九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
風波界面における運動量・ガス交換機構のモデル化 に関する研究
宮﨑, 大輔
http://hdl.handle.net/2324/1959158
出版情報:九州大学, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
風波界面における運動量・ガス交換機構の モデル化に関する研究
平成 30 年 7 月
宮﨑 大輔
i
目次
第 1 章 序論 1
1.1 研究の背景 1
1.2 従来の研究 3
1.2.1 風波界面の遷移・砕波過程 3
1.2.2 水表面粗度長および海面抵抗係数の波浪依存性 6
1.2.3 ガス交換速度の波浪依存性 8
1.3 本研究の目的と論文の構成 10
記号表 12
参考文献 13
第 2 章 風波界面の遷移過程に関する実験的検討 25
2.1 はじめに 25
2.2 実験装置および実験条件 25
2.3 風速変化による風波界面の遷移過程 28
2.4 吹送流と風波パラメータの関係 29
2.5 おわりに 33
記号表 35
参考文献 36
第 3 章 風波のストークスドリフト流速を用いた水表面粗度長の
無次元表示と経験式 48
3.1 はじめに 48
3.2 室内実験・現地観測データの性質 50
3.2.1 海面抵抗係数と風速の関係 50
3.2.2 風波界面における局所平衡性 51
3.3 風波のストークスドリフト流速と吹送流の関係 52 3.4 ストークスドリフト流速による無次元表示と経験式 54
3.4.1 水表面粗度長の無次元表示 54
ii
3.4.2 水表面粗度長の経験式の構築 56
3.4.3 海面抵抗係数の経験式の構築 58
3.5 おわりに 59
記号表 60
参考文献 61
第 4 章 風波界面におけるガス交換速度のモデル化とその適用性 71
4.1 はじめに 71
4.2 ガス交換速度のハイブリッドモデルについて 71 4.3 ハイブリッドモデルの手法に基づくガス交換速度の定式化 73
4.3.1 乱流項 73
4.3.2 砕波項 78
4.4 ガス交換速度モデルの性質 80
4.4.1 経験式との適合性 80
4.4.2 室内実験データとの適合性 81
4.4.3 乱流項と砕波項の波齢依存性 81
4.5 現地観測データへの本モデルの適用性 82 4.5.1 海洋上において評価された摩擦速度の性質 82
4.5.2 経験式と本モデルの比較 84
4.5.3 現地観測データと本モデルの比較 85
4.6 おわりに 87
記号表 89
参考文献 91
第 5 章 結論 107
謝辞 110
1
第 1 章 序論
1.1 研究の背景
人類による石油・石炭等の化石燃料の大量消費は,
18
世紀末に起こった産業 革命に端を発する.これ以降,急激な人口増加や経済発展に伴って化石燃料の 消費量はさらに増大し,大気中に大量の二酸化炭素(CO
2)を排出し続けている.大気に残留する
CO
2濃度は,年々上昇を続けており,2015
年時点でその濃度は400ppm
にまで達している(図1-1
参照).大気中のCO
2濃度の増加に伴い,世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)も上昇を続 けている(図
1-2
参照).1970
年代になり,人類による化石燃料の大量消費と 大気中のCO
2濃度上昇の因果関係が科学的見地から調べられるようになり,1980
年代以降,CO
2 に代表される温室効果ガスの地球温暖化問題(global
warming
)が研究者の間で大きく取り上げられるようになった.地球温暖化問題に関する科学的情報を収集・報告する,国連気候変動に関する政府間パネル
(
Intergovernmental Panel on Climate Change
:IPCC
)の第5
次評価報告書Climate Change 2013: The Physical Science Basis (Stocker et al. 2013)
によ れば,20
世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的要因が人間活動である可能 性は95%
以上であること,海洋が人為起源のCO
2の約30%
を吸収して海洋酸性 化を引き起こしていること等が報告されている.また,Climate Change 2014:
Mitigation of Climate Change 2014 (Edenhofer et al. 2014)
によれば,地球温 暖化を緩和する多くのシナリオについて報告されており,その実現のためには どのような技術革新が必要であるかについて記述されている.これらのシナリ オは,エネルギー政策,技術革新,国際協調,気候変動等の将来予測モデルに 基づいて作成されている.全球気候モデルは,将来予測シナリオの作成における重要な科学的基盤とな るが,その中の重要な物理過程である大気海洋相互作用は,海洋が
CO
2の巨大 な吸収源であることから非常に大きな支配因子であると考えられる.このため,2
大気-海洋間の運動量,熱,
CO
2 等の交換機構を理解し,正確に評価すること は,全球気候モデルの精度向上や地球温暖化の将来予測に直結する重要な流体 工学的課題であると考えられる.海 面 を 通 して の 運 動量 フ ラ ック ス を 応力 の 形 で捉 え た 海面 せ ん 断応 力
τ
0[N/m
2]
は,一般に海面抵抗係数C
Dzを用いて表現され,CDzは次式のように定 義される.τ
0= ρ
au
*2= ρ
aC U
Dz z2(1.1)
ここで,
ρ
a[kg/m
3]
は空気の密度,u
*[m/s]
は気流側の摩擦速度,U
z[m/s]
は海上高 度z[m]
における平均風速である.また,大気側の接水境界層においては,陸上 と同様に,中立成層状態において,次式で表される対数分布則が成立すること が知られている.κ
=
* 0
1 ln
Uz z
u z
(1.2)
ここで,
z
0[m]
は水表面粗度長,κ
はカルマン定数であり,高度としてz=10m
を 用いることが多い.上式は形式的に次のように変形することができる.( κ )
0
=
exp
Dzz z
C (1.3)
式(1.3)より,ある高度
z
において測定されたC
Dzとz
0の値は1
対1
に対応する ことがわかる.従って,CDzからz
0を,逆にz
0からC
Dzの値を求めることがで き,CDzとz
0は等価である.ただし,CDzとz
0は等価であっても,CDzのデータ は比較的まとまりやすい傾向にあるのに対して,z0 のデータは分散する傾向に ある.CDzまたはz
0を定量的に評価することは,海面交換過程研究の最も重要 な課題であり,後で示すように,これらの評価には多くの研究者による先行研 究が存在する(Jones and Toba 2001).一方,海洋表面における
CO
2フラックスF [ μ mol/m
2s]
は,一般に次式のよう3
なバルク表現の式によって評価されている.
