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神崎達也 擬三角格子系 V 酸化物における新奇秩序状態

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擬三角格子系 V 酸化物における新奇秩

序状態

Exotic Ordered States in Vanadium Oxides with Quasi-Triangular Lattices

早稲田大学大学院 先進理工学研究科

物理学及応用物理学専攻 複雑量子物性研究

神崎 達也

Tatsuya KANZAKI

2014 6

(2)

目次

第1 序章 3

1.1 本研究の背景と位置付け . . . 3

1.2 本論文の構成 . . . 4

参考文献 6 第2章 擬三角格子系V酸化物の物性 7 2.1 軌道自由度と軌道整列 . . . 7

2.2 AV10O15(A(Ba, Sr)の構造と物性 . . . 8

2.2.1 電子配置と結晶構造 . . . 8

2.2.2 AV10O15(A(Ba, Sr)の物性 . . . 10

2.3 AV13O18(A(Ba, Sr)の構造と物性 . . . 18

2.3.1 電子配置と結晶構造 . . . 18

2.3.2 AV13O18(A(Ba, Sr)の物性 . . . 22

2.3.3 混晶試料Ba1!xSrxV13O13の物性 . . . 24

参考文献 27 第3 BaV10O15のラマン散乱による軌道整列の測定 28 3.1 本研究のねらい . . . 28

3.2 実験方法 . . . 29

3.3 実験結果と考察 . . . 30

3.3.1 ラマンスペクトルの温度変化 . . . 30

3.3.2 モデルによる定量解析 . . . 35

3.4 まとめ . . . 40

参考文献 42 第4 BaV13O18単結晶の軌道整列と基底状態 43 4.1 本研究のねらい . . . 43

4.2 実験方法 . . . 44

(3)

試料作製方法 . . . 44

測定方法 . . . 46

4.3 実験結果と考察 . . . 51

4.3.1 抵抗率・磁化率・比熱の結果 . . . 51

4.3.2 光学測定の結果. . . 56

4.4 まとめ . . . 59

参考文献 61

第5章 総括 62

謝辞 65

研究業績 66

(4)

第 1

序章

1.1 本研究の背景と位置付け

遷移金属や希土類を含む化合物の結晶の物性について、電子が持っている電荷、スピン、軌道 の自由度の観点から理解することがしばしば有用である。3つの自由度のうち、電荷の自由度と は電荷としての遍歴性と局在性に関連した自由度であり、物質の電気的性質を支配している。ま た、スピンの自由度とは各スピンがどの方向を向いて配列するかの自由度であり、物質の磁気的 性質を支配している。そして、軌道の自由度とは複数個ある軌道のうち電子がどれを占有するか の自由度であり、結晶の格子歪を支配している。これらの自由度を持つ電子が格子上でどの様に 振る舞うかにより、結晶の電子物性は特徴付けられている。

電子間の相互作用が強い強相関電子系においては、これらの自由度内での相互作用により、低 温において秩序状態を形成し、金属絶縁体転移や磁気相転移、構造相転移を引き起こす。さらに、

これらの電子の持つ自由度のうち、特に軌道の自由度については、秩序化の際に他の自由度の秩 序化も誘起し、巨大磁気抵抗効果や金属イオンの多量体化によるspin-singlet状態の形成など、複 数の自由度が関係する物理現象を起こすことが近年明らかになりつつある。

本研究においては、軌道の秩序化に着目し、構造相転移により多量体を形成する系を対象とし た。軌道整列には2通りの場合がある。1つは格子点上において整列する場合である。これはペ ロブスカイト型Mn酸化物において観測されており、巨大磁気抵抗効果を示す例として精力的な 研究が行われてきた[1]。もう1つの場合として、軌道が原子間の結合上で整列する場合である。

このときにしばしば多量体を形成することが三角格子V酸化物であるLiVO2における三量体形

成[2, 3]などにおいて知られている。

こ の よ う な 多 量 体 を 形 成 す る 物 質 の 例 と し て 、他 に は 、三 量 体 を 形 成 す る LiVS2[4] NaV6O11[5]、BaV10O15[6]、SrV8Ga4O19[7]、AV13O18(A(Ba, Sr)[8]、A2V13O22(A(Ba, Sr)[9]、 七量体を形成するAlV2O4[10]、八量体を形成するCuIr2S4[11]が挙げられる。しかし、研究対 象となる系が限られているため、多量体形成による物性の解明は進んでいない。そこで本研究で は、多量体を形成する物質系における複数の自由度に由来する新奇秩序状態の観測、及びその物 理解明を目指した。

この目的を達成するために、本研究では擬三角格子系V酸化物であるBaV10O15とBaV13O18

(5)

を研究対象とした。これらの物質の構造は、VOの面心立方格子を基礎としている。また、Vイ オンの形式価数が非整数値であり、電荷と軌道の2つの自由度が存在する系である。BaV10O15

は、TC(123KにおいてVイオンのt2g軌道が整列しV三量体を形成する構造相転移を起こし、

TN(43Kにおいて反強磁性転移が起きる。この物質に対して光散乱を用いて軌道整列の観測を試 みた。一方、BaV13O18は室温においてV四量体を形成しており、TCO(200Kにおいて電荷整列 を起こす。さらに、低温では、V四量体からV三量体へ変化する構造相転移の存在が示唆されて いる。このようにBaV13O18は複数の相転移が示唆される興味深い物質であるが、これまでに多 結晶による研究の報告しかなかった。このBaV13O18 の単結晶を詳細に調べることにより、V三 角格子の新奇な秩序状態の理解が進むことが期待される。

1.2 本論文の構成

本論分は全5章から構成されており、以下に各章の内容を述べる。

第1章では研究の背景と論文全体の概要を述べた。

第2章では、研究対象となる擬三角格子系V酸化物についてこれまでに報告されている研究 成果についてまとめた。AV10O15(A(Ba, Sr)の単結晶試料に関しては、電子配置、結晶構造、電 気抵抗率、磁化率、光学伝導度について整理し、軌道整列とV三量体の関係についてまとめた。

