【症例】全大動脈置換術後遠隔期に腹部分枝閉塞による腸管虚血を来した 1 手術症例
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(2) 30. 日血外会誌 15巻 1 号. SMA. SVG to CHA SVG to SMA. A Fig. 1. B. A) Retrograde mesenteric and celiac bypass by saphenous vein graft (SVG) was performed. SMA: superior mesenteric artery, CHA: common hepatic artery. B) Schema of bypass procedure.. APTT 28.2s,Fib 386mg / dl,TOT 77%と,血液生化学. 腹部正中切開にて開腹すると,暗血性,膿性の腹水. 検査および血液凝固検査では異常なく,動脈血液ガス. を認め,上行結腸から横行結腸にかけて,一部穿孔を. 分析にてBE −0.4mmol / L,Lactete 3.16mmol / Lと,軽. 含む暗赤色の腸管壊死所見を認めた.術前腹部CTにて. 度のアシドーシスを認めた.. 造影良好と判断されたCA,SMAとも拍動を触れず,血. 胸部・腹部X線検査:心胸郭比は58%で,左下葉は慢. 栓閉塞による虚血性壊死性腸炎と診断した.まず壊死. 性的炎症像を示しており,人工血管と肺との慢性刺激. 腸管部分を切除,その後脾臓摘出を行った.同時平行. が原因と思われる喀血の出血点もこの位置にあると思. でバイパス用の大伏在静脈を剥離採取し,右総腸骨動. われた.腹部ではケルクリング襞を伴う小腸ガス像を. 脈からSMA,総肝動脈(common hepatic artery; CHA)へ. 認め,イレウスが疑われた.. 2 本のバイパス術を施行した (Fig. 1).電磁血流計にて. 腹部CT(computed tomography)検査:腹水貯溜は認. グラフト流量を測定したところ,SMAへのグラフト流. めないものの,感染を思わせる脾臓内ガス像を伴う脾. 量は850ml / min,CHAへの流量は75ml / minであった.. 梗塞を認めた.この時点での腹腔動脈(celiac artery;. 次に,可逆性を見るためグラフトを一時遮断したとき. CA),上腸間膜動脈(superior mesenteric artery; SMA)の. のSMAの流量を計測した.グラフト遮断にてSMA流量. 造影は良好で,腸管には虚血性変化を示す所見は認め. は30ml / minまで低下した.. ず,一部壁肥厚が認められるのみであった.. 腸管吻合再建は待機的とし,ICU(intensive care unit). 経過および手術所見:脾梗塞を伴う感染性腸炎と判. へ帰室.3 日間,腸管の色調を確認し,壊死の進行がな. 断し,抗生剤を使用し注意深く経過観察としたが,そ. いことを確認し,4 月29日二期的に回腸−横行結腸吻合. の翌日,病棟で腹痛の増強とともに大量の下血を認め. 術を施行した.術後腹部正中創が離開し創部感染を併. たため,腸管虚血を疑い緊急開腹術を施行した.. 発したが,創洗浄,消毒処置にて改善,経口摂取後も. 30.
(3) 2006年 2 月. 31. 山城ほか:全大動脈置換術後の腸管虚血. 腹部症状なく経過した. 術後35日目に施行した血管造影検査にて,SMA,CA. Hepatic artery. ともバイパスグラフトからのみ造影されており,腹部 大動脈人工血管分枝再建の吻合部は閉塞していた(Fig. 2). 患者は術後40日目に軽快退院し,術後 2 年経過した. SMA. 現在,腸管虚血症状なく元気に社会復帰している.今 回のevent後,より強力な抗凝固療法が必要と判断し少 量warfarin potassium投与を再度試みたが,内服開始数日 後,喀血再燃あり.Aspirin増量 (200mg / day)にて対処. SVG. することとし,現在も同療法継続中である.. 考 察 大動脈人工血管置換術後遠隔期におけるグラフトに 起因する合併症は吻合部仮性動脈瘤形成,新たな大動 脈拡大 (瘤) ,閉塞等がこれまでに報告されている1∼4). 再建部位が多く,複雑な手技を要する胸腹部大動脈人 工血管置換術の場合,とくにこれらの遠隔期合併症が 問題となる.腹部主要分枝再建方法として,大動脈壁. Fig. 2. 島状切離後人工血管と吻合する方法と,細径人工血管 や静脈グラフトを間置する方法とがある.大動脈壁を. Postoperative digital subtraction angiography revealed thrombotic occlusion of celiac and superior mesenteric arteries, and its were demonstrated by bypass graft only.. 島状にくり抜く場合,腹部分枝を一塊に再建でき,分 枝の基部の狭窄等の危険は少ない反面,遠隔期の瘤化 の危険性が残ることになる.人工血管間置法では分枝. 管の色調が改善していた.われわれはこれまでも虚血. 血管との口径差による吻合部に起因する合併症の危険. 腸管血行再建に対して再建血管の流量を測定し報告し. 性があり,静脈グラフトの間置では分枝血管との口径. てきたが 5, 8),血行再建後も血流量からは腸管虚血の回. は比較的一致するものの人工血管と静脈吻合部の遠隔. 復が確実かどうか判明し得ないと判断し,念のため二. 期の閉塞の可能性が示唆される.したがって,術後の. 期的に腸吻合術を施行した.結果として,腹壁創部の. 経過観察が非常に重要であることはいうまでもない.. 