九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
パターン生成CAの方程式と解について
新田,真奈美
早稲田大学基幹理工学研究科
高橋,大輔
早稲田大学基幹理工学研究科
https://doi.org/10.15017/1448878
出版情報:応用力学研究所研究集会報告. 25AO-S2 (20), pp.127-132, 2014-03. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
応用力学研究所研究集会報告
No.25AO-S2
「非線形波動研究の拡がり」(研究代表者 増田 哲)
Reports of RIAM Symposium No.25AO-S2
The breadth and depth of nonlinear wave scienceProceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy, Kasuga, Fukuoka, Japan, October 31 - November 2, 2013
Research Institute for Applied Mechanics Kyushu University
March, 2014 Article No. 20 (pp. 127 - 132)
パターン生成 CA の方程式と 解について
新田 真奈美( NITTA Manami ),高橋 大輔( TAKAHASHI Daisuke )
(Received 17 January 2014; accepted 7 March 2014)
パターン生成CAの方程式と解について
早稲田大学基幹理工学研究科 新田真奈美(NITTA Manami)
早稲田大学基幹理工学研究科 高橋大輔 (TAKAHASHI Daisuke)
概要
セルオートマトン(CA)には,特徴的なパターンを示す解を持つものが数多く存在する.今回の研究で は2次元 CA が生成する縞状の解に注目し、その生成メカニズムを方程式の解の立場から解析し,更に パターンを持つような方程式の探索を行うことを目標としている.
1 はじめに
今回の研究では,図1のような十字型の近傍を持ち以下のような時間発展則で表される時間1次元空 間2次元 CA をあつかう.演算には束表現(∧,∨)及び共役操作( ̅)を用いる.
𝑢𝐶𝑛+1= 𝑓(𝑢𝐶𝑛, 𝑢𝑊𝑛, 𝑢𝐸𝑛, 𝑢𝑆𝑛, 𝑢𝑁𝑛) (1)
𝑢𝑁𝑛 𝑢𝑊𝑛 𝑢𝐶𝑛 𝑢𝐸𝑛
𝑢𝑆𝑛
図1 十字近傍
(1)の方程式に図2のように縞状の構造を持つ初期値を与え時間発展させた場合,一般的には縞状の構 造は保たれず,時間とともに崩れていくが,図2の構造を保った定常状態を持つ方程式が存在する.今 回の研究ではこの定常状態を縞パターンと呼び,(1)が縞パターンを生成するメカニズムについて解析 を行った.
n=0 n=1 n=2 n=3
(𝑢𝐶𝑛+1= 𝑢̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑛𝐶 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑛𝑊 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝐸𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑛𝑆 ̅̅̅̅𝑛𝑁,格子数 30×30,周期境界条件)
図2 縞パターンを持つ時間発展の例
2 座標曲線群によるリダクション
2次元 CA のもつ縞パターンに対して,座標曲線群の考えを導入し,曲線とパターンが対応するよう に以下の仮定をおく.
仮定1:同一曲線上に属するセルの状態値は等しい(時間変化しても構わない)
この仮定により状態値を曲線ごとにグループ化することが出来る.時刻 n の k 番目の曲線上での値を𝑣𝑘𝑛 とすれば,(1)の式は自身と隣り合う曲線の値𝑣𝑘−1𝑛 ,𝑣𝑘𝑛,𝑣𝑘+1𝑛 を用いて以下のような空間1次元の CA に リダクションすることが出来る.
𝑢𝐶𝑛+1= 𝑓(𝑢𝐶𝑛, 𝑢𝑊𝑛, 𝑢𝐸𝑛, 𝑢𝑆𝑛, 𝑢𝑁𝑛)
= 𝑔(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 ) (2)
今回の研究では以下の2つの基本の縞パターンと,それらを接続したパターンについて解析を行った.
基本パターン I
横縞からなるパターンを考える.図3のように水平線を座標曲線とすれば𝑖によらず𝑣𝑘𝑛= 𝑢𝑖𝑘𝑛となり,各 近傍の値は図4のようになる.したがって,時間発展方程式は以下で与えられる.
