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金属材料の高温変形挙動の予測に関する研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

金属材料の高温変形挙動の予測に関する研究

宮川, 英明

https://doi.org/10.11501/3079423

出版情報:Kyushu University, 1994, 博士(工学), 論文博士

(2)
(3)

金属材料の高温変形挙動の予測に 関する研究

宮 川 英 明

(4)

目次

1 序論 1

1.1 本研究の背景と目的 1 1.2 本研究の概要 9

2 実験方法 12

2.1 緒言 12

2.2 試験片 . 13

2.2.1 固溶強化合金 . 13

2.2.2 固溶強化と分散強化が複合した合金 . 16

2.3 引張試験機 21

2.3.1 試験機の概要 21 2.3.2 試験機の制御性能 . 22 2.4 変形経路 .

3 変形応力の経路依存性

3.1 緒言

22

29

29 3.2 高温変形応力の経路依存性の特徴 . 30

3.2.1 3.2.2

固溶強化合金 複合強化合金

30 34

(5)

3.3 結論 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 37

4 固溶強化合金の高温変形挙動の予測 39 4.1 緒言 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 39 4.2 変形挙動の予測法 . • • • • • • • • • • • • • • • • • 40 4.2.1 内部応力の予測法 . • • • • • • • • • • • • • • 40 4.2.2 変形応力の予測法 . • • • • • • • • • • • • • 4,5 4.2.3 クリープ挙動の予測法 • • • • • • • • • • • • 48 4.3 予測法の検討 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 48

4.3.1 Al-5at%Mg合金における予測パラメータの決

定法と予測結果の検討 . • • • • • • • • • • • • 49 4.3.2 予測ノマラメータの温度依存性と濃度依存性 61 4.3.3 ßo、見および6の温度依存性に関する検討 74 4.3.4 変形挙動の組成依存性 • • • • • • • • • • • • 78

4.3.5 変形応力の経路依存性 ハU

にU KU Qu nu う­

n6 06 06 n6 ny Qd 4.3.6 クリープ曲線

4.3.7 定常状態における応力一ひずみ速度線図

4.3.8 定常状態における内部応力と変形応力 4.3.9 定常状態における転位密度

4.4 結論

5 固溶強化合金の変形応力予測法の比較・検討および本予測法

の適用限界 95

5.1 緒言 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 95

(6)

5.2 比較する変形応力予測法

5.2.1 変形の状態方程式を用いる予測法

96 97 5.2.2 中西らの予測法 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 5.3 予測結果の比較・検討 . . 103 5.3.1 変形の状態方程式を用いる方法による予測結果103 5.3.2 中西らの方法による予測結果 . 103 5.3.3 本予測法との比較・ 検討 . . 105 5.4 本予測法の適用限界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108

5.4.1 5.4.2 5.5 結論

高ひずみ速度領域 低ひずみ速度領域

. . . . . . . . .

110 121 128

6 固溶強化と分散強化が複合した合金の高温変形挙動の予測131 6.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 131 6.2 変形挙動の予測法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132 6.2.1 分散強化応力の評価法 ・・・・・・・・・・・・ 132 6.2.2 変形応力の予測法 ・・・・・・・・・・・・・・・ 141 6.2.3 クリープ挙動の予測法 . . . . 144 6.3 予測結果の検討 . . . . . . 144

6.3.1 検討に用いた試料とボイド強化応力 . 144

6.3.2 変形応力の予測 . . 145

6.3.3 クリープ曲線の予測 6.3.4 他の合金系への適用

149 149

(7)

6.3.5 定常状態、における変形応力のひずみ速度依存性152 6.3.6 分散強化応力の転位密度依存性 . 154 6.4 結論 157

7 総括

謝辞 参考文献

159 164 166

(8)

第 1 序論

1.1 本研究の背景と目的

塑性加工は金属材料の重要な成形法の一つであるが、 その材料の 再結品温度以下で行う冷間加工

(

または常温加工

)

とそれ以上の温

度で行われる熱間加工(1)に大別される。 この分類とは別に、 拡散の 関与を考慮する必要がある高温変形(2)と、 拡散の関与をほとんど考 慮しなくてよい低温変形という分けかたも行われている。

高温変形とは、 一般に絶対温度でその材料の融点の約1

/

2以上の

温度で行われる塑性変形をさしており、 熱間加工も高温変形に含ま れる。 高温変形では、 加工によって材料が硬化すると同時に内部組 織の復旧過程が進行するため、 低温変形と比べ、 加工が進んでも加 工性が失われない特徴がある。 本論文はこの高温変形領域に含まれ る研究に関するものである。

近年、 製品形状の制御と同時に仕上がり材料の機械的性質を所定 の水準にするために材質制御した圧延、 いわゆる制御圧廷が開発さ

(9)

れ実施されている。 一般に材質は転位密度や結晶粒径などの内部組 織によって決まるので、 制御圧延は加工による組織制御法のーっと

言える(3)。 図1.1に制御圧延の概念図を示す(4)。

加工組織はまた、 加工温度、 ひずみ速度、 加工量などを制御する 圧延スケジュールによって決まるものであるが、 この加工過程で変 形応力がどのように変化するかを予測できるならば、 実行程で行わ

れる多くの試行錯誤を省略することができる。

図1.1制御圧廷の材質設計における組織と変形応力および温度の 関連を表わした概念図(4)。

高温における変形応力は主に変形機構の解明のためおよび塑性加 工機械の設計上の必要性からこれまでも広く研究されてきた。 しか し、 新しい加工方式の発達にともない、 遷移過程を含むいろいろな 条件の下での高温変形応力予測の必要性がますます高まっている。

これまでの高温変形についての研究はほとんど変形による加工硬

(10)

化と回復による軟化がバランスした定常状態に注目して進められて きた。 これに対し、 例えば圧廷の場合、 ロール間で材料が受けるひ ずみ速度はその幾何学的条件から一様ではなく(5)(6)、 定常変形状態 とは異なる。 したがって、 定常状態だけでなく、 これまであまり研 究されていない遷移過程を含めた変形応力の予測が重要となる。 ま た、 高温変形機構のより深い理解のためにも定常状態だけでなく、

遷移過程を含めた現象を研究することは大きな意義があるものと考 えられる。

現在用いられている変形応力の予測法は変形機構に基づいて導か れたものではなく、 多くの試行実験の結果を数式化したもので、 例 えば住金式

(

美坂の式

)

