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市民防災力の向上が今後の課題

だれが防災の主役かという観点で世界を 見ると,図に示すように,防災には 3 つの段 階が存在している。すなわち,第 1 段階は国 軍による災害対応,第 2 段階は防災の専門家 による防災,第 3 段階は市民を中心とした防 災,の 3 段階である。

第 1 の段階に世界の大部分の国が属して いる。彼らにとって自然災害は,その国を襲 う数多くある危機のひとつに過ぎない。

防災が大切だとはわかってはいても,そ れだけを特別に扱い,それだけに特別の対

策をするだけの余裕がないのである。運悪 く災害が発生すれば,危機対応の専門組織 である国軍を投入して対応する方法がとら れている。昨年大地震に見舞われたコロン ビァも,トルコも,台湾も最終的には国軍の 投入が災害対応の決め手になっている。い つ起きるかわからないが多額のコストを必 要とするものは後回しにされると「計画の グレシャムの法則」は教えるが,それが現実 になっている段階である。

第 2 段階には日本とアメリカ合衆国とい う世界の二大防災先進国が属している。ど ちらも防災の専門家による防災活動を中心

特集

□自主防災の歩むべき方向

林 春 男

西暦 2000 年を迎えての防災の展望

京都大学防災研究所

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- 27 - としている点が共通している。同じ防災専 門家といっても,その内容には大きな違い がある。日本の場合には,災害に対して強い 構造物を整備することを防災の中心にすえ ているため,エンジニアが防災の専門家の 地位を独占している。一方アメリカ合衆国 では,防災への関心が高まった時にはすで に社会資本の整備が完了していたために, 災害発生後の被害軽減を中心に防災対策を 推進してきた。その結果,エンジニアだけで なく,災害発生後の危機管理にあたる災害 対応の専門家が多数存在し,専門職として 国や地方の自治体や企業で危機管理にあた っている。

第 3 段階は今後の日米両国の防災が目指 すべき理想形である。日米両国は防災の専 門家だけでは防災ができないという同じ問 題を今抱えている。

わが国の場合には 1995 年の阪神淡路大震 災がきっかけである。未曾有の規模の災害 であり,災害対応に従事すべき人々も被災 してしまうという体験は,行政を中心とし た防災の専門家だけではとても大災害には 太刀打ちできないという認識を生んだ。そ れを埋めたのが地域住民の互助の力であり, 全国から駆けつけたボランティアの力だっ た。震災を契機として,災害発生後の対応力 を向上させるために市民の防災力をどう向 上させるかに関心が集まった。

一方,アメリカ合衆国では災害による多 数の死者は幸い出ていないものの,近年の 災害の巨大化による財政支出の大きさに行 政機関が音を上げてきた。市民や企業の参 加を軸として地域の防災力を向上させるプ ロジェクトが進められている。21 世紀を前

に日米両国は期せずして,市民の防災力の 向上を共通の課題に直面しているのである。

災害対応の主役としての「住民力」

阪神淡路大震災では住民の互助が人命救 助,初期消火,避難所運営に大きな役割を担 っていた。ある調査によると,震災当時救助 された人の 96%が住民の互助によるという 結果もえられている。災害対応の主役は地 域住民であることがあきらかになった。こ の事実を知って,地域住民のこうした住民 力を維持・向上させることの重要性を多く の自治体が認識した。その結果として,地域 の「自主防災組織」の結成に熱が入るように なった。

わが国の自主防災組織活動は長い歴史を 持っている。大規模地震特別措置法の制定 を契機に静岡県を中心に自主防災活動の結 成育成が熱心に推進されてきた。自主防災 組織活動の大切さは海外でも注目され,ア メリカ合衆国カリフォルニア州ではオーク ランド市の"CORE"(CitizensofOalkand

RespondingtoEarthquake)をはじめ,各地 で日本の制度を真似た市民による自主防災 組織が作られている。

大規模地震特別措置法の制定から 20 年あ まりが経過して,本家の日本では自主防災 活動の中だるみが指摘されていた。そのと きに発生した阪神淡路大震災は,再び自主 防災活動への関心を高めさせ,市民防災力 の活性化のための特効薬として自主防災組 織の結成率を高める競争が始まった。

しかし短期的に自主防災組織の結成率を

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- 28 - 向上させようとすると,どうしても「町内会 読み替え型」の自主防災組織にならざるを えなかった。自主防災組織の母体として町 内会が重視されたのは,そこに住民の自発 的な自治意識が現われているからではない。

