岡大医短紀要
,4:1 1 7 ‑1 2 0 ,1 9 9 3
Bull.Sch.HealthS°i.OkayamaUniv精神科実習におけ る看護学生の偏見への影響
徳 永 順 子 ・池 田 敏 子 ・中 西 代 志 子
Theeffectsofpsychiatricpracticingonaprejudicedideaagainstmentalpatients.
JuLnkoToKUNAGA,ToshikoIKEDA,andYoshikoNAKANISHI
Weinvestigatedaprejudicedideaofnursingstudentsagainstmentalpatientsbeforeandafter psychiatricpracticing.Oninvestigationwefoundthefollowingfacts.
1 Beforepsychiatricpracticing,84.1percentofnursingstudentshadaprejudiceagainstmental patients.Thosestudentsthoughtthatmentalpatientswerefearfulandcouldnotcommunicatewith students.
2 Afterpsychiatricpracticing,48.8percentofnursingstudentsputprejudices.
3 Afterpsychiatricpracticingnursingstudentsundersandthatmentalpatientsarethesameas peopleingeneral.
KeyWords:精神科実習 看護学生 偏見
は じ め に
当短大 では2年生で精神 医学及び看護 を講義 で 学び
, 3
年生で2
週間の精神科実習 を行 っている。その実習で心の病 をもつ患者 を理解 し,「いかなる 場面において も患者 を人 として尊重す ることがで きる」 ことを目標 のひ とつ にあげてい る。実習前 の教官オ リエンテー ション時の印象か ら学生は精 神障害者 との関わ りを今 まで殆 どもってお らず, また,精神疾患 をもった患者 を想像す るこ とは難 しく様子 を理解 しに くい と感 じている者が多か っ た。更に,事件報道 との関連性 で精神障害者は恐 い とか危険性 を感 じている学生が若干いた。 それ では,実際に患者 を受け持 ち実習 を行 うこ とは学 生に どんな影響 を与 えるであろ うか。学生が考 え る偏見 とは どんな内容 なのか実習の偏見に対 して の影響 は どうなのか等の概観 を調査 してみ ること に した。その結果若干の知見 を得 たので報告す る。
岡山大学医療技術短期大学部看護学科
研 究 方 法 1.調査期 間 二平成
4
年4
月〜1 2
月2.
調査対象:3
年生8 2
名 (全員女性)3.
調査 方法 :精神科実 習直後 に調査 用紙 を配 布 し記入後 回収 した。 (回収率1 0 0%)
偏見についてはある,ないわか らないの う ち三者択一 によ り,偏見 内容 ・実習による変 化 につ いては記述 して もらった。無回答 ・二 重回答等は省略す る。
結 果
1.実習前後の偏見について
実習前に偏見があった学生 は
6 9
名( 8 4. 1 %)
なか った学生 は7
名( 8. 5 4%)
, わか らない学生は5
名( 6. 1 0 %)
であった。実習後 に偏見がある学生は8
名( 9, 7 6%)
, ない学生は4 7
名( 5 7. 3 %)
, わか らない学生は
2 4
名( 2 9. 3%)
, であった。2.
実習前後の変化 につ いて実習前後 で変化があった学生は
6 5
名( 7 9. 3%)
,‑ 1 1 7‑
徳永 順子他
変化がなかった学生は
1 4
名( 1 7. 1 %)
であった。そ の内訳は変化 のあった学生については 「偏見があ った」が「偏見がない」に変化 した学生は4 0
名( 4 8. 8
%),「偏見があった」が 「わか らない」に変化 し た学生は
2 1
名( 2 5. 6 %)
であったO次に,変化がな か った学生1 4
名 については実習前後共偏見がある 学生は7
名( 8. 5 4 %)
,偏見がない学生は5
名( 6. 1 0
%),わか らない学生は
2
名( 2. 4 4 %)
であった。3.
実習前の偏見内容 について (偏見があった と 書いている学生6 9
名の記述 内容 で人数 は延人数 で 表わす)実習前に学生が考 えていた偏見 とは恐い ・恐 ろ しい感 じ (イメー ジ)
3 4
名 と最 も多 く,次いで コ ミュニケー シ ョンが はか れ ない ・会 話 にな らな い ・こちらの言 うことを理解 で きない ・わかって もらえない2 0
名,暴力的 ・襲 って きそ う・暴れ る・狂暴 ・暴力 をふ るう
2 0
名,泣 き叫ぶ ・叫ぶ ・大声 を出す ・喚 く11名,考 えられない行動 をす る ・変 な容貌 ・反応がない ・感動がない ・人格崩壊 をき た した人 ・挙動不審8
名,危険な人 ・危害 を加 え られそ うな ・危険なことをす る7
名,一般の人 と 違 う ・普通がない6
名,何 をす るかわか らない5
名,暗い ・淋 しい ・冷 たいイメー ジ5
名,わけの わか らないことを言 う3
名,近づ きた くない3
名, 不活発 ・閉 じこもったように している3
名であっ た。以上か ら実 習前 に学生 が考 えた偏 見 内容 は恐 い ・疎通性がない ・暴力的 ・叫ぶ ・危険な人 とい
うイメー ジが多かった。
4.
