いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響 ― SCATによる分析を通して ―
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(2) いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響 ― SCATによる分析を通して ― 小 林 桜 子*. How Giving Meaning to Experiences of Being Bullied can Influence our Sense of Self: A Consideration from the Perspective of SCAT Analyses. 要 約 いじめられた体験は,いじめ停止後も心身に影響を与え,不適応状態を起こす要因となる.そこで本 研究は,いじめられた体験を当事者のライフ・ストーリー・インタビューを通じて,いじめられた体験 の意味づけが自己概念に与える影響を明らかにすることを目的とした.また,いじめられた体験の影響 緩和の要因を検討した. その結果,いじめられた体験後,危機的状態が転機となっていじめられた体験が肯定的に意味づけら れたグループといじめられた体験について積極的な意味合いを見出していないが,周囲のサポートや居 場所の存在によって回復過程に至るグループに分かれた.また,いじめられた体験の影響緩和の要因と して,いじめが生じたコミュニティからの撤退や,いじめ後の新しいコミュニティに適応するための長 期的なソーシャル・サポートが関与していることが示唆された.. 1.問題と目的. 「児童生徒の問題行動等と指導上の諸問題に関す る調査」 (文部科学省,2018)の報告では,小・中・. いじめは古くから世界の様々な国や地域を問わ. 高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知. ず生じている.わが国のいじめ研究は,1980年代. 件数は414,378件であり戦後最大を記録している.. 頃にいじめが原因とみられる自殺が相次いで起き. 更に,重大事態の発生件数も474件と前年度より. たことから始まった.いじめが原因とみられる自. 78件増加している.このような認知件数によるい. 殺は1985年に第1次ピーク,1994年に第2次ピー. じめの実態把握によって,いじめは特別なことで. クを迎えていじめが原因とみられる自殺者が7名. はなく,どのような学校でも,誰にでも起こりう. に上った.最新の文部科学省における「児童生徒. るという認識が広がりつつある.. の問題行動等と指導上の諸問題に関する調査」 (文. 更に,いじめの短期的な影響は,頭痛や腹痛,. 部科学省,2018)でも,いじめが原因と見られる. 不眠,不登校,抑うつ等の症状(榎戸芙佐子・平. 自殺は10人と,依然として深刻な状況である.. 口真利・坪田考・中川東夫・北本福美・亀廣摩. 2006年度以降,いじめ調査方法が「発生件数」. 弥・野田美希・石川暁月・小泉葉月・地引逸亀,. から「認知件数」に改められたことで,2018年度. 2003;立花,1990)や長期的影響として, 「同調. *. Sakurako KOBAYASHI:北海道教育大学大学院学校臨床心理専攻 修了生. キーワード:いじめ,SCAT,TEM,インタビュー調査,質的研究,長期的影響. 61.
