 : 事実認識に基づく設定型問題の追究を視点として

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Academic year: 2021

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(1)未来予測を中核とする中学校社会科の授業設計 一事実認識に基づく設定型問題の追究を視点として一 教科・領域教育専攻 社会系コース 渥 美 寿 彦. 1 研究の員的と方法 1.研究目的 (1)事実認識に基づく設定型問題を追究する,. 未来予測を中核とした授業を設計し展開す ることが,これまでの社会科授業の変革に 有効であることを明らかにする。. 向の論理. 第H章未来予測を中核とする社会科授業設計 論 岡垣章 現行社会科授業実践の分析. 第IV章未来予測を中核とする社会科授業設計 の実際. (2)(1)の成果を組み込んだ,未来予測を. 結 平. 中核とする授業モデルを構想し,提案する。. 皿 研究の概要 1.今日の社会科授業論に見られる未来志向の 論理. 2.研究方法 (1)社会的問題を取り上げ,意志決定場面を 組み込んでいる社会科授業論を,追究対象 とする「問題」の視点から分類,分析する ことによって,そこに内在する未来志向の 論理を抽出し,特質と課題を明らかにする。. (2)(1)の成果を踏まえ,未来志向の視点 から社会科授業の変革の方向性を探る。. (3)社会認識形成,個性・創造性の育成,市. 民的資質育成の視点から,社会科授業にお いて未来予測を中核とすることの意義と有 効性を明らかにする。. 社会的問題を取り上げ,意志決定場面を組み 込んでいる代表的社会科授業論を,追究対象と. する「問題」の視点から見た場合,次の3つに 類型化することができる。. ①発生型問題を追究する授業論 ②探索型問題を追究する授業論 ③設定型問題を追究する授業論 そこで,各授業論について,追究対象とする 「問題」の性格,事実認識において獲得される. 科学および未来学における予測の方法論を、. 知識の質,そして意志決定に至るまでのプロセ スを視点に分析することで,そこに内在する未 来志向の論理を抽出し,特質と課題を明らかに. 考察することによって,未来予測を中核と. した。. する社会科授業設計の考え方を明らかにす. その結果,以下のように,未来志向の視点か ら社会科授業の変革の方向性を得た。第1に,. (4)(1)∼(3)の成果とともに,社会諸. る。. (5)(1)∼(4)の成果に基づいて分析フ レームワークを構築した上で,現行授業実 践の分析を行い,その傾向性と課題を明ら かにする。. (6)(1)∼(5)の成果を踏まえて,未来 予測を中核とする中学校社会科の授業モデ ルを設計する。. 設定型問題の追究を授業に積極的に取り入れる. 必要があること。第2に,設定型問題は切実な る追究課題として定立する必要があること。第 3に,科学的な事実認識に基づく質の高い知識 獲得を保証する必要があること。第4に,意志 決定に際しては,科学性を維持しつつ,開かれ た価値:認識を保証する必要があること。以上の. 皿 論文構成. 4点である。. 序 論. 2.未来予測を中核とする社会科授業設計論 社会科授業の変革の方向性から,これまでの. 第1章 今日の社会科授業論に見られる未来志.

(2) 課題を克服する方途が「未来予測を中核とする 授業」であることを論証し,事実認識に基づく. 設定型問題の追究を視点とした授業展開モデル を示した。. (1)社会科授業における未来予測の意義と有 効性 未来予測には,原理の発見に基づく科学的・ 合理的な未来の推論と,.「感」に基づく創造的. な未来の推論の2つの側面がある。. 未来予測を社会科授業の中核に位置づけれ ば,科学的・合理的な未来の推論には,過去や 現状の分析による理論・法劉の獲得が必要であ り,その過程で社会認識形成が図られる。また,. 創造的な未来の推論の過程で,個性・創造性の 育成が図られる。そして,こうした学習の成果 として,これから求められる市民的資質が育成 される。. (2)未来予測を中核とする社会科授業の展開 事実認識に基づく設定型問題の追究を視点と した未来予測を中核とする社会科授業の展開モ デルを,以下のように提示した。. ①概念探究過程の並列化による法則(概念的知 識)の発見過程 ②社会諸科学の方法論を援用しての科学的・合 理的な未来の推論による設定型問題定立過程 ③未来学の方法論を援用しての創造的な未来の 推論による設定型問題追究過程 ④未来学の手法であるシナリオプランニングを 活用しての意志決定過程 3.現行社会科授業実践の分析 未来予測を中核とする授業設計論に基づいて 分析フレームワークを構築し,現行授業実践の 分析を行った結果,以下のことが明らかになっ. ③設定型問題を追究している実践には,来来学 の方法論を意図的・体系的に行っているもの はなく,科学性の維持という点で限界がある。. ④設定型問題を追究している実践には,開かれ た価値認識が保証されているものの,個人の 好き嫌いに左右されたり,夢を語るだけの価 値判断にとどまっているものが多い。. 4.未来予測を中核とする社会科授業設計の実 際. 前述した研究成果に基づき,事実認識に基づ く設定型問題の追究を視点とした未来予測を中 核とする授業モデル,中学校公民的分野「適切 な課題を設けて行う学習」,小単元「日本経済 のあゆみと未来」を設計した。. 授業モデルでは,戦後の二本経済を特色別に. 3つの時期に分け,それぞれについて概念探究 過程を組織した。そして,これらの概念探究過 程で獲得する3つの説明的知識から帰納的に概 念的知識を抽出し,それを適用して科学的・合 理的に未来の産業社会を推論することで,設定 型問題の定立を図るようにした。このように,. 事実認識に基づいて設定型問題を定立すること. で,社会認識形成を保証するとともに,問題を 現実的で,切実なる追究課題とすることを可能 にした。. また,設定型問題の追究過程では,未来学の 方法論を体系的に組み込み,未来の産業社会の 様子を創造的に推論させるようにした。こうし て,子どもの個性・創造性を活かしっっ,科学 性を維持した問題追究の方法論を示した。. さらに,意志決定過程にシナリオプランニン グを活用し,設定型間題に対する価値判断を行 うようにした。こうして,未来像を具体的に描. た。. き,根拠を明確にし,しかも,開かれた価値:認. ①設定型問題を追究する実践が少ないことか』. 識を保証し得る方法論を示した。. ら,未来志向性の点で不十分である。. ②設定型問題を追究している実践には,未来予. 測の2つの側面を組み込んでいる実践が少な い。特に,事実認識に基づく質の高い知識を 適用しての科学的・合理的な未来の推論によ る問題の定立が行われていないため,社会認 識形成が不十分であり,問題も子どもにとつ て切実な追究課題となっていない。. IV 今後の課題. 今後の課題は,本研究で構築した授業モデル ーにしたがって実践を行い,生徒の認識の変容か ら研究仮説を検証していくことである。また,. 授業実践をとおして,本研究で提示した理論を 修正・発展させていくことである。. 主任指導教官 岩田 一彦 指導教官 岩田 一彦.

(3) 研究題目. 未来予測を中核とする中学校社会科の授業設計 一事実認識に基づく設定型問題の追究を視点として一. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教科・領域教育専攻. 社会系コース. M98502D 渥美寿彦 1999年12月20日 主任指導教官. 指導教官. 岩 田 一 彦. 岩田一彦.

