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原著論文 鳴門教育大学学校教育研究紀要 22, 23 一 29, 2007 教師の専門性における 反省的実践家モデル 論に関する考察 (1) 教師の知識研究の知見による考察を中心にー A study about the "model of reflective practitioner" in th

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原著論文

鳴門教育大学学校教育研究紀要 22, 23 一29, 2007

教師の専門性における「反省的実践家モデル」論に関する考察(1)

―教師の知識研究の知見による考察を中心にー

A study about the "model of reflective practitioner" in the specialty of the teacher

(1)

ー Based on the suggestion from the knowledge study of the teacher -

久我 直人

〒772 -8502 鳴門市鳴門町高島字中島748 鳴門教育大学学校改善講座 Naoto KUGA Department of School Improvement, Naruto University of Education 748 Nakajima, Takashima, Naruto-cho, Narutoshi 772-8502, Japan

抄録:本研究は,Scion (1983)が主張する「反省的実践家モデル」論に関して,これまで蓄積され てきた教師の知識研究の知見との整合性や相違点を考察するものである。 佐藤他(1990, 1991)は,「省察」の概念を基に,教師の実践的思考様式の特徴を抽出している。 この知見は,SchOn の主張である「実践(行為)の中での省察」を特徴とする「反省的実践家」論を 裏付け,強化するものとなった。一方,Shulman (1986, 1987)やWilson 他(1987)は,授業を実 施する前に教材から授業案を構成する過程(翻案(trans釦rmation) )を重視し,「授業を構想する知識」 を教師の専門性の「中心概念」として位置づけている。「実践の前に蓄えておくべき知識」を重視する 「専門的知識重視モデル」として特徴づけられる。「教師の専門職性」がどちらのモデルによって特徴 づけられるのかという問いは,教師に求められる資質や能力そのものの問い直しにつながるものであ る。 キーワード:教師の専門性,反省的実践家,省察,実践的知識,実践的思考様式

Abstract : The Purpose of this study is to examine the differencies and similarities between the teachers' knowledge model (eg. schulman 1986, 1987) and the reflective practitioner model about specialized nature of teaching professions.

Sato et al. (1990, 1991) extract the characteristic of the practical mind-set of the teacher based on a concept of "reflection". This model about specialized nature of teaching professions is called by reflective practitioner, w 血ch is characterized by "reflection in action." On the other hand, Shulman (1986, 1987) and Wilson et al (1987) place "pedagogical content knowledge" and "transformation" as "central concepts" of the specialty of the teacher. It is characterized as the "model of the expert who acquired practical knowledge". In this study, the characteristics and limitations of the two model are considered, and the possibility of integration of these two models are discussed.

Keywords : The specialty of the teacher, reflective practitioner, reflection, practical knowledge, a practical mind-set 1.本研究の目的と課題 Schon (佐藤,秋田訳(2001),以下「Schon (1983)j とする)の専門職研究は,直接,教師を対象としたもの ではないが,教師等の専門職性を医者や法律家と比較さ せながら 「学問の成果による技術的知識」を有すること がそのまま力量の向上につながるのではないことを明示 している。具体的には,「技術的合理性」に基づく専門家 (医者,法律家等)は,科学的技術の合理的適用の実践に よって説明される。しかし,教師は,複雑で複合的な(不 確定性の高い)問題に「状況との対話」(convers肌ion with situation) をとおして「行為の中の省察」(reflection in action) を行い,問題に対処している,としている。 そして,その特徴から医者や法律家という「技術的合 理性」で説明される職業を「メジャーな専門性の職業」 と位置づけ,教師や社会福祉士という複雑性,不確実性,

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不安定性,独自性で特微付けられる職業を「マイナーな 専門性の職業」としてその違いを説明した。そして,教 師の専門職性について,変わりやすい曖昧な目的に支配 され,不安定な文脈に煩わされるために技術的知識に頼 ることが許されないこと。また,その実践的知識は,学 問成果の学習からは,得るものが少なく,自らの実践を 通して獲得するしかないこと。 このことより,「マイナー な専門性の職業」に就くものは,医者や法律家とは異な る「反省的実践家」でなくてはならないと主張した。 Schdn (1983)は,その著の結びに「行為の中の省察」 の研究の重要性を訴えている。「行為の中の省察」の探求 により,不確実性と独自性ではなく,正当性を高め,広 く活用される可能性があることを主張している。 Schdn (1983)のこの問題提起は,米国の教員養成や 教師教育に大きく影響を与えている。例えば,熟練教師 の効果のある指導を事例的に取り出し,そこで用いられ ている教師の知識や行動特性を抽出した「実践から学ぶ」 研究が多く取り入れられている(National Board For Professional Teaching Standards, 2002 等)。