(7)や目立式

(

志田の式

)

(8)およびその改良型(9) など数種類が提案され利用されている。 しかし、 これらの式はいず れも変形応力をひずみ、 ひずみ速度、 温度および組成の関数として 求めるもので、 以下に必要理由を示す微分形式になっていない。

高温変形応力はそのときの転位組織などの内部状態に依存し、 微 小時間経過後の内部状態はその間の微小変形による硬化と回復の兼 ね合いよって決まると考えられるが、 これらの変化もまた内部状態 によるはずである。ザIJえば加工硬化率も回復速度も転位密度が高い ときと低いときでは異なる。したがって、 内部組織は当然のことな がら、 その瞬間の変形条件で決まるものではなく、 そこに至るまで の変形履歴にも依存すると考えられる。 したがって、 変形応力もそ の瞬間の変形条件だけでなく変形履歴に依存すると考えられる。 そ れ故、 変形応力の予測式は本来微分形式で表現されるべきもので、

変形の経路に沿った積分によってその状態における変形応力が求め

(11)

られる べきもの と 考 えられる。

変形経路依存性 を取り上げた研究もあるが、それらの予測法(10)(11)(12) は、 物理的に不明確な多くのパラメータを用い、 しかもそれら を実

験で求める と いう方法が用いられ ており、 上述したような意味での 微分形式ではない。 多くのパラメータを用いれば変形応力の予測精

度は当然、高くなるが、 それらのパラメータの物理的な意味が明確で

ないので、 材料によっ てどのようにそれらのパラメータが変化 する か を予測することができない。 すなわち、 材料ごと にそれぞれのパ ラメータを求めなければならず、 汎用性に乏しい。 そこで、 本研究 では、 高温変形機構の基本原理に基づいた微分形式の変形応力予測 法の開発を行った 。

金属材料は単一の元素からなる純金属、 複数の元素からなるが す べて回溶し異相を含まない固溶合金、および析出物や分散粒子など の異相を含む複合材料に分けられる。

純金属では転位 の運動 抵抗に熱活性化過程で越えられるような障 害物による抵抗、 すなわち 有 効 応力事がほとんど含まれない(13)(14)た め、 転位 同士の長距離相互作用(熱活性化過程で越えられない障害

と なる)に基づいた 内部応力(15)が変形応力に等しく、 純金属の高温 変形は転位組織の回復によっ て律速される(16)。 固溶強化の少ない

単相合金も同様であ る。

固溶強化合金では、 転位 は内部応力だけでなく、溶質原子の雰囲 気( Cottrell雰囲気)による抵抗 を受ける(13)(17)ため、 その強度は純 事負荷応力または変形応力から内部応力を差し51いた応力成分が、転位のすべ り運動に対して有効に働くとの考え方に基づいている。

(12)

金属に比べて高い。 この種の抵抗の主たる原因は刃状転位の溶質雰 囲気引きずりであり、 この運動抵抗が有効応力となる。要約すれば、

固溶強化合金の高温変形は溶質雰囲気を引きずる転位のすべり運動 によって律速され、 変形応力はこの有効応力と転位同士の長距離相

互作用である内部応力の和で与えられる。

複合材料には母相中に粒子状の異相を分散させた分散強化材、 繊 維状に配置した繊維強化材、 および母相と異相を層状に配置したラ メラ強化材などがある。 この中で分散強化材は強化相による異方性 もなく作製も容易であるため多く利用されている。

実用金属材料には、 高強度を得るため、 複数の合金元素により強 化されているものが多く、 固溶強化と分散強化が複合している合金 が多い。 実用的見地から、 本研究では固溶強化のみの合金と固溶強 化に分散強化が複合した複合強化合金について変形応力の予測法を

開発した。

純アルミニウムは融点が933Kであり、 その合金も融点が低く、

比較的低い温度で高温変形の研究ができる。 また、 耐酸化性に優れ ているため、 大気中で実験ができる。 さらに、 これまで高温変形機 構についての研究も数多くなされ、 蓄積されたデータを利用でき る、 などの利点もある。 特に、 第2章に述べるAI-Mg合金につい ては転位の易動度や転位と分散粒子との相互作用などが最近の研究 によって明らかにされているので、 それらの成果を利用できる有利 な点がある。 このことから、 本研究ではこの系の合金を用いた。

高温での固溶強化に関してはCottrellとJ aswon(18)によって提唱 され、 多くの傍証が得 られている(19)溶質雰囲気引きずり機構を前

(13)

提とした。 ただし、 この機構に基づく刃状転位の易動度については 以下の理由で中島ら(20)の計算値を用い た。

中島ら(20)(21)は固溶強化合金においてこれまで報告されている転 位密度が、 透過電子顕微鏡(TEM)による直接測定値と応力急変試 験や応力緩和試験による間接測定値で約10倍の違いがあることを 重視し、 転位の易動度の再検討を行った。 彼らは、 転位の回りに溶 質原子の雰囲気が形成されると溶質原子と転位との相互作用が緩和 される(22)ことを考慮することにより、 転位の易動度がCottrellの 近似式から導かれる理論値(23)より大きくなることを示し、 TEMに よる直接測定結果と応力緩和試験等による間接測定結果との不一致 を解明した(20)。 この刃状転位の易動度は転位速度と有効応力を関 係付けるノマラメータで、 有効応力の評価に大きな影響をおよぼす。

本研究では、 彼らの求めた刃状転位の易動度を用いることにより、

固溶強化合金の変形応力予測精度を高めることができた。 このこと は彼らが再検討して得た易動度が正しいことを再確認したことにも なる。

分散粒子を含む合金における転位と分散粒子との相互作用につい ては、 分散粒子の弾性係数が母相より大きい場合でも、 体拡散と同 時に粒子-母相界面でのすべりが起こり、 転位の応力場が粒子界面 で緩和される場合には、 界面は自由表面と同じになり、転位と粒子 との相互作用は引力型となる(Srolovitz機構)ことが理論的(24),こも 実験的(25)(26)(27)(28)(29)にも明らかにされている。 分散粒子と母相と の界面が非整合である場合に上記の緩和が実現しやすく、 転位は分 散粒子と引力型の相互作用をする(30)。 このような引力型の相互作