(4) 目 次 序二一……一……一一一 1.問題の所在 …一… 2.研究目的 一一…一…. 3.研究仮説’…一…一 4.研究方法 …一一一一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 噛. 一. 一. 一. 一. 一. 騨. 一. 一. 一. ■. 一. 鞠. 一. 一. 騨. 一. ,. 一. 一. 暉. 一. 一. 〇. ■. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 薗 _ 一 一 層 ■ 一. 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一・. 一 一 一 吻 一 騨 一. 一一一一一一一一一一一一一一一一一・. ■. 薗. 帽. 冒. 一. 層. 一. 一. 騨. 一. 一. 幽. ψ. 卿. 一. 一. 一. 一. 尊. 層. 罹. 一. 一. ■. 一. 騨. 一. 一. 碑. 一. 一. 一. 一. 一. 輪. 一. 一. 一. 一. 一. ■. 一. 一. 一. 幽. 罹. 一. 一. 吻. 曝. 噂. 一. 一. 一. 一. 儘. 一. ,. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 一. 辱. 一. 一. 一. 藺. 一. 一. 一. 一. 一. 一. P P. 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一. Q Q. 一一一一一一一一一一一一一一一一一一. Q. 一一一一一一一一一一一一一一一一。一. 第1章今日の社会科授業論に見られる未来志向の論理一………4 第1節発生型問題を追究する授業論……一一…一一…一一一…………6 1.授業構成原理 一一…一…一…一一…・…一一……一……一……一7 2.授業構成の実際. 一地理的分野単元「飢えるアフリカ」の場合一……一…一…一13 3.特質と課題 ……一一…一一一一…一…一……一一一……一一一…一一一20. 第2節 探索型問題を追究する授業論《1)…一一……一…一一…一一一一一22 1.授業構成原理一一一…一一一…一……一……一一…一一一一一…一一…一一一23. 2.授業構成の実際 一地理的分野単元「太田川とその流域の生活」の場合一……・27 3.特質と課題一…一…一…一一一一…一一…一…一…一…一…一……一一32. 第3節 探索型問題を追究する授業諭《2》……………一一一一…一…34 1.授業構成原理 一一一…一…一……一…一一…一一…一一…一…一’一一一一一’3、5. 2.授業構成の実際 一公民的分野小単元「経済生活における消費と. 消費者主権」の場合一………43 3.特質と課題一一……一…一一……一一一一…一一…一一一……一……一49. 第4節 設定型問題を追究する授業論……………一一…一一…一…55 1.授業構成原理…一……一一一一一……一一一一…一一…一一一。一一…薗一一55. 2.授業構成の実際 一地理的分野主題「私たちの徳島戦略一関西国際空港の. 開港をどう生かすか一」の場合一一…62 3.特質と課題一…………一一…一一…………一…一…一一一一…一66 第5節 社会科授業の変革の方向性一未来志向の視点から一 一一一一69 1.設定型問題の追究 一………一一一…一一一一一…………一一……一一70. 2.切実なる追究課題としての設定型問題の定立 一…一一……一…71.

(5) 3.科学的な事実認識に基づく質の高い知識獲得の保証 …一。……71 4.開かれた価値認識と科学性の維持 ………一……一…一一一……71. 第皿章未来予測を中核とする社会科授業設計論………一・一77 第1節 社会科授業における未来予測の意義と有効性……一……77 1.未来予測の2つの側面一………………一……一……一……・77 2.未来予測と社会認識形成………一………一一………一一……81 3.未来予測と個性・創造性の育成…一一……一……一一一………82 4.未来予測と市民的資質の育成一………一一……一一一…一……84 第2節 未来予測の方法論一…一一・…………一一……一一…………87 1.科学的・合理的な未来の推論 一社会諸科学における予測の方法論一 …一一一一一一一一一…一一一一…87. 2.創造的な未来の推論 一未来学における予測の方法論一一一一一一……一一一…一一一……・95. 第3節未来予測を中核とする社会科授業の展開…一一………一101 1.未来予測を中核とする授業展開と設定型問題の追究…一一一…102 2.未来予測を中核とする授業展開モデル……一一…一一……一一一一104. 第皿章現行社会科授業実践の分析一…一…一………一一一一…一…122. 第1節 授業分析の視点と方法一……一…………一一一………一122 1.分析視点 …………一一……一………….一__._一_一122 2.分析方法 …一一………一…一一一…一…一一一一………一一一…_124 3.分析対象 一…………一…一…一一一…一……一一一…一一一……一124. 第2節 分析結果一一一一一…一……一一一一………一………一一一……128 1.分析結果の全体的考察一…一一………一…一一…一一一…一…一…128. 2.設定型問題を追究している個別・具体的事例の考察 ……一一・138 3.分析のまとめ. 一授業実践分析の意義と設定型問題追究の方向性一 一……149. 第1V章 未来予測を中核とする社会科授業設計の実際……一一・152 第1節 学習指導要領における位置づけ一一…一一………一一一一…一152. 1.学習指導要領における「適切な課題を設けて行う学習」……152 2.学習指導要領における授業モデルの位置づけと意義一…一一…一155 第2節授業設計の基本的考え方一一一…一一…一一一……一…一…一…156.

(6) 1.授業設計の視点 …一………一一…一一一…一……一一…一一一一一一157. 2.授業設計の3つの要素 一「教育内容」,「教材」,「問い」一 一…一…‘卿“’“一隔一鞠“一一一鞠159. 第3節 授業設計の実際一………・………一…一……一一…一一160 1.題材について 一一…一一一…一……一一……一一一一一…一…一一一一160. 2.知識の構造一一……一…一一一一一一…一一一…一一………一一一…一162. 3.問いの構造一一一…一……一…一一一一.一_一__..__.__172 4.授業モデルー一一……一…一…一…一一一………一一一一…一一一…一一176. 第4節 授業モデルの成果・一一…一…一…一一…一一…一……一……258 1.過去志向,現在志向から未来志向への転換 一……一…一一一…・258. 2.社会諸科学の成果に基づく事実認識による社会認識形成 の保証一設定型問題の定立との関連を踏まえて一…一・258. 3.未来学の方法論を活用した設定型問題の追究 ……一…一…一260 4.シナリオプランニングの活用と開かれた価値認識の保証一…一・261. 結論一一……一…一…一一一………………「一一一…………一…263 1.本研究の意義 …………一……一一一一…一一…………一一…263 2.今後の課題一一一…一…一…一…一……一一一……一…一一一……265. 附記……一…一……一一一…一……………一一一……一…一…一一266 資料編(分析フレームワークによる授業分析の実際). 要 旨.

(7) 序 論. ここでは,問題の所在,研究目的,研究仮説,研究方法を示し,研究の概要 を明らかにする。. 1.問題の所在 これからの社会は,国際化,情報化,科学技術の進展,地球環境の悪化,高 齢化など激しい変化が予想される。このような状況下では,過去には見られな い現象,事象が数多く生起することが考えられる。学校教育においては,子ど もに対し,こうした変化に柔軟にしかも主体的に対応し得る資質や能力を育成 していくことが求められる。. しかし,これまでの社会科授業を見てみると,もっぱら過去に問題とされた ものや,現在問題とされている社会事象を取り上げ,その現状をつかませ,原 因を探究させ,あるときには心情的に共感させて解決策を見い出させるといっ た授業構成が主流をなしてきた。つまり,これまでの多くの授業は,過去およ び現在の社会的問題の現象面の解説や分析に奔走する「過去ないし現在志向の 授業」であった。. 小西正雄氏も,同様の趣旨からこれまでの社会科授業のみでは,いまだに生 じていない問題を発見したり予見したりする能力の育成にはつながらないと批 判している。そして,問題化能力,問題発生予見能力,未然防止能力の育成な ど,これからの社会科授業には未来志向性が必要だとしている。しかし,小西 氏のいう社会的問題とは,個人の行動の帰結として生じるものを意味し,社会 をミクロなレベルでしかとらえていない。つまり,社会をマクロにとらえ,わ れわれが拘束されている社会の動きによる,意図せざる変化によって生じるも のとしての社会的問題という視点が欠如している1》。. そこで,社会を対象化してとらえ,未来において生起するであろう社会的問 題を予見し,それに対処する方法論を子どもに身につけさせる必要がある。そ して,来るべき社会の問題状況に適切に対処できる資質や能力を培い,子ども に未来への主体性を確立させていかなければならない。. 本研究は,社会認識形成を保証し,従来の問題点を克服する方途が,未来予 測を中核とした授業を設計し展開することであるととらえ,その理論と授業モ デルを提案するものである。. 一1・.

