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第2節 形式的違法性 と実質的違法性

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【翻 訳 】

クラウス ・ ロクシ ン『 刑 法 総 論 』第 一 巻(第 三 版)〔十 三 〕

ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 著 吉 田宣 之/四 條 北 斗 訳

第14章 不法論の基礎 第1節 違法性 と不法

1構 成 要 件 に該 当 す る行 為 は 、 正 当 化 事 由(32条 の 正 当 防 衛 、34条 の 緊 急 避 難 、 親 の懲 罰 権)が 違 法 性 を阻 却 しな い 場 合 、 違 法 で あ る 。 正 当 化 事 由 とい う代 わ りに 、 「不 法 阻却 事 由」 とい わ れ る こ と もあ る が 、 そ こ に意 味 の違 い は な い 。 と りわ け 、 正 当 化 事 由 を認 め る た め に 、 正 当 化 さ れ る行 為 が 積 極 的 に 評 価 され る べ きで あ る と も言 わ れ て は な い 。 この 行 為 は 、法 秩 序 に よ って 非 難 され る こ と は な く、受 け 入 れ ら れ る の で あ って 、

そ れ に さ ら に積 極 的 な価 値 判 断 を下 す こ と は刑 法 の 任 務 で は な い か らで あ る 。 した が っ て 、 親 に よ る子 ど もへ の 節 度 あ る 懲 罰 は 、 親 の しつ け の 権 利 の 現 れ と して 法 秩 序 に よ っ て承 認 され る が 、 そ れ は体 罰 の 善 し悪 し

につ い て の 教 育 上 の 論 争 に意 見 表 明 をす る も の で は な い 。

2そ れ ゆ え 、 構 成 要 件 と違 法 性 の 間 に 、Guentherが 提 唱 す る よ う に、 特 別 な 「刑 法 違 反 性 」 と い う さ ら に 別 の 評 価 段 階 を 差 し挟 む 必 要 は な い 。 彼 は 、 従 来 の 正 当 化 事 由 を二 つ の グ ル ー プ に分 け て い る。 す な わ ち 、 一

つ の グ ル ー プ は 「刑 罰 不 法 阻 却 事 由 」 と して 単 に 刑 法 上 の 行 為 非 難 の 放 棄 を 表 明 し(た と え ば 、 推 定 的 承 諾 、 堕 胎)、 他 方 で 、 も う一 つ の グ ル ー プ は 「正 当 化 事 由 」と して 一 般 的 な 法 の 非 難 を 阻却 す る と い うの で あ る(た と え ば 、32条 の 正 当 防 衛 や34条 の 緊 急 避 難)。 お よそ 刑 法 上 の 非 難 の 欠

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桐 蔭法 学17巻2号(2011年)

如 と積 極 的 な 承 認 を区 別 し よ う と した場 合 、 境 界 線 は 正 当 化 事 由 の種 々 の 態 様 の 間 に で は な く、 ま さ に個 々 の 正 当 化 事 由 の 中 心 を 貫 い て 引 か れ る境 界 線 の 中 間 に あ る。 そ れ は ほ と ん どの 正 当化 事 由 の 場 合 に 、 ま だ 当 然 に受 け 入 れ ら れ るべ き 限 界 事 例 が 存 在 す る し、 ま た 、 優 越 的 な侵 害 利 益 の 自己 主 張 が 承 認 され るべ きで あ る か ら で あ る。

3「 違 法 性 」と 「不 法 」とい う刑 法 体 系 上 の 概 念 は 、次 の よ う に区 別 され る 。 違 法 性 は 、構 成 要 件 に該 当 す る行 為 の 固 有 の性 質 、 つ ま り、 そ の行 為 が 刑 法 の 禁 止 や 命 令 に 反 す る こ と を示 して い る の に対 し、 不 法 は 、 構 成 要 件 に該 当 す る違 法 な 行 為 自体 、 つ ま り、 そ れ の 価 値 評 価 と と も に 違 法 性 評 価 の対 象 を も包 含 す る もの と理 解 され る の で あ る。 した が って 、不 法 とい う概 念 にお い て は 、行 為 、構 成 要 件 、違 法 性 とい う 三 つ の 犯 罪 の カテ ゴ リー が 一 括 りに され る。 刑 法 上 の不 法 は 、刑 罰 構 成 要 件 を前 提 に して い る の で 、

つ ね に特 殊 刑 法 的 な実 体 で あ る が 、 そ の 他 に 、 民 法 上 の 不 法(た とえ ば 、 法 の 禁 じ た私 力 〉 や 行 政 法 上 の 不 法 な ど も存 在 す る 。 そ れ に対 して 、 違 法 性 な い し適 法 性 と い う カ テ ゴ リ ー は 、 た しか に刑 法 に 限 定 され て い る こ と もあ る が(参 照 、Rn.32以 下)、 そ の 射 程 は原 則 的 に も っ と広 い も の で あ る 。 した が っ て 、 正 当 防 衛(32条)や 緊急 避 難(34条)は ほ と ん ど の事 例 に お い て 、 全 法 秩 序 の 範 囲 に お け る違 法 性 を 阻却 し、 反 対 に、 他 の法 領 域 に 由来 す る干 渉 権(民 法1631条 の 家 族 法 上 の 懲 罰 権 、 刑 事 訴 訟 法127条 の 刑 事 手 続 上 の 逮 捕 権)は 、 対 応 す る刑 法 上 の 構 成 要 件 の 充 足 を取 り消 す の で あ る。 今 日の 見 解 に よれ ば 、 違 法 性 と不 法 と い う 区 別 さ れ る べ き概 念 は、 以 前 の 用 語 法 に よ れ ば た い て い は 同 じ意 味 の 言 葉 と し て用 い られ て い た の で あ る。 そ れ に倣 っ て 、 今 日で も(本 書 で も)、 言 葉 の よ り精 確 な意 味 で は刑 法 に お け る違 法 性 の 理 論 が 意 味 され る 場 合 に も、

不 法 論 とい わ れ るの で あ る。

第2節 形式的違法性 と実質的違法性

4違 法 な行 為 は 、 そ れ が 法 律 上 の 禁 止 ま た は 命 令 に違 反 す る か ぎ りで 、

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ク ラウス ・ロ クシ ン 『刑 法 総論 』 第 一巻(第 三版)〔 十三 〕(吉 田 宣之 ・四條 北斗)

形 式 的 に違 法 で あ る。 そ れ は、 そ の 中 に刑 法 以 外 の 手 段 で は 十 分 に 克 服 され な い 社 会 に有 害 な 法 益 侵 害 が 表 れ て い る 限 りで 、 実 質 的 に 違 法 で あ る 。 そ れ に対 応 し て 、 形 式 的 違 法 と実 質 的 違 法 を分 け る こ とが で きる 。 不 法 の 実 質 的 な 意 味 内容 は 、(不 法 類 型 と して の)構 成 要 件 お よび 違 法 性

(不法 の 具 体 的 な肯 定 ま た は否 定)に 対 して 意 味 を持 っ て い る。 構 成 要 件 の 評 価 的 な観 点 の も とで は 、 実 質 的 不 法 と は 、 通 常 、 刑 法 と い う手 段 に よる 克 服 を必 要 とす る 法 益 侵 害 を意 味 す る 。 そ の 場 合 、 法 益 の 概 念 は 実 質 的 な犯 罪 概 念 を扱 っ た 際 に説 明 され た よ う に(上 述 、 第2章)規 定 さ れ る べ きで あ る。 違 法 性 とい う視 点 の も とで は 、 法 益 侵 害 の 実 質 的 な 不 法 は 、 二 つ の 法 益 が 対 立 す る場 合 に 、 よ り高 い と評 価 さ れ た 法 益 の 重 要 性 が よ り低 い と評 価 され た 法 益 の 重 要 性 よ り も優 先 され る こ と に よ っ て 阻却 さ れ うる 。 そ れ ゆ え 、 結 果 的 に一 方 の 法 益 が 犠 牲 に な る に もか か わ らず 、 社 会 的 な価 値 が 生 じて お り、 少 な く と も刑 法 上 重 要 な 社 会 的 な 害 は生 じて い な い の で あ る。

5形 式 的 違 法 と実 質 的違 法 の 区別 は 、Franz v.Lisztに よ っ て推 進 され た 。 彼 に よれ ば 、 「社 会 有 害 な(社 会 秩 序 に 反 す る つ ま り反 社 会 的 な)振 る舞 い と して の 行 為 が 実 質 的 に 違 法 で あ る 。 違 法 な行 為 と は、 法 益 の 侵 害 ま た は 危 殆 化 で あ る。」 しか し、 可 能 な 限 り注 意 深 く、 そ の 存 在 領 域 を 限 界 づ け た と して も、 「法 益 の 衝突 を 完 全 に排 除 で き る わ け で は な い 。 人 間 の 共 同 生 活 の 目的 は 、 そ の よ う な衝 突 の場 合 に 、 よ り大 き な価 値 の あ る利 益 が 維 持 さ れ う る場 合 に の み 、 よ り小 さ な価 値 しか な い 利 益 を犠 牲 に す る こ と を 要 求 して い る の で あ る。 した が っ て 、 法 益 の侵 害 ま た は 危 殆 化 は、 そ れ が 共 同 生 活 を秩 序 づ け て い る法 秩 序 の 目的 に反 す る場 合 に の み 、 実 質 的 に違 法 で あ る。」

6実 質 的 違 法 性 の 実 際 的 な意 義 は 三 種 類 で あ る 。 まず 、 そ れ に よ り、不 法 の 段 階 づ け や 解 釈 論 に よ り よ い 効 果 が もた ら さ れ る の で あ り、 ま た、

構 成 要 件 論 、 錯 誤 論 お よ び そ の ほ か の 解 釈 論 上 の 問 題 の 解 決 に 関 す る解 釈 手 法 を提 供 し、 さ ら に 、 種 々 の 不 法 阻 却 事 由 を 基 礎 づ け て い る原 理 の

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桐蔭 法 学17巻2号(2011年)