(14)

用では、 オローワンのby pass機構(31)や転位のclimbによる粒子 乗り越え(32)(33)はなく、 粒子に捉えられた転位が粒子から離脱する のに必要な応力(34)(35)が分散粒子による強化応力となる。 本研究で は、 このような転位と分散粒子との相互作用を基礎として分散強化 応力の予測法を導いた。

前述したように、 金属材料の熱間加工はひずみ速度や温度が変化 する複雑な変形経路に沿うものなので、 まず変形応力の変形経路依 存性を明らかにする必要がある。 ここで変形経路とは、 ひずみ一時 間-温度空間における経路のことで、 図1.2は等温断面内の経路 を示したものである。

ある ひずみεrをある時間tr で与えるとき、 高温では拡散の効果 が大きいため、 この点に至る経路によって変形応力は大幅に異なる ものと考えられる。 図1.2からも分かるように変形経路は無限に 多様であるので、 実験的に調べ尽くすことは不可能であり不経済で ある。 したがって、 広い範囲の経路に汎用できる変形応力予測法の 開発が必要となる。 本研究では先ず主に3種類の代表的な経路を選 んで、 変形応力の経路依存性を実験的に検討し、 予測法の開発に必 要な一般的傾向を明らかにした。

次に、 微分形式の予測式を検討した。 前述したように、 この予測 法は高温変形機構の基本原理に基づいて定式化したものなので、 広 い範囲の経路に汎用し得るものと考えられるが、 実際に上述の代表 的な変形経路について実測曲線と比較し、 その汎用性について検討 しアこ。

(15)

( t r

I

Er)

..

LU

C一σ」戸川山

Time, t

図1.2 同じ時間t=tr で同じひずみε=εT に到達するための多様 な変形経路。

(16)

1.2 本研究の概要

本論文は高混における遷移過程を含む変形応力の経路依存性につ いてその予測法の開発を主な目的とした研究で、 以下の7章より構 成される。

第1章 序論 第2章 実験方法

第3章 変形応力の経路依存性

第4章 回溶強化合金の高温変形応力の予測

第5章 固溶強化合金の変形応力予測法の比較・検討および予測法の 適用限界

第6章 固溶強化と分散強化が複合した合金の高温変形挙動の予測 第7章 総括

第1章は序論で、 本研究の背景と目的および本研究の概要につい て述べた。

第2章と第3章は変形応力の経路依存性についての実験的検討に 関することを述べた。

第2章では、 変形応力の経路依存性の検討に用いた固溶強化合金 および複合強化合金の試験片作製方法について述べ、 任意の経路に 沿った引張試験ができるように改良した、 本研究で用いた試験機の 概要とその制御特性について述べた。 さらに、 提案した予測法の検

証に用いた変形経路についても述べた。

第3章では、 第2章に述べたそれぞれの試験片について、 同じく

(17)

第2章で述べた変形経路に沿った引張試験で得られた応力一ひずみ 曲線を示し、 経路依存性の一般的傾向について述べた。 すなわち、

合金の種類や温度によって変形応力のレベルや詳細な形状は異なる が、 同じ時間で同じひずみに達したときの変形応力はいずれも経路 によって異なり、 変形応力に経路依存性があること、 その後の経路 を同じにすると短い遷移過程のあと前歴に依存しないほぼ同じ応力 で変形が進むことなどの特徴が実験したいずれの合金でも見られ、

変形応力の経路依存性は大略同じ傾向を示すことを明らかにした。

第4章と第5章では固溶強化合金の高温変形応力予測に関するこ とを述べた。

第4章では、 固溶強化合金の高温変形応力予測法を変形機構の基 本原理に基づいて導き、 予測ノマラメータの温度依存性、 組成依存性 について検討した。 溶質雰囲気引きずり機構が働く範囲で、 本予測 法で得られた応力一ひずみ曲線は実測曲線とよく一致すること、 お よび本手法によってクリープ曲線も予測できることを示した。 さら に、 定常状態におけるひずみ速度の応力指数、 変形応力に占める内 部応力の割合および転位密度の予測値はいずれも実測値とほぼ一致 することを示した。

第5章では、 本研究で求めた予測法と他の予測法との比較・検討 を行い、 本予測法が優れていることを示した。 さらに、 AI-Mg固溶 強化合金におけるひずみ速度の応力指数が3より大きくなる高応力 側と低応力側の遷移応力を本予測法で推定し、 本手法の適用範囲に ついて検討した。

第6章では、 分散粒子に起因する内部応力の評価法を、 転位によ

(18)

る内部応力、 ボイド強化応力

粒子分 散ノマラメータおよび変形応 力の関数 として導いた。 この結果を用いて固溶強化に分 散強化が複 合 した複合強化合金の変形応力予測法を導いた。 溶質雰囲気引き ずり機構 が働く範囲で、 この 予測法で複合強化合金の変形挙動を精 度よく再現できるこ とを示した。 定常状態におけるひずみ速度の応

力指数は固溶強化合金では約3であるが、 これ に分 散強化が複合す る と3よりかなり大きくな ることが実験的に知られている。 この応

力指数の変化も本手法で定量的に予測できるこ とを示した。

さらに 、 複合強化合金の高温変形 においては、 低転位密度では分 散強化応力が ボイド強化応力に等しい が、 転位密度が増加す る と ボ イド強化応力より小さくな る。 この挙動も、 本予測法で再現できる

こ とを示した。

第7章では、 本研究で得られた主な結果を要約した。

↑Srolovitz機構により、分散粒子-母相界面で転位による面力が完全緩和する と、転位に とって分散粒子はボイド と同等に感じられ、その とき の分散強化はボ イドによる強化と同等になるO

(19)

第 2 実験方法

2.1 緒言

この章では後章で用いた実験方法を一括して述べる。 本研究で対 象とした材料は実用材料として広く用いられている固溶強化合金 と固溶一分散複合強化合金であるが、 典型的な固溶強化合金として Al-3at%Mg、 Al-5at%Mg合金を選び、 複合強化合金として分散粒 子の形状が球形で分散の一様性が高いAl-3.1at%Mg-1.3vol%Be合 金を選んだ。 これらの合金の試験片作製法の詳細を2.2節に述べる。