(8) 2.研究目的 論研究の目的は,次の2点である。. (1)事実認識に基づく設定型問題を追究する,未来予測を中核とした授. 業を設計し展開することが,これまでの社会科授業の変革に有効であ ることを明らかにする。. (2)(1)の成果を組み込んだ,未来予測を中核とする授業モデルを構想 し,提案する。. 3.研究仮説 本研究の仮説は,以下のとおりである。. 事実認識に基づく設定型問題の追究を視点として,未来予測を中核とし た授業を設計し展開すれば,社会認識の形成が保証されるとともに,これ から求められる市民的資質が育成できる。この市民的資質とは,「社会の変 化に主体的に関わり,来るべき社会の問題状況に適切に対処できる能力」 である。. 4.研究方法 上記の研究目的を達成するため,以下の方法で研究を進める。 (1)社会的問題を取り上げ,意志決定2)場面を組み込んでいる社会科授業. 論を,追究対象とする「問題」の種類の視点から分類,分析することに よって,そこに内在する未来志向の論理を抽出し,特質と課題を明らか にする。. (2)(1)の成果を踏まえ,未来志向の視点から社会科授業の変革の方向 性を探る。. (3)社会認識形成,{固性・創造性の育成,市民的資質育成の視点から,社. 会科授業において未来予測を中核とすることの意義と有効性を明らかに する。. (4)(1)∼(3)の成果とともに,社会諸科学および未来学における予 測の方法論を考察することによって,未来予測を中核とする社会科授業 設計の考え方を明らかにする。. ・2一.

(9) (5)(1)∼(4)の成果に基づいて分析フレームワークを構築した上で, 現行授業実践の分析を行い,その傾向性と課題を明らかにする。. (6)(1)∼(5)の成果を踏まえて,未来予測を中核とする中学校社会 科の授業モデルを設計する。. 【註】. 1)このことに関しては,小西正雄「社会問題科としての社会科」社会認識教育学会編『社 会科教育学ハンドブック』明治図書,1994,pp.97・106を参照のこと。. 2)「いし一けってい」については,著者によって「意志決定」または「意思決定」と,活用. が異なっている。本稿では,文献の引用および引用に当たって著者の論を忠実に表現す る場合を除き,「意志決定」の文言を用いる。. なお,梅樟忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明監修『日本語大辞典』講談社,1989 では,「い・し」について,次のように説明している。. 【意志】①考え。こころざし。wi1垂;mind②物事を進んでしょうとする心の動き。目的を 実現するための活動のもととなる能力。wi11;wish③したいことが多くあるとき, その動機・目的・手段・結果を考えて,その中の一つをとくに選び出す心の動き。 will;㎞tention. 【意思1①心に思うこと。②法令で,ア民事で,行為をさせた心の動き。㎞釦巳猷イ刑事で,. 犯意。面血1intent また,松村 明編『大辞林 第二版』三省堂,1995では,次のように説明している。 【意志】①考え。意向。②物事をなすにあたっての積極的なこころざし。③《哲・倫》〔wi11〕. ある目的を実現するために自発的で意識的な行動を生起させる内的意欲。道徳的 価値評価の原因ともなる。④《心》生活体が示す目的的行動を生起させ,それを統. 制する心的過程。反射的・本能的な行動とは区別される。⑤文法で,話し手のあ る事を実現させようとする意向を表す言い方。 【意思】①心の中に思い浮かべる,何かをしょうという考え。重い。②《法》ア民法上,欲. 求ないし承認。表示行為の直接の原因としての心理作用。イ刑法上,自分の為そ うとする行為についての認識。. 一3一.

(10) 第1章今日の社会科授業論に見られる 未来志向の論理. 本章では,今日の代表的な社会科授業論を取り上げ,その授業構成原理およ び典型的授業事例を分析することをとおして,それぞれに内在する未来志向の 論理を抽出し,特質と課題を明らかにする。そして,それを踏まえて,未来志 向の視点から,今後の社会科授業の方向性を示す。 ここで,取り上げる授業論は,いずれも現代の社会やこれから起こるであろ う問題を発見・把握させ,こうした問題を克服するための意志決定をとおして, 明日のよりよき社会を築き上げようとする資質形成を目指している。このよう な意味で,未来への志向性が見られる。. そこで,まずこれらの授業論の類型化の指標を提示する。. 各授業論における意志決定はどのような「問題」を追究し,解決を図るため に行われているにかについて検討してみる。意志決定とは,ある「問題」に対 し,「複数の対策(代替案)を評価し,実施の優先順位を決めること」9であ る。つまり,選択の対象となる対策の候補群(代替的方策,代替的手段)の中 から,望ましい順序で対策を選択することである。では,「問題」とは何か。. 佐藤允一氏は,「問題とは,目標と現状のギャップであり,解決すべき事柄で ある」と定義し,次の図1−aを示している。. あるべき姿 望ましい状態 期待される結果 実際の姿 予想される状態 予期せざる結果. 図1−a【問題の定義】2). さらに佐藤氏は,経営学の立場から,「問題」を「発生型の問題」,「探索型. の闘題」,「設定型の問題」の3つのタイプに分類しており,図1−bを示しな. 。4一.

(11) がら,それぞれについて説明している。. 現在. 発生型L一一Y一一一」設定型 探索型. 図1−b【「問題」の3つのタイプ】3). 「発生型の問題の例は・… (略)…・,事故の発生,不良品の発生,苦情の. 発生,過剰在庫の発生などがこれに当たります。このタイプの問題は,問題 が目の前で起こっているのですから,問題に気がつかないということはない わけです。これは,いわば『みえる問題』といってもよいでしょう。閥題が 飛び込んでくる,問題のほうからやってくるというわけです。したがって,. とにかくその処置を考え,次になぜそのような問題が発生したのかの原因分 析が必要になります。その意味では,発生型の問題は,原因志向型の問題と いうことができます。原因究明は過去に遡って行われるわけですから,発生 型の問題はまた,過去から現在に至る問題ということもできます。」の 「探索型の問題というのは,現在特に問題が発生しているわけではないが,. 目標を現在よりも高く置くことによって,意識的にギャップをつくり出すと いうタイプの問題です。『今よりもっと生産性を上げるには』とか,『小売店. のロイヤリティを確保するには』とか『職場の活性化を図るには』とか,さ らに『企業イメージを上げるには』というように,体制の強化や方法の改善 を志向する場合の問題です。これは問題が目の前で発生している問題ではな いので,よく考えないと気がつかない種類の問題です。したがって,これは 『さがす問題』または『疑ってみる問題』ということができます。 ・… (略)…・目標を意識的に引き上げる一目標志向一という点において は,設定型であり,同時に,どうして現状のレベルにとどまっているかとい う,現在の活動システムの診断一原因志向一という点においては,発生型の 問題分析の性格をもっています。双方の特性を兼ねているという意味で,こ れを混合型一両面志向一の問題と名づけることができるでしょう。」6) 「設定型の問題というのは,今までにない全く新しい目標を設定する場合の. 一5一.