形 成 お よ び そ れ ら の 関係 と射 程 の 規 定 を可 能 にす る の で あ る 。

7実 質 的 違 法 性 の 実 際 的 な 意 義 は 、不 法 を そ れ の 重 さ に し たが って 段 階 づ け う る こ と に あ る 。 形 式 的 違 法 性 は段 階 づ け や 質 的 な 区 別 を許 さな い 。 10,000マ ル クの 窃 盗 は 、 形 式 的 な 意 味 で 、10マ ル クの 窃 盗 よ り も違 法 性 が 大 き い わ け で は な い 。 同様 に、 禁 止 違 反 と して の 殺 人 罪 の 形 式 的 違 法 性 は 、 窃 盗 罪 の そ れ と異 な ら な い 。 そ れ に 対 して 、10,000マ ル ク の 窃 盗 の 実 質 的 不 法 は 、10マ ル ク の 窃 盗 の そ れ を1000倍 上 回 って お り、同様 に、

殺 人 の 社 会 有 害 性 は 、 窃 盗 の そ れ を は る か に超 え、 そ れ との 関 係 で は全 く異 な っ た 性 質 を も っ て い る の で あ る 。 実 質 的 不 法 の 量 と質 は 責 任 の 重 さ に と っ て 本 質 的 で あ り、 そ れ の 程 度 は 量 刑 に と っ て も大 き な 意 味 が あ る の で 、 刑 罰 は 犯 行 の 実 質 的 不 法 に よ っ て 決 定 され る こ と に な る。 さ ら に、 違 法 性 を算 出 す る際 に行 わ れ る利 益 考 量 に と っ て も、 実 質 的 な侵 害 の 態 様 と程 度 が 重 要 な役 割 を果 た す 。 最 後 に、 実 質 的 不 法 の 数 量 化 可 能 性 は 、 答 責 性 阻 却 や 間 接 正 犯 の 問 題 に と っ て も、 後 で 詳 し く説 明 す る よ

う に、 意 義 が あ る 。

8さ らに 、 実 質 的 不 法 の 思 想 は 構 成 要 件 解 釈 の 際 に 、 と りわ け 、行 為 が 刑 罰 規 定 の 文 言 に包 摂 さ れ う る が 、 実 質 的 に、 す な わ ち、 そ れ の 社 会 的 意 味 に よ れ ば 、犯 罪 類 型 に相 応 し ない 場 合 に、 有 益 で あ る こ とが 証 明 さ れ る。 特 に、そ の例 とな る の が 、通 常 「社 会 的 相 当」(第10章Rn.33以 下) と して構 成 要 件 か らの排 除 が 試 み られ る 場 合 で あ る。 す で に示 し たが(第 10章Rn.40)、 た と え ば 、 郵 便 配 達 人 へ の新 年 の小 さ な贈 り物 、 少 額 の 掛 け 金 で の賭 博 あ る い は ご く内 輪 の 家 族 の 間 で な され た 無 遠 慮 な 侮 辱 的 表 現 は 、 比 較 的 広 く把 握 され る 文 言 に もか か わ ら ず 、 行 為 の 方 法 が 対 応 す る法 益 を 実 質 的 な 内 容 に した が え ば侵 害 して い な い の で 、 当 該 構 成 要 件 を充 足 しな い 。 錯 誤 論 に お い て も、 禁 止 の 錯 誤 の 回 避 可 能 性 お よ び錯 誤 者 の責 任 は 、 本 質 的 に は 、 彼 が 自 らの 行 為 の 実 質 的 不 法 を 理 解 して い た の か 、そ して 、どの 程 度 まで 理 解 して い た の か に か か っ て い る の で あ る(詳

し くは 、 第21章Rn.34以 下)。

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ク ラウ ス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論』 第 一巻(第 三版)〔 十 三〕(吉 田宣之 ・四條 北 斗)

9最 後 に 、 実 質 的 不 法 の 原 理 は 、 正 当 化 事 由 の 展 開 や 内 容 的 な規 定 に と っ て も基 準 に な る 。 実 質 的不 法 の 原 理 か ら、 学 説 や 判 例 に よ っ て す で に数 十 年 前 か らそ れ ま で 規 定 さ れ て こ な か っ た い わ ゆ る超 法 規 的 緊 急 避 難 とい う正 当 化 事 由 が 展 開 さ れ(詳 し く は、 第7章Rn.36、 参 照)、 そ れ は1975年 か ら は34条 に定 め られ て い る。 そ の 他 の 不 法 阻 却 事 由 の 体 系 化 や そ の 内 容 的 な整 理 に 関 して も、 実 質 的 違 法 性 の 基 準 が 指 導 的 で あ る こ と に ま ち が い は な い 。 そ れ につ い て は 後 に 個 別 的 に説 明 され る こ と に な る。

10文 献 にお い て は 、 形 式 的 違 法 性 と実 質 的 違 法 性 の概 念 が 、 一 部 で 異 な る意 味 で 用 い られ て い る 。 構 成 要 件 に該 当 す る行 為 が 形 式 的 に 違 法 で 、 不 法 阻 却 事 由 に よ っ て カ バ ー さ れ て い な い 違 法 な 行 為 が 実 質 的 に違 法 で あ る と さ れ る。 しか し、 そ れ は 合 理 的 な 用 語 法 で は な い 。 と い う の は 、 そ の よ うな 概 念 の定 立 は 無 駄 で あ る ば か りか 、 誤 解 を招 く も の だ か らで あ る 。 つ ま り、 正 当 防 衛 に よ っ て カ バ ー さ れ た 行 為 は 形 式 的 に違 法 で な い の で は な くて 、 そ れ の 違 法 性 が 形 式 的 に も実 質 的 に も 阻 却 さ れ る の で あ る 。

11ま た 、 しば しば 、 形 式 的違 法 性 と実 質 的 違 法 性 の 区 別 が 完 全 に否 定 さ れ る。 しか しな が ら 、 違 法 性 の 統 一 的 な概 念 だ け が 存 在 し、行 為 は 違 法 で あ る か 否 か で あ る とい う論 拠 は 、 説 得 力 の あ る も の で は な い 。 とい う の は、 こ こ で は 、 形 式 的 に 違 法 な 行 為 に 実 質 的 違 法 性 が 欠 け る こ とが あ る と主 張 され て い る の で は な く、 む しろ 、 実 質 的 違 法 性 が 不 法 の 数 量 化 の た め の 基 準 や構 成 要 件 お よ び 違 法 性 の 領 域 にお け る解 釈 を供 給 す る とい わ れ て い る か らで あ る 。 「形 而 上 学 的解 釈 の 一 般 法 則 」(Hirsch)へ の 言 及 は 、 何 の 役 に も立 た な い 。 なぜ な ら ば、 こ の よ う な 法 則 は 、 実 質 的 違 法 性 の場 面 で 問 題 に な る 内容 に 関す る基 準 を提 供 し な い か らで あ る 。

「法 違 反 の 重 さの 段 階 づ け 」 の 際 に 実 質 的 違 法 性 は 問 題 に な らず 、 「違 法 性 と(程 度 の 差 を つ け る こ とが 可 能 な)不 法 との 区別 が 問 題 に な っ て い

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桐 蔭法 学17巻2号(20U年)

る」(Hirsch)と い う論 拠 も、 説 得 的 で は な い。 と い うの は、 構 成 要 件 に 該 当 す る 違 法 な行 為 と して の 「不 法 」 と い う概 念 は 、 さ し あ た り、 そ の 行 為 の 固 有 の性 質 と して の違 法 性 と 同様 に 形 式 的 だ か らで あ る 。 不 法 が

「程 度 の 差 をつ け る こ とが で きる 」 もの で あ る と い う こ とは 、 そ れ の 実 質 的 な面 、 つ ま り、 法 益 を侵 害 す る社 会 有 害 性 を考 慮 す る 場 合 に は じめ て 、 確 認 され う る の で あ る 。

12今 日、 以 前 と 同 様 に 、 実 質 的 違 法 性 の概 念 に な され て い る 批 判 の 背 後 に は 、 「形 式 的 不 法 」 が 法 律 以 外 の 「実 質 的 」 基 準 に よ っ て 根 底 か ら覆 さ れ 、 恣 意 的 な 解 釈 や 拡 張 が な され う る と い う懸 念 が あ る 。 実 際 、Liszt は実 質 的 違 法 性 の概 念 を 「超 法 学 的 」 と記 して い た 。 「形 式 的 違 法 性 と実 質 的 違 法 性 が 一 致 す る こ と もあ り う る が 、 ば らば ら に な る こ と も あ り う る。」 そ の よ う な 矛 盾 は推 定 さ れ え ない が 、排 除 され て もい な い と さ れ る。

「そ の よ う な矛 盾 が 存 在 す る場 合 に は 、 裁 判 官 は法 律 に よっ て 縛 られ て い る の で あ る が 、 現 行 法 の修 正 は彼 の 任 務 の 限 界 を 超 え る こ と に な る。」 つ ま り、Lisztに と って は 、 形 式 的 違 法 性 は 実 定 法 の 範 疇 で 、 実 質 的 違 法 性 は刑 事 政 策 上 の 原 理 で あ っ た の で あ る。 こ の よ う な 問 題 の 理 解 に対 し、

現 行 法 とい う基 盤 を逸 脱 して い る と い う批 判 を加 え る こ と は で き な か っ た 。 とい うの は 、Lisztは 法 律 の 修 正 を排 除 して お き な が ら 、 そ れ に もか か わ らず 、 実 質 的 な 違 法 性 の 原 理 を現 行 法 の 枠 内 で 解 釈 に と っ て 実 りの 多 い も の にす る こ とが で きた の で あ る し、 そ の 原 理 を 、 この よ う な 限 界 を超 えて 、 依 然 と して 改 正 の 要 求 の基 礎 と され る こ とが あ る か らで あ る 。