本研究は,このように米国における教員養成と現職教 育の在り方を問い直し,教員研修の手法を大きく変える までに影響を与えた(千々布,2005)と言われるSchdn (1983)の主張について,今一度検討を加えようとする ものである。そのために,まずこれまで蓄積された教師 の知識研究の知見を整理し,Sch6n (1983)が提唱する 上述の「反省的実践家モデル」との整合性と相違点を抽 出し,そのモデルの妥当性について検討を行うものとす る。 そのための主要な課題は次の2 点とする。 ① これまでの主な「教師の知識研究」について教師の 認知的力量(「実践的知識」・「実践的思考様式」「信念」 等)と「省察」に関する知見を整理すること ② ①のそれぞれ知見について,Schdn (1983)が主張 する「反省的実践家」論との整合性や相違点について 検討を加え,「反省的実践家モデル」の妥当性について 検討を加えること そして,これらの検討をもとにして,さらに求められ る研究の視点や方向性について考察を加える。 2.教師の知識に関する先行研究 (1) 教師の認知的力量の内容と構造 1 )実践的知識 佐藤(1989)によると,もともと「実践的知識」とい うのは,それまでの「理論的知識」に対応して用いられ た概念であるとしている。 これは,Schwab (1969, 1971) が教師の専門性について「理論的知識」とは異なる「実 践的知識」 (practical knowledge) の存在を提唱したこと に端を発し,研究の発展を見たと言われている。 Schwab は実践的知識の特性として ① 「熟考の知」 (art of deliberation) ② 「取捨選択と総合の知」 (art of eclectic) の2 つの性格で特徴づけている。 この「実践的知識」に関する研究には2 つ主要な分析 の視点が存在する。その1 つは,Shulman (1986, 1987) らによって特徴づけられる教師がもつ知識の実態や構造 を解き明かそうとする実践的知識の研究の視点と, Schdn (1983, 1987)の「反省的思考」に代表されるよ うな,実践場面において知識がどのように機能している のかを解き明かそうとする「実践的思考様式」の研究の 視点である。 ここではまず,実践的知識の構成要素とその構造に関 する研究を取り上げていきたい。 この領域の研究で最も強い影響力をもつのはShulman (1986, 1987)の研究であると言われている。岩川(1991) は,そのレビューの中でShulman (1987)の主張する教 師の知識について次のように示している(一部要約)。 ① 「学問の内容に関する知識」 (content knowledge) ② 「一般的な授業方法に関する知識」(general pedagogiー cal knowledge) ③ 「学問内容と教授方法の一体となった知識」 (pedagogical content knowledge)

④ 「カJ キュラムに関する知識」(curriculum knowledge) ⑤ 「学習者とその特徴に関する知識」(knowledge of

learners and their characteristics)

⑥ 「教育の文脈に関する知識」(knowledge of educational contexts) ⑦ 「教育の目的に関する知識」(knowledge of educational ends) という7 つの領域を示している。その中でも「学間内容 と教授方法の一体となった知識」を教師固有の専門的な 知識領域の中心として強調している。 また,吉崎(1991)は,教師の「授業についての教師 の知識領域」として7 つの領域を示している。 7 領域と は①「教材についての知識」②「教授方法についての知 識」③「子どもについての知識」およびそれらの複合部 分である。 ③子どもについての知識 教材に ついての知識 吉崎(1991)

