ハイリスク薬のポイントブック<4>
~ 血液凝固阻止剤 ~
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◆
参考診療報酬におけるハイリスク薬の考え方 ・・・・・・・・・・・ 1
◆薬学的管理指導において特に注意すべき事項 ・・・・・・・・・・・・・ 2
◆患者家族への指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
◆服薬指導のポイント ・・・・・・・・・・・・・・・ 2
□自覚症状確認 □服薬状況確認 ・・・・ 2
□患者データ確認 □リスク因子の有無・ 3
□他疾患の確認 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
□他薬剤併用 □生活習慣確認 ・・・ 4
□服用時の注意 □服用忘れの対応 ・ 4
□副作用発症の有無 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
□OTC薬、民間療法、健康食品の使用確認・ 5
□家族の協力 □旅行時の注意 ・・・ 5
□各製薬メーカーの手帳、チェックシートの利用 ・・・ 5
◆ 血 液 の 働 き ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6
◆血液の成分 ◆造血 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6
◆血液細胞(血球)の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
◇赤血球 ◇白血球 ◇血小板
◆止血の機序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
1.損傷血管の収縮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
2.血小板血栓の形成(一次止血) ・・・・・・・ 14
■正常な血管内では血小板凝集は起こらない
3.凝固因子による二次止血 ・・・・・・・・・・・ 15
◇ビタミンK依存因子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
■正常な血管内では血液凝固は起こらない
4.線溶系(線溶カスケード) ・・・・・・・・・・・ 18
◆凝固・線溶系の生理的変動 ・・・・・・・・・・ 19
1.日内変動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
2.加齢による変動 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
3.生活習慣による変動 ・・・・・・・・・・・・・ 20
◆血栓の病態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
◆血栓症の発症機序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
◆血栓症と基礎疾患 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
◆治療薬剤の選択 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
◆治療薬剤の分類と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・ 24
1.抗血小板剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
2.抗凝固剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
3.血栓溶解剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
◆ビタミンKとは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
◆検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
◆新規経口凝固薬剤のワルファリンとの比較・ 31
◆ワルファリン抵抗性 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
◆他剤への切り替え ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
◆各疾患における治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
◆血栓症の予防 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
◆血栓症を来す薬剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
◆出血傾向のある患者に「禁忌」な薬剤 ・・・ 39
◆抜歯・手術時 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39
◆内視鏡治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
◆副作用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
◆出血傾向の早期発見 ・・・・・・・・・・・・・・・ 44
◆出血時の対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
◆出血予防 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
◆相互作用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
◆高齢者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
◆妊婦・授乳時の投与 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
◆腎機能障害の患者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
<表>血液凝固阻止剤一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
血液凝固阻止剤の注意すべき副作用と初期症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
手術前に中止を考慮する薬剤・ハーブ類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
ビタミンK、納豆菌を含む医薬品 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
添付文書の警告欄に「血栓症」に関する注意喚起の記載がある薬剤 ・・ 57
添付文書に「出血患者」への投与注意(禁忌・慎重投与)の記載がある薬剤 59
健康食品・サプリメント等食品との相互作用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64
この冊子は、現在、愛知県薬剤師会薬事情報センターと岐阜県薬剤師会ぎふ薬事情報センターが
共同し県薬剤師会ホームページの会員情報に提供している『ハイリスク薬の薬学的管理指導 薬局
向け参考資料』より作成しました。
近年、血液凝固阻止剤の新薬発売やその使い分け、休薬期間の考え方など注目されています。そ
こで、今回はハイリスク薬の「血液凝固阻止剤」について冊子にまとめました。日常業務にお役立
てください。
参考 診療報酬におけるハイリスク薬の考え方
ハイリスク薬の薬学的管理指導を実施する上で必要な、薬局・薬剤師が行うべき標準的な業務を
示したものが、
「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第 2 版)
」
[日本薬剤師会 平成 23 年 4 月 15 日]です。このガイドラインは、平成 26 年度調剤報酬点数表