(3) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). 関する研究は極めて少なく,その中でもまた,量. 傾向」 「他者評価への過敏」 (亀田・相良,2006;. 香取,1999) ,外傷後ストレス障害(榎戸,2000, 的研究と個人の事例研究が多く,質的研究はほと 1997)など多岐に渡る.加えて,このような影響. んど見られない(亀田等;2014).. はいじめ終結後も長期間持続する(坂西,1995;. そこで本研究は,当事者のいじめられた体験に. 立花,1990) .. 対する意味づけが,自己概念に与える影響のプロ. 近年では,いじめの影響緩和や回復要因を検討. セスを明らかにする.また,当事者の視点により. する研究も見られる.松永(2011,2010)は,い. 近い形で考察していくことで,今後の支援に結び. じめ被害後の適応に効果的なソーシャル・サポー. 付けることが可能になると考える.. トの調査研究から,サポートの種類によって効果. なお,いじめの定義は,文部科学省による平成. が異なることを明らかにした.情緒的サポートが, 25年版のいじめ防止対策推進法で定義されている 肯定的評価に繋がり,行動や精神的適応を高めた. 「いじめとは,児童生徒が在籍する学校に在籍し 一方, 自尊感情のサポート, ネットワークのサポー. ている等当該児童生徒と一定の人的関係のある他. トは,いじめ被害後の適応に,効果が乏しいか,. の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与え. 悪化させることが明らかになった.. る行為(インターネットを通じて行われるものも. 亀田・相良(2011)は,過去にいじめられた体. 含む.)であって,当該行為の対象となった児童. 験をもつ大学生らを対象にした半構造化面接によ. 生徒が心身の苦痛を感じているもの.」を採用した.. る質的研究を行った.この結果,自己成長感をも. 2.調査研究. たらす要因として, 自己開示, ソーシャル・サポー ト,重要な他者の存在,肯定的意味付け,ポジティ ブ思考などが,自己成長感に至る重要な促進要因. 2-1.内容・手続き. であることが明かとなった. また, 小早川・杉村・. 本研究の調査協力者は,過去にいじめられた体. 石田(2015)は,いじめを通した自己成長感を促. 験があり,本研究の趣旨や目的に同意いただいた. す他者からの支援として, 「支持的な言動」 「居場. 当事者6名である.大学内の教室においてライ. 所づくり」 「積極的な応答・行動」を挙げている.. フ・ストーリー・インタビューを実施した.デー. 心的外傷後成長と関連が指摘されているレジリ. タは調査協力者の許可を得て,ICレコーダーを. エンスといじめ被害体験を検討しているものも見. 用いて録音した.面接回数は一回で,所要時間は. られる.荒木(2005)は,いじめ被害体験者の青. 60分-90分,面接記録は逐語録を作成した.. 年期後期におけるレジリエンスに寄与する要因に. いずれも20代前半,全て女性,いじめられた時. ついて検討している.この結果,いじめ被害体験. 期はインタビューの内容を参照している.調査時. 者は青年期後期において特に対人的ストレスイベ. 期は,2016年8月-9月であった.. ントを多く体験しているわけではないにもかかわ らず,非体験者よりも適応状態が悪い傾向が見ら. 表1 調査協力者一覧. れた.保護因子として問題解決型・サポート希求. 名前. 調査時の状態. A. 大学生. 中学校,高校. された.. B. 社会人. 中学校. 先行研究から,いじめの影響に対する緩和要因. C. 大学生. 中学校,高校,大学. は「自己開示」 「重要な他者の存在」 「肯定的意味. D. 社会人. 中学校,高校,社会人. 付け」 の3要因が共通している. 亀田・相良 (2011). E. 社会人. 小学校. F. 社会人. 中学校. 型コーピングが補償的に機能していることが示唆. は, 「重要な他者の存在」によって得られる「適. いじめられた時期. 切なソーシャル・サポート」 が, 「いじめられ経験」 の「自己開示」に向かわせ,その後のいじめによ. 2-2.倫理的配慮. る長期的影響の緩和に寄与すると指摘している.. 面接内容は学術目的のみに使用し,守秘義務を. しかしながら,いじめられた体験の影響と回復に. 守ること,また答えたくない質問に対する拒否, 62.