AV13O18(A(Ba, Sr)の多結晶試料に関しては、電子配置、結晶構造、電気抵抗率、磁化率について

整理し、電荷整列と四量体から三量体への相転移についてまとめた。またAサイトの混晶試料で あるBa1!xSrxV13O18についても同様に整理し、電荷整列相と三量体相の競合についてまとめた。

第3章では、BaV10O15の単結晶劈開面におけるフォノンラマン散乱測定の結果について述べ、

軌道整列がフォノンにどのように影響を与えるか考察した。構造相転移温度以下で新たなフォノ ンピークが出現し、ピーク幅の減少とピーク強度の増大を観測した。また、40K以下において フォノンのソフト化を観測し、この温度が反強磁性転移温度以下であることから、スピン-格子の 結合が生じていると考えられることを述べた。さらに、構造相転移温度よりも高温側において、

温度の低下と共にピークが徐々につぶれていく振る舞いを観測した。これは、局所的なV三量体 の形成に対応していると考えられることを述べた。構造相転移における変化に対してより定量的 な解析を行った。フォノン振動数の計算はイオン間の結合をバネとしてバネ定数を光学伝導度ス ペクトルより決定し、スペクトル強度は結合分極率モデルにより解析した。その結果、Vイオン が主に動くモードは350cm!1以下であり、Oイオンが主に動くモードは350cm!1以上であるこ とが明らかになった。また、三量体を形成する構造相転移によってV-V結合のバネ定数が75%

も増加すること、ピーク幅が約1'2に減少することを明らかにした。これは、高温ではVイオン のt2g軌道は電子によりランダムに占有され時間と共に揺らいでいるが、軌道整列により特定の軌 道が占有されることによって揺らぎが大きく抑制されるからであると考えられることを述べた。

第4章では、BaV13O18の単結晶試料に対する抵抗率、磁化率、比熱、光学反射測定の結果に ついて述べ、多量体が物性に与える影響の観点から考察した。分解溶融を示すBaV13O18の単結 晶の作製方法を考案し、不純物のない単結晶を得るには、急冷により種結晶を作製することが 重要であることを述べた。作製した単結晶にはstoichiometricに近い試料とo$stoichiometric

(6)

試料が存在し、低温における振る舞いが異なることを明らかにした。高温では、どちらの試料も TCO '200Kにおいて電荷整列を起こし、電子の局在化を示す振る舞いを示すことを述べた。低 温(T <70K)では、stoichiometriに近い試料においてはTtr(65Kにおいて三量体転移を起こし、

基底状態では絶縁体的となり、一方o$stoichiometricな試料においては65Kにおける三量体転移 は観測されず、基底状態では金属的であることを明らかにした。o$stoichiometricな試料の金属 状態に対して、電子比熱と磁化率からWilson比を求め、その結果近藤効果が起きていると考え られることを述べた。また、光学反射率をKramers-Kronig変換することで光学伝導度を求めた。

その結果、室温におけるスペクトルの構造はBaV10O15と非常に似ていることが明らかになった。

このことは、これらの物質の電子構造が複雑なバンド構造よりVOからなる八面体配置の結 晶場とクーロン斥力の影響を大きく受けていること示すことを述べた。温度を下げていくと低エ ネルギー側の伝導度スペクトルが減少することが明らかになった。スペクトルの変化を明確に見 るため光学伝導度を一定のエネルギー領域で積分してspectral weightを求めた。伝導度の結果か

ら、o$stoichiometricな試料において電荷整列により擬gapが電子構造に開くことを明らかにし

た。また、抵抗率の振る舞いから予想される伝導度の増加は0.01eV以下のエネルギー領域で観 測されることについて述べた。さらに、stoichiometricに近い試料において予想される電子構造の gapの開きは、0.1eV以下のエネルギー領域で観測されることについて述べた。

第5章において、総括として本研究のまとめと課題に関して報告する。

(7)

参考文献

[1] M. B. Salamon, and M. Jaime, Rev. Mod. Phys. 73, 583 (2001).

[2] H. F. Pen, L. H. Tjeng, E. Pellegrin, F. M. F. de Groot, G. A. Sawatzky, M. A. van Veenendaal, and C. T. Chen Phys. Rev. B 55, 15500 (1997).

[3] H. F. Pen, J. van den Brink, D. I. Khomskii, and G. A. Sawatzky, Phys. Rev. Lett. 78, 1323 (1997).

[4] N. Katayama, M. Uchida, D. Hashizume, S. Niitaka, J. Matsuno, D. Matsumura, Y. Nishihata, J. Mizuki, N. Takeshita, A. Gauzzi, M. Nohara, and H. Takagi, Phys. Rev. Lett. 103, 146405 (2009).

[5] H. Kato, M. Kato, K. Yoshimura, and K. Kosuge, J. Phys. Soc. Jpn. 70, 1404 (2001).

[6] T. Kajita, T. Kanzaki, T. Suzuki, J. E. Kim, K. Kato, M. Takata, and T. Katsufuji, Phys. Rev. B 81, 060405(R) (2009).

[7] J. Miyazaki, T. Sonehara, D.Akahoshi, H. Kuwahara, J. E. Kim, K. Kato, M. Takata, and T.

Katsufuji, Phys. Rev. B 79, 180410(R) (2009).

[8] M. Ikeda, T. Okuda, K. Kato, M. Takata, and T. Katsufuji, Phys. Rev. Rev. B 83, 134417 (2011).

[9] J. Miyazaki, K. Matsudaira, Y. Shimizu, M. Itoh, Y. Nagamine, S. Mori, J. E. Kim, K. Kato, and T. Katsufuji, Phys. Rev. Lett. 104, 207201 (2010).

[10] Y. Horibe, M. Shingu, K. Kurushima, H. Ishibashi, N. Ikeda, K. Kato, Y. Motome, N. Furukawa.

S. Mori, and T. katsufuji, Phys. Rev. Lett. 96, 086406 (2006).

[11] P. G. Radaelli, New J. Phys. 7, 53 (2005).

