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第3節 探索型問題を追究する社会科授業論(2》
この授業論の典型の2つ目には,岩田一彦氏の授業論が挙げられる。氏の授 業論は,概念探究過程と価値分析過程を組み合わせるという方法原理によって,
「科学的な事実判断ができ,合理的な意志決定ができる子どもの育成」を目標 原理とする。本節では,その詳細について考察し,特質と課題について明らか
にする。
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1.授業構成原理
(1)目標原理一「科学的な事実判断ができ,合理的な意志決定のできる子ど も」の育成
岩田一彦氏は,社会科について論じる際には,自分の育てたいという「子ど も像」が必要であるとする。岩田氏は,これは社会科で育てる人間像であり,
「この子ども像のちがいが社会科の学習目標や授業設計論を違ったものにする」
と述べている。そこで岩田氏は,その人間像を「科学的な事実判断ができ,合 理的な意志決定のできる子ども」の育成であるとしている鋤。
岩田氏は,先の子ども像を掲げた理由について,判断には2種の違った種類 があるということを根拠にしていることを,岩崎武雄氏のことばを借りながら 説明している。
つまり,判断には,「〜がある」または「〜である」という,対象が事実い かにあるかということについての判断である事実判断と「〜であるべきである」
または「〜すべきである」という判断である価値判断があり,この事実判断と 価値判断は本質的に全く違ったものであるとする。そして氏は,事実判断に関 わる子ども像を「社会がわかる子ども」,価値判断に関わる子ども像を「論争 問題を考える子ども」と設定している覗)。このことについてまとめると,以下 の表1−3−1のようになる。
表1・3−1【判断の種類と子ども像との関係】45)
判断の種類 子ども像
事実半曝断
@ 「〜がある」
@ 「〜である」
社会がわかる子ども
甘口断
価イ直半U断「〜であるべきであるu〜すべきである」
論争問題を考える子ども
このように岩田氏は,質が異なる2種の判断を明確に分け,それぞれについ
て社会科で育成すべき子ども像と結びつけている。では,氏が社会科で育成す べきであると考える子ども像である「社会がわかる子ども」,「論争問題を考え
る子ども」とは具体的にどのようなものなのか。以下考察する。
①社会がわかる子ども一豊かな情報の獲得と概念装置の形成
岩田氏は,「社会がわかる子どもは,豊かな情報と事象を見る概念装置をも っている。」紛とし,はじめに社会がわかるための要素として,情報の重要性 を次のように述べている。
「わたしたちが社会がわかったという実感がわくのは,日々の体験の中にあ るひとつの事象や事物から世界が見えたときである。そのためには,概略的 情報ではなく,ミクロなところまで眼がいきわたっている情報が重要である。
情報の量的豊かさが必要なのである。
また,量的豊かさだけでなく質的豊かさが情報には必要である。情報の質 的豊かさは,その人の生活史のなかで作り上げられる。たとえば,観察やも のづくりは情報の質的豊かさを実現する代表例である。
観察したことには,無数の具体的情報がある。たとえば,きゅうり栽培を している農家を観察したならば,そこには,言葉ではとても言い表せない情 報量がつまっている。また,実際にきゅうりづくりの体験をしたならば,い
っそうの具体性をもった情報になる。また,よくわかっているつもりになっ ていても,ものを作ろうとしたときには,そのものに対する情報がいかに不 足しているかがよくわかる。」の
このように,岩田氏は,社会がわかるための基礎的材料として,量的にしか も質的に豊かな情報をもつことの重要性を説いている。しかし,情報を集める だけではなく,社会事象を見るための概念装置を作り上げてはじめて社会がわ かることになるとしている。そこで,高根正昭氏の論を引用しながら,「事実」
と呼ぶものは「概念」によって経験的世界から切り取られた,現実の一部に高 ならず,概念があってこそ事実の認識ができると述べている。さらに,内田義 彦氏の言葉を借りながら,社会:事象を認識するために自分の概念装置を自前で 作り上げることが重要であることを指摘している侶)。そして,氏は,自前の概 念装置を作り上げるためにはどうすればよいかについて,次のように述べてい