教授方法に ついての知識 24 鳴門教育大学学校教育研究紀要

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同様な知見をWilson 他(1987)に見ることができる(秋 田(1992)による)。彼女らは特定の教材から授業案を 構成する過程を翻案(trans釦nnation) と呼び,「カリキュ ラム」,「子ども」,「教育目的や目標」「一般的な教授法」「教 科,教材の内容,構造」等と共に「ある教材をどのよう にして教えたらよいかという授業を想定した教材内容に ついての知識①edagogical content knowle昭e)」が特に教 師の専門知識として重要であることを述べている。 2 )実践的思考様式 実践的知識のもうーつの分析の視点は,実践的知識が 具体的にどのように機能しているのかを実際の授業場面 の分析を通して明らかにしようとする実践的思考様式の 研究である。 岩川(1991)は,実践的思考様式に関する事例研究の 中でSchon (1983, 1987)の研究を次のように引用して いる(一部要約)。 Schon (1983, 1987)の専門職に関する研究は,直接 には教師の事例を研究したものではないが,教師の反省 的思考(reflective thinking)や反省的授業(reflective teaching) に着目した一連の研究を触発するものとなり (Zeichner & Liston, 1987, Calderhead, 1989),教師の実践 的思考様式を研究する上でのーつの核になっている。」と している。そして現実の不確定な状況の中で実践的な諸 問題に対して有効な力を発揮している熟練した専門家の 力量を,一種の認識や知の在り方と見なすことによって その問題を開いてゆくことが必要であると述べていると している。 そして,彼はこの問題に追るために『活動に内在する 認識』(knowing in action),『活動過程における反省的思 考』(reflection in action),『活動に関する反省的思考』 Geflection on action)という一連の概念を提出していると している。 佐藤他(1990)は,「反省的思考」の研究について, 「活動後の反省,もしくは教育活動に関する反省」 (reflection on action)から「活動過程における反省的思考」 (reflection in action)へと研究の対象を焦点化していった。 具体的には,佐藤ら(1990, 1991)は,熟練者の活動 過程における反省的思考に焦点を当てて,その特徴を初 任者との比較の中で抽出している。それは, ① 「即興的思考」 ② 「不確実な状況への主体的な関与」 ③ 「子どもの学習を中心に据えた視点」 ④ 「文脈,状況に即した思考」 である。これらの思考様式は,「不確実な状況へ主体的に 関与」し,「即興的に思考」し,「子どもの学習を中心に 据え」ながら「文脈,状況に即して」思考しているとい う特徴を抽出している。基本的には「授業実施の中での 思考過程」に研究の対象を限定したものといえる。 これら実践的知識と実践的思考様式の両者の違いと関 係性は,複雑な授業実践の過程を解き明かす研究の角度 の違いと研究対象の限定の仕方の違いで説明できる。 実践的知識の角度は,教師がもつ知識の領域と構造を 教師の思考様式から切り離して静態的に取り出して明ら かにしよとするものである。一方,実践的思考様式の角 度は,教師の思考過程に焦点を当て,用いている知識の 内容や構造から切り離して動態的に取り出して明らかに しようとするものである。これら研究の角度や対象の限 定は,授業過程そのものの複雑さに由来する。 しかし,両者は現実には密接な関連をもつものであり, 最終的にはその総体として,その関連性を含めた解明が 求められる。 3 )信 念 ここまで,「実践的知識」と「実践的思考様式」に関す る先行研究をレビューしてきたが,これらの教師の行動 レベルの知見を深層で制御し,統合している「信念」の 存在について各方面からの研究が進められている。 しかし,「信念」の明確な定義はまだされていない。 Calderhead (1989)は教師が予め心的にもっているも のと U て belief, scommitments, conceptions, perspectives を上げている。また,三上(199のは信念に対応する言 葉として「教師の実践的原理(teachers' principles),個 人的な認識(personal epistemologies) ,展望(perspectives), 個人的知識(practic可 knowledge)や志向性(orientations)j を上げている。このように和訳された「信念」を表す言 葉は多様であり,非常に多義で曖昧に用いられてきたと 言える。 秋田(1992)はそのレビューの中で信念に関するいく つかの研究を紹介している。そのひとつとして教育信念 と教授行動の関連についてBrickhouse (1990)の研究を 次のように紹介している(一部要約)。彼は高校の理科の 教師を対象に次のような結果を導き出している。それは 「科学的理論は厳密な実験によって明らかにされた真理 であり,科学の授業は科学理論を知ることである」と考 える教師と「科学理論は問題解決の理論であり,科学の 授業は問題解決のために理論を使うことだ」と考える教 師では,教科書の教え方や実験において重視する活動が 異なる,ということである。 岩川(199のは,授業に対する基本的な考え方が「信 念」といわれるもので多くの教師は暗黙のうちに身につ け,それが思考様式や行動を規定しているとしている。 このようなことから信念は,その実践的知識の形成に おいても実践的思考様式の働かせ方においてもその特徴 をつかさどる働きをしているととらえられる。 以上のように,信念に関する研究は様々な角度からす すめられていると言える。このことからも教育活動にお ける教師の信念の重要性がうかがえる。