(12) /癒二. ことです・この場合は過去や現在の活動の結彩して目標とのギャップが生 じるという問題ではありません。未来から発、、して現在何をすればよいかを. L わけですか. 士 γ. 、. や “. 。. いわば,『つくる問題』に当たります。. 設定型の・題は,将来の環境変化のヨミと当事者の意思との結合から生ま れるものです。将来の問題を予想して取り組む,変化を先取りする問題だと いってもよいでしょう。『将来どのような分野や地域に進出すべきか』とか, 『将来のリスクに備えて今何をなすべきか』などがこれに当たります。」6) 以上のように,「問題」は,考える時点から見て,「発生型」,「探索型」,「設. 定型」という3つに分類できることが明らかになったη。このことから,「発. 生型」よザ探索型」・それよりも「 強いことがわかる。. そこで,授業論を類型化するにあたって,意志決定がどの類型の問題を追究 し,解決を図ろうとして行われているかに着目し,次の3つに類型化する。. ①発生型問題を追究する授業論 ②探索型問題を追究する授業論 ③設定型問題を追究する授業論. なお,分析に際しては,事実認識の過程において獲得される知識の質および その習得方法,意志決定に至るまでのプロセスを視点としていく。. 第1節 発生型問題を追究する授業論 この授業論の典型として今谷順重氏の授業論が挙げられる。氏の授業論は, 「問題場面の発見」,「心情への共感」,「原因の探究」,「願い価値の究明」,「合. 理的意志決定」を授業構成の視点とする方法原理によって,「主体的な社会参 加態度」の育成を目標原理としている。本節では,その詳細について考察し, 特質と課題を明らかにする。. の6一.

(13) 1.授業構成原理 (1)目標原理. 今谷順重氏は,これからの時代は,国家としても個人としても,これまでひ たすら追い求めてきた生産至上主義・効率万能主義的な「古き豊かさ」への発 想を転換する必要があるとする。そして,真に自由で自立的で創造的な「新し い豊かさ」の実現に向けた暮らしをどのように創り出して行けばよいかを,多 面的な観点から深く問い直さなければいけないとしながら,次のように述べて いる。. 「…・(略)・…暮らしのありようが急激に変化し,価値観が流動化・多様. 化していくなかで,ゆとりをもった創造的活力のある社会と,自分らしい人 間的で個性的な生き方の実現のために,既成のシステムや古い行動様式を見 直しながら,次々に立ち表れてくるであろう新たな社会的諸課題に柔軟に取. り組み的確に判断していくことのできる,21世紀にむけての真の生活革新 の能力が強く求められている。生活のなかで直面した課題にたいして,適切 な選択と手段を講じながら,明るい夢のある未来を切り開き創造していくこ とのできる力を,子どもたちのなかに育てていくことこそが,急速かっ未曾 有な変化の時代を生きる子どもたちへの,我々の大きな責任であるというこ とができる。」8). 今谷氏は,変化の激しい21世紀へのライフスタイルと生活文化の創造に向 けて,自ら強い意欲と願いをもってより懸命な自己決定・未来選択を積み重ね ていくことのできる,創造的で実践的な学習主体・たくましい心豊かな生活主 体を形成することが必要だとしている。 また,一方で次のようにも述べている。. 「これからの子供たちが生活する中で直面するであろう種々の新しい社会的 問題は,これまでの古い伝統的な価値観だけではもはや対応が困難であり,. 国家自体はもちろんのこと,国民一人ひとりが自らの置かれた社会的な状況 や立場を踏まえて,自らの生活をより有意義に充実したものにしていくべく, 新しい文化や価値や行動様式を求めて迷い模索しながら,責任ある主体的な 選択や決断を積み重ねていかなければならないという側面を不可避的に含み 持っている。. そして,これまで見てきたような社会的課題をも含めて,子供たちや国民 の一人ひとりが,自らそれぞれの生活的諸問題の解決に進んで参加し,一歩. 一7一.

(14) ずつでもそれらを前進させていこうとする,意欲的な姿勢を身につけること が必要である。…・(略)…・. したがって,このような目標の達成に,大きなかかわりと重要な責任を持 っている社会科教育の場においても,社会科のねらいを示す言葉としての『公 民的資質』の意味内容と,それを達成するための具体的な学力像や学際的な 授業実践のあり方について,単なる知識・理解の習得だけにとどまらず,広 い国際的視野と人間への深い関心を持ち,自ら考え主体的に判断しながら, 社会生活に意欲的に参加していくことのできる子供の育成という観点から,. もう一度深く,新鮮なイメージでとらえ直していくことが必要になってくる であろう。」9). 以上のように,今谷氏の授業論は,社会的諸問題に対して深く関心を持ち,. こうした問題に自ら進んで関わりながら,主体的に考え判断し,未来に向けて の実践的態度を身につけさせることを目標原理としていることがわかる。 (2)方法原理. では,今谷氏の授業論を支える方法原理はどのようなものであろうか。今谷 氏は,「これまでの知識中心的な古い断片的学力観から抜け出して,学習の内 発化や活動・体験化,個性化や生活化といった新しい学力観に基づいた社会科 授業」10)における展開について次のように述べている。. 「新しい学力観に立つ社:会科授業においては,子どもたちが,まず生活で直. 面した困難やつまずきや課題を,第三者によって与えられた間接的な知識や 抽象的な真理で満足するのではなく,絶えず自分の目で見,耳で聞き,頭で 考えながら,一つのことを多面的な角度から柔軟に観察することから学習が 始まる。そして,多様な見方や感じ方をもって様々な試みや働きかけを行う なかで,自分なりに納得のいく新しい個性的な志向や行動を生み出していく ことができるようにすることが大切である。 このような授業を展開していくためには,これまでの教師中心の一方的な 知識注入の授業から,教師が一歩下がって子どもに寄り添い活動を認め支え 励ましながら進めていく,子ども自らが主体的に活動し学びとっていく授業 へと,授業観を大きく転換させていくことが不可欠となってくる。」11) 以上のような視点に立ち,今谷氏は,社会科授業をとおして,子どもたちの 中に形成していきたい学力の全体像を「人間中心・人間本位の社会科の学力像」. 一8一.

(15) (図1−1−1)として,自らの学習論の構造(図1−1−2). とともに示し,それぞ. れについてねらいと意義を説いている。. 主体的な社会参加. タ践的な社会的行為 合理的意志決定. 層. i問題解決). 確定した行為の主体的実現とそれによっても 実践的能力・社 スらされる影響や結果の積極的受容 ?I態度 とり得る多様な行為の究明 社会的判断力. 級ハ(長所・短所)の予測 ナ善の行為の確定 価値の分析・解明. 価値的領域. ソ値の比較・対照・配列 ソ値の選択・判断. 価値的判断能力. 興味関心イメージ. 共感的社会的技. 層 情緒的・感性的領域. ¥. ミ会的受容性 人間的共感 認知的領域. 層. 事実概念 一般法則 解釈 ェ析評価 問いの組織化 推論. 知的思考能力. 図1一レ1【人間中心・人間本位の社会科の新しい学力像】12). 社会的問題野面. 社会的探究. 価値的探究. 社会的感受性. 心情への共感. 社会的知識. 価値の明確化. 合理的意志決定 知性的な社会的行為. 図1−1−2【新しい問題解決学習の構造】!3). 一9一.

