九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
アメリカ労使関係の変容とQWLの意義
今村, 寛治
Graduate School of Economics, Kyushu University
https://doi.org/10.11501/3065443
出版情報:Kyushu University, 1992, 博士(経済学), 課程博士 バージョン:
多自5主詮 ゴi三糸且 主主主主型フフ俊三再弓壬系三/ ____ ミ ラ=- _L入
非組合型労使関係システムは、 組合の存在しない企業や事業所において実施
されており、 従米の伝統的な組合型労使関係システムとはかなり異質な労使関 係システムである。
非組合型労使関係システムの特徴は論者によって多少異なるが、 ここでは、
パーマ(A.Verma)とコーハン、 それにフォルクス(F.K. Foulkes)の研究を比較 検討したい。
第1節 パーマとコーハンの所論
パーマとコーハンによれば、 非組合型労使関係システムは、 アメリカ労使関 係において次のような三つの主要な役割を果たしている。 その第 ・は、 組合部 門よりも相対的に労働コストが低いということであり、 ごれは非組合部門に製 品市場でのコスト上の競争力を与えている。 第二は、 革新的な報酬制度、 労使 間のコミュニケーションの拡大および従業員参加プログラムの実施によって、
労働者により大きな満足と参加意識を提供し、 組合組織化への労働者の要求を 低下させていること。 そして第三は、 柔軟な作業組織と人的資源配分によっ て、 労働力の弾力的な配置を実施しているごとである。
ごごでは、 以上のご点を確認するために、 パーマとコーハンによる、 組合型 と非組合型の両方の工場を抱えるある巨大な製造コングロマリット
(manufacturing cong1omerate)に関する事例研究を紹介する。
それでは最初に、 同企業の歴史を労使関係に重点を置いて娠り返ってみよ う。 同企業の歴史は、 大きく、 創立期(1901'""--'33年)、 強化期( 1933'""--'58 年)、 成長期(195B,--...,83年)の三つに区分することができる。
創立期:当初、 操業を開始した1901年から15年までは、 1つの工場で自動車 部品を製造しており、 その後航空機部品の製造へ進出、 33年の時点で5つの工 場を所有することになったが、 すべて未組織であった。 ごの時期に、 非組合的 な、 従業員びいきの(proemp1oyee)哲学の基礎が敷かれたといわれている。 従 業員は会社という家族の '貝として扱われ、 工場内の人間関係は形式ばらない (informal)ものであった。 また、 ピクニックやクリスマスの夕食会などの社会 活動が重視された1 )。
強化期: 1933年に社長が交代、 41年の航空機部品製造用の新工場の開設、 そ れに第二次大戦によって同企業は急成長を遂げた。 ー方、 33年以降の組合によ る組織化攻勢の結果、 経営側は全国組合よりも筈が少ない(lesser evil)と思 われた独立組合(independent union) を奨励した。 経営側の後押しで独立組合 が40年代に結成され、 47年に承認、 同企業内に初めて組合部門が誕生したので ある。 その数年後、 月IJの工場が全国組合によって組織された。 しかし、 57年の 時点で、 全部で8つの工場の約80%が組織化されていたが、 そのうち1つの工 場を除いて他はすべて独立組合によって組織されていた。 この時期、 経営側は 独立組合との聞で協調的な関係を推進した2)。
成長期: 1!J5B年に同企業は、 宇宙探査やエレクトロニクス用の製品を製造す る企業と合併し、 コングロマリット化の道を歩み始めた。 また合併以降、 同企 業は今日の全工場数のほぼ半分を占める42の工場を次々に買収した。 その内訳 は、 60年代に30近い工場、 70年代に10工場である。 合併以後50年代から60年代 にかけて買収された30工場のうち15工場が組合によって組織されており、 残り の15工場が未組織であった。 また、 70年代から80年代にかけて買収された10工
場はすべて未組織であった。 これらの買収は、 同企業の労使関係担当の管理者 にとって新しい経験だった。 というのは、 買収された工場のうち組合によって 組織されていたものは、 aつを除いてすべて全国組合の傘下にあったからであ る310 合併・買収と並んで50年以降の同企業の成長の原因となったのは、 新工 場の開設である。 51年からの30年間に新しく開設された工場数は29であり、 そ のうち17が70年代に集中している4)。
さて、 同企業では、 1960年代の初めから人的資源管理に則った施策が断続的 に実施されてきたが、 そのなかでもその後の労使関係のあり方に最も大きな影 響を与えたのは、 1974年に始まった「作業再構成計画J (plan for
restructuring work)である。 乙の計画は、 60"-'80年の間に新設されたほとん どすべての工場(大部分が非組合)に導入されたが、 それは次のような基本原 則に拠っていた。
①労働力を比較的自律的な作業チームに組織する
②知識給(pay-for-knowledge) 6)に基づいた合理的な賃金システム
③何らかの形態の「生産性ボーナスJ 6)
ごのような組合排除戦略と、 創業以来の同企業の発展の経緯の結果、 同企業 は82年現在、 労働者のおよそ半分が組合に組織されていない。 (表10、 88ペー ジ、 表11、 89ページ参照)
それでは、 非組合型労使関係システムの第一の特徴を明らかにするために、
組合・非組合両部門の労働コストを比較してみよう。 比較分析の対象になった のは、 同企業のアメリカ国内 の85工場である。 その地域別・業種別分布は表 12 (90ページ)に示されているが、 この表からも、 北部・中西部から南部・西 部 へ の工場の地理的移動という現在のアメリカ製造業の一般的傾向がうかがわ れる。
さて、 分析の結果は表13(91ページ)に提示されている。 これによって、 労 働コストは組合部門のほうが約30%程高いこと、 そしてこのコスト差の最大の 原因は、 最低賃金率と付加給付であるというこ点がわかるであろう7)。 労働組 合の存在が、 この二つの要素を押し上げているものと見られる。
非組合工場 組合工場 全工場
表10 工場の操業年数と平均労働j者数
一工場あたりの平均労倍賭数
工場の平均操業年数
18.40 47.23 28.58
1979
246.8
548.6 366.。
1980
246.4 512.8 351. 6
1981
258.0 470.1 335.6
1982
213. 7 390. 7 276.2
(出所) A. Verma and T. A. Kochan, 仙The Growth and Nature of the Nonunion Sector within a Finn" ,Challenges, p. 96.
表11 組合工場および非組合工場の生産・保全労働}者数
1979 1980 1981 1982
工場数 労働者数 工場数 労働j者数 工場数 労働j者数 工場数労働者数
非組合工場 組合工場 全工場
nιu nHU Phu
』せ qd 円i
11,355 46 16,458 30 27,813 76
11,335 52 15,385 30 26,720 82
13,416 55 14,103 30 27,519 85
11, 753 11, 722 23,475
組合工場に雇用され
ている労働者の比率 59% 57% 51% 50%
組合工場の比率 39% 39% 36% 35%
(出所) Verma and Kochan,op.cit.,p.98.