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(2) 「省察」によって形成可能な認知的力量 1 )「省察過程」に関する先行研究 「省察過程」を明らかにする研究として「体験学習理論」 (Koib, 1984)がある。それは学習の4 つのモードの循 環的な関係を説明するもので,①具体的な体験,②省察 的な観察,③抽象的な概念化,④活動の実践(試行)で ある。この過程は問題の摘出,要因の命名,解釈,分析, 総合,評価というSchdn が反省的実践家を記述する際に 用いた段階とほぼ対応づけられる。一つのことを学習す る,または価値観を体得する際に,上述のようなサイク ルを経ていることを示すもので,省察の思考サイクルの 原型をなしていると言える。 また,さらにShulman (1987)の「教育的な推論と行 為」における定義では,省察過程を,①想起(reviewing), ②再構造化,③再表出化(表現),④自分自身と学級のパ フォーマンスの批判的分析,⑤根拠に基づく説明, とし ている。そして省察的教師が「教育的原理や技術を彼ら 自身の経験,文脈的要因,そして社会的かつ哲学的価値 の内部との関連で適用できる教師」と位置づけている (Sparks 他, 1991)。 このように理論的な省察の過程は,ある一定の段階を 踏んで省察がすすんでいくと考えられる。これは,具体 的な体験(あるいは行為)について想起する段階があり, 問題の抽出とその具体的な要因の特定,その構造的な解 釈,分析と段階が進むにしたがってその問題の実態が明 確になってくるということである。そして,もうーつ重 要なのは,次の実践へ生かせる根拠を伴った説明がなさ れると言うことである。その流れはおおよそ「意識化」 →「明確化」→「実践化」という体験の説明とこれに続 く実践の改善の過程と言える。 2 )実践的知識,実践的思考様式と省察の関係 近年,米国においては教師教育の中核として「省察」 (reflection) が位置づけられつつある。Handal & Lauvas (1987), Eraut (1985)は, [reflection] と [self direction] が教えることを学び,専門性を助長する上で重要な概念 であることを述べている。また,Pollard & Tann (1987) は教師教育において多くのテキストに省察の助長に焦点 を当てたものが存在することを示している(Calderhead, 1989)~

