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人間科学研究 Vol. 28, Supplement(2015)
修士論文要旨
【研究背景と目的】レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies.以下DLBと略す)は認知症の約20%を占め るが、周知の認知症に比べて社会的認知度は低い。DLBの 看護・介護分野の研究は高原ら(1999)の「レビー小体型 痴呆患者に対するケア技術」等が散見されるが、家族介護 者に関する研究は少ない。本研究はDLBの幻視等の症状や BPSD(認知症に伴う行動及び心理症状;Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia.以下BPSDと略 す) に直面する家族介護者の介護の認識や理解、DLB者と の相互性に着目し、家族介護者はどの様な問題を抱えて介 護を行っているか、DLB家族会という社会的支援に機縁の ある家族介護者の語りから、現実に即した介護の質向上に 役立つ構造とプロセスの解明を目的とする。このことは家 族介護者の介護負担感軽減の示唆を得、同時にDLB者の QOL向上の一端として意義があると考える。
【研究方法】対象者:DLB者を介護し、DLB家族会に機縁 のある家族介護者5名を対象とした。調査は2012年11月~
2013年3月に半構造化面接(60 ~ 130分)を行った。面接 内容は協力者の了解を得て記録し、逐語録(平均18,067字/
人)を作成した。分析方法は、修正版グラウンデッド・セ オリー・アプローチ(木下,2007)により質的分析を行っ た。
【結果および考察】分析の結果、35の概念<>、10のカテゴ リー【 】、6のサブカテゴリー[ ]が生成された。家族介 護者は、被介護者の日常に些細な違和感を認め、それは【た めらい交じりの不安】に転じる。その後、被介護者は、介 護者には見えない「幻視」を訴え【病識不明の戸惑い】は 増幅する。家族介護者はこれまでの病歴や家族史を紐解き 理解を試みるが、やがて認知症告知の場面を迎える。診断 への拒否反応に加え「健常者と見間違う状態と、ぼーっと した状態」が交互に現れる現象に【変な認知症】の印象を 膨らませ、他者が理解し難い【言うに言えない認知症】に 戸惑う。また、初診時に確定診断されないことは<DLB確 定に至る不透明さ>を導く。BPSDの頻発は被介護者の【生 活行動の変化に動揺する介護姿勢】を招く。程なく認知機 能の低下は明白になり、DLB確定診断を迎えると【症状の 進行による新たな葛藤】が始まる。この葛藤は、家族の絆 も同時に強める。これまでの家族史から得られた直感的な
介護の手がかりは[その人らしさに寄り沿う介護の気遣い]
に自然に繋がり、【気遣いが織りなす介護の見直し】に辿り 着く。しかし、介護者は社会的孤立感を深め、それは[他介 護者への関心]に変換され、家族会への参加を促す。【家族 会で分かち合う悩みと励み】は、<共感が生み出す安らぎ による介護見直し>といった介護に対する肯定感を導く。
また、DLB治療に応じた介護に関して<医療専門家から得 られる介護の実感>は、主観的な介護の視点に加え、客観 的な視野の広がりを介護者に目覚めさせる。そして、DLB 者を多視点に捉え、不安・喜び・安らぎをDLB者と一体と なって受容する介護姿勢に辿り着く。その結果、家族介護 者のDLB介護に対する態度は、【身構えない介護の受容】を 自然と肯定する姿勢へと転じ、自らの介護負担感の軽減と ともにDLB者と歩む長期的な介護展望へと繋がった。
【総合考察】家族介護者は、認知症診断は受けてもDLB確 定診断がないため、幻視などDLB特有のBPSDは介護負担 感の増加に繋がった。家族介護者はこれまでも、DLB者と の家族史から直感的な手掛かりを得て、介護に自然に生か すことで、無意識的に介護負担感を軽減させてきた。加え て、家族会に参加して共感を得たことや、医療専門家であ るメンバーからDLB治療に応じた介護の実感を得たこと が、安らぎを伴う介護の見直しに繋がった。家族介護者が、
主観的な介護の視点に加えて、客観的な視野の広がりに目 覚め、介護負担感軽減の自覚的な肯定を受容することに よって介護負担感を軽減させていたと考えられた。
【結論】幻視はDLBのBPSDの中でも比較的早期から出現す るが、初期以降の介護者の主な介護負担感は、認知機能の低 下の進行と認知機能の変動の落差、幻覚・妄想等の頻発、
DLB確定診断に至る変遷であった。したがって、DLBが、
認知症診断から確定診断まで長期間を要し、認知症を伴う パーキンソン病との鑑別も困難な現状から、DLB家族介護 者にとって認知症診断以降の幻視の早期発見及び状況把握 は、DLB早期確定診断・治療に有用であると同時に、介護 負担感軽減に繋がることが示唆された。また、医師・看護 士・介護職員による幻視に関する啓蒙や、それを支援する 国の施策及びDLB家族会等の社会的支援を推進すること の有用性が示唆された。加えて、DLB告知時の医療者の介 護者に対する心理面の配慮の重要性が示唆された。