13本 書 で主 張 さ れ る見 解 か ら見 る と、 問題 は若 干 異 な る 。 とい う の は 、 構 成 要 件 行 為 の 実 質 的 不 法 が 表 現 さ れ る法 益 侵 害 とい う 、 上 で 展 開 され た 概 念 は、 な る ほ ど刑 法 の 前 提 と して 位 置 づ け ら れ る も の で は あ るが 、 憲 法 の前 提 で は な い か らで あ る(詳 し くは 、第2章Rn.9以 下)。 した が っ て 、 そ れ は、 基 本 法 の価 値 秩 序 に拘 束 さ れ規 定 され た 法 を 修 正 す る こ と に使 う こ と は で きな い け れ ど も、 場 合 に よ っ て は 、 制 定 さ れ た刑 法 を憲 法 的 な 法 益 概 念 と比 べ て 判 定 す る こ と に使 う こ と は で きる 。 そ れ ゆ え、 た と

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑 法総 論 』第 一巻(第 三版)〔 十 三〕(吉 田宣 之 ・四條 北 斗)

え ば 、1969年‑1973年 の 改 正 以 前 は ふ つ う の こ と で あ っ た単 な る道 徳 違 反 の 処 罰 を、 実 質 的 違 法 性 を欠 くこ と を理 由 に して 容 認 で き な い もの で あ る と説 明 す る こ とが で きた の で あ る(詳 し くは 、 第2章Rn.12)。 しか し、 そ こ に は 、 同 時 に 、 そ の よ うな 規 定 は 憲 法 と は調 和 せ ず 、 形 式 的 に も通 用 し な い とい う テ ー ゼ が あ っ た の で あ る。 不 法 論 に お い て も、 実 質 的 違 法 性 の 思 想 か ら の 正 当 化 事 由 の 展 開 と解 釈 に よ っ て制 定 法 の 限界 が 破 壊 さ れ る こ とに な る わ け で は ない 。 む し ろ、 実 定 法 の 基 礎 を な して い る 実 質 的 な原 理 の も つ 力 を発 揮 させ る こ とだ け が 問題 な の で あ る(刑 法 解 釈 学 と刑 事 政 策 の 関係 に つ い て は 、 基 本 的 に第7章Rn.69以 下)。 そ れ ゆ え 、 た と え ば 、 形 式 的 違 法 性 が 存 在 す る に もか か わ らず 実 質 的 違 法 性 が 欠 如 し た こ とが不 法 阻 却 に至 っ た事 案 は 、 超 法 規 的 緊 急 避 難 が 承 認 さ れ た わ け で は な い 。 む しろ 、 こ の よ う な不 法 阻 却 事 由 が 当 時 妥 当 して い た 法 の枠 内 に お け る不 法 論 の 基 礎 か ら導 き出 さ れ た とい う こ とが 、 出 発 点 と さ れ るべ きで あ る 。 した が っ て 、 そ れ が 存 在 した 場 合 に は 、 実 質 的 違 法 性 だ け で な く、 形 式 的 違 法 性 も阻却 され て い た の で あ る。 今 日 で は 、

こ の よ う な 不 法 阻 却 事 由 は 実 定 法 の 中 に移 さ れ た の で(34条)、 超 法 規 性 の 非 難 は完 全 に 空 虚 な もの で あ る 。

14か く して 、 次 の よ う に 要 約 す る こ とが で き る。 た しか に実 質 的 違 法 性 の 概 念 は か な り刑 事 政 策 的 な 意 味 を もっ て い るが 、 こ れ は 構 成 要 件 の 解 釈 、 不 法 の 段 階 づ け 、 お よ び利 益 考 量 に よ っ て 、 現 行 法 の 限界 の 内 で 具 体 的 に示 さ れ る こ と に な る 。 例 外 的 な 場 合 お よ び基 本 法103条2項 が そ れ の妨 げ に な る か ぎ りで は 、 記 述 され て い る 規 範 の 文 言 は 、 実 質 的 違 法 性 の 原 理 に よ っ て相 対 化 され る こ と もあ り う るが 、形 式 的 で 憲 法 に よ っ て カ バ ー され て い る 法 の 制 約 を超 え る こ とは 許 さ れ て い な い の で あ る 。

第3節 被害者解釈学 と実質的不法

15被 害 者 解 釈 学 す な わ ち 犯 罪 者 へ の 被 害 者 の 行 為 の 影 響 に つ い て の 刑 事 学 的 な理 論 が 、 最 近 、 刑 法 解 釈 学 に影 響 を及 ぼ して い る。 そ こ で の 中

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桐 蔭法 学17巻2号(2011年)

心 的 な 問 題 は 、 事 象 に 関 す る 被 害 者 の 連 帯 責 任 が どの よ う に不 法 に影 響 を及 ぼ す の か 、 と くに 、 そ れ が 構 成 要 件 阻 却 な い し違 法 性 阻 却 に至 り う る の か ど うか とい う こ と で あ る。

16さ しあ た り、 そ の よ うな 可 能 性 を各 則 の構 成 要 件 の 解 釈 に つ い て証 明 し よ う とい う試 み が な さ れ た 。 た と え ば、Amelungは 詐 欺 の構 成 要 件(263 条)を 、行 為 者 の発 言 に対 す る被 害 者 の 具 体 的 な 疑 念 が 錯 誤 を排 除 し、 し たが って 、 詐 欺 罪 の 既 遂 の 可 罰 性 を 阻却 す る と解 釈 した 。 そ の 背 景 に は、

自分 の抱 い た 疑 い を調 べ る こ とで容 易 に 自分 を守 る こ とが で き る者 に 、刑 法 の 保 護 は必 要 な い とい う 考 え 方 が あ る。Schuenemannは 、 彼 の 言 う と こ ろ の 被 害 者 解 釈 学 的 原 理 を展 開 した 。 つ ま り、 「潜 在 的 被 害 者 が 可 能 で 、 ま た彼 に 要 求 しう る 自己 防 衛 を巧 み に排 除 す る行 為 だ け を刑 罰 構 成 要 件 に 包 摂 す る とい う解 釈 規 範 」 で あ る。 秘 密 保 護 の構 成 要 件(201条 以 下)の 例 で は、論 者 は、立 法 者 が 構 成 要 件 を作 り、行 為 者 の範 囲 を 限定 す る際 に、

この 領 域 にお け る解 釈 問 題 の 解 決 に と って も考 慮 され う る よ う に と被 害 者 学 的 な視 点 に した が って い た こ と を、 証 明 し よ う と した。 さ ら に、 以 下 の よ うな例 を示 す こ とが で きる 。偽 造 品 が146条 以 下 の 偽 造 通 貨 とみ な され る の は 、 「そ れ が 流 通 して い る真 正 の 通 貨 の外 観 を示 し、 通 貨 の 流 通 に お い て何 の 疑 念 も も た な い 人 を 欺 く こ とが で き る場 合 」(BGHSt23,231)だ けで あ り、 そ れ ゆ え 、 あ る者 が 粗 悪 な 容 易 に見 分 け の つ く偽 造 品 に騙 さ れ た と して も、 刑 罰 は 生 じな い 。 ま た 、 「甚 大 な」 害 悪 に よ る 脅 迫 は 、 支 配 的 見 解 に よれ ば、 意 志 決 定 の 自 由 を持 って い る思 慮 深 い 人 に とっ て そ の 脅 迫 が 侵 害 に 適 して い る場 合 にの み 存 在 し、 そ れ ゆ え 、被 害 者 に屈 せ ず に い る こ とを 要 求 で きる場 合 に は、 そ の可 罰 性 は脱 落 す る の で あ る。 この よ う に して、 多 くの 構 成 要 件 が 、被 害 者 解 釈 学 的 原 理 の 助 け に よ っ て制 限 的 に 解 釈 さ れ うる の で あ り、 あ る い は、 文 言 の解 釈 に お い て も 目的 論 的 な縮 小 を受 け る こ と にな るの で あ る。

17総 論 で も、 構 成 要 件 論 や 不 法 論 に お い て 、 被 害 者 解 釈 学 的 な 論 拠 が 多 くの 問 題 の 解 決 の 支 え に な り うる 。 第13章 で 論 じた 同意 の 効 果 を、 法

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑 法総 論』 第 一巻(第 三 版)〔 十 三〕(吉 田宣 之 ・四條 北 斗)

益 保 持 者 の 保 護 の 必 要 性 の 欠 如 に 還 元 す る こ と が で き る。 さ ら に、 客 観 的 構 成 要 件 へ の 帰 属 が そ れ の 射 程(そ れ の 保 護 目 的)に よ っ て 制 限 さ れ る事 案(第11章Rn.90以 下)は 、容 易 に被 害 者 解 釈 学 的 に 解 釈 され う る。

つ ま り、 故 意 に よ る 自 己 危 殆 化 の 場 合 や 同 意 の 上 で の他 者 危 殆 化 の 場 合 に は 、 どち ら の 場 合 に も、 被 害 者 が 事 象 に 関 し て行 為 者 と 同 等 の 責 任 を 負 っ て い る の で あ るか ら、 帰 属 さ れ な い の で あ る 。 ま た 、 他 者 の 責 任 領 域 へ の 帰 責 の 場 合(第11章Rn.111以 下)で も、結 果 が 発 生 し た 時 点 で は被 害 者 の 地 位 に あ る他 の 人 が 答 責 的 で あ っ た の で 、 結 果 は 第 一 次 的 責 任 者 に帰 属 さ れ な い と い う こ とが で きる の で あ る 。 正 当 防 衛 論 に お い て は、 被 侵 害 者 が 侵 害 者 を 挑 発 した場 合 に な され る 正 当 防 衛 権 限 の 排 除 な い し制 限(詳 し くは 、 第15章Rn.61以 下)は 、 被 害 者 を事 件 に 巻 き込 ん だ こ と に 基 づ い て い る と指 摘 す る こ と もで き る。 した が っ て 、 被 害 者 解 釈 学 的 に説 明可 能 な の で あ る。