表12 工場のI似或別・業種別分布(1982年)
3同呂合工場 組合工場 総計
中西部 16 15 31
北東部 7 11 18
北西部 。 1
南東部 14 2 16
南西部 17 2 19
総計 55 30 85
エレクトロニクス
運輸a 金属 系金、計
qJ nU つム Fb つム 1i つL Fb
ρhu n凡U nιu nHU zi n4d
n『d nku n凡U
「円u つL 1i つd QO
(出所) Vern自and Kochan,op.cit. ,p.99.
a:運輸の場合は、工場ではなく事菊�と理解する
表13 労働コスト比較(時間あたりドル)
(増加率%)
1979 1980 1981 1982 1979-82
最低賃金率 5.72 6.33 6.64 7.03 23 非組合工場 4.24 4.81 5.28 5.55 31
組合工場 6. 75 7.45 7.94 8.51 26
比率:組合/非組合 1. 59 1. 55 1. 50 1. 53
最高賃金率 8. 79 9.67 10.65 11. 37 29 非組合工場 8.36 9.40 10. 72 11.48 37
組合工場 9.09 9.87 10.58 11. 25 24
比率:組合/非組合 1. 09 1. 05 0.97 0.98
平均賃金率 6.91 7.65 8.41 9.00 30 非組合工場 5.92 6. 72 7.59 8.12 37
組合工場 7.60 8.34 9.20 9.89 30
比率:組合/非組合 1. 28 1. 24 1. 21 1. 22
付加給付(総計) 2.79 2.99 3.46 4.12 49 非組合工場 2.09 2.29 2. 72 3.25 56
組合工場 3.28 3.52 4.16 4.99 53
比率:組合/非組合 1. 57 1. 54 1. 53 1. 53
総労働コスト 9.70 10.63 11. 87 13.12 35 (平均賃金率
十付加給付)
非組合工場 8.02 9.01 10.31 11. 37 42
組合工場 10.87 11. 85 13.35 14.88 37
比率 :組合/非組合 1. 35 1. 31 1. 29 1. 31 (出所) Verma and Kochan,op.cit.,p.l00.
では次に、 第二の特徴である、 革新的な報酬制度、 労使間のコミュニケー ションの拡大および従業員参加プログラムの実施に移ろう。
以上の三点の比較の対象として選ばれたのは、 同企業の8工場である。 これ ら8工場のうち、 5つは非組合であり、 残りの3つには組合が存在している 810 ただし、 非組合のなかには、 かならずしも人的資源管理に基づいた革新的 な作業構造を持たず、 伝統的な専制的管理あるいは温情主義管理9)を行なって いる工場も含まれている。 非組合の工場の開設時期は、 2つが1970年代中頃、
あとの3つはそれぞれ60年代、 50年代、 30年代である。 一方、 組合の存在する 3工場のうち、 一つは全国組合に加盟し、 あとの2つは独立組合によって組織 されている10)
それでは最初に、 組合・非組合両部門の報酬制度を比較しよう。 結果は表
14 (93ページ)に示されている。 付加給付に関して組合部門のほうが高いこと は、 前述の比較と同嫌であるが、 その他に、 非組合部門での俸給制と知識給の 採用が目立っている11)
次に、 コミュニケーションと従業員参加プログラムに関して比較したのが、
表15 (94ページ)である。
まず、 コミュニケーションについて。 労使共同委員会(joint committee)、
提案制度 (suggestion scheme)、 センシング・セッション(sensing sessi on) 12)の実胞率に関しては両部門聞に差はない。 しかし、 態度調査
(attitude survey)を行なっている工場は、 非組合部門では約半数に達してい るのにたいし、 組合部門ではほとんどなかった。 結局、 表10から明らかなよう に、 非組合工場のほうが規模が小さく、 管理者が従業員とのコミュニケーシヨ ンをより密にするごとが可能であるために、 非組合部門のほうがコミュニケー ションはより効果的に実施されているといえる13) 。
ー方、 従業員参加プログラムは、 一般的に組合部門よりも非組合部門のほう
が進んでいる。 例えば、 QWL強度指数(QWL intensity index)は、 組合部門 が1.3であるのにたいして、 非組合部門は2.4であった。 また、 職場における 意思決定への従業員の参加指数をみても、 非組合部門がまさっている141 0
1 俸給制(従業員比率%)
2 知識給
3 ωLA(生計費調整手当)
消費者物価指数1ポイントの増加につき
4 2直に対する割り増し賃金
表14 報酬
非組合工場
63%
40%
40%
2.25セント/時
組合工場
o %
。%
100 %
2.07セント/時
セント/時で支払っている工場 60%@25セント/時 67%@22セント/時 基礎賃率のー-定比率で、支払っている工場 40%@ 7% 33%@ 8%
5 残業に対する割り増し賃率
予め規定された週労働時間を超過した場合 1.5 1.67 予め規定された一日の労働時間を超過した場合 1.125 1.5
6 超過週末労働に対して割り増し賃金を
支払われる従業員比率 50% 67%
7 SUB (補完的失業手当)
(工場比率) 20% 33%
8 退職手当 20% 0%
9 昼食時間に対して賃金が
支払われる従業員比率 57% 69%
10 有給休暇
勤続 1年以上(口数) 9.4 10.3
勤続3年ιL上(口数) 12.2 16.7
勤続10年ιL上(日数) 18.6 26.3
割服売20年ιL上(口数) 22.0 31. 3
11 有給休日(日数) 23.8 13.0
12 生命保険
保険額 9,000 ドjレ 10,000ドノレ
保険料の企業負担率 94% 100 %
13 傷病保険
給付額 117 ドル/週 150 ドル/週
給付期間 27週 26週
14 健康(企業負担率)
医師の往診 84% 80 %
薬の処方 84% 93 %
入院 96% 100 %
歯科治療 73% 100 %
口腔外科手術 81% 100 %
眼鏡 33% 67 %
(出所) Verma and Kochan,op.cit.,p.105.
表15 コミュニケーションと参加(%は鶏包工場比率)
3ほE合工場 組合工場 コミュニケーション
非組合型の苦情処理 20 % 33 % 苦情を話し合うためのオープン・ドア政策 100 % 67 % 労使共同委員会
健康・安全について 80 % 100 % 生産性について 40 % 67 %
QWLについて 75 % 60 %
労使関係について 20 % 33 % 職務評価について 20 % o %
訓練について 20 % o %
提案制度 60 % 67 %
態度調査
生産・保全労働者 40 % 9 %
俸来的?働者 60 % o %
センシング・セッション
生産・保全労働者 80 % 67 %
俸給労働者 80 % 67 %
従業員とのミーティング 100 % 67 %
その回数(年間) 3.14 1. 33
重加
QWLやそれに類似したプログラムが 80 % 67 % 制度化されている
QWL強度指数 2.4 1.3
QWLに参加している従業員比率 50 % 47 % 意思決定への従業員の劾n度(0""'-'4 )
作業手順 1. 70 0.83
生産 1. 65 0.41
品質 1. 30 0.67
原材料 1. 40 0.50
安全・清掃 2.20 1. 00
人事 1. 74 0.38
前年の社会活動j回数 3.00 3.33
公式の従業員カウンセリング・プログラム数 0.40 0.67
利潤分配制数 5.0 3.3
再配置
再配置に関する従業員の権利 20 % o % 再配置に対する報酬 20 % o % (出所) Verrr自and Kochan ,op.cit. ,p.l10.