(4) いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響. 面接の中断も可能であること等を,事前に紙面と. 1)Aさんのストーリーライン. 口頭で説明し,了解を得た.本研究は,北海道教. ① いじめ以前の状況. 育大学の倫理審査委員会の承認を得ている(承認. Aさんは,幼少期に病気で長期入院をしている.. 番号:2016071003) .. このため小学校では,クラスメイトから言語的な 攻撃を受けている.だが,【教員の理解】や,「い. 2-3.研究方法. じめのつもりじゃなくて,思ったことを直接言っ. 1)インタビュー方法. てるとか.」と語り,いじめとは捉えていない.. 本研究は,ライフ・ストーリー・インタビュー. しかし,病気がいじめの【リスク】となっている.. を用いた.ライフ・ストーリー研究とは,日常生. ② いじめ. 活で人びとがライフ(人生,生活,生)を生きて. 中学校に入り,学級に【いじめな雰囲気】があ. いく過程,その経験プロセスを物語る行為と,語. り,仲間はずれや悪口を言われたが,【友達】が. られた物語についての研究(やまだ,2000)であ. 居たことで,登校できていた.高校では,グルー. る.. プから突然外されていじめのターゲットとなる.. 2)分析方法. また,教員や保護者のサポートも得られず,「い. 本研究は,SCAT(Steps for Coding And. じめ」の辛さを自己開示することが出来ず,無力. Theorization) (大谷,2008)を使用した.この. 感や孤独感が深まっている.. 手法では ⑴面接記録を逐語録に起こし,言語デー. ③ いじめ後-新しいコミュニティへの移行. タをセグメント化する.⑵データの中の着目すべ. Aさんはいじめによって高校を中退後に通信制. き語句を抽出する.⑶言い換えるための語句を考. 高校に再入学しているが,いじめを「ずっとズル. 案する.⑷それを説明するための語句を考案する. ズル引きずってた」と【否定的な意味づけ】を行っ ⑸そこから浮き上がるテーマ・構成概念の順に. ている.また,「全日制の高校の子達」と自分自. コードを考案していく.これらの手順により,ス. 身を比べ,「みじめに感じた」と【ネガティブな. トーリーライン,理論記述,追究すべき課題を作. 自己イメージ】を抱えていた.Aさんは保護者に. 成した.. 対しても,自己開示をできず,依存したいが出来. 更に,SCATから構成した構成概念を元に,. ない【アンビバレントな思い】を抱え, 【ネガティ. TEM図(Trajectory Equifinality Modeling)を作. ブな思い】が募っている.. 成した.TEM図とは,人間の発達や人生径路の. ④ 転機. 多様性・複線性の時間的変容を捉える・分析・思. Aさんは,高校やその後の通信制高校【新しい. 考の枠組みモデル(荒川・安田・サトウ,2012). コミュニティ】に至るまで,自己開示できる「重. である.本研究では,SCATから得られた個人の. 要な他者」の存在やソーシャル・サポートは見ら. 概念からTEM図を作成することで,個人のライ. れない.更に,サポートを得るため行動している. フ・ストーリーにおけるいじめの意味付けと心理. が,変化は得られず【危機的状態】に陥っている.. 的変容の過程が可視化されることから採用した.. その頃に「自分でなんとかするしかない」と,主 体的にいじめを捉え直し,直面化するようになっ. 3.結 果. た.同時に幼少時の病気で, 「死ぬはずだったけど, 助かった」という【新しい信念】に気が付いたこ とが転機となり,【肯定的な意味付け】から,【自. 3-1.SCATから得られたストーリーラインの. 己成長感】を得ている.. 概要 本稿では紙面の都合により,SCATから得られ. 転機後はいじめられた体験だけでは無く,いじ. た6名のストーリーラインの概要を示している.. めのリスクとなった病気についても「病気とかそ. 【】は理論記述から得られた概念を示している.. の他の理由にいじめられたっていう経験もあって, それ全部繋がっていて,今の自分の,なんだろう. 今の自分が出来あがってるので. 」と肯定的に意 63.