感染を合併した以外,患者の術後経過は概ね良好で腹. しかしながら,いずれの合併症も急激に発症する可能性. 部虚血症状は消失した.. があり,その際の早急な対応が求められることとなる.. 腸管血行再建時の使用グラフトに関する報告では,. 腸管血行再建までの腸管虚血の程度と時間が,患者. 屈曲による遠隔期閉塞の点から人工血管による順行性. の予後に重要な因子であることは明らかである5∼8).腸. 再建が推奨されている6, 7, 10).しかしながら,本症例は. 管虚血に対する腹部主要分枝再建時の流量および圧. 腸管壊死後であり,感染予防の点から自家静脈をグラフ. に関する明確なガイドラインは,Beebeら9)が術中再建. トに使用した.その際,人工血管をin flowとすることを. グラフトの血流測定時に通常450∼500ml / min程度であ. 避け,右総腸骨動脈に自家静脈グラフトを吻合した.. ることを述べた以外,これまで報告されていない.本. 術中,脱転した腸管により自家静脈グラフトが屈曲閉. 症例においては,腸管循環は劇的に改善し,術中計測. 塞しないよう細心の注意を払い,その走行を決定した. したSMAへのグラフト流量は850ml / minであった.さ. が,術後の造影所見からは圧迫・屈曲は認めず良好に. らに対象血管であるSMAとCAの血流と血圧は明らかに. 開存していた.また,SMA,CAともバイパスグラフト. 増加した.この血流量が血行再建に十分であるかどう. からのみ造影されており,腹部大動脈人工血管分枝再. かは明確ではないが,血行再建後明らかに切離断端腸. 建の吻合部は閉塞していた.術後の経過からも,本症. 31.
(4) 32. 日血外会誌 15巻 1 号. 例での自家静脈グラフトの選択は妥当であったと考え. 能性も否定できないため,今後も厳重な経過観察が必. ている.. 要である.. 本症例では喀血症状軽快後,warfarin potassiumを再開 すると出血再発を繰り返していた.胸写および胸部CT. 文 献. 検査にて慢性炎症変化が左下肺野広範囲に存在してお. 1) Cambria, R. P., Brewster, D. C., Moncure, A. C., et al.:. り,炎症肺野と胸部大動脈人工血管との癒着も示唆さ. Recent experience with thoracoabdominal aneurysm repair.. れた.血管造影検査にて明らかな出血点の同定は困難. Arch. Surg., 124: 620-624, 1989.. であり,塞栓療法は不可能と判断.手術療法も考慮し. 2) Hollier, L. H., Symmonds, J. B., Parolero, P. C., et al.:. たが,広範囲肺切除にて止血が得られるかどうか,さ. Thoracoabdominal aortic aneurysm repair: Anarysis of. らに人工血管との癒着部位の剥離に際しての合併症発. postoperative morbidity. Arch. Surg., 123: 871-875, 1988.. 生の危険から積極的な手術療法が躊躇された.幸い,. 3) Schepens, M. A. A. M., Defauw, J. J. A. M., Hamerlijnck,. warfarin potassium中止のみにて症状は寛解するため,人. R. P. H. M., et al.: Surgical treatment of thoracoabdominal. 工弁使用による塞栓の予防のため抗血小板剤 (aspirin) 増. aortic aneurysms by simple crossclamping: Risk factors and late results. J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 107: 134-. 量(200mg / day)にて経過観察の方針とし,外来通院加. 142, 1994.. 療継続としていた.約 2 年間,塞栓によるeventなく経. 4) Schepens, M. A. A. M., Dekker, E., Hamerlijnck, R. P. H.. 過していた.今回の腸管虚血の原因として,心エコー. M., et al.: Survival and aortic events after graft replacement. にて機械弁に異常所見を認めなかったことや,他部. for thoracoabdominal aortic aneurysm. Cardiovasc. Surg.,. 位,とくに頭部塞栓症状を認めないことから,おそら. 4: 713-719, 1996.. く腹部分枝吻合部の肥厚狭窄に,下痢による脱水が関. 5) Yamashiro, S., Kuniyoshi, Y., Miyagi, K., et al.: Successful. 与し血栓塞栓が促進されたのではないかと考えてい. management in the case of mesenteric ischemia complicated. る.入院時の腹部CT検査にて,SMAおよびCAが造影. with acute type A dissection. Ann. Thorac. Cardiovasc.. されていたことからも推察される.また,腎動脈吻合. Surg., 8: 231-235, 2002. 6) Cambria, R. P.: Management of thoracoabdominal aortic. 