むしろ,わが国では町内会が住民への周知 機能を担う行政の末端機構として長い間重 要な位置を占めてきたからである。いわば 町内会以外に住民活動を組織化する方法を 行政も知らないのである。その結果,「町内 会読みかえ型」自主防災組織が全国各地に 誕生していった。

名前だけの自主防災組織の無力さ

町内会を「自主防災組織」と読み替える自 主防災活動は,いざというとき何の役にも たたないことを阪神淡路大震災が証明した。

これは神戸市東灘区渦が森小学校区の防災 福祉コミュニティーのリーダーを勤める井 上哲雄さんの証言である。井上さんは震災 直後の住民力の働きを次のように紹介して いる。

「地域によって大きな差がでました。救 助活動はまず,家族や親戚,近所の知人など の安否確認と救出が先でした。一方でそれ ほど近い関係にない場合には,頼まれて始 めていく場合が多かったのです。そういう 場所では,誰かがリーダーシップが発揮し, 救出を呼びかけて救出したのです。日頃か ら人の付き合いの親密な地域や自治会活動 が活発なところと,地域活動に消極的なと ころでは,救出に歴然とした差がでました。

それは救助活動だけでなく,その後の救援

物質の配分,避難所の運営でも同じでした。

とくに新興住宅地ではうまくいかないこと が多かったと思います。だから日頃の人間 関係が,そういうときにそのままあらわれ たのです。日頃の地域の人との絆がいかに 大切かということです。」

一方,震災が発生したとき,神戸市には

「自主防災推進協議会」という名称の自主 防災組織が存在していた。昭和 60 年から平 成 5 年にかけて,神戸市全域で 168 の協議会 が結成され,51%の世帯が加入していたとい う。井上さん曰く,「その組織は我々の地域 にもあったのです。にもかかわらず,あの大 地震のとき,その『自主防災推進協議会』は, 何も機能しなかったのです。」と。井上さん の経験は,自主防災組織を設立するだけで は災害時の住民力の向上は実現されない, 日頃の地域活動を活性化することが災害時 の住民力を高める決め手であると,教えて くれる。

日頃の地域活動をどう活性化するか

井上さんも「いざとなったら,地域の人は 動きます」と断言している。問題は地域の 人々の力をうまくまとめる仕組みを日頃か らどのように準備をしておくかである。

そのための方策をいくつか考えてみよう。

1)日頃から活動するさまざまな団体に「防 災機能」を付加する

市民防災力の向上には,日頃から地域で 活躍するリーダーを中心に防災についての 理解を深めてもらい,災害に対してどうす べきかを考え,行動する機会を持つことが

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- 29 - 有効である。そのための組織を無から育て ることは大変なので,既存の団体組織に防 災機能を付加するという戦略がとられた。

既存の団体として最初に着目されたのが 町内会・自治会だったのである。町内会読み 替え方式は,自主防災活動の普及に大いに 貢献した。

しかし,自主防災組織そのものが珍しく なくなった現在,いつまでも町内会・自治会 だけを対象としていていいのだろうか。

むしろ,町内会以外の団体にも同じよう な防災機能を広めることが必要なのではな いだろうか。たとえば,地域リーダーとして 活躍している人も多い地元の自治体職員, 広く地元に根ざしたボランティアグループ, 各種の地域団体,地元企業などが防災機能 を持つようにもっと積極的に働きかけるべ きであろう。

2)充実した活動を可能にする防災カリキュ ラムの整備充実

災害そのものの発生頻度が低く,実践の 場が少ない防災活動では,訓練が重要な意

味を持つ。現在の防災訓練や防災ボランテ ィア養成講座は,災害発生直後の活動に焦 点があてられている。市民の力がもっとも 活躍する場面を対象としているためである。

しかし,市民の力が必要とされるのは,災害 発生直後だけではない。各地からボランテ ィアが集まる災害救援の場面でも,地元の コーディネーターなしには円滑な救援活動 は不可能である。その後の長期に及ぶ復興 過程においても,行政施策と被災者を結ぶ 接点として地元の人々の助け合いが大きな 役割をはたしてきた。さらに今後の災害に 対する被害予防の対策を進める上でも市民 の力がぜひとも必要となる。

こうした市民の力を一層生かすためには, 災害予防から復興までを視野に入れ,防災 全般の中に市民防災力をどのように反映す るべきかを説く防災カリキュラムの整備が 不可欠である。これは今後自治体の防災担 当者に課せられた大きな課題である。

参照

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