「特定薬剤管理指導加算」の参考にするものです。
特にハイリスク薬については、5-Components を意識した服薬指導が望まれています。
① 薬剤の効果(作用)
:どういう効果があるか、いつごろ効果が期待できるか
② 副作用(副作用の自覚症状)
:どのような副作用が起こりうるか、いつ頃から、どのように自覚されるか
③ 服薬手順
:どのように、いつ、いつまで服用するか、食事との関係、最大用量、服用を継続する
意義
④ 注意事項
:保管方法、残薬の取り扱い、自己判断による服薬や管理の危険性
⑤ 再診の予定(次回受診日)
:いつ再診するか、予定より早く受診するのはどのような時か
個々の患者さんを薬剤のハイリスクから守るため、薬局薬剤師が投薬時に患者さんと対面におい
て、情報収集し考え、フォロー・指導を行うものであり、画一的な内容では網羅しきれない綿密な
薬学的管理指導です。患者さん又はその家族等に対して確認した内容及び行った指導の要点につい
ては、薬剤服用歴の記録に記載することが基本となります。
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●診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)
平成 26 年 3 月 5 日保医発 0305 第 3 号 別添 3(調剤点数表)より
特定薬剤管理指導加算は、薬剤服用歴管理指導料を算定するに当たって行った薬剤の管理及び指
導等に加えて、患者又はその家族等に当該薬剤が特に安全管理が必要な医薬品である旨を伝え、当
該薬剤についてこれまでの指導内容等も踏まえ適切な指導を行った場合に算定する。
なお、
「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン」
(日本薬剤師会)
等を参照し、特に安全管理が必要な医薬品に関して薬学的管理及び指導等を行う上で必要な情報に
ついては事前に情報を収集することが望ましいが、薬局では得ることが困難な診療上の情報の収集
については必ずしも必要とはしない。
血液凝固阻止剤
◆患者家族への指導
患者あるいはその家族に対して、治療法や本剤投与の有効性および危険性(出血など) を医師からの説明を受け、理解と同意を得ているかを確認し服薬指導を行う。使用薬剤の 投与により発現する可能性のある副作用について、具体的に説明を行い、皮下出血や歯茎 からの出血など出血傾向がないか注意してもらう。服用は長期服用が原則となるため、医 師の指示なしに投与を中止しないように、また、のみ忘れがないように家族の薬剤管理に も協力を必要とする。服用を忘れた場合の服用時間等は製剤によって異なるため、適切な 指導を行う。◆服薬指導
薬剤の作用から普段の状態よりも出血しやすくなることを説明し、異常な出血が認めら れた場合には医師または薬剤師に連絡するように注意をする。自己判断で、服薬中止や減 量することがないように指導する。 <服薬指導のポイント> □患者の自覚症状を確認する ・鼻血、あざ(皮下出血)の有無 ・貧血 ・便の黒色化、下血 ・胸痛、脈拍数の増加 ・消化管障害 ・生理に変化がないか □服薬状況の確認 ・長期服用の必要性を理解している ・決められた時間に、決められた量を服用できているか・・・残薬の確認 ・新規経口凝固剤は半減期が短いため、のみ忘れは血栓発症リスクが急激に高まる ・他院(他科)を受診して、薬剤を服用していないか ・他院(他科)を受診する際は、抗血栓剤の服用を医師に伝えているか◇薬学的管理指導において特に注意すべき事項
1)患者に対する処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
2)服用患者のアドヒアランスの確認、服薬管理の徹底(検査・手術前・抜歯時の服薬休止、
検査・手術後・抜歯後の服薬再開の確認)
3)副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育(服用中は出血傾向と
なるので、過量投与の兆候(あざ、歯茎からの出血等)の確認とその対策)
4)効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
5)一般用医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及び食事(納豆等)との相互作用の確認
6)日常生活(閉経前の女性に対する生理中の生活指導等)での注意点の指導
薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)血液凝固阻止剤より□患者のデータ(指標)を確認する ・肝機能の検査値 ・トロンボテスト値、APTT や INR・・・抗凝固作用の評価 ・血中ヘモグロビン値・・・持続出血の早期発見 ヘモグロビン値基準値:男性 14~18g/dL、女性 12~16g/dL ・血圧コントロール・・・降圧目標130/80mmHg 未満が望ましい ・〔チクロピジン、クロピドグレル〕投与開始2 ヵ月間は、2 週間に 1 回程度血液検査 を受けているか ・〔ダビガトラン〕クレアチニンクリアランス30mL/min 未満の患者へは投与禁忌 〔アピキサバン、リバーロキサバン〕腎不全(クレアチニンクリアランス15mL/min 未満)患者へは投与禁忌 □リスク因子の有無 ・感染、炎症 ・喫煙・・・酸化ストレス、炎症反応に伴う血管壁障害とニコチンによる血中カテコラミ ン刺激が血小板を活性化。 ・脳・脊髄・眼科領域の最近の手術歴 ・出血性脳卒中の既往 ・飲酒・・・アスピリンと服用により消化管出血を誘発または増強することがある ・肥満 ・けがをするおそれのある仕事や運動 ・抜歯や内視鏡治療、手術などの予定がないか ・出血に注意すべき薬剤の服用 ・月経期間中 ・妊婦または妊娠している可能性 ・脱水状態 ・長期臥床 □他の疾患にかかっていないかの確認 ・脳梗塞 ・高血圧・・・脳出血、脳梗塞の最大危険因子 ・糖尿病・・・血小板が活性化しやすい ・脂質異常症・・・酸化 LDL 産生時に生じる酸化コリングリセロリン脂質が、血小板の 活性化を増強 ・腎障害 ・肝障害 ・コントロール不良の重度の高血圧 ・出血性疾患(血小板減少症、血小板疾患など) ・潰瘍性消化管疾患 ・女性ホルモン療法 ・〔バファリン配合錠〕腎障害・・・アルミニウムを含有するため腎臓からの排泄が低下 するが、1 錠あたりのアルミニウム量は少ないため透析患者でも影響がないとされる ・歯肉炎 ・〔アスピリン〕消化性潰瘍、アスピリン喘息 ・〔ワルファリン〕骨粗鬆症・・・ビタミンK2の服用
□他の薬剤の併用 ・血小板凝集抑制作用を有する薬剤、抗凝固剤、血栓溶解剤、ヘパリン製剤、トロン ボキサン合成阻害剤、プロスタグランジンE1製剤及びI2誘導体 ・・・出血傾向が増強されることがある ・非ステロイド性消炎鎮痛剤、SSRI、SNRI、TXA2 拮抗剤・・・出血を引き起こす可能 性がある ・〔ダビガトラン〕P-糖蛋白阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン)、P-糖 蛋白誘導体(リファンピシン、カルバマゼピン) ・〔クロピドグレル、シロスタゾール〕CYP2C19 を阻害する薬剤(オメプラゾール) ・〔シロスタゾール〕CYP3A4 を阻害(マクロライド系抗生物質、HIV プロテアーゼ阻 害剤、アゾール系抗真菌剤、シメチジン、ジルチアゼム塩酸塩等)、誘導する薬剤 ・〔ワルファリン〕CYP2C19 を阻害、誘導する薬剤、骨粗鬆症用剤(ビタミン K2) ・〔アスピリン、ワルファリン〕蛋白結合率の高い薬剤・・・併用薬の血漿蛋白との結合 を置換。ワルファリン蛋白結合率は90~99% ・〔ワルファリン〕ビタミンK 含有薬剤 □生活習慣の確認 ・〔ワルファリン〕ワーファリン手帳とカードを携帯しているか確認する ・〔ワルファリン〕納豆、モロヘイヤ、青汁、クロレラなどの食品を摂っていないか ・禁煙 ・飲酒 〔ワルファリン〕アルコール摂取から6~7 時間以上の間隔をあける ・脂肪の多い食事 ・ペットにかまれることはないか ・カミソリでひげをそっていないか □服用時の注意 ・〔バイアスピリン〕本剤は腸溶錠であるので、急性心筋梗塞ならびに脳梗塞急性期の 初期治療に用いる場合以外は、割ったり、砕いたり、すりつぶしたりしないで、そ のままかまずに服用させる ・〔パナルジン〕細粒剤は苦味が残ることがあるので速やかに飲み下す ・〔プレタールOD 錠〕口腔崩壊錠で口腔粘膜から吸収されることはないため、唾液又 は水で飲み込む ・〔ダビガトラン〕吸湿性があるので、服用直前に PTP シートから取り出し、カプセ ルを開けて服用しない □服用忘れの対応 ・飲み忘れもなく、指示どおりに服用できているか 毎日きちんと服用することで血栓が予防できることを説明し、のみ忘れがないよう に指導する ・飲み忘れても決して2 回分を一度に服用しないように説明する ・医師の説明を理解しているか ・服用に対して不安、質問がないか ・〔アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル〕気が付いたら、すぐに服用。次の服 用時間が近いときは、忘れた分は服用しない ・〔シロスタゾール〕気が付いても服用せず、次の時間に決められた量を服用