しかし,Cal叱rhead (1989)は,もともとDewey が提 唱した「省察」が‘'reflective practice" "reflection in action" "teacher as researcher" "teacher as decision maker" "teacher as professional" "teacher as problem solver'’のように専門性 の発達の過程において多様な意味を示し,膨大な数の概 念の変化と広がりを見せていることを記述している。こ のことについて佐藤(1990)は, 「反省(reflection)の 概念が広義に流行し,ほとんど意味をなさなくなってい る」と批判している。これはCalderhead (1989)が言う ように省察の過程において強調する部分が違うことに起 因して広がりを見せているものととらえられる。 このように省察に関しては,先述の実践的思考様式の 具体的な内容とその過程を明らかにする研究からも分か るように実践的思考様式の概念ときわめて類似して特徴 づけられている。このことに関してさらに先行研究を検 討してみたい。 まずSchdn (1983, 1987)の実践的思考様式の ① 「活動に内在する認識」(knowing in action) ② 「活動過程における反省的思考」(reflection in action) ③ 「活動に関する反省的思考」 (reflection on action) という3 つの概念と省察の関係を整理して取り上げたい。 岩川(1991)によると,第1 の「活動に内在する認 識」 (knowing in action)という概念は,人が人を識別す るときのように,私たちが言語化しうる以上の認識を活 動の中で行っていることを示すものであり,Polanyi, M , (1967)の「暗黙知」 (tacit knowledge)の概念に相当す るものである。 このような知の在り方は日常生活におい ても見られるものであるが,熟達者が発揮する芸術的手 腕は,それが専門的に洗練されたものと見なしうるとし ている。 第2 の「活動過程における反省的思考」 (reflection in action) という概念は,彼が提出する専門家の力量の中核 となるものである。それは上述のような「活動に内在す る認識」が有効に機能しなくなる問題状況で発揮される 力である。その典型的な過程として,まず, 日常の「活 動に内在する認識」ではうまくいかない予期せぬ結果に 対する「驚き」 (surprise)から始まる。そこから状況に 対する注意が呼び覚まされ,それまでの「活動に内在す る認識」がもつ仮説的な構造が問い返され,従来の現象 の了解の仕方や活動の方略や問題の構成の仕方が,再構 成されていく。そして,この反省的思考に基づいて,そ の状況を改善するためにその場で試される「即興的実験」 (on the spot experiment)が形成される。そしてそれが生 みだした結果からそこでの現象の了解や問題構成の妥当 性が確かめられていく。 このように「活動過程における反省的思考」は言わば, 主体が状況との間で取り交わす反省的な対話である。そ れは専門家が不確定で,価値の対立をはらみ,その都度 の特定性が重要な意味をもつ状況で,実践を行う上で中 心的な意義をもつものである」としている。 第3 の「活動に関する反省的思考」(reflection on action) という概念は,以上のような諸契機をもつ「活動過程に おける反省的思考」の過程を事後的に反省することであ り,これを通して実践者はこの過程に関する適切な言語 的叙述を生みだし,以後の活動への指針を得ることにな るとしている。 SchOn (1983, 1987)は,これらの概念の中でも「活 26 鳴門教育大学学校教育研究紀要

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動過程における反省的思考」(reflection in action)を強調 し,それによって実践的思考様式を主に特徴づけている と考えられる。それは,Schon においては活動過程にお ける問題の抽出からその分析,打開策の見出といった省 察の即興性や総合性が主に強調されているからである。 佐藤らもこれまでの一連の実践的思考様式の研究を通 して『活動過程における反省的思考』(reflection in action) に焦点を当て,その特徴を抽出している。 3 .「反省的実践家モデル」と「教師の知識研究」からの 知見との整合性と相違点に関する検討 これまでの教師の知識研究からの知見として得られた 「実践的知識」の領域と構造の視点から,Sch6n (1983) の「反省的実践家モデル」の概念を再考してみる。 (1) 「実践的知識」研究の知見からの検討 教師の実践的知識の領域と構造に関する研究に着目す ると,特に教師の専門性の中心概念となる知識領域の指 摘がなされている。 例えば,Shulman (1986, 1987)が教師固有の専門的 な知識領域の中心として指摘する「学問内容と教授方法 の一体となった知識」がある。また,Wilson 他(1987)は, 教師の専門知識の中心概念として「ある教材をどのよう にして教えたらよいかという授業を想定した教材内容に ついての知識(pedagogical content knowledge)」を明示し ている。これは,授業実施前に教材から授業案を構成す る過程(翻案(trans釦rmation) )を重視し,「教材の目標 や内容」に「子どもの実態」を合わせ,もっとも効果的 な「授業展開の方法」をシミュレーションした知識の重 要性を説くものである。 つまり,授業においてその授業実施前に個々の領域の 知識を蓄積するとともに,それらを統合し,授業を想定 した構造化した知識として蓄積することの重要性を述べ るものである。 これに対して,「行為(実践)の中の省察」を中心概念 に据えた「反省的実践家モデル」を提唱したSchon (1983) は,「変わりやすい曖昧な目的に支配され,不安定な文脈 に煩わされるために技術的知識に頼ることが許されない こと。また,その実践的知識は,学問成果の学習からは,得 るものが少なく,自らの実践を通して獲得するしかない こと」を主張している。このように,教師の専門性のと らえ方は,Shulman (1986, 1987)やWilson 他(1987) とSch6n (1983)のとは,大きく異なる。 着目すべき違いは,これは,研究の角度の違いだけで なく,Shulman (1986, 1987)やWilson 他(1987)が 授業以前の「翻案(trans釦rmation) 」や「ある教材をどの ようにして教えたらよいかという授業を想定した教材内