(8)

第 2

擬三角格子系 V 酸化物の物性

ここでは、Vが三角格子を基本とする構造をとり、軌道整列を起こす物質として本研究で扱っ たAV10O15AV13O18(A(Ba, Sr)の報告ついてまとめる。

2.1 軌道自由度と軌道整列

2.1 3d軌道の結晶場分裂

本研究で扱ったV酸化物では、VイオンはOイオンに八面体的に囲まれており、結晶場分裂 によって5重に縮退しているVイオンの3d軌道が、3重に縮退したt2g軌道と2重に縮退した eg軌道に分裂する(図2.1)。このとき2価のVイオンでは、3つの電子がエネルギーの低いt2g 軌道に存在し、また3価のVイオンでは2つの電子がt2g軌道に存在する。3価のVイオンにお いて、縮退している軌道の数は電子の数より多く、電子にはどの軌道を占有するかという軌道の 自由度が存在する。この軌道の自由度が整列することで、イオンが多量体を形成する物質がいく つか存在しており、その1つの例としてVが三角格子をとるLiVO2に関して述べる。LiVO2に おけるVイオンの価数は3価であるので、この物質には軌道の自由度が存在している。またこの 物質は450K付近において構造相転移を起こし、Vイオンが三角格子上において三量体を形成す

(9)

2.2 (a)LiVO2Vイオンの配置、(b)Vイオンの三量体形成、(c)構造相転移における磁化 率の変化(M. Onodaet al., JPSJ 60, 2550 (1991). [1]より)

る(図2.2(b))ことが報告されている。さらに、構造相転移が起きたときに磁化率は急激に減少す

る振る舞いを示すことも明らかになっている(図2.2(c))[1]。

LiVO2におけるこのような振る舞いを説明するモデルとして、Penらによって三量体における 軌道整列モデルが提案されている[2]。このモデルでは、三量体の各頂点にあるV3& イオンから 隣の頂点にあるV3&イオンに向かってt2g軌道が伸びており、このとき、Vイオン同士の結合長 が縮むことで軌道が,結合し、結合軌道と反結合軌道ができる。エネルギーの低い結合軌道に は、両端にあるV3&イオンから電子が1つずつ入り、spin-singletを形成し、エネルギー的に安定

となる。spin-singlet形成により、磁気モーメントはS(0となるので磁化率は減少する振る舞い

を示す。

2.3 三量体の軌道整列モデル

2.2 AV

10

O

15

(A=Ba, Sr) の構造と物性

2.2.1 電子配置と結晶構造

AV10O15(A(Ba, Sr)においてVの平均価数は&2.8価をとる。この値は形式的には、V3&(3d2) のイオンが4つとV2&(3d3)イオンが1つ存在していることを示している。異なる価数のVイオ ンが存在していることから、電荷の自由度が存在しており、またV3&には軌道の自由度が存在し

(10)

ている。

2.4 AV10O15(A(Ba, Sr)の電子配置

AV10O15(A(Ba, Sr)の結晶構造は、室温においてBaもSrも同じ構造である。室温において結 晶系はorthorhorhombicで、空間群はCmceである。図2.5(a)にはこの物質の結晶構造を示して いる。c軸方向にAO7、VOが層状に積み重なった構造をしている。図2.5(b)には、ab面のV のある一層を示している。このVイオンの配置は、Vの三角格子から規則的にVの三角形が抜 けた構造をしており、これは5つのVイオンからなる船がab面に沿って繋がっている構造であ ると見なすことができる(Vイオンの欠損は、図2.5(b)の破線の丸で示してある。)。この次のV の層において、Vイオンの配置は逆向きになっており、はじめの層とは図2.5(c)に示すように 積み重なっている。さらにその次のVの層は、はじめのVの層の配置をa軸方向に1'2だけず らした配置をとっており、はじめの層とは図2.5(d)に示すように積み重なっている。以上から、

AV10O15(A(Ba, Sr)は1層目と2層目のVの層が図2.5(b)に示すように重なっているbilayer構 造をしていると見なすことができる。また、AサイトのBaやSrイオンは欠損しているVの三 角形の中央に位置している。

Greedan ら構造解析により、BaV10O15 では 130K 付近で構造相転移を起こし、結晶系は

orthorhorhombicのままで空間群がCmce (Pbcaへと変化することが明らかになっている[3] この構造相転移における格子定数の変化を図2.6に示す。高温側から温度を下げていくと、130K 付近で全ての軸の格子定数は急激に変化し、a軸とc軸は伸びるのに対してb軸は縮んでいる。

一方SrV10O15では、構造相転移は起きないことが分かっている。また、Kajitaらによって放射光 粉末X線回折も行われており、リートベルト解析により最近接Vイオン間の結合距離の見積も りが行われている[4]BaV10O15では、構造相転移に伴いVイオン間の結合のうち特定の3 が大きく収縮(3%'8% )し、その他の結合はわずかに伸びるか縮むことが分かっている。図2.7 には構造相転移によって大きく収縮する3つのVイオン間の結合を示す。3つの結合の収縮う ち、従来はV2bとV3aの結合距離の縮小のみが強調されており、それはV二量体の形成による ものであると考えられていた[5]。しかし、収縮の大きい3つのVイオンの結合は正三角形を形 成しており、これは構造相転移によりV三量体が形成されることを示している。このBaV10O15 のV三量体の形成は、LiVO2において提案された軌道整列モデル[2]を参考にすることで理解 することができる。つまり、三量体においてVイオンのt2g軌道は三角形の辺上で,結合し、

spin-singletを形成し閉殻構造をつくる(図2.7)。BaV10O15におけるV三量体形成の起源がVイ

(11)

2.5 (a)AV10O15(A(Ba, Sr)の結晶構造、(b)ab面のVイオンの配置、(c)z(0z(1'4V の層の重なり、(d)z(0z(-1'4Vの層の重なり

オンのt2g軌道の整列であることは、Takuboらによって共鳴X線散乱で確かめられている[6]。 また、SrV10O15では三量体の形成はないことが明らかになっている。