=
LΔ CO
2F k S p
(1.4)
ここで,kL[m/s]
はガス交換速度,S[mol/m3atm]
はCO
2 の海水への溶解度,Δ pCO
2[μatm]
は大気と海洋表層のCO
2分圧差である.ガス交換速度k
Lは液相 側物質移動係数であり,これはCO
2が高シュミット数(水温20
℃の真水に対し てはSc= 600
)の低溶解性気体で,その界面移動現象は液側抵抗支配になるこ とによる.全球におけるフラックスの完全なマッピングを行うためには,全球において
k
LとΔ pCO
2の時空間的な値を得る必要がある.気象庁によると,海面表層のCO
2分圧に関しては,数多くの研究機関による観測データを基に作成されている表 面海水二酸化炭素観測データベース(例えば,SOCAT,Bakker et al. 2016)
などの観測値を基に算出されている.また,大気側の
CO
2分圧に関しては世界 各地で観測されたCO
2濃度のデータを基に解析した値が用いられている.一方,ガス交換速度
k
Lについては,海上高度10m
の平均風速U
10の関数として経験的 に表された多くの評価式が提案されている.ガス交換速度k
Lの推定値は,評価 式ごとにかなりのばらつきがあり,どの評価式を適用するかによって,全球のCO
2収支が大きく異なることが問題となっている.以上のように,全球の海面
CO
2フラックスの推定精度を向上させるには,全 球のCO
2分圧差ΔpCO
2の詳細な分布と,風波界面におけるガス交換速度k
Lを いかに正確に評価するかが重要であることがわかる.1.2 従来の研究
1.2.1 風波界面の遷移・砕波過程
風によって駆動される水面波は風波(
wind wave
)と呼ばれ,海面上の風と風 波は砕波調節を介して局所平衡状態になろうとする(例えば,Toba et al. 2006;
草場
1989
など).風と風波が局所平衡状態にある場合,風波卓越波の特性量で ある有義波高と有義波周期の間には,Toba
の3/2
乗則(Toba 1972; Toba et al.
2006
)と呼ばれる次式のような相似則が成立しており,この統計的相似性は風 波の極めて強固な力学的性質と認識されている.4
=
3 2 2
* *
S S
gH gT
u B u
(1.5)
ここで,
g[m/s
2]
は重力加速度,u
*[m/s]
は気流側の摩擦速度,H
s[m]
は有義波高,T
s[s]
は有義波周期である.また,B は比例係数であり,局所平衡状態にある風 波界面ではB=0.062
の値を取ることが知られている.図
1-3
に,風波界面での交換過程に関わる物理現象の模式図を示す.局所大 気海洋相互作用,すなわち風波界面を通しての運動量,熱,物質等の交換過程 は,乱流,界面崩壊,気泡を伴う複雑な界面移動現象である.また,図1-4
に,風洞水槽実験において撮影された,高風速下における激しい界面崩壊と気泡生 成を伴う風波界面の一例を示す.砕波は,直接的な界面崩壊や気泡生成に加え て,水表面近傍の乱流混合を強化することを通して気液濃度境界層を非定常に 伸縮させ,CO2 などのガス交換を著しく促進している.また,水中に浮遊する 気泡と液相間では直接ガス交換が行われている. 海面上では砕波領域が非定常 に生成・消滅を繰り返しており,気泡生成を伴う大規模な砕波は,白波砕波
(whitecap)と呼ばれている.白波砕波の定量化手法として,一般に単位面積 当たりの海面に存在する白波砕波面の面積が用いられており,そのような面積 比は白波被覆率(
whitecap coverage
)と呼ばれる.白波被覆率の定量化においては,
Monahan (1993)により提案された海上風速の 3
乗に比例するモデルがよく用いられるが,その波浪依存性も海面境界過程の重要な研究課題である
(
Sugihara et al. 2007
