九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
特異点”解放” による不変周期点代数多様体の生成
脇本, 佑紀
首都大学東京高エネルギー研究室
https://doi.org/10.15017/27182
出版情報:応用力学研究所研究集会報告. 24AO-S3 (22), pp.140-143, 2013-03. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
応用力学研究所研究集会報告 No.24AO-S3
「非線形波動研究の最前線 — 構造と現象の多様性 —」 (研究代表者 太田 泰広)
共催 九州大学グローバル COE プログラム
「マス・フォア・インダストリ教育研究拠点」
Reports of RIAM Symposium No.24AO-S3
Frontiers of nonlinear wave science — various phenomena and structures
Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy, Kasuga, Fukuoka, Japan, November 1 - 3, 2012
Co-organized by
Kyushu University Global COE Program
Education and Research Hub for Mathematics - for - Industry
Research Institute for Applied Mechanics Kyushu University
March, 2013 Article No. 22 (pp. 140 - 143)
特異点 解放 による不変周期点代数 多様体の生成
脇本 佑紀( WAKIMOTO Yuki )
( Received 11 January 2013; accepted 22 January 2013 )
特異点 “ 解放 ” による不変周期点代数多様体の生成
首都大学東京高エネルギー理論研究室 M1 脇本佑紀 Yuki Wakimoto
1 概要
一般にカオス力学系に属する写像の周期点はJulia集合と呼ばれフラクタルを成すことが知られている。一 方、広田三輪方程式から導出される3次元離散Lotka-Volterra写像は特異点閉じ込めの後に不変周期点代数
多様体(IVPP)を生成する。したがってこの現象はあるクラスの離散時間可積分系を特徴づける上で重要な現
象だと期待されるが、高次元に拡張するにあたりいくつかの困難を生じていた。ここではその解決方法につい て報告する。
2 Lotka-Volterra 写像の導出
離散Lotka-Volterra方程式(1)はKP階層を特徴づける広田三輪方程式に周期条件を付し下の変数変換を 施すことで得られる方程式である。
p(n)j = τj+2(n−1)τj(n)−1 τj+1(n−1)τj(n)
, p(n+1)j (
1−p(n+1)j−1 )
=p(n)j (
1−p(n)j+1 )
(1)
さらにこの方程式の変数jにd周期条件を課しp(n+1)∗ について解いたものはd次元有理写像と見做せるので、
これをd次元離散Lotka-Volterra写像と呼ぶ。ここでは方程式から写像を導出することを写像化あるいは局
所化と呼んでいる。
なお得られたLotka-Volterra写像のn階写像は次元dに依らず
p(n)j =p(0)j Fj+2(n−1)Fj(n)−1 Fj+1(n−1)Fj(n)
(2)
の形の有理式で表され写像化は変数変換(1)の構造をよく保っていることが確認される。KdV写像や戸田写 像の場合も同様であるため、写像化はτ函数の多項式表現のようなものを与えていると考えられる。ここで F∗(∗)はp(0)∗ の多項式である。
3 特異点 “ 解放 ” による IVPP の生成
有理式で表される写像には発散する点すなわち特異点が存在し、写像の分母がこの特異点の集合Σを定め る。特異点が数回の写像を経てΣ以外の有限領域に回帰したとき、その点はすでに特異ではない。「特異点 の閉じ込め(Singularity Confinement)」と表現される現象である。この現象は特異点の情報が有限領域内に
“解放”されたと言い換えることもできる。特異点の集合Σが写像の不変量によって径数付けられ、かつ写
1
像の因子に周期条件が含まれている場合、この因子を不変周期点代数多様体(IVPP)と呼ぶ。以下に3次元 Lotka-Volterra写像の場合における例を提示する。
3次元Lotka-Volterra 写像とは次のような写像(X, Y, Z)のことである。いま変数 (
p(0)1 , p(0)2 , p(0)3 )
を (x, y, z)と書いている。
X(x, y, z) =x1−y+yz 1−z+zx Y(x, y, z) =y1−z+zx 1−x+xy Z(x, y, z) =z1−x+xy 1−y+yz
(3)
下の列はXの分母1−z+zxを0とするような点の集合を写像の不変量r=xyz, s= (1−x)(1−y)(1−z) で径数付けたもの、すなわちΣを初期点とした写像列を示している。
Σ = (r−s
r+ 1,r(s+ 1) r−s ,r+ 1
s+ 1 )
→(∞,0,1)→(1,0,∞)↙ (r+ 1
s+ 1,r(s+ 1) r−s ,r−s
r+ 1 )
→
( (r+ 1)(r2−3sr−s2r−s) (r−s)(r2+r−sr+s2+s+ 1), ., .
)
→ · · ·
(4)
無限遠点(∞,0,1)に注目し、然るべき回数の写像を行った後に再びここに回帰せよという条件から、IVPP が次のように定まる。
2周期 : s+ 1 = 0
3周期 : r2+r−sr+s2+s+ 1 = 0 ...