※ QWL強度指数とは、 !磁場の作業方法が、 前述した「作業再構成計画Jの ように革新的な人的資源管理に基づいて再設計されたかどうかを、 1点
(ほとんど行なわれていない)から4点(完全に行なわれた)までの閣で 表わしたものである。
最後に、 組合・非組合両部門の作業組織と人的資源配分を比較してみよう。
結果は表16 (96ページ)に示されている。 以下、 主要な点を簡単に述べておと
λ15)
./ 0
①職務と賃金の構造に関しては、 非組合部門のほうが織務分類数、 賃金階梯 数とも少なく、 より柔軟性が高い。
②下請けの外注化については、 非組合部門のほうが規制が少ない。
③週労働時間の変更に関しては、 ごれも非組合部門のほうが規制が少ない。
④配転について。 欠勤者の穴埋めや生産調整のための一時的な配転にたいし て害IJり増し賃金を支払っている工場は、 組合部門では100%であるのにたいし て、 非組合部門では40%に過ぎない。
⑤残業の均等化を実施している工場は、 組合部門では100%であるのにたい し、 非組合部門では40%にすぎない。
⑥昇進、 配転、 レイオフなどに関して、 先任権を認めている工場は、 組合部 門では100%であるのにたいし、 非組合部門では80%。
⑦欠勤した労働者の代役を監管者(supervisor)が勤めるごとについては、 組 合部門のすべての工場で禁止されているのにたいして、 非組合部門で禁止して いる工場は一つもない。
以上の結果を見ると、 作業組織と人的資源配分に関して職場で経営側が享受 する柔軟性は、 非組合部門がより大きいというごとになろう。
このように、 非組合型労使関係システムは、 低労働コスト、 労働者へのより 大きな満足と参加意識の提供、 作業組織と人的資源配分における高い柔軟性を 実現することによって、 伝統的な組合型労使関係システムよりも高い競争力を
表16 作業組織と人的資源配分
非組合工場 組合工場
1 職務と賃金の構造
職務分類数 30 96
賃金階梯数 9 14
保全工の職務分類数 4.8 11. 3
「一般保全工J (General Maintenance)
に分類される労働者比率 38 % 1 %
2 下請け
組合および従業員への通知義務 o % 100 %
レイオフの前に下請けをセ'口にする 40 % o %
一定の比率で減らす o % 33 %
いくつかの作業を例外として他はぜロにする o % 67 % 3 週労働時間の変更に関して規定あり 60 % 67 % 週労働時間の変更に関して制限あり 33 % 50 % 4 配転を要求できる従業員 100 % 67 %
配転を要求している従業員 5-10% 10-25 %
配転資絡規準
企業での最働臓 20 % o %
部門での最{民主腕 o % o %
現在の職務での業績 80 % 33 %
その部門がその従業員を喜んで、手放すかと。うか 40 % o %
新しい日新売のIDI隙コスト 20 % o %
現在の職務での最低皇服売 40 % 100 %
5 ーー時的配転
高いレベルの織務にはより高い賃金を支払う 40 % 100 %
6 残業
従業員は残業を拒否できる 80 % 100 %
残業の均等化 40 % 100 %
7 先任権の効果
昇進 80 % 100 %
配転 80 % 100 %
レイオフ 80 % 100 %
一時的配転に関する先任権の軽減 80 % 67 %
8 部f下の仕事を監督者利切子するごとを禁止 o % 100 % 9 欠員と昇進
欠員の掲示 80 % 100 %
内部からの昇進
生産・保全労働者 70-90% 75-100 %
監督者 70-90% 35-60%
事務労働者 60-80% 0-25%
俸給労働者 15-35% 0-25%
(出所) Verma and Kochan,op.cit.,p.107.
備えているのである。
第2節 フォルクスの所論
( 1 )フォルクスの調査の目的、 対象、 方法
フォルクスの所論を概説する前に、 彼の調査の目的、 対象、 方法について述 べておごう。
まず調査の目的は、 彼の著作のタイトルであるPersonnel Policies in
Large Nonunion Companiesから明らかなように、 アメリカの非組合大企業にお いて行なわれている人事政策や施策(personnel policies and practices)を解 明するごとである16) 。
さて、 フォルクスは、 非組合大企業を二つの型に分類している。 ひとつは、
完全な非組合大企業(entirely nonunion large company)であり、 もうひとつ は、 支配的な非組合大企業(predominantly nonunion large company)である。
前者は、 組合がアメリカ国内に代表権を全く持っていないかあるいは持ってい たとしてもその企業の人事政策や施策にほとんど影響を与えないほどわずかで ある企業を意味する。 これにたいして後者は、 アメリカ国内の生産・保全労働 者の大多数が非組合員である企業であり、 この場合、 前者とは異なり、 組合に 組織された従業員は非組合部門の人事政策や施策に影響を与える。 絶対数から 言えば、 完全な非組合大企業はきわめて少数で、 Fortune 500社のうちの約 5%にすぎないという。 そしてフォルクスはこの調査において、 二つの型のう ち主として完全な非組合大企業を対象にしている171 0
また、 対象となった企業数は26社であるが、 それらはすべて匿名であり、 業 種は、 3社がサービス業で他はすべて製造業であった181 0
因に、 ごの調査における大企業の定義は、 売り上げが、 1億ドルから数十億 ドル、 従業員数は、 アメリカ国内の生産・保全労働者に限定すると、 およそ
2,000名から20,000名である191 0
最後に、 調査の方法は、 企業の人事部門のスタッフおよびその長、 会長や社 長を含むライン ・ マネージャー、 監督者(supervisors) のような現場管理者な
どへの面接という形をとった。 ただし、 現場労働者(hourly workers)への面接 はほとんどなされなかヮた20) 。
( 2 )フォルクスの所論の概説
非組合大企業に特徴的なトップ・ マネジメントの価値観、 政策、 風土、 成果 に関するフォルクスのモデルを示したのが、 図7 (100ページ)である。 彼に よれば、 従業員に関するトップ・ マネジメントのある一定の態度、 価値観、 哲 学、 目標が、 ある一定の現実の政策、 すなわち、 環境要因や企業特性の効果的 な管理、 雇用保降、 企業内部からの昇進、 彫響力がありかつ活動的な人事部 門、 十分な賃金・付加給付プログラム、 効果的なフィードパック・ メカニズ ム、 コミュニケーション ・ プログラムおよび苦情処理、 管理者の入念な選故、
開発、 評価などと結びつくことによって、 信頼と信用の風土(climate of trust and confidence) を創り出す。 そして、 との風土は、 それを創り出した もの(トップ・ マネジメントのある一定の態度、 価値観、 哲学、 目標と一定の 現実の政策)を強化し、 さらにはそれ自身、 生産性や利潤に貢献するのである 21)
ところで、 現実の政策については次節で詳しく述べるとして、 ことでは、
トップ・ マネジメントの価値観と非組合大企業の人事管理の成果について触れ ておかなければならない。