2.2.2 AV

10

O

15

(A=Ba, Sr) の物性

BaV10O15の単結晶における抵抗率と磁化率はKajitaらによって報告されている[4]。抵抗率 と磁化率の温度依存性を図2.8に示す。抵抗率は、温度を下げていくと徐々に増加していき、構 造相転移温度TC(123Kにおいて103倍増大する。転移温度以下において、さらに温度を下げる と発散する振る舞いを示す。抵抗率では軸による異方性はほとんど見られない。低温における抵 抗率の振る舞いは、熱活性型であると考えられている。活性化エネルギーは、温度にもよるが、

0.05eV'0.1eV程度であり、電子構造に有限のエネルギーgapが存在することを示している。

一方磁化率では、温度を下げていくと各軸とも温度に依存しない振る舞いを示し、TC におい て不連続な跳びが見られる。この跳びの大きさはTC直上の値の20%程度である。一見すると、

TCにおける磁化率の増加は軌道整列によるspin-singletの形成と矛盾している。この振る舞いは 三量体に関与しないVイオン間の磁気相互作用が強く働くためであると考えられている。転移 温度からさらに温度を下げると、43K以下においてa軸の磁化率.aが減少し、他の軸の磁化率 .bと.cが増加する。比熱や中性子散乱によりこの温度領域において反強磁性の存在が確認され

(12)

2.6 BaV10O15の格子定数の温度変化(C. A. Bridges and J. E. Greedan, J. Solid State Chem.

177, 1098 (2004).[3]より)

ている[7]ことから、TN(43K以下の振る舞いは反強磁性転移に対応している。BaV10O15の三 量体モデルにおいて、Vイオン5つのうち2つは三量体の形成に関与しておらず、この2つの イオンの価数はそれぞれ2価と3価をとっている。このイオンが磁気モーメントを持ち、TC で は強い磁気相互作用が働き、TN ではa軸方向に反強磁性的に整列すると考えられている。実際 TC 以下において、Curie-Weiss則.(T) (C3(T !')からCurie定数C ( 01575 k cm3'V molが 得られており、この値は5つのVイオンのうち、2つがそれぞれV2&(S(3'2)とV3&(S(1)で残 りの3つがspin-singlet状態(S(0)であるとした値と一致している。また、TC 以上における磁 化率の温度依存性に対しては、2通りの解釈がなされている。1つの解釈としては、Curie-Weiss 則.(T)(C3(T!')に従う振る舞いがある。ここでCurie定数はC(1.46 K cm3'V molWeiss

(13)

2.7 BaV10O15の低温相におけるV三量体

2.8 BaV10O15の温度依存性(a)抵抗率、(b)磁化率(T. Kajitaet al., PRB 81, 060405(R) (2010).[4]より)

温度は'(-120Kが得られており、このCurie定数の値はVイオン中に存在する全てのd電子が high-spin状態で局在している状態、つまり5つのVイオンのうち4つがS(1(3d2V3&)であ り、残りの1つがS(3'2(3d3、V2&)であるとしたときの値C(1.175 K cm3'V molとほぼ一致 している。別の解釈としては、パウリ常磁性に従う振る舞いがある。磁化率.の絶対値'1#10!3

cm3'V molは、電子相関により大きくなっていると考えられる金属状態のV2O3の値に相当す

る。BaV10O15においては、LDAバンド計算より.'1.3#10!4cm3'V molが得られている。し たがって有効質量は電子相関によって8倍大きくなっていると考えられる[7]

SrV10O15の単結晶における抵抗率と磁化率はKajita、Hoshinoらによって報告がなされている [4, 8]。抵抗率の温度依存性を図2.9に示す。抵抗率は、温度を下げていくと増加し続けBaV10O15 のような異常は見られない。図2.9(b)には、抵抗率を(13T)133の関数として対数でプロットした ものを示している。+a と+bにおいて線形な関係が成立しており、このことは+(T) が2次元の variable range hopping+(T) ( +0exp[(E3kBT)!](!( 133)に従っていることを示している。磁化

(14)

2.9 (a)SrV10O15の抵抗率の温度依存性、(b)(13T)133に対する対数プロット(M. Hoshinoet al., PRB 85, 085106 (2012).[8]より)

率は、図2.8(b)に黒の実線で示してある。磁化率は、温度を下げていくと100K付近までは温度

に依存しない振る舞いをするが、100K以下において温度下げるのに従って増加していく。150K 以上において、Curie-Weiss則から得られるCurie定数はC(1.61 K cm3'V molでBaV10O15の値 と同等である。また、Weiss温度は'(-170KでBaV10O15の絶対値の1.5倍大きくなっている。

2.10 SrV10O15の光学伝導度(M. Hoshinoet al., PRB 85, 085106 (2012).[8]より)

AV10O15(A(Ba, Sr)における電子構造を調べるため、Kajitaら、Hoshinoらによって光学反射 測定が行われており、測定した反射率をKramers-Kronig変換することで光学伝導度スペクトル ,(/)が得られている[4, 8]。まず、室温におけるスペクトルの全体的な構造について述べる。室 温において、BaV10O15の伝導度スペクトルとSrV10O15の伝導度スペクトルの構造は非常によく

(15)

似ている為、図2.10にはSrV10O15の300Kにおける伝導度スペクトル(赤の実線)を示してい る。また、図2.10には5Kの伝導度スペクトル(青の破線)とMnV2O4の伝導度スペクトル(黒 の実線)も合わせて示してある。このMnV2O4はスピネル型の結晶構造をとり、AV10O15(A(Ba, Sr)と同様にVイオンがOイオンに八面体的に囲まれている。ただし、Vイオンの価数は3価の みである。SrV10O15の伝導度スペクトルでは、0.5eV2.5eV付近のピークと4.5eV付近のエッ ジの3つの構造が存在していることが分かる(図中の三角形)。一方で、MnV2O4の伝導度スペ クトルには1.7eV、2.2eVのピークと4eV付近のエッジの3つの構造が存在している。MnV2O4 において、2eV付近にある2つのピークはVの3d軌道間のMott遷移、4eVにあるエッジはO の2p軌道からV3d軌道への電荷移動遷移であると解釈されている[9]MnV2O4と同様の スペクトルは、V3&のみを持つペロブスカイト型RVO3においても観測されている[10]。以上か ら、SrV10O15の伝導度スペクトルにおいて、2.5eV付近のピークと4.5eV付近のエッジはそれ ぞれMott遷移と電荷移動遷移によってアサインされる。また、残りの0.5eV付近のピークは、