).水表面に作用する風応力は水中に吹送流(drift current)と呼ばれる平均流を 駆動する.風応力によって大気の運動量は海洋へと輸送され,その運動量はせ ん断流と波動へと分配される.このような風波界面を通しての大気から海洋へ の運動量の注入経路を模式的に表したものが図
1-5
である.これは運動量輸送 を単純化したものではあるが,代表的な3
つの輸送経路があると考えられる.1
つ目の経路は,前述のように,直接的に水中のせん断流に輸送されるもの,2
つ 目は,風波成分波のような比較的短波長の波動に輸送され,最終的には砕波過 程を通して水中の流れの運動量へと転化されるもの,そして最後の3
つ目の経 路は,長波の波動成分に輸送されるものである.このように3
つの運動量の輸 送経路があるが,風から輸送される運動量の鉛直下向きフラックスの総和と,水中における下向きフラックスの総和は保存することになる.海面交換過程研
5
究の大きな課題は,それぞれの輸送経路の運動量の割合を具体的に計算するこ とであり,これは運動量分配問題とも称されるべき重要な問題である.この問 題の解決は,風波界面の運動量輸送のメカニズムが明らかにされ,定量的に予 測可能になることを意味する.しかし,現状はこの問題の解決にはほど遠い状 況である.その大きな障壁は,砕波と乱流がその過程にどのように関与してい るのかを理解することが,その複雑さ故に著しく困難なことである.
このように,風波界面での運動量やガスの交換過程のメカニズムは,風波界 面近傍に形成される砕波乱流場に支配されており,そのような乱流場は,海上 風速や波浪の状態に対応した風波界面の形態によって大きく変化している.風 波界面の形態の遷移過程は,水面動揺をほぼ無視できる滑面から表面張力波へ と移行し,さらに重力波としての風波が発達して砕波に至り,砕波を伴う風波 界面は完全粗面へと移行する.このような風波界面の遷移のプロセスは,当然,
大気-海洋間の運動量輸送と複雑に絡み合っており,風波界面の遷移は砕波発 生の臨界現象と捉えることができる.
海上風速の増加に伴う風波界面の遷移過程を明らかにする上で,砕波発生の 臨界条件を与える無次元パラメータを見出すことが重要であると思われる.風 波界面の遷移については幾つかの先行研究が行われている.その代表的なもの
として,
Toba and Koga (1986)
の研究がある.彼らは,下記のような無次元パラメータ
R
Bを用いて砕波発生を表すことができると指摘している.= ω ν
*2B
p a
R u
(1.6)
ここで,
ν
a[m
2/s]
は空気の動粘性係数,ω
p[1/s]
は風波のピーク角周波数である.上式は,代表速度スケールとして気流の摩擦速度
u
*を,代表長さスケールとし てu
*/ ω
pをとるレイノルズ数と考えることができ,RBは風波レイノルズ数とも 呼ばれている.Toba et al. (2006)
によれば,上記のR
Bが200
付近において,微 小砕波が発生し,1000
を超える条件下において気泡生成を伴う砕波が発生する とされる.図1-6
は,Toba et al. (2006)
が提示した,RBの変化に伴う風波界面 の遷移の様子を模式的に示している.一方,Mitsuyasu (2017)
は,気流側の摩擦速度
u
*=0.2m/s
付近において水表面の様相が遷移すると指摘している.彼は,平均風速と摩擦速度の関係性,また風波のスペクトルの遷移がこの臨界条件で発生
6
すると述べている.この摩擦速度
0.2m/s
は経験的に知られている砕波発生の海上風 速である8m/s
に相当しており,非常に興味深い主張である.ただし,Mitsuyasu
は,砕波の臨界条件として次元量を用いており,これがあらゆるスケールの風波に有効で あるか否かについて,その普遍性に関する検証が必要であると思われる.
風波界面の遷移過程を明らかにする上で,砕波発生を記述するパラメータを 確定させることが重要であるが,どのようなパラメータが風波界面の遷移の記 述に有効であるかについては未だ十分に確立した結論が得られていないのが現 状であると思われる.
