4.3 実験結果と考察
4.3.1 抵抗率・磁化率・比熱の結果
によって与えられる。
実験においては、反射率Ra、RacをKramers-Kroning変換することにより誘電率0a、0˜を求め、
0˜ ( 0a0c
0asin2'&0ccos2' (4.23)
によって0cの算出を行った。なお、(32¯2)面とab面のなす角度'は54.4%である。
図4.10 BaV13O18におけるV四量体
体の間よりも、四量体内における長軸方向の電子の移動が容易であることを示している。
図4.11 BaV13O18の磁化率の温度依存性(a)# 1、(b)# 2(T. Kanzakiet al., PRB 89, 140401(R) (2014).より)
図4.11に磁化率の温度依存性の結果を示す。どちらの試料も室温から温度を下げていくと磁 化率は徐々に減少していき、TCOにおいて急激に減少する。さらに低温にすると、Curie-Wiess則 .(T) (C3(T !')に従う振る舞いをする。これは多結晶試料の振る舞いと非常によく似ている。
ただし、# 1の試料にはTtrにおいて磁化率の減少が観測されることが明らかになった。T >TCO
における磁化率の減少は、四量体において熱的に誘起されたspin-triplet状態がspin-singlet状態へ と変化しているためである。電荷整列において結晶対称性は変化するが、放射光粉末X線回折の 結果より結晶構造はあまり変化しないため、V四量体はそのまま残ると考えられる(図4.12(a))。 四量体を構成するVイオンの価数はどれでも同じであることを考慮すると、電荷整列モデルを満 足するには四量体に収容されていない電子が星の中心に局在し、星により電子の数が異なるモデ ルが考えられる。13個のVに対して四量体に収容されない電子の数は1つであることから、星 は、中心に2つの電子が存在するものと電子が存在しないものに分かれると考えられる。
TCO以下におけるCurie定数は、# 1ではC#1'7#10!2cm3K'V molで# 2はC#2'9.3#10!2cm3
図4.12 (a)BaV13O18のV-V間の結合長(M. Ikedaet al., PRB 83, 134417 (2011).[2]より)、(b) 電荷整列モデル
K'V molであった。多結晶における定数はCpoly(4.6#10!2cm3K'V molであり、単結晶では
Curie定数が大きくなることが分かる。また、o$stoichiometricな試料の方が大きい値を示すこと
も分かる。これは、o$stoichiometricな試料では過剰酸素によりV四量体の一部が崩れていると ころがあり、spin-singletを形成していないスピンが存在しているためであると考えられる。ここ から、多結晶試料が最もstoichiometricであることが分かった。
図4.13 (a)BaV13O18の比熱の温度依存性、(b)C'Tを温度に対してプロットした図、(c)C'Tを T2に対してプロットした図(T. Kanzakiet al., PRB 89, 140401(R) (2014).より)
図4.13(a)に比熱の温度依存性の結果を示す。どちらの試料も電荷整列温度TCOで大きなピー
クが現われることがわかった。このピークは# 1の方が高温に現れ、またシャープである。Ttrの 存在する低温を明確に見るために、C'T をT に対してプロットした図を図4.13(b)に示す。# 1 において、Ttr において急な減少が現われることが分かった。さらに、C'T の値をT2に対して プロットした図を図4.13(c)に示す。低温おける比熱はC(T)'T(#&"T2と表すことができ、こ の# は電子比熱係数である。それぞれの試料における#の値は、# 1は# '1mJ'V-mol、# 2は
#'12mJ'V-molである。これらの値は、低温における抵抗率が# 1は絶縁体的、# 2は金属的な振 る舞いを示した結果と一致する。
しかし# 2の試料において、磁化率は局在モーメントが存在する振る舞いをしており、一見す ると比熱の結果とは一致していない。そこで、低温における磁化率を飽和する振る舞いと増加す る振る舞いに分けて考えることとする(図4.14)。このとき磁化率の飽和値は3.5#10!4 cm2'mol
図4.14 # 2の低温における磁化率の振る舞い
となり、この値をパウリ常磁性に由来すると考える。パウリ常磁性.p( (2BN(0F)と電子比熱係 数#( *23k2BN(0F)から得られる有効質量の比であるWilson比Rw(.3#は'2となり、この値は強 い電子相関が働いていることを示している。この電子相関の可能性の1つとして、この物質にお いて近藤効果が生じていることが考えられる。すなわち、高温領域では星の中心に存在している 局在モーメントと遍歴キャリア(過剰酸素によるホール)が存在しており、局在モーメントは遍歴 キャリアに対して散乱因子として働いていると考えられる。それ故、抵抗率の振る舞いはd+'dT