実習後変化 した内容 について (記述内容 は延 人数 で表わす)1)「偏見があった」が 「偏見がない」になった学 生
4 0
名の変化 した内容 を挙 げると,普通の人 と変 わ らない ・私 と同 じ人間 ・話は普通にで きる1 5
名, 精神疾患は他 の病気に比べ精神的な内面のことを 悩んでいるか らはか りきれない思いがある ・自分 の精神障害について一生懸命考 えている ・純粋 な 心 を持 っているか ら現代 に適応できず戸惑 ってい る ・私達 と共通す る感情面 も多 くあ り妄想 などそ の一部分・に過 ぎない ・自傷行為 も見 たけれ どその 行動や言葉が 自分・の苦 しみ を表現す る手段の一つになっているかな とわか った気がす るなど
1 4
名だ った。 自分 で問題 を解決す る方法 を導 くことがで きないほ どデ リケー トで心優 しい人達 だ とわかっ た ・思いや りのある人が多い ・時には不穏 となる が人に も気 を使 うし明 るい し協調性があるなど8
名,恐い とい う思いが消 えた ・恐い所 ではない ・ むやみに暴力 をふ るう人はいない ・人には危害 を 与 えないな ど7
名,実習前に思 っていたこ とは偏 見だった ・自分が思 っていたことは誤解 だ とわか った t偏見 を持 っている人 を説得 で きる程気持 ち が一変 したな ど5名 であった。以上 よ り 「偏見があった」が 「偏見がない」に なった学生の変化 した内容 は,普通の人 と変 わ ら ない ・話は普通にで きる ・病気は一部分 である ・ デ リケー トで心優 し く思いや りのある人が多い ・ 恐 くない し暴力 もふ るわないが多か った。
2)「偏見あった」が 「わか らない」になった学生
2 1
名 中記載のあった2 0
名の変化 した内容 を挙げ る と独語や奇声 をあげ る人 も病気のための症状であ り根 は気が弱 くて傷つ きやすい人が多い ・優 しい 心 を持 っている人が多い ・相手の ことを思いや る 人が 多 く恐 い感 じはな く非活動 的 な感 じを受 け た ・患者の方が学生に気 を使 って話 していて拒否 などはなか った ・どんな人で もじっ くり話せ ばわ か るものだなあな ど9
名が答 えていた。患者は自 分 の将来の こととか考 えていて普通の人 と変わ ら ない部分が多い ・私達 とそれほ ど変わ りな く正常 な部分が殆 どで共通点がた くさんある ・自分のこ とをきちん とわか っている ・たいていの人は疎通 性があ り言 った らわか って くれ るなど8
名 であっ た。人に危害 を加 えることは少 ない ・そんなに恐 くない ・恐いあばれ るとい う偏見はな くなったよ うな気がす るな ど4名。恐い とい う偏見はな くな ったように思 うが何故 こんなふ うに考 えるのか理 解 で きない とい う感 じは新 しくで きた ・理解 で きない部分が多い と思 った2名。
以上 より 「偏見があった」が 「わか らない」 に なった学生の変化 した内容 は優 しい心 を持 った人 や思いや りのある人が多い ・正常 な部分 が殆 どで 普通の人 と変わ らない ・疎通性がある ・恐 くない
などが多か った。
‑ 118‑
精神科実習におけ る学生 の偏見へ の影響
考 察
実習前に偏見 を持 っていると考 えた学生は
8 2
名 中6 9
名 いたD精神障害者 と関わった経験 を持rt=な いのに,恐い感 じがす る,会話にな らない,暴力 をふ るう,考 えられない行動 をす る,危険である, 何 をす るかわか らないなどとイメー ジしていることがわか った。精神障害者 を身近に知 らない こと か らも, これはおそ らく一般の人に近 い内容 の偏 見だろう。岡田は新聞記事 の分析 をして,精神疾 患に関す る記事 は
1 5
年前 よ りもむ しろわる くなっ てお り,新聞記事 で見 るか ぎり精神疾患について の偏見 はかわっていない1)と述べ てい る。学生 は 精神疾患や講義 を学んでいるに も拘 らず精神 障害 者 を危険視す るイメー ジを抱 くのは新聞や テレビ の事件報道などの情報による影響が大 きいのでは ないか と考 えられ る。かつて小林美代子が 「一人 の異常者の為 に私達全 国の精神病患者が裁かれ る。‑・‑患者以外の人間が千人に一人罪 を犯 して も, 九百九十九人は罪に問われないが,私達 は全員直 ちに裁かれ る。」2)と書いているように報道 された 一人のイメー ジで精神障害者全体 をその ように見 て しまう傾 向が学生にはあると思われ る。
次に,実習前後 を比べ ると変化があった と答 え た学生は
8 2
名 中6 5
名 で, その内 「偏見があった」が 「偏見がない」に変化 した学生は
4 0