(5) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). 味づけることで,受容している.. り,自分の所属している場所以外にも「居場所が. 2)Bさんのストーリーライン. ある」という【外の世界に対する気づき】を得て,. ① いじめ. 「認めてくれる場所があれば,私はもう生きてい. Bさんは中学校に入り,クラス内でいじめの. けます」と【ポジティブな変容】を起こしている.. ターゲットとなる.その後,保護者を通じて話し. 更に,これまでの【過去の関係性を断ち切る】と. 合いを行ったが,教員側は【消極的な態度】で適. いうやり方から,【関係を修復し,今の自分を認. 切な指導は行われなかった.このためBさんは,. められたい】という思いも抱くようになっている.. 【保護者と相談】して,学校を休むことを決めて. 4)Dさんのストーリーライン. いる.. ① いじめ. ② いじめ後. Dさんは,部活に入部したが,周りの視線や悪. 高校入学後は【積極的な友人作り】によって,. 口を感じるようになり退部する.しかし,両親は. 1年生の頃は友人がいたが,2年生以降は学級内. ネガティブな反応を示し,学校でも被害感があり,. の雰囲気に馴染むことができず,孤立しがちにな. 【回避的な対人パターン】を強化している.また. る.このため「お腹が痛くなる」といった心身症. 高校入学後は,クラスメイトから不適切なあだ名. も見られたが, 【教員のサポート】もあり高校を. で呼ばれるといういじめを受けて,過度なダイ. 卒業している.. エットという【ネガティブな行動パターン】を身. ③ 現在. に付け,【危機的状態】に陥っている.その際に,. 現在は, 【修学旅行の参加に対する後悔】や【教. 両親や教員から具体的サポートは得られず【援助. 員の配慮不足に対する憤り】などの,いじめに対. の無さに対する不信感】を感じている.その後,. する【ネガティブな思考】はあるが, 一時的に【休. 塾で【信頼できる友人】を得て回復している.. 息】を取り, 現在は【対人関係に対する苦手意識】. ② 大学卒業後-新しいコミュニティ. はあるが, 職場で【積極的に話しかける】など【回. Dさんは,いじめ時,保護者や教員などから積. 復】している様子が見られる.また, 【今後は友. 極的なサポートが受けられず,周囲に自己開示で. 人を作り,以前とは違う生活をしたいと】という. きる他者も存在せず, 【ネガティブな行動パター. 【ポジティブな展望】を語っている.. ン】や【ネガティブな信念】が強化されている.. 3)Cさんのストーリーライン. だが,大学卒業時,就職に失敗するという挫折が. ① いじめ. 【転機】となって,「自分の向いている方向を,. 中学校では不快なあだ名で呼ばれるようになっ. 自分で探さなければいけないと,ようやく自分の. たが,保護者に【自己開示】したことで,保護者. 頭で考え始めたのだと思います.」と,【主体的に. が担任に電話をして,担任と話せたことで収束し. 考える】ようになった.また,職場では,「これ. ている.. までの回避的な対人パターンを変化させないとい. 高校では,部活を掛け持ちしていたことで,嫌. けない」と【気付き】を得ている.. がらせを受ける.消極的な対処として, 【謝罪】. しかし,職場いじめに遭い, 「自分に原因がある」. を行っていたが, 【部活をやめるという消極的な. という信念から, 「過度なダイエット」を行って. 対処】をしている.その際,保護者や顧問にいじ. いる.周囲に対しても,具体的サポートが得られ. めを自己開示することができず, 「本当に分かっ. なかったと感じ,自分に原因があるという【ネガ. てくれる人がいたかって, 正直わかんないです. 」. ティブな信念】や過度なダイエットという【ネガ. と,【否定的な意味づけ】ている.. ティブな行動パターン】が強化されている.. ② 新しいコミュニティ-転機. 5)Eさんのストーリーライン. 大学入学後は,小グループ内で外しのターゲッ. ① いじめ以前. トになる.これが【転機】となって,これまでの. Eさんは,発達障害があり,いじめ以前から, 【障. 「外される罪悪感」が軽くなり, 【外されること. 害特性による意図しないトラブル】が発生してい. で自由になれた】と主体的に捉えられるようにな. る.発達障害による特性が,いじめの【リスク】 64.