一般に行われている高温における材料試験は定速引張または定応 力クリープなど限られた変形経路に沿ったものである。 市販の試験 装置も限られた経路についての研究に適したように設計されている。

したがって、 変形応力の経路依存性の研究には不適当で、 引張速度 を変形中に連続的に変えられるような制御系を加える必要がある。

本研究では島津製作所製のオートグラフをノマーソナルコンビュータ で速度制御できるように改良したものを用いた。 この改良により、

(20)

任意の関数に従って、 変位 制御 と荷重制御 試験 ができるようになっ た。 その試験機の概要、 特性については 2. 3節に述べる。

変形経路は多様であり無限に あるが、 任意に選べる経路の中から 代表的なものとして、 試験機系の弾性変形を含む見 か け の ひ ず み 速 度事がら==2.5x 10-6rv3.6x 10-4 S-lの範囲で一定または連続的に変化 する3種類の変形経路

(

一部5種類の経路)を選んだ。 2.4節にこれ

らの変形経路について詳述する。

2.2 試験片

2.2.1 固溶強化合金

主要な固溶強化合金は純金属に これと異なる原子サイズの溶質を 固溶させ、 転位と溶質原子との聞に生じる弾性的相互作用によって 強化された合金で、 純金属に比べ強度 が高いだ け でなく変形挙動に も大きな違いがみられる。 本研究では固溶強化合金として強化能が 大きく、 耐酸化性にも優れ、 融点が低いため比較的低い温度 で高温 変形の研究ができるAI-Mg合金を選んだ。 さらにこの合金は、 限 られた経路についてでは あるが、 これまでに蓄積されたデータも多 く、 変形機構もほぼ明らかにされているので、 予測法を開発するの に有利である。

試験片はAl-3at%Mg合金およびAl-5at%Mg合金の2種類で、 製 作は次のようにして行った。 純度99.99mass%のアルミニウムと純 度99.9mass%のマグネシウムインゴットからブロックを切り出し酸

可|張試験で制御できるのはこの見かけのひずみ速度である。

(21)

洗いした後、目的の組成に な るように秤量して、高純度アルミナるつ ぼを用い102 0Kで大気溶解した。 溶け落ちた後、アルミナ棒で十分 撹持した後ステンレス製の金型に鋳造し、1 80mmx 15 mmx 1 90mm のインゴットを得た。 なお、溶解時には酸化防止のため溶湯重量 の 1%のフラックス(質量比で MgC12: KCl : MgF2==5 : 3 : 2 に配合) を用い、脱ガス処理にはArガスを使用した。 これ ら のインゴット

の表面を皮むきした後、切断し、切削加工により直径 15 mm、長 さ 170mmの丸棒と した。 こ の丸棒を 、 高温脆性温度域↑を避け、約 523Kで熱間スウェージして直径7mmの丸棒と した。 さらに、切削 加工によってAl-5at%Mg合金については平行部長さ30mm、直径 4mmの両端部M7ネジ付き丸棒引張試験片を作製し、これを723K

で10.8ks(3 h) 再結晶処理した。Al-3at%Mg合金については平行部長 さ が同じで直径3 mmの両端部M 6ネジ付き丸棒引張試験片とし人 同温度723Kで3.6ks(1h) 再結晶処理した。 Al-5at%Mg合金 の再結

晶処理時聞を 長くしたのは、Al-3at%Mg合 金と 結晶粒径をでき る だけ揃え るためである 。 なお、再結品処理中は、脱マグネシウムを 防止す るため 、試験片 表面に粉末カーボン(エアロダッグG:日本 アチソン(株)製)を塗布した。

図2.1 に試験片作製の手順を フローチャートで示すと ともに試 料の形状も 示した。 化学分析の結果、マグネシウム濃度 は目標値と

ほぼ同じで、それぞれ 2.98at%、5.00at%で、あった。 再結品処理後 の結品粒は両 合金とも等軸晶で、リニヤインタセプト法で測定した

↑本合金は、5731'V673Kの温度範囲で延性が低下し 高、副危性を示すことが報告 (36)(37)(38)されている。

:両合金の試験片サイズを変えたことに特別な意味はない。

(22)

;...0・-

Aト5.0at%Mg Aト3.0at%Mg 99.99mass%AI

99.9 mass%Mg

|

Casting

I

Hot swaging(523K)

|

Cutting

+ I

74

+

Annealing 723K.10.8ks

Specimen AI-3.0at%Mg

+

Annealing 723K.3.6ks

図2.1固溶強化合金の試験片作製手H国、 試験片形状および熱処理 条件。

(23)

-ー圃a・h

結晶粒径はAI-3at%Mg合金でO.38mmであった。AI-5at%Mg合金 の粒径は再結晶処理時間を長くしたにもかかわらずO.10mmであっ た。 しかし、 本実験条件では結晶粒径の効果は無視できる。

2.2.2 固溶強化と分散強化が複合した合金

固溶強化に分散強化を複合させた複合強化合金には、 固溶強化の みの合金との比較を容易にするため、 母相と同じAI-Mg合金とし、

これにベリリウム粒子を分散させたAI-3.1at%Mg-1.3vol %Be合金 を選んだ。 複合強化合金の高温変形挙動を正しく把握するために は、 組織が安定で、 変形中に析出が起こったり分散粒子の成長が生 じたりしないことが必要である。 AI-Mg-Beの三元系平衡状態図(39) によると、 この組成では MgsAl8相は析出せず、 分散粒子はベリリ

ウムのみである。 また、 下に述べる安定化処理により粒子を安定サ イズに 生長させ、 上述の条件を満たすようにした。

Al-7.27at% (2.55mass%) Be母合金(主な不純物は鉄で、 その量 はO.17 mass%以下である)と純度 99.99mass%の純アルミニウムお よび純度 99.9mass%の純マグネシウムブロックをそれぞれのイン

ゴットから切り出し、 酸洗いして、 Al-3.0at%Mg-2.5at%Beの組成 になるように秤量配合し、 前節のAI-Mg合金と同様の方法により約 1020Kで大気溶解して、 金型鋳造により直径 15mm、 長さ 17 0mm

の丸棒状インゴットを得た。 このように、 AI-Mg合金の場合よりイ ンゴットサイズを小さくしたのは、 冷却速度を大きくすることによ りベリリウム粒子を微細均一に晶出させるためである。 さらに冷却 速度を大きくするため、 鋳込み直後、 鋳型を水槽に入れた。