まず、 フォルクスによれば、 非組合大企業のトップ・ マネジメントの価値観 には大きく分けて二つの型があるという。 ひとつは、 哲学を背負っている企業 (philosophy-laden companies)である。 この型の企業の恨底には、 もし経営側 がその職務をうまく遂行すれば、 従業員は組合を必要としないであろうという 発想が存在する。 それゆえ、 組合が存在しないということは、 その哲学の副産 物にすぎない。 そしてもうひとつは、 教条主義的な企業(doctrinaire) であ る。 先の型とは異なり、 ごの型の企業にとって非組合を維持することは明確な
目標となっている221 0
個人、 公正さ、 リーダーシップについて トップ・マネジメントが表明する信念、
(従業員に関するトップ・マネジメントのある一定の態度、価値観、哲学、 目標) l
現実の政策
・環I克要因や企業制羽生の効果的な管理
・雇用保障
・企業内部からの昇進
・景ラ響力がありかっ活動的な人事音{円
・十分な賃金・何)[胎付プログラム
・効果的なフィードバック・メカニズム、
コミュニケーション・プログラム、苦情蛇斑
・管理者の人合、な選抜、 開発、 評価 4
(協働のための人間的価値と一致し、 企業戦略の有能かっ 有効な長期的遂行に好都合な)信頼、 協力、 信用の周
保障と公正さ の従業員によ る受容
従業員の積極 的な態度と 高いモラール
組合に加入しよう としない大多数の 従業員
働くのに望ましい場所と 忠、われる企業と、 欠員を 大きく越える応募者
従業員と経営 の間の敵対的 な関係の欠如
より反応的で 参画的な従業員
l l
より良い経営一従業員関係 高い生産性
遡7 非組合大企業におけるトップ・マネジメントの佃値観、政策、 風牛、 成果に関するモデル (出所) F.K.Foulkes,pぽsonnel Po1icies in Large Nonunion Companiω,Prentice-llall, 1980. p. 327.
しかしフォルクスは、 ごのような区分は歴史的には意味があるが、 今日では それほど明確ではなく、 図8 (102ページ)に示されるようにトップ・ マネジ メントの価値観は一つの連続体として理解されるべきであると主張している。
つまり、 トップ・ マネジメントの価値観は複合的なのであって、 図の線上のど の部分が相対的に強調されるかという問題なのである23) 。
次に、 図7に示されているように、 フォルクスは人事管理の成果として、 よ り柔軟な組織、 ノー ・ ストライキ、 労働移動率の低さなどをあげている。 しか し、 乙れらは、 経営側が認知している(percei ved)成果である。 というのは、
実際には非組合大企業が効率的であることを示す確かなデータが存在しないの
で、 それに関する判断はどうしても面接を行なった経営者や管理者の主観的な 理解にとどまらざるをえないからであるという24) 。
( 3 )非組合大企業における人事管理
( a)環境要因や企業特性の効果的な管理
非組合大企業における人事管理としてフォルクスが最初にあげているのは、
環境要因や企業特性の効果的な管理である。 彼によれば、 調査の対象となった 企業には6つの環境要因が存在するという。 それらは、 企業の創立年、 地理的 な位置、 工場の規模、 労働力に占める女性労働者および専門職の割合、 不安定 な仕事や従業員グループ・の取り倣い、 組合による組織化攻勢の内容と強度であ る。 そして、 これら6つの環境要因が以下のような状態にあるとき、 その企業 が組合によって組織される可能性は低くなるという。
第一に、 企業の創立年については、 その企業が第二次大戦後に創立された場 合。 というのは、 調査の対象となった非組合大企業は、 アメリカにおいて労働 運動が非常な高まりを見せた1930年代および40年代には創立されていなかった かあるいは非常に小規模であったために、 組合の組織化攻勢から免れることが できたと考えられるからである25)
刈8 トップ・ マネジメントの価値観
好戦的な反組合 反組A 教条主義的 半哲学的 哲学的
(出所) Foulkes,op.cit.,p.56.
第二に、 地理的な位置については、 その企業が南部の労働権州 (right-to-work state)に位置する場合261 0
第三に、 工場の規模については、 その企業が農村や郊外で小規模な工場を操 業している場合。 それは、 工場の規模が小さい場合には、 管理が容易であり、
従業員との良好な関係、を保ちやすく、 組合による組織化攻勢の目標にされにく いという理由からである。 しかし、 工場の規模が余りに小さく、 例えば、 交渉 単位の過半数が数人などという場合には、 組合への賛成票を獲得する乙とがき わめて容易になるために、 逆に組合の勝率は高くなってしまう21) 。
第四に、 労働力に占める友性労働者や専門職の割合が高い場合。 とれは、 女 性労働者や専門職は、 そもそも組合加入への関心が薄いからだという26) 。
第五に、 景気に左右されやすい不安定な仕事を下請けに出している場合 29) 。 なぜならば、 もしこれらの仕事を自社の従業員に任せた場合、 その雇用 の不安定さゆえに、 彼らが組合に走る可能性があるからである。
最後に、 その企業が属する産業に大規模かつ強力な組合が存在しない場合。
ごの場合は、 組合による組織化攻勢はそれほど強力ではない30) 。
とれらの環境要因に関してフォルクスは、 乙のなかには偶発的なものもある が、 他方で企業の目的を遂行するために管理することができるものもあり、 例 えば、 地理的位置、 工場の規模、 労働力の性質、 不安定な仕事などは、 経営が 十分コントロールするごとができるものであると主張している311 0
(b)雇用保障
非組合大企業にとって、 雇用の安定はきわめて重要な目様である。 例えば、
調査の対象となった企業のうち9社は一度もレイオフを行なったごとがなく、
さらに乙の9社のうち6社では、 操業短縮による労働時間の削減さえなかった 32)
さて、 雇用保障を提供するために非組合大企業が実行している技法としては 次のようなものがある。 新規採用の凍結、 労働力の自然減耗を待つごと、 臨時
従業員や元従業員をある特定の時期に限定して使用すること、 在庫のっくりだ め、 下請け業者の利用、 自発的な欠勤、 休暇の積み上げ、 特別早期退職プログ ラム、 配置転換、 訓練、 ワーク・ シェアリングなどである33) 。
ごの他に、 ある特定の環境要因や企業特性が、 雇用保障に大きな影響を与え る場合がある。 例えば、 企業の急成長、 高い利潤卒、 それに労働力に占める女 性の割合などは雇用保障にプラスの影響を与えるし、 反対にその企業が買気に
左右されやすい産業に属する場合にはマイナスになるだろう34) 。
非組合大企業においても状況によってはレイオフを行なわざるをえないが、
それは組合企業とはかなり異なった嫌相を見せる。 例えばある企業では、 下請 けの人員の全員排除と、 その年と翌年の全休暇の任意あるいは強制的な消化が レイオフを開始するための条件になっていた。 また他の企業では、 優遇された 退職金プラン、 先進的な任意の特別早期退職プログラム、 職業紹介サービスが 実施されていた。 また、 非組合大企業においても、 レイオフの際には先任権が 尊重されていた35)
( c )企業内部からの昇進
企業内部からの昇進は、 調査の対象となった企業にとって、 雇用保障と同程 度に重要な原則である。
まず内部昇進の定義として、 フォルクスは次の4点をあげている。 第ーに、
管理者や監督者を主に時間給労働者の階層から選抜すること。 第二に、 工場労 働者に研究部門や事務部門への移動の機会を慢供するとと。 第三に、 従業員に 訓練や教育の機会を提供すること。 そして第四に、 入り口の仕事(entry jobs) を制限すること361 0 との第四の点は、 内部昇進の原則を維持するために外部 からの採用を制限しているごとを意味するものと思われる。
