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来院時に急性冠症候群を疑う所見に乏しく低体温療法後に緊急経皮的冠動脈形成術を要した院外心停止の1例

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Academic year: 2022

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全文

(1)

はじめに

2010 年の American Heart Association/American College of Cardiology ガイドラインにおいて,急性冠 症 候 群(acute coronary syndrome, 以 下 ACS と 略 す)を原因とする心停止蘇生後患者に対して,緊急冠 動脈造影(coronary angiography,以下 CAG と略す)

を施行し,原因病変があれば経皮的冠動脈形成術

(percutaneous coronary intervention,以下 PCI と略 す)を施行することが推奨され,低体温療法との併用 がさらなる予後の改善をもたらすことが明らかになり つつある 1)

しかし,ACS の診断が明らかではない症例に対す る CAG/PCI の適応とタイミングに関しては明確にさ れていない。今回,院外心停止蘇生直後には ACS を 疑わせる所見に乏しく,低体温療法を施行,その後,

心停止が再燃し緊急 CAG/PCI を要した症例を経験し たので報告する。

症  例

患 者:60 歳代の男性

家族歴:両親とも心臓発作により死亡

既往歴:糖尿病性腎症に対して維持透析中(透析歴 10 年),脳幹梗塞,発作性心房細動,甲状腺腫の既往 あり,高血圧・脂質異常症はなし

喫煙歴:あり

内服歴:ベラパミル,アスピリン,クロピドグレル,

Emergency percutaneous coronary intervention after target temperature management without any suggestive findings for acute coronary syndrome on arrival in patient with out-of-hospital cardiac arrest: a case report Tetsuya SATO 1, 2, Hideaki SUZUKI 2, 3, Daisuke KUDO 1, 2,

Keiichiro ASANUMA 2, Shigeki KUSHIMOTO 1, 2

1 Division of Emergency and Critical Care Medicine, Tohoku University Graduate School of Medicine,

2 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Tohoku University Hospital, 3 Department of Cardiovascular Medicine, Tohoku University Hospital

1 東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分

野,2 東北大学病院救急科・高度救命救急センター,3

北大学病院循環器内科

〔原稿受付日:2014年10月1日 原稿受理日:2015年8月18日〕

【要旨】 急性冠症候群を原因とする心停止蘇生後患者に対する緊急冠動脈造影 / 経皮的冠動脈 形成術が推奨されているが,適応判断とタイミングは明確ではない。今回,院外心停止蘇生直 後には急性冠症候群を疑わせる所見に乏しく,低体温療法を施行,その後,再度心停止となり 緊急冠動脈造影を要した症例を経験したので報告する。症例は 60 歳代の男性。血液透析へ行く 準備中に心肺停止となった。救急隊到着時初期波形は心室細動であり,除細動を施行し,波形 は無脈性電気活動へと変化,その後自己心拍が再開した。来院時,明らかな虚血を疑わせる心 電図所見,心筋逸脱酵素の上昇はなく,心エコー上は全周性心筋肥大を認め,局所性収縮異常 所見はなく,肥大型心筋症による心室細動と診断した。第 6 病日,再度心室細動となり,心エ コーにおける前壁壁運動低下,広範な ST 低下を伴う心電図所見から急性冠症候群を疑い緊急冠 動脈造影を施行し,冠動脈狭窄を認めた。来院時に急性冠症候群を示唆する所見に乏しい心停 止蘇生後患者に対する緊急冠動脈造影の適応・施行時期に関し,さらなる検討が必要である。

索引用語:急性冠症候群,院外心停止,緊急冠動脈造影

(2)

吸も再開した状態で当院へ救急搬送された。

来院時現症:Glasgow Coma Scale 3,血圧 168/71 mmHg,心拍数 82 回 / 分,呼吸数 12 回 / 分,SpO2

100%(O2 10L/min),体温 36.4℃。瞳孔径は左右いず れも 2mm,対光反射は両側ともなし。

来院時検査所見:心電図は洞調律であり,以前の心 電図と比較してⅡ,Ⅲ,aVF,V5,V6 誘導において一 部若干の ST 低下を認めた(図 1)。しかし,心エコー では明らかな局所性壁運動異常はなく,左室全周性に ヒトインスリン,レボチロキシンナトリウム,他

現病歴:透析日,気分不快を訴え,その後,立ち上 がろうとしたときに胸部不快感が認められ,椅子に座 りこむように意識消失し,心肺停止状態となった。家 族の目撃があったがバイスタンダーによる心肺蘇生は なく,救急隊現着時の初期波形は心室細動(ventricular fibrillation,以下 VF と略す)であった。150J で除細 動を 1 回施行し,その後波形は無脈性電気活動へ変化,

発症から約 15 分後に自己心拍再開が得られ,自発呼

図 1 来院時心電図(A)と発症前心電図(B)

来院時心電図(A):洞調律であり,V1 〜 V4 で R 波の増高不良を認めるが,明らかな ST 上昇はない。

発症前(3 年前)の心電図(B)と比較してⅡ,Ⅲ,aVF,V5,V6 誘導において一部若干の ST 低下を疑 う部分を認めたがはっきりとはしなかった

A

B

(3)