(24)

-・‘

得られたインゴットの表面 を約1 mm皮むきした後、 AI-Mg合金 と同様の方法で熱間スウェージして直径6 mmの丸棒とた。この丸棒 から、 切削加工により 直径3 mm、 平行部長さ30 mmの丸棒 状引張 試験片を作製した。 この試験片の表面にエアロダッグGを塗布し大 気中で723K -3.6 ks ( 1 h)の再結晶処理を行った後、 873K-10.8ks(3h) の粒子安定化処理を行って試験に供した。 図2.2 に試料作製のフ ローチャートと試料形状を示した。

試験片を化学分析した結果、 マグネシウムは3.1at%、 ベリリウ ムは2.61at%(1.3vol%) であった。 結品粒はほぼ等軸品で、 平均結 晶粒径は約50μmであった。

図2.3にベリリウム粒子の分散状態を示す透過電子顕微鏡(TEM) 写真を示す。 粒子は比較的均一に分布しており、 粒界で特に粒子の 寸法や分布が変わる傾向は認められなかった。 これらの分散粒子は 制限視野回折により ベリリウム単相から なることを確認した。

次にボイド強化応力と分散ノマラメータについて述べる。 ボイド強 化応力σvはScattergoodとBaconの式(40)に従い

=

(

1

)x

[

ln(

E

)+Bv

l

(2.1)

で求めた(25)。ここで、bはノてーヵーースベクトルの大きさ (=2.86x10一10

m)、 Mはテーラ一因子(41)(叫(本合金はfcc であるので3.06 )、 E はヤング率、νはポアッソン比、 入はすべり面上における粒子表面 間距離 で、

入==1.25fs -2rs (2.2)

であり(28)(27)(丈、言はすべり面上での平均粒子中心間距離と平均粒

(25)

"圃a・h

A卜3.1 at% Mg-1 .3vol% Be AI-2.55massoIoBe

99.99mass%AI 99.9 mass%Mg

|

Casting

I

Hot swaging (523K)

|

Cutting

+ I

Specimen

Annealing 723K,3.6ks

+

Stabilizing 873K, 1 O.8ks

図2.2複合強化合金の試験片作製手JI回、 試験片形状および熱処理 条件。

(26)

-圃h

φ

J

1

fJm

図2.3 Al-3.1at%Mg-1.3vol%Be複合強化合金におけるべリリウム 分散粒子の大きさと分布状態を示す透過電子顕微鏡写真。

(27)

---

子 半 径3(25) )、 Dは 2rsとXの調和平 均 、r lは転位のinner cu t-off 半 径 で、 rl==3bとした。 ま た、 Av とBvは次の式(35)で、与えられる

定数である。

Av == (1 +ν sin2ゆ)cosゆ/(1- v)

Av == (1 -v - vsin2ゆ)cosゆ/(1-ν ) 、

Bv == 0.6 ;らせん転位 Bv == 0.7 ;刃状転位

ゅは転位が 分散粒 子から離脱する と き の臨界角で、 Sca ttergood とBacon(35)に よればポアッソン比 νに依存し、アルミニウム合金

(ν ==0.34(心) )では刃状転位に対してゆ== 0.33 r a d ( 19 d eg)、らせん転位 に対してはゆ==0.82rad(47 deg)である。 ほとんど溶質雰囲気を形成 し な いらせん転位は 、 母相でのす べ り抵抗が刃状転位に比べ て小 さく、 すみやか に運動するため、 有効応力は刃状転位の運動抵抗に よ って決まる。したがって、 σvは式(2.1)で刃状転位につい て得 られ た値を 用 い た。 この合金の 分散ノマラメータと式(2.1)で得られ るボイド強化応力の値を 表2.1に示 す。 本研究ではアルミニウム

表2.1 Al-3.1at%Mg-1.3vol%Be複合強化合金のベリリウム 粒 子 分 散パラメータおよび式(2.1) より得られるボイド強化応力。

Alloy

Al-3.1at %Mg-1.3vol %Be

σv /G 2.5x 10-4

5葉ら(26)は、粒子半径の分布を考慮しない と、すべり面で切られた粒子の平 均半径が過小評価されることを示した。言は葉ら (26)が用いた記号で、同一半径 の粒子がすべり面で切られたときの平均 切断半径 と、粒子半径に分布があること による平均の二重の平均の意味をもっO

(28)

__..・・‘

合金需の剛性率GとしてTallonと羽Tolfenden(44)のstiffness の 測 定 値(Cl1、C12 および C44) から 、(Cl1 - C12) /2と C44の幾何平均よ

り求めた値を用いた。 ヤング率は

E==2(1+ν)G (2.3)

の関係から 求めた。 本研究で用いた 純 アルミニウ ム とその合金 の剛 性率Gとヤング率Eの値を 表2.2に示す。

表2.2温度573Krv723Kにおける純アルミニウムのヤング率Eお よび剛性率G (アルミニウム合金にもこれらの値を用いた)。

T/K E/GPa G/GPa

573 56.3 21.0

623 54.1 20.0

673 52.0 19.4

723 49.8 18.6

2.3 引張試験機

2.3.1 試験機の概要

本研究で用いた試験機はパーソナルコンビュータにより変位制 御 と荷重制御ができるように改造した島津オートグラフAG-10TA

であり 、コンビュータ上で作成した任意の関数にしたがってクロス

1f TallonとWolfenden(44)のstiffness の測定値から求めた純アルミニウムのヤ ング率 と、阿部ら(45)が測定したAI-Mg合金のヤンク率に はほとんど差が認めら れない。

(29)

-圃・ー

ヘッドを作動させることができる。 その作動系統図を 図2.4 に 示す。 変位制御と 荷重制御はノマーソナル コンビュータの設定値と ク ロスヘッドの移動量(感度O.26V/mmのL.V.D.T(差動変位計)で検 知)またはロードセルの出力 が一致する ようにクロスヘッドを動か す方法を用いた。 荷重、 変位などの出力 データはペンレコーダでグ ラフに描きモニターしながら実験を行い、 同時にコンビュータを介 してフロッピーデスクにデジタル データとして収録し、実験終了後 に解析した。