(16) ①問題場面の発見(事実的知識の発見). この場面におけるねらいと目標とする能力について,今谷氏は次のように述 べている。. 「ここでは,子供たちを取り巻く社会生活の中で,今どのような問題や出来. 事が生じているか,それについての基礎的,基本的な事実をできるだけ正確 かつ豊富に獲得することがねらいである。…・(略)…・ したがって,出目の子供たちの思考や行動の中で,ますます希薄化しつつ ある社会生活についての興味・関心を新たに刺激し,彼らと社会生活との問 に再び知的緊張関係を取り戻していくためには,なにをおいてもまず,子供 たちを取り巻く社会的現実についてのできるだけ正確で豊富な知識を,自ら の力で獲得していくことのできる能力,つまりは『問題発見能力』を育成す ることが大切になってくる。」14). このように,正確で豊富な事実的知識を獲得させることを,子ども自身に問 題を発見させ,追究への足がかりとするとともに,その後の思考活動の素材・ 媒介物として位置づけている。. また今谷氏は,興味深い社会的事実と出会うことが,子どもの社会に対する 目を開かせ,問題を見つめ追究する目を鋭くするとも指摘している。 ②心情への共感(情緒的な豊かさと鋭敏さと柔軟性の拡大). この場面におけるねらいと目標とする態度について,今谷氏は次のように述 べている。. 「ここでのねらいは,知的冷静さを持って具体的な社会問題の原因を究明し,. 解決方法を探索していくに先だって,まず,その問題と直接かかわりその問 題の渦中に巻き込まれている人々が,どのようなことを感じ,どのような気 持ちになっているか,その心情を当事者の立場に立ってくみ取り,できるだ け共感的に理解することである。…・(略)・…豊かな人面的共感能力の育 成は,このような問題を克服し,子供たちの社会に対する興味関心を高めて いくとともに,健全な社会性や民主的な生活態度を発展させ,民族と文化の 多元的共存への開かれた姿勢を確立していく上で,極めて重要な役割を果た すものであるということができる。 ・… (略)…・. ・…(略)…・社会的感受性の強化と柔軟化としての共感能力の育成は,. 一10・.

(17) 自分とは異なった多様な考え方を持つ人々の存在を認め,他者と積極的にか かわり交流しながら,自己の人格を豊かに形成していこうとする,開かれた 社会的態度と民主的な人間関係及び地球的規模での連帯感を確立していく上 で欠くことのできない,極めて重要な要素であるということができよう。」15). さらに今谷氏は,共感能力は,他者への興味・関心を拡大発展させていく上 で不可欠であるばかりでなく,自己自身への関心を高め,自己を見つめとらえ 直す力をより強固にする役割を果たすとしながら,次のように述べている。 「したがって,共感によって強く動機づけられ支えられた社会的探究は,子 供自身の人格形成と直接かかわりを持った社会認識を形成していく上でも, 極めて重要な条件であるといえよう。」1‘). 以上のように,今谷氏は共感を社会的態度育成の基礎として位置づけるとと もに,社会認識と人格形成を結ぶ接点としてとらえている。 ③原因の探究(概念的・法則的知識の獲得). この場面におけるねらいについて,今谷氏は次のように述べている。 「ここでは,自分たちが直面した社会問題に対して,それをどのように対処 しながら解決していけばよいかを決めるために欠くことのできない,一つの. 重要な学習活動として,その問題がいったい,いかなる原因や背景によって 生じているかを,表面的な現象を越えて推論しながら,さらに深く追究して いく。つまり,とりあえず,ああではないか,こうではないかという自分な りの問いかけを持ち,その予想が果たしてどの程度正しいかを,具体的な証 拠資料によって論理的に分析し,吟味・検討していくわけである。」17) ここでは,科学的探究の方法としての仮説の設定と検証活動を組み込むこと によって,社会現象の本質をつかみ,子どもの社会認識を論理的で客観的なも のへと発展させていこうとするのである。. 今谷氏は,フランケル(Jack R,Fraenke1)が提案する仮説検証過程を踏ま. えながら,本場面において獲得すべき技能として次の表14−1に示す3つを挙 げている18)。. ・II一.

(18) 表1−1−1【原因探究過程において獲得すべき技能】u). 技 能 情報収集技能. 探究技能. 主体的参加技能. 内. 容. 観察によって情報を獲得する,多様な資料からの情報を位置づけ る,情報を整理し組織し評価する,情報を抜粋し解釈する 事物の考えや出来事や公共を類似と相違という観点から比較する, 範疇によって項目を分類したりグループわけしたりする,探究を 導く適切な問いを組織する,証拠から結論や推論を引き出す,一 般法則に到達する,一般法期に基づいて鋭い予測を行う. グループの構成員として他のメンバーと効果的に活動する,他の 人の特性や権利を尊重し義務を受け入れる,興味を促進するため に他のグループと共同する,自分の目的を達成するために我慢強 く持続的に学習する. ④願い・価値の究明(行為の目的の明確化) 今谷氏は,価値:の基本的性格について,次のように述べている。. 「・… (略)・…社会問題の根底には,必ず互いに矛盾対立し合ういくつか. の価値や立場が問題発生の根元的理由として横たわっているということであ る。したがって,我々が具体的な問題に対して取るべき行為を決定するため には,それに先立って,そこでどのような価値や規範が対立し合っており, そのうちどれを,これから自分が取る行為によって実現していくことが望ま しいと考えるのかを,自分が保持している願いや価値とのかかわりの中で明 らかにしておかなければならない。 これによって我々は,これまで自分が拘束されていた非論理的で古い価値 観から自由になり,自分の欲求を真に実現しうる創造的な価値規範に基づい て,自発的に取るべき行為を決定することが可能になるのである。」19). このように,問題場面に対処していくためには,それについての事実的知識 や背後にある因果関係のみならず,その奥に内在するさまざまな立場の人々の 種々の願いや価値を明らかにしなければならないとするのである。 こうして,「願い・価値の究明」の学習活動を展開することで,価値探究及 び価値選択の能力を形成するとしている。 ⑤合理的意志決定(自立的な社会的行為の実践). この場面のねらいと目標とする態度について,今谷氏は次のように述べてい. 一12・.

(19) る。. 「ここでは,これまでに獲得した質の高い社会的知識と,自分が支持すべき. 社会的価値とを関連づけ統合的に活用しながら,自分が直面している問題場 面に対してどのように対処すべきかを決定していく。実際には,まず,自分 が取りうるできるだけ多様な選択的行為の方法を究明した後,それぞれを実 行に移すことによってもたらされる結果を,長所と短所という観点から,で きるだけ具体的に予測する。. そして,自分が獲得した知的理解や価値的立場と一貫した形で,最も効果 的に目標を達成することのできる社会的行為はどれかを,自由で思慮深い吟 味のすえに,自らの決断によって選び取っていくわけである。これによって, 本当に自分の納得のいく知識と心情によって支えられた社会的行為を究明 し,進んでそれを実行に移し,その結果を積極的に受け入れていこうとする, 真に自立的で実践的で責任ある社会参加の態度を確立していくことが可能に なるのである。」鋤. 以上見てきたように,今谷氏は,①「問題場面の発見」,②「心情への共感」,. ③「原因の探究」,④「願い・価値の究明」,⑤「合理的意志決定」,そして,. ⑥「主体的な社会参加」の6っの視点を授業構成に組み込むという方法原理を 説いている。それに基づいて,「社会的諸問題に対して深く関心を持ち,こう した問題に自ら進んで関わりながら,主体的に考え判断し,未来に向けての実 践的態度を身につけさせる」という目標原理に迫ろうとするのである。. 2.授業構成の実際一地理的分野単元「飢えるアフリカ」の場合 ここで,今谷順重氏の授業論に基づく典型的実践事例として,花房敬一氏実 践,中学校地理的分野,単元「飢えるアフリカ」(中学校1年)2Dを示し,分 析する。. その際,獲得される知識の質およびその習得方法,追究対象としている問題 と問題解決のプロセスを視点とする。. (1)単元計画 単元の全体計画は,以下の表1−1−2のとおりである。なお,表中の数字は今 谷論の授業構成の視点を示す。. 一13一.

