4.3 実験結果と考察
4.3.2 光学測定の結果
ながら、この温度領域において格子の歪に異常は観測されていない[2]。最後に、磁化率が増加に 転じる温度以下においてCurie定数を求めると、C'8#10!3cm3K'V molであることから、こ の振る舞いは不純物によるものであると考えられる。
BaV13O18におけるTtr 以下の状態は、SrV13O18における60K以下の状態と類似していると 考えられる。SrV13O18は三量体転移以下において面内で金属的、面間で絶縁体となることから BaV13O18ではTtrにおいてa軸の急減、c軸の急増が観測されたと考えられる。また、BaV13O18 ではTtr 以下において、多量体に収容されない電子が増加するにも関わらず絶縁体的な振る舞 いをしているのは、これらの電子同士でspin-singlet状態を形成し局在するからであると考えら れる。
以上に示したようにBaV13O18には特異な振る舞いが観測されることを見出した。200K付近 において電荷整列が起きることに加えて、stoichiometricな試料では低温において三量体転移によ り面内で金属的、面間で絶縁体的となり、基底状態は絶縁体的となる。一方で、o$stoichiometric な試料では三量体転移は消失し、局在モーメントと遍歴キャリアが近藤singletを形成し準粒子と なる。この準粒子が金属的伝導の起源となり、有効質量が大きい重い電子的な振る舞いをする。
これらの試料では、酸素量が異なっており、ホールをドープすることによって三量体転移が消失 し、基底状態が金属的へと変化する。このことは、この物質において電子の数が低温において重 要な役割を担っていることを示している。また、Ttr付近のBaV13O18では金属-絶縁体の境界上 に存在していると考えられる。
V3&)、電荷移動遷移(O2!*V3&)となる[5, 6]。これらの物質では単位格子あたりの原子数が多 い為、バンド構造は多くの分枝が存在する複雑な構造を持っている[7]。それにも関わらず、スペ クトルの構造は2つの物質で非常によく似ていることが明らかになった。このことは、これらの 物質においてVとOからなる八面体配置による結晶場とクーロン斥力が電子構造を支配してい ることを示している。
また、BaV13O18の光学伝導度の大きさは,a(/)<,c(/)となっており、電気抵抗率において +cの値が小さいことと一致している。
図4.18 BaV13O18(# 2)光学伝導度の温度依存性(a)a軸、(b)c軸(T. Kanzakiet al., PRB 89, 140401(R) (2014).より)
図4.18に光学伝導度の温度依存性の結果を示す。どちらの軸においても温度を下げていくに
従って0.3eV以下の伝導度が減少していくことが分かる。伝導度スペクトルは最低温において
も、!/(0でゼロにならず'200#!1cm!1の値をとることが分かった。このことは、BaV13O18の 電子構造に擬ギャップが開いていることを示している。
図4.19 BaV13O18(# 2)のspectral weightの温度変化(T. Kanzakiet al., PRB 89, 140401(R) (2014).より)
光学伝導度スペクトルの温度依存性をより明確に見るために、,(/)を'0.3eVまでの範囲で積
分して得られるspectral weightを温度に対してプロットしたものを図4.19に示す。温度を下げ ていくと、TCOにおいて大きく減少していることがわかる。このことは、電荷整列により電子構 造に擬gapが開いていることを対応している。
図4.20 BaV13O18光学伝導度の温度依存性(a)# 2試料a軸、(b)# 2試料c軸(T. Kanzakiet al., PRB 89, 140401(R) (2014).より)
図4.20には0.06eV以下の低エネルギー領域の光学伝導度スペクトルの温度依存性を示す。
y軸上には300Kと5Kにおける四端子法から求めた抵抗率の逆数を dcとして示している。a 軸のスペクトル(,a)では!/(0においてdcとの違いはほとんど見られないが、c軸のスペク トル(,c)では !/(0 においてdcの値 '1200#!1cm!1 と大きな開きがある。光学伝導度では
!/(0.01eVまでエネルギーを下げても伝導度の増加は観測されなかったことから、低温の金属伝
導を担っているDrude成分は0.01eV以下に存在することを示唆している。比熱によって求めた 有効質量m$ '50m0とキャリ密度から見積もられるDrude weightは20#!1cm!1eVである。こ の値は、0.01eV以下において10K以下で観測されると考えられる,cによるDrude weightの値 '12#!1cm!1eVと同程度である。なお様々な重い電子系物質において、DrudeスペクトルはTK 以下において0.01eVよりもずっと小さい領域に現れることが知られている[8-13]。
図4.21に# 1の試料の光学伝導度の温度依存性の結果を示す。温度を下げていくと低エネル ギー側において伝導度が減少していくことが分かる。さらに、c軸の伝導度スペクトルはTtr に
おいて0.2'0.4eVのスペクトルが大きく減少することが明らかになった。これは、三量体転移に
よりc軸方向の抵抗率が増加する振る舞いに対応している。Ttrにおいて、a軸方向の抵抗率は減 少することから、a軸の光学伝導度の増加が期待されるが、c軸のような明確な増加は観測されな かった。また、最低温において# 1の試料は絶縁体的な振る舞いをすることから、電子構造にお いてギャップの開きが観測されると期待されるが、本測定領域においては観測されなかった。こ のことから、電子構造のgapの開きは0.1eV以下の領域において存在していると考えられる。
# 1の試料について、,(/)を'0.45eVの範囲で積分して得られるspectral weightを温度に対 してプロットしたものを図4.22に示す。TCO以下においてa軸方向にspectral weightの急激な 減少が存在することが分かる。これは電荷整列により、擬ギャップが生じる為であると考えられ
図4.21 BaV13O18(# 1)の光学伝導度の温度依存性(a)a軸、(b)c軸
図4.22 BaV13O18(# 1)のspectral weightの温度変化
る。また、Ttrにおいてa軸方向では増加しており、c軸方向では減少しているように見え、抵抗 率の振る舞いと一致している。
最後に、研磨面と劈開面の違いについて述べる。変化が見やすいので、元の反射率の温度依存 性を図4.23に示す。# 1、# 2の試料とも電荷整列は起きることから、この温度変化に注目する と、研磨面では温度を下げていくと、反射率が減少するエネルギーは0.2eV以下であるに対して、
劈開面では反射率の減少するエネルギーは0.3eV以下となっている。研磨面の方が反射率の減少 するエネルギースケールが小さく、これは、乱れに対して脆い電荷'軌道整列が、研磨による格子 の乱れの影響を受けたためであると考えられる。[14]。