・〔ワルファリン〕気が付いたら、その日の分だけすぐに服用 ・〔ダビガトラン〕気が付いたら、すぐに服用。次の服用までに6 時間以上間隔をあけ て服用 ・〔アピキサバン〕気が付いたら、すぐに服用。その後1 日 2 回服用 ・〔リバーロキサバン〕気が付いたら、すぐに服用。翌日から1 日 1 回服用 □副作用の発症の有無を確認 ・出血(皮下出血、鼻血、貧血、歯肉出血)、あざ、目の充血 ・腎障害 ・血尿(おしっこの色が濃くなった) ・黒色便(上部消化管の出血)、赤色便(大腸、下部小腸の出血) ・〔アスピリン〕消化性潰瘍、胃腸障害、咳 ・〔チクロピジン、クロピドグレル〕肝機能障害、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、 無顆粒球症、頭痛、頻脈、かゆみ ・〔シロスタゾール〕うっ血性心不全、狭心症、動悸、ほてり、頭痛 ・〔ダビガトラン〕胃痛、貧血 ・〔ダビガトラン〕胸やけ・・・吸収をしやすくするために添加した酒石酸が原因。内服 前後に多めの水で飲むことや食事と一緒に服用することで予防可能 □OTC薬や民間療法、健康食品の使用状況の確認 ・健康食品や民間薬などを摂っていないか、また摂りたいと考えていないか ・・・セントジョーズワート、バレリアンなど ・ビタミンK や納豆含有薬剤または健康食品・・・ワルファリンの作用を減弱する ・イチョウ葉エキス、EPA、DHA を含む健康食品・・・抗血小板作用がある ・グレープフルーツジュース、イチョウ葉エキス・・・CYP3A4 を阻害する □家族の協力 ・長期薬剤の服用の必要性が理解できているか ・医師への連絡先の確認ができているか ・薬剤管理の協力ができるか ・本人と家族の両方から情報収集ができるか □旅行時の注意 ・時差に注意し、服用間隔を考慮し現地の適当な時間に服用する ・長期の旅行をする際は、旅行中に薬がなくならないように余裕を持って出かける ・薬を紛失したり、足りなくなった場合は、現地の循環器科を受診し処方してもらう その際には処方が書かれた手帳やメモ、ワーファリンカードを提示できるように常 備しておく □各製薬メーカーの手帳、チェックシートの利用 ・副作用のチェックリスト ・抗凝血薬療法手帳(ワーファリン手帳) ・出血傾向、脳梗塞の前触れ症状のチェックシート
◆血液の働き
血液は、心・血管系の中を循環する、比重1.05~1.06、pH7.35~7.45、水の約 5 倍の粘 稠性を示す液体で、生命の維持に極めて重要である。血液量は通常成人で、体重の約8%を 占め、体重60kg で 4~5L となる。また、全血液量の 1/3(約 1.5L)を失うと生命に危険を 及ぼす。 体内を循環し、酸素や栄養素を全身の組織に供給し、二酸化炭素や老廃物を組織から運 び去る。また、身体内部の熱を体表へ運んだり、ホルモンや電解質を全身に流通すること で恒常性の維持に働いている。さらに、白血球や免疫グロブリンの移動を通じて、病原体 や異物からの生体防御、血小板や凝固因子による止血機構においても重要な役割を果たし ている。 血液の働き 機能 例 関与する血液成分 物質の運搬 O2、CO2、栄養素、老廃物 赤血球、血漿 内部環境の調節 体温、pH、浸透圧 血漿 生体防御 感染防御機構、免疫応答 白血球、補体、抗体 止血 血小板凝集、血液凝固 血小板、凝固因子 情報の流通 ホルモンなど 血漿 (坂井建雄他:人体の正常構造と機能,日本医事新報社,2012)◆血液の成分
血液は、有形細胞成分(血球)と淡黄色透明な液体成分(血漿)とから構成される。血 液が凝固すると血球や凝固因子などが分離し、上澄み(血清)が残る。これは血漿からフ ィブリノゲンをはじめ凝固因子を除いたものに相当する。血漿は、全血液量の約 55%を占 める液体成分で、90%は水からなる。その他にはアルブミンやグロブリン、凝固因子など数 十種類の血漿蛋白質やカルシウムやナトリウムなどの電解質、糖質、アミノ酸、脂質など が含まれる。◆造血
循環血中の血液細胞(血球)の寿命は比較的短く、数日から数ヵ月で新しい細胞と交替 する。血球の新生を造血といい、骨髄内の造血幹細胞から分化・成熟して循環血中へ出る。 骨髄は成人で重さ 1,600~3,700g に達し、その約半分が造血を行う赤色骨髄である。そ の他の部位は脂肪を蓄積した黄色骨髄で、主に体肢骨に分布する。骨髄の造血細胞にはす べての血液細胞の母細胞である多能性幹細胞がある。多能性幹細胞は自分と同じ細胞を複 製する能力(自己複製能)とすべての血球に分化する能力(多分化能)を兼ね備えている。図1 ヒト造血細胞の分化 CFU-GM:顆粒球およびマクロファージに分化しうる前駆細胞 CFU-EO:好酸球系前駆細胞 CFU-MEGA:巨核球系前駆細胞 BFU-E:前期赤芽球系前駆細胞 CFU-E:後期赤芽球系前駆細胞 (今西二郎:免疫学の入門,金芳堂,2012)
◆血液細胞(血球)の種類
血球は、全血液量の約45%を占め、赤血球、白血球、血小板からなるが、その大半(99% 以上)は赤血球である。1.赤血球 erythrocyte (red blood cell;RBC)
直径7~8μm、厚さ 2μm の両面の中央が凹んだ円板状の形状をする。これは、同じ 容積の球体に比べ表面積が約1.3 倍と広く、ガス交換を行うには有利である。また、狭い 毛細血管(内径3~6μm)内でも変形しながら通り抜けることができる。 ヘモグロビン(hemoglobin;Hb)を含むため赤色を示し、成熟赤血球は核をもたず、 細胞質と細胞膜のみからなる。ミトコンドリアももたないため嫌気的解糖によるATP 産 生などでエネルギーを得ている。 骨髄で産生された成熟赤血球は約 120 日間循環系内において肺でヘモグロビン分子に 酸素を結合させ、全身に運搬する。また二酸化炭素(CO2)運搬の仲介を担う。組織から 排出するCO2を取り込み重炭酸イオン(HCO3-)に変換させ、血漿中に移動させる。肺 胞付近になるとHCO3-は再び赤血球内でCO2に変換され、肺に運ばれる。 老化赤血球は主に脾臓で破壊される。血液は脾索と呼ばれる細かな網目の中を流れた のち、脾洞と呼ばれる洞様血管に回収されるが、老化または変形能の低下した赤血球は 脾索の網目を通過できずに破壊し、脾索にあるマクロファージに貪食される。老化赤血 球の処理は肝臓、骨髄などでも行われる。
赤血球に関する基準値 男性 女性 赤血球数(/μm) 420~570 万/μL 380~550 万/μL ヘマトクリット(%) 40~50 35~45 ヘモグロビン濃度(g/dL) 14~17 12~15 平均赤血球容積* 85~100 80~100 *平均赤血球容積(MCV)= Ht(%)×10/赤血球数(106/μL)
2.白血球 leukocyte (white blood cell;WBC)