部にも胸腹部大動脈人工血管置換術術直後認められな. aneurysms. Surgery of the Aorta and Its Branches, Gewertz,. かった狭窄が進行していた.. B. L. and Schwartz, L. B. eds., Philadelphia, 2000, W. B. Saunders Co., pp. 193-211.. 結 語. 7) Gewertz, B. L.: Surgical treatment of chronic mesenteric. 胸腹部大動脈瘤の 4 分枝再建術後,10年後の遠隔期. ischemia: Bypass procedures. Surgery of the Aorta and. に吻合部の血栓閉塞による腸管虚血を来した 1 例を経. Its Branches, Gewertz, B. L. and Schwartz, L. B. eds.,. 験した.本症例における抗血小板剤のみによる抗凝固. Philadelphia, 2000, W. B. Saunders Co., pp. 353-357.. 療法が妥当かどうかは明確な判断を見出せないが,肺. 8) Yamashiro, S., Kuniyoshi, Y., Miyagi, K., et al.: Type B. 切除を含めた手術療法も念頭に置き今後も治療を継続. dissection complicated with subacute visceral ischemia. Asian Cardiovasc. Thorac. Ann., 12: 162-164, 2004.. する方針である.症例によっては遠隔期においても血栓. 9) Beebe, H. G., MacFarlane, S. and Raker, E. J.: Supraceliac. 閉塞を来す可能性があることを念頭に,抗凝固療法を. aortomesenteric bypass for internal ischemia. J. Vasc. Surg.,. 含め,長期間厳重に観察していくことが必要だと考え. 5: 749-754, 1987.. られた.本症例も腸管血行再建後 2 年,良好に経過し. 10) Moawad, J., McKinsey, J. F., Wyble, C. W., et al.: Current. ているが,SMA虚血の加療後の 5 年生存率は50∼71%. results of surgical therapy for chronic mesenteric ischemia.. との報告が見られ 6),グラフトの拡大,狭窄 / 閉塞の可. Arch. Surg., 132: 613-619, 1997.. 32.
(5) 2006年 2 月. 山城ほか:全大動脈置換術後の腸管虚血. 33. Visceral Ischemia on 10 Years after Total Aortic Replacement Include Reconstruction of Mesenteric and Celiac Arterial Branch Case Satoshi Yamashiro, Yukio Kuniyoshi, Kazuhumi Miyagi, Toru Uezu, Katsuya Arakaki and Kageharu Koja Second Department of Surgery, School of Medicine, University of the Ryukyus Key words: Total aortic replacement, Visceral ischemia, Bypass of visceral arteries. A 44-year-old man with Marfan syndrome underwent total aortic graft replacement including Bentall’s procedure and reconstruction of the visceral branches 10 years previously. He was brought by ambulance because of abdominal pain high fever with diarrhea and tarry stool. We performed emergency laparotomy on the suspicion of intestinal ischemia. Intestinal necrosis with perforation was recognized, from the ascending colon to the transverse colon. We diagnosed ischemic necrotic colitis due to arterial thrombosis because pulsation of the superior mesenteric artery and celiac artery was not clear. We performed right hemicolectomy and splenectomy, plus retrograde mesenteric and celiac bypass by a saphenous vein graft. The patient’s postoperative course was uneventful. Postoperative angiography revealed thrombotic occlusion of the celiac and superior mesenteric arteries.(Jpn. J. Vasc. Surg., 15: 29-33, 2006). 33.
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