(20) 表1−1−2【地理的分野単元「飢えるアフリカの全体計画】箆). 第1時. 今,アフリカで何が起こっているか. (問題場面の発見) ①. 第2時. もし君がアフリカの住民なら. (心情への共感). 第3時 第4時. 第5∼7時. なぜアフリカは飢えるのか なぜアフリカは飢えるのか なぜアフリカは飢えるのか. 第8時. アフリカ援助は飢えの解消に役立っているか(願い・価値の究明). ②. (原因の探究一予想から仮説へ) (原因の探究一一検証資料の作成)③ (原因の探究一仮説の検証). ⑥. ④. 第9∼10時 アフリカの飢えをなくするにはどうすればよいか(合理的意志決定) ⑤. (2)授業展開23). 第1時 今,アフリカで何が起こっているか(問題場面の発見) 主な発問. 資料. 学習活動. 生徒の認識. ・アフリカの食 ・アフリカ ・食糧不足国を確 ・アフリカの食糧不足国は,サバ 糧不足国はどの の食糧不足 認する ナ気候,ステップ気候の影響下に ように分布して 国の分布図 ある地域に,ほぼ「つ」の字形に 分布している.. いるか。. ・将来予想される大幅な人口増加 や砂漠化の進行で,食糧不足がさ らに深刻化する可能性が高い。 ・アフリカの飢 えはどのような 実態なのか。. ・新聞記事 ・薪聞記事から飢 ・エチオピアの高地にある難民キ 「飢えるア えの実態を把握す ヤンプの実態 !0目間で335人が死んだ フリカ 寒 る 簡単に済まされる弔い 冷雨のキャ 3歳で身長71cm,6.5㎏と極端. ンプから」. に栄養失調の子供. 汚れた川の水を飲むことによる ・どのような感 想を持ったか。. ・実態を把握して の感想を述べる。. 赤痢の蔓延 ・「アフリカの難民のことは少しぐ らいは知っているつもりだったカ㍉. とんでもない、一番驚いたのが多 くの死体,次に死体。アフリカは 暑い暑いと思っていたけれど,や っばり寒いときもあるのですね・・ 怐v. E「私が一番強く印象に残ったのは. 幼児のことです。私の弟は,10ヶ. 一14一.

(21) 月で身長は80c厘,体重は11.5㎏,. 足なんてとても手では計れませ ん。」. 第2時 もし君がアフリカの住民なら(心情への共感) 主な発問. 学習活動. 資料. ・ビデオ(難. 生徒の認識. ・ビデオの視聴. 民キャンプ ・ビデオを視聴し で健康状態 ての感想発表 をチェック する医師,. 栄養食の給 食場面,砂 ノミの治療 の様子など). 「飢えるア. フリカ」写 真パネル ・体験談の発表. ・みんなの中 で,腹淋へって へってがまんが できなかったと いう体験談が生 まれてから今ま でにある人,ち よっと立ってこ らん。それでは 体験談を発表し. ・「夏休みにドライブに行ったと き,昼食をほとんど食べず,夜11 時くらいになっても店がなくて何 も食べられなかった。」. ・「風邪を引いたときに2日間何も. 食べられなかったら,食べてもす ぐに吐いてしまって,食べたくて も食べられない,もう動きたくな いという感じだった。」. ’. てもらおう。. ・学習後の感想発. ・「ほとんどの人がかろうじて生き. ているということが印象的です。 今までアフリカ難民のことは知っ ていたけれど,今日のビデオのあ りありとした場面をみてびっくり しました。これまで,赤十字の運 動に少ししか寄付していなかった. 表. のが残念です。」. 。15・.

(22) 第3∼4時 なぜアフリカは飢えるのか 主な発問. 資料. ・なぜアフリカ. 学習活動. 生徒の認識. ・自由に予想を出 し,質疑応答をと. では,深刻な食 糧危機が起きて いるのか。(予. おして仮説へと練 り上げる。. ・各グループごと. 想から仮説へ). に仮説を分担し,. 証拠資料を収集し 調査する。. 第5時 なぜアフリカは飢えるのか(原因の探究一仮説の検証) 主な発問. 資料. 学習活動. 生徒の認識. ・仮説①「雨が ・小集団で ・小集団で作成し 降らず,干ばつ 作成した資 た資料をもとに発 になり,作物が 料(プリン 表し,全体で討論 とれなくなって ト,TP,模 する。 しまった。」に 造紙など) ついて発表しな さい。. ・仮説をうらづ. ・サヘル地方は,雨量が少ない。. けるどんな事実 がみつかりまし. ・雨の降らない時期は,過去にも 何回もあった。. たか。. ・予想していな くて,新たにわ かったことはど. ・砂漠化は,人間が手を加えすぎ たことも原因している。. んなことです か。. ・仮説への疑問. ・「作物がとれない」についてどれ くらい減っているのか。. はどんなことで すか。. ・仮説に反する. ・作物がとれないだけが,飢えの. 事実にどんなご とがありました. 原因ではない。. か。. ・雨が降らず,干ばつになり,作 物がとれなくなってしまっただけ でなく,砂漠化や人間の営みも原. ・仮説を確かめ た結果,どのよ うに結論づける ことぶできます. 因している。. 一16・.

(23) 書8時 アフリカの援助は飢えの解消に役立っているか(願い・価値の究明) 主な発問. ・新聞記事. 生徒の認識. 学習活動. 資料. ・新聞記事を読む. ・神戸大学付属中学校の生徒会が 「世界の子供達と心の手をつなご う」をテーマに取り組んでいる難 民救済キャンペーンや,加古川市. の小学生姉妹が,0のつく日はお やつとテレビのない日にして,そ の分のお金をユニセフのアフリカ 基金に寄付している,という事実 を知る。. ・アフリカの人. たちの飢えを救 いたいというわ たしたちの願い と,それを実現 するための援助 活動が,本当に 現地の人たちの 飢えの解消に役 立っているだろ. ・教師の問いかけ. ・「一人でも多くの人が,病気なん. について,話し合 かから助けられるっていうことは, う。 多分役に立っているだろうと思い ます。」. ・「ぼくは役に立っていないと思い. ます。わけは,今現在でも援助し ているけれど死者はたくさんいる し,ビデオで見たようにすごく少 ないからです。∫. ・「役に立っていない。理由は,少. しでも難民が助かることは非常に いいと思いますが,農民や難民に. うか。. 自立心がなくなると思います。」. ・教師の説明を聞. ・教師の説明により以下の事実を 知る。食糧援助は大きく拡大され ているが,飢えに苦しむ国は逆に 増えており,アフリカ全体の食糧自給率は低下してい ること。その理由として,最初から農業援助をあてに して農業政策を立てる国が多く,援助そのものが各国 の農業開発をそこなっていること。援助物資の横流し や不正流用で,食糧援助が十分行き渡らない。先進国 から送られた農業機械も故障に対応できない。農業機. く。. 械がアフリカの土壌をメチャクチャにしてしまうこと。. 小麦や米の援助食糧演,アフリカの自然に適した伝統 食物を閉め出してしまったこと。 ・みんながアフ リカの住民だっ. たら,もっとど んな違った援助 の仕方をしてほ. ・先進国を優先させた援助ではなく,現地の実情の十 分な理解の上に立って,飢えや貧困から自分たち自身 の力で抜け出していきたいというアフリカの人たちの 願いを実現していくことができるような,自助努力を 促すための援助でなくてはならないことに気づく。. 一17一.