18被 害 者 解 釈 学 的 な試 み の 基 礎 づ け の 努 力 は、 実 質 的 違 法 性 を指 し示 して い る 。 ま ず 、 有 効 な 自己 防 衛 が 可 能 で あ る場 合 あ る い は 要 求 で き る 場 合 は 、 行 為 者 の 側 か ら見 れ ば 十 分 に社 会 的 に危 険 な法 益 侵 害 は 存 在 し て は い な い の で あ る か ら、 被 害 者 は 保 護 に値 しな い とい う テ ー ゼ を立 て る こ とが で き る。 しか し、 さ ら に 「即 自的 に」 処 罰 に値 す る 法 益 侵 害 を 肯 定 す る こ とが で き る し、 刑 法 の補 充 性 の 思 想 か ら刑 の 免 除 を基 礎 づ け る こ と もで き る。 つ ま り、 刑 法 は社 会 政 策 の 最 終 手 段 で あ り、 刑 法 の侵 害 は 社 会 侵 害 の 回 避 の た め に 「よ り軽 い 手 段 」 を用 い う る と こ ろ で は 、 そ の 手 段 は 正 統 な も の と は い え な い の で あ る。 しば しば 、 双 方 の 観 点 が 並 立 的 に引 き合 い に 出 され る こ と もあ る 。

19し か し な が ら、 わ れ わ れ の 刑 法 の 基 礎 と して そ の よ う な 被 害 者 解 釈 学 的 な原 理 を用 い る こ との 承 認 は 、 一 般 的 に 支 持 さ れ え な い 。 立 法 者 が 処 罰 の 適 性 な い し必 要 性 を、 一 般 的 に 、 被 害 者 の 要 求 可 能 な 自 己 防 衛 措 置 に 依 拠 させ るつ も りで あ っ た とい う根 拠 は な い の で あ る 。 窃 盗 は 、被 害 者 が 自分 の財 物 を い つ も軽 率 に扱 っ て い た と して も、 窃 盗 で あ る。 た

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桐 蔭 法 学 玉7巻2号(2011年)

しか に、 理 論 的 に は 、 占有 概 念 を 、行 為 者 に と っ て 財 物 の 獲 得 が つ ね に 容 易 な状 況 で あ っ た 場 合 に は 窃 取 は 存 在 しな い と定 義 す る こ と もで き よ うが 、 そ の よ う な(文 献 に お い て も も は や 主 張 さ れ て い な い)方 法 は 法 律 を 変 更 す る もの で あ ろ う し、 そ の よ う な 解 釈 は な さ れ な い で あ ろ う。

そ れ と相 応 す る こ とが 、 特 に軽 率 な 被 害 者 を 刑 法 の 保 護 か ら排 除 す る と い う試 み が 多 く存 在 す る 、 詐 欺 の 構 成 要 件 に 当 て は ま る。 バ カ が つ くほ どの 御 人 好 しか ら は 騙 取 して も処 罰 さ れ な い な ど と い う こ と を 、 立 法 者 は ど こ に も表 現 して い な い の で あ る。

20さ らに 、被 害 者 解 釈 学 的 原 理 は 、 そ れ の 支 持 者 が 認 め て は い る が 、 補 充 性 の 思 想 か ら直 接 的 に 導 か れ う る わ け で も な い 。 とい うの は 、 た しか に刑 法 は社 会 政 策 の 最 終 手 段 で は あ る が(詳 し くは 、第2章Rn.38、 参 照)、

この 命 題 は 、 国 家 が 社 会 的 な紛 争 の 克 服 の た め に よ り影 響 力 の小 さ い 手 段 を も っ て い る の で あ れ ば 、 処 罰 され て は な ら な い こ と を 意 味 し て い る だ け で あ っ て、 市 民 が 自 己 防 衛 で き る と こ ろ で は 、 国 家 は介 入 を放 棄 し な け れ ば な ら な い こ と を 意 味 して い る わ け で は な い か ら で あ る 。 補 充 性 原 理 を市 民 の 自己 防 衛 可 能 性 に適 用 す る こ と は 、市 民 は 刑 罰 権 等 を ま さ に防 衛 の 任 務 か ら 自己 を免 れ る た め に投 入 した とい う こ と を見 誤 る こ と に な ろ う。 す な わ ち、 「法 律 の 目 が 見 張 っ て い る」 と こ ろ で は 、 個 人 は 自 分 の エ ネ ル ギ ー を 自己 の 人 格 の 保 全 に で は な く、 そ れ の 展 開 に 向 け る こ とが で きる の で あ る。

21す で に 、 最 後 に 言 及 し た観 点 が 、 被 害 者 解 釈 学 的 原 理 の 一 貫 した 実 現 は刑 事 政 策 的 に も期 待 で きな い こ とを 気 づ か せ て い る。 被 害 者 解 釈 学 的 原 理 は 、 法 秩 序 を 完 全 に信 用 し き っ て い る 者 か ら刑 罰 の 保 護 を取 り去 る こ と に よ っ て 、 社 会 共 同 生 活 の 法 律 に つ い て の不 信 や 神 経 質 な 保 安 思 想 を も た らす こ と に な る の で は な か ろ う か 。 そ して 、 そ れ に よ っ て 、 法 を信 頼 す る 市 民 の 自由 を 減 らす こ と に な る の で は な か ろ うか 。 当 然 、 そ れ に よ っ て 、 他 入 の権 利 領 域 を侵 そ う とす る 者 の行 為 の 自 由 は広 くな る で あ ろ う。 しか し、 そ の よ うな こ とへ の 要 望 は存 在 しな い 。 とい うの は 、

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クラ ウス ・ロ クシ ン 『刑 法 総論 』 第一 巻(第 三版)〔 十 三 〕(吉 田宣 之 ・四條北 斗)

被 害 者 解 釈 学 者 が 被 害 者 に 要 求 可 能 で あ っ て 、 し か も、 そ れ ほ ど履 行 が 困難 な わ け で も な い 防 衛 措 置 を 求 め て い る 場 合 で す ら、 不 当 な 干 渉 に つ い て 何 も しな い で い る こ との 方 が ま だ 本 質 的 に 要 求 可 能 な の で あ り、 そ れ ゆ え 、 利 益 考 量 の 際 に 立 法 者 は原 則 的 に被 害 者 の 側 に立 つ べ きで あ っ て 、行 為 者 の 側 に立 つ べ きで は ない か らで あ る 。

22被 害 者 学 的 な 試 み は 、 しか し、 そ れ を一 般 化 な い し絶 対 化 し よ う と す る 場 合 に の み 、 拒 ま れ るべ き で あ る。 そ れ の 大 き な 功 績 は 、 「保 護 の 必 要 性」 が 実 質 的 違 法 性 に 影 響 を与 え う る こ と、 した が っ て 、 そ の 他 の 刑 法 的 な保 護 領 域 に 関 して 基 準 と な る事 情 の 文 脈 にお い て 解 釈 す る 際 に 、 そ れ が つ ね に合 わ せ て 考 慮 され な け れ ば な ら な い こ と を示 し た こ とに あ る。 保 護 の 必 要 性が 欠 け て い る とい う観 点 が 種 々 の 規 定 に お い て 無 罪 に 至 る 場 合 、 そ れ は 、 そ の観 点 の 原 理 的 な 優 位 性 か ら で は な く、 当 該 の特 殊 な 保 護 利 益 の 考 量 か ら導 き出 され る べ きで あ る 。 た と え ば 、 一 目 で見 分 け が つ く よ う な偽 造 品 は146条 以 下 に は該 当 し な い とい う事 情 は、 そ れ の 正 当 化 を 、 通 貨 偽 造 の 規 定 は は じめ か ら当 該 の 偽 造 行 為 で は な く、

む し ろ通 貨 流 通 の安 全 性 と信 頼 性 を保 護 す べ きで あ る こ と、 そ して 、 こ れ らは 通 常 だ れ もそ れ に騙 され る こ と が な い よ う な偽 造 品 に よ っ て 危 殆 化 さ れ る こ と は な い こ と に 、 見 出 す の で あ る 。 脅 さ れ た 害 悪 が 、 思 慮 深 い 人 に強 要 さ れ た 行 動 をす る動 機 を 与 え う る か ぎ りで の み 、240条 の 意 味 で の 「重 大 」 と み な され る 場 合 、 そ の こ とは 、 社 会 的 な重 大 性 の 閾 に 達 しな い 強 要 手 段 が 構 成 要 件 に取 り込 まれ た と した ら、 社 会 の 構 成 員 の 自 由 な 行 動 が 害 さ れ る こ と に な る で あ ろ う とい う こ とに 基 づ い て い る の で あ る 。 規 範 の 保 護 目 的 が 、 自己 危 殆 化 に 寄 与 す る 場 合 や 合 意 の 上 で の 他 者 危 殆 化 の 多 くの 場 合 で 、 結 果 の 客 観 的 構 成 要 件 へ の 帰 属 を 阻却 す る とい う理 論 は、 自殺 や 自 己 危 殆 化 の構 成 要 件 が な い こ と につ い て の 法 律 上 の 決 定 や 、 他 人 の 権 利 領 域 で は、 は じめ か ら、 「被 害 者 」 が ま さ に行 為 者 と 同 じよ う に 事 態 を予 見 し意 識 的 に危 険 に 晒 さ れ る場 合 に は干 渉 さ れ な い とい う こ とか ら、 導 き 出 され う る。 正 当 防 衛 権 を被 害 者 に よ っ て 有 責 に挑 発 され た侵 害 の 場 合 に排 除 ま た は 制 限 しよ う とす る場 合 、 こ の こ

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桐 蔭法 学17巻2号(2011年)

と は 、 正 当 防 衛 権 限 が 本 質 的 に基 づ い て い る 不 正 に対 す る 正 の 防 衛 と い う思 想 が 、 被 侵 害 者 が 自 ら を不 正 な 立 場 に置 い た 場 合 に は 意 味 を失 う と い う こ と に よっ て 、説 明 され る の で あ る 。

23こ こ で は 、 多 くの 問 題 の 中 か らい くつ か の 事 案 しか 取 り上 げ る こ と が で きず 、 ま た 、 そ れ らの 事 案 に お い て も、 解 決 を 簡 単 に 概 略 的 に 述 べ