1.2.2 水表面粗度長および海面抵抗係数の波浪依存性
風波界面の形態は水表面粗度長
z
0を用いて定量化できるかもしれない.しか し,通常の固体表面上の場合と異なり,風波界面における粗度長は,界面近傍 の乱流場が粗度長を変化させ,さらに粗度長の変化が乱流場を変化させるとい う相互作用を介して動的に変動する.そのため,風波界面の粗度長を定量化す ることは固体表面上のそれと比べて著しく困難である.図
1-7
に,室内実験データと現地観測データに基づいて得られた,代表的な 従来の研究における無次元粗度長gz
0/u
*2と波齢の逆数u
*/c
p(=u
*ω
p/g)との関係
を表した経験式を示す.また,図中の経験式の関数形は表1-1
に示されている.ここで,cpは風波卓越波の波速である.波速
c
pは微小振幅波理論を適用するこ とによってc
p=g/ ω
pを用いて評価することができる.波齢A
w=cp/u
*は風波の発 達状態を表す無次元パラメータであり,その逆数は波風径数とも呼ばれる.無 次元粗度長gz
0/u
*2が波齢の逆数u
*/c
p(=u
*ω
p/g)
と結びつく根拠は,粗度長z
0が 摩擦速度u
*,重力加速度g,さらに風波卓越波の波速 c
p(または角周波数ω
p) によるとする次元的考察に基づいており,その考え方は自然で受け入れやすい ものである.ただし,これらのパラメータ空間で示された多くの経験式がある が,図に示されるように,定性的にも異なる挙動を示すものが多数ある.また,表
1-1
は,無次元粗度長gz
0/u
*2に関する従来の経験式が様々な関数形で表現さ れていることを示唆している.これらには,明らかに異なるz
0のパラメタリゼ ーションが混在しており,風波界面における粗度長を波浪パラメータを用いて 定量化することが一筋縄ではいかない困難な課題であることを示している.こ れらの関係式のゼロ次近似の式として,Charnock (1955)の関係がある.これは 無次元粗度長gz
0/u
*2 が一定値であるとするもので,広く利用されている.7
Masuda and Kusaba (1987)
は,精緻な室内実験の結果に基づいて無次元粗度長gz
0/u
*2は波齢の逆数に比例すると報告した.Toba et al.(1990)
は,現地観測デー タを含めた検討から,無次元粗度長gz
0/u
*2は波齢に比例すると指摘している.彼らの経験式では,同一風速条件下では,風波の卓越波が発達するにしたがっ て粗度長が増大することになり,粗度長を規定するのは風波の卓越波であるこ とを示唆する.従って,
Masuda and Kusaba (1987)
とToba et al.(1990)
におけ るgz
0/u
*2の波齢依存性は定量的に全く逆になる.さらに,Nordeng (1991)
は,gz
0/u
*2が逆放物線のような挙動を示す経験式を提案している.これは,波齢の 逆数の上昇とともにgz
0/u
*2がまず増加し,その後減少するというものであり,極めて複雑な挙動を示している.このように,無次元粗度長
gz
0/u
*2に対する波 齢の逆数,または波齢に関する多くの経験式が提案されているが,本来どのよ うな挙動を取るべきかに関する議論は収束していない.特に着目すべき点とし て,波齢の逆数u
*/c
pの値において,室内実験データと現地観測データの間に明 らかな定量的差異があることである.両者の違いは,室内実験データと現地観 測データとの波齢依存性の違いにあるのかもしれない.また,風波のスケール は室内実験データと現地観測データでは大きく異なるにも関わらず,gz0/u
*2 の値は
Charnock (1955)
の式の付近に存在していることがわかる.このように,波齢の逆数(波風径数)もしくは波齢を用いた室内実験データや現地観測データ の粗度長
z
0のパラメタリゼーションの決定的な解決法は未だ存在していない.その原因の一つは,z0を無次元化する際に,摩擦速度
u
*を用いていることに起 因するかもしれない.摩擦速度u
*の代わりに,風波の有義波高H
sを用いてz
0を無次元化する試みや(例えば,
Drennan et al. 1996)
,水面変動エネルギーの 平方根であるσ [m]
を用いる方法(例えば,Donelan et al. 1993
)も試みられて いるが,これらの評価法も室内実験データと現地観測データの挙動の違いを解 決するには至っていないように思われる.そもそも,そのような風波界面における「粗度長の実体とは何か」について 十分に確立された理論が存在しないのが現状である.増田
(2004)
は,「海面粗度 の実体は風波の高周波スペクトルによる海面起伏である」との仮説を立て,粗 度長を定式化するアイデアとして次式のような表現を提案している.β
ω
α γ ν
=
2 *
*
0
( , , )
*; spectral structure 60
p
u
z u g u h
g g
(1.7)
8
ここで,
γ
は表面張力係数であり,β
はべき指数である.α
およびh
はある関数に よって与えられる補正を示しており,h
の関数は波浪スペクトル構造に依存して 変化することを意味している.これらの関数形の具体的な形は明らかになって いないのが現状である.また,増田(2004)
は,従来の室内実験データと現地観 測データを解析し,よほど異常な波浪状態でない限り,無次元粗度長gz
0/u
*2の値は
0.001
から0.1
の間に収まることを指摘している.さらに,粗度長z
0の値は,室内実験データの多くが対数分布則で,観測データの多くが渦相関法によ って取得されたものであり,データを解釈する際には測定法の違いについても 注意する必要がある.