(6) いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響. になったと考えられる.. 持ちの向けどころが分からない【無力感】がある.. ② いじめ. 一方で, 【援助や居場所の存在を自覚している】. Eさんのいじめが酷かった小学校3年生頃は,. ことで,直面化はしていないが【そういうもの】. 【担任教員からの扱いが悪い】 ,クラス内で生徒. と受け止めている側面もあり,職場では適応して. を依怙贔屓している【偏った指導】が見られ,保. いる.. 護者が【PTAに参加して釘をさす】という【積 極的な対処】を行ったがいじめの停止には至らな かった. ③ いじめ後-新たなコミュニティ 中学校では, 別の地域に転校し, 周囲のフォロー もあり適応している.高校では,課外活動で人と 話す機会が増え,自分を客観視するようになり内 省が深まっている.このような活動から, 【自己 理解/他者尊重】が生じている. 6)Fさんのストーリーライン ① いじめ以前 Fさんはいじめ以前から, 【複雑な家族背景】 やそこに関連して【同性集団の興味の共有の基盤 の無さ】などリスクがあった. ② いじめ いじめの直接の原因に【複雑な家族背景】があ り,【問題を起こしている側の家】というレッテ ル張りがある.更に,中学校の入学当初で, 【加 害行為が拡散しやすい状況】であり, 【消極的な 対処】として不登校になっている. ③ いじめ後-新たなコミュニティ いじめ後,適応指導教室に通学, 【居場所がで きた】ことで【目先の不安の軽減】が起こってい る.また, 周囲の家族や適応指導教室の教員の 【積 極的なサポート】によって, いじめの影響から【進 路選択に対して消極的】だったが,高校進学を果 たしている.また,高校入学直後は,いじめの影 響から【情緒的混乱】が起きているが, 教員の【積 極的なサポート】によって,入学式や友人作りも 成功して適応している.大学進学時も, 【進路選 択に対して消極的】だったが,教員の【積極的な サポート】によって,進学を決めている. ④ 現在 現在は,【いじめの語りがたさや抵抗感】 , 【対 人関係や異性に対する苦手意識】 【周囲に対する 場違い感】などの【ネガティブな信念】や【否定 的な影響】が見られる.また,いじめの直接の原 因である【複雑な家族背景】があり,どこにも気 65.
(7) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). 3-2.SCATから得られた概念を用いたTEM図. 66.
(8) いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響. 4.結果と考察. 緩和の要因となっている.特に,いじめ停止後の 【新しいコミュニティ】においても,一時的に不. 本研究では,いじめを持つ当事者AさんからF. 適応状態に陥りやすいことから,周囲の理解と適. さん6名の,いじめ以前から以後までのライフ・. 切なサポートが重要なものと考えられる.. ストーリーを調査して,SCATによる分析を行っ. いじめからの【撤退】は「不登校への対応の在. た.更に,SCATから抽出した概念に基づいて. り方について」において, 「いじめられている児. TEM図を作成し,いじめの意味付けが自己概念. 童生徒に対する緊急避難としての欠席が弾力的に. に与える影響や緩和要因を検討した.. 認められてもよいことはもとより,そのような場 合には,その後の学習に支障がないよう配慮が求. 4-1.いじめの影響緩和の要因. められること.」(文部科学省,2003)と定められ. 先行研究では,いじめの影響の緩和に共通する. ている.しかしながら,「児童生徒の問題行動・. 3要因として示されている, 「自己開示」 「重要な. 不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」 (文. 他者の存在」 「肯定的な意味付け」 (亀田・相良,. 部科学省,2018)では,緊急避難としての欠席は. 2011)は, 「自己開示」できる「重要な他者の存在」. 全体の0.2%と低水準に留まっている.また,別. によって「肯定的な意味づけ」が生じるという一. 室の提供や常時教職員が付くなどして,心身の安. 連の流れに沿って挙げられていたが,今回のイン. 全を確保3.9%スクールカウンセラー等の相談員. タビューでは,3要因がそれぞれに生じていた.. が継続的にカウンセリングを行うが3.4%と継続. Bさん,Eさん,Fさんは,いじめが単回であ. した支援は,いずれもあまり活用されていない.. り「自己開示」と「重要な他者の存在」が見られ. いずれの支援も,長期的ないじめられた体験の影. た.BさんとEさんの場合には,家族が一連のい. 響緩和に繋がる可能性が高いと考えられるため,. じめに関して積極的に【学校に働きかける】等の. 柔軟に活用していくことが期待される.. 行動を起こし,サポーティブに機能している.ま. また当事者の【居場所】に関しては,教育支援. た,その後のコミュニティでも,BさんEさんF. センター(適応指導教室)やフリースクール,オ. さんの場合には,家族や周囲の友人,教員等のサ. ルタナティブスクール,通信制高校中等部等が挙. ポートが【重要な他者の存在】として機能してお. げられる.また,本稿では教室外の課外活動や塾. り,中学校のいじめ後の【新しいコミュニティ】. が【居場所】として機能している.