多くの非組合大企業において、 内部昇進は職務局示(job posting)によって 制度化されている37) 。 職務掲示とは、 ある職務に空きができたときに、 それ が社内で公示され、 応募者のなかから選考によって昇進者が決められる方法で
ある。 臓務掲示の対象となる従業員は、 主に生産・保全労働者であるが、 事務
・技術・管理職の一部まで対象としている企業もいくつか存在した。 しかし、
上級管理臓まで含んでいる企業はきわめて少数であった。 また、 職務が掲示さ れる範囲は、 調査の対象となった企業では組合企業よりも一般的に広かった。
例えば、 複数の州に工場をもっ企業では、 ある一つの工場の職務が企業内のす べての工場に掲示されていた38)
これらの企業が職務掲示を採用している最大の理由は、 職務掲示が、 監督者 が自分の気に入った従業員だけを昇進させることを防止し、 その存在を知られ ていない組織内の才能の発見を促進することにある39) 。 このように内部昇進 は、 企業内での人的資源の有効利用、 言い換えれば、 人材の活性化を目標と し、 他方で昇進に対する従業員の欲求を満足させようとするものなのである。
しかしフォルクスは、 いくつかの点で非組合大企業における昇進と組合の存 在する企業のそれとの相違を明確にしていないように思われる。 第一に、 必ず しもすべての職務が掲示されるわけではないというごとである。 つまり、 昇進 ラインがすでに確立しているために、 ある特定の部門内にその職務に関心をも ち実際に遂行できる従業員がいない場合に限って、 職務掲示されるという事例 が指摘されている。 その結果、 帰示される職務の多くは昇進ラインの入り口の 仕事に限定されてしまう-40) 。 けっきょく、 非組合大企業の昇進の範囲が実際 には組合企業のそれとどの程度異なっているのかが明らかにされていない。 第 二に、 応募した従業員のなかから昇進者を決定する場合、 能力や業績を計測す ることがきわめて困難であるという理由から、 組合企業と同様に能力よりも先 任権を重視していることであり-4 1) 、 ごの点は組合企業と変わらないように思 われる。
( d)影響力がありかつ活動的な人事部門
非組合大企業の人事部門は、 強力な力を所有し行使している。 この源泉は、
トップ・マネジメントと人事部門との密接な関係にある-42) 。
例えば、 調査の対象となった企業の半数以上では、 人的資源管理あるいは人 事担当副社長は、 直接、 最高経営責任者(CEO)に報告していた。 また残りの企 業の大半では、 総活経営担当副社長(administrative vice-president)かス タッフ副社長(staff vice-president)に報告している。 さらに、 総括経営担当 副社長のなかには、 以前その企業の人事部長を経験したものがお り、 彼らは現 在でも多く の 場合、 その企業の人事部 の 実際の長の役割を果たしている43) 。
また、 調査の対象となった企業のうち4社で、 人事担当の副社長がその企業 の 取締役会の メンバーになっている事実がある。 さらに他の企業では、 その企
業の取締役の座にある人事担当の上級副社長が、 社長の後継者の一人と見なさ れていた44) 。
さらに、 企業の各部門や工場に対する本社の人事部門の強大さを示す次のよ うな例がある。 34,000人の 従業員を擁するある企業では、 従業員の採用の際 は、 全従業員のわずか30%が本社勤務であるにもかかわらず、 本社の人事部門 が、 応募者の 面倭と採用の 決定を行なっているのである46) 。
( e )十分な賃金・付加給付プログラム
非組合大企業は、 賃金・付加給付に関してさまざまな特徴を持っている。
第一に、 調査の対象となった非組合大企業は、 概して同産業や周辺地域の標 準よりも高い賃金を支払っている。 そしてこの ために、 競争相手となる組合企 業の賃金レベルを定期的に調査している461 0
さらに、 ごのような、 組合企業に対する賃金の相対的な優位性は、 管理者の 手紙、 監管者の口頭説明、 ミーティングなどを通じて、 従業員にコミュニケー
卜されているのである47)
第二に。 フォルクスの調査の対象である非組合大企業には、 完全な非組合大 企業と支配的な非組合大企業があることは既に述べた。 このうち支配的な非組 合大企業では、 時間給従業員にたいして業績給(merit pay)は適用されていな い。 との種の企業では、 実験的に俸給制を導入しているととろを除くと、 賃金
システムは、 それらの企業のなかの組合によって組織された部門と非常によく {以ている48)
これにたいして、 完全な非組合大企業の大部分では、 賃上げを個々の従業員 の業績に基づいて行なう業績給が実施されている。 これらの企業のトップ・ マ ネジメントは、 業績給を、 組合企業に典型的に見られる総体的な賃上げをとも なった単一の賃率システムよりもより多くの労働j努力とより良い従業員の成果 を促進する一つのインセンティプであると認識している... 9) 。
しかしながら、 調査の対象となった大部分の企業では、 業績給の理論的な概 念、と実際の運用とは非常に異なっていた50) 。 というのは、 職務によってはそ
の業績を計測することが困難なものもあるし、 またたとえ困難でなくても、 大 部分の従業員は自己の業績を平均以上であると考えているために、 監督者が業 績に関する査定を従業員に正直に伝えることをためらい、 その結果、 実際に は、 業績よりも先任権に基づいた自動的な賃上げを行なう傾向があるというの である51)
第三は、 ブルー ・ カラー労働者に対する俸給制の採用である。 これは、 調査 の対象となった企業のおよそ半分が実施していた。 全従業員に対する俸給制の 適用は、 ブルー ・ カラーにたいして追加的な所得保障を与えるだけではない。
それは、 経営と労働の聞の、 すなわちホワイト ・ カラー労働者とブルー・ カ ラー労働者の聞のf{伝達と奴等J ( “we- Lhey " )という差別意識の解消を意 図したものなのである52)
第四に、 非組合大企業は、 付加給付に関しても賃金と同僚に他の企業よりも 高いレベルにある。 さらに先の俸給制と同じく、 平等な取り扱い原則に基づい て、 企業の全従業員に同じ付加給付が適用されている。 さらに、 付加給付に関 する情報は、 小冊子、 社内報、 手紙などを通じて従業員に伝えられている 53)
第五に、 非組合大企業は、 伝統的な給付建て退職所得プランを補完するいく つかのプログラムを備えている。 代表的なものとしては、 ①繰り延べ利潤分配 制、 ②現金ボーナスプラン、 ③投資プランなどがある。 ②の現金ボーナスプラ
ンには、 企業の利潤に基づいて支払われるボーナスである「現金利潤分配制J と、 従業員の所得と結ひ'ついている固定額のボーナスの2種類がある。 さら に、 ③の投資プランとしては、 従業員の掛金の一部を企業が負担する貯蓄プラ ンと、 従業員がその企業の株式を市場価絡よりも安い価絡で購入する株式購入 プランがある64)
( f )効果的なフィードパック・メカニズム、
コミュニケーション・フログラム、 苦情処理