白血球は循環系外に出て働き、血流は移動手段とする。骨髄系とリンパ系(リンパ球) に大別され、骨髄系には顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)と単球に分けられる。好 中球は食作用を示し、細菌などの病原体を貪食する。好酸球は寄生虫除去作用をもつ他、 アレルギー反応においても関与する。好塩基球は顆粒中にヒスタミンやヘパリンを含み、 IgE 刺激により放出するため、即時型アレルギー(Ⅰ型アレルギー)反応に関与する。 (1)顆粒球 顆粒球とは細胞質内に豊富な顆粒*を有する白血球で、好中球、好酸球、好塩基球があ る。骨髄内で造血幹細胞から、骨髄芽球⇒前骨髄球⇒骨髄球⇒後骨髄球⇒桿状核球⇒分 葉核球の順に分化していく。好中球、好酸球、好塩基球系にそれぞれかなり早い段階で 分化経路が分かれるが、光学顕微鏡で区別がつくのは特殊顆粒が産生される骨髄球以降 である。 * 顆粒: 顆粒球に含まれる顆粒にはアズール顆粒と特殊顆粒がある。 アズール顆粒(一次顆粒):アゾール色素に染まるやや大型で、顆粒球、単球に 共通して存在する。酸性ホスファターゼやミエロペルオキシダーゼを含み、 他の細胞のライソソームに相当する。顆粒の20%を占める。 特殊顆粒(二次顆粒):アルカリホスファターゼ、ラクトフェリン、リゾチーム などを含む中好性の小型の顆粒で、顆粒の80%を占める。May-Giemsa 染色 (メチレンブルー、エオジン、アズール B の混合液)での色調によって顆粒 球が分類される。 ①好中球 neutrophil 直径10~13μm の類円形細胞で、全白血球の 40~70%を占め、核が未熟で棒状の桿状 核球と成熟して細かいくびれのある分葉核球と 2 種類の顆粒(アズール顆粒と特殊顆 粒)をもつ。May-Giemsa 染色による特殊顆粒ピンク(好中性)を示す。 好中球は遊走能をもつ食細胞で、炎症部位に移行するため血管内皮に接着し、毛細血 管内から組織へくぐり抜け(遊出)、炎症部位から放出されるサイトカイン(ケモカイ ン)、細菌や組織の分解産物、補体の断片などの走化性因子に引き付けられ、細菌など の異物に向かって移動(走化性)し、細菌などを貪食する。また、炎症時に発熱物質 を放出したり、死滅するとライソソーム様酵素を出して周囲組織を融解、膿を生じる。 高体温は、細菌にとって不利に働き、白血球にとっては活動に有利となる。 好中球は1週間ほどの寿命の大半を脊髄中で過ごし、循環血中に出てから数時間で組 織に移行する。組織に移行した好中球は、細菌を貪食して死滅するか、貪食しなかっ た場合も2~3 日でアポトーシスに至り寿命を終える。
②好酸球 eosinophil
2 分葉核と May-Giemsa 染色(酸性色素であるエオジン)により赤橙色に染まる酸好
性顆粒を特徴とし、好中球に比べてやや大きく直径10~15μm で、全白血球の 2~4%
を占める。酸好性顆粒は直径0.6~1.0μm の楕円形で、MBP (major basic protein)、
ECP(eosinophil cationic protein)、EPO(eosinophil peroxidase)、アルギニン、リ ジンを多く含む塩基性蛋白、ヒスタミナーゼ、LTC4(eukotrieneC4)、PAF(platelet activating factor)などが含まれる。そのため酸性色素により強く染色される。これら の顆粒内物質が細胞外に放出される(脱顆粒)ことにより、MBP 、ECP は寄生虫な どへの細胞毒性を持っており寄生虫除去作用を示すが、正常組織の傷害すなわちアレ ルギー反応を引き起こすと考えられている。また、LTC4、LTB4、PAF などの脂質メ ディエーター放出は気道収縮や血管透過性亢進を促し、ヒスタミナーゼは抗ヒスタミ ン作用を示す。 好酸球はⅠ型アレルギー反応(遅発型反応)*に際して肥満細胞(マスト細胞)や好塩 基球から放出されるヒスタミンなどの好酸球走化因子に誘導されて集まり、アレルギ ー反応を鎮静化する役割を担う。また、弱いながらも好中球と同様に接着・遊走・貪 食・殺菌などの作用も示す。 * Ⅰ型アレルギーでは、肥満細胞が主体となる短時間の反応(即時型反応)の後 に、好酸球が主体となる遅発型反応が起こることがある。 ③好塩基球 basophil 好中球とほぼ同じか、やや小さく直径 9~12μm で、白血球の 0~2%と最も少なく塩 基性色素により暗紫色に染まる大型の顆粒(好塩基性顆粒)をもつ。顆粒はヒスタミ ン、ヘパリンを含み顆粒が充満し、核が見えにくい。 好塩基球は貪食能をもたず、IgE などに対するレセプターをもち、細胞表面の受容体に 抗原が結合すると、脱顆粒を起こし、血管透過性亢進や平滑筋収縮などを伴う即時型 アレルギーを引き起こす。 (2)単球 monocyte 直径 10~15μm の類円形を示し、白血球の中で最も大きい。末梢白血球の 3~6%を占 め、好中球の数倍といわれる貪食能と数ヵ月に及ぶ長い寿命を特徴とする。不定形で、 腎臓形、馬蹄形の核で、微細な紫色のアズール顆粒をもつ。 単球は骨髄から末梢血に入って1~2 日循環するが、炎症などがあると血管外へ遊出し、 不正形の成熟したマクロファージ(MΦ)に分化する。単球から分化したマクロファージ はそれぞれの組織に適応し、様々な形の細胞に姿を変え、特有の名称で呼ばれ、固有の 機能をもつ。マクロファージは強い貪食能・殺菌、異物細胞の処理、外来性の抗原の提 示、抗腫瘍作用、サイトカイン産生の役割を示す。 <マクロファージの各組織における名称> ・皮膚 ⇒ランゲルハンス細胞 ・骨 ⇒破骨細胞 ・肝臓 ⇒クッパー細胞 ・中枢神経 ⇒ミクログリア ・リンパ節 ⇒マクロファージ、樹状細胞 ・肺 ⇒肺胞マクロファージ ・脾臓 ⇒赤脾臓マクロファージ ・炎症巣 ⇒多核巨細胞 (3)リンパ球 骨髄中の多機能性幹細胞から分化して、直径6μm ほどの小リンパ球と 10μm を超え る大リンパ球(末梢リンパ球の約3%)がある。小リンパ球の細胞質は少なく、核のまわ りを縁取るように存在し、核は丸く、切れ込みをみることもある。
リンパ球は機能や細胞表面マーカーの違いから獲得免疫に寄与するB 細胞、T 細胞と 自然免疫に寄与するNK 細胞に大別されるが、形態状の区別は難しく、特に活性化前の B 細胞、T 細胞は小リンパ球として存在し、抗原との接触で活性化して形態が大きく変化す る(芽球化)。 * 自然免疫と獲得免疫: 免疫機構は、自然免疫がまずその防御(一次防御)に働くが、異物が侵入する と引き続き獲得免疫が働くが、作用の発現には数日を要する。 自然免疫 獲得免疫 免疫機構 第 1 段階:体表面での侵入を防ぐ (バリアー) 第 2 段階:食作用→排除機構(炎 症反応) 細胞性免疫:食作用、抗原排除 体液性免疫:特異的な抗原認識 →抗体反応→破壊 免疫記憶 担当細胞 第 1 段階:皮膚、粘膜、酵素、胃 液、常在細菌 MΦ⇒T 細胞 へ抗原提示 T 細胞:抗原排除 B 細胞:抗体産生、記憶 第 2 段階:好中球、MΦ、NK 細胞 作用の発現 早い(即時的) 遅い(数日後) 免疫的 非特異的 特異的 特異性 非自己と認識したものに無差別 に反応 ←活性化 特定の非自己(特異的抗原)を標 的に反応 対象 細菌:好中球、MΦ ウイルス:NK 細胞 自然免疫を突破したもの 免疫記録 × ○ ①B 細胞 骨髄の造血幹細胞で未熟B 細胞が形成され、これが末梢リンパ組織(リンパ節、脾臓、 消化管粘膜関連リンパ組織など)に移行(ナイーブ B 細胞)して、さらに各種の抗体 産生細胞に分化し、血液によって組織間を移動している。その後、抗原刺激とヘルパ ーT 細胞(Th2)からの刺激を受けて活性化し、形質細胞(抗体産生細胞)となる。形 質細胞は粗面小胞体が著しく発達し、個々で抗体(IgM→IgD→IgG、IgA、IgE)を合 成して細胞外に分泌する。個々の B 細胞は、それぞれ異なった受容体をもっている。 また、活性化 B 細胞の一部はメモリーB 細胞(抗原記憶)となって休止状態に入り、 再び抗原に遭遇すると急速に増殖し、免疫応答に働く。 ②T 細胞 NK 細胞と共通の骨髄内の前駆細胞から発生し、骨髄から胸腺に移行したものは、主に 細胞表面マーカー*CD4 のヘルパーT 細胞(産生するサイトカインにより Th1 と Th2 に分けられる)とCD8 の細胞傷害性 T 細胞(CTL、キラーT 細胞)に分化する。成熟 したT 細胞はどちらも CD3 でリンパ節、末梢組織に分布する。 * 細胞表面マーカー: 細胞の表面に存在している特異的なマーカー(抗原)を細胞表面マーカーとい う。国際統一名で決められて、CD(cluster of differentiation)番号で表記さ