また,従来の. の適応に影響を与えている.. 電話相談やメール相談に加え,近年のいじめ相談. 更に,BさんとFさんの場合には,いじめ後に. の対策としてLINEやフェイスブック,ツイッター. 学校を休むことで距離を置いている.Eさんの場. 等のSNSを活用したものもある.このような,相. 合にも別の学校に転校することで元のコミュニ. 談機関や相談方法によって,気軽に相談できる環. ティからは離れている.このようないじめが生じ. 境が普及していくことが望まれる.. たコミュニティから撤退することで影響緩和の要 因の一つになったと考えられる.. 4-2.いじめの意味づけと転機. また,EさんとFさんの場合には,それぞれに. 本研究では,ライフ・ストーリーの分岐点とし. 「別な地域の中学校に通う/適応指導教室」に通. て【危機的状態】が転機となって,いじめられた. うことによって,いじめの現場以外に居場所を見. 体験を主体的に捉えなおした語りが見られた.A. つけることで,その後のライフ・ストーリー内で. さん,Cさん,Dさんは,いじめや類似した体験. 【友人】や【家 いじめを意味づける際の影響緩和に繋がっている. が複数回あり,当初のいじめでは, 族】がサポーティブに機能しているが,その後の. 以上のことから,先行研究に見られるいじめの. 影響の緩和に共通する3要因として示されている, 【新たなコミュニティ】では「自己開示」できる 「自己開示」 「重要な他者の存在」 「肯定的な意味. 「重要な他者の存在」が見られず,いじめや不適. 付け」(亀田・相良,2011)以外にも,いじめの. 応状態が生じ,【危機的状態】に陥っている.. コミュニティからの【撤退】と【居場所】が影響. Aさんの場合には,いじめと原因となった病気 67.
(9) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). の体験と【直面化】することで, 「全部自分の糧」. 以上のことから,いじめ停止後のコミュニティ. と「肯定的な意味づけ」て,同時に幼少時の病気. において,何らかの【転機】となるような事態に. で, 「死ぬはずだったけど,助かった」という【新. よって,いじめられた体験と【直面化】すること. しい信念】に気が付いたことが【転機】となり, 【肯. で,受動的な意味づけから主体的に意味を見出し,. 定的な意味付け】から, 【自己成長感】を得ている. 自己成長感が得られることが分かった. Cさんの場合には, 複数回のいじめ後, 小グルー. ただし,Dさんのパターンのように,その後の. プ内で外しのターゲットになることで, 事態と 【直. 経過によって揺り戻しが生じることから,いじめ. 面化】することで,今いる場所以外にも「居場所. られた体験による長期的な影響に対して,周囲の. がある」という【外の世界に対する気づき】を得. 理解とサポートが重要なものと考えられる.また,. て, 「外される」という受動的な捉えから【自由. このような違いの背景に,いじめに対する直面化. になれた】と主体的に意味づけることで, 「認め. の有無(亀田・相良,2011),個人のレジリエン. てくれる場所があれば, 私はもう生きていけます」. スやコーピング(荒木,2005),いじめの原因に. と【ポジティブな変容】を起こしている.. 対する帰属意識の違いが考えられる.. 一方で,同様に複数回のいじめられた体験を持 つDさんは,周囲のサポートや自己開示できる他. 4-3.今後の課題. 者がほとんど見られず,その過程の中で自分に原. 本研究では,いじめられた体験を持つ当事者の. 因があるという【ネガティブな信念】や【ネガティ. いじめに対する意味付けや影響緩和の要因として,. ブな行動パターン】が生じている.その後,挫折. 従来のソーシャル・サポートに加え,【居場所】. 体験によって,いじめによって生じた【ネガティ. やいじめが生じたコミュニティからの【撤退】が. ブな行動パターン】や【ネガティブな信念】と【直. 明らかとなった.特に,いじめ停止後の進学や就. 面化】し,これまでの【回避的な対人パターン】. 職などのライフイベント毎に,いじめられた体験. や【ネガティブな信念】から主体的な考えを持つ. の長期的な影響として様々な不適応状態が見られ. ように変化している.だが,職場いじめに遭うこ. ることがあり,家族や友人などの適切なサポート. とで, 「周囲に対する不信感」や,自分に原因が. が重要なものと考えられる.また,ライフ・ストー. あるという【ネガティブな信念】が強化されてい. リーの分岐点として【危機的状態】が転機となっ. る.また,周囲からの【ソーシャル・サポート】. て,いじめられた体験を主体的に捉えなおし,自. によっていじめ自体は収束しているが,これまで. 己成長感が得られたグループが見られた.. のいじめられた体験から, 「偏った受け取り方」. しかしながら,いくつか課題も明らかとなった.. が生じている.現在のDさんの場合には,いじめ. 1点目は,今回のインタビュー対象者が機縁法に. られた体験によって, 「自分の容姿に原因がある. 基づくものであり,20代,女性のみの限定的なサ. から人に好かれないんだ」と自己概念にネガティ. ンプリングとなっている.