図
1-8
に,従来の代表的な経験式における海面抵抗係数C
D と海上高度z=10[m]
での平均風速U
10との関係を示す.また,表1-2
にはこれらの経験式の 関数形が示されている.以降,海上高度z=10m
における抵抗係数C
Dzを単にC
Dと記述する.前述のように粗度長z
0と海面抵抗係数C
Dは等価であり,本来,粗度長が波齢に依存するなら,抵抗係数も波齢に依存するはずである.しかし,
海面抵抗係数には波浪依存性が表れにくく,多くの経験式が
U
10 のみによって 記述されている.しかし,抵抗係数と粗度長の等価性を考えた場合,両者の経 験式は,その原理上,相互に変換可能であるべきで,もし抵抗係数が波浪特性 への応答が鈍い物理量であるとすれば,波浪依存性は粗度長において定量化し,波浪パラメータで記述された無次元粗度長の関数形を海面抵抗係数に変換する ことが本来取るべき適切な手順であろうと考えられる.
1.2.3 ガス交換速度の波浪依存性
風波界面での物理過程が海上風速に規定されると考えるのは自然であり,こ れまでの研究では海上高度
10m
における平均風速U
10もしくは気流側の摩擦速 度u
*を用いて,海面のガス交換速度を定量化する試みが多く行われている.図1-9
に代表的なガス交換速度k
L[cm/h]
の評価式と海上風速U
10[m/s]
との関係を 示す.また,図中の経験式の関数形は表1-3
に示されている.ここで,図中の 評価式は,水温20
℃の真水におけるCO
2のシュミット数Sc=600
の値に換算さ れたものであることに注意する.この図より,同一風速条件の推定値は,経験 式ごとに大きくばらつくことがわかる.このようなばらつきの原因の一つは,ガス交換速度が海上風速のみで表現できないことに起因すると考えられる.な ぜなら,海上風速が同じでも,風波は吹送距離や吹送時間によってその発達状
9
態が異なるからである.風波のスケールによって界面近傍の乱流状態が大きく 変化するとすれば,ガス交換速度は海上風速だけでなく,波浪状態にも依存す ると考えるのは自然である.従って,風波界面におけるガス交換速度は,風速 のみの関数でなく,風波特性量を含めて定量化されるべきである.
実海洋に比べてガス交換速度
k
Lが測定しやすく,風速等の条件を制御できる ことから,風洞水槽を用いたガス交換に関する室内実験も数多く行われてきた.Ocampo-Torres et al. (1994)
は,バブル式の気液平衡器を用いて溶存CO
2濃度 を測定し,気流中および水中のバルク領域における溶存CO
2濃度の時間変化か らk
Lを評価している.彼らが用いた風洞水槽は,閉鎖性の循環風洞水槽である ため,風洞内のCO
2の総量は保存されている.また,得られた kL の値は風洞 水槽の界面全体の平均的なk
Lである.風波は吹送距離とともに発達していくた め,吹送距離ごとに風波特性量は異なることになる.そのため,彼らの実験結 果を局所的な波浪特性と結びつけて議論することはできない.Zhao et al. (2003)
は,Jähne et al. (1985)
の実験データのパラメタリゼーショ ンを行っており,ガス交換速度k
LがToba and Koga (1986)
が提唱した風波レイ ノルズ数R
Bの関数形で表される経験式を報告している.また,津守ら (2005) は,吹送距離ごとに気流側の
CO
2濃度と風速の鉛直分布を測定し,プロファイル法 を用いて局所的なCO
2フラックスを算定した.彼らは水側の溶存CO
2濃度を,疎水性多孔質膜チューブによる透過膜式気液平衡器を用いて測定している.彼 らの実験結果は,同一の摩擦速度に対しては,吹送距離が大きいほど
k
Lが増大 することを示しており,ガス交換速度が波浪状態に依存することを明確にして いる.さらに,彼らは,次元解析に基づいて,風波特性量を用いたk
Lのパラメ タリゼーションを実施した.摩擦速度u
*で無次元化されたk
Lは,風波クーリガ ン数(Ke≡u
*3/g ν
a)と波齢A
wを用いて普遍表示できることを示した.無次元化 されたガス交換速度k
Lが海面状態を表現するパラメータである波齢に依存する ことは前述の議論との関係から興味深い.ただし,ガス交換速度においても,室内実験と現地観測の間で定量的差異が見られるが,その原因は十分に明らか になっていない.
また,近年,ガス交換速度
k
Lの波浪依存性をより効果的に取り込むために,乱流による寄与
k
tと,砕波による寄与k
bを分離して,各々に対して適切と思わ れるモデル化を施し,それらの線形和をk
Lとするハイブリッドモデルのコンセ プトが注目されている(例えば,Woolf 2005; Soloviev et al. 2007
).10
= +
L t b
k k k
(1.8)
ハイブリッドモデルは,全風速領域に対して,単一の多項式を当てはめる従来 の経験式に比べて,各風速レンジで最適なモデル化を適用できるという利点が ある.また,低風速領域では乱流力学の知見に基づいて精緻なモデル化を行え る可能性があり,単なる海上風速との相関式である従来の経験式と比較してよ り有効なモデル化を行うことができると思われる.