れる。細胞表面マーカーにより、形態学的に区別できないリンパ球を判別する ことが可能でもあり、造血器腫瘍の判断では細胞表面マーカーを用いて腫瘍細 胞の起源を知ることに役立つ。 ③NK 細胞(ナチュラルキラー細胞) NK 細胞は T 細胞と共通の前駆細胞から発生し、骨髄内で成熟し、末梢組織に分布す る。自然免疫に関与し、ウイルス感染細胞やがん細胞を傷害する細胞で、T 細胞に特異 的なマーカー(TCR、CD3、CD8)や抗原を認識する受容体ももたないため、キラーT 細胞とは異なるメカニズムで標的細胞を識別して直接攻撃する。 ④NKT 細胞 NK 細胞特有の細胞表面マーカーをもった T 細胞が同定された。サイトカインの一種 であるIL-4 を大量に産生する能力をもち、Th1 と Th2 細胞の分化制御や免疫応答制御 などに関与していると考えられている。 3.血小板 platelet 骨髄巨核球の細胞質の一部がちぎれて血中に 出てきたもので、通常約10 日間全身を循環した のち赤碑髄で破壊される。 血小板は、直径2~4μm の円板形で、その形 態は細胞膜直下を走る微小管によって保たれて いるが、活性化すると球状に変え、偽足(突起) を出す。細胞膜はところどころで内部に深く落 ちくぼんで、開放小管系をなす。核をもたず、 α顆粒*と濃染顆粒(セロトニン、ADP、ATP、 Ca2+などを含む)という血小板特有の細胞内顆 粒をもつ。また、血小板はミトコンドリアと酵 素系を備えており、グリコーゲンを原料としてADP、ATP を産生している。 血小板の役割は、損傷した血管の修復・止血である。 健常者の末梢血には約15~40 万/μL が存在するが、15 万/μL 未満の状態を血小板減少 症といい、3 万/μL 未満になると自然出血が起きやすくなる。最初にあらわれる自然出 白血球 マーカー B 細胞 CD10 CD19 CD20 CD22 T 細胞全般 CD2 CD3 CD5 CD7 ヘルパーT 細胞 CD4 細胞傷害性 T 細胞 CD8 NK 細胞 CD16 CD56 顆粒球 CD13 CD33 単球 CD14 マクロファージ CD68 CD163 Langerhans 細胞 CD1a 巨核球 CD41 CD42 CD61 造血幹細胞 CD34 図2 血小板の構造9)
血は、紫斑と呼ばれる皮下出血が多く、次いで粘膜出血などが起きやすい。 * α顆粒: 血小板のα顆粒内にvon Willebrand 因子(vWF)、血小板第 4 因子、血小板由来成 長因子(PDGF)、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、フィブリノゲンなどが 含まれる。 ・血小板由来成長因子(PDGF): 主に間葉系細胞の遊走および増殖などの調節に関与する増殖因子であり、主に巨核 球によって産生されるほか、血小板顆粒中に存在し、凝集時に血漿中へ放出される。 血小板以外にマクロファージ、平滑筋細胞、腎のメサンギウム細胞、内皮細胞など、 多くの細胞において産生される。 ・トロンボスポンジン: α顆粒中に大量に含まれる蛋白質で、トロンビンの刺激により放出され、血小板凝 集、血栓強固化をサポートする。 ・血小板第4 因子: 巨核球でのみ産生されα顆粒内に蓄積される、強いヘパリン中和作用を有している 塩基性蛋白質で、血中半減期は約 2 分と非常に短い。血小板活性化に伴い血中に放 出されるため、血中の値は血小板活性の指標とされるが、内皮細胞表面のヘパリン 様物質に吸着されるため血中濃度の上昇は大きくない。 ・von Willebrand 因子(vWF): 血管内皮細胞、巨核球で産生され、血漿、血管内皮や組織、血小板に存在する。血 管が傷害され出血を来したときに、傷害された血管内皮の下に存在するコラーゲン に結合する。結合したvWF に対して血小板が接着し、血小板は ADP などの伝達物 質を放出する。さらなる血小板を接着させることで、血小板血栓を形成する(一次 止血)。また凝固第Ⅷ因子へ結合し、内因系凝固因子のひとつとしても機能する。 ・フィブロネクチン: 高分子の糖蛋白質であり細胞外マトリックスのひとつ。細胞膜上の受容体蛋白質で あるインテグリンと結合し、コラーゲン、フィブリン、ヘパラン硫酸プロテオグリ カンなどの細胞外マトリックスとも結合する。 細胞外マトリックスと細胞を接着、 成長、遊走、分化、移動に関与し、創傷治癒や胚発生のような過程において重要な 存在である。
血液細胞(血球)の種類 分類 形態 特徴 機能 赤血球 ・中央が凹んだ円板状 ・凹みは直径の 1/3 以内 ・直径 7~8μm ・厚さ 2μm ・赤色(ヘモグロビンを含む) ・核をもたない ・変形しながら毛細血管を通り抜 ける ・寿命は約 120 日 ・赤血球数:男性 420~570 万/μL 女性 380~550 万/μL ・肺においてヘモグロビン分子に O2を 結合させ、全身に運搬 ・組織から排出する CO2を肺に運搬 白血 球 顆粒 球 好中球 分葉核球 ・直径 10~13μm ・核は成熟し分葉し、核の間は 核糸で連結(凝集状) ・寿命は 2~3 日 ・白血球の 25~70% *白血球数 4000~9000/μL 好中球は白血球の 40~70% ・接着能 ・遊走能 ・貧食能 ・殺菌能 桿状核球 ・直径 10~13μm ・核が完全に分葉せず、桿状 ・核の最小幅が最大幅の 1/3 以上を示し、核糸がない ・桿状核球が成熟し分葉核球と なる ・白血球の 0~15% 好酸球 ・好中球に比べてやや大きい ・直径 10~15μm ・核は通常 2 葉に分葉し、細い クロマチン糸で連結 ・白血球の 2~4% ・エオジン親和性の赤橙色に染 まる均質・粗大な顆粒(好酸性顆 粒)をもつ ・消化管や起動などの粘膜に多く存在 ・寄生虫の除去 ・アレルギー反応の制御 好塩基 球 ・直径 9~12μm で好中球とほ ぼ同じか、やや小さい・顆粒が 充満し、核が見えにくい ・白血球の 0~2% ・塩基性色素により暗紫色に染ま る大型の顆粒(ヒスタミン、ヘパリ ン)をもつ ・肥満細胞と同じく、IgE を介してヒスタ ミンを放出し、即時型 I 型アレルギー 反応を引き起こす 単球 ・白血球の中で最も大きい ・直径 10~15μm ・顆粒は小さく、少ない ・核は不定形で、腎臓形、馬蹄 形を示す ・白血球の 3~6% ・細かな紫色の顆粒をもつ ・食作用 ・マクロファージ(大食細胞)への分化 ・殺菌 ・抗原提示 ・抗腫瘍作用 ・サイトカイン産生 リンパ球 ・直径 6μm 程の小型と 10~15 μm を超える大型(末梢リンパ 球の約 3%)のものがある ・核は丸く、切れ込みをみるこ ともある ・好中球は白血球の 25~40% ・機能や細胞表面マーカーにより に B 細胞、T 細胞、NK 細胞に分 けられる 免疫応答 ・B 細胞:抗原をキャッチ ・T 細胞:MHC 分子に結合した抗原断 片をキャッチ 血小板 ・直径 2~4μm ・大きさは赤血球の 1/3 ・円板形 ・核をもたず、活性化すると偽足 (突起)を出す ・寿命は約 10 日 ・血小板数 15~40 万/μL ・止血と血液凝固:一次止血、活性化 血小板は一連の血液凝固過程を促進
◆止血の機序
血液は、正常な血管内では円滑な血流を保つために血管内皮細胞により、血小板機能や 凝固系などの血栓形成作用は抑制され、血栓ができないように血栓形成作用と抗血栓形成 作用の相反する作用がバランスを保っている。しかし、血管が損傷を受けて出血すると血 管内皮細胞は、血小板機能や凝固系などの血栓形成作用を促進し、同時に線溶系などの抗 血栓形成作用は抑制され、損傷部分に血栓が形成され止血される。止血に至る止血機構は、 血管収縮、血小板が関与する一次血栓(止血)と凝固因子が関与する二次血栓(止血)に 分けられる。血栓による止血後、血管壁細胞が増殖し血管が修復される。血管修復後は、 プラスミンによる線溶系が血栓を溶かし、血液流動性が維持される。 1.損傷血管の収縮 血管壁が傷つけられると、疼痛刺激やトロンボキサン A2(TXA2)、エンドセリンの作用 により出血部位の細動脈が収縮する。収縮は一時的ではあるが、出血量を最小限に食い止 めるとともに、血流速度が遅くなるために血小板の粘着・凝集が起こりやすくなる。 2.血小板血栓の形成(一次止血) 一次止血は、血小板の①粘着、②顆粒放出、③凝集という機能で行われる。 ①血小板粘着 血管壁が損傷し内皮下の結合組織が露出すると、血小板は、血漿蛋白質である von Willebrand 因子(vWF)を介して血管壁のコラーゲンに粘着する。vWF は、血小板膜 に存在する vWF に対する受容体の Gp Ib-V-Ⅸと呼ばれる糖蛋白質複合体に結合し、コ ラーゲンとの間を架橋する。 ②血小板顆粒放出反応 血管損傷部位に粘着した血小板は、コラーゲン、vWF 等により活性化され、静止時の円 板状から球状に変えるとともに偽足を出して移動し、互いに密着する。 活性化された血小板からは開放小管系を介する Ca2+流入や、貯蔵 Ca2+の放出が起こり、 細胞内 Ca2+が上昇する。その結果、脱顆粒が起こり、濃染顆粒(密顆粒)のアデノシン 二リン酸(ADP)やセロトニンが細胞外に放出され、さらに細胞内のホスホリパーゼ A2(PLA2)が活性化される。ADP はさらに血小板を活性化する。また、活性化された PLA2
