九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
デンシ シャシン プリンタ ノ テイチャク オンドバ ニ カンスル ケンキュウ
醒井, 政博
https://doi.org/10.11501/3148624
出版情報:Kyushu Institute of Design, 1998, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
氏名・本籍(国籍) 醒井政博 (福岡県) 学位の種類 博士(工学)
学位記番号 乙第7号
学位授与の日付 平成11年2月19日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当
学位論文題目 電子写真プリンタの定着温度場に関する研究 審査委員会 幹事 教授 川北和明
委員 教授 深田悟 委員 教授 長島健次
論文内容の要旨
電子写真プリンタは、コンピュータなどの情報処理機器の主要な出力端末機器として、
その高性能化、省エネルギー化が強く求められている。電子写真プリンタの性能向上のた めには、定着部の熱的性能に及ぼす種々の設計パラメータの影響を明確にする必要がある が、定着部の幅は 3.5mm 程度で、トナーの滞在時間も 60ms 程度であるため、実験的手 法による解明は困難である。そのため、数値シミュレーション手法を用いて信頼性のある 温度場推算手法の確立を試みた。
第 1 章においては、電子写真プリンタを取り巻く現状と高性能化への要求、定着器の熱 的性能に関する従来の研究を概観して、性能向上のための課題とその中における本論文の 位置づけを明確にしている。
第 2 章では、トナー定着プロセスを詳細に検討し、定着温度場を二次元温度場として、
温度変化を推算する手法の基本的枠組を提案・構築した。すなわち熱伝導方程式を複数の 構成要素からなる計算領域で離散化して、ADI 法を用いた時間積分に対応する手法を提案 し、相変化を伴なうトナーの融解現象やローラの回転に伴なうトナー・記録紙の移動をモ デル化して計算可能とした。構築した計算法を用い、トナー定着過程における熱移動の定 性的挙動について考察を行った。これにより、定着領域の入口近傍でトナー、記録紙に大 きな温度変化が起こること、トナー、記録紙の加熱にはヒートローラに貯えられた熱を最 大の供給源とすること、定着領域からの熱の持ち出しは記録紙、トナーの順に多いことな どの基礎的知見を得た。また定着領域内部で存在が想定される空気を、試みに一定の厚さ の層として計算に導入した。その結果、定着領域に存在する空気の量は少なくても温度場 に及ぼす影響は大きいことを明らかにした。
第 3 章においては、数値計算法の予測精度向上に資することを目的として、定着部内部 における温度分布を赤外線放射温度計を用いて実験的に測定した。定着部内部の温度を直 接測定することは極めて困難であるため、間接的に測定する方法を検討し実験的に計測を 行った。すなわち定着ニップの幅を一定とし、紙送り速度を変えることにより、トナーが 加熱される滞在時間を変えて、定着部出口でトナー粒子層表面温度を計測した。その結果
を非定常温度場の相似則に基づいて、測定された温度に対応する定着部内部の位置を求め る方法を新しく提案した。提案した計算法を用い計算した結果は、実測した温度よりも高 い値となり、これを補正するためには計算領域に適当な伝熱抵抗の付加が必要であること を明らかにした。
第 4章においては、第3 章で導入の必要性が明らかになった付加抵抗が、記録紙表面の 粗さおよび積層したトナー粒子間の隙間に起因した空気であることを、定着部構成要素の 微視的観察から確認した。その上で、観察により得た粒子形状寸法と記録紙表面粗さを基 に、空気の存在空間をモデル化し、定着部に存在する空気部分での伝熱の様式を検討して、
伝熱においては空気の熱伝導が支配的であることを明らかにした。
次いでトナー粒子の積層状態および記録紙表面の幾何学的特性に基づいて、物理的に存 在する空気の量を算定する方法を提案した。トナー層については、一定粒径の球状の粒子 が六方最密状に配列した状態を基に、記録紙については、表面の粗さ形状に基づいて、存 在空気の体積を算出した。この空気量を、均一厚さの等価空気層厚さとして定量化した。
第 5 章では、記録紙表面粗さおよびトナー積層状態に基づく等価空気層を導入して、定 着部構成層をモデル化した。空気層の伝熱抵抗を検討する場合、空気層の厚さと空気層の 設定位置の問題がある。モデル化する際、空気層を一つの総等価空気層とした場合、それ ぞれ空気存在の起因により分割した分割空気層の場合に分けて検討し、5 種類のモデルを 提案した。これらのモデルに基づいて、計算したトナー層表面温度を実測値と比較し、温 度場を精度良く予測できる妥当性の高いモデルの検討を行った。その結果、記録紙の表面 粗さに基づく空気層を、ヒートローラ表層とトナー層の境界面の位置に設定し、一方トナ ー粒子の積層状態に基づく空気層については、トナー粒子層の厚さ中央位置に設定するか、
またはトナー層を空気を含む混合層とするモデルの場合、信頼性の高い温度場予測結果が 得られることを明らかにした。