る こ と しか で き な い 。 しか しな が ら、す で に 、若 干 の例 で 示 され た よ う に、

被 害 者 解 釈 学 的 な観 点 は、 種 々 の 異 な る考 察 に お い て現 れ る もの で あ り、

ま た 、 こ れ らの 事 案 に お い て 決 定 的 な 意 義 を、 そ れ ぞ れ の 問 題 提 起 の 刑 事 政 策 的 な特 殊 性 か ら獲 得 す る の で あ る 。 被 害 者 の 連 帯 責 任 か ら生 じ る 刑 の 免 除 は 、 一 部 で は 当 該 の 法 益 に と っ て侵 害 が 社 会 的 に 危 険 で な い こ と か ら(146条 以 下 、240条)、 ま た 一 部 で は 自己 答 責 的 な 法 益 保 持 者 の 行 為 の 自 由 が 侵 害 さ れ て い な い こ と か ら(自 己危 殆 化 へ の 寄 与 、 合 意 の 上 で の 他 者 危 殆 化)、 さ ら に は 、 正 当 防 衛 を行 う者 の 法 確 証 の 権 限 が 彼 の 先 行 行 為 に よ っ て失 わ れ る か あ る い は 制 限 さ れ る こ とか ら、 生 じて い る の で あ る。 被 害 者 解 釈 学 的 な 試 み の 種 々 の特 徴 づ け に磨 き を か け る こ と で 、 問 題 に な る す べ て の 状 況 で そ れ の 射 程 を確 定 す る こ とが 、 解 釈 学 の 課 題 で あ る。

24被 害 者 の 連 帯 責 任 が 行 為 者 の行 為 を無 罪 にす る 解 釈 の 支 え に な ら な い 場 合‑そ して 、 ほ と ん どの 事 例 が そ う な るが‑、 そ れ は つ ね に な お 実 質 的 不 法 を 軽 減 す る こ と に な り、 量 刑 の 際 に刑 を軽 くす る効 果 を及 ぼ す こ と に な ろ う。 そ の点 で 、 す で に(Rnの 扱 わ れ た 不 法 の段 階 づ け が 問 題 に な る。 被 害 者 の 落 ち度 が不 法 の 阻却 に は な らな くて も不 法 の重 さ に影 響 を 与 え る はず で あ る こ とは 、容 易 に認 識 され う る。 た と え ば 、事 故 の 大 部 分 が 被 害 者 の過 失 に基 づ く場 合 に、こ の よ う な事 情 は行 為 者 の 不 法 や責 任 を、

と きに は ほ ぼ す べ て 軽 滅 す る こ とに な ろ う。 こ の よ う な こ とが 量 刑 に影 響 を与 え る こ と に、 疑 問 の 余 地 は な い 。Hillenkampは 、 量 刑 に とっ て の 行 為 者 の 行 動 の 意 味 を さ らに 詳 し く研 究 し、 同 意 類 似 の ケ ース 、正 当 防 衛 類 似 の ケ ー ス 、権 利 喪 失 類 似 の ケ ース お よび 寄 与 類 似 の ケ ー ス の量 刑 の 基 礎 に

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑 法総 論』 第一 巻(第 三 版)〔 十 三〕(吉 田宣 之 ・四條 北 斗)

関 して、 正 当 に も綿 密 に別 個 の 法 則 を提 示 した。 被 害 者 の行 動 の不 法 や 責 任 の 阻却 へ の 影 響 に関 して 、 そ の研 究 は ま だ決 着 が つ い て い な い 。

第4節 不法 と法的に自由な領域

25多 数 説 は 、構 成 要 件 に該 当 す る 行 為 は、 不 法 阻 却 事 由 が 介 在 す る か 否 か 次 第 で 、 適 法 で あ る か 違 法 で あ る か の ど ち らか で あ る こ と を、 出 発 点 に して い る 。 そ れ に対 して 、 あ る 見 解 か ら は、 第 三 の もの が 存 在 す る と い う試 み が 主 張 さ れ る 。 つ ま り、 立 法 者 が 評 価 を控 え、 個 人 の 行 動 を 自己 の 人 格 的 な 良心 の決 定 に委 ね て い る 、 法 的 に 自 由 な 領 域 で あ る。 例 と して 用 い られ る の は 、 と りわ け 、 生 命 と生 命 が 対 立 す る 場 面 で あ る 。 218条aの 緊急 避 難 の 要 件 や 、 い わ ゆ る危 険 共 同体 の 事 例(た とえ ば 、 二 人 の登 山家 が 一 人 しか 支 え られ な い ザ イ ル に 掛 か っ て い る が 、 上 の ほ う にい る 者 が 少 な く と も 自分 は 助 か ろ う と して ザ イ ル を揺 らす 場 合)、 さ ら に、 同 等 の 行 為 義 務 を負 う者 同 士 の 対 立(た と え ば 、 自分 の 二 人 の 子 ど もが 溺 死 し そ う に な っ て い る 父 親 が 、 自分 の 選 択 に よ っ て 、 彼 らの うち の 一 人 しか 助 け る こ と が で きず 、 も う 一 人 は 溺 死 させ な け れ ば な ら な い 場 合)で あ る。

26法 的 に 自 由 な 領 域 を 考 え る余 地 が は じめ か ら否 定 さ れ る よ う な 、 法 理 論 的 な異 議 や 論 理 学 的 な異 議 は 貫 徹 され て い る わ け で は な い と認 め ら れ る の で あ る 。 あ る 状 況 を規 制 して い な い とい う こ と も、 法 的 に 自 由 な 領 域 を基 礎 づ け て は お らず 、 む しろ 当 該 行 為 が 制 限 的 な 規 範 化 の 断 念 に よ っ て 許 され て い る と い う か ぎ りで す で に規 制 を 含 ん で い る の で あ る と い う 法 理 論 的 な 論 拠 は、 す べ て を包 含 す る法 概 念 の 前 提 の も とで の み 妥 当 す る が 、 そ れ に よれ ば す べ て の私 的 な行 動(食 事 、 散 歩 、 睡 眠 、読 書) が 法 の 領 域 に 含 ま れ 、 そ れ の構 成 が 必 要 に な る。 と い う の は 、 議 会 制 民 主 主 義 の思 考 モ デ ル に よれ ば 、 個 人 の 自 由 は根 源 的 な も の で あ り、 国 家 権 力 に よ っ て は じめ て与 え られ る も の で は な い の で あ っ て 、 国 家 権 力 そ れ 自体 は む しろ 国 民 に よ っ て 設 置 さ れ 、 自 由 、 平 和 そ し て福 祉 の保 障 と

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桐 蔭法 学17巻2号 く2011年)

い う機 能 に 制 限 さ れ て い る か らで あ る 。 「違 法 」 や 「違 法 で な い」 とい う 概 念 は 、 す で に論 理 学 的 な基 礎 か ら 第 三 の 可 能 性 を 認 め な い 、 中 間 概 念

の入 る余 地 の な い 対 立 概 念 で あ る とい う論 拠 も ま た 、 適 切 で は な い 。 と い うの は 、 排 除 され た 第 三 の 可 能 性 の 命 題 は、 違 法 性 や 適 法 性 と い う概 念 に 含 まれ た 領 域 の 内 部 で の み 妥 当 し、 そ れ の外 部 で は妥 当 し な い か ら で あ る 。 つ ま り、 「法 秩 序 が あ る 行 動 を 規 格 化 す る場 合 、 この 行 動 は 適 法 で あ る か 違 法 で あ る か の ど ち らか な の で あ る。こ の こ とは 、しか しな が ら、

す べ て の行 動 が 法 的 に 規 格 化 さ れ て い な け れ ば な らな い とい う こ と を意 味 して い る わ け で は な い 」 の で あ る 。

27刑 法 解 釈 学 に 関 して は 、 そ の こ とか ら、構成 要 件 の 前 にお か れ た 法 的 に 自 由 な 領 域 が承 認 さ れ る べ き で あ る とい う結 論 に な る。 た と え ば 、 周 知 の 見 解 に よ っ て 、 自殺 を 許 さ れ て も禁 止 さ れ て もい な い もの と して 法 的 に 自 由 な領 域 に割 り当 て る こ と、 さ ら に、 そ の こ と か ら、 当 事 者 の 意 思 に 反 した 救 助 の事 例 に 関 して 法 的 な 結 論 を導 き 出 す こ とが 、 可 能 に な る の で あ る。

28そ れ に も か か わ らず 、 不 法 の 領 域 に お い て 、 法 的 に 自 由 な領 域 の 構 想 は 賛 同 を 得 て い な い 。 とい うの は 、 あ る 行 動 が ひ とた び構 成 要 件 に 該 当 す る と評 価 され た 場 合 、 つ ま り法 益 侵 害 が 存 在 す る 場 合 に は 、 法 は 、 特 定 の 事 案 で は 「規 範 を取 り下 げ 」 て 評 価 を控 え る こ と な ど しな い か ら で あ る 。 た と え ば 、 妊 娠 中 絶 が 一 定 の 要 件 の 存 在 に よ っ て 禁 止 され て い な い 場 合 、 そ れ に よ っ て 、 当 然 、 原 則 的 に禁 止 さ れ た 「行 為 か ら、 そ の 他 の 場 合 に は 備 わ っ て い る不 法 とい う 汚 名 が 取 り除 」 か れ る の で あ り、

生 成 中 の 生 命 の 保 護 が 軽 減 さ れ る の で あ る。 し た が っ て 、 こ の よ う な 法 的 に規 制 さ れ た領 域 で は 、構 成 要 件 に規 定 さ れ て い な い 領 域 に 関 し て否 定 さ れ た 法 理 論 的 な異 議 や 論 理 学 的 な 異 議 が 、 貫 徹 さ れ る の で あ る。 つ ま り、 こ こ で 特 定 の 事 案 に 関 して 「規 範 が 取 り下 げ 」 られ る 場 合 、 そ の こ と は‑ど の よ う な術 語 の 下 で もつ ね に‑事 実 に した が え ば 保 護 法 益 に 介 入 した 者 の 不 法 阻 却 を 意 味 し て い る の で あ る。 法 的 に 自 由 な領 域 が