以上のように,風波界面におけるガス交換速度の定量化においては,海上風 速だけでなく,海面状況を表す波浪パラメータを含めるべきである.波浪の発 達状態を表す代表的なパラメータとして波齢
A
wがあるが,ガス交換速度がどの ような波浪パラメータを用いて表現されるのかは十分に明らかにされていない.そのため,風波界面の遷移,砕波,乱流特性を適切に理解し,それらの知見に 基づいて海面交換過程を表現することが重要であると考えられる.
1.3 本研究の目的と論文の構成
海洋は
CO
2の巨大な吸収源であり,地球温暖化の正確な予測のためには,大 気-海洋間における海面抵抗係数(粗度長)やガス交換速度を正確に見積もる 必要がある.そのため,大気-海洋間の交換機構を流体力学的に理解し,適切 にモデル化することは,地球温暖化問題にアプローチする重要な流体工学的課 題となる.海面を通しての運動量フラックスやCO
2などのガス交換フラックス は,一般にバルク式の形で表現される.それぞれのバルク式における輸送係数 が,海面抵抗係数,ガス交換速度である.これらの輸送係数に,波浪特性の効 果を適切に取り込むことは,局所大気海洋相互作用をより適切にモデル化する 上で重要である.また,近年,大気-海洋-波浪結合計算が技術的に可能とな っており,将来的な大気-海洋間交換過程の予測に実装する輸送係数として,波浪推算と結合した海面抵抗係数(粗度長)やガス交換速度が必要となる.
このような背景から,本研究の目的は,風波界面における運動量・ガス交換 機構を波浪特性に基づいてモデル化する手法について検討することである.ま ず,回流式風洞水槽実験に基づいて,風波界面における遷移の素過程,特に砕 波への移行とその臨界条件の記述に有用な風波パラメータについて検討する.
11
次に,従来の風洞水槽実験および現地観測データを整理・統合し,風波卓越波 のストークスドリフト流速に基づいた水表面における粗度長の新たなパラメタ リゼーションの手法について述べる.さらに,風波界面におけるガス交換速度 を,乱流による寄与と砕波による寄与に分離してモデル化するハイブリッドモ デルの手法に基づいて,波浪特性を組み込んだガス交換速度の評価法の構築を 試みる.さらに,海洋観測塔において得られた現地観測データに基づいて,構 築したガス交換速度のモデル化の有効性について検討する.
本論文は,これらの研究成果についてまとめたものであり,以下のような全
5
章より構成されている.第
1
章では,本研究の背景および従来の研究について解説し,本研究の目的 と論文構成について述べている.第
2
章では,風速を種々変化させた回流式風洞水槽実験において得られた,可視化画像および風速,波浪,吹送流量に関する実験結果について説明する.
風波界面における遷移過程と風波パラメータの関係に着目し,どのような風波 パラメータが砕波の発生の記述に有用であるかについて検討する.特に,ここ では風応力のせん断作用によって水側に生じる吹送流に着目し,吹送流速が風 波界面を通しての運動量輸送を表す重要な物理量であるとのアイデアに基づい て,吹送流と風波パラメータの関係性について述べる.
第
3
章では,気流側から水側へ輸送される運動量が吹送流および波動に分配 される割合を表すパラメータとして,吹送流とストークスドリフトの流速2
乗 比を提案する.吹送流とストークスドリフトの流速2
乗比を用いた風波界面に おける粗度長のパラメタリゼーションについて検討し,同パラメータを用いた 粗度長の評価式を経験的に構築する.また,この粗度長の評価式を海面抵抗係 数に変換することにより,波浪状態を考慮した海面抵抗係数の評価手法を提示 する.第
4
章では,従来の研究におけるハイブリッドモデルの知見に基づいて,波 浪状態を考慮したガス交換速度のモデル化を行う.風波界面におけるガス交換 速度を,乱流による寄与と砕波による寄与に分離し,各々の寄与を流体力学的 な仮説に基づいてモデル化する.さらに,海洋観測塔において得られた現地観 測データに基づいて本モデルの有効性について検討する.第
5
章では,以上の結果を総括し,本論文の結論とする.12
記号表
Aw 波齢, cp/u*
B Tobaの3/2乗則の比例係数,0.062
CD 海上高度10mの平均風速で定義された海面抵抗係数 CDz 海上高度z[m] の平均風速で定義された海面抵抗係数 cp 風波卓越波の波速,g/ωp
F 海洋表面におけるCO2フラックス g 重力加速度
Hs 有義波高
kb ガス交換速度kLにおける砕波による寄与 Ke 風波クーリガン数,u*3/gνa
kL ガス交換速度
kt ガス交換速度kLにおける乱流による寄与 RB 風波レイノルズ数,u*2/ωpνa
S CO2の海水への溶解度
Sc シュミット数 Ts 有義波周期
U10 海上高度10mにおける平均風速
Uz 海上高度z[m]における平均風速
u* 気流側の摩擦速度 z 海洋表面からの高さ z0 水表面粗度長 γ 表面張力係数
ΔpCO2 海洋表層と大気中のCO2分圧差
κ カルマン定数
νa 空気の動粘性係数 ρa 空気の密度
σ 水面変動エネルギーの平方根 τ0 海面せん断応力
ωp 風波卓越波のピーク角周波数
13
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18
図
1-1
地球全体のCO
2濃度の経年変化(気象庁:
“
「気象業務はいま2017
」”のデータに基づいて作成)
図
1-2
世界の年平均気温の偏差の経年変化(基準値:
1981-2010
年の30
年平均値)(気象庁:“世界の年平均気温”のデータに基づいて作成)
340 350 360 370 380 390 400 410
1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 CO2濃度[ppm]
Year
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6
1880 1900 1920 1940 1960 1980 2000 2020
1981-2000年平均気温からの差[℃]
Year
基準値からの偏差 長期的な変化傾向
19
図
1-3
風波界面の交換過程に関与する物理現象図
1-4
砕波と気泡生成を伴う風波界面の一例(風洞水槽実験)図
1-5
風波界面における大気-
海洋間の運動量輸送の経路(
Csanady (2004)
に基づいて作成)20
図
1-6
風波界面の遷移と風波レイノルズ数の関係( Toba et al. (2006)
に基づいて作成)21
図
1-7 代表的な無次元粗度長と波齢の逆数(波風径数)との関係
図
1-8 代表的な海面抵抗係数 C
Dと海上風速U
10との関係10
-210
-110
010
110
-310
-210
-110
0Donelan(1990) Donelan(1990)[Lab.]