第 6 章においては、以上で提案したトナー定着温度場推算手法を、表面粗さの異なる 2 種類の記録紙に適用し、温度場推算を行って、実測結果と比較・検討した。これにより、
定着部に存在する空気に起因する伝熱抵抗の導入と、計算式での取扱いの妥当性、および 本温度場推算手法の有用性を明らかにした。また、本推算手法の応用として、技術的に関 心の高いカラー印刷に関して、数値計算を行ってトナー定着温度場の変化を明らかにし、
考察を行った。その結果、カラートナー粒子の多層化により、等価空気層厚さが厚くなり 伝熱抵抗が大きくなること、一方トナー粒子の小径化は伝熱抵抗の減少を促し、小粒径化 はカラー化に対し有効であることなどを、定量的指標を伴って明確化した。
第7章は本論文の総括であり、上記各章の結論をまとめている。
論文審査の結果の要旨
電子写真プリンタは、世界市場で年間 940 万台を越える需要がある。このプリンタのト ナー定着方式として、印字品質や高速化にすぐれているヒートローラ方式が、最もよく用
いられている。しかしながら、トナー溶融・定着プロセスに関して不明な部分が多いため、
その開発設計や製品高度化においては、各部の材質・寸法等の設計パラメータ及び加熱温 度・ローラ回転速度等の作動パラメータを、試行錯誤を重ねて定めているのが現状である。
従来より、トナーの定着温度場に関して解明の要望が強い。定着部は幅 3.5mm 程度の 狭い領域であり、60ms 程度の短時間でトナーの溶融・定着が完了するため、解明には実 験的にも困難な問題がある。これまでに研究の試みがなされているものの、一次元温度場 とした過程による理論解析や、定着速度を極端に低速とした実験など、実際の定着現象と はかけ離れた非現実的な報告にとどまっている。
本学位論文は、電子写真プリンタのトナー定着過程での温度変化、温度場を明らかにす る計算手法を提案したものである。理論解析においては、定着部の厚さ方向と記録紙送り 方向の二次元温度場を設定し、トナー・記録紙の移動に対応できる計算式と計算手法を新 たに提案している。これを基に計算した結果から、実際の現象に一致させるには定着部に 伝熱抵抗が必要なことを論じ、この伝熱抵抗が積層したトナー粒子間・記録紙表面粗さに 基づく空隙によることを調べている。電子顕微鏡写真でトナーの積層状態、コールター法 による粒径計測、記録紙粗さの測定を基に、空隙の全体積即ち空気量を算定し、これを伝 熱抵抗として空気層に換算して、理論計算に導入を計っている。この点は、論文提出者の 一つの独創的なすぐれた着目点である。
空気層の伝熱抵抗は大きいため、計算への導入に当たって、空気層の厚さの他の伝熱流 の中での設定位置の問題がある。このため、定着部の構成層の中で、空気層の厚さと設定 位置に関して、さまざまなモデルの検討と、これに対応した理論計算を行っている。
トナー定着部の温度変化は、直接的には計測困難であるが、熱伝導状態のフーリエ数に よる相似則を基に、実験的に測定する方法を提案して温度計測を行っている。この実験計 測の結果と、理論計算の結果を詳細に比較検討し、空気層を含んだ定着部の構成層モデル の確定、このモデルによる計算法の妥当性について検証を行い、実際的な定着部温度場の 計算手法を提案するに至っている。
その上で、提案した計算式と計算手法の妥当性と有用性を確認するため、記録紙の条件 として、表面粗さが無いフィルムや粗さが大きい記録紙を用いて計測実験を行い、これら の条件での理論計算の結果と実験結果とを比較し、その妥当性を検証している。さらに、
現在進展中のカラープリンタ化への技術的問題について、多層三色トナーの細粒子化に対 して、本計算手法を適用して検討を加え、小径粒子を用いる方針が技術的に、有利であり 妥当であることを論証している。
以上、本論文で論述された電子プリンタの定着部温度場に関する研究は、二次元非定常 温度場の理論計算式の提案、定着部に於ける空気の存在とその算出、理論計算への空気層 の導入、定着部構成層の妥当性の高いモデルの確立など、独創的な発想が認められる。ま た、緻密な理論的検討及び実験的検証により、確立された定着温度場の計算手法は、従来 にない実際的に有用な成果であり、電子写真プリンタの開発設計、関連工学の分野で大き
な貢献を果たすものと高く評価される。
よって、本論文は博士(工学)の学位論文に値するものと、審査委員全員一致して認める ものである。
学力の確認の結果の要旨
学力の確認を兼ねて公開発表会が、機械工学・画像工学・機能工学・制御工学など、関 連分野の研究者及び設計専門家の出席のものに開催された。論文提出者に対して、出席者 及び各審査委員から理論式の基礎的概念、定着部構成層のモデルの妥当性、計算の境界条 件、実験手法、プリンタのカラー化への対応などに関して、専門的にも高度な質問が多く 出され、活発な質疑応答が行われた。そのいずれの質問に対しても、論文提出者から的確 で十分な納得いく回答、理論的に明確な説明がなされた。よって、学力の確認についても、
審査委員会合議の結果、高度なレベルにあるものとして合格と認定し、博士(工学)の学位 の授与を受ける資格は十分と認めるものである。