は細胞膜リン脂質からアラキドン酸を遊離する。アラキドン酸は血小板シクロオキシゲ
ナーゼ(COX)によって TXA2に変換されて細胞外に放出される。TXA2はさらに血小板
内の顆粒放出反応を刺激し、血小板活性化および血管収縮作用を発揮する。 ③血小板凝集 ADP は血小板凝集を仲介するうえで特に重要で、血小板を粘着質にし、互いに付着させ る。ADP 受容体の活性化が、血小板形態の変化と血小板の膜上糖蛋白である GPⅡb/Ⅲa 発現を促進する。血小板が活性化されると Ca2+の働きで GPⅡb/Ⅲa は複合体を形成し、 そこにフィブリノゲンが結合することで血小板同士が互いに凝集し、血栓を形成する。 この血小板凝集は可逆的である。また、ADP は血小板凝集がある状態でのみ顆粒分泌を 誘発する。 TXA2は、血小板膜中のG 蛋白質共役型の TXA2受容体の刺激を通じて血小板の凝集を促 進する。α-顆粒から放出されるフィブロネクチン、トロンボスポンジン、血小板第 4 因 子も凝集を促進する。こうしてできた血小板血栓を一次血栓という。
■正常な血管内では血小板凝集は起こらない 血小板の表面は糖蛋白質で覆われ、一方血管内皮細胞は陰性荷電を帯びているため両者 はくっつかず、血管内皮が損傷しない限り、血小板の粘着と活性化が起こらないようにな っている。 また、内皮細胞の産生するNO(一酸化窒素)やプロスタングランジン I2(PGI2)は血 小板の活性を抑制する。内皮細胞PGI2と血小板TXA2はいずれもアラキドン酸の代謝物で あり、正常では両者の生産量のバランスが保たれている。この他に血管内皮細胞内にある ADPase が血小板から放出される ADP を分解して血小板凝集を抑制している。 図 3 アラキドン酸の代謝経路 (日本緩和医療学会:「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010 年版」より) 3.凝固因子による二次止血 血小板による一次血栓の形成と同時に進められ、一次血栓の周りをフィブリン網によっ て強固にすることで、止血栓として完成させる反応で、血液凝固あるいは凝固という。こ の血中のフィブリノゲンをフィブリンに変換する反応を促進する物質を凝固因子といい、 Ca 以外は血漿蛋白質であり、第Ⅲ、Ⅷ因子および vWF を除き肝細胞で合成される。さら に、そのいくつかは合成にビタミンK を必要とする。 血液凝固カスケードは一続きの酵素反応で、連鎖反応で次々と活性化され、凝固反応が 進行していく(血液凝固カスケード)。反応の中心的役割を担うのは第Ⅱ因子(プロトロン ビン)が活性化されたトロンビンである。Ca2+は多くの段階で補助因子として働く。活性 化した凝固因子はローマ数字の横に“a”を付けてあらわす。
◇ビタミンK 依存因子: 肝臓で第Ⅱ、Ⅸ、Ⅶ、Ⅹ因子を産生する際にはビタミンK が必要であり、ビタミン K が欠乏するとこれらの因子の再生が低下して凝固時間が延長する。 図4 血液凝固カスケード ①第Ⅹ因子(factor Ⅹ;FⅩ)の活性化 凝固反応は、内因性の経路、外因性の経路があり、最終的には共通の経路を介してフィ ブリン形成をもたらす。内因系では、露出したコラーゲンに血中の凝固因子が触れるこ とで反応が開始される。外因系は血管損傷組織から放出された組織トロンボプラスチン (第Ⅲ因子)が反応開始の引き金となり、活性化された内皮細胞、活性化された白血球、 内皮下の血管平滑筋細胞、繊維芽細胞を含むいくつかの異なる細胞型上の組織因子(TF) の発現によって進行していく。血管損傷組織から放出された組織トロンボプラスチンが 第Ⅶ因子と複合体を形成し、第Ⅸ因子を活性型に変換する。また、第Ⅸ因子もⅦa により 直接活性型に変換され、Ⅸa はⅧa を補因子として第Ⅹ因子をⅩa に活性化させる。 ②プロトロンビンからトロンビンへの変換 第Ⅹa はⅤa を補因子としてプロトロンビン(第Ⅱ因子)を活性型トロンビンに変換する。 このいずれの反応も陰性荷電したリン脂質二重層(特にホスファチジルセリン)におけ る Ca2+の存在下で血小板の表面で進行する。α-顆粒から放出された血小板第 4 因子は、 ヘパリンを中和することによりトロンビン活性を保つ。 ③フィブリノゲンからフィブリン フィブリノゲン(第Ⅰ因子)は分子量34 万の大きな糖蛋白質でトロンビンはフィブリノ ゲン分解酵素としてフィブリノゲンを加水分解してフィブリンモノマーを生成する。こ のフィブリンモノマーは速やかに重合して鎖状のポリマーとなる。さらにトロンビンよ り活性化された第ⅩⅢ因子がフィブリモノマー間に架橋結合を形成し、安定化したフィ ブリン網に赤血球が絡み合い、血餅が出来上がる。この反応にはCa2+が必要とされる。 2~3 分後、血小板が収縮するために血餅が縮み、傷口を引き寄せて二次止血が完了する。
■正常な血管内では血液凝固は起こらない 凝固反応で生成されたトロンビンは、その大半がフィブリンに吸着され正常な血管に血 栓が形成されることはない。また、凝固カスケードは多くの凝固阻害因子により制御され ており、凝固は損傷部位のみで局所的に生じる。凝固阻害因子であるアンチトロンビン(AT) は血管内皮細胞上のヘパリンに結合することで活性化し、トロンビンや第Ⅸa~Ⅻa 因子な どの凝固因子と結合して反応を阻害する。 さらに、血管内皮細胞から突き出た膜蛋白質トロンボモジュリン(TM)はトロンビンを 吸着するだけでなく複合体を形成し、ビタミン K 依存の抗凝固物質であるプロテイン C (PC)を活性化させる。この活性化プロテイン C(aPC)はプロテイン S を補酵素として 第Ⅴa、Ⅷa 因子を分解し不活性化させる。このように正常血管内で血管凝固を防ぐ機構を 凝固阻止という。 血液凝固因子 因子 番号 慣用名 血漿含有 活性体 活性体の主な機能 合成場所/ ビタミン K 依存性 Ⅰ フィブリノゲン 200~400mg/dL フィブリン ゲル形成 肝臓 Ⅱ プロトロンビン 100~150μg/mL トロンビン プロテアーゼ(基質:Ⅰ,Ⅴ, Ⅶ,Ⅷ,Ⅻ) 肝臓/依存 Ⅲ 組織トロンボプラスチン (組織因子;TF) 脳、肺、胎盤に多 い リボ蛋白質 外因性凝固の開始(Ⅶa, Ca2+と複合体形成) マクロファージ、内 皮細胞 Ⅳ カルシウム Ca2+ 補助因子 Ⅴ 不安定因子
(AC グロブリン) 50~100μg/mL Ⅴa Ⅹa の補助因子 肝臓、骨髄巨核球 Ⅵ 欠番
Ⅶ 安定因子
(プロコンバーチン) 400ng/mL Ⅶa プロテアーゼ(基質:Ⅹ) 肝臓/依存 Ⅷ 抗血友病因子(AHF) 100~200ng/mL Ⅷa Ⅸa の補助因子〔血友病 A〕 血漿中で vWF と複
合体形成 Ⅸ Christmas 因子 3~5μg/mL Ⅸa プロテアーゼ(基質:Ⅹ) 〔血友病 B〕 肝臓/依存 Ⅹ Stuart 因子 5~10μg/mL Ⅹa プロテアーゼ(基質:Ⅱ,Ⅴ, Ⅶ) 肝臓/依存 Ⅺ 血漿トロンボプラスチン 前駆物質(PTA) 6μg/mL Ⅺa プロテアーゼ(基質:Ⅸ) 肝臓 Ⅻ Hageman 因子 20~30μg/mL Ⅻa プロテアーゼ(基質:Ⅶ,Ⅺ, プレカリクレイン) 肝臓 ⅩⅢ フィブリン安定因子 10~20μg/mL ⅩⅢa トランスグルタミナーゼ(基 質:フィブリン) 肝臓 なし プレカリクレイン 50μg/mL カリクレイン プロテアーゼ(基質:Ⅻ,高 分子キニノゲン) 肝臓 なし 高分子キニノゲン 70μg/mL ブラジキニン Ⅶa の補助因子 肝臓
