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特別連載 アジア経済研究所創立50年をむかえて

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特別連載 アジア経済研究所創立50年をむかえて

著者 白石 隆

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジア経済

巻 51

号 4

ページ 42‑44

発行年 2010‑04

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00040763

(2)

アジア経済研究所が設立されてちょうど 50 年になる。まことに喜ばしいことである。本号 から 12回にわたって,これを記念して研究所 の回顧とこれからの展望に関する連載をおこ なっていきたい。

アジア経済研究所はこの 50年,日本のアジ ア研究,発展途上国研究,開発研究に大きな役 割を果たしてきた。それは「アジ研」の研究者 で,いま,あるいはかつて,日本の大学で地域 研究,発展途上国研究,開発研究等の分野で大 きな貢献をした人たちの多いこと,「アジ研」

の研究成果がそうした分野における日本の重要 な知的財産となっていること,「アジ研」の図 書館がアジア研究その他の分野において,アジ アではもちろん,世界的にもトップ・クラスの 図書館となっていること,アジア動向年報,ア ジア産業連関表,東アジア経済統合シミュレー ション研究等が研究者,実務家に基盤的研究成 果を提供していることなどを考えても明らかだ ろう。

アジア経済研究所がこの 50年,日本ではも ちろん,世界的にみても,アジア研究,発展途 上国研究,開発研究等の分野でこのように多く の優れた研究者と研究業績を生み出してきたこ とはわれわれの誇りであり,これは「アジ研」

が時代の変化に柔軟に対応し,そのときどきの

社会的要請にそれなりに応えてきたことの証左 であるといってよい。しかし,社会科学はこの 20〜30年,大きく変容し,そうした変化は地 域研究,発展途上国研究,開発研究等,アジア 経済研究所の主たる研究活動領域にもさまざま のかたちで影響を及ぼしつつある。また社会科 学のアメリカ化とグローバル化,日本の大学に おける地域研究,開発研究等の拡大,政権交代 にともなう事業,予算,機構の見直し等のなか,

われわれがアジア経済研究所のミッションをど う定義し,どう実行していくかは,その将来を 左右する大きな課題となっている。

連載を開始するにあたってこういうことをい うのは,アジア経済研究所がいま,きわめて重 要な씗時機>にある,と考えるからである。ア ジア経済研究所は創設 50年をむかえることが できた。しかし,世界を見渡せば,ひとたびは ある研究領域で世界的な研究センターとなった ところが,予算を削られ,中心的研究者が去り,

後継者の育成に失敗して,あるいはミッション 再定義の機を逸して,いまでは昔日の影もない,

ということはいくらでもある。

その一例がかつてわたしの勤務したコーネル 大学東南アジア・プログラムである。コーネル 大学の東南アジア研究は 1950年代から 1990年 代半ばまで,アメリカではもちろん,世界でも

42

白 石 隆

『アジア経済』LI‑4(2010.4) 特 別 連 載

特別連載 アジ研の 50年と途上国研究

アジア経済研究所創立 50年をむかえて

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有数のプログラムだった。またいまでも東南ア ジア研究では「コーネル・マフィア」のネット ワークにはなおかなりの広がりがある。しかし,

東南アジア・プログラム自体はすでに 10年以 上,ほとんど「死に体」の状況にある。なぜか。

アメリカの地域研究があまりに政治的で,その ときどきのアメリカの政治的アジェンダに追随 したためである,とはよくいわれることである。

これは誤りではない。しかし,それ以上に重要 な要因として,1970年代以降,政治学,社会 学,人 類 学,そ の 他 のdiscipline(専 門)が,

経済学のあとを追って,それぞれに「専門化」

の 自 己 運 動 を 開 始 し た こ と が あ る。こ れ が 1990年代,冷戦終焉のあと,グローバル化と アメリカ化のうねりのなかで決定的となった。

それが地域研究,開発研究等,その性格上,

multi-disciplinaryな教育・研究領域のマージ ナル化をもたらした。

あたりまえのことであるが,われわれが大学 院に行って,政治学,経済学,人類学などを専 攻するのは,将来,professionとして大学教員,

シンクタンクの研究者,国際機関の専門スタッ フ等になるためである。では政治学科の大学院 博士課程ではどういう研究者を育てようとする か。もちろん政治学者を育てようとするが,そ こで政治学者というのは,将来,どこかの大学 で,政治とは,政党とは,選挙とはと,きわめ て一般的なかたちで政治のさまざまの命題につ いてそれなりの講義のできる人のことである。

つまり,逆にいえば,1970年代以来,アメリ カの大学では,そういう政治学の教育を担当で きる教員,そういう教育に有用な研究を行う研 究者がますます重宝されるようになり,そうし た政治学科の教育と研究の制度的論理に従った

かたちで「専門化」が進んでいった。これは地 域研究,発展途上国研究,開発研究等にとって はひじょうに困ったことである。たとえば,わ たしがインドネシア政治に関心をもっていると しよう。わたしはそのためにインドネシア語と オランダ語を学び,インドネシアに住み,イン ドネシア人の友人を作り,インドネシアの政治,

経済,社会,文化,歴史をできるかぎり,トー タルに,理解しようとする。それが地域研究で ある。しかし,政治学で期待されることはそう ではない。プラムディア・アナンタ・トゥール の小説を読んだことはなくとも,スカンジナビ アの労働運動についての本は読んだことがある,

インドネシア語のテキストは読めなくともアメ リカの選挙と政治について講義ができる,そう いう研究者が育てられる。こうした「専門化」

の運動の先になにがあるか,容易にわかるだろ う。アメリカの大学において,地域研究,開発 研究などは,制度的にきわめてマージナルなと ころに追いやられている。

こういう「専門化」の趨勢は,日本では,幸 いなことに,経済学を別として,社会科学の他 の領域ではまだそれほど進展していない。しか し,社会科学のアメリカ化を考えれば,この趨 勢はこれからも続くだろうし,日本において社 会科学のごく基本的な作法すら定着していない ことからすれば,「専門化」にもメリットはあ る。しかし,discipline内在的な論理によって

「専門化」が進展し,研究の社会的妥当性が忘 れられる危険は,アジア経済研究所のような国 の研究機関にとって,その存在に関わる基本問 題として,常に考えておく必要がある。

わたしは政策研究がアジア経済研究所の研究 の中心であるべきだとは考えない。しかし,

43 特 別 連 載

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「アジ研」の研究者が「基礎研究」を大義名分 に,みずからの関心の赴くまま,「同人」的研 究のみに専念することは,中長期的に,研究所 の存在意義を問われかねない事態をもたらしう る。研究者がみずからの問題関心に従って研究 を行うことは当然のことであるが,そういう研 究が知的に広がりのあること,国内外において 多くの研究者,実務家を知的に関与engageす

るような研究であること,そして政策の立案策 定に際し,その知的基盤を提供するような研究 であること,そうした広い意味での社会的妥当 性をもった研究の行われることを大いに期待し たい。

(アジア経済研究所所長)

44

特 別 連 載

参照

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伊藤 成朗(いとうせいろう) 。アジア経済研究所 開発研究センター、ミクロ経済分 析グループ長。博士(経済学)。専門は開発経済学、応用ミクロ経済学、応用時系列