V2&(3d3)からV3&(3d2)へのin-gap遷移によってアサインされる。

2.11 BaV10O15の光学伝導度の温度依存性(a)E4a(b)E4b(c)E4c(T. Kajitaet al., PRB 81, 060405(R) (2010).[4]より)

次に、BaV10O15の光学伝導度の温度依存性について述べる。図2.11には1.5eV以下の各軸に おける光学伝導度の温度依存性を示す。300Kにおいて各軸のスペクトルとも!/(0eVで有限の

(16)

値をとっている。温度を下げると、低エネルギー側の伝導度が減少していき、TC直上の130Kで 原点付近に伝導度を外挿すると、ほぼゼロgap絶縁体状態を示す。TC以下においては、伝導度ス ペクトルは高エネルギー側へとシフトし、電子構造に約0.3eVのgapが開く。さらに温度を下げ て反強磁性転移温度以下にしても伝導度スペクトルにはほとんど変化は見られない。TC におけ る振る舞いは、Vイオンのt2g軌道が整列することにより閉殻構造がつくられ、フェルミ準位付 近にgapが開くことを示唆している。また、TC以上における低エネルギー側の伝導度の減少は このエネルギー領域がin-gap遷移に該当することから、揺らぎが抑制されていることを示唆して いる。

2.12 spectral weightの温度依存性(T. Kajitaet al., PRB 81, 060405(R) (2010).[4]より)

BaV10O15の光学伝導度スペクトルの温度依存性を明確に見るために、0.1~0.3eVの範囲で ,(/)を積分することで得られるspectral weightを温度に対してプロットしたものを図2.12に示 す。各軸のspectral weightも温度を下げていくと減少していき、TCにおいて不連続に減少する。

TCにおける変化は、電子構造にgapが開くためである。また、TC 以上における振る舞いは揺ら ぎが抑制されているためである。

2.13 BaV10O15の各軸の光学伝導度(a)300K(b)5K(T. Kajitaet al., PRB 81, 060405(R) (2010).[4]より)

さらに、BaV10O15の光学伝導度スペクトルの異方性について述べる。各軸の300Kと5Kに

(17)

おける伝導度スペクトルを図2.13に示す。図中の insetには、光学伝導度スペクトルの積分値 (spectral weight)を示している。TCより高温である300Kにおいて、0.5eV以下の伝導度スペク トルの大きさは,b>,c >,aとなっている。一方で、TCより低温である5Kにおいて、0.5eV 以下の伝導度スペクトルの大きさは,c >,b>,aとなっている。温度による,(/)の異方性の 変化は、軌道整列によって異方的な電子構造が引き起こされていることを示唆している。このこ とは、V三量体がbc面に平行に近い方向に形成されていることと関係している。

2.14 SrV10O15の光学伝導度の温度依存性(a)E4a(b)E4b(c)E4c0.1'0.3eVspectral weightの温度依存性(d)E4a(e)E4b(f)E4c(M. Hoshinoet al., PRB 85, 085106 (2012).[8]より)

SrV10O15の光学伝導度の温度依存性について述べる。図2.14(a)'(c)には1.5eV以下の各軸の 光学伝導度の温度依存性を示す。図には、BaV10O15の最低温における各軸の伝導度スペクトル も合わせて示している(図中の破線)。温度を下げていくと、各軸のスペクトルも0.5eV以下に

(18)

おいて伝導度が減少していき、最低温において値がほぼゼロのわずかなgap が電子構造に開く。

この振る舞いは軌道整列により電子構造にgapが開く BaV10O15とは異なっている。また、伝 導度スペクトルの温度依存性を明確に見るために、0.1'0.3eVの範囲の,(/)の積分して得られ るspectral weightを温度に対してプロットしたものを図2.14(d)'(f)に示す。図には、BaV10O15

のspectral weightも合わせて示す。SrV10O15では、温度を下げていくと最低温までほぼ連続的 に減少し、転移温度で不連続な跳びのあるBaV10O15 とは異なっている。同じ図には、spectral

weightに合わせて、gapの大きさとして,(/)の外挿とx軸との交点のプロットを示している。

BaV10O15ではTC においてgapの大きさが急激に増加するが、SrV10O15ではそのような異常は 見られず連続的にgapは増加する。

2.15 BaV10O15SrV10O15の光学伝導度スペクトルの比較(a)5K(b)140K(c)300K(M.

Hoshinoet al., PRB 85, 085106 (2012).[8]より)

最後に、BaV10O15とSrV10O15の光学伝導度スペクトルの違いについて述べる。図2.15には BaV10O15とSrV10O15の同じ温度における光学伝導度,b(/)を、3つ温度に対して示す。最低温 の5Kにおいて、BaV10O15の伝導度スペクトルはSrV10O15に比べて約0.3eVだけ高エネルギー 側へ移っている。これは、BaV10O15ではTCにおいて軌道整列により電子構造にgapが開くため である。一方で、300Kでは両物質のスペクトルはほぼ同じである。また、TC直上の140Kにお いてSrV10O15の伝導度スペクトルには0.5eV付近にピークが存在するが、BaV10O15ではほとん ど観測されない。

また、BaV10O15とSrV10O15の光学伝導度スペクトル,(/)の温度依存性の違いを見るため、

温度と偏光が同じ伝導度スペクトル,(/)の差!,(/)(,Ba(/)!,S r(/)をとり、図2.16にその 様子を示す。最低温の5KにおいてE4aE 4bでは約0.4eVで、E4cでは約0.2eVでスペクト ルの窪みが見られる。これは、BaV10O15において軌道整列により電子構造にgapが開いている ためである。また、この窪みは全ての偏光方向に対して、軌道整列を起こすTC(123Kよりも高 温から発達しており、TC以上において窪みの現れるエネルギーの大きさはTC以下のものと同等 である。これは、TC以上における窪みは擬gapから生じており、この擬gapの起源はTC以下に おける本物のgapと類似していることを示している。すなわち、BaV10O15ではTC以上において 軌道整列のゆらぎが存在しており、このゆらぎが状態密度に擬gapを生み出していると考えられ ている[11, 12]。実際、BaV10O15のNMR測定において、TCT <250Kの温度領域で非等価

