試料作製方法
まず本研究で用いた試料作製の方法について述べる。分解溶融を示す物質の単結晶の作製に は、微小な単結晶である種結晶を核としてその周りに成長させる方法が有効であることが知ら れている。BaV13O18では以前に行われていた単結晶作製の試みにおいて、急冷を行うと相が分 離することなくBaV13O18のまま凝固することが明らかになっていた。そこで、この凝固した BaV13O18を種結晶として単結晶の作製を行うことを考えた。
結晶育成の際に種結晶の作製を行わずに成長させた場合の試料の粉末X線回折の結果を図4.1 に示す。BaV13O18のピークの他にBaV10O15とVOのピークが観測されており不純物が生じて いることが分かる。
図4.1 FZにおいて切断を行わなかった試料の粉末X線回折の結果
不純物のない試料を作製するために、フローティングゾーン法において種結晶を作製する手順 を加えた以下のような方法を考案した(図4.2)。BaV13O18の単結晶を作製する前に固相反応法
図4.2 単結晶作製の方法
により多結晶を作製する。多結晶の作製は池田らの方法[1]を用いて行った。Ba2V2O7、V2O3、
V粉末を化学量論比で混合し、水圧プレスにより棒状に成型する。成型した棒をフローティング ゾーン炉において焼結を行う。フローティングゾーン炉においては温度を測定することが難しい ため以下では出力を示す。ただし、使用した装置は最大出力において2200%Cを実現する。多結 晶の焼結は、還元雰囲気(Ar&H2: H2分圧7% )下において温度を融点直下(出力~63% )に設 定し、焼結部の移動速度は0.6mm'hで行った(図4.2(a))。作製した棒状の多結晶試料をフロー ティングゾーン炉において融解させる(図4.2(b))。融解させた後、急冷によって種結晶の作製を 行う。その為に、まず溶融部の粘性が無くなるまで温度を上昇させる(出力'85% )。粘性が無く なると、自重を支えられなくなり溶融部が下に垂れる(図4.2(c))。このとき、試料は焦点から外 れることで急冷が行われ凝固部分にBaV13O18の結晶ができる。急冷により生じる単結晶は多結 晶の粒界に比較すると十分大きいと考えられ、この単結晶の存在により融解部が非平衡な状態と なり単結晶の作製が可能になると考えられる。下の棒が固まったところで、融解している上の棒 を凝固部分に接着する(図4.2(d))。このときに、上昇させた温度を融解温度程度(出力'75% )に まで下げる。凝固部分に含まれる単結晶を核として、単結晶の育成を行う。このときの育成条件 は、還元雰囲気(Ar&H2: H2分圧7% )下で育成速度は6mm'h、育成温度は融点直上(~76% )で あった。
図4.3 (a)BaV13O18単結晶、(b)Cu管球における粉末X線回折の結果
図4.3に作製した単結晶とその粉末X線回折の結果を示す。いずれのピークも六方晶構造によ り指数付けすることができ、不純物は観測されなかった。
単結晶を作製する際に注意しなければならない事がいくつかあり、ここでそれを述べる。まず 多結晶を作製する段階において、焼結温度が低いときや高すぎて表面が融解するとBaV10O15 が 不純物として含まれることが分かった。また焼結部の移動速度が速すぎると、固相反応が不十分 となりVOが不純物として含まれることも分かった。次にフローティングゾーン炉で単結晶体を 作製する段階において、急冷させた凝固部分に溶融部分を再接着させる際に、融解している上の 棒が固まらないように調整しながら温度を下げる必要がある。温度が高い状態で結晶育成を行う と作製した単結晶が脆くなり、触れるだけで粉々になってしまう。
作製に成功した単結晶(BaV13O18&$)に対してTGA測定を行ったところ、stoichiometricに近
い試料# 1($(0.1)とo$stoichiometricな試料# 2($(0.8)が存在することが明らかになった。得ら れた単結晶試料に対して、背面ラウエ法を用いて軸方向を決定し面の切り出しを行った。図4.4 には六方晶軸におけるac面の様子を示す。