𝑣𝑘𝑛+1= 𝑓(𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘+1𝑛 )
= 𝑔1(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 )
2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 0 0 0 0 0 -1 -1 -1 -1 -1 -2 -2 -2 -2 -2
(𝑣𝑘𝑛の𝑘部分を表記)
図3 基本パターン I の曲線群
𝑢𝑁𝑛 𝑣𝑘+1𝑛
𝑢𝑊𝑛 𝑢𝐶𝑛 𝑢𝐸𝑛 → 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛
𝑢𝑆𝑛 𝑣𝑘−1𝑛
図4 基本パターン I の近傍
基本パターン II
同様に,斜め 45°の縞からなる基本パターン II は図6のような近傍を取り,以下のように与えられる.
𝑣𝑘𝑛+1= 𝑓(𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘+1𝑛 , 𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘+1𝑛 )
= 𝑔2(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 )
0 1 2 3 4 -1 0 1 2 3 -2 -1 0 1 2 -3 -2 -1 0 1 -4 -3 -2 -1 0 図5 基本パターン II の曲線群
𝑢𝑁𝑛 𝑣𝑘+1𝑛
𝑢𝑊𝑛 𝑢𝐶𝑛 𝑢𝐸𝑛 → 𝑣𝑘−1𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘+1𝑛
𝑢𝑆𝑛 𝑣𝑘−1𝑛
図6 基本パターン II の近傍
このように2次元のパターンは座標曲線群と1次元 CA の組み合わせで実現される.この発想を逆にし て,1次元 CA からパターンを生み出す2次元 CA を生成することもできる.
2次元の縞パターン ⇔ 座標曲線群 +1次元 CA
3 基本パターンの接続
次に基本パターン I と基本パターン II の領域が共存する場合について考える.
パターン III
左側が基本パターンⅠ,右側が基本パターン II であるパターン III の場合,図7のように3つの領域 (a),(b),(c)に分かれ,(b)は図8のような新たな近傍の配置を持つ.よってそれぞれのリダクション は以下のようになる.
(a) 𝑣𝑘𝑛+1= 𝑔1(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 )
(b) 𝑣𝑘𝑛+1= 𝑓(𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 , 𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘+1𝑛 )
= 𝑔3(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 ) (c) 𝑣𝑘𝑛+1= 𝑔2(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 )
2 2 2 3 4 1 1 1 2 3 0 0 0 1 2 -1 -1 -1 0 1 -2 -2 -2 -1 0
(a) (b) (c) 図7 パターン III の曲線群
𝑣𝑘+1𝑛
𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘+1𝑛 𝑣𝑘−1𝑛
図8 パターン III の接続部(b)の近傍
仮定1よりパターン III が存在するための必要条件は𝑔1≡ 𝑔3≡ 𝑔2で与えられる.
同様に,その他の基本パターンの接続についても同様に必要条件を求めることが出来る.
パターン IV
図9のような左右が反転した基本パターン II 同士の接続を考える.基本パターン II の反転によって得 られる式を𝑔2’として,接続領域(b)について新たに𝑔4をおけば𝑔2≡ 𝑔4≡ 𝑔2’が必要条件であることがわ かる.
4 3 2 3 4 3 2 1 2 3 2 1 0 1 2 1 0 -1 0 1 0 -1 -2 -1 0 (a) (b) (c) 図9 パターン IV の曲線群
𝑣𝑘+1𝑛 𝑣𝑘+1𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘+1𝑛
𝑣𝑘−1𝑛
図10 パターン IV の接続部(b)の近傍
パターン V
基本パターン I とそれを 90°回転したパターンの接続を考える.基本パターン I の回転によって得られ る式を𝑔1’として,接続領域について新たに𝑔5をおけば𝑔1≡ 𝑔5≡ 𝑔1’が必要条件であることがわかる.
2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 2 1 0 0 0 2 1 0 -1 -1 2 1 0 -1 -2 図11 パターン V の曲線群
𝑣𝑘+1𝑛 𝑣𝑘+1𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛
𝑣𝑘𝑛
図12 パターン V の接続部の近傍
パターン VI
パターン III とは異なる基本パターン I と基本パターン II(180°回転)の接続を考える.パターン VI では接続領域が3種類に分かれるため.(a),(b),(c)としてそれぞれの式を𝑔6,𝑔7,𝑔8とおく.基本 パターン II の回転によって得られる式を𝑔2’’とすれば,𝑔1≡ 𝑔6≡ 𝑔7≡ 𝑔8≡ 𝑔2’’が必要条件であること がわかる.