(19)

2.16 BaV10O15SrV10O15の光学伝導度スペクトルの差の温度変化(a)E4a(b)E4b(c)E4c (M. Hoshinoet al., PRB 85, 085106 (2012)[8]より)

なVサイトの数が室温よりも増加し、対称性が低下することが示されている。これは、TC より も高温においてV三量体が局所的に形成されているという主張がなされている[13]。伝導度スペ クトルで見られた擬gapの形成は、V三量体の局所的な形成に関係していると考えられる。

2.3 AV

13

O

18

(A=Ba, Sr) の構造と物性

2.3.1 電子配置と結晶構造

AV13O18(A(Ba, Sr)においてVの平均価数は&2138 であり、形式的にはV3&(3d2)のイオンが8

つとV2&(3d3)のイオンが5つ存在していることを示している。そのため、この物質の13個のV

イオンには全部で31個の電子が存在している。この物質も異なるVイオンが物質中に存在して いるので、電荷の自由度が存在する。また、V3&において軌道の自由度が存在している。

AV13O18(A(Ba, Sr)の結晶構造は、室温においてA(Ba, Srとも同じ構造をとる[14, 15]。室温 における結晶構造を図2.18(a)に示す。この物質ではVO6八面体は辺共有により隣のVO6と繋 がっており(2.18(b))、結晶構造はNaCl構造をとるVOが基礎となっている。つまり全てのV

(20)

2.17 AV13O18(A(Ba, Sr)の電子配置

イオンはfcc格子の一部をなしている。一般的にfcc格子を11112方向から見ると3つの異なる 三角格子がABCABC…と積み重なっている。この1つの三角格子面上のVイオンの配置に着目 すると、Vイオンの三角格子から規則的にVの三角形が欠損した配置をとる。その結果として、

Vイオンの格子はab面内において13個のVイオンからなる星が互いに先端で繋がっている構 造をしているとみなすことができる(図2.18(c))。この結晶構造では、非等価なVイオンが3つ (星の中心に存在しているV1、中心のイオンを囲んでいる6つのV3、星の先端に存在している 6つのV2)存在している(図2.18(c))。Vイオンのc軸方向の重なりをみると、星の中心のV1の 位置もABCABC…と周期的に移る(2.18(d))Oイオンもまた周期的な欠損のあるfcc格子を 形成しており、Aイオンはfcc格子のOイオンの位置と置き換えられている。

2.18 (a)AV13O18(A(Ba, Sr) の 室 温 に お け る 結 晶 構 造 、 (b)O イ オ ン の 八 面 体 配 位 、 (c)AV13O18(A(Ba, Sr)Vイオンのab面内の構造、(d)c軸方向のV層の重なり

(21)

Ikedaらによって、AV13O18(A(Ba, Sr)の放射光粉末X線回折が行われており、リートベルト 解析から低温における結晶構造の決定と最近接Vイオン間の結合距離の見積もりが行われてい

る[16]。SrV13O18では、TC(270Kにおいて構造相転移が起き、空間群がR3¯( P1¯へと変化す

る。この物質の高温相を菱面体晶系、低温相を三斜晶系として結晶軸をとったときの格子定数と 角度の温度依存性を図2.19(a)(b)に示す。T TCにおいて、a軸、c軸に比べてb軸が大きく縮 んでいる。一方BaV13O18では、SrV13O18のような構造相転移は観測されない。六方晶系として 結晶軸をとったときのBaV13O18の格子定数を図2.19(c)に示す。TC(200K付近においてa軸が 縮み、c軸が伸びる格子定数の変化が観測されている。

2.19 (a)SrV13O18の基本ベクトル、(b)SrV13O18の格子定数と角度、(c)BaV13O18の格子定 (M. Ikedaet al., PRB 82, 104415 (2010).[16]より)

さらに、AV13O18(A(Ba, Sr)では長さの異なるVイオン間の結合が存在することが明らかに なっている。室温において、結合長が2.8Åより短いVイオン間の結合を結ぶと、V四量体を形 成している。このV四量体は3つのVの層にまたがっており、1層目の1つのV3イオン、2層 目の2つのV2イオン、3層目の1つのV3イオンから成っている。V四量体の位置は、V1イオ ンの周りを6つの四量体が上下交互に囲んだ配置をとる(図2.20(a))。すなわち、室温において 13個のVイオンは3つの四量体と星の中心の1つのイオン(V1イオン)に分けられる。また、

構造相転移温度以下のSrV13O18において、結合長が2.8Åより短いVイオン間の結合を結ぶと、

V三量体を形成していることが明らかになっている。1つの三量体は、星の中心にあるV1イオ ンと同じ層にある2つのV3イオンによって形成される。ここで、三量体形成に使われた2つの V3イオンは2つの四量体から取ってきているので、この2つの四量体は2つの三量体へと変化 する(2.20(b))。つまり、SrV13O18における構造相転移は三量体転移であり、TC(270K以下に おいて、13個のVイオンは3つの三量体と1つの四量体に分けられる。

リートベルト解析により明らかになったV四量体やV三量体に関して、BaV10O15と同様に、

PenらによるLiVO2の軌道整列モデル[2]を参考にして理解することができる。四量体や三量体 において、Vイオンのt2g軌道が各辺上で,結合し、エネルギーの低い結合軌道に電子を2つ収

容しspin-singletを形成する。三量体には3つの,結合が存在することから、1つの三量体には

(22)

2.20 SrV13O18V-V結合の長さ(a)高温相T(400KTC(b)低温相T(90KTC(M.

Ikedaet al., PRB 82, 104415 (2010).[16]より)

6個の電子が収容される。また、四量体には5つの,結合が存在しているので、1つの四量体に は10個の電子が収容される(2.21)

2.21 (a)四量体の軌道状態、(b)三量体の軌道状態

室温においてAV13O18(A(Ba, Sr)3つの四量体を形成しているので、31個の電子のうち30 個の電子が四量体に収容され、残った1個の電子は星の中心のV1イオンに存在していると考え られている。また、構造相転移温度以下のSrV13O18では、3つの三量体と1つの四量体を形成し