2.3.2 試験機の制御性能

図2.5 は純アルミニウム試験片を用いて行った本試験機の荷重 制御性能試験の結果で あ る。 初めに、 図2.5 (a)に示した実線の 経 路に沿って定速引張試験を行い、 図2.5 (b)の応 力↑一時間曲線を

12bitのA/D変換器を用いて測定した。 次に、 図2.5 (b)のデー タを荷重制御のためのデータと してコンビュータからD/A変換器 を用いて出力 し、 荷重制御による試験を行った。 このようにして得 られた ひ ず み一時間曲線が 図2.5 (a)の破線である。 この破線と 実線で 示した初めの引張試験の曲線はほぼ一致しており、 十分高い

精度で制御できることを示してい る。

2.4 変形経路

本研究で 用いた変形経路は試験機の弾性変形も含む見かけのひ ず

↑本論文で用いる応力とひずみはいずれも真応力 、真ひずみである。

(30)

---・・L

Servo Power Servo

し 一 一- Gmp. Gmp. motor

AUTOGRAPH AG-10TA

図2.4変位制御と荷重制御実験ができるように改造した島津オー トグラフAG-I0TA試験機の作動系統図(宮川ら(45))。

(31)

__.-..

99.99。んAl

(a)

Room temp.

Strain controL Load control 0.3

0.2

。-w.C一obω

0.1

0

80

( b)

60

40

20

。仏芝、10-ωωEMω主OE

。 2 3

Time. tlks

図2.5純アルミニウムを用い室温で行った、 島津オートグラフAG- 10TA試験機の荷重制御性能試験結果

(

宮川ら(45)

)

(32)

みら( 試験機で制御できるのは、 この見かけのひずみである)と時 間tとの関係が、

εa == al

{叫

(2.4)

となるようにした。 ここ で、trとこれに対応するひずみらはすべ ての経路について同じになるようにし、 ぞれぞれ1800sおよび 0.13 とした。 また、a2とa3は 表2.3に示すような値とした。

表 2.3 変形経路を与える式(2.4)におけるノマラメータ旬、 �と 旬、 およびt==O、t==trでのひずみ速度。

al

句i -A1 - FO

一一一一一

円、 u 一nu-nu

--/一11一1i

4一

一 ×

x

t二OZDE-

・ε一qJ一つ山

-- -

-

一6

d--寸E O一一o『S 一一一一一 -4

i一噌Ei

v'- -

J→一×

一×

k=hリコOL圃・・・

・ε一2一3

0.131 8.8 X 10-4

trと εEを一定としたの でalの値はa2とa3によって 0.

al ==

exp(匂) - exp(

13 -a3)

で与えられ、 表2.3に示すような値となる。 この変形経路とひず み速度の変化を 図2.6(a)と(b)に示すとともに、 表2.3にt==O

(2.5)

とt==trにおけるひずみ速度も示した。 経路1 は見かけのひずみ速 度らが一定の試験であり、 そのらは7.2x10-5S-1である。 また、

経路2と3ではらが2.5x10-6と3.6X 10-4S-1の聞を連続的に変

(33)

(a)

Paths

0.20

0.15 C O 1.-

vcφ」oaad司 0.'0

0.05 lJJ O

2.5 1.5 2

t/ks Time,

0.5 0

0

(b)

、、 、、 、、 、 、 、 Aパ J J , J J ,, J' ー」一戸

刊『ベE

F1凶マloco山山ふち」C-O」百戸Cφ」o

a丘ad

、、 、

s

F 、,, i

4

、/ 〆、 ,F

nu

〆 、ノ J

\ J 、、 ,, 戸。 、. J d \

、⑥

⑤ / F』 、、 ・ Fと 白 、 r、、 、 fu『

2

0.15 0.10

εα 0.05

Apparent strain,

図2.6変形応力の経路依存性の実験的検討およびその予測法の検 討のため、 本研究で用いた(a)変形経路εa-t線図と(b)ひずみ速度 Èa-t線図(宮川ら(45))。

(34)

__.・・』

化するが、経路2では変形初期のひずみ速度が大きく次第に減少す るの に対して、経路3では逆に変形初期のひずみ速度が遅く次第に 増加するようにしである。 さら に、tr==1800sとεr==0.13以後の変形 は7.2X 10-5s-1 の定ひずみ速度 となるようにした。 また、より複雑 な経路として trとεEを上述の半分にして連結した 4と 5の経路に

ついても一部調べた。 これらの経路は、900秒までは

εJh

で与えられ(経路4 ; �==O, a3==5、経路5 ; �==5, a3==0)、900秒か ら180 0 秒までは

ム t- 900, / t - 900 εa =a;{exp(&2 )-exp(-a3 )}

900 / ---r, -v 900

で与えられる(経路4 , a2==5,匂==0、経路5 ; a2==0, a3==5)。

で、a'1は次式で与えられる定数である。

ぶ o.065

1 exp(匂)-exp( -a3)

(2.7 )

に. にー

(2.8)

この変形経路とひずみ速度の変化を 図2.6(a)と(b) に破線で示

した。 式(2.6)と(2.7)からわかるように経路4の前半と経路5の 後半 および経路4の後半と経路5の前半 におけるひずみ速度の変化

は同じである。

固溶強化合金の 引張試験は、 温度 67 3Kで約0.4%の塑性ひずみ をひずみ速度3X 10-6s-1で与え、 試験機に取り付けたまま 723Kで 3.6ks焼きなました後、 それぞれの実験温度で引張試験を行った。 こ のように予ひずみを 与えて焼きなましたのは荷重系の直線性を良く

(35)

-ー」ー

するとともに引張試験を行う前の転位密度をできるだけ一定にする ためである。 分散粒子を含む複合強化合金は焼きなましによる分散 粒子の成長の心配もあるため、 加熱炉と試験片が所定の温度に落ち ついたあと直ちに引張試験を行った。

また、 試験片の加熱には加熱用電気炉を用いた。 この炉は加熱部 を上中下3つの部分に分け、 中央部をP.I. D. (Proportional Integral

Differential

)

方式によって、 また、 上部と下部をスライダックを用 いて手動で制御した。 電気炉を上、 中、 下の3つの部分に分けたの は、 煙突効果による熱の流れを小さくするため、 炉内にわずかな温 度勾配をつけて試験片部位の温度分布を一定に保つためである。 こ の方式によって試験片の平行部に沿う温度差を士lK以下に、 また 試験中の温度変動を土O.5K以下に制御できた。