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ク ラウス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総論 』 第一 巻(第 三版)〔 十三 〕(吉 田宣 之 ・四條 北斗)

創 造 さ れ た の で は な く、放 免 の法 則 に該 当 した の で あ る。

29そ の こ とは 、 正 当 防 衛 権 に お い て 、 さ らに 明 確 に な る。 「禁 じ られ て い な い」、 術 語 的 に は 法 的 に 自 由 な 領 域 に 定 着 して い る侵 害 は 、 い ず れ に せ よ、32条 が そ れ を 規 定 して い る よ う に、 違 法 な侵 害 で は な い の で あ り、

し た が っ て 、 正 当 防 衛 や 緊 急 救 助 の権 利 を行 使 して は な ら な い と す る こ とが 首 尾 一 貫 して い る で あ ろ う。 しか し、 そ の 場 合 、 そ の 結 論 は 完 全 に 不 法 阻 却 の 結 論 に適 う の で あ り、 侵 害 を 「法 的 に 自由 な領 域 」 に 割 り当 て る こ とは 、 レ ト リ ッ ク で しか な い 。 他 方 で 、 法 的 に 自由 な領 域 の 視 点 の 下 で 議 論 さ れ て い る ほ と ん どの 状 況 に 関 して 同 様 に主 張 され る よ う に 、 被 侵 害 者 に 正 当 防 衛 権 を そ して 第 三 者 に は 緊 急 救 助 権 を与 え る の で あ れ ば 、 侵 害 は姿 を 変 え て(可 罰 的 で は な い け れ ど も〉 違 法 と評 価 さ れ る こ と に な る。 と い うの は 、 正 当 防 衛 は 、 不 正 に対 す る 正 の 主 張 に寄 与 す る の で あ り、 侵 害 へ の 非 難 を含 意 して い る か らで あ る 。 あ る見 解 は 、 そ の よ う な 事 案 構 造 の 場 合 に は 、 侵 害 と防 御 が どち ら も法 的 に 自 由 な領 域 で 行 わ れ て い る と捉 え る 。 しか し、 そ れ は 、 た と え ば妊 娠 中絶 の 事 案 で は、

堕 胎 の 支 持 者 と反 対 者 が 、堕 胎 手 術 が 行 わ れ る こ と に な っ て い る ク リニ ッ ク で 、 相 互 に重 大 な侵 害 を と もな う野 戦 を法 的 な結 果 を招 く こ と な く公 然 と展 開 して よい とい う こ とを 意 味 す る こ と に な ろ う。 当 事 者 の 一 方 は 堕 胎 手 術 が 禁 止 され て い な い こ とを 引 き合 い に 出 し、 も う一 方 は 緊 急 救 助 が 禁 止 さ れ て い な い こ と を 引 き合 い に 出 し う る とで もい うの で あ ろ う か 。 しか しな が ら、 こ の よ う な 類 の 「法 的 な混 沌 」 を 容 認 す る こ と は、

法 の 秩 序 任 務 と矛 盾 す る。 さ ら に、 紛 争 の 解 決 が 容 易 に 拳 の 強 さ に 委 ね られ る こ と も、 納 得 で きる もの で は な い 。 した が っ て 、 個 別 に後 に 論 ず る こ と に な る 困 難 な衝突 状 況 の 場 合 に は 、 違 法 性 が 阻 却 さ れ るか 、 責 任 が 阻 却 さ れ る か 、 あ る い は 、 そ の どち ら も 阻却 さ れ な い か とい う 三 つ の 可 能 性 しか な い 。 法 的 に 自 由 な 領 域 は、 構 成 要 件 の 「後 」 で 認 め られ る べ き で は な い 。Priestrerは 、 「立 法 者 が 違 法 性 判 断 の 法 的 結 論 を、 行 為 自 体 が 承 認 され な い の に 、 回 避 し よ う と し て い る 」 ケ ー ス で 、 「法 的 に 自 由 で な い 領 域 」 を 主 張 す る。 しか し、 そ の 場 合 に問 題 に な る の は、 正 当 化

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事 由 で あ る 。とい う の は 、正 当 化 事 由 は適 法 化 だ け を意 味 す るの で あ っ て 、 正 当 化 さ れ た 行 動 の承 諾 を 意 味 して い る わ け で は な い か らで あ る 。

第5節 違法性 と法秩序の統 一性

30今 日 まで 決 着 の つ い て い な い 問 題 は 、行 為 の 適 法 性 や違 法 性 は 、全 法 秩 序 つ ま りす べ て の 法 領 域 に と って 単 一 的 に規 定 され な け れ ば な らな い の か 、 そ れ と も、個 々 の 法 実 体 の特 殊 性 に応 じて そ れ ぞ れ判 断 され う るの か 、

とい う問題 で あ る。 刑 法 に とっ て は 、 と くに、 二 つ の意 味 で 問 題 と な る。

1)民 法 上 ま た は 公 法 上 の 許 可 や 干 渉権 は 、 刑 法 上 で も、 あ ら ゆ る 状 況 に お い て 、構成 要 件 に該 当 す る 行 為 の違 法 性 を阻 却 す る の か 。

2)あ る行 為 の 民 法 上 ま た は公 法 上 の 禁 止 の 存 在 は 、 あ らゆ る状 況 に お い て 、 こ の行 為 が 同 時 に刑 法 典 の 構 成 要 件 を 充 足 す る 場 合 に は 、 刑 法 上 の 不 法 も表 す こ と を意 味 して い るの か 。

31第 一 の 問 題 は 肯 定 さ れ る べ き で あ る。 何 らか の 法 領 域 に お い て 許 さ れ て い る 行 動 が 、 そ れ に もか か わ ら ず 処 罰 さ れ る と し た ら、 そ れ は 耐 え ら れ な い 評 価 矛 盾 で あ っ て 、 社 会 政 策 の 外 縁 に あ る 手 段 と して の 刑 法 の 補 充 性 と も矛 盾 す る で あ ろ う。 した が っ て 、 そ の か ぎ りで は 、 よ く引 き 合 い に 出 さ れ る 「規 範 の 定 立 者 を考 慮 す る こ との な い 連 邦 領 域 内 で 妥 当 して い る す べ て の 規 範 を包 括 す る法 秩 序 の 単 一 性 」 が 、 刑 法 に お い て 重 要 な 正 当 化 事 由 は 法 秩 序 の全 領 域 に 由 来 す る とい う命 題 と 同様 に 、承 認 され るべ きで あ る。

32そ れ に対 し て 、 第 二 の 問 題 は 、 支 配 的 見 解 が そ れ を ほ と ん ど 問 題 に して い な い の と 同 様 に 、 肯 定 す る こ と は で きな い。 と い う の は、 民 法 上 ま た は公 法 上 禁 止 さ れ て い る行 為 は 、 論 理 必 然 的 に も、 ま た 、 刑 事 政 策 的 に も許 され て い る わ け で も な い の だ か ら、 そ の よ う な行 為 は 、 構 成 要 件 を充 足 す る 場 合 に は、 処 罰 も さ れ る べ きで あ る 。 同 時 に原 則 的 に は 、 他 の 法 領 域 の 明 示 的 な基 準 と対 立 す る犯 罪 類 型 的 な(=構 成 要 件 に該 当

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す る)行 為 は 、刑 法 に よ っ て 制 圧 され る こ と も必 要 で あ る。 しか しな が ら、

そ れ は 必 ず し もそ う で あ る わ け で は な い 。 と い う の は、 他 の 法 領 域 に 由 来 す る禁 止 は、 第 一 次 的 に は各 々 の 法 領 域 に特 殊 な法 的 効 果(た と え ば 、 損 害 賠 償 や 公 法 上 の 責 任)を もた らす こ と を 目的 に して い る か ら で あ り、

ま た 、 刑 法 は そ れ ら の 効 果 よ り も は る か に 重 い 制 裁 を無 条 件 に 科 さな け れ ば な らな い わ け で は な い か ら で あ る 。

33(第13章Rn.55以 下 の 被 害 者 の 同 意 に 妥 当 した 法 則 に従 え ば)自 己 の財 物 の毀損 に対 す る 未 成 年 者 の 推 定 的 同 意 は 、 彼 の 行 為 能 力 が 制 限 さ れ て い る た め に民 法 上 許 され て い な い の で あ る か ら、 そ の か ぎ りで 違 法 で あ っ て 損 害 賠 償 を義 務 づ け られ る こ と に な る が 、 そ の 場 合 に も弁 識 能 力 が 実 際 に あ る こ と を 理 由 に不 法 阻却 事 由 が 認 め られ 、 刑 法 の 適 用 が 妨 げ られ る こ と は な い 。 公 法 が 、 一 般 に広 く認 め られ て い る見 解 の よ う に 、 高 権 保 有 者 に よ る 暴 行 を特 別 な公 法 上 の干 渉 規 範 が 存 在 す る場 合 に の み 許 し、 そ れ に対 して は す べ て の 市 民 に 妥 当 す る正 当 防衛 権 限 や 緊 急 避 難 権 限 を認 め ず 、 さ ら に 、 高 権 保 有 者 に特 別 な 干 渉 権 限 の 付 与 が な い 場 合 に は 行 為 の 禁 止 を 表 明 して い る よ うな 場 合 で あ っ て も、 そ う で あ る か ら と い っ て 、32条 や34条 の 規 定 を 遵 守 して 介 入 す る公 務 員 あ る い は 軍 人 の可 罰 性 が 不 可 欠 で あ る こ と を 意 味 す る わ け で は な い 。 む しろ 、 公 法 が 干 渉 を非 難 し、彼 に一 定 の 法 的 効 果(た と え ば懲 戒 の 類)を 科 す と して も、