名 で一番 多 かった。つ ま り,半分の学生が精神科実習によっ て偏見がな くなった と答 えている。 その次に多い のが 「偏見があった」が 「わか らない」に変化 し た学生で2 1
名だった。「偏見がない」になった学生 も 「わか らない」になった学生 も実習 を通 して変 化 した内容 は大体 同様 であった。 それは普通の人 と変 わらない と感 じたことであ り,実習前にイメ ー ジした偏見内容 を否定す るものである。更に, 精神疾患 を理解 した内容や,患者の人 とな りにつ いての内容 である。「わか らない」になった学生 も 実習前の精神障害者 を危険視す る偏見については 殆 どな くなった と答 えていることか ら,学生の多 くは一般の人 と同 じ偏見はな くなった と考 えて よ い と思 う。以上のことか ら精神科実習が学生の偏見 に大 き な影響 を与えていることがわか る。学生 は実習で
患者 と接触 し,実習前にあった偏見 内容 を否定す る事実 を目のあた りにす るこ とで偏見はな くなっ た と思われ る。 また,学生は実習 目標 を達成す る ために も患者 と積極的に関わ り理解す ることか ら 始めなければならない。実習が きっかけ となって 患者 (精神 障害者)に多 くの関心 を向け るわけで その意味で も芙習の果たす役割が大 きいのでは と 考 える。患者に関心 を向けた結果,症状が苦 しみ の表現であることを知 り,病気は一部分 で健康 な 部分が殆 どであることを理解す る。 そ して,患者 が病気や将来について真剣 に考 え悩んでいること を,学生 に も気 を使 い過 ぎるような心優 しい思い や りのある人達 だ と理解す る。学生が理解 したそ れ らの内容 は関心 を向けた対象である患者が実習 中に示 した ものである。 その患者達 の示す事実 を 知 る実習 とい う体験が学生に,患者は 自分達 と何 ら変わ りがない と感 じさせ ているのである。実習 の 目標の一つに,事実 を知 って患者 を理解 し人 と して尊重す ることをあげていると前に述べ たが, 多 くの学生 はほぼその 目標 を達成 していると考 え る。 それが延 いては偏見 をな くす ことにつなが っ た と考 える。
最後に, これ まで述べ た実習後 「わか らない」
に変化 した学生に加 えて変化 のなか った学生の中 に 「偏見がある
」 7
名 と 「わか らない」 2
名の学 生がいる。実習で事実 を知 り尚学生に偏見が残 る ことも実態のようである。野 田は相変 わ らず精神 衛生に関す る関心 は低 く,身近 な問題 にはなって いない現状 であ る3)と述べ ているように学生が実 習以外 に精神障害者‑の関心 を向け る機会が少 な いのではないか と考 える。 また,山田 らが精神障 害者 を危険視す ることにつ いて看護学生 では30%の者が 湊疑的である4),看護学生 は世 間体 で考 え ることが多 く,偏見な ども強 く残 っているようで, よ り閉鎖的であった5)と述べ ている。更に,町沢 ら は詳 しい調査 でア メ リカ, イギ リスのお よそ30年 前の社会的距離に関す る偏見調査 と比較 して も, 日本 は偏 見が強 いこ とが うかがわれ た。6)と述べ ている。学生が実習で事実 を知 って も偏見がな く なって しまわないのは 日本におけ るそ ういった偏 見の根強 さと関連 しているのか もしれない。
‑ 1 1 9‑
徳永 順子他
結 論
1.精神科実習前に
6 9
名( 8 4. 1%)
の学生が偏見 を 持 っていた。2.
実習前の偏見内容 は一般的に考 えられている 精神障害者 を危険視す るもの と疎通性がない とい った ものが多か った。3.
精神科実習後,4 0
名( 4 8. 8%)
の学生が 「偏見 があった」か ら「偏見がない」に変化 し,2 1
名( 2 5. 6
%)の学生が 「偏見があった」か ら 「わか らない」
に変化 した。
4.
精神科実習後変化 した内容 として,学生は精 神障害者 を危険視す ることはな くな り,精神障害 者 を自分達 とほぼ変わ らない普通の人だ と理解 した 。
引 用 文 献
1)小林美代子 :髪の花.講談社.東京.65‑66,1971. 2)岡田靖雄 :精神疾患患者‑の偏見 をつ くるもの (第2
報).社会精神 医学12:37‑43,1989.
3)野田和男 :精神衛生に関す る意見 ・態度.静岡精衛セ ンタ一所報 :59‑66,1988.
4), 5)山田裕子,市丸精一 :精神障害 と社会的態度(3). 住友医誌第11号 :34‑42,1984.
6)町沢静夫,佐藤寛之,沢村幸 :精神障害に対す る態度 測定.臨床精神医学19:51ト520,1990.
参 考 文 献
1)河村好市 :精神障害者の犯罪報道 をめ ぐる 「書かれる 立場」 と 「書 く立場」.臨床 精 神 医学12:447‑451, 1983.