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社会科授業の変革の方向性一未来志向の視点から一

@ 支 @ 点

第5節 社会科授業の変革の方向性一未来志向の視点から一

 本節では,これまでの社会科授業論の分析を踏まえ,未来志向の視点から,

これからの社会科授業の変革の方向性について述べる。

 これまで,社会的問題を取り上げている今谷順重,小原友行,岩田一彦,小 西正雄,4氏の授業論を,追究対象とする「問題」の視点から分類・分析した。

そして,そこに内在する未来志向の論理を抽出し,これらの授業論の特質と課 題を明らかにした。4氏の授業論を,追究対象とする「問題」と意志決定に至

るまでの授業構成を視点にまとめると,以下の表1−5−1のように整理すること ができる。

表1−5−1【各授業論の追究対象問題の類型と授業構成】(渥美作成)

視点    論者 今谷順重 小原友行 岩田一彦 小西正雄

「問題」の類型 発生型 探索型 探索型 設定型

授業構成(概念 T究と価値追求 フ関係)

概念,価値

@並行

概念→価値

@連続

概念→価値

概念←→価値

@ 往復

 そこで,これまでの分析の成果を踏まえ,未来志向の視点から社会科授業の 変:革の方向性を示す。

1.設定型問題の追究

 4氏の授業論において,追究の対象としている「問題」について見てみよう。

今谷氏の場合,「現在起こっている社会的問題」である発生型問題を扱い,「解 決すべき」ものとして原因を追究する。原因を追究することで,未来に向けて の対策を検討する原因志向性の強い授業論であった。小原,岩田両氏の場合,

科学的な事実認識に基づいて,社会的論争問題を追究している。この社会的論 争問題は,現状を改善するという性格をもつ探索型問題といえる。「なぜこの ような現状なのか」という原因を追究するとともに,「現状をもっとよくする には」と未来に向けて目標を意識的に引き上げて検討する。つまり,両氏の授 業論は,原因・目標両面を志向するものであった。これらに対し,小西氏の場 合,未来状況下において「どうするか」を検討する設定型問題を追究する授業 論であった。「問題」の類型から見ると,発生型問題は「どうなっているか」

という現状に注目し,探索型問題は「どうなればよいか」という目標に注目し て追究する問題である。一方,設定型問題は,「これからどうするか」という ものであり,「もし〜ならば」という仮定を設定して追究する問題である。つ まり,将来の問題を予想して取り組む,変化を先取りする問題といえる。した がって,発生型より探索型,それよりも設定型問題が,より将来を意識した未 来志向性の強い問題と考えることができる。ところで,佐藤允一氏は,経営学 に携わる立場から,次のように述べている。

「『経営とは環境変化への適応である』といわれるように,新しい環境への 適応一したがって過去の定型的問題の思考の枠内では解決できない一が求め

られていること,また,過去に原因があって現在問題が起きているという発 生型の問題を扱うだけでは不十分で,改善や向上を意図した探索型の問題や,

未来から現在を眺めて問題を創り出すという設定型の問題に対処しなければ ならないこと…などによって他の職業に比して,より高度な視野を必要と

しているということができます。」91)

 経営のみならず,教育においても,不確実性の高い21世紀に向けて,子ど もに主体的に未来に対処する能力を育成する必要がある。そのためにも,社会 科教育において,「起こるかもしれないが,起こらないかもしれない」という 不確実性の問題である設定型問題を追究させることは意義あることである。

2.切実なる追究課題としての設定型問題の定立

 これからの社会科教育では,将来の問題を予想して取り組む,変化を先取り する設定型問題を追究させることの必要性について前項で述べた。しかし,そ の問題は現実的で子どもにとって切実なる追究課題としなければならない。で は,その問題はどのようにして定立することが必要だろうか。

 これまでの授業論を見ると,問題設定が所与のものとなっており,なぜその ような問題の追究が必要なのかの根拠が不明確である。つまり,なぜ学ぶ意義 があるのかを,子どもが認識できるようなかたちで問題設定が行われていると は言い難い。設定型問題を追究する小西氏の授業論の場合,「未確定」の学習 課題の最たるものとして近未来の社会事象を扱っている。しかし,それをどの

ようにして導出し,追究対象として定立したかの方法論は示されていない。

 設定型問題を定立する場合,教師の一方的な考えや子どもの思いつきによる ものであっては,非現実的なものになるばかりでなく,子どもの追究意欲も高 めることはできない。問題を所与のものとしてそれを解決する過程のみならず,