1 0 -1 -2 -3 -4 1 1 0 -1 -2 -3 0 0 0 0 -1 -2 -1 -1 -1 -1 -1 -1 図13 パターン VI の曲線群
𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘−1𝑛 𝑣𝑘−1𝑛
𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘−1𝑛 𝑣𝑘+1𝑛 𝑣𝑘𝑛 𝑣𝑘−1𝑛
𝑣𝑘−1𝑛 𝑣𝑘−1𝑛 𝑣𝑘𝑛
(a) (b) (c) 図14 パターン VI の接続部の近傍
上述のリダクションは,空間の回転と鏡映に対して対称ではない.したがって,たとえばある CA でパ ターン III が存在しても,それを 90°回転したパターンが存在するかどうかは保証されない.そこで今 回の研究では,回転および鏡映について対称な方程式についてのみ解析を行った.
仮定2:方程式が回転,鏡映対称性を持つ.
4 解析結果
仮定2を満たす 25 の独立な方程式に対して,解に仮定1を想定してパターン III~VI の存在を検証 した結果の一部を以下に示す.
表1 束表現とその存在パターン
束表現 存在パターン(かっこ内は{0,1}限定で存在)
𝑢̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝐶𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑊𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝐸𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑆𝑛 ̅̅̅̅𝑁𝑛 III,IV 𝑢𝐶𝑛∧ 𝑢̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑊𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝐸𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑆𝑛 ̅̅̅̅𝑁𝑛 IV,(V)
𝑢𝑊𝑛
̅̅̅̅ ∧ 𝑢̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝐸𝑛 ̅̅̅̅ ∧ 𝑢𝑆𝑛 ̅̅̅̅𝑁𝑛 IV 𝑢𝐶𝑛
̅̅̅̅ ∧ (𝑢𝑊𝑛 ∨ 𝑢𝐸𝑛∨ 𝑢𝑆𝑛∨ 𝑢𝑁𝑛) IV,(III) 𝑢𝐶𝑛
̅̅̅̅ III,IV,V,VI
パターン V,VI をみたすものは1近傍の自明な例しか存在しなかった.これはそれらのパターンの存在 条件がとても厳しく,対称性と両立することが非常に難しいためである.ところが状態値を{0,1}に限 定すると方程式の同値性が緩くなる.例として次のような式がパターン III を持つかどうかを考える.
𝑢𝐶𝑛+1= 𝑢̅̅̅̅ ∧ (𝑢𝐶𝑛 𝑊𝑛 ∨ 𝑢𝐸𝑛∨ 𝑢𝑆𝑛∨ 𝑢𝑁𝑛) (3)
(3)についてリダクションを行うと次のような式となる.
𝑔1= 𝑔3(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 ) = 𝑣̅̅̅̅⋀(𝑣𝑘𝑛 𝑘−1𝑛 ∨ 𝑣𝑘𝑛∨ 𝑣𝑘+1𝑛 ) 𝑔2(𝑣𝑘−1𝑛 , 𝑣𝑘𝑛, 𝑣𝑘+1𝑛 ) = 𝑣̅̅̅̅⋀(𝑣𝑘𝑛 𝑘−1𝑛 ∨ 𝑣𝑘+1𝑛 )
式が一致しないため,一般束ではパターン III は存在しないことがわかる(図15).しかし2つの式
はどちらも ECA50 の時間発展方程式なので,
𝒈𝟐≢ 𝒈𝟑(一般束)⇔ 𝒈𝟐≡ 𝒈𝟑(ブール束)
となり,{0,1}ではパターン III が許される(図16).
図15 パターン III が壊れる整数解 図16 {0,1}でのパターン III
5 おわりに
今回の研究を通して,それぞれのパターンを持つ束表現の特徴を掴むことが出来た.上述の手法の汎 用化や,より複雑な共存パターンに対してこれらの結果を活用してゆくことを今後の課題としている.
参考文献
[1] 広田良吾・高橋大輔, “差分と超離散”, 共立出版 (2003)
[2] D.Takahashi, A. Shida, M. Usami, “On pattern formation mechanism of 2+1D max-plus models”, J. Phys. A, 34 (2001) 10715-10726