(23)

ているので、31個の電子のうち28個が多量体に収容されていると考えられている。

2.3.2 AV

13

O

18

(A=Ba, Sr) の物性

2.22 多結晶の抵抗率と磁化率の温度依存性(a)BaV13O18(b)SrV13O18(M. Ikedaet al., PRB 82, 104415 (2010).[16]より)

AV13O18(A(Ba, Sr)における多結晶の物性に関してはIkedaらによって報告されている [16, 17]。それぞれの物質の抵抗率と磁化率の温度依存性を図2.22に示す。BaV13O18において、抵 抗率の振る舞いは、温度を下げていくと増加し、TC(200Kでさらに増加する。TC以下では、温 度を下げるに従って増加していく。磁化率の振る舞いは、温度を下げていくと減少し、TCにおい てさらに減少する。TC以下では、温度を下げるに従って増加し、この振る舞いはCurie-Weiss則 .(T)(C3(T!')に従っている。Curie定数とWeiss温度はそれぞれC(6.0#10!2cm3K'V mol

'(190Kが得られている。このCurie定数の値は、全てのVS(1のスピンが存在するとした

ときの値C(1.0 cm3K'V molに比べて非常に小さな値である。一方SrV13O18において、抵抗率 の振る舞いは、温度を下げていくと増加していくが、TC(270Kにおいて減少する。TC以下では、

温度を下げるに従って減少する金属的な振る舞いを示した後、80K付近で増加に転じる。磁化率 の振る舞いは、温度を下げていくと減少し、TC においてさらに減少する。TC以下では、温度に 依存しない振る舞いを示した後、抵抗率と同様に80K付近で増加に転じる。

AV13O18(A(Ba, Sr)の高温相における低い伝導性は、V四量体によって電子移動のボトルネッ クが生じているためであると考えられている。13 個のVからなる星の先端に位置しているV2 イオンは、3つのt2g軌道を,結合の生成に使っているため、全ての結合軌道が電子に占有された 状態となっている。このような状況では、電子はこのV2サイトを越えるためにエネルギーの高 い反結合軌道を通過しなければならない。そのため、全てのV2サイトが電子移動のボトルネッ クとして振る舞い(ボトルネックは図2.23(a)において丸で囲んである。)、伝導性が減少する。

またSrV13O18では、TC以下において多量体に収容される電子の数が30個から28個へと変化す るので、キャリアとして働く電子の数が1個から3個へと増加する。加えて、構造相転移で2つ の四量体が三量体へと変化する結果、電子移動のボトルネックが減少する(TC 以下においても残

(24)

2.23 (a)AV13O18V2サイトによるボトルネック、(b)SrV13O18V2サイトによるボト ルネックとVイオンのネットワーク(M. Ikedaet al., PRB 82, 104415 (2010).[16]より)

るボトルネックを図2.23(b)において丸で囲んである。)。さらに、低温相の結晶構造の特徴とし て、1つのVイオンを除いて、3つの三量体に含まれる全てのVイオン(V2b2、V3a2、V3c1、 V2c2、V2c1、V3c2、V3a1、V2b1)が、ボトルネックにより妨げられたものを除いて直線に整列

している(2.23(b))。多量体に収容されなかった電子の直線に沿った移動、つまりバンドの形成

はSrV13O18の低温相における金属的振る舞いの起源であると考えらている。

AV13O18(A(Ba, Sr)の室温における磁化率の値 '2#10!4cm3' V molが他のV3& を持つ物質 MgV2O4の磁化率'1.5#10!3cm3'V mol[18]に比べて小さく、これは多量体におけるspin-singlet モデルと一致する。

BaV13O18に対して、TCにおける転移を調べるためIkedaらによって電子線回折実験が行われ ており、転移温度以下で(0, 1'2, 1'2)の超格子ピークが出現することが明らかになっている[16] この超格子ピークの位置は実格子において、図2.24のオレンジと緑で囲まれた星が非等価にな ることに対応している。この結果を説明するモデルとして、星に含まれる電子数が異なる電荷整 列が考えられている。ここで、この物質のVにある電子の数は31個で、V四量体には30個の 電子が収容され四量体に囲まれる六角形の中心のV1イオンに電子が1つある。電荷整列によ り、中心のV1イオンの電子が局在してモーメントを持つと考えられている。実際、電荷整列温 度以下におけるCurie定数はC(6.0#10!2cm3K'V molであり、この値を13個のVイオンのう ち1つのみがスピンS(1を持つとした値C(7.7#10!2cm3 K'V molS(1'2を持つとした値

(25)

C(2.9#10!2cm3K'V molと比較して、この温度領域ではS(1'2かS(1の局在したモーメント を持つと考えられている。

2.24 (a)BaV13O18の電荷整列モデル、(b)四量体に収容されていない電子の局在モデル

2.3.3 混晶試料 Ba

1!x

Sr

x

V

13

O

13

の物性

上 記 で 述 べ た AV13O18(A(Ba, Sr) に 加 え て 、A サ イ ト の イ オ ン を 置 換 し た 混 晶 試 料 Ba1!xSrxV13O13についてもIkedaらにより多結晶の作製が行われており、その物性も報告されて いる[17]。ここでは、この混晶試料について述べる。以下では、BaV13O18における電荷整列温 度をTCO、SrV13O18における三量体転移温度をTtrと表すこととする。

2.25 Ba1!xSrxV13O18の、(a)格子歪の温度依存性、(b)抵抗率の温度依存性、(c)磁化率の 温度依存性、(M. Ikedaet al., PRB 83, 134417 (2011).[17]より)

(26)

混晶試料Ba1!xSrxV13O18における格子歪、抵抗率、磁化率の温度依存性を図2.25に示す。格 子歪では、BaV13O18(x(0)において、200K付近と70K付近において異常が観測されている。Sr の量を増やしていくと、高温側の異常が現れる温度は低下していき、低温側の異常が現れる温度 は上昇していく。そして、x(0.3において両者の温度は同じとなり、x&0.4では低温側の異常の みが残る。最終的にSrV13O18(x(1)では270Kの異常のみとなる。このことから、高温側の異常 は電荷整列、低温側の異常は三量体転移であると考えられ、実際Ikedaらによって確認されてい る[17]。