Nordeng(1991) Huang et al.(1986) Kitaigorodskii(1973) Toba et al.(1990) Charnock(1955)
Caulliez et al.(2008) Edson et al.(2013) Drennan et al.(2003) Volkov(2001)
Masuda and Kusaba(1987)[Lab.]
g z
0/ u
*2u
*/c
p0 10 20 30 40 50
0 1 2 3 4 5 6
Wu (1980)
Yelland and Taylar (1996) Large and Pond (1981) Dupuis et al. (2003) Babanin and Makin(2008) Foreman and Emeis(2010) Takagaki et al. (2012)
U
10[m/s]
C
D× 10 00
22
表
1-1 波齢の逆数 (
波風径数)
を含んだ代表的な水表面粗度長の経験式の関数形Charnock (1955) 2
0 . 0185
* 0
= u gz
Caulliez et al. (2008)
2 0
2
* * *
0.0045 c
pexp 0.23 c
pgz
u u u
= −
for u*/cp < 1Edson et al. (2013)
0.622
0 *
2
*
0.114
p
gz u
u c
=
Drennan et al. (2003)
1.7
0 *
2
*
1.7
p
gz u
u c
=
Volkov (2001)
0 2
* * *
0 2
*
0.03 exp 0.14 0.008
p p
c c
gz
u u u
gz u
= −
=
Masuda and Kusaba (1987) [Lab.]
1.10
0 *
2
*
0.0129
p
gz u
u c
=
Donelan (1990)
1.03
0 *
2
*
0.42
p
gz u
u c
=
Donelan (1990) [Lab.]
0.68
0 *
2
*
0.047
p
gz u
u c
=
Nordeng (1991)
( )
( )
03/4
0 *
2 0
*
2 3 1/2
0 0
0 0
0
*
0.11
1 1
2 6
2
p
x
p
gz u
u c x
x x
x e x
x c κ u
−
= Φ
Φ ≡ − + + +
≡
for 0.35 < cp/u*
for cp / u* ≥ 35
23
表
1-1 (つづき)
Huang et al. (1986)
( )
( )
01/2
0 *
2 0
*
2 3 1/2
0 0
0 0
0
*
0.085
1 1
2 6
2
p
x
p
gz u
u c x
x x
x e x
x c κ u
−
= Φ
Φ ≡ − + + +
≡
Kitaigorodskii (1973)
3/2
0 *
2
* *
0.068 exp p
p
gz u c
u c
κ
u −
= −
Toba et al. (1990)
0.5
0 *
2
*
0.02
p
gz u
u c
−
=
表
1-2 代表的な海面抵抗係数の経験式の関数形
Wu (1980)
1000 C
D10Ν= 0.8 0.065 + U
10Ν for 1m/s <U10N < 23m/sYelland and Taylor (1996) 10N 10N 10 N2
10N 10N
3.1 7.7
1000 0.29
1000 0.60 0.070
D
D
C U U
C U
= + +
= +
Large and Pond (1981) 10N
10N 10N
1000 1.14
1000 0.49 0.065
D D
C
C U
=
= +
Dupuis et al. (2003)
1000 C
D10N= 0.56 0.063 + U
10N for 6m/s <U10N < 18m/s Babanin and Makin (2008)C
D10N= 1.92 10 ×
−7U
10 N3+ 0.00096
for U10N ≤ 20m/sForeman and Emeis (2010)
(
10N)
210N 2
10N m D
U C b
C U
= +
Cm=0.051 b=-0.14 for U10N ≤ 30m/sTakagaki et al. (2012)
1000 C
D10N= 2.547
for U10N > 33 m/sfor 4m/s < U10N ≤ 10m/s for 10m/s < U10N < 26m/s
for 3m/s ≤U10N < 6m/s for 6m/s ≤U10N ≤ 26m/s
24
図
1-9 代表的なガス交換速度 k
Lと海上風速U
10との関係表
1-3 代表的なガス交換速度 k
L[cm/h]
の評価式(Sc=600)
Liss and Merlivat (1986):
0.17
10k
L= U