(36)

___.・‘

第 3

変形応力の経路依存性

3.1 緒言

定速引張試験あるいは定応力クリープ試験など、 ひずみ速度ある いは応力が一定の条件での研究はこれまでも多数行われているが、

本研究のような変形中にひずみ速度が連続的に変化するような条件 下での変形応力の研究はほとんど見当たらない。 ここでは、 前章で 述べた固溶強化合金および複合強化合金について、 高温における変 形応力の変形経路依存性について実験的検討を行った結果について

述べる。

試験温度は573Krv673Kで、 前章の 図2.6に示した経路に沿っ て引張試験を行い、 それぞれの合金について変形応力一ひずみ曲線 を求めた。 その結果、 応力レベルや高温降伏現象の有無など合金の 種類や実験温度によって変形の挙動は異なるが、 いずれも変形経路 依存性が定性的には類似していることを示す。

(37)

-・・ーー-

3.2 高温変形応力の経路依存牲の特徴

3.2.1

固溶強化合金

温度573Kで、 前章の式(2.4)(図2.6(a)の実線)で示した変 形経路に沿って得られたAl-5at%Mg合 金 の変形応力の変形経路依 存性を 図3.1 に示す 。 図3.1(a)に示した ひずみ速度一定の経 路1では、 変形初期にいわゆる 高 温 降伏現象申が 現れた後、 応力 一 定の定常変形状態に入る が 、 は じめにひずみ速度が 大 きく次第に減 少 す る経路2では、 降伏現象と見られる鋭い変形応力の低下は 現れ ず、 変形初期にピークを示した後に、 変形応力は単調に減少す る。

一方、 はじめにひずみ速度が低く次第に増 加す る経路3では経路1 よ り も小さな降伏現象を示した後、 変形応力は単調に増 加す る。 そ の結果、 終点( tr ,εr ) ( 2.4節参照)における変形応力は変形経路 によって大きく異なる。 しかし 、( tr , εr )点以後ではい ずれ の経 路でも ひずみ速度が同じ になる の で、経路2と 3の変形 でも ひずみ 速度が急変したこと による短時間の遷移過程の後に、 一定ひずみ速 度の経路1とほぼ同じ定常変形応力に近づいて行く。 このこと は、

ひずみ速度一定の定常変形応力には前歴依存性がほとんどないこと を示している。

図3.1(b)に示した 、 式(2.6)と(2.7 )による複雑な経路4と 5 による実験結果を比較す る と 、 同じ割合でひずみ速度が単調に低下

・高温降伏現象は、固溶強化の大きい合金の高温変形に特有の現象で、あるOす なわち、 転位が溶質雰囲気を引きずりながら運動するとき、その 引きずり抵抗は

転位速度とともに増大するが、 ひずみの増加とともに転位密度が増加すると、定 速 変形のときには転位の平均車度が減少するため、変形応力が逆に減少する現象 である(47) (48)。

(38)

___.

図3.1 図2.6に示した変形経路1、 2、 3、 4および5で得ら れたAl-5at%Mg固溶強化合金の変形応力の経路依存性、 実測曲線 (宮川ら(46))。

(39)

する経路4の前半と経路5の後半では変形応力の経路依存性はほぼ 同じ傾向を示すことがわかる。 しかし、 同じ割合でひずみ速度が単 調に増加する経路 5の前半と経路4 の後半では初期の変形挙動が かなり異なる。 すなわち、 経路5の前半では降伏現象が現われてい るが、 経路4の後半では観察されず、 初期の変形応力のレベルもか なり異なっている。 この相違は転位密度の相違によるものと考えら れる。 すなわち、 経路5では初期転位密度が低いために高温降伏現 象が出現したものであり、 経路4の後半では転位密度が高かったた めに降伏現象が現われず、 かっ変形応力も低下したものと考えられ る。 固溶強化の大きい合金では、 転位運動に対する溶質雰囲気引き ずり抵抗が大きいため、 転位密度が高い程変形応力は低下すること が知られている(48)。

変形応力の溶質濃度依存性を調べるため、 マグネシウム濃度の異 なるAI-3at%Mg合金について、 図3.1(a)と同じ変形経路で行った 実験の結果を673Kについては 図3.2(a)に、573Kについては 図 3.2 (b)に示す。 比較し易いように図3.1 (a)に示したAl-5at%Mg

合金についての結果を 図 3.2 (c)に再掲した。 図3.2 (b)と(c) に示した、 同じ573KにおけるAI-3at%MgとAI-5at%Mgの実験結 果を比較すると、 マグネシウム濃度の低いAl-3at%Mg合金が全て の経路で変形応力がやや低く、 経路1の変形初期に見られる高温降 伏現象の現れ方も小さいなど、 細部で違いはあるが、 変形応力の経 路依存性は両合金でほぼ同じであり、 溶質濃度による大きな違いは なし'\0

同じMg濃度合金について温度による違いを見るため 図3.2(a)

(40)

-・�

門ヨM 0 .,,,

。ωK

-円J 内Jqv A 1t戸b

a ハυq》

20

10

。仏芝、・0

、ωωω」窃〉〉O-L

0

100 U - qM内J Uk ,,,, M qd

hu A

40

80

b

、 60

u) Q) '-

u)

20

OE

0

100 Al-5atO/oMg 573 K

(c) 80

40 20 60

u) ω ω '-

u)

� O

LL

。仏芝~-b

0.15 0.10

�a 0.05

Apparent 0

0

strain,

図3.2 図2.6に示した変形経路1、 2および3で得られた固溶 強化合金の変形応力の経路依存性、 実測曲線。 (a)と(b) は Al- 3at%Mg合金、(c)はAl-5at%Mg合金(宮川ら(49))。

(41)

-・�

と(b)を比較すると、 温度によって高温降伏現象の大きさが異なり、

特に、 経路2では573Kで現れていないのに対して673Kでは顕著 に現れている。 しかし、 変形応力の経路依存性に温度による大きな 違いはないと見てよい。

以上のように、 AI-Mg固溶強化合金の高温変形応力は変形経路に 強く依存し、 その依存性は高温降伏現象の現れ方に違いはあるが、

濃度、 温度によらず大略同じ傾向を示すことが明らかになった。

3.2.2 複合強化合金

固溶強化に分散強化が複合したAl-3.1at%Mg-l.3vol%Be合金に ついて、 図2.6で示した変形経路に沿って得られた変形応力の経 路依存性についての実験結果を673K については 図3.3 (a)に、