心筋肥大(心室中隔厚 19mm/ 心室後壁厚 16mm)を 認め,左室駆出率は 53% と維持されており,肥大型心 筋症により VF が生じ,心停止となった可能性が考え られた。血液検査所見(表 1)では,AST,LDH など 逸脱酵素の軽度上昇を認めたが,CK は基準範囲内であ り,CK-MB は 21U/L と軽度上昇を認めるのみであっ た。乳酸値は 2.6mmol/L と軽度上昇,BNP 822pg/mL,

トロポニン T 157ng/L と上昇を認めたものの,胸部 X 線では明らかな異常は認めなかった。6 時間後の CK- MB,6 時間後,24 時間後の CK の値は基準範囲内で あった(表 2)。頭部 CT,体幹部 CT を施行するも,

VF による院外心停止の原因の同定はできなかった。

入院経過:血行動態は安定しており,経時的評価に おいても心筋逸脱酵素の著明な上昇はなく(表 2),

低体温療法(34℃,24 時間)を継続した。第 5 病日 には,意識は清明となり,人工呼吸器を離脱した。第 6 病日,心房細動を認め,その後に再度 VF となった。

除細動抵抗性であり,アミオダロンの併用により自己 心拍は再開した。心拍再開後の心電図でⅠ / Ⅱ / Ⅲ / aVL/aVF/V4/V5/V6 誘導において著明な ST 低下を 認め(図 2),心エコーでは前壁の壁運動低下を,ま た,心筋逸脱酵素の上昇(表 2)を認めた。ACS を 疑い CAG を施行し,冠動脈の左前下行枝(#6)と右 冠動脈入口部(#1)に有意狭窄(90 〜 99%)を認め,

B type natriuretic peptide 821.9 pg/mL

図 2 心室細動再発,自己心拍再開後の心電図

Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ /aVL/aVF/V4/V5/V6 誘導において ST 低下を認める

(4)

PCI を施行した(図 3)。その後,状態が安定し循環 器内科へ転科となった。今回のイベントは虚血による 影響が強く,肥大型心筋症に対する植込み型除細動器 の適応はないと判断し,リハビリテーション目的にて 転院となった。転院時の CPC(Cerebral Performance Category Score,以下 CPC と略す)は 1 であった。

考  察

本症例は心エコーでは肥大型心筋症所見を認め,来 院時には VF による心停止の原因として ACS を疑う 所見に乏しかった。そこで,神経機能保護のための低 体温療法を行った。しかし,再度 VF による心停止を 生じたため,その原因として ACS を疑い, CAG を緊 急実施した。CAG では左前下行枝近位部と右冠動脈 入口部に高度狭窄を認め,PCI を施行した。

心停止後症例では,初診時には ACS の診断が必ず しも容易ではないことが報告されている。Spaulding

2)による院外心停止蘇生後 84 例の検討では,ST 上 昇も胸痛も認めることなく冠動脈病変を有していた症 例が 26% あったことが報告されている。Anyfantakis ら 3)の心原性心停止 72 例の報告では,心拍再開後の 心電図について,非特異的 ST 変化あるいは正常心電 図であった 23 例のうち,9 例(約 40%)に有意な冠 動脈病変を認めたことが示されている。このことは,

本症例のように蘇生後の心電図で虚血性変化を疑う所 見がなくても,心停止の原因としての ACS を否定す ることができないことを示唆している。本症例では,

心エコーで局所性壁運動異常を認めず,肥大型心筋症 を疑う所見があったこと,維持透析患者であるために トロポニン T 値の解釈が困難であったこと, CK-MB の上昇を認めなかったことが ACS を積極的に疑わな かった理由である。

院外心停止蘇生後患者に対する CAG/PCI について であるが,Spaulding ら 2)はその成功が生存の独立規 図 3 冠動脈造影所見

左前下行枝(#6)に 90%(A),右冠動脈入口部(#1)に 99% 狭窄を認め(C),経皮的冠動脈形成術(PCI)

を施行した(B, D)。矢印は左前下行枝,右冠動脈入口部の狭窄部位を示す

A

C

B

D

(5)

心原性心停止の約 50% は ACS が原因であり,日本 蘇生協議会蘇生ガイドライン 2010 では,標準検査と しての CAG を Class Ⅱb で示している。しかし,ACS 以外の原因を特定することのできない突然の心停止蘇 生後患者において,ACS を否定するために緊急 CAG を施行することの適応・施行時期に関しては未確定で

ある 2, 9)

結  語

来院時に心電図,心エコー,心筋逸脱酵素などの所 見からは積極的に ACS が疑われなくても,早期に CAG/PCI を行う必要性がある症例が存在するものと 考えられる。特に本症例のように初期波形が VF であ る心停止心拍再開例においては考慮されるべきであ る。蘇生に成功した院外心停止患者の転帰のさらなる 改善のためには,これらの症例を的確に抽出すること が求められ,CAG の適応とタイミングの判断に関し て,今後の前向き症例集積が必要であると思われる。