次に抵抗率では、TCOにおいて増加し、Ttrにおいて減少する。また、Ttrにおける減少はxの 値が小さくなると大きくなる。これは、T Ttrの三量体相はT Ttrの四量体相より伝導性が 良く、加えてこの2つの相は互いに競合していることを示している。ただし、BaV13O18(x(0)Ttrの異常は観測されていない。低温(<50K)において、全ての試料で抵抗率は温度の減少と ともに増加し、基底状態では絶縁体的であることを示している。

さらに磁化率では、TCOTtrにおいて減少する。特にTtrについては、2つの転移が存在する 試料(x(0.1、0.2)において大きく減少する。このことは、TTtrの電荷整列相では磁気モーメ ントを持つが、Ttrの三量体相ではモーメントが消失することを示している。三量体転移の起き た試料(x&0.1)では50K以下において、磁化率は増加に転じているが、SrV13O18NMR測定 では50K付近の異常は報告されていない[19]。従って、三量体相における低温での磁化率の増加 は、試料内に存在している不純物スピンから生じていると考えられている。また、磁化率におい てもBaV13O18ではTtrでの異常は観測されていない。

2.26 Ba1!xSrxV13O18の相図(M. Ikedaet al., PRB 83, 134417 (2011).[17]より)

以上の結果をまとめた相図を図2.26に示す。Ba1!xSrxV13O18において、x(1からSrの量を減ら していくと三量体転移温度Ttrが低温側へとシフトしていく。格子歪の結果から、BaV13O18(x(0) においても三量体相転移が存在していると考えられるが、抵抗率や磁化率では異常は見られてい ない[16]。また、x(0からSrの量を増やしていくと電荷整列温度TCOが低温側へとシフトして いき、x(0.3において電荷整列が消失し、x&0.4では三量体転移のみが残る。この相図より、四

(27)

量体を形成したままの電荷整列相と三量体を形成している金属相は競合していると解釈される。

AV13O18(A(Ba, Sr)の相転移のメカニズムは、6つの四量体に囲まれているV1イオンにある 電子のエントロピーに関連している。このエントロピーは三回対称性が崩れることと、中心のV イオンが他の2つのVイオンと三量体を形成することで減少する。この機構は、閉殻構造をつく るために対称性が著しく低下する点において一次元物質で観測される二量体化を伴うパイエルス 転移に似ている。

(28)

参考文献

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[18] H. Mamiya and M. Onoda. Solid State Commun. 95, 217 (1995).

[19] M. Itoh et al. (unpublished).

(29)

第 3

BaV 10 O 15 のラマン散乱による軌道整 列の測定

3.1 本研究のねらい

第2章で述べたように、BaV10O15では軌道の自由度と格子が強く結びついており、TC(123K

においてV3& イオンのt2g軌道が整列し、V三量体を形成する構造相転移を起こす。この構造相

転移において電子構造も変化し、約0.3eVの電荷ギャップが開くことが光学伝導度から明らかに なっている。また、構造相転移温度より低温のTN(43Kにおいて、反強磁性転移を起こす。しか し、室温において同じ結晶構造をもつSrV10O15 ではこの様な相転移を示さない。

BaV10O15のように軌道整列を起こす物質の報告は多数なされており[1-4]、このような物質に 対する軌道秩序の観測も行われている。軌道の自由度と格子の歪みが結びついていることから、

軌道秩序の観測には、軌道整列による結晶対称性の低下を観測する回折実験が用いられる。しか し、この方法は格子を介した間接的な測定であり、長距離秩序の静的な性質に関する情報しか得 ることができない。上記の測定方法と比べて、光学フォノンのラマン散乱では動的な情報を得る ことが可能である[5-8]。その理由として、まず軌道整列によって生じる結晶の空間群や単位格子 の変化がラマン活性なフォノンモードを変化させること。また、ラマン活性なフォノンの振る舞 いは長距離秩序だけでなく局所的な格子歪みの影響も受けること。さらに、光学フォノンの振動 数はイオン間の結合の強さの影響を受けるので、軌道整列により短距離結合定数が変化すれば振 動数が変化することが期待できることが挙げられる。また軌道整列と強く結びついているフォノ ンモードは一般的に強いラマン強度を持つことから、フォノンラマンスペクトル強度も軌道整列 に関する情報を持つことが期待される[8]。

本研究では軌道整列により三量体を形成するBaV10O15に対してラマン散乱測定を行い、軌道 の状態に関する動的な情報を得ることを目的とした。

図 2.2 (a)LiVO 2 の V イオンの配置、 (b)V イオンの三量体形成、 (c) 構造相転移における磁化 率の変化 (M. Onoda et al., JPSJ 60, 2550 (1991)
図 2.5 (a)AV 10 O 15 (A(Ba, Sr) の結晶構造、 (b)ab 面の V イオンの配置、 (c)z(0 と z(1'4 の V の層の重なり、 (d)z(0 と z(-1'4 の V の層の重なり オンの t 2g 軌道の整列であることは、 Takubo らによって共鳴 X 線散乱で確かめられている [6] 。 また、 SrV 10 O 15 では三量体の形成はないことが明らかになっている。 2.2.2 AV 10 O 15 (A=Ba, Sr) の物性 BaV 10 O 15 の単
図 2.6 BaV 10 O 15 の格子定数の温度変化 (C. A. Bridges and J. E. Greedan, J. Solid State Chem. 177, 1098 (2004).[3] より ) ている [7] ことから、 T N (43K 以下の振る舞いは反強磁性転移に対応している。 BaV 10 O 15 の三 量体モデルにおいて、 V イオン 5 つのうち 2 つは三量体の形成に関与しておらず、この 2 つの イオンの価数はそれぞれ 2 価と 3 価をとっている。このイオンが磁
図 2.10 SrV 10 O 15 の光学伝導度 (M. Hoshino et al., PRB 85, 085106 (2012).[8] より )
+7

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