(24) 第9∼10時. アフリカの飢えをなくするにはどうすればよいか(合理的意志. 決定). 主な発問. 資料. 生徒の認識. 学習活動. ・私たち,日本 ・具体的な ・4っの立場に分 ・プランテーションをなくする, の政府,アプリ 解決方法と かれ, どのような 政府を強くする,教育の充実,巨 万の住民,アフ その方法の 解決方法を実行し 大な運河を造る,緑を増やす,作 りカの政府は,. 凱えをなくすた めにはどのよう な解決策を立て て実行すればよ いかを考えなさ い。. ていけばよいかに 物の品種改良をする。(4っの立場 がそれぞれどれに対応するかにつ 短所,さら もつ長所・. ついて話し合う。. いては,具体的な記述はない。) ・τとにかく農業を発展させること が,今のアフリカの課題だと思う。. にそれを実 行に移す際 の優先順位 を記入する ためのワー. だからやたらと募金を送るより, 技術指導員を送ってやれば,こち らがやり方を押しつけるよりも,. クシート. 現地にあった方法を見つけてくれ ると思う。」. ・今,発表した. ・種々の解決方法 について, 実行に. 中で,もっと詳 しく説明してほ しいとか,困難. 移すとどのように. ではないかと. 対に問題は起きて. か,もっと他に こんな方法があ. 観点から,. るのではない. 全体で,. か,などはあり. 討していく。. 良くなるのか, 反. こないのかという クラス. 順番に検. ませんか。. ・これらのすべ ・プリント ・自分が選んだ最 ・教師の説明により,貴重な食糧 ての具体的な解 「自分の解 善の方法とその根 がネズミや昆虫に食べられないよ 決方法をふまえ 決方法」 拠をプリントに書 うにするための食糧倉庫の充実, き,発表する。 井戸掘りやかんがい施設の建設, て,自分が実行 に移すとすれば 鍬や鎌の援助,食生活を変えるた これだという一 めの農作物の見直し,日本政府が. つの解決方法 を,その根拠を あげて,プリン. 合理的意志決定. トに書きなさ. 計画しているアフリカ緑化のため の「緑の構想」など,実際に実行 に移されようとしている具体策を 知る。. い。. (3)授業展開の概要. 一18一.

(25) 今谷氏の授業論に基づく本授業の展開をモデル化すると以下の図1−1−3のよ うになる。. 原因の探究. @. い・価値の究明. I. 方策 予測評価価値. 選択 1⑤⑭⑤. 1. i…i妻i欝壽. iiiiliiil. @. 情報. 﨣?. 問題. @ @. 﨣 ,〆. A1. 目標. 難. 国. A2. p. A3. 国. A1. @ 、、. 1、共感ノ. ①問題場面の ②心情への ③原因の④旨い・緬値の 発見 共感 探究 究明. ⑤合理的意志決定. 図1−1−3【今谷氏の授業論に基づく授業展開モデル】(渥美作成). 授業では,まず現在のアフリカに関する情報を教師が提示し,食糧危機が深 刻化しているという問題を発見させる。さらに,その問題を子どもにとって身 近な生活体験と結びつけることによって,アフリカの人々の心情に共感させ, 実感的にとらえさせていく。この「心情への共感」によって,より問題に対す る切実感を高め,問題の原因探究への意欲を強めている。. 次に,なぜこのような深刻な事態になったのかについて,予想→仮説→検証 という科学的な原因探究が行われる。さらに,この原因の探究を基礎に,そこ. に内在するアフリカの人々や,援助する立場としての子どもの様々な願いや価 値を明らかにしながら,取るべき価値的立場を決定することになる。このよう にして,今後の行動の指針いわば「○○の問題を,このように解決しよう」と いう共有化された目標が設定される。. 行動の指針である目標が明らかになると,意志決定の段階で,その目標を達 成するための方策(解決方法)を出し合い,検討することになる。その際,そ れぞれの方策を実行に移した場合,「どのようになるか」という未来の推論(ど のようによくなるか,問題は出てこないか)が,方策選択の重要な要素となる。. つまり,予測される結果についての評価・吟味する活動をとおして方策の順位 づけ,つまり合理的意志決定がなされる。. 。19一.

(26) 3.特質と課題 (1)特質. 今谷氏の授業論の特質として,以下の点が挙げられる。. ①切実性を持った問題追究の保証 今谷氏の授業論の特質は,第1に,「広い国際的視野と人間への深い関心を 持ち,自ら考え主体的に判断しながら,社会生活に意欲的に参加していくこと のできる子供の育成」24)という観点から,社会的問題を子どもの切実な問題と してとらえさせ,その原因追究への意欲を高めている点である。つまり,社会 的問題におかれている人々の「心情への共感」場面を意図的に学習に組み込ん でいることが大きな役割を果たしている。このように,現在の社会的問題を子 ども自身の問題として,実感としてとらえさせている点で非常に意義のある授 業論である。. ②育成すべき資質の明確化 第2は,「問題場面の発見」,「心情への共感」,「原因の探究」,「願い・価値 の究明」,「合理的意志決定」,「主体的な社会参加」という6っの視点を設け,. それぞれの場面においてめざすべき能力・態度を明確にした授業構成が保障さ れていることである。このような視点を設定することで,未来に主体的に関わ り,明るい未来を創造していくことのできる資質形成を積極的に行っているこ とは評価できよう。. (2)課題 しかし,課題として以下の点を指摘したい。. ①偏重した事実的知識の提示と閉ざされた価値認識 まず,偏重した事実的知識の提示がなされ,それが閉ざされた価値認識につ ながっていることである。「問題場面の発見」の段階で,社会的問題を子ども に切実な問題としてとらえさせることを重視するあまり,教師によって価値が 多分に内在する事実的知識が提示されていることが指摘できる。例えば,先の 典型的授業の場合,新聞記事や写真を活用し,アフリカの現状を子どもに提示 しているが,これはアフリカの現状の一側面にしか過ぎない。そのため,この 段階でもはや教師によって,価値を包含した事実的知識が暗黙のうちに注入さ れている。これは,「心情への共感」の場面において,一層顕著になされてい る。. 「原因の探究」場面では,子ども同士の質疑応答によって,予想から仮説に. 一20一.