なお,本報告の要旨は第 17 回日本臨床救急医学会総 会・学術集会(2014 年 5 月,栃木)で発表した。

文 献

1) Neumar RW, Nolan JP, Adrie C, et al.: Post-cardiac arrest syndrome: epidemiology, pathophysiology, treatment, and prognostication. A consensus statement from the International Liaison Committee on Resuscitation 定因子であると報告しているが,Anyfantakis ら 3)

転帰に寄与しないとしている。また,Garot ら 4)は緊 急 PCI の施行が 6 カ月後の生存率,神経学的後遺症 の有無にも影響するとしている。2010 年の PROCAT registry 5)では,心原性心停止例 435 例に CAG を施 行し,約 60% に有意な冠動脈病変を認めており,心 電図パターンに関わらず,PCI の成功が生存率の改善 に関連していることが示されている。Larsen らのメ タアナリシス 6)でも,院外心停止蘇生後患者において は,早期の CAG が生存率改善をもたらす可能性が示 されている。

2014 年の Callaway らの大規模観察研究 7)では,3,981 例の院外心停止蘇生後患者の約 19% に緊急 CAG を,

そして PCI は CAG 施行例のうち 67% に実施し,早期 CAG/PCI と低体温療法の併用が生存率の改善と神経 学的予後良好に関連していると示されている。

以上のように緊急 CAG/PCI の有用性が報告されて いるが, Bangalore ら 8)は PROCAT registry 5)の問題 点として PCI の適応症例に対する選択バイアスがある と述べている。また,表 3に各文献のまとめを示すが,

実際には全症例に対する緊急 PCI 施行および成功例の 割合は 30 〜 40%と高くない。Callaway ら 7)の報告で は 13% にとどまり,さらには,全体の約 41% が VF/

VT であったが,VF/VT 例のうち緊急 CAG が施行さ れたのは 36.5% である。本症例のように初期波形が VF であったとしても,緊急 CAG/PCI 施行例が増加 するという傾向は認めず,VF/VT なら緊急 CAG/PCI の適応というわけではない。

Dumas ら,2012 10) 1001 384(39) NA NA 688(69) 347(50)

Callaway ら,2014 7) 3981 515(13) NA NA 1619(41) 591(37)

*:STEMI であった 186 例には除細動を施行しており VF/VT と考えられる

VF/VT:ventricular fibrillation/ventricular tachycardia,CAG:coronary angiography,PCI:percutaneous coronary intervention,STEMI:ST-elevated myocardial infarction,NA:not available

(6)

survival after out-of-hospital cardiac arrest: insights from the PROCAT (Parisian Region Out of hospital Cardiac Arrest) registry. Circ Cardiovasc Interv 2010; 3: 200-7.

6) Larsen JM, Ravkilde J: Acute coronary angiography in patients resuscitated from out-of-hospital cardiac arrest--a systematic review and meta-analysis. Resuscitation 2012;

83: 1427-33.

7) Callaway CW, Schmicker RH, Brown SP, et al: Early coronary angiography and induced hypothermia are associated with survival and functional recovery after out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation 2014; 85: 657- 63.

8) Bangalore S, Hochman JS: A routine invasive strategy for out-of-hospital cardiac arrest survivors: are we there yet?

Circ Cardiovasc Interv 2010; 3: 197-9.

9) Zanuttini D, Armellini I, Nucifora G, et al: Impact of emergency coronary angiography on in-hospital outcome of unconscious survivors after out-of-hospital cardiac arrest. Am J Cardiol 2012; 110: 1723-8.

10) Dumas F, White L, Stubbs BA, et al: Long-term prognosis following resuscitation from out of hospital cardiac arrest:

role of percutaneous coronary intervention and therapeutic hypothermia. J Am Coll Cardiol 2012; 60: 21-7.

(American Heart Association, Australian and New Zealand Council on Resuscitation, European Resuscitation Council, Heart and Stroke Foundation of Canada, InterAmerican Heart Foundation, Resuscitation Council of Asia, and the Resuscitation Council of Southern Africa); the American Heart Association Emergency Cardiovascular Care Committee; the Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia; the Council on Cardiopulmonary, Perioperative, and Critical Care; the Council on Clinical Cardiology; and the Stroke Council. Circulation 118: 2452-83, 2008.

2) Spaulding CM, Joly LM, Rosenberg A, et al: Immediate coronary angiography in survivors of out-of-hospital cardiac arrest. N Engl J Med 1997;336:1629-33.

3) Anyfantakis ZA, Baron G, Aubry P, et al:Acute coronary angiographic findings in survivors of out-of-hospital cardiac arrest. Am Heart J 2009; 157: 312-8.

4) Garot P, Lefevre T, Eltchaninoff H, et al: Six-month outcome of emergency percutaneous coronary intervention in resuscitated patients after cardiac arrest complicating ST-elevation myocardial infarction. Circulation 2007 ; 115 : 1354-62.

5) Dumas F, Cariou A, Manzo-Silberman S, et al: Immediate percutaneous coronary intervention is associated with better

図 2 心室細動再発,自己心拍再開後の心電図

参照

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