今後は,いじめの方法. ブな影響を与えている.. や加害者の人数,男女差等の違いを踏まえて検討. このような【危機的状態】における転機の物語. していく必要がある.2点目は,今回のインタ. について杉浦(2004)は, 「転機の物語を語るこ. ビューでは複数回のいじめられた体験をしたグ. とによって,危機に対して意味を与えようとする. ループにおいて,何らかの【転機】から【自己成. ためであり,意味を与えることによって危機を克. 長感】を得られたグループが見られたことである.. 服する」と述べている.AさんとCさんは,複数. このような背景について,個人のレジリエンスや. 回のいじめや類似の状況によって【危機的状況】. コーピングスキル,加害状況の違いも考えられる. に陥ったこと,周囲のサポートを見出せず,これ. ことから,今後,検討していく必要がある.. までのパターンから変化が迫られていたことから,. 引用・参考文献. いじめられた体験に積極的な意味を見出すことで 受動的な意味づけから主体的に意味づけて,自己 成長感を得ている.. 荒川 歩・安田 裕子・サトウ タツヤ(2012).複 68.
(10) いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響. 線径路・等至性モデルのTEM図の描き方の一. 究(2)――いじめを扱ったわが国の大学紀要論. 例 立命館人間科学研究,25,95-107.. 文の研究方法による分類―― 文教大学教育研 究所紀要,24,67-76.. 安田 裕子・廣瀬 眞理子・番田 清美・和田 美 香・長坂 晟・サトウ タツヤ・山崎 優子(2013) .. 小早川 茄捺・杉村 和美・石田 弓(2015).いじ められた体験を通した自己成長感を促す他者か. 人間の発達変容をシステムとして捉える試み――. らの支援 広島大学心理学研究,15,147-162.. TEMを用いて――変容する語りを記述するた. Calhoun, L. G., Tedeschi, R. G. (2006). Handbook. めの質的研究法 共同対人援助モデル研究報告. of posttraumatic growth: Research and. 書,6,5-54. 荒木 剛(2005).いじめ被害体験者の青年期後期. practice. Lawrence Erlbaum Associates.(宅香. におけるリズィリエンスに寄与する要因につい. 菜子・清水研(監訳)(2014).心的外傷後成長. て パーソナリティ研究,14(1),54-68.. ハンドブック 新曜社). 坂西 友秀(1995).いじめが被害者に及ぼす長期. Matsunaga, Masaki. (2011). Underlying circuits. 的な影響および被害者の自己認知と他の被害者. of social support for bullied victims: An. 認知の差 社会心理学研究,11,105-115.. appraisal――based perspective on supportive. 榎戸 芙佐子・平口 真理・北本 福美・高木 哲. communication and postbullying adjustment.. 朗・渡辺 多恵・鳥居 方策(1997) .いじめと. Human Communication Research, Vol 37(2), 174-206.. PTSD――適応障害を呈した3例―― 心身医. Matsunaga, Masaki. (2010). Individual dispositions. 学,37,160.. and interpersonal concerns underlying bullied. 榎戸 芙佐子(2000) .いじめとPTSD 臨床精神. victims’ self-disclosure in Japan and the US.. 医学,29(1),29-34.. Journal of Social and Personal Relationships,. 香取 早苗(1998).いじめの影響――マイナスと. 27(8), 1124-1148.. プラスの両側面から―― 日本教育心理学総会. 文部科学省(2015) .いじめの定義の変遷 http://. 発表論文集,40,392. 香取 早苗(1999).過去のいじめ体験による心的. www.mext.go.jp/component/a_menu/. 影響と心の傷の回復方法に関する研究 カウン. education/detail/__icsFiles/afieldfi. セリング研究,32,1-13.. le/2015/06/17/1302904_001.pdf(2017年1月20 日). 亀田 秀子・相良 順子(2007) . “心のしこり”と. 文部科学省(2018).「児童生徒の問題行動等生徒. して残る過去のいじめ被害体験の検討 日本教. 指導上の諸問題に関する調査」. 育心理学会総会発表論文集,49,521. 亀田 秀子・相良 順子(2010) .過去のいじめ体. 大谷 尚(2008) .4ステップコーディングによる. 験が青年期後期においても及ぼす長期的影響――. 質的データ分析手法SCATの提案――着手しや. 自己成長感を分かつ要因の検討―― 聖徳大学. すく小規模データにも適用可能な理論化の手続. 児童学研究紀要,12,13-20.. き―― 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 紀要(教育科学),54(2),27-44. 