効果的なフィードパック・メカニズム(調査の対象となった企業は、 コミュ ニケーション・プログラムと呼んでいる)の目的は、 第一に、 個々の従業員の 問題をそれが重大になるまえに発見し対応すること、 第二に、 従業員が不満を トップ・マネジメントに示すことを恐れないような開放的な情況を創り出すこ と、 第三に、 下位の管理者が上位の管理者の耳に心地よい乙とだけを報告す る、 いわゆるフィルター問題を解決するとと、 第四に、 ビジネスに関する情報 を監管者や従業員など の下方に伝達すること、 第五に、 これらのプログラム は、 トップ・レベルの管理者が労働者とそのモラールに強い関心を持っている ごとを示すので、 監管者をチェックすることになる、 そして最後に、 従業員
が、 職務に関連した問題だけでなく個人的な問題をも解決するのを助ける 56) 。 フィードパック・メカニズムには次のような技法がある。 態度調査、 個 人的あるいは職務に関連した問題のためのカウンセリング・プログラム、 労使 同数の代表からなる従業員代表制、 従業員ミーテイング、 エグゼクティプと従 業員との面接、 従業員の不満にたいして経営側が文書か口頭で回答するパーソ ン・ツー・パーソン・プログラム、 質問箱などである66)
ところで、 一般的に組合企業には、 紛争に関する拘束力のある仲裁を提供す る公式の苦情処理手続きが備わっているが、 非組合企業にはこの種の手続きは 存在しない。 しかし、 調査の対象となった多くの非組合大企業は、 「オープン
・ドア政策jと呼ばれる、 不満を解決するための公式のメカニズムを持ってい
る571 0
だが、 大部分の非組合大企業ではとれらの手続きは、 あまり使われていな い。 フォルクスによると、 ごれは、 フィードパック・ メカニズムが、 従業員の 不満をそれが公式のメカニズムに達するまえに解決しているからだという 58)
( g)管理者の入念な選敏、 開発、 評価
特に一章を設けて論じているわけではないが、 フォルクスはいたるところで 管理者の活性化を強調している。 彼によるととれは、 非組合企業特有の、 規則 の峻昧さや柔軟性ゆえに、 人事政策を実行に移すためには優秀な管理者を必要 とするからだという。
実際、 非組合大企業の監管者は次のような不満を口にする。 日く、 企業の政 策の柔軟性ゆえに決定がきわめて困難である。 日く、 従業員の身分保障が非常 に強固であるために、 政策を乱用する従業員がいる。 例えば、 俸給制を導入し たために、 無断欠勤が増え、 昼食時間が長くなり、 従業員が残業をしたがらな くなったなどの事態が生じた企業がある。 しかし、 乙れらを理由に従業員の懲 戒や解雇は難しいのである69) 。
以上、 非組合大企業の人事管理に関するフォルクスの所論を簡単に見てき た。 彼によると、 これらの企業の人事管理の特徴は、 雇用保障、 企業内部から の昇進、 平等色の強い賃金・付加給付、 そして労使聞の情報の共有であるとい えるだろう。
従来ほとんど注目される乙とのなかったアメ リ カの非組合大企業の人事管理 を綿密に調査したフォルクスの功績は大きいと言わなければならない。 例え ば、 非組合大企業では労働者はもっぱら業績や能力に基づいて賃金や昇進が決 められており、 満足な働きをしないとすぐに解雇されてしまうとか、 あるい は、 この種の企業はただ単に他の企業よりも高い賃金を支払っているから非組 合を維持しているのだとかいう一般の人々が抱いている誤った理解を訂正し、
さらには非組合大企業の人事管理と組合企業のそれとの(レイオフや昇進にお ける先任権の尊重、 業績給の有名無実化、 苦情処理制度の完備などの点での) 類似性、 すなわち、 組合運動や団体交渉制度が非組合大企業の人事管理に及ぼ す影響を指摘している点60) はとりわけそうであろう。
しかしながら、 フォルクスにはいくつか批判的されるべき点もある。
まず最初に、 フォルクスの所論は、 もっぱら経営者や管理者への面媛調査に 依存しているために、 彼らの発言を鵜呑みにしている傾向が見られる。 フォル クスの主張する、 トップ・ マネジメントの価値観→現実の政策→信頼と信用の 風土→一定の成果という連鎖を検討してみよう。 第一に、 労使関の信頼と信用 が効果的な従業員関係の鍵であると強調されているが、 これは経営者や管理者 の主観的な理解にとどまるものであり6 1) 、 客観的に証明されているわけでは ない。 ごれは、 一定の成果についても同僚である。 また、 トップ・ マネジメン トの価値観がどのような場合に図8の線上のどこに位置するのかについては必 ずしも明らかにされていない。
次に、 ある企業が非組合であることは歴史的に見て偶発的な所産である可能 性があるにもかかわらず、 フォルクスは、 非組合であることへの(コントロー ルできない、 偶発的な)環境要因と人事政策の影響を考える場合、 後者を強調 しすぎるきらいがあるように思われる。 例えば彼は、 環境要因や企業特性のな かには、 企業にとって偶発的なものもあるが、 他方で、 地理的な位置、 工場の 規模、 労働力の性質、 景気に敏感な仕事や従業員グループなどの要因は、 経営 が卜分操作するととができると主張しているが62) 、 乙れらの要件を組合回避 という目的のためだけにコントロールすることは不可能であろう。
第3節 二つの所論の比較
パーマと コーハン、 およびフォルクスの所論をひととおり見てきた。 それで は最後に、 彼らの見解を比較してみるごとにしよう。
非組合型労使関係システムに関するパーマとコーハン、 およびフォルクスの 見解を比較したのが、 表17 (112ページ)である。 パーマとコーハンによる と、 非組合型労使関係システムの特徴は、 第一に、 組合部門よりも相対的に労 働コストが低いこと、 第二に、 革新的な報酬制度、 労使間のコミュニケーシヨ ンの鉱大および従業員参加プログラムの実施によって、 労働者により大きな満 足と参加意識を提供し、 組合組織化への労働者の要求を低下させているごと、
そして第三に、 柔軟な作業組織と人的資源配分によって、 労働力の弾力的な配 置を笑施していることであった。 これにたいしてフォルクスは、 第一の特徴に 関しては否定的な結論を出している。 乙れは、 フォルクスの調査の対象が大企 業であるごとと深い関連があるものと思われる。 しかし、 ごれ以外の第二、 第 三の特徴については両者の見解にかなり共通した部分が見られる。
それゆえと乙では、 人事管理の個々の具体的な中昧については両者に若干の 相違が見られるものの、 従来の伝統的な組合型労使関係システムとはかなり異 質な人事管理を通じて、 労働者と企業の一体感を醸成し強化するという点が、
非組合型労使関係システムの中核を占めるのではないかという結論をひとまず 提示しておくごとにしたい。
そして、 以上のような特徴を持つ非組合型労使関係システムは、 伝統的な組 合型労使関係システムよりも高い競争力を備えており、 伝統的な組合型労使関 係システムが変容するにあたって目標とすべきモデルの役割jを果たしているよ うに思われるのである63)
表17 非組合型労使関係システムに関するパーマとコーハンと、 フォルクスの見解の比較
パーマとコーハン フォルクス
①組合部門よりも相対的に労働コストが低い 一一令 否定
(フォルクスが大企業を対象に しているからと思われる)
②革新的な報酬制度、 労使間のコミュニケー ーー今 雇用保障、 企業内部からの昇 ションの鉱大および従業員参加プログラムの 進、 平等色の強い賃金・付加給 実施によって、 労働者により大きな満足と参 付、 労使閣の情報の共有などに 加意識を提供し、 組合組織化への労働者の要 よる信頼と信用の情況の創出 求を低下させている
③柔軟な作業組織と人的資源配分によって労 ー-;・ 肯定
働力の弾力的な配置を実施 (非組合大企業の人事管理の成 果として言及)
(出所) Verma and Kochan,op.ciL.