容についての知識(pedagogical content knowledge)」を教 師の専門性の中心概念と位置づけている点である。 Sch6n (1983)や佐藤他(1990)と比較すると「活動の 中の省察」にその専門性の中核を置くところに大きな違 いを指摘することができる。 この中核的概念の違いに着目して,あらためて両者の 指摘する教師の専門性をモデルとして位置づけると, Schon (1983)の「反省的実践家モデル」に対して,Shulman (1986, 1987)やWilson 他(1987)の「専門的知識重 視モデル」という概念を提示することができる。 このような「専門的知識重視モデル」の特徴は,「教材 の知識」,「教授法の知識」,「子どもの知識」を蓄積し, それを統合し,授業を構想した知識を蓄積することに よって,授業展開を想定した複数のシミユレーションを 準備することを可能にする。そしてそのことにより,授 業における不確定性を低減し,予想外の展開にも副案へ の切り替えによって柔軟に対応できる力量を高め得るこ とになる。つまり,教師が磨くべき専門性として,複合 的で専門的な知識の蓄積(獲得)があり,それが教師と しての中核的な力量として位置づけられるとするのが ShulmaIi (1986, 198.7)やWilson 他(1987)が主張す るところである。 今後,実際の授業場面で発揮された教師の実践的知識 の内容を,予め蓄積された知識が適用されたものと授業 実施の中で産出されたものに分類して抽出し,Schon (1983)が主張するように「変わりやすい曖昧な目的に 支配され,不安定な文脈に煩わされるために技術的知識 に頼ることが許されない」ものなのか,検証することが 求められる。 (2) 「実践的思考様式」研究の知見からの検討 佐藤ら(1990, 1991)は,先述の通り「活動過程に おける反省的思考」に関して,熟練者の授業モニタリン グを通してその特徴を抽出している。その特徴は,「即興 的思考」「不確実な状況への主体的関与」「文脈,状況に 即した思考」等,まさにSchon (1983)が主張するとこ ろの「行為の中の省察」と一致するところである。その 意味では,Sch6n (1983)の主張を裏付け,強化する役 割を担った研究といえる。 しかし,この研究では,熟練教師自身の授業VTR に対 するモニタリングではなく,第三者が実施した授業VTR に対するモニタリングを対象としている。つまり,第三 者の授業のモニタリングであるため,基本的にはその場 面ごとの即興的な思考しか抽出されていないということ である。したがって,熟練者自身が授業を実施している ときにどのような思考様式を機能させているのかは,明 らかにされていない。つまり,実際に熟練教師が授業を 実施しているときにどのような授業構想をもち,何を根