(5)
これらの代数式は対応する周期の条件式となっている。
4 生じた問題と今回得た解決策 4.1 4 次元 Lotka-Volterra 写像について
問題
4次元Lotka-Volterra写像のΣには√ が含まれる。計算機の出力結果に対し手作業でこの√ を処理する 必要があり、computingの観点から不衛生であった。
解決策
Gr¨obner基底を用いることでこの√ の出自が明確になり、衛生的にcomputeすることができるようになっ た。解の導出や変数の消去などGr¨obner基底を用いて行えることは多岐に渡る。ここでは実際にGr¨obner基 底が代数式の構造を露にしてくれることが分かった。
4.2 5,6 次元 Lotka-Volterra 写像について
問題
5次元Lotka-Volterra写像において保存量は3つしか存在しない。一般にd次元Lotka-Volterra写像につ いて保存量の数は[d/2 + 1]箇であるから、この事実はd−[d/2 + 1]>1なる次元の写像についてはIVPPを 得るにあたりはじめに述べた手続きが適用できないことを意味している。この事情はLotka-Volterra写像と は異なる変数変換の方法で得られる戸田写像やKdV写像など他の可積分写像についても同様である。保存量
の数がΣを径数づけるに足らない場合に如何に特異点閉じ込めを起こしそこからIVPPを生成するかが問題 であった。
解決策
解決の緒は1 階写像の分母のみならず2階写像の分母(の因数)をも0にすることで条件を追加し特異 点を閉じ込める長さ延長することにあった。ここでは5,6次元Lotka-Volterra写像では式が長くなること から、6 次元Lotka-Volterra写像と等価な3点戸田写像を例にして結果を述べる。これは次のような写像 (X, Y, Z, U, V, W)である。
X=yzu+zx+wu
yw+yz+vw, Y =zxv+xy+uv
zu+zx+wu, Z =xyw+yz+vw xv+xy+uv U =uyw+yz+vw
zu+zx+wu, V =vzu+zx+wu
xv+xy+uv, W =wxv+xy+uv yw+yz+vw
(6)
写像の引数は省略した。保存量は次の4つ。
s=xyz, t=x+y+z+u+v+w, f=uvw−xyz,
g=xy+yz+zx+uv+vw+wu+xv+yw+zu, (7)
(2)式との対応は例えばX(2) =yF1(1)F2(2) F2(1)F1(2)
と書ける。F1(1) =yw+yz+vw及びF1(2)の共通零点は不変量 で径数付けられて、さらにこれを“解放”することでIVPPが得られる。
Σ = (
s(g2s−f2t+f g2)
f3 , f2g
g2s−f2t, (g2s−f2t)f (g2s−f2t+f g2)g,
−r(g2s−f2t)
f3 ,−f(g2s−f2t+f g2)
(g2s−f2t)g , f2g g2s−f2t+f g2
) (8)
Σ→ (
∞,−f g,0,0,f
g,∞ )
→ (0
0,0,∞,0,0 0,∞
)
→ (
0,0
0,∞,0,∞,0 0
)
→ (
−g
f,∞,0,0,∞,g f
)
→Σ˜ → · · ·
(9)
ただし
Σ =˜ (
f2g
g2s−f2t,s(g2s−f2t+f g2)
f3 , (g2s−f2t)f (g2s−f2t+f g2)g,
−r(g2s−f2t)
f3 , f2g
g2s−f2t+f g2,−f(g2s−f2t+f g2) (g2s−f2t)g
) (10)
である。ここから、例えば4周期点からなるIVPPは:
g2s−f2t= 0∧sg3+f3= 0 (11)
なる点の集合であると判る。
5 今後の展望
今回の研究により成長したIVPP生成の手続きは一般の可積分系に適用できるような形式ではない。例え ば連続系や一次元系には適用できない。しかし周期点が多様体を成し、次々と生成されていくという現象はカ
3
オス系と比較すると極めて象徴的な現象であることは疑いようがない。今後はこの手続きを適用することので きる系のクラスを定めると共に、写像の大元である広田三輪方程式に秘められた数学的・構造的背景を探って いきたい。
6 参考文献
[1 ] B.Grammaticos, A.Ramani and V.Papageogiu,Phys. Rev. Lett. 67(1991) 1825-1828.
[2 ] A.Ramani, B.Grammaticos and J.Hietarinta,Phys. Rev. Lett. 67(1991) 1829-1832.
[3 ] A.Ramani, B.Grammaticos, J.Satsuma,Phys. Lett. A 169 (1992) 323-328.
[4 ] Hirota, S.Tsujimoto and T.Imai, in Future Directions of Nonlinear Dynamics in Pyssical and Bioligical Systems, ed. by P.L.Christiansen at al., (Plenum Press, New York, 1993) p.7.
[5 ] R.Hirota and S.Tsujimoto,Phys. Soc. Jpn. 64 (1995) 3125-3127.
[6 ] S.Saito and N.Saitoh,J. Math. Phys51(2010) 063501.