(27) 高め,小集団ごとに仮説検証のための証拠資料の収集,検証という活動をとお して本質的因果関係を把握し説明的知識を習得させているが,概念的知識の習 得にまでは高められていない。. また,「願い・価値の究明」の段階において,教師によってアフリカの飢え の原因についての事実が述べられ,証拠づけることのできないアフリカの人々. の願いが推論され,一方的に注入されている。これによって,子どもの取るべ き価値が決まっている。. ②追究問題の現在志向性 次に,追究対象となっている問題が現在志向であるということである。今谷 氏の授業論は,「現在起こっている社会的問題」を子どもに認識させ,「解決す べき問題」として意識させる。つまり,発生型問題の追究である。 先の典型的授業事例から考えると,新聞記事や写真などの資料によって,「ア. フリカの食糧不足」という社会的事象を,すべての子どもに「問題」として共 有化させ,目の前で起こっている社会的問題として印象づけている。 このような現に発生している社会的問題を追究することについて,伊東亮三 氏が次のような意見を述べている。 「『いま』の現象的な多くの聞題は,『いま』のおとなの問題である。今後数. 十年生きる生徒の問題であるとは必ずしもいえない。極端な例を出すと,小 学校5年生の子どもに,日本の農業の問題である減反政策や機械化貧乏の問 題を教えることはどんな意味があるだろう。彼らがおとなになった時には, そんな問題は解決されているか形が変わって現れているだろう。」25). 今谷氏の授業論は,未来に向けて主体的に社会参加する実践的な態度を育て るという点で,未来志向性を有している。しかし,あくまでも「現に発生して いる問題」への対応という点で,現在志向といえる。発生型問題の追究の流れ は,以下の図1−1−4のように示すことができる。 目標(現在). どうなればよいか なぜそうなったのか どうなっているか. 原因(過去). どうずればよいか 対策(未来). 現状(現在) 図1−1−4【発生型問題追究の基本的な流れ】26). 一2レ.

(28) さらに,原因志向型の問題つまり発生型問題を追究することに関連して,小 西正雄氏は,次のような問題点を指摘している。 「・…(略)・…地名や年号には,それを選択する過程はともかくとして, その知識自体に価値的な要素は加わらないのに対して,社会問題の場合には, 必ず善・悪の価値が随伴するという点である。. 問題とは何らかの解決を期待される状態のことである。しかしその解決の 方向は一つとは限らない。ゆえにその問題の原因を何に求め,どうずればそ の問題を解決できるかを考える過程で,教師も子どもも価値的な世界に入り 込まざるをえなくなる。」27). 今谷氏の授業論の場合,既に価値が内在している事実的知識に基づいて,「現. 在発生している問題」をとらえさせている。しかも,問題状況におかれている 立場の人々への共感や願い・価値:の究明によって,方向づけられた価値,すな. わち教師が望ましいとする目標のもとに,それを達成するための方策が検討さ れることになる。つまり,価値が固定され,それを前提とした上での方策が検 討されるのである。最終的には個人の価値判断による順位づけは行われるもの の,価値認識は閉ざされたものになっている。さらに,その方策はあくまでも 方策を講じた場合の「結果の予測」や評価は,科学的なものにはなっておらず, 子どもの経験に頼る部分が大きい。したがって,最終的な意志決定は,閉ざさ れた価値のもとで,しかも子どもの感情に左右されやすいものとなる。. 以上考察したとおり,今谷氏の授業論は,現在の社会的問題,つまり発生型 問題を子どもに認識させ,子どもの願いやめざすべき価値が教師の指導によっ てそれが前提となり,その達成を目標に問題に対する解決策を決定するものと なっている。このように,足場を現在に置き,未来に向けて開かれた価値認識 を保証していないという点で,未来志向性が弱いという課題がある。. 第2節 探索型問題を追究する授業論(1》 この授業論の典型として,まず,小原友行氏の授業論が挙げられる。氏の授 業論は,「意思決定」を方法原理として,子どもが自己の未来の生き方を追求. 一22一.

(29) していく能力,つまり意思決定力の育成を目標原理としている。本節では,そ の詳細について考察し,特質と課題を明らかにする。. 1.授業構成原理 (1)目標原理. 小原友行氏は,わが国の社会科誕生の背景とその性格について,次のように 述べている。. 「わが国で社会科が誕生したのは1947年(昭和22)年のことであるが,そ れは,アメリカ合衆国の場合と同様に,戦後の民主的社会を担う実践人の育 成という歴史的課題に応えるためであった。社会科は,貧困の克服や社会の 民主化の実現といった課題に直面していた戦後の混乱期の中で,子どもたち に問題を解決させることによって民主的社会を担う市民(公民)を育成しよ うとする,新教育の中心的教科として位置づけられた。」銘). 小原氏は,このような社会科誕生の背景と性格から,戦後初期における無着 成恭の「山びこ学校」のように,貧しさの中から「問題解決」を方法原理とし. た実践が生まれたことを指摘している。さらに,昭和30年半以降の経済成長 期における社会科は,豊かさを求めて人間(個人・集団・組織体)が問題を解 決してきた,その問題解決的行為の過程を体験・追体験させることをとおして 生き方を学ばせようとする,「理解」を方法原理とするものに変わっていった とも述べている鋤。. では,小原氏は今目において社会科において育成すべき資質をどのようにと らえているのか。氏は,これまでの「問題解決」や「理解」という方法原理を 踏襲するだけでよいのだろうか,という問題意識を持ちながら,わが国におけ る今日的課題について次のように述べている。 「ところで,今日では,戦後初期の子どもや社会が直面していた課題の多く. は解決された。現在では,形成された民主的社会をいかに守っていくかが課 題となっている。また,豊かさを求めて人間が努力してきた代償として直面 しなければならなかった,社会の急激な変化や地球環境の悪化などの新たな 問題に,豊かさを保持しながら対応していくにはどうしたらよいかが課題と なっている。」30). 小原氏はそこで,このような,国際化,情報化,高齢化,価値多様化,地球. 。23一.

(30) 環境の悪化といった社会の急激な変化や課題が山積する社会に主体的に対処し て生きていくことが求められるこれからの時代において,社会認識をとおして 育成すべき公民的資質について,次のように述べている。 「これからの時代の公民(市民)に求められる資質は,民主的社会の主権者. として,今後ますます加速化し深刻化していくことが予想されている社会の 変化や課題に対して,合理的な判断を行い,適切な社会的行為を選択してい くことができる能力であろう。このような自己の社会的行為を合理的に選択 し決定する力は,これからの時代を生きる人間にとって,特に求められる能 力であると考えることができる。なぜなら,現代社会が直面している課題, あるいは今後直面することが予想される課題のほとんどは,価値観の違いに よって解決策が分かれるような,それゆえ合理的な解決が困難な問題ばかり であるからである。このような社会においては,主権者である公民(市民). 一人一人が,自ら生き方を追求し選択していくことが求められることにな る。」3:). このように,小原氏の学習論は,社会的事象の:事実認識にもとづいて,社会 の変化や課題に対して合理的に判断を行い,適切に社会的行為を選択していく. 能力,つまり,未来を合理的に選択していくという能力の育成をめざしている ことがわかる。小原氏は,これからの社会科で育成すべきこの能力を「意思決 定力」であるとし,次のように定義している。 「意思決定力とは,問題場面での自己の行為を科学的な事実認識と反省的に. 吟味された価値判断に基づいて選択・決定するために必要な能力であり,目 的・目標を達成するために考えられる実行可能なすべての行動案(手段・方 法),あるいは問題を解決するために考えられるすべての解決策の中から, より望ましいと判断できるものを選択・決定することのできる能力である。 具体的には,『何をなすべきか』『何がなされねばならないか』『どの解決策 がより望ましいのか』という問いに対する実践的判断を行う能力である。」 32). 以上のように,小原氏の授業論では,意思決定力の育成が目標原理とされ,. この能力こそ自己の未来の生き方を追求していく能力であり,これからの時代 の公民的資質の中核をなすものとしている。 (2)方法原理. 一24・.

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