<0となる。一方で、低温では局在モーメントと遍歴キャリアが近藤singletを形成して有効質量 の大きなキャリアを形成していると考えられる。このキャリアが幅の狭いバンドを移動すること で電気伝導を担っており、この温度領域では抵抗率の振る舞いはd+'dT>0となる。キャリア数 をVイオン13個に対して1つであると仮定する。この仮定より、キャリア濃度はn(4#1022'cm3
図4.15 BaV13O18の局在モーメントと遍歴キャリアとの関係
と算出される。この値と電子比熱の値から、有効質量はm$ ' 50m0と自由電子の50倍となるこ とが明らかになり、重い電子系的な振る舞いをしている。
このようなspin-singletを形成する多量体と磁気モーメントの分離は他の遷移金属酸化物にお いても観測されている[3, 4]。しかし、このような物質では低温まで磁気モーメントは局在して いる。ところがBaV13O18では、高温において多量体と磁気モーメントは分かれているが、低温 ではこの磁気モーメントが遍歴キャリアと結びついて大きな質量を持つ準粒子を形成して金属的 な振る舞いを示す。このように低温において、局在モーメントが無くなる点が他の物質とは異 なっている。
一方で、stoichiometricな試料# 1は低温において三量体転移を起こした状態であると考えられ
る。ここで、BaV13O18よりも高い温度で三量体転移を起こすSrV13O18の結果を示す。比較に用 いたSrV13O18は、BaV13O18と同様の方法によって作製を行った。図4.16にSrV13O18の抵抗
図4.16 SrV13O18の単結晶の抵抗率と磁化率の温度依存性
率と磁化率の温度依存性の結果を示す。抵抗率においては、Ttr(260Kにおいてどちらの軸も減 少する。さらに温度を下げると、c軸方向の抵抗率+cでは急激に増加したあと温度を下げるのに 従って単調に抵抗率が増加する絶縁体的な振る舞いをすることが明らかになった。一方で、a軸 方向の抵抗率+aでは温度を下げるのに従って抵抗率が減少する金属的な振る舞いを示した後、
100K付近において増加に転じることが明らかになった。Ttr における抵抗率の減少は、三量体転 移により多量体に収容される電子数が30個から28個へと変化することでキャリアとして働く電 子の数が増加するためであると考えられる。転移温度以下において、ab面内方向は金属的で、面 間方向は絶縁体的となり基底状態において絶縁体的であることを見出した。磁化率においては、
室温から温度を下げていくと徐々に減少しTtr において急激に減少する。さらに温度を下げてい くと、温度に依存しない振る舞いを示し、100K付近で再び減少する。そして60K付近で増加に 転じる。転移点以下における温度に依存しない振る舞いは、金属的な振る舞いを担っている伝導 電子によるパウリ常磁性であると考えられる。また100K付近における減少は、多量体に収容さ れていない伝導電子が新たにspin-singletを形成するためであると考えられる。この温度におい て、抵抗率ではa軸の振る舞いが金属的から絶縁体的へと変化していることから電子が局在化し ていることが示唆され、これは電子がspin-singletの形成と関係していると考えられる。しかし
ながら、この温度領域において格子の歪に異常は観測されていない[2]。最後に、磁化率が増加に 転じる温度以下においてCurie定数を求めると、C'8#10!3cm3K'V molであることから、こ の振る舞いは不純物によるものであると考えられる。
BaV13O18におけるTtr 以下の状態は、SrV13O18における60K以下の状態と類似していると 考えられる。SrV13O18は三量体転移以下において面内で金属的、面間で絶縁体となることから BaV13O18ではTtrにおいてa軸の急減、c軸の急増が観測されたと考えられる。また、BaV13O18 ではTtr 以下において、多量体に収容されない電子が増加するにも関わらず絶縁体的な振る舞 いをしているのは、これらの電子同士でspin-singlet状態を形成し局在するからであると考えら れる。
以上に示したようにBaV13O18には特異な振る舞いが観測されることを見出した。200K付近 において電荷整列が起きることに加えて、stoichiometricな試料では低温において三量体転移によ り面内で金属的、面間で絶縁体的となり、基底状態は絶縁体的となる。一方で、o$stoichiometric な試料では三量体転移は消失し、局在モーメントと遍歴キャリアが近藤singletを形成し準粒子と なる。この準粒子が金属的伝導の起源となり、有効質量が大きい重い電子的な振る舞いをする。
これらの試料では、酸素量が異なっており、ホールをドープすることによって三量体転移が消失 し、基底状態が金属的へと変化する。このことは、この物質において電子の数が低温において重 要な役割を担っていることを示している。また、Ttr付近のBaV13O18では金属-絶縁体の境界上 に存在していると考えられる。