刑 法 は 彼 に不 法 阻却 を 許 す こ と も で き るの で あ る。

34支 配 的 見 解 は そ の よ う な現 象 を 、 違 法 性 の単 一 性 に 固 執 し、 種 々 の 法 領 域 に 異 な る さ ま ざ ま な法 的 効 果 の 規 定 が 可 能 で あ る こ と を 認 め る こ と に よ っ て 、 正 当 化 し よ う と して い る 。 た と え ば、Engischは 、 「法 的 な 義 務 づ け や 不 法 阻 却 は全 体 に影 響 を及 ぼす 。 しか し、 具 体 的 な不 法 を た だ個 別 的 に可 能 な 効 果 へ つ な げ る こ と、 つ ま り、 損 害 賠 償 だ け を生 じさ せ 刑 罰 を 生 じ させ な い こ と、 刑 罰 だ け を生 じ させ 損 害 賠 償 を生 じ させ な い こ と な ど は 、 つ ね に法 秩 序 に と っ て 自 由 な の で あ る 。 こ の よ う な不 法 効 果 の 相 違 を 理 由 に、 私 法 の 違 法 性 と刑 法 の 違 法 性 が 存 在 す る と述 べ る

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桐 蔭 法学17巻2号(2011年)

の は 、 間違 い で あ る。」 と述 べ て い る 。 こ の 主 張 に関 して は 、 そ れ ぞ れ の 法 領 域 の 間 で 、 法 的 効 果 に つ い て は 、 完 全 な相 違 が 存 在 す る と指 摘 して い る限 りで は正 当 で あ る 。 た と え ば 、 民 法904条 に よ っ て カ バ ー さ れ る 行 為 は 、 民 法 上 も刑 法 上 も同 様 に適 法 で あ る 。 もっ と も、 そ れ は 、 民 法 上 は損 害 賠 償 義 務 を生 じ させ る もの で は あ る 。

35し か しな が ら、 違 法 性 に 違 い が あ る 可 能 性 を、 そ の よ う な 理 由 か ら 絶 対 的 に 否 定 す る の は 正 し くは な い 。 た と え ば 、 先 に 言 及 さ れ た推 定 的 承 諾 や 当 局 の 暴 行 の 例 で は 、 処 罰 と い う法 的 効 果 が 放 棄 され る だ け で な く、 刑 法 が そ の 目 的 か ら見 て 、 行 為 者 の 行 動 を そ もそ も非 難 して い な い の で あ る 。‑民 法 上 ま た は公 法 上 の 違 法 性 自体 を承 知 して い る こ と に は 関 係 な い。 逆 に 、 こ れ らの 場 合 に 、 民 法 上 の損 害 賠 償 義 務 を民 法 上 適 法 で あ る に もか か わ らず 肯 定 す る こ と、 あ る い は、 懲 戒 処 分 を公 法 上 適 法 で あ る に もか か わ らず 肯 定 す る こ と も ま た 、 適 切 で な い 。 とい うの は 、 そ の や り方 は 、 刑 法 の規 制 と は矛 盾 し な い け れ ど も、 こ れ ら の 法 領 域 の 規 制 と矛 盾 す るか らで あ る 。

36そ れ ゆ え 、Guentherと 同 じ よ う に、 特 別 な刑 罰 不 法 阻 却 事 由 が 承 認 さ れ るべ きで あ る 。 しか し、 そ の よ う な事 案 は例 外 で あ る 。 なぜ な らば 、 ほ とん ど の 正 当 化 事 由 は 、 他 の 法 領 域 に 由 来 して い る に もか か わ らず 、 容 易 に刑 法 にお い て も妥 当 して い るか らで あ る(参 照 、Rn.31)。 そ れ に対 し て 、 刑 法 に 由来 す る 正 当 化 事 由 は 稀 有 で あ り、 た い て い は 他 の 法 領 域 に も受 け 入 れ られ て い る(た とえ ば、 民 法227条 お よ び刑 法32条 の 正 当 防 衛 や 刑 法34条 の 緊 急 避 難 は 、 行 為 を 民 法 上 も正 当 化 す る)。 ま た 、刑 罰 不 法 阻却 事 由が 、刑 法 上 の効 果 にお い て 、一 般 に妥 当す る 正 当 化 事 由 か ら、

そ の刑 法 的 作 用 の点 で 、 区 別 され る こ とは な い(参 照 、 す で にRn.2)。

第6節 正当化事由の体系化 について

37正 当化 事 由 の 実 りの 多 い 体 系 化 は 、 こ れ ま で の と こ ろ 成 功 して い な

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クラ ウス ・ロ クシ ン 『刑 法 総論 』 第一 巻(第 三版)〔 十 三 〕(吉 田宣 之 ・四條北 斗)

い 。 そ れ は、 お そ ら く最 終 的 に 成 功 し え な い で あ ろ う。 と い うの は 、 構 成 要 件 が 現 に充 足 さ れ て い る に もか か わ らず 、 犯 行 の 実 質 的 不 法 が 阻 却 さ れ う る 観 点 は 多 様 で あ り、 ま た 、 法 秩 序 全 体 の 目 的 に 由 来 す る正 当 化 事 由 は多 種 に 及 び 、‑と くに 高 権 的 な 干 渉 の場 合‑さ ま ざ ま な 要 求 に 支 配 さ れ て い る の で 、 内 容 的 に も訴 え る力 の 大 きい 一 元 的 な原 理 は 、 つ ね に制 限 さ れ た妥 当 性 しか も ち え な い か らで あ る。 構 成 要 件 に 記 述 され た犯 罪 類 型 が‑自 由剥 奪 、住 居 侵 入 、 傷 害 な ど‑あ る種 の静 止 状 態 を 示 す 一 方 で 、 正 当 化 事 由 に よ っ て 社 会 の 変 化 の ダ イ ナ ミズ ム は 犯 罪 論 に 浸 透 す る の で あ る 。 人 を逮 捕 す る こ と、 住 居 に侵 入 す る こ と 、 あ る い は 、 傷 害 を負 わせ る こ とが 許 され る 理 由 は 、 つ ね に 変 化 す る。 刑 法 秩 序 また は民 法 秩 序 の 各 々 の 改 正 、 警 察 法 の 改 正 、懲 罰 権 、 私 的 領 域 あ る い は 示 威 運 動 の 権 利 に 関 す る見 解 の 変 化 は、 正 当化 事 由 を創 出 しあ る い は打 ち 砕 くの で あ る 。 社 会 的 な 必 要 性 と個 人 の 自 由 を均 衡 さ せ る 干 渉 権 の 整 序 に は 、 内 容 的 な 体 系 化 か ら ほ ど遠 い 傾 向 を持 っ て い る全 法 秩 序 が 協 働 し て い る 。 そ の よ う な法 秩 序 は 、そ の 高 度 な複 雑 性 ゆ え に簡 潔 な 「社 会 形 態 」 で は把 握 さ れ え な い の で あ る 。

38そ れ ゆ え 、 正 当 化 事 由 を す べ て 包 含 す る 基 本 思 想 に還 元 し よ う とす る い わ ゆ る 一 元 論 は 、 必 然 的 に抽 象 的 で 内 容 の 希 薄 な もの に な ら ざ る を え な い 。 歴 史 的 に と くに重 要 なの は 、 現 行 の34条2文 にお い て も ま だ そ の 影 響 を残 して い る 「目的 説 」 で あ る 。 そ れ に よれ ば 、 構 成 要 件 に該 当 す る行 為 が 正 当 化 さ れ る の は 、そ れ が 「立 法 者 に よっ て 権 限 が あ る(正 当) と認 め ら れ た 目 的」 を達 成 す る た め の 「適 切 な(正 当 な)手 段 」 で あ る 場 合 で あ る 。Sauerは 、 「法 学 上 の 原 理 」 と して 「損 害 よ り も大 きい 利 益 の 原 理 」 を立 て た 。 す な わ ち 、 「(資料 的 な意 味 で)適 法 で あ る の は、 作 用 が そ の 一 般 的 な傾 向 が 普 遍 化 さ れ た場 合 に 、 国家 共 同 体 に損 害 よ り も 多 くの(観 念 的 、 文 化 的 な)利 益 を与 え る 場 合 で あ る 。」Nollは 、 「正 当 化 の原 理 と して の 価 値 の 考 量 」 を 主 張 す る 。 そ の 際 に 、 彼 は 、 正 当 化 の た め に考 慮 さ れ る べ き価 値 と して 、法 益 の み な らず 、 「国 家 や 私 法 や 家 族 の秩 序 の よ う な あ る種 の社 会 関係 」も含 め て い る 。Schmidhaeuserに よれ ば 、

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桐 蔭 法学17巻2号(2011年)

作 為 犯 の場 合 の正 当 化 事 由 は 、 「構 成 要 件 的 に侵 害 さ れ た利 益 よ り も優 先 され る利 益 の 顧 慮 を含 ん で い る行 為 経 過 か ら取 り出 さ れ た 一 コ マ 」 で あ る 。 正 当 化 事 由 に お い て は 、 「利 益 の顧 慮 の 有益 さが 利 益 侵 害 の 反 価 値 よ り も優 先 す る こ とが 確 か め られ る」 の で あ る 。

39Mezgerに 倣 っ て 正 当 化 を 「優 越 的 利 益 」 の原 理 と 「利 益 の欠 如 」 の 原 理 に還 元 す る 「多 元 説 」 は 、 「一 元 説 」 に近 くな る 。 こ の 場 合 、Bleiの

「優 越 す る 利 益 の 原 理 」 と 「欠 如 す る利 益 の 原 理 」 の 間 の 区 別 の 場 合 と同 様 、 基 本 的 に は 利 益 や 価 値 や 財 の衝 突 の 事 案 とは 言 え な い と思 わ れ る 同 意(ま た 、 そ れ に付 随 して 、 推 定 的 同 意)に 、正 当 化 事 由 の体 系 にお い て 独 立 した 地 位 を割 り当 て る こ とが 問 題 に な る 。 しか しな が ら、 同 意 は 、 実 際 は 、構 成 要 件 阻却 の 問題 で あ り(参 照 、第13章Rn.12以 下)、 した が っ て、