Foulkes, op. ci t.
Y王
1) A.Verma and T.A.Kochan, “ηle Growth and Nature of the Nonunion
Seclor within a Firm" ,Cha11enges,p.91.
2) Ibid., pp. 91 '"'-'93.
3) Ibid., pp. 93 '"'-'94.
4) Ibid.,p.94.
5)戸塚氏は、 pay-for-know1edgeを、 労働者がとなしうる職務の幅をひろげ て多能工化するに応じて一定の加給をする制度であるごとから、 「多能工 化奨励加給jと訳している。 いいだもも、 山田鋭夫編『アフター・ フォー デイズムと日本』御茶の水書房、 1992年、 44ページ、 48ページ。
6) Ibid., pp. 95 '"'-'96.
7) Ibid.,pp.97 '"'-'102.
8) Ibid., p.103.
9)ハリー・ C・ カッツ「就業組織と労働市場構造一アメリカはどこへJ Ir日 本労働協会雑誌』第353号、 1989年、 39ページ。
10) Verma and Kochan,op.cit.,p.103.
11) Ibid., pp. 104'"'-' 106.
12)センシング・セッションとは、 一人あるいは数人の管理者と少数の従業員 が、 職務に関連した事項について討議することである。 Ibid.,p.109.
13) Ibid., p. 109.
14) Ibid., p. 111.
15) Ibid., pp. 106'"'-' 109.
16) F.K.Fou1kes,Pcrsonnel Po1icies in Large Nonunion Companies,
PrenLice-Ha11,1980,p.5.
17) Ibid. ,pp.3'"'-'5.
18) Ibid., p. 6, p. 8.
19) Ibid., p. 8.
20) Ibid.,p.7.
21) Ibid.,pp.325�326.
22) Ibid. ,pp.45 �46.
23) Ibid. ,pp.55 �56.
24) Ibid.,pp.66 �68.
25) Ibid. ,p. 19,p.39.
26) Ibid. ,p.39.
27) Ibid. ,pp.26 �29,p.39.
28) Ibid. ,pp.29 �32,p.39.
29) Ibid. ,p.39.
30) Ibid.,p.18,p.39.
31) Ibid. ,pp.330�331.
32) Ibid., p. 99.
33) Ibid.,p.99.
34) Ibid.,p.99,p.121.
35) Ibid.,p.118.
36) Ibid., p.124.
37) Ibid. ,p.125.
38) Ibid. ,pp. 128�129.
39) Ibid. ,pp.125�127.
40) Ibid.,pp. 128�129.
41) Ibid.,p.142.
42) Ibid.,p.95.
43) Ibid.,p.71.
44) Ibid. ,pp. 71 �72.
45) Ibid. ,pp. 72 �73.
46) Ibid. ,p.166.
47) Ibid. ,p. 160,p.163,p.166.
48) Ibid. ,pp.168�169.
49) Ibid. ,p.168.
50) Ibid.,p.169.
51) Ibid., p. 188.フォルクスが引用しているマイヤーも、 業績給の最大の問題 点は、 ごのような、 従業員の自己の業績に対する過大評価であると指摘し ている。II.H.Meyer, “TIle Pay-for-Performance Dilemma" ,
D.S.Beach,Managing People at Work(3rd.ed.) , Macmillan Publishing,
1980.
52) Ibid., p.190.
53) Ibid., pp. 209�210, pp. 215�219.
54) Ibid.,pp.228�242.伝統的な給付建て退職所得プランを補完するとれらの プログラムは、 次に述べる4つの相互に密接に関連した目的を持ってい る。第一に、 公正さと経済的平等という哲学に、 経営側が忠実であること の明確な表明として役立つこと、 第二に、 企業の将来の経済的な利害関係
に従業員を関与させることによって、 従業員をその企業の目標と一体化さ せるごと、 第三に、 従業員の動機づけに貢献すること、 そして第四に、 個
々の従業員の所得保障を改善するごとである。 Ibid.,pp.247�261.
55) Ibid. ,pp.260�261.
56) Ibid. ,pp.261�263,pp.276�296.
57) Ibid. ,pp.299�300.
58) Ibid., p. 300, p. 318.
59) Ibid. ,pp.63 �66.
60) Ibid. ,pp.340�341.
61) Ibid. ,pp.325�326.
62) Ibid. ,pp.330�331.