図4.4 BaV13O18の六方晶系におけるac面の(a)ラウエパターン、(b)Fe管球におけるX線回折の結果
測定方法
作製した単結晶試料に対して、抵抗、磁化、比熱、光学反射測定を行った。抵抗測定は、四端子 法により行った。磁化測定は、早稲田大学物性計測センターラボにおけるSQUID磁束計を用い て行った。真鍮の試料ホルダーにワニスで固定し、カプトンテープで覆いをした(図4.5)。比熱の
図4.5 SQUID磁束計を用いた磁化測定の準備
測定は、上智大学桑原研究室のPPMS(Physicsl Property Measurement System)を用いて行った。
光学反射測定は、可視光、近赤外、遠赤外領域の測定を行った。# 1の試料は研磨したものを 用い、# 2の試料は劈開面を測定に用いた。図4.6に可視光領域の反射率測定に用いた光学系を 示す。ハロゲンランプ光源から得られる白色光を回折格子を用いて分光し、光チョッパーを通し た後に測定試料に照射した。試料からの反射光を、測定波長領域に応じてGeまたはSiのフォト ダイオードに集光した。フォトダイオードからの信号は、ロックインアンプを用いて、光チョッ パーと同期した成分を検出している。測定波長(エネルギー)は250nm-1800nm(0.68eV-5eV)で ある。測定波長領域に対する光源、色フィルター、回折格子、フォトダイオードの組み合わせを 表4.1に示す。次に、図4.7に近赤外領域の反射率測定の光学系を示す。この領域の光はIR感 知カードにより光路の追跡を行っているが、クライオスタットを使用した際には追跡が困難にな ることから、ガイド光を光源からの光の経路に一致させ、光学系の調整を行った。光源のグロー
図4.7 近赤外反射測定の光学系
ルギー側ではDrudeモデル
0(/)(1! /p
/(/&i3-) (4.3)
の高エネルギー極限より導かれる反射率
R(/),/!4 (4.4)
により補外を行った。以上の手続きから求めた複素誘電率から、関係式
,(/)( /
4*/0(/) (4.5)
に基づいて光学伝導度を算出した。
# 1試料の研磨面は六方晶(010)面より、得られた反射率Ra(/)とRc(/)を直接計算して光学 伝導度,a(/) と,c(/) を得た。一方# 2試料の劈開面は六方晶(32¯2)面であり、(32¯2)は ab面 に沿った軸([2¯30]軸) を含んでいるが、c軸は面内に含んでいない(図4.8)。そこで、本研究で は(32¯2)面において2つの偏光の測定を行った。1つは[2¯30]軸に沿った方向(Ra)でありもう 1つは(32¯2)面において[2¯30]軸に垂直な方向(Rac)である。ここから、a 軸に沿った光学伝導 度スペクトル(,a(/))は反射率Ra(/) を直接Kramers-Kroning変換を行うことにより直接求め ることができる。一方で、c軸に沿った伝導度,c(/)は反射率Ra(/)とRac(/)の2つを用いて
Kramers-Kroning変換により求めた。以下にその計算方法を示す。
図4.8(a)に示すようにx、y、zの各軸を設定する。今、入射光はz軸方向から入射し、電場の
振動がy軸に平行であるとする。入射光の電場をE(55 x2t) ( E50ei(5k"5x!/t)と表すと、E50((0,E0, 0)、 5k((0, 0, -k)とファラデーの法則から入射光の電場と磁束密度は
E(55 x2t)(E50ei(!kz!/t)2 5B(5x2t)( 5k#E50
/ ei(!kz!/t) (4.6)
図4.8 劈開面の軸方向
と表される。同様に、反射光の電場をE5-(5x2t)( F50ei(k5-"5x!/t)とすれば、F50((0,Fy,Fz)、5k-((0,k-y, k-z)であるので、反射光の電場と磁束密度は
E5-(5x2t)( F50ei(k-yy&k-zz!/t)2 5B(5x2t)( 5k#F50
/ ei(i(k-yy&k-zz!/t)) (4.7)
と表される。また、屈折光の電場をE5--(5x2t) (T50ei(5k--"5x!/t)とすると、T50((0,Ty,Tz)、5k--((0,k--y,