正 当 化 事 由 の 体 系 に お け る問 題 で は な い 。 そ れ に対 して、 推 定 的 同 意 の場 合 に は 、 完 全 に利 益 考 量 の 事 案 が 問 題 に な っ て お り、 そ れ ゆ え、 そ れ に 関 して は 、 そ れ 自体 の正 当化 原 理 は必 要 な い 。 法 益 保 持 者 の推 定 され た 意 思 は、 侵 害 の 時 点 で つ き とめ る こ とは で き な い で あ ろ う法 益 保 持 者 の 異 な る 現 実 の意 思 の可 能 性 と、 比 較 考 量 され るべ きで あ る。

40な る ほ ど種 々 の 公 式 が 正 当 化 を導 く原 理 を い く らか 異 な る 方 法 で 強 調 して い るが 、 具 体 的 な 結 論 をそ れ らの 公 式 か ら は導 き え な い と い う点 で は 共 通 して い る 。 と い う の は、 個 別 の 事 案 で 、 正 当 な 目 的 の た め の正 当 な 手 段 な の か 、 い か な る行 動 が 損 害 よ りも多 くの 利 益 を もた らす の か 、 い か な る価 値 が よ り高 く、 い か な る利 益 が 優 越 す る利 益 で 、 い か な る財 の 要 求 が 優 先 す る 財 の 要 求 な の か は 、 こ れ ら の 公 式 か ら は 認 識 され ず 、 む しろ 他 の 観 点 か ら しか 認 識 で きな い か らで あ る 。 す べ て を包 含 す る原 理 を 立 て よ う とす る の で あ れ ば、 す べ て の正 当 化 事 由 は衝 突 す る諸 利 益 の 社 会 的 調 整 を 目 的 とす る とい う考 え方 に 立 つ こ と に な る 。 した が っ て 、 一 方 で は、 衝 突 す る 「価 値 」、 「法 益 」、 「財 の 要 求 」 な どが 等 しい に もか か わ らず 、 正 当 化 され る 事 案 も認 め られ る(た と え ば 、 医 師 が 同 時 に二 人 の 患 者 に呼 ば れ 、 ど ち ら を救 う の か を 自分 で 決 め な け れ ば な ら な い 場

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ク ラウス ・ロ クシ ン 『刑 法 総論 』 第 一巻(第 三版)〔 十 三〕(吉 田宣之 ・四條 北 斗)

合 に、 義 務 の 衝 突 が 生 じ る)。 他 方 で は 、対 立 す る利 益 の 「社 会 的 に正 当 な 」 調 整 に 言 及 す る こ とで 、 実 質 的 違 法 性 の 観 点 が 再 び 指 し示 さ れ る の で あ り、 そ の 結 果 、 最 終 審 で 認 め られ る不 法 阻 却 は構 成 要 件 に該 当 す る 行 為 の社 会 的 正 当 性(な い し社 会 的損 害 の 欠 如)に 依 存 す る こ とに な る 。 そ の よ う な 包 括 的 な 正 当化 原 理 を さ ら に 具 体 化 す る た め に挙 げ られ る の は 、 正 当 化 さ れ る べ き行 為 は例 外 な く事 前 的 に 見 て衝 突 す る 法 益 の 保 護 の た め に不 可 欠 な もの で け れ ば な ら な い と い う観 点 で あ る。 つ ま り、 構 成 要 件 的 に侵 害 さ れ た 財 を負 担 す る た め に必 要 の な い 措 置 は 、 ほ と ん ど の事 案 で 、 紛 争 の社 会 的 に 正 当 な規 制 で は あ りえ な い の で あ る。

41正 当化 の カ テ ゴ リ ー を広 範 に構造 化 す る こ とは 、多 元 的 な見 解 に よっ て 可 能 に な る。 しか し、 こ れ は 最 終 的 な 内 容 に関 す る体 系 化 と い う方 法 で は な く、 実 質 的 違 法 性 に そ の 基 礎 を 置 い て い る社 会 的 な 秩 序 原 理 を 際 立 た せ る こ と に よ っ て 輪 郭 を与 え る とい う方 法 で の み 、 実 行 可 能 で あ る 。 こ の よ う な秩 序 原 理 は 、 個 々 の 正 当化 事 由 で 数 や 組 み 合 わ せ が 異 な る 。 そ れ は 、 内容 的 に具 体 化 す る解 釈 の 方 針 と して 作 用 し、 個 々 の 正 当 化 事 由 の 構 造 と 同様 に、 そ れ ら の 関 係 も明 らか に す る こ と が で き る。 か く して 、た と え ば 、正 当 防 衛(32条)は 、「保 存 原 理 」 と 「法 確 証 の原 理 」 か ら説 明 で きる こ と に な る。 被 侵 害 者 は 、 自分 を 守 る た め に 必 要 な こ と

をす べ て して もか ま わ な い が 、 彼 は 、 社 会 に お け る 法 の 妥 当 性 を 主 張 す る た め に 正 当 防 衛 を す る こ とが 必 要 で は な い と思 わ れ る よ う な場 合 に も、

まだ 正 当 防 衛 をす る こ とが 許 され る の で あ る(な ぜ な ら ば 、 回 避 した り、

助 け を呼 ぶ 可 能 性 が あ るか らで あ る)。 この 二 つ の 原 理 が 、 争 い が あ る 正 当 防 衛 の 問 題 の 明 確 化 に と っ て 極 め て 有 益 で あ る こ とが 、 後 に示 され る こ と に な る(第15章 以 下)。 防 禦 的 緊 急 避 難(民 法228条)は 、 「保 存 原 理 」 を 「考 量 の 原 理 」 と組 み 合 わ せ て い る。 す な わ ち 、 物 的 危 険(た と え ば動 物 の 襲 撃)に 対 して 、 あ ら ゆ る必 要 な 手 段 を 用 い て 自 分 を 守 っ て か ま わ な い が 、 そ れ は考 量 の範 囲 内 に か ぎ られ る 。 物 に 対 して 法 の 妥 当 性 を 主 張 す る必 要 は な い の で 、 こ の 場 合 、 法 確 証 の 原 理 は考 量 の原 理 に

よ っ て埋 め 合 わ され る の で あ る。 他 方 で 、 攻 撃 的 緊 急 避 難(民 法904条)

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桐 蔭 法 学17巻2号(2011年)

の 場 合 は 、 「財 考 量 の 原 理 」 は 「自律 原 理 」 に よ って 調 整 さ れ る 。 そ れ ゆ え 、 自 ら の 自律 を侵 害 さ れ た法 益 保 持 者 は 回避 さ れ るべ き危 険 に 関 与 し て い な い の で あ る か ら、 彼 の 自律 へ の 侵 害 は 、 救 助 さ れ るべ き法 益 が 優 越 す る場 合 に で は な く、 救 助 され る べ き利 益 が 著 し く価 値 の 高 い 場 合 に は じめ て 許 可 され る の で あ る 。

42し た が っ て 、 す で に 五 つ の 社 会 的 な 秩 序 の 原 理 が 挙 げ られ て い る。

そ れ ら は 、 正 当化 的 緊 急 避 難(34条)や 包 括 的 な 緊 急 権 の 場 合 お よ び そ の 他 の事 案 で 、 さ ら に増 え る こ と に な る。 全 体 と して は 、 法 律 の 文 言 が さ ま ざ ま な 可 能 性 を残 して い る場 合 で も、 い か な る基 準 に した が っ て法 益 の 衝 突 に 決 着 が つ け ら れ るべ き な の か 、 は っ き り と して い る。 社 会 生 活 は さ ま ざ ま な 形 態 が あ り、 変 化 す る もの で あ る の で 、 も ち ろ ん 、 基 準 と な る 規 制 原 理 の 数 を制 限 す る こ と は、 正 当 化 事 由 の 最 終 的 な 体 系 化 と 同様 に ほ と ん ど不 可 能 で あ る。

43Jakobsは 、 「多 元 説 に 関 連 して」 正 当化 事 由 を三 つ の 原 理 に還 元 し よ う とす る。 す な わ ち 、 被 侵 害 者 に よ る答 責(あ る い は 誘 因)の 原 理 、 被 侵 害 者 自身 に よ る利 益 限 定 の原 理 、そ して 、連 帯 の 原 理 で あ る。 た と え ば 、 第 一 の グ ル ー プ に は 正 当 防 衛 が 、 第 二 の グ ル ー プ に は 正 当化 さ れ る 当 局

の 許 可 が 、 第 三 の グ ル ー プ に は攻 撃 的 緊 急 避 難(民 法904条)が 含 ま れ る こ と に な る 。 そ れ に よ っ て 、 た しか に、 正 当 化 の 際 に考 慮 され る べ き 観 点 が 特 徴 づ け られ て い る(た と え ば 、 連 帯 原 理 は 上 で 述 べ た 自律 原 理

と相 応 す る)。 しか しな が ら、 そ れ ら三 つ の 原 理 は 基 準 とな る法 則 の 観 点 を 論 じ尽 く して お らず 、 ま た 、Jakobsに よ っ て主 張 され た 「正 当 化 事 由 の 分 類 」 に もお よ そ適 して お らず 、部 分 的 に は む し ろ、 こ の基 準 に よ っ て 分 類 さ れ た もの の 中 間 に 落 ち 着 く もの も あ る の で あ る 。 た しか に、 正 当 化 的 緊 急 避 難(34条)は 、 主 に、 関 与 して い な い 者 の 連 帯 原 理 の 事 案 を含 ん で い る が 、 侵 害 が(一 部 で は 答 責 的 な 、 ま た 一 部 で は 責 任 を負 う べ き)被 侵 害 者 の 誘 因 に 基 づ くよ う な事 案 も含 ん で い る の で あ る 。 仮 逮 捕(刑 事 訴 訟 法127条)は 、逮 捕 され た者 の 行 動 に よ っ て な さ れ て い るが 、

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