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拠に,あるいはどのような理由をもって意志決定し,授 業を展開しているのかをあらためて抽出し,そこで機能 している思考様式の特徴を検討する必要がある。 そのとき,単に思考様式の特徴だけでなく,根拠とす る知識の内容と合わせて抽出する必要がある。それは, 教師の専門性は,用いている実践的知識とその活用の仕 方である実践的思考様式の両面をもって説明されるべき であるからである。 (3) 「信念」研究の知見からの検討 「信念」は,「実践的知識」の形成においても「実践的 思考様式」の働かせ方においてもその特徴をつかさどる 働きをしていることが見出されている。このことは,熟 練教師に関する研究で明らかになっている「教師の個性 的な成長」(様々なタイプの教授スタイルをもつ熟練教師 の存在(吉田他,198の)の実態からも裏付けられてい る。 Sch6n (1983)は,「信念」に当たる部分について「実 践者は,判断の基礎となる暗黙の規範や評価について, あるいは行動パタンの中に暗黙の中にある方略や理論」 と記述し,その特徴を「暗黙知」として位置づけ,判断 や行動の規範や理論として機能していることを示唆して いる。そしてそこへの省察の重要性について述べている。 しかし,その「暗黙知」の個人的差異やそれを基にした 個性的な成長については言及されていない。 教師の専門性をとらえるとき,この「信念」を核とし た個性的な実践の実態を踏まえることは,必要不可欠な ことと考える。教師の実践的思考の根拠となる「信念」 (教育に関する基本的な考え方)の抽出を含めた分析が求 められる。 (4) 「省察」研究の知見からの検討 「省察」に関する研究の整理にいてSch6n (1983, 1987) の実践的思考様式の ① 「活動に内在する認識」(knowing in action) ② 「活動過程における反省的思考」(reflection in action) ③ 「活動に関する反省的思考」 (reflection on action) という3 つの概念と省察の関係を整理してきた。 Sch6n (1983, 1987)はこの中でも特に,②「活動過 程における反省的思考」(reflection in action)を教師の専 門性の中心概念として位置づけていることはこれまでも 述べてきた。 しかし,Shulman (1986, 1987)やWilson 他(1987) が授業以前の「翻案(trans拓rnl肌ion)」や「ある教材をど のようにして教えたらよいかという授業を想定した教材 内容についての知識(pedagogical con把nt knowledge)」を 教師の専門性の中心概念と位置づけている点に着目すれ ば,特に③「活動に関する反省的思考」(reflection on action) によってその専門的知識の形成が重視される必要 があることが指摘できる。また,上述の整理にはない, 概念として④「活動に備えた反省的思考」(reflection be釦re action)の重要性を指摘できる。 『省察』は,教師の成長の鍵概念としてこれまでも指摘 されてきたが,何に対するどのような『省察』なのかを あらためて問い直す必要があると考える。そして,その 問い直しは,教師の授業実践に立ち返った地道な分析か ら始められなければならない。 4 .おわりに 教師の専門性をとらえようとする研究において,これ まで教師がもつ知識の領域と構造を明らかにしようとす る「実践的知識」とその知識が授業の中でどのように機 能しているのかをとらえようとする「実践的思考様式」 の研究に大別されることを述べてきた。「実践的知識」と 「実践的思考様式」の両者においても綿密な関連性をもつ ものでもともと切り離されて還元できるものではない。 これは教師がもつ専門性が複雑であるために,それぞれ 研究の角度を限定して対象化されてきた経緯がある。 したがって,教師の専門性をトータルでとらえ,モデ ル化しようとするときには,今一度,それぞれの角度で 限定的にとらえられてきた研究をつなぎ合わせ,部分と してではなく全体としての把握がなされなければならな い。つまり,実践的知識の領域と構造の知見と実践的思 考様式の知見の双方からの教師の専門性へのアプローチ が求められる。 それは,Scion (1983)が提唱し,佐藤他(1990, 1991) によって裏付けられ,強化された「反省的実践家モデル」 とShulman (1986, 1987), Wilson 他(1987)が教師の 「専門的知識」を専門性の中心概念と位置づける「専門的 知識重視モデル」に関して,双方の研究の角度を合わせ た分析方法を用いて教師の専門性に接近する必要がある ということである。 具体的には,実際の授業を調査対象として,授業者の 行動や判断の根拠とした知識の領域や内容とともに,そ こでの思考過程(思考様式)を合わせた形で抽出し,そ の実態を明らかにすることである。そのことによって, 教師の専門性の全体像が明示され,モデル化が可能にな ると考える。 このことの確認は,教師に求められる資質,能力の内 容を明示化し,教員養成,教師教育の在り方そのものへ 影響を与える知見となると考える。 さらには,今後の教員免許制度や教職員評価制度等, 教師に求められる資質,能力を基点として展開する教育 制度や教育のしくみの再考を促すきっかけとなる可能性 がある。 28 鳴門教育大学学校教育研究紀要

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【引用文献】 秋田喜代美 1992 「教師の知識と思考に関する研究動 向」『東京大学教育学部研究紀要』 第32 巻,225 一227 秋田喜代美・岩川直樹 1994 「教師の実践的思考とそ の伝承」稲垣忠彦・久富善之 『日本の教師文化』 東 京大学出版会,84 - 107

Calderhead 1989 "Reflective teaching and teacher education." Teacher and Teacher Education, 5 (1), 43-51

岩川直樹 1991 「教師の実践的思考様式に関する事例 研究:学習者中心の授業における教師の思考過程に注 目して」 『学校教育研究』6,東信堂 46 -55 三上和巳 1994 『教師の信念体系に関する研究』

1993 年度 鳴門教育大学修士論文,7 -9

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