573K については 図3.3(b)に実線で示した。 なお、 前節で得ら れた分散強化していないAl-3at%Mg固溶強化合金の実験結果を比 較のため破線で示した。673KではAl-3.1at%Mg-1.3vol%Be合金と Al-3at%Mg合金の変形応力はそれぞれの経路でほぼ同じ形をして おり、 Al-3at%Mg合金で得られた曲線を応力増加方向に平行移動 するとAl-3.1at%Mg-1.3vol%Be合金の実測曲線に近い曲線が得ら れる。 経路1と経路2では高温降伏現象も明瞭に現れているが、 固 溶強化のみの合金に比べると分散強化を複合した合金の方がややそ の現れ方は小さい。

図3.3(b)に示した573Kでの結果を見ると、 変形の初期で両合 金の変形応力に違いが見られるが、 変形後期ではほとんど一致して いる。 また、 経路1と経路3でわずかに高温降伏現象が現れている

(42)

----

10 千だZ戸ごごご二二二 三 二二二二二三、ミ\- Jb fn

ノ 1

()ÿ=4.8M

\

一一Al-3.10t。んMg-l.3volo/oBe --- Aト3.00いんMg

(0) Meosured 673 K 30

20

。丘芝、hv

ωωω

」ザω

〉〉O一hL

100 0

一一Al-3.10t。んMg-l.3volo/oBe - - - Al-3.00tO/oMg

(b)

Meosured 573 K

80 60 40

。仏芝、b-ωωω」ザω〉po-L

20

1

OV =5.2MPo

0.15

0.10

strain, Ea

0.05

Apparent

図3.3 図2.6に示した変形経路1、 2および3で得られたAl- 3.1at%Mg-1.3vol%Be複合強化合金の変形応力の経路依存性、 実損IJ

曲線

(

実線

)

。 破線は比較のため示したAl-3at%Mg固溶強化合金 の変形応力の経路依存性、 実測曲線

(

宮川ら(51)

)

(43)

が、 経路2ではいずれの合金でもまったく現れていない。Al-3at%Mg 合金で検討した結果(46)(49)(第5章で詳述)によれば、 高温降伏現象 が現れないのは、 変形初期には転位密度が小さいため転位速度が大 きく、 転位は溶質雰囲気を離脱して 運動していることによるものと 考えられるが、 本合金の573K で高温降伏現象が現れないのも同じ 理由によるものと考えられる。

573Kの経路1、2の変形初期ではAl-3.1at%Mg-l.3vol%Be合金 の変形応力はAl-3at%Mg合金に比べてかなり大きく、 特に経路2 では前章の 表2.1 に示したボイド強化応力σv=5.2MPa以上に強 化されている。 この理由は次のように考えられる。

転位が溶質雰囲気離脱速度を越えていると思われるこの領域では 多数の転位が雰囲気を持たず速い速度で運動しており、 このような 転位は-8粒子に捉えられるとボイド強化応力を受けて遅くなる ため、 溶質雰囲気引きずり運動の場合に比べ粒子の影響を受けてい る転位の割合が増加する。 さらに、 粒子に捉えられているときは転 位の速度が遅くなるため、 より大きな溶質雰囲気が形成され易くな り、 粒子が存在しないときよりも溶質雰囲気引きずり運動をする転 位の割合が増加する。 これら2つの理由から経路2の変形初期にお いてAl-3.1at%Mg-1.3vol%Be合金とAl-3at%Mg合金の変形応力の

差がボイド強化応力σvより大きくなったものと考えられる。

573Kの変形後期には、いずれの経路でも、Al-3.1at%Mg-1.3vol%Be 合金の変形応力はAl-3at%Mg合金とほとんど同じとなり、 粒子に よる強化量はボイド強化応力σvより小さくなっている。 これは、 加 工硬化によって転位密度が増加すると、 分散粒子に捉えられていな

(44)

い転位の割合が増加するため、粒子による強化量が低下したもの(50) と考えられる(第6章で詳述)。

しかし、 全体的には固溶強化に分散強化を複合した合金の変形応 力の経路依存性は固溶強化合金の経路依存性(46)(49)と同様であると 見てよ い。

3.3 結論

第2章の 図2.6に示したいくつかの異なる変形経路に沿って、温 度範囲5731{rv673KでAl-3rv5at%Mg固溶強化合金、Al-3.1at%Mg- 1.3vol%Be複合強化合金について、変形応力の変形経路依存性を実 験的に検討した。 その結果、 次の結論を得た。

(1 )固溶強化合金と複合強化合金では、 温度によらず高温変形応力 の変形経路依存性の傾向は大略等しい。 すなわち、同じ時間で同じ ひずみに到達したときの変形応力は経路に依存して大きく異なる が、 その後同じひずみ速度の定速変形になると、 前歴に依存せず短 い遷移時間経過後にそれぞれの合金と温度に応じた同一応力値に到 達する。

(2)変形初期において、 運動転位密度が小さいため有効応力が高く 変形応力も高い値を示す固溶強化合金において、 変形が進んだ後で は、変形経路上同じひずみ速度であっても得られる変形応力は変形 初期のそれより低くなる。 その理由は、変形初期に比べ転位密度が 高く、したがって有効応力が低くなるためである。 すなわち、 同じ ひずみ速度でもその変形前歴によって変形応力は異なる。

(45)

( 3 ) 固溶強化に分散強化が複合した複合強化合金の変形応力は、 同

じ経路であればおおよそ固溶強化合金の変形応力に分散粒子によ

るボイド強化応力を加算した応力に近い値を示す。 ただし、転位密

度が小さい変形初期では、転位が溶質雰囲気を離脱して運動するよ

うな変形条件下に入りやすく、そのときには、 僅かではあるが、ボ イド強化応力より強化量が大きくなる。 変形が進行し転位密度が大 きくなり、転位の溶質雰囲気引きずりの条件を満足するようになる と、分散粒子による強化量が低下し、 ボイド強化応力より強化量は 小さくなる。

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