る。
「概念装置では,原因と結果の関係が基本的な部品となる。すなわち,社会
事象をつねに,原因と結果の関係として見つづけるのである。そのためには,
事象を仮説をもってみていくことが必要である。このようにして自前の概念 装置を作りえた子どもが社会がわかるのである。」49)
以上のように,岩田氏は,「社会がわかる子ども」を育成するためには,子 どもに量的,質的な情報を獲得させるとともに,認識手段としての概念装置を 形成しなければならないと考えていることがわかる。
②論争問題を考える子ども一個性・創造性の重視と合理的意志決定能力 の育成
岩田氏は,社会科で育てる理想的子ども像は,精密で科学的な概念装置を作 りえることのみならず,民主主義社会に生きるにふさわしい価値判断ができる,
つまり,合理的意志決定のできる子どもであることが必要であるとして,次の ように述べている。
「価値判断を求められる問題に積極的に取り組んでいく子どもが,社会科で は求められている。これまでの社会科は価値との取り組みを避けてきた傾向 がある。社会的論争問題に子どもをまきこむことを極力避けたいという考え が教師一般にあったからである。
現在ではその考え方は通用しなくなってきた。たとえば,環境問題に代表 されるような論争問題は,子どもの日々の生活と直接に関わっている。また,
21世紀に向けて,多様な未来予測が要求される。子どもこそ21世紀社会に 生きる主役である。・… (略)…・ここにおいては,答えが1つでないオー プンエンドの社会科授業が行われることになる。個性・創造性の重視が求め
られる。
これまでの社会科はどうであったろうか。学習内容の時代という視点から 見てみよう。過去の社会,現在の社会,未来の社会という3つの時期に分け て,内容を分類したと仮定してみよう。おそらく,過去と現在でその大部分 が占められ,未来社会の占める割合は1%にも満たないであろう。
新教育課程で,個性・創造性が重視されたこともこの『論争問題を考える 子ども』をバックアップしている。ここでは,教育の場にゆとりと遊び,感 性,体験,といったこれまで軽視されがちであったことに対する見直しが必 要になっている。この社会的論争問題を考える学習過程では,合理的に意志 決定する能力や技術の育成がその目的である。」5の
このように,岩田氏は,子どもに論争問題を考えるさせることによって,21 世紀社会の主役として生きるために必要な個性・創造性,そして未来社会を予 測しながら合理的に価値判断ができる能力を育成する必要があると考えるので
ある。
以上見てきたとおり,岩田氏の授業論は,子どもに量的・質的豊かさをもっ た情報の習得を図り,それを基本的材料としながら社会事象の因果関係を基本 的部品とする概念装置を作り上げるという事実認識能力とともに,論争問題を 考えることによって,民主主義社会に生きるにふさわしい価値判断する能力と しての合理的意志決定能力の育成をめざすのである。つまり,「科学的な事実 認識ができ,合理的な意志決定ができる子ども」の育成を目標原理とするので
ある。
(2)方法原理
では,前項で考察した岩田氏の授業論の目標原理を支える方法原理はどのよ うなものか。以下,考察する。
①単元展開の必要条件
岩田氏は,概念装置の性格について,次のように述べている。
「子どもの頭の中で作られる概念装置を,教師が子どもに代わって作って提 供することはできない。情報という部品を集めるところがら,それを組み合 わせていくところまで自分の手で行わざるをえないのである。」51)
このように,概念装置は子ども自身が主体的に事象にはたらきかけることに よって形成が可能になるとする。そこで氏は,「学んだことが役に立つ」,「学 ぶこと自体が楽しい」といった,実用性や知的充実感を実感できるような社会 科授業の構築の必要性を説いている。そして,このことを実現するための単元 展開の必要条件について,次のように述べている。
「第1は一つの社会事象の追求から世界が見えてくることを実感できること
である。
たとえば,4年忌『ごみと住みよいくらし』の単元で,古新聞の回収と古 紙を利用したトイレットペーパーの関係を追求する活動をとりあげてみよ
う。身近なところにある新聞やトイレットペーパーから,清掃工場における 紙ごみの氾濫,古紙の回収のためのボランティア活動,自治体のごみ減量運