63)非組合型労使関係システムの解明という課題へのととでの回答が十分なも のであったとは思われない。またこれまで見てきたように、 アメリカの非 組合大企業の人事管理は、 いわゆる日本的経営とかなり類似している点も
あるようである。 非組合型労使関係システムは、 今後、 日本的経営のアメ リカへの移転可能性が議論される際、 より重要な問題となってくるのでは ないだろうか。 これら諸々の課題は、 今後の検討に委ねるごとにしたい。
•
第三�6主主主 来斤しし、タヲイ吏再訂壬系 三/二之、ラ=- ._Lλ
本章では、 労働j市場および製品市場の変化に対処するために、 伝統的な組合
冊j労使関係システムを擁する企業が、 戦略、 団体交渉、 職場の各レベルにおい て導入したいくつかの変革を見ていく。
第1節 戦略レベル
アメリカ労働運動の伝統であるビジネス・ユニオニズムゆえに、 従来は独占 的に経営の統制下にあった企業の戦略的意思決定に、 近年、 労働組合が参加す る動きが見られる。 それは次のようないくつかの形態をとっている。
①産業レベルの労使委員会(industry-level labor management
committee )。 多数の使問者と単一あるいは少数の組合から燐成される競争の
激しい産業では、 歴史的に、 相互に関心を持っている問題を話し合うために、
産業レベルの労使委員会が形成されてきた。 乙のような委員会の例としては、
1974年に食品小売業で始まった 「食品小売業労使共同委員会J ( “Joint
Labor-Management Co mmittee of the retail food industry" )がある1)。
②取締役会への組合代表の参加。 このような事例は、 クライスラ一、 パン ・ アメリカン航空、 イースタン航空、 ウエスタン航空などいくつかある2)が、 そ
のなかで震も有名なのはクライスラーのそれであろう。
当時、 ビッグスリーのなかで最も早い時期に業績が悪化し倒産の危機に瀕し ていたクライスラ一社は、 アイアコッ カ(Iacocca) の 指揮のもと経営体質の改 善に努めたが、 その一環として1979年10月、 2億300万ドルもの賃金・付加給 付の譲歩を迫る労働協約をUAW (全米自動車労組)との問で締結した。 そし て、 ごのような組合の再建協力への見返りとして、 80年5月にUAW会長であ ったフレーザー(fras er)の取締役会入りが実現したのである。
③トップレベルでの協議会(top-level communicaLion sessions)。 これは労 働協約で同意されたものであるが、 協議会それ自体は協約外である。 このよう な例としては、 フォードとUAWとの聞の労使成長協議会(Mutual Growth
Forum)、 ボーイングとI AM (国際機械工組合)との間の annual technology briefing、 AT&TとCWA (通信労組)との聞のCommon Inlerest Forumな どがある3)。
④従業員持ち株布IJ'I)と取締役会への労働者の参加の併用。 乙れは、 イースタ ン航空、 ウエスタン航空、 その他いくつかのトラック輸送会社の事例がある
5 )
⑤職場や工場レベルでの活動を通した下からの参加。 戦略的な意思決定への 組合の参加は、 必ずしも、 取締役会や産業レベルの労使委員会のように高いレ
ベルから出発する必要はない。 例えば、 乙のような下からの参加の例として は、 GMのフィエロ(Fiero) 工場がある。 乙の工場の労使共同委員会構造の トップレベルに位置する経営チーム(administrative team) は、 工場の長期的 な計画に関与している。 例えば、 1985年には、 ごのチームはGMの経営委員会 (executive committee) に対してフィエロ工場の5ヶ年計画を提出したという
6) 0
では、 ごのような戦略レベルでの参加は、 組合にとってどのような意味をも つのであろうか。 マッカーシーによれば、 企業の意思決定への参加を組合が警 戒する理由としては、 次のようなものがあるという"。
①参加によって、 労働者の利益を守るという組合の主要な機能が弱められる
恐れがある。
②取締役会の仕事の進め方が、 そもそも大部分の労働者や組合のリーダーに は疎遠である。
③取締役会が一般組合員にとって不利益な決定を下した場合、 それに参加し
ていた組合のリーダーと一般組合員との間の信頼感が倍らぐ恐れがある。
④状況が悪化した場合、 経営側はその責任を組合と分かち合おうとする恐れ がある。
⑤企業の業績が好調であり、 それにたいして取締役会に参加している組合の リーダーが貢献していたとしても、 その事実が一般の組合員に知られない恐れ がある。
⑥参加に関して長い経験をもっスカンジナビア諸国や西ドイツからの報告に よると、 労働者は、 企業の意思決定に代表を送るよりも、 職場レベルでの直接 的な発言に高い優先順位を与えている。
これとは反対に、 企業の意思決定への参加を組合が好む理由としては、 次の 三つがある8)。
①企業の意思決定にたいして影響力を行使することが、 広い意味での社会的 活動であると考える組合のリーダーがいる乙と。 例えば、 1946年にUAWの当 時の会長であるウォルター・ルーサー(Wal ter Reu ther)が、 自動車メーカーの 価格決定や利潤に関して財務内容を公開するように要求したのはその例であ る。
②労使協力によって企業の業績を回復し、 労使間で分け合うパイを大きくす るため。
③例えば、 組合に組織されている工場から未組織の新工場へ生産を移転する
「緩慢な組合員減らしJ ( “creeping decertification" ) と呼ばれるよう な、 組合に不利益をもたらす企業戦略を抑制するため。
いずれにせよ、 戦略レベルでの組合の経営参加は、 労使の関係に運命共同体 的な色合いを持ち込む。 それゆえ、 両者とも、 厳しい環境圧力に直面したとき しか乙のような道を選択しようとしないし9 )、 その実施にあたっては、 労使の
いずれか一方あるいは両方の各階層からの抵抗が発生する可能性が高い10) 。
第2節 団体交渉レベル
寸l体交渉レベルで導入された変革は、 団体交渉の結果における変化
(bargaining outcome changes)と団体交渉の過程における変化(bargaining process changes)の二つに分けられる(表8参照)。
まず、 団体交渉の結果におりる変化の第ーにあげなければならないのは、 賃 金・付加給付に関する労働側の譲歩である。
表18(122ページ)は、 1979'"'"'84年における主要な労働協約の有効期間中の
報酬調整率(raLe of compensation adjustments) 、 組合・非組合両部門の雇 用コストの伸び率、 それに消費者物価指数の年間伸び率を示している。
例えば、 報酬調整率は、 1982年に大幅に低下し、 83・84両年も以前より相対
的に低い水準にとどまっているが、 乙の低下の原因は、 当時のインフレ率が低 かったために、 とれと連動して生計費調整条項に基づく報酬調整率が低下した ことだけでなく、 譲歩交渉の結果、 COLA (生計費調整手当)の支払いが延期あ るいは一時的に中止されたことにもよる 111 0
また、 同僚に賃金・付加給付の譲歩によって、 1983年に初めて非組合部門の 雇用コストのややぴ率が組合部門のそれを上回ったが、 ごれによって、 70年代に 拡大し続けた組合・非組合部門の雇用コスト格差が縮小する傾向を見せている
12)
次に、 団体交渉の結果におりる変化の第 二は、 作業組織や人的資源配分にお ける柔軟性の増大を口的としたワークルールの変更である13) 。 これは、 職務 内容の鉱大、 残業の割り当てに関する経営側の発言権の拡大、 経営側がより自 由に下請けを利用する権利の獲得、 労働者の自発的な配転に対する経営側の規 制強化などを意味しているが1-4) 、 それはまた、 非組合型労使関係システムか ら伝統的な組合型労使関係システムへの革新の波及であると理解できょう。
それでは、 団体交渉の過程における変化に移ろう。 乙れは、 以下の4つに分 類できる。
①交渉構造の分権化。 乙れは、 自動車、 ゴム、 精肉などの産業において従来