亀田 秀子・相良 順子(2011) .過去のいじめの. 大谷 尚(2011).質的研究シリーズSCAT:Steps. 影響と自己成長感をもたらす要因の検討――い じめから自己成長感に至るプロセスの検討―― . for coding and theorization――明示的手続き. カウンセリング研究,44,277-287.. で着手しやすく小規模データに適用可能な質的 データ分析手法―― 感性工学,10(3),155-. 亀田 秀子・会沢 信彦・藤枝 静暁(2014) .いじ. 160.. め被害からの回復とその要因に関する基礎的研 究(1)――いじめを扱った学術論文の研究方法. 杉浦 健(2004).転機の心理学 ナカニシヤ出版. による分類―― 教育研究所紀要,23,57-64.. 立花 正一(1990) . 「いじめられ体験」を契機に 発症した精神障害について 精神神経学雑誌,. 亀田 秀子・会沢 信彦・藤枝 静暁(2015) .いじ. 92(6),321-342.. め被害からの回復とその要因に関する基礎的研 69.
(11) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). やまだ ようこ(編) (2000) .人生を物語る ミ ネルヴァ書房 やまだ ようこ(編) (2009) .質的心理学の方法 ――語りをきく―― 新曜社(初版,2007). 70.
(12) いじめられた体験の意味づけが自己概念に与える影響. SUMMARY How Giving Meaning to Experiences of Being Bullied can Influence our Sense of Self: A Consideration from the Perspective of SCAT Analyses Sakurako KOBAYASHI (Master’s degree holder, Hokkaido University of Education) Experiences of having been bullied can continue to exert influence on both the mind and body of the victim even after the bullying itself has already ended. This influence can in turn cause the victim to fall into undesirable mental and physical states. This research project has attempted to investigate the influence of how giving meaning to one’s experiences of being bullied can affect one’s sense of self by means of conducting life-story interviews with victims of bullying. Moreover, considerations were made concerning how the negative influence that comes from such experiences could potentially be mitigated. As a result of this research, victims of bullying were split into two groups. First, there are those who give a positive meaning to these experiences by discussing this dangerous situation as a turning point in their lives. Second, we see those who did not actively seek any meaning in their experiences of being bullied, but were able to recover by means of finding a place where they belong and receiving support from others in their vicinity. Finally, I have also attempted to briefly look at how to mitigate the negative influence that comes from these experiences. I thus implicate leaving the community in which bullying has occurred, as well long-term social support in adjusting to a new community as being related to this effort.. Key words : bullying, SCAT, TEM, interview, qualitative research, long term influence. 71.
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