4.線溶系(線溶カスケード) 線溶系とは凝固によって生じたフィブリノゲンやフィブリンを分解し、止血の役目を終 えた血餅を徐々に溶解するしくみである。 プラスミンの前駆体であるプラスミノゲンは肝臓で合成され、血餅中に取り込まれたプ ラスミノゲンは、血管内皮細胞が産生する組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)*によ ってプラスミンに変換され、フィブリンを分解するのでこの反応をフィブリン溶解(二次 線溶)という。プラスミンは血栓形成の部位に限定され、血栓のない状態では血液中にほ とんど存在せず、二次線溶反応は起こらない。また、病的要因などの特殊な線溶反応とし て血栓のない状態でも、プラスミノゲンの活性化がフィブリンの関与無しで進行し、生じ たプラスミンが凝固前のフィブリノゲンを分解する一次線溶反応がある。血栓溶解のため の二次線溶は生体の重要な反応であるが、循環血液中のフィブリノゲンを分解する一次線 溶は生体にとって悪影響を及ぼす。そのため生体内では線溶促進因子と制御因子の巧みな バランスのもと二次線溶は効率よく進み、逆に一次線溶は強力に制御されている。 プラスミンはフィブリンだけでなく、フィブリノゲンや他の凝固因子も分解しフィブリ ノゲン/フィブリン分解産物(FDP)を生成しながら血栓を溶かしていく。FDP は一次線溶 (フィブリノゲン分解産物)と二次線溶(フィブリン分解産物)を合わせた総称である。 血液中に放出されたt-PA は、そのほとんどがプラスミノゲンアクチベーターインヒビタ (PAI)による阻害を受け、肝臓で半減期 6 分という短時間で除去される。そのため循環血 液中におけるt-PA によるプラスミノゲン(PLG)のプラスミンへの活性化はほとんど起き ず、わずかに生じたプラスミンもプラスミンインヒビター(PI)により強力な阻害を受け 速やかに失活する。フィブリン血栓に入り込んだPI は、プラスミン活性をマイルドに抑制 し、目的とする止血機構が完了するまで血栓が溶解し過ぎて出血をきたさないように働い ている。血栓の溶解が早すぎると出血するし、遅いと末梢の循環不全や梗塞につながる。 また、肝臓で産生され、血中に存在する線溶阻害因子のα2-プラスミンインヒビター (α2-PI)もプラスミンが血栓部位に限局して活性が発揮されるように、プラスミンを阻害 するが、血栓内では、プラスミンとα2-PI の結合部位をフィブリンが塞いでいるため、α2-PI はプラスミンを阻害することができない。 *プラスミノゲン活性化因子(PA):
プラスミノゲンをプラスミンへ変換(活性化)する分子。組織型(tissue type, tPA) とウロキナーゼ型(urokinase type, uPA)の 2 種類の分子がある。いずれもセリン蛋
白質分解酵素で、プラスミノゲンの561 番アルギニン残基と 562 番バリン残基の間の ペプチド結合のみを特異的に切断する。プラスミノゲンはこのペプチド結合が切断さ れると高次構造が変化し、酵素活性が発現した分子であるプラスミンとなる。組織型 プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)はウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベー ター(u-PA)よりもフィブリンへの親和性が高く、血栓溶解反応でのプラスミノゲン の活性化は組織型が、細胞の移動など組織線溶反応でのプラスミノゲンの活性化はウ ロキナーゼ型が行うと考えられている。 (医学書院 医学大辞典 第2 版より)
図5 線溶機構に関わる因子 (北島 勲:凝固・線溶と臨床検査,血栓止血誌 19(4) : 462~466, 2008)
◆凝固・線溶系の生理的変動
凝固・線溶系は、年齢、性差、日内変動など多様な生理的因子の影響を受けて変動する。 1.日内変動 午前中は血小板凝集能および凝固活性が更新し、逆に線溶活性が低下するため、血栓症 のリスクが高いことが知られている。 ①血小板 血小板凝集能は午前中に高く、午後に低下する。メカニズムについては不明な点が多い が、最も有力な理由として、起床後の活動量の増加に伴うカテコールアミン類(アドレ ナリン)の血中濃度の急激な上昇による血小板凝集能の増加が考えられる。 ②凝固系 ヒトでは午前中に凝固因子の増加や凝固反応の活性化が起こることを示す報告がある。 また、凝固抑制因子のうちプロテインC、プロテイン S、アンチトロンビン外因系凝固イ ンヒビター(TFPI)などは日内変動を示すことが報告されているが、血小板凝集能の変 動に付随した変動であるとの考えもある。 ③線溶系因子 血栓は午前中に溶けにくく、午後には溶けやすいことは知られている。プラスミノゲン やα2-PI など血中濃度の高い主要な線溶因子は日内変動を示さないことから原因は不明 であった。しかし、t-PA の血中濃度は午前中に高く、午後に低下する。その後、血中 PAI-1 値も早朝に高く、日中から夕方にかけて低下することが報告されている。PAI-1 は t-PA の阻害蛋白質であるが、PAI-1 は正常血漿中に t-PA よりも大量に存在(約 10ng/mL)し、生成された t-PA と速やかに結合して阻害することで、プラスミンの生成 が抑制され線溶反応が起こらない。
t-PA の多くは不活性型の t-PA-PAI-1 複合体として存在するため PAI-1 が多い午前中は 複合体も同じく高値を示すが、t-PA 活性と線溶活性は低下する。
■時計遺伝子と遺伝子発現の制御機構
内分泌系および循環器系に関わる多くの因子は、遺伝子発現が日内変動する。哺乳類 における概日リズムの中枢は、視交叉上核 (suprachiasmatic nucleus: SCN) に存在す
ることが明らかになっており、時計遺伝子間での転写調節を介したフィードバックルー プモデルが提唱されている。SCN は脳内だけでなく、心臓や肝臓、腎臓、骨格筋、血管 内皮細胞に至るまで、ほとんどの組織で発現している。体内時計の振動体を構成する重
要な遺伝子としては、転写を活性化する正の制御因子 Clock、Bmal1 と正の制御因子の
転写活性を阻害することで、自身の発現を抑制する負の制御因子Period (Per1、Per2、
Per3)、Cryptochrome(Cry1、Cry2)などがある。Per1、Per2 は光刺激によっても誘 導される。BMAL1-CLOCK ヘテロダイマーが、負の制御因子の遺伝子上に存在する
E-box (CACGTG)の特定の塩基配列に結合することにより転写促進因子として働き、
period、vasopressin、DPBなどの発現・転写を促進する。生じたPER1、PER2、PER3、
CRY1、CRY2、CKI、DEC1、DEC2 などの各蛋白の複合体が抑制因子として働き、転
写促進因子である BMAL1-CLOCK ヘテロダイマーを抑制し、自らの転写活性を抑制す る。この転写、翻訳の周期が約24 時間であり、体内時計の概日リズムを規定する
。なお、
イタリック表記の
Clock、Cryは遺伝子を示し、大文字のCLOCK、CRY などはそれら の遺伝子産物を示す。 2.加齢による変動 心筋梗塞の発症は男性では加齢とともに増え、女性は若年期の発症は少ないが、更年期 以降は男性並みに増える。 ①血小板 加齢に伴って出血時間が短縮し、凝集能は増強する。女性では閉経後は男性と同様に凝 集能が増加するという報告がある。血球成分が高齢者で減少するのに対して、血小板数 は年齢による変動は認められない。 ②凝固系 凝固因子のなかで、フィブリノゲンや高分子キリノゲン、vWF は加齢とともに血中濃度 が上昇し、アンチトロンビン、プロテイン C、プロテイン S という主要な抗凝固因子の 活性は、男性では40 歳代をピークとして加齢とともに低下し、結果的に易血栓性に傾く。 ③線溶系因子 線溶活性は、男性では加齢とともに低下する。女性は更年期まで高い活性が維持され、 更年期以降に男性と同様に低下する。これはPAI-1 の血中濃度の変動と一致する。PAI-1 の増加は、血栓症のリスクを高めることになる。 3.生活習慣による変動 適量のアルコール摂取は心血管イベントの発症を低下させるが、過剰摂取では逆にPAI-1 増加に伴う線溶活性の低下も報告されている。 喫煙は、全身性の酸化ストレスを増加させ、炎症反応を引き起こすことが知られている。 喫煙によりⅦa、フィブリノゲン、PAI-1 の血中濃度が高まり、血管壁は、酸化ストレスに よる内皮傷害のために抗血栓性機能が失われる。血流においては、ニコチンあるいは NO とPGI2の産生抑制を介する血管収縮のため、易血栓性に相乗的に寄与する。 精神的ストレスは心血管イベントを増加させ、過激な短時間な運動は、フィブリノゲン 量が増加するために凝固能が亢進し、血小板凝集能も増加する。また、線溶活性の増強は 極めて短時間で消失し、易血栓性のみ遷延して残るため、血栓症リスクの回避につながら ない。◆血栓の病態