for U10 ≤ 3.6 m/s2.85
109.65
k
L= U −
for 3.6 m/s < U10 ≤ 13 m/s5.9
1049.3
k
L= U −
for U10 > 13 m/s Nightingale et al. (2000):k
L= 0.24 U
102+ 0.061 U
10Wanninkhof (1992):
1/2 2
10
0.31 600
660
kL U
−
=
Kuss et al. (2004):
k
L= 0.45 U
102Jacobs et al. (1999):
1/2 2
10
0.54 600
660
kL U
−
=
0 10 20
0 50 100 150 200 250
U10 [m/s]
kL [cm/h]
Liss and Merlivat(1986) Nightingale et al.(2000) Wanninkhof(1992) Kuss et al.(2004) Jacobs et al.(1999)
25
第2章
風波界面の遷移過程に関する実験的検討
2.1 はじめに
本章では,回流式の風洞水槽を用いた室内実験を実施し,種々の風速条件下 における風波界面の遷移過程の可視化写真および風速,波浪,吹送流量に関す る実験結果について説明する.風波界面における遷移過程と様々な風波パラメ ータの関係性に着目して,どのようなパラメータが砕波の発生の記述において 有効であるかについて検討する.風応力の水表面でのせん断作用によって水側 に生じる吹送流の流速は,風波界面を通しての運動量輸送の重要な側面を表し ており,吹送流と風波パラメータの関係について明らかにする.
2.2 実験装置および実験条件
本実験では,海面上の風によって駆動される風波界面をシミュレートする室 内実験を行うために,送風可能な風洞水槽を用いる.図
2-1
に,本研究で使用 した実験装置の概略図を示す(京都大学大学院工学研究科所有).本水槽は,全 長16m
,幅40cm
,高さ50cm
であり,上流端に設置されたファンを回転させる ことによって水槽内に送風することができる.水槽内に流入した風は下流部の 風洞出口から水槽外へ流出する.また,水槽の下に,下流端と上流端を繋ぐ円 形パイプが設けられている.水槽内を流れる水は下流端からこのパイプを通っ て上流へ輸送されることになり,水槽内に逆流を発生することなく水を循環さ せることができる.そのため,定常状態においては,下部のパイプ内の流量を 測定することによって,上部の風洞水槽内を流れる流量を評価することができ る.図2-2
に,この回流式風洞水槽の写真を示す.気流による摩擦速度
u
*を算定するために,水表面上において平均風速の鉛直 分布を測定した.風速の測定には,風による熱線の温度変化の特性を利用して26
風速値を定量化する熱線風速計が用いられた.平均風速の鉛直分布の測定は,
水槽上流端からの距離(吹送距離)Fr=
8.0m
の位置において行われた.図2-2
に示されるように,熱線風速計はトラバース装置に取り付けられており,トラ バース装置で風速計を昇降させることによって風速の鉛直分布を測定した.測 定点の数は風速条件によって異なり,水表面上の5
から8
点の高度において測 定が行われた.また,各点おける測定時間は60s
であり,その時間平均値が記 録された.水表面上の送風によって水表面にはせん断応力(風応力)が作用する.この 風応力は水中にせん断流を駆動する.このように,風応力の作用によって水中 に生起する流れを吹送流と呼ぶ.吹送流の運動量やエネルギーの起源は,水表 面上の風にあるため,吹送流の流速や流量は,気流側から水側への運動量やエ ネルギー輸送の程度を表す重要な指標となる.このような観点から,本研究で は,風応力により駆動される水槽内の水の流量およびその断面平均流速を,風 波界面における遷移を同定するパラメータとして取り扱う.本実験における吹 送流量は,水槽下の循環パイプに取り付けられた電磁流量計を用いて測定され た.また,断面平均された吹送流速は,得られた吹送流量を水槽内の水流の断 面積で割ることによって算定された.
波の波高と周期は,風波界面の波浪状態を定量化する上で重要な特性量であ る.本実験では,風波界面における水位変動を,容量式波高計を用いて測定し た.風速条件ごとに,サンプリング間隔
0.1s
,測定時間180s
において水位変動η
′を測定し,そのデータから,有義波高H
s[m]
,ピーク波周期T
p[s]
,ピーク角周波数
ω
p[s
-1]等の風波特性量を算定した.有義波高とは,時系列的に算定された
波の波高を大きい順に並べ直し,波高の大きいものから全個数の
1/3
を取り出し て算術平均した平均波高である.水位変動がレイリー分布に従うような理想的 な風波波浪場においては,有義波高H
sと水面変動η
′のrms
値の間には,次式の 統計的関係が成り立つことが知られている(例えば,光易(1995)
参照).4.0 2
Hs =