問題自体をつくっていく過程を組み込むことが必要である。そうすることで,

子どもは学ぶ意義を認識し,問題を有効な追究課題とすることができる。その ためには,確かな事実認識の成果を活かし,論理的に設定型問題を定立するこ

とが必要である。

3.科学的な事実認織に基づく質の高い知践獲得の保証

 社会科では,科学的な社会認識の形成を一義としなければならない。価値が 内在していたり,偏った知識,質の低い知識の獲得にとどまれば,社会認識形 成の上でも問題がある。また,価値認識も閉ざされたものとなったり,根拠の あいまいな質の低いものとなる。

 例えば今谷氏の授業論の場合,概念探究と価値認識が並行して行われるため,

獲得される知識は多分に価値を内在した偏ったものになっていることを指摘し た。また,小西氏の授業論の場合でも,価値判断の根拠とするための知識獲得 が随時行われる授業構成のため,知識の質が高まらないことを指摘した。

 したがって授業では,子どもに科学的な事実認識によって,質の高い知識の 獲得を保証しなければならない。このことは,前項にも述べたように,子ども にとって有効な追究課題としての問題定立にも関わることである。

4.開かれた価値認識と科学性の維持

今谷氏の授業論では,価値を内在する知識が獲得されることによって,子ど もの価値認識も閉ざされたものになっている。

 小原,岩田両氏の授業論の場合,価値認識は個人の主体性を保証している。

しかし,小原氏の授業論では,事実認識に基づいた価値認識が重視され,また 岩田氏の授業論の場合,事実認識に基づいて未来予測を行い,それを根拠とし た価値認識がなされる。しかし,両授業論とも,子どもの自由な発想に基づい て,それを価値認識の根拠とすることは許容されにくい。

 一方,小西氏の授業論の場合,子どもの自由な発想に基づく未来予測を根拠 とする価値認識が保証される。しかし,時に空想的なものになったり,質の低 い常識的な知識に基づいたものであるため,認識の質も低いものになっている。

 未来の事象を先取りする設定型問題の追究を行う場合,未来は誰にも正確に 言い当てることができないということを考えると,子どもの価値認識は最大限 に尊重されることが必要である。しかし,そこで夢を語るにとどまれば社会科 とはいえなくなる。あくまでも,科学性を維持しながら子どもの自由な発想に 基づく未来の推論を許容し,開かれた価値認識を保証する授業を構成する必要

がある。

 以上のように,確かな事実認識に基づいて科学的に未来を推論して設定型問 題を定立することで,未来を先取りし,問題を現実的で切実なるものとして追 究させることが可能である。また,問題追究に際しては,科学性を維持しなが ら子どもの自由な発想に基づく未来の推論を許容し,開かれた価値認識を保証 していくことが必要である。

【註】

1)佐藤;允一著『問題構造学入門』ダイヤモンド社,1984,pJ53 2)同上書,p.46より抜粋。一部修正。

3)同上書,p.62より抜粋。

4)同上書,p.61 5)同上書,P.62 6)同上書,p.63

7)なお,佐藤允一氏は,それぞれの類型の「問題」をさらに細分化して性格づけし,以 下の図を示している。詳細については,同上書pp,63・68を参照願いたい。

逸脱問題 ・…基準を逸脱した 発生型の問題

(原因志向型) 未達問題 ・…課題を達成せず

改善問題 …・方法を改善する 探索型の問題

(両面志向型) 強化問題 ・…体制を強化する

開発問題 ・…機会を開発する 設定型の悶題

(目標志向型) 回避問題 ・…危険を回避する

8)今谷比重「社会科における単元構成」,社会認識教育学会編『社会科教育学ハンドブッ  ク』明治図書,1994,pp.127

9)今谷順重点『新しい問題解決学習の提唱』ぎょうせい,1988,p.252 10)前掲書8),p.128

11)前掲書8),p130 12)前掲書9),P253 13)前掲書9),p253 14)前掲書9),p.255 15)前掲書9),pp.258−259 16)前掲書9),P.259 17)前掲書9),p.261

18)前掲書9),pp.265・266を要約し,渥美がまとめた。

19)前掲書9),pp.266−267 20)前掲書9),p.272

21)この授業については,前掲書9)pp.216・224に詳しい。

22)前掲書9),p.216を渥美が一部修正した。

23)前掲書9),pp.216−224の授業記録に基づき,渥美がまとめた。

24)このことについては,前掲書9),pp252−253で詳しく述べられている。

25)伊東亮三「高校新科目『現代社会』の社会科教育学的考察」,『社会科研究』第30号,1982,

 P176

26)前掲書1)p.75より抜粋。

27)小西正雄「社会問題科としての社会科」,社会認識教育学会編『社会科教育学ハンドブ

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