!k--z)であるので、屈折光の電場と磁束密度は
E5--(5x2t)(T50ei(k--yy!k--zz!/t)2 5B(5x2t)(5k#T50
/ ei(ky--y!kz--z!/t)) (4.8) と表される。試料との境界面(z(0)において、電場の連続性より、任意のyの対して
E5 (E5-&E5--+E50ei(!/t)( F50ei(k-yy!/t)&R50ei(k--yy!/t) (4.9)
の式が成立する。この条件から、ky-(k--y(0が導かれる。さらに、真空におけるガウスの法則から divE(0、divE-(0であるのでこれよりFz(0となる。ここで改めて、k-z(k-、k--z(k--、Fy(F0と書 き直すと、反射、屈折における電場と磁束密度は
E5-(5x2t)(F50ei(k-z!/t)2 5B(5x2t)(5k#F50
/ ei(k-z!/t) (4.10) E5--(5x2t)(T50ei(!k--z!/t)2 5B(5x2t)( 5k#T50
/ ei(!k--z!/t) (4.11) と表される。
試料との境界(z(0)おいて、電場の境界面の接線成分Eyの連続性よりE0(F0&Ry、磁場の境 界面の法線成分の連続性よりkE0(!k-F0&k--Ryが成り立つ。入射光と反射光の電束密度Dの方 向は電場と平行であることから、y軸に平行であるのでz成分はゼロとなる。電束密度において 境界面の法線成分は連続となることから、屈折光のz成分もゼロとなる。屈折光の電束密度を D5--(5x2t) ( D5--0expi(!kz--!/t)と仮定してD5--0((0,D--y, D--z)の計算を行う。ab 面に沿った比誘電 率を0a、c軸に沿った比誘電率を0cとすると、ab面へのTyとTz の射影は、
!Tycos'&Tzsin' (4.12)
となるので、ab面に沿ったD5--0 は
000a(!Tycos'&Tzsin') (4.13)
同様にして、c軸に沿ったD5--0 は
000c(Rysin'&Tzcos') (4.14)
となる。従って、D--z に対して、
D--z
00 (0a(!Tycos'&Tzsin') sin'&0c(Tysin'&Tzcos') cos'(0 (4.15)
この式より、TyとTzの関係
Tz ( (0a!0c)sin'cos'
0asin2'&0ccos2'Ry (4.16)
が導ける。 さらにy成分D--y に対して、TyとTzの関係を用いると
D--y
00 (!0a(!Tycos'&Tzsin') cos'&0c(Tysin'&Tzcos') sin' (4.17)
( 0a0c
0asin2'&0ccos2'Ty (0T˜ y
と求められる。
アンペールの法則rotB5 ((04 5D34tから、入射光において、
!ik2E0
/ (!i/(000E0)k( /
c (4.18)
の関係が得られる。また、反射光において
!ik-2F0
/ (!i/(000F0)k- ( /
c (k (4.19)
の関係が得られる。そして、屈折光において
!ik--2Ty
/ (!i/(000˜ 0Ty (4.20)
)
"k --k
#2
(0˜ ) k
--k ( 5
˜ 0(n˜
の関係が得られる。この関係をE0(F0&Ry、kE0(!k-F0&k--Tyに代入すると、
E0&F0 (n(E˜ 0!F0))F0( n˜!1
˜
n&1E0 (4.21)
の関係式が得られる。従って、y軸に平行な反射率(Rac)は Rac(
!
!
!
!
! F0 E0
!
!
!
!
! (
!
!
!
!
!
˜ n!1
˜ n&1
!
!
!
!
!
2
(4.22)
によって与えられる。
実験においては、反射率Ra、RacをKramers-Kroning変換することにより誘電率0a、0˜を求め、
0˜ ( 0a0c
0asin2'&0ccos2' (4.23)
によって0cの算出を行った。なお、(32¯2)面とab面のなす角度'は54.4%である。