血栓とは血管内で形成される凝血塊のことで、2 種類の動脈血栓(白色血栓)と静脈血栓 (赤色血栓)がある。 ①動脈血栓(白色血栓) 成因:動脈硬化、脂質異常症、高血圧などにより血管内皮の障害部位(アテローム)に 血小板が凝集し、さらにフィブリン形成が誘発され、白色血栓が形成される。 疾患:血栓性の脳梗塞、心筋梗塞 ②静脈血栓(赤色血栓) 成因:血液の停滞、静脈内皮膚障害、血液凝固の亢進 血液成分の粘稠度の増大により形成される。 疾患:静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症、腹部静脈血栓症)◆血栓症の発症機序
血栓症とは、何らかの要因により血栓が過剰に産生されると血管閉塞をきたし、末梢へ の血流が途絶することにより発症する。血管を閉塞する因子を塞栓といい、その病態を塞 栓症という。 19 世紀の病理学者 Virchow は、病的血栓の形成には、1)血管壁の性状変化、2)血流の 変化、3)血液成分の変化 という 3 つの徴候が関与するという概念を提唱し、現在も静脈 血栓症の3 大誘発因子として支持されている。 1.血管壁の性状変化 正常な血管内皮細胞は血流を維持するために様々な機能を有している。血小板や凝固系 の活性化を抑制して血栓形成を防止したり、血栓が形成された場合はこれを線溶活性によ り積極的に溶解する。しかし、アテローム性動脈硬化病変部位や炎症部位ではこれらの機 能が低下し、逆に外因系凝固カスケードの開始因子である組織因子(TF)の発現が高まり、 血栓が形成されやすくなる。 通常、TF は血管損傷で血液が流出した際に、細胞免疫応答や炎症反応に伴うエンドトキ シン、炎症性サイトカインなどの細胞刺激により血管外組織血管壁の外膜で発現し、血液 中の第Ⅶ因子や活性化したⅦa が結合することで血栓形成が開始される。 2.血流の変化 手術や長期臥床、長時間の同一姿勢、妊娠時の子宮や腫瘤などによる圧迫などにより、 血流速度が低下または血流が停滞する。血流速度が低下すると血液粘度が増し、赤血球が コインを積み重ねたような状態(連銭形成)となる。また、活性化凝固因子が拡散するこ とができなくなり、凝固カスケードが進行する。 ◇エコノミークラス症候群 長時間の飛行機旅行などでの四肢、躯体の可動制限と下肢を下げた状態による血流停滞、 脱水などによる血液粘度の上昇が主な要因である。 3.血液成分の変化 血液中の凝固抑制因子の先天性分子異常が血栓形成につながる要因となる。また、炎症 に伴う凝固因子の増加、線維阻害因子の増加、脱水による血液粘度の上昇など後天的な異 常に伴う血液成分の変化も血栓症の要因となる。①遺伝性素因 日本では、アンチトロンビン、プロテイン C、プロテイン S などの抗凝固因子の異常に よる血栓症が知られている。いずれも静脈血栓症を発症して発見される場合が多い。中 高年以降に加齢に伴い他の後天性素因と相乗効果で発症に至ると考えられる。 ②後天性素因 感染、炎症、手術侵襲、がん、生活習慣病などの各病態、加齢により血栓傾向が増強す ることが知られている。また、肥満、高脂血症においてもフィブリン形成能の増加によ り血液粘度が高まる。脱水時にはヘマトクリットと血漿蛋白濃度が上昇し、血栓リスク が高まる。
◆血栓症と基礎疾患
他の疾患が血栓症の原因ともなり得る。 1.悪性新生物 前骨髄球性白血病(APL)細胞や胃がん細胞などは組織因子(TF)を高発現あるいは放 出し、播種性血管内凝固症候群(DIC)や静脈血栓閉塞症(VTE)などを引き起こす。ま た、がん細胞あるいはその周囲細胞から分泌されるサイトカインなどが、単球や血管内皮 細胞などのTF 産生を促進して血栓症の原因となる。 止血系の活性化機序 22) 活性化因子 病態、病因、疾患 血液成分 血 漿 外因系 TF 発現の増加・放出 腫瘍性、感染症、妊娠(胎盤)、動脈硬化 内因系 外因系からの活性化、血管壁の 異常、血流うっ滞、微量のⅡa Ⅶa により FⅩや FⅨ活性化、動脈硬化、 ケモカイン、活性化白血球、微量のⅡa からの活性化 線溶系 PAI-1 の増加 感染症、脂質異常 血 球 血小板 ADAMTS13 異常、血管内皮細胞 障害、種々の血小板凝集惹起物 質、抗体 TMA、HIT、DIC、動脈硬化性血栓性疾患 白血球 細胞毒素、サイトカイン 感染症、炎症性疾患、がん 血管壁 瘤、動脈硬化、物理的/化学的内 皮障害 大動脈瘤、アテロームなどの動脈硬化、 血管腫 血流 うっ滞、乱流 心房細動、長期臥床、長時間旅行TMA:血栓性微小血管障害 HIT:ヘパリン起因性血小板減少症 DIC:播種性血管内凝固 ADAMTS-13:フォンウィルブランド因子(VWF)切断酵素
2.感染症・炎症
外因系凝固カスケードの開始因子であるTF は、通常は血液が触れる部位にはほとんど発
現しないが、炎症などの発症で白血球や血管内皮細胞を刺激して、TF やサイトカインなど を産生・放出させ、外因系の活性化による血栓症につながる。
3.メタボリックシンドローム 脂肪組織で産生される、線溶活性を調整するPAI-1 が脂肪蓄積に伴って増加する。また、 肥満症例では、脂肪組織による直接的な血管の圧迫も血栓症発症の原因となる。血中アデ ィポネクチン濃度が健常人よりも低下していることも易血栓性に寄与する。 4.動脈硬化 高コレステロール血症では、マクロファージが変性コレステロールを貪食して泡沫化し、 TF やサイトカインなどを産生・放出させ、単球や血管内皮細胞を刺激する。さらに TF 産 生を促すとともに平滑筋細胞などを遊走させアテロームを形成する。 5.妊娠 妊娠中には深部静脈血栓症の発症リスクが増大する。若年者より高齢の妊婦、帝王切開、 右脚より左脚に多い。妊娠に伴う凝固活性の増強と線溶活性の低下が基盤となるが、妊娠・ 分娩時の出血に備える生理的変動ともいえる。胎盤にはTF が大量に存在し、異常分娩など で血中に放出されると外因系凝固が活性化され、DIC を発症する。妊娠状態では、エスト ロゲンなどの影響により凝固因子濃度が増加して過凝固状態ともなる。経口避妊薬服用時 も同様な機序が考えられ、PAI-1 も妊娠経過に伴って増加し、線溶活性は低下する。 6.ストレス 過度の身体的ストレスは、フィブリノゲンや PAI-1 などの増加、脱水による血液濃縮な どにより血栓症リスクを高める。短期間の急性精神的ストレスでは凝固因子の第Ⅶ、Ⅷ因 子、フィブリノゲンが増加する。
◆治療薬剤の選択
抗血栓療法は、血栓症の発症を抑制する治療で、①血小板機能を阻害する抗血小板剤、 ②血液凝固能を低下させる抗凝固剤、③線溶系を活性化して形成された血栓を溶解する血 栓溶解剤などが用いられる。 抗血栓療法の分類 26) 抗血小板療法 抗凝固療法 主な病態 血小板の活性化 凝固系の活性化 血栓が形成されや すい場所 血流の流れが早い動脈 血流の流れが遅い静脈 原因 動脈硬化 血流の流れのうっ滞 代表的疾患 心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬 化症など 深部静脈血栓症、肺梗塞など 予防薬 抗血小板剤 抗凝固剤 一般に、動脈に形成される動脈血栓(白色血栓)は、抗血小板剤を用い、静脈に形成さ れる静脈血栓(赤色血栓)は、抗凝固剤による治療が原則とされる。血栓リスクの高い症 例には抗凝固剤を使用し、血栓リスクの低い症例には抗血小板剤を使用する。しかし、血 小板も凝固機序に関与することや動脈血栓でも閉塞血栓では静脈血栓を伴うことなどから抗血小板剤と抗凝固剤が併用されることが多い。不安定狭心症など近未来に心筋梗塞を発 症するリスクが極めて高い状態の時にはヘパリンとアスピリンの併用など血